「結論から言うと、家庭教師と生徒よ」
ラウンジに移動して飲み物を買い、席についてすぐに、加古のやつは結論から語った。
「……家庭教師? お前がか?」
「そうよ。少し前に家庭教師のバイト始めたこと、言ってなかったかしら?」
「言ってないだろう」
完全に初耳な情報だ。しかし加古は、そんなことないわと言いたげな表情を見せた。
「言ったと思ってたけど……。二宮くん、もしかして記憶力が鈍いのかしら?」
「ほう……。加古、高校の頃の試験の成績を出せ」
「ごめんなさいね、二宮くん。私、無駄に過去は振り返らない主義なの」
「大学の直近の試験でもいいぞ」
「あの試験は私、本気じゃなかったのよ」
のらりくらりと俺の質問を躱す加古に、どうにか成績表を出させる方法がないものか……と考えながら、俺はさっき買ったジンジャーエールを一口飲む。
「お二人は、仲が良いんですね」
俺たちのやり取りを見て盾花がニコニコと笑いながら、心の底からそう思ってますと顔に書きながら言ってきた。
「違うぞ、盾花。こいつとは同期入隊で、昔同じチームだっただけだ。特別仲がいいわけじゃない」
「えー……でも、それだとしても羨ましいです。私、同期がいないので……」
そう言って盾花は温かいカフェオレを一口飲んだ。本当はココアが飲みたかったらしいが、いざ自販機で買おうとしたところ売り切れていて、
「ココア、また売り切れてる……」
と言ってうなだれ、渋々カフェオレを買っていた。……あいつ、またココアを買い占めたのか。
ぺは、と盾花がストローから口を離したところで、加古が盾花に話しかけた。
「それにしても……まさかこんな形で桜ちゃんと会えるなんて、ビックリだわ」
「あはは、私もです。加古先生、思ったより背が高くてびっくりしました。モデルさんみたいです」
「あら、ありがとう」
……思ったより背が高い?
楽しそうに会話する2人に違和感を覚え、俺は口を挟んだ。
「家庭教師と生徒なのに、初めて会ったのか?」
「そうよ。だって私、桜ちゃんとの授業はネット使ってるもの」
「……なるほどな」
ネット方式か。家庭教師は家に赴くもの、と思い込んでいたから、そこに気付けなかったな。
「……しかし、お前が家庭教師か……どういう経緯だ?」
「家庭教師のバイトしてる友達に『試しにやってみない?』って誘われたのよ。面白そうだし、興味も全くないわけじゃなかったからオーケーしたわ」
「随分気軽だな」
「何事も始めるのに、いちいち重苦しく悩む必要こそないのよ」
ドヤ顔で持論を語る加古と、それを『加古先生カッコいい……』みたいな目で見つめる盾花の構図は、見てる分には面白いな。
「……というかね、私の方こそ、2人に接点があったことに驚いてるわ。どういう繋がりなの?」
「あ、それはですね……」
「あっははは! 桜ちゃん、いい仕事するわね!」
加古は心底楽しそうに笑った。
「いや、でも……偶然とはいえ、本当に申し訳ないことを……」
「気にしなくていいのよ。それより桜ちゃん、オレンジジュースまみれになった二宮くんの写真とか撮ってない?」
おい、やめろ加古。
「い、いえ! 撮ってないです! 二宮さん、すぐにトリオン体に換装されたので……」
おい、余計な事を言うな盾花。
案の定、加古がキラキラと目を輝かせながらスマートフォン片手に俺の方を向いた。
「二宮くん、ちょっとトリオン体解いてくれない?」
「断る」
*** *** ***
中学三年生の子を担当して、と言われた時、私は正直困った。
「中学三年生の
バイトに誘ったその友達に確認するように言うと、すぐに、
「その点は大丈夫! なんか、その……イジメで学校行けなくなって、勉強が遅れた子らしいから……」
という、なんとも困った事情……少なくとも、受け持ち1人目としてはどうなの? と言いたくなる事情を知ってしまったと思ったわ。
大方、受験シーズンの子に集中したいから私をスケープゴートにしたのね。これは許せないわ。いつか私のドライブにとことん付き合ってもらうわよ。
困った事情があるとは言え、一度やってみると言った手前だし、断ることはせずその子を受け持つことにした。ただし、
「受け持ち1人目でそんな特殊な子を任せるんだから、私が慣れるまで他の子は受けないわよ?」
って条件を友達を通して塾に伝えたわ。塾からは「その分バイト代は覚悟しておきなさい」と言われたけど、私はそもそもお金のために始めたわけじゃないし、そこは別にどうでもいいのよ。
いざ、授業を始めるためのテキストやらネット環境を整備し終えて、これから授業が始まる時になって……あと数分で授業を始めるところで、私は自分が多少なりとも緊張している事に気づいたわ。
言っちゃ悪いけども、イジメられる側にもイジメの標的になってしまう『何か』はある。もちろん、イジメをする側が100%悪いのだけども……イジメを受ける側にも、不特定多数の中から『こいつをイジメよう』と思わせてしまう『何か』は、ある。
もしその『何か』が……その生徒の性格や内面……変えようのない部分だったら、正直困るなと、私は思ってしまった。
(……せめて、そういう部分に問題がない子がいいわ……)
そんなことを考えている間に、授業開始の時間になった。
インターネットとウェブカメラが、
『……み、見えてます……か?』
画面の向こうにいたのは、大人しそうな1人の女の子。
「……ええ、見えてるわよ」
ひとまずその声に答えると、安心したような、でもそれ以上に嬉しさが勝る笑顔を、その子は私に向けた。
『よ、よかった……。こんな風にインターネット使うの、本当に久々で……カメラ繋ぐのとかも初めてだったので……』
一安心、という言葉がぴったり合う安堵の表情を見せたところで、その子は折り目正しく背筋を伸ばしてから一礼して、
『初めまして、先生。私は盾花桜と言います。今日から、よろしくおねがいします』
珍しい苗字と、春を思わせる響きを組み合わせた名前を名乗った。
「……こちらこそ、よろしくね桜ちゃん。私は加古望。……最初に言っておくけど、私、こうやって家庭教師をやるのは貴女が初めてなの。色々ぎこちないところがあると思うけど、そこは目を瞑ってね」
『目を瞑る……ふふ。わかりました!』
ちょっと待って?
なんでこの子今笑ったの?
私、何か変なこと言った?
なんだか釈然としないわと思いながらも、その日から私と桜ちゃんの授業は始まったわ。
週3コマの授業ペースで私と桜ちゃんが画面越しに会うようになって、2週間。私は正直、桜ちゃんがイジメの標的になる理由が全く理解できなかった。
勉強を理解する速度も十分早いし、それ以上に理解度が深い。授業が終わって、
『あそこの教え方、不親切だったかしら?』
と思うようなところも、次の授業が始まる時には、
『この前の授業で教えてもらったところって、こういう事ですよね?』
みたいに確認と自分なりの解釈をしてくれるし、その解釈も見事に正解。
授業の中のちょっとした休憩時間でも、私に嬉々として、
「大学ってどんなところですか?」
「望先生、運転免許持ってるの? すごい!」
「この前買った飲み物が美味しかったんです!」
みたいな雑談も、楽しそうに振ってくる。
なんて言うか、クラスに1人は居る……クラスメイト全員から、
『〇〇? いい人だよ?』
って即答されるような、良い人が第一印象になるような子だと思う。
素直で、明るくて、受け答えにも問題ない。
どうしてこんな子がイジメで不登校になったのか、興味がないわけじゃない。
でもそれを尋ねるのは、絶対にやってはいけないとわかる。
現に、桜ちゃんも色んな話題を振るけど、その中に自分の学校生活に関わる話題は何一つない。
だから私も、桜ちゃんが自分の学校のことを連想してしまうような話題は避けるようにしていた。
そんなある日……いつも通り授業をして、休憩時間になった時、
『あの……望先生は、恋人さんはいるんですか?』
桜ちゃんはしれっと、そんな質問を投下した。
「いないわね」
モニターの向こうで姿勢正しく座る桜ちゃんに向けて偽らず正直に答えると、ちょっと残念そうに眉を八の字に変えた。
『そうなんですか? 望先生、優しくて綺麗でお料理も上手だから……恋人さんいるのかなって思ったんですけど……』
この子は本当に、息をするように私をおだててくれるわね。もっと褒めてちょうだい。
『じゃあじゃあ、恋人さんじゃなくても、この人いいかも、って思えるような人はいますか? 大学とか、望先生のもう1つのバイト先とかに!』
「うーん……」
椅子の背もたれにぐぐっと体を預けながら、キラキラとした無垢な目の桜ちゃんを見て……まだ伝えてない『
(単位を落としかける太刀川くんに、迷わず隊服をスーツにする二宮くんに、毎回美味しさのあまり感動して倒れて炒飯の感想を言ってくれない堤くんに……)
まともなのが居ないわね、同い年組。多分一番まともなの、仏のように優しくてお金持ちの来馬くんかしら。
「残念だけど、桜ちゃんにお見せできるほど、まともなのは居ないわね」
『……望先生のもう1つのバイト先は、魔境か何かですか?』
「魔境というか……変態の集まりね」
『へ、変……っ!?』
言葉を素直に受け取ったのか、桜ちゃんは顔を真っ赤にしてアワアワとした可愛らしい反応を見せてくれたわ。ボーダーで感覚が麻痺してたみたいだけど、変態は褒め言葉にならないのね。
慌ててる桜ちゃんを見てるのが面白くて、私はつい、質問を返した。
「そういう桜ちゃんこそ、恋人とか、好きな子とかいないの?」
言ってすぐに、失敗したなと私は後悔した。
学校での事を連想してしまう質問を避けてきたのに、この質問は……と後悔しかけたけど、
『……好きな、人……』
私の予想に反して、桜ちゃんは『今まさに思い浮かべてる人がいます』とバッチリ顔に書いてあるような照れ顔を見せてくれた。
私の本能が、ここで全力で桜ちゃんをイジりなさいと叫び、それに私は従う。
「なになにどんな人? 教えて教えて」
『えっと、その……好きな人というか、なんというか……』
いつも素直に答えてくれる桜ちゃんが珍しく言葉を濁したのを見て、これはガチだと察したわ。
『うー……望先生、どうしても言わなきゃダメですか……?』
「ふふ、さすがにそこまでは言わないわよ。ただ、ここで教えてくれないと授業中にちょくちょくこの話題を振るわ」
『うぇあ……っ!』
可愛らしいうめき声をあげた桜ちゃんは、どっちの恥ずかしさを取るか迷ったような葛藤の表情を見せた後、
『……うぅ……今、話します……』
りんごみたいに真っ赤な顔で観念してくれたわ。
「うんうん。桜ちゃんが素直な子で、先生は嬉しいわ。それで、どんな人なの? 同い年?」
『年は……向こうの方が、年上です。今……高校三年生です』
あら意外。不登校だっていう桜ちゃんがどこで年上と接点があるのかしら?
「年上なのね。……背はどう? 高いの?」
『高い方……だと思います。えっと……180ギリギリ届かないくらい……?』
ふむふむ、平均よりは高いのね。
「なるほど……性格はどう? 優しい?」
『んー……優しいですけど、普段はちょっとぶっきらぼうというか……。私は優しいって知ってるけど、周りの人はもしかしたら、そう思ってないかも……です』
わかりにくい優しさね。不良タイプか、照れ屋さんなのかしら。
「そう……。じゃあ、2人はどんなところで出会ったの?」
『出会いは……その……ごめんなさい。それはちょっと……言えない、です』
……そこは言えないの?
「ううん、無理に教えてくれなくてもいいのよ、気にしないで。……あとは、そうね……その好きな人は、桜ちゃんのことなんて呼んでくれるの? 名前呼び?」
『呼ばれる時は、「タチバナ」って呼ばれます』
「……桜ちゃん、苗字は『タテバナ』よね? その人、間違って覚えてない? ちゃんと訂正した方がいいわよ?」
『あ、いえ……毎回「タテバナ」ですって言ってますから、大丈夫です!』
いやいや、それは大丈夫じゃないでしょ? 毎回訂正してるのに呼び方直さないの、ちょっとヤバいわよ?
なんだか雲行きが怪しくなってきたわね……。
「……桜ちゃん、その人の良いところってどこかしら?」
『良いところ……。いっぱいありますけど、一番は戦……じゃなくて、えっと……喧嘩が強いところかなと思います!』
桜ちゃんの好きな人ヤバくない? この子なんか騙されたり、脅されたりしてないわよね?
「……桜ちゃん」
『はい? なんですか?』
会ったことがない人に対してこんな風に言うのは失礼かしら……と思うけど、人生の先輩として、一言言わないといけないわね。
「桜ちゃんくらいの年頃だとね、年上のそういう人がカッコよく見えるかもしれないけど……、早まっちゃダメよ。世の中にはたくさんの人がいるんだから、もう少し色んな男を見た方がいいわ」
上手く伝えたいことが伝わったかしら……と思ってたら、桜ちゃんは一瞬キョトンとしたあと、控えめな笑顔を零して、
『……あはは、そういうのじゃないですよ、望先生』
柔らかく、私の言葉を否定した。
『えっと……もちろん、その人のことは格好いいというか……素敵というか、魅力的というか……そういう風に全く見てない、って言ったら嘘になっちゃうんですけど……』
言葉を選びながらゆっくりと、どこか物悲しそうに桜ちゃんは心の内を私に伝えてくれる。
『……でも、そういう感情以上に……私の中にある、あの人に向いてる1番大きくて大切な感情は、感謝なんです』
「感謝?」
『はい。……その、詳しいことは言えないんですけど……私が今こうして、望先生に勉強を教えてもらえるのも、その人のお陰なんです』
目を閉じて、桜ちゃんは一言一言大事そうに、思いを告げる。
『あの人は文字通り、私の人生を変えてくれて……私の世界を明るくしてくれた人なんです。だから、その……好き、というよりも……』
恥ずかしくて照れる、というのはこういうこのなのねと思わせるくらい桜ちゃんは顔を赤らめて、
『……一生をかけて、恩を返したい人……かなぁ……』
思い描く好きな人のことを、そう形容した。
「そう……」
気になるなと、私は思う。こんな子に、ここまで思われて、そこまで言わせる人がどんな人か、すごく気になる。
「本当に、大切な人なのね」
いつか桜ちゃんに会えることがあったら、ぜひその好きな人を一目見せてもらいたいわと思うけれども、
「あと、これはあまり関係ない話だけれども……私、授業内容を振り返るためにって名目で毎回授業風景を録画してるの」
『ふぇ!?』
「もちろん、今の桜ちゃんの可愛い表情もバッチリ録画されてるわ」
今は、この可愛らしく弄りがいがある生徒のことを、全力で弄ることにしたわ。
『の、望先生! そんなの聞いてないです!』
「あら? 家庭教師契約の時の書類に明記してあったと思うけど……」
ぶっちゃけ嘘なんだけれども、画面の向こうで桜ちゃんは私の言葉を信じてあたふたと慌てるのが面白くて、私はニヤニヤと意地の悪そうな笑顔を向ける。
「さーて。休憩時間はそろそろ終わって、授業再開するわよ、桜ちゃん」
『じゅ、授業に身が入る状態じゃないんですけど!?』
「はい、テキストの23ページを開いて……」
『無視しないでくださいよ望先生ー!』
なんて抗議しながらも桜ちゃんが律儀にテキストのページをパラパラとめくるのを見て、この子は本当に真面目ね……と、私は改めて思ったわ。
*** *** ***
私があんまりにも二宮くんを弄るものだから、
「……シャワーを浴びてくる」
ってぶっきらぼうに言って二宮くんが席を立ってから、早20分。
「なので、まだ契約上は本部の外だと家の中で、申請した時間内でしかトリオン体は使えないんです」
「へえ……ってことは、桜ちゃん私との授業の時は訓練生用のトリオン体だったのね?」
「はい。……望先生と授業してる時は無いですけど、一人で勉強してる時とか、油断して力入ってシャーペン折っちゃう時、あります」
「あー、トリオン体あるあるね。日常の動作で無意識に力入っちゃうというか、力加減間違えちゃうやつ。慣れればだいぶマシになるわよ」
私の桜ちゃんは、とりとめのないことを話していた。
リアルで会う桜ちゃんは画面越しで見るよりも、笑顔がよく映える女の子だった。ただ、それだけに……目元に残された事故の傷が浮き彫りになってしまう。ちょっともったいないなと思いながら目元の傷を見ていると、桜ちゃんは私の視線に気づいたみたいで、
「……傷、気になりますか?」
淡々と、そう言った。なんて事ない風を装ってるように見えるけど、だいぶ無理をしてその一言を絞り出したと、私には思えて仕方なかった。
「……そうね。画面越しで見てた時から、桜ちゃん可愛らしいから、ちょっともったいないなって思ってたけど……。でもそれ、トリオン体の設定で消せるわよね?」
「ですね。最初に寺島さんからも、消せるよって言われたんですけど……」
桜ちゃんは机の上で自分の指を絡ませながら、ほんの少しだけ瞼を伏せて、
「でもこの
控えめな笑顔で、静かに決意を露わにしてくれた。
「まあ、流石に街中を歩けるようになったら、その時は消そうかなって迷っちゃうんですけどね!」
少し空気がしんみりしたけど、桜ちゃんは自分でそれを明るいものに戻そうとして、元気なトーンで話題を変えてくれた。
「街中を……ああ、さっき言ってた、日常生活用トリオン体が使えるようになったらってこと?」
「はい!」
「そのトリオン体、戦闘用のトリオン体と何が違うの? 身体能力?」
私の質問に桜ちゃんは楽しそうに、もうすぐ訪れる未来を思い描いているような顔で答えてくれる。
「そうですね。身体能力を大きく落として……それこそ普通の人と同じくらいまで、落としてくれるそうです。これでシャーペンをポキポキ折っちゃうことも無くなりますし……なにより、これで本部と家の中以外の景色を見れるようになります!」
「ふふ、それは良かったわね。……外に行けるようになったら、ここに行きたいとか、そういうのはある? 良かったら、私が車で連れて行ってあげるわよ?」
「いいんですか!?」
「もちろん」
私の提案を桜ちゃんは満面の笑みで受け入れたけど……すぐになぜか、照れ臭そうな表情へと変わった。
「……? どうかしたの?」
「あ、いえ……。その、行きたい場所はあるんですけど、わざわざ車で連れていってもらうほど遠くじゃなかったなって思って……」
どこかしらね……気にはなるけど、表情はあんまり深く追求されたくもなさそうに見えるわ。
「あら、そうなの? まあ、いいわ。もし遠くに行きたい時があったら、いつでも声をかけてちょうだいね?」
「はい、わかりました!」
桜ちゃんが元気よく返事をしたところで、
「……こりゃまた、どういう組み合わせだ?」
座ってたテーブルのそば……桜ちゃんの斜め後ろにいつのまにか立っていた、私に話しかけてくるのが珍しい子が声をかけてきたわ。
「あら、しばらくぶりね、影浦くん」
「カゲさん!」
私たち2人が声をかけると、
「……タチバナ。このファントムばばあと、どういう知り合いなんだ?」
影浦くんは私じゃなくて桜ちゃんに声をかけたわ。
「タチバナじゃなくてタテバナです! ……というかカゲさん!? 今望先生に向けてファントムばばあって言いました!? 失礼ですよ!?」
「あー? お前、このファントムばばあの戦い方見てみろよ。ファントムばばあって言いたくなるぞ?」
「ばばあなんて言わないでくださいよカゲさん! 望先生はこんなに若くて美人なのに!」
「どう呼ぼうが俺の勝手……って、先生? このばばあが?」
私を放っておいて仲良く喧嘩のような会話を始めた2人を見て、この2人にどんな接点が……って考えかけたところで、私の脳に電撃が走った。
(3つ年上。180にギリギリ届かないくらいの背丈。わかりにくい優しさ。不良っぽい優しさ。わざと「タチバナ」って呼び間違う。喧嘩……戦闘が強い)
もしかして。
もしかして?
もしかして!?
私の中で1つの答えにたどり着きそうになったところで、
「影浦か」
「二宮ァ……!」
タイミングよくなのか、シャワーを浴び終えたであろう二宮くんがトリオン体で戻ってきたわ。
男の子2人の間でバチバチと火花が散り始めたのを見て、桜ちゃんがコソコソと私の隣に移動してきた。
「望先生……カゲさんと二宮さんって、仲悪いんですか?」
「仲悪いというか……あの2人はB級1位と2位のチーム隊長だから……チームランク戦で当たることが多いのよ。単に、あの試合ではよくも……みたいな軋轢が少しずつ重なってるだけね」
「な、なるほど……」
感心したような表情を見せる桜ちゃんに、私はさっきたどり着いた1つの予想……というか確信を問い詰めることにしたわ。
そっと小さな声で、桜ちゃん以外には絶対聞こえないように、耳打ちをする。
「桜ちゃんが前に言ってた好きな人って……影浦くん?」
すると、
「……んにぃぁ……?」
あんまりにも予想外だったのか、桜ちゃんはなんとも気の抜けた声を出しながら、茹で上がったタコみたいに顔が真っ赤っかになっちゃったわ。
「図星?」
畳み掛けると、
「──ーっ──〜!」
桜ちゃんは声にならない悲鳴を上げた。何この可愛い生き物。もっと弄りたいわ。
「の、のの、のののっ! 望先生っ!」
バチバチと火花を散らす男どもはこっちに気づく事なく、桜ちゃんは真っ赤になった顔で私に抗議する。
「……だ、誰にも、言わないでくださいね……!」
「……ふふ、もちろん言わないわよ。多分」
「た、たぶんじゃだめ! です!」
「あらあら、どうしようかしらね?」
わざと意地悪な風を装うと、桜ちゃんは今にも泣きそうで、恥ずかしそうで、嬉しそうで、幸せそうな、色んな感情が詰まった顔を私に見せてくれる。
素直で、
可愛らしくて、
真面目で、
意地悪のしがいがあって、
思わず頰が緩んじゃうくらいの、応援したくなる恋心を持った、私の生徒。
桜ちゃんの髪を優しく撫でながら、この子がどんな道を進むのかしら……なんて思いを私は馳せた。
この後、色々話を聞きたいから桜ちゃんを作戦室に連れ込んで、私お手製の炒飯を振る舞ったわ。桜ちゃんは美味しい美味しいって言いながら食べてくれたのは嬉しいんだけど……二宮くんと影浦くんが2人して急用が入って食べてくれなかったのはショックだったわ。
ここから後書きです。
オンライン家庭教師ってどんなものかな……なんて思いながら書いてました。加古さんの家庭教師設定はなんとなく似合いそう、ぐらいのイメージで付けました。
後々、盾花は加古からチャーハンを習い、10%の確率で遅効性のダメージを食べた人間に与えるチャーハンを作るようになります。最初の犠牲者は堤大地。