「霊夢ー!教科書返しに来たわよっ!」
勢いよく扉をあけ放って叫んではみたものの、返事はない。がらんとしている部屋を見渡すと、彼女は一番奥、窓際の席で、『すぅ……すぅ……』と寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っていた。
ただの屍のようだ。
今日は部活があるから、先に帰っていてもいい、と伝え、2時間目に借りた数学の教科書を借りっぱなしにしていたことに気づき、慌てて戻ってきたのだが、彼女はいつも通り、私のことを待ってくれていた。そのまま待ちくたびれて寝てしまったのだろう。
彼女のもとへと歩み寄り、少し揺さぶってみるのだが。
「……ほら、いつまで寝てんのよ?起きなさいってばっ!」
一向に起きる気配は無い。
こうなってしまったら、霊夢はなかなか起きない。授業中に爆睡していることも珍しくないのだと、彼女のクラスメイトから聞いたことがあったっけ。こんなに気持ちよさそうに寝ているのに、起こすのも何だか可哀想な気がして、どうしたものかと考えていたその時。
「…可愛い」
何言ってるんだわたし!?
自分でも急に何を言っているのかわからない。ただ、そんな事を思った自分がいた。何を言っているのかわからない、そもそも女の子同士だし…けど、こんなにドキドキするのも初めてで……。霊夢は起きそうにないし、ちょっとだけなら、いいよね…?
そう思って目をつむり、おでこにそっと接吻しようとして、やっぱり寝込みを襲うのはイカン、とやめようとしたその時。
「……しないんだ?」
「ふえっ!?」
ものすごく情けない声が飛び出した。
「いや、あの、これは、その……いっいつから起きてたのよ!?」
「レミィが教室に入ってきたところからだけど?」
「最初っからじゃない!」
「いや~そろそろ起きようと思ったあたりであんたが教室に入ってきたから跳ね起きて脅かそうと思っただけなんだけど……ね?」
全部見られてた。最悪だ。彼女と目を合わせるのさえ恥ずかしい。何より今ので嫌われてたりしたらどうしよう……
「ほ、ほらっ!教科書返したからっ、私帰るし!」
私がたどり着いた最善の選択は『逃避』だった。だけど……
一刻も早く真っ赤になった顔を隠そうと、霊夢に背を向け、その場を去ろうとした瞬間。後ろからギュッと腕を回された。
「逃げるのは反則よ?」
……霊夢はそれを許してくれなかった。
「…ッ!?」
霊夢に唇を奪われた瞬間、目の前が真っ白になった。うれしさと動揺と気恥ずかしさが混ざり合って、何も考えられなくなる。まさか、霊夢の方からキスしてもらえるなんて。ふと、彼女が私の腰に回した腕に力が入るのがわかる。緊張、してるんだ?
「初めてだったんだから……責任取りなさいよね?」と頬を真っ赤に染めて俯く霊夢。彼女の甘い匂いも、柔らかい唇も、サラサラの濡れ羽色の髪も、全てがたまらなく愛おしい。
「れーむぅ、も、もっと…それに、今度は私からもさせて欲しいわ……」
「私もしたいな……もっとレミィを感じさせて?」
「んむっ…」
2回目はどちらからともなく、もっと深く、もっと激しく。不思議と周りのことは気にならず、私はただ目の前の霊夢のことで頭がいっぱいになった。
「ん…ふ…ちゅく…れろっ……んうっ」
舌と舌が絡み合い、結合部から溢れた唾液が顎を濡らす。どちらからともなくつないだ手には汗がにじみ、背中に回した手に力が入る。
「んん…ちゅるっ…ん…んくっ…んくっ…ちゅっ…ぢゅるっ…んう……」
紅緋色の夕日が差し込む教室には、先ほどまで校庭の方から聞こえていた生徒たちのはしゃぐ声の代わりに、ただ私たちの舌が絡み合う音だけが響いていた。
「…ぷあっ、ちょっと霊夢ってばがっつきすぎ!息できないってばっ。」
2、3分ほどしてようやく唇が離れた。私達の間に唾液で透明な橋が架かる。
「ごっ、ごめんなさいね、レミィ。つい夢中になっちゃって…」
「べっ、別に大丈夫よ。私も霊夢の方からしてくれたのが嬉しくて、つい。」
なんだろう。彼女の小春日和のような笑顔を見ていると、凄くあったかい気持ちになる。彼女の周りにいつも人の輪ができているのは、そういう理由なのかな。
なんてことを考えていた私は、気付いた時には彼女に……
「…霊夢っ!順番逆になっちゃったけど、私はその、霊夢のこと、ずっと前から好きだった!あったかい笑顔も、けだるそうな瞳も、黒くてサラサラな髪も、本気になったときに見せるかっこいい姿も、ほんとはすっごく優しいところも、全部!だから、その、あの…私と、付き合ってくださいっ‼」
……告白してた。ここまで言い切って、なに余計なことまで口走っててるんだろうと、余計に恥ずかしくなってきた。心臓が刻む鼓動が、どんどん早くなっていく。
「面と向かって言われると、すごく恥ずかしいわね……。私も、レミィのこと、ずっと好きだったんだよ?私がどんなに落ち込んでいても、あんたはずっと笑って、私のそばにいてくれた。私は……レミィといる時間が、一番、楽しかった。だから、その、こんな私でよければ……」
「れいむ~っ!」
「えっ!?」
霊夢の言葉を最後まで聞かずに、私は彼女の胸に飛び込み、抱き着いた。一瞬の間をおいて、彼女も抱きしめ返してきてくれた。霊夢よりも一回り小柄な私が彼女を押し倒しているものだから、少し不思議な感覚がした。でも、そんなことよりも。彼女の温もりが、匂いが、何よりも心地よかった。
私達は一言も発さないまま、真っ赤に焼け爛れたような教室で、いつまでも抱きしめ合っていた。
霊夢×レミリアのカップリングの良さが少しでも皆様に伝わったら幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。