あのすみません。俺のシフトだけ週7になってるんですけど、記入ミスですよね? ・・・・・・え、合ってる?   作:鯛焼きマン

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 休日中に連絡を受け、救援へ向かう音撃戦士・裁鬼ことサバキ。
 しかし焦りからか、不幸にも(駐車中の)黒塗りの常用車に車体が当たってしまう。
 パニくりつつも代打のバンキに連絡を取り、正直に申し出たサバキに対し、
 車の主が言い渡した示談の条件とは・・・・・・。


斎藤悟:来る途中で事故ってしまったので自分は救援に行けませんすみません。

 夏の終わり。

 夏休みシーズン(休めるとは言っていない)も過ぎ、残暑が残る今日この頃。音撃戦士・裁鬼こと(サバキ)は例のごとく仕事中だ。

 

「アツゥイ!」

「暴れると余計に痛いですよー?」

 

 今は季節外れの人型魔化魍であるカシャにやられた火傷の治療中だ。

 まあ人型って言っても全身にぼんじ(?)が刻まれた、腰にお祓い棒の先に付いたピラピラみたいなのを巻いている白い狐男って様相だが。

 

(ぼん)()はですねー。日本で主に認知されているのは(しっ)(たん)()()で、神聖な文字・霊的な力を宿す文字としてインドから伝わったものなんですよー」

 

 へぇ、ホラー演出で使われそうな禍々しい感じだったけど、実際はそういうものだったのか。

 

「でも神聖な文字の力を清められる魔化魍が使うってのは変な話だな」

「うーん、そうですねー・・・・・・あーでも神聖なもの、神々しくて清いものが必ずしも人間に良い事ばかりを運んでくれるとは限りませんしー?」

「ん? どゆこと?」

 

 神聖とか聞くと十字架みたいな《正の力》のイメージが思い浮かぶけど。

 

「神聖な文字、とさっきは言いましたけど梵字はただ力が宿る文字ってだけじゃなく神様そのものとして扱われるものでもあって、書いた文字自体を雑に扱うだけでも罰が当たったり祟られたりするらしいですよー?」

 

 雑に扱うっていうと、例えば・・・・・・。

 

「文字を書いた紙をチリ紙の代わり使うとかか?」

「はい。まー神様っていう存在ものがそもそも人々に恵みを与える善い側面だけじゃなくて、ちゃんと敬わないと厳しい罰を与えたりする神様とか、逆に祟られたくないから(まつ)られた神様とか・・・・・・色々と怖い側面もありますからー」

 

 はぁ~、神様って一言で言っても奥が深いんだな。

 意外な一面を知った気分。

 俺が不勉強なだけかもしれんけど。

 

「なんか神様ってそれこそ雲の上のすごい人ってイメージだったけど、案外そこらの人間と変わらねぇんだな」

「ほー、その心はー?」

 

 おお、そこ掘り下げるのか(不意打ち)。

 ちょい待って三秒待って。えー・・・・・・と。

 

「わかりやすい善でも悪でもなくて、見る視点や接し方次第で違う側面が表に現れるって所―――――かな?」

 

 めっちゃフワッとしてる意見でごめん(恥)。

 

「なるほど、そうですね・・・・・・あ、接し方で思い出しましたけど、そう言えば先日事故ったらしいですねー?」

「イッシーそれ接し方ちゃう接触事故や」

 

 このタイミングでその話題を切り出すとは!

 読めなかった、このサバキの目をもってしても!!←節穴

 

「サバキさんが事故を起こしたって話を聞いた時は驚きましたけど、誰も怪我はなかったんでしょー?」

「ああ、幸い駐車中で中には誰も乗っていなくて俺もバックで徐行していた時だったから、損害も各々車体の塗装が少し剥げたぐらいで済んだんだ」

 

 スーパーで買い物をしている途中で連絡を受け、それから会計を済ませて乗ってきた自家用車で向かおうとしたところ運悪く駐車場の出入り口が渋滞してしまっていた。

 レジでも長時間待たされて時間を食っていた俺は、いち早く駐車場を出るために慌てて別の出入り口に向かおうとした・・・・・・ところで誤って、駐車中の車に車体が接触してしまったのだ。

 

「あの新しくできたスーパーって品揃えが良くて人気ですけど、敷地面積そのままで無理に駐車場を増設したせいでよく鮨詰め状態になるんですよねー。週末とかは特に。

 まぁ、今回は色々とタイミングが悪かったですねー。ドンマイです」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいが、やっぱり根本的な原因は普通自動車免許(AT限定)取得から二年目に入ったばかりでお世辞にも高い運転技術を持っているとは言えない俺のヒューマンエラーだろう。

 

「それで示談の話とかどうなりましたー?」

「示談の話は保険会社の人が取り次いでくれて、今は保険金を使うか使わないかで相談しているところ」

 

 もし保険金を使うとしたら5・6万円ぐらいを保険会社に払えばあとは保険会社の人が対応してくれるとのことだ。

 

「被害者の方も妙な因縁をつけてくるような人じゃないみたいで良かったですねー」

「むしろパニックになっていた俺を諫めて警察を呼んでくれた良い人だったよ」

 

 いくら初めての事とはいえ、年甲斐もなく醜態を晒し過ぎてしまった。

 ちょっと知り合いには見られたくないレベルで。

 

「被害者側の車が新しすぎず、古すぎなかったのも示談が拗れなかった理由ですかね」

 

 ん? どういうことだ?

 

「車が新車だった場合、それこそ高級車だった場合だったりしたら当然 塗装が剥げただけでも高くつきますよねー?」

「まぁ、そうなるよな」

 

 もしそうだったらと思うと、ゾッとしない話だな・・・・・・。

 

「じゃあ逆に古すぎた場合ってのは?」

「車っていうのは卸した段階から年数が経つにつれてどんどん価値が下がっていくんですよー。単純計算で三年で40%~60%、五年で30%~45%、八~十年も経てば価値はほぼ0に等しくなると言われていますー。

 ですが古すぎた場合、その価値は純粋な市場価値だけでは測れなくなれますよねー?」

「ああ~、古いってことはそれだけ長い間使ってた、乗ってたってことだからな」

 

 思い入れのある車を傷つけられたのに実際の価値が低いからって、はした金で済まされたりしたら怒るよな。

 

「そういうことです。だから今回サバキさんは運が悪かったけど運が良かった、不幸中の幸いに恵まれたってことですねー」

 

 不幸中の幸い、ねぇ・・・・・・。

 

「・・・・・・わかりやすく落ち込んでますね」

「・・・・・・・・・・・・イッシーに隠し事はできねぇな」

 

 俺が気落ちしている理由。

 それは自分が事故を起こした所為でバンキさんに負担をかけてしまった、事故を起こした所為で関東支部のみんなに迷惑をかけた・・・・・・っていうのもある。

 

「話したら楽になりますよ」

「・・・・・・事故を起こした直後、まず始めに自分の車を邪魔にならない場所に停車しようとしたんだ。

 でもさっき話した通り周りは車で鮨詰め状態。それでも時間はかかりつつも何とか停車させることできたんだが―――――」

 

 ちょうどその時、被害者の車が()()()()()()()()()()()()()()()()発進しようとしていた。

 そこで俺は一瞬だけ葛藤してしまった。

 被害者の車に付いた傷は小さなもので場所も目立ちにくい所だった。

 それなりに使い古された車には、他にも複数の傷があった。

 

 このまま何もしなければ被害者は事故そのものに気付かないのではないか?

 事故をなかったことにしてやり過ごせるのではないか?

 ()()()()()より人命を優先して現場に向かうべきではないか?

 

 頭の中に、そんな悪い考えが、浮かんでしまった。

 

「でもサバキさんは正直に相手に申し出たんですよね?」

「一応、な」

 

 だけど一瞬でもそうやって轢き逃げという犯罪行為をしようと考えてしまった、『鬼』の活動(正義)を理由に他者を犠牲にしようとした・・・・・・その事実は変わらない。

 

「サバキさんってそういうのすごく気にしますよねー」

 

 やっぱり、俺が気にし過ぎてるだけなのか?

 たまたま『たちばな』に顔を出していた佐伯さん(師匠)にも「相変わらずめんどくせーこと考えるよな、お前は。もっと肩の力を抜いて気楽になれよ」って快活に笑われたし。

 確かにめんどくせーよなー俺って・・・・・・そんな俺の愚痴に付き合ってくれるイッ()()マジ天使()()! なーんつって! 

 ・・・・・・自分で言ってて(口に出してはいないが)寒すぎる。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 ―――――無理しておちゃらけて、自分を誤魔化そうとしても、無意味なだけだ。

 

「なぁイッシー、今の話、聞いてさ。どう思うよ」

「どう、とは?」

「・・・・・・洗いざらい吐き出したうえで聞くのもなんだけどさ」

 

 正直なところ・・・・・・俺に幻滅したのでは?

 いや、自身が幻想を抱かれるような大層な人物だと思ったことなど一度もないが。

 少なくとも今まで築いていた信用を裏切ってしまったのでは? と今更になって不安を抱き始めてしまった。

 イッシーは誠意をもって接した相手を軽蔑したりしない、という信頼はある。

 だが、それでも聞かずにはいられなかった。

 ただ単に俺がイッシーから嫌われたくない・見捨てられたくない・・・・・・そんな自己保身的な身勝手から生まれた疑問だった。

 

 

 

 もし・・・・・・もしイッシーに軽蔑されて、見捨てられたら・・・・・・俺は―――――。

 

 

 

「んー、『相変わらずサバキさんはサバキさんだなー』とか?」

「え、それどういう意味?」

「めんどくさい・ゼラチンメンタル・自意識過剰」

「ひどい三拍子だな?!」

 

 最近のイッシーきついね。

 実は既に嫌われていたのだろうか?

 ・・・・・・案外、前からこんなだった気がしなくもない。

 

「あっ、大丈夫ですよサバキさん。私も大概めんどくさいのでー。お揃いです。

 ちなみに私のめんどくささは、私の親友のお墨付きですから間違いないですよー?」

「う、うん?」

 

 それはフォローなのか慰めなのか、はたまたただの惚気なのか。

 

 そういや先日、奈良から親友のシオキちゃんが来てくれて誕生日を祝ってくれたらしい。

 お墨を付けられたのはその時だろうか?

 

「そもそもゼラチンメンタルってなんだ? 豆腐とかなら聞いたことがあるけど」

「それはですねー。叩いたら簡単に砕けますが、溶かして固めたらちゃんと元に戻る・・・・・・そんなメンタルのことですー」

「はぁ~、だからゼラチンね」

 

 どうやら俺の(メンタル)はゲル状らしい。

 そう思うと、何故か根拠のない無敵感が湧いてくる(謎)。

 

「サバキさんは一人で気負い過ぎなんですよ」

「同じことを佐伯さんにも言われたけどな」

 

 だからといって簡単に掌を返せるなら初めから思い悩んではいない。

 俺自身、今回の事を『しょうがないから』の一言で片づけることに抵抗がある。

 

「その気持ちは良くも悪くもサバキさんらしいですし、きっと正しいことだと私は思います」

 

 ・・・・・・正しい気持ち・・・・・・か。

 

「ですが、全てを自分一人の問題として背負おうとするのは自意識過剰にも程がありますよ?」

「うぐっ、それじゃあどうすればいいんだ?」

 

 自意識過剰。確かに普段から超常存在と取っ組み合っている男が、たかが物損事故でいつまでもうだうだと・・・・・・ぶっちゃけ自分でも思考を飛躍させ過ぎてる感は否めない。

 それに俺みたいな肉体労働派が正義やら何やら難しいことで頭を捻っても、おそらく有意義な答えなんて出やしない。

 ―――――だとしても、俺は答え(正義)を求めずにはいられない。

 俺は、どうしようもないほどに愚か者()でしかない。

 

「一人で全部背負い込もうとしないでください。例えば今、私に話してくれたみたいに。

 いっそいつもの愚痴みたいに・・・・・・サバキさんの言葉を聞いてくれる人はたくさんいます」

 

 三人寄れば文殊の知恵という言葉もある。

 俺でも知っている箴言(しんげん)だ。

 

「だけど、それは無責任なことじゃないか?」

「何事も程度・バランス次第ですよ・・・・・・別に全てをすぐに晒け出せとは言いません。サバキさんが言いたいと思った時に、それこそ酒の肴感覚でポロっと漏らすぐらいでいいんです」

「・・・・・・・・・・・・そんな風に、簡単に話せないこともある」

 

 イッシーが言っているのはおそらく今回ような悩み事だけではない。

 俺が誰にも話していない。佐伯さん(師匠)にさえ言っていない俺の過去についても含まれるのだろう。

 

 しかしそれこそ、簡単には話せない。

 

 俺の過去()は俺が背負うべきだ。

 特に二度目の罪は、俺が作り、俺が最後まで責任を負うべきものを()()()()()()()()()()()()()()()()()()起きた。

 だから、簡単には話せない。ましては笑い話になんてできない、ならない。

 一生、俺一人で背負っていく。それが俺の―――――

 

「話せるようになりますよ」

「―――――なんだって?」

 

 俺の内心を見透かすようなイッシーの言葉に反応して、俺は訝しげに彼女を見返す。

 イッシー・・・・・・石割樹の目は真っ直ぐ俺を見ていた。

 彼女の瞳の奥を見ると、俺がいた。

 そして俺の瞳の奥にも彼女がいる。

 

 他者(彼女)のことを見ているのに、まるで自分自身を見ているような、不思議な気分がした。

 

「どんなに辛い事でも、どんなに悲しい事でも、いつか話せるようになれるんですよ」

 

 何故だか、説得力がある言葉だと感じた。

 

「人間は例え些細なことでも辛くて、悲しくて・・・・・・それをずっと引きずってしまうことがあります」

 

 根拠なんてない。

 

「それでも、苦しみや悲しみよりも、もっと大きな幸せを知ることでそれらと向き合えるようになるんです」

 

 感情論でしかない。

 

「幸せを力に変えて、悲しみと戦えるようになるんです」

 

 でも感情(こころ)はありふれていて、みんなが持っているものだ。

 

「数か月後かもしれない。数年後かもしれない。もしくは数十年も時間がかかるかもしれない」

 

 そんな心からの言葉というものには、それだけで人の心に伝わるものがあるのだろうか。

 

「固い意思は素晴らしいものです。だけど、移ろう心が悪いことばかりとは限りません」

 

 ただ一つ、俺が言えることは。

 

「一緒に、ちょっとずつ変わっていきませんか?」

 

 少なくとも俺にイッシーを否定する意思は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッシーは、強いな」

「そんなことないですよー?」

 

 長話している内に火傷の回復とディスクアニマルによる捜索が終わった。

 そして現在は出撃前の装備の簡易チェック中だ。

 その途中に何気なく言葉をかける。

 先ほどまでのしみったれた空気が嘘のようだ。

 

「最低でもゼラチンメンタルよりかは強いと思うぜ?」

 

 俺はからかうようにイッシーに言葉を返す。

 

「それこそ違いますよー。ゼラチンメンタルはサバキさんが思っているより強いです」

「ゼラチンが強い?」

 

 適度にくだらない。いつも通りの会話劇だ。

 

「言ったでしょー? ゼラチンメンタルはすぐ壊れるけど溶かして固めれば元通りになるって。

 固いだけじゃポッキリいったらそれまでですし、柔らかいだけでも潰れたら戻りません。

 脆くても紆余曲折の果てにちゃんと元に戻るのがゼラチンの凄いところです」

「元通りになるだけじゃ進歩がねぇってことじゃね?」

 

 あるいはいつもより()()()()()()気兼ねが無くなっている気がする。

 

「あー、そういう意地悪なこと言っちゃいますかー? そういうこと言うならこっちは物性物理学を使わざるおえませんよー?」

「やめろやめてくださいただの物理学すら致命傷な俺には耐えられそうもない」

 

 彼女が変えてくれたから、俺も変われる。

 やはり俺はイッシーには一生勝てそうにない。

 どれだけ二人が変わっても、これだけは変わらない事実だと断言できる。

 

「・・・・・・私はサバキさんが思っているほど、強くも綺麗でも無いですよ?」

 

 え?

 

「さっきサバキさんが言った通りです。

 人間はわかりやすい善悪では測れない。

 視点を変えれば色々な側面が見えるものです。良い部分も、悪い部分も」

 

 そういえばそんな偉そうなこと口走っちまったっけ。

 でも、まぁ。

 

「例えイッシーに俺の知らない汚点があったとしても、それでイッシーの良い所が無くなるわけじゃないだろ」

「え?」

 

 イッシーがくれた言葉が俺の心を動かしてくれた。

 なら今度は俺がイッシーに言葉を届ける番だ。

 

「だからイッシーが俺に愛想を尽かすことがあっても、俺がイッシーを嫌いになることなんてない」

 

 だが、うーん、言ってて恥ずかしくなってきた。

 よし、行こう。もう行こう。

 振り返らずに全速力で。

 つまり言い逃げである。

 

「あ―――――」

 

 イッシーが何か言いかけるが迷わずダッシュ。

 魔化魍と戦う前に(精神的)ダメージを食らうわけにはいかないからな。←言い訳

 『敗因:恥ずか死』とか嫌すぎてそれこそ笑えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは、あなたが思っているよりずっと強いですよ。きっと、私がいなくても―――――」

 

 脱兎のごとく駆ける俺の後ろから、いつもより数テンポ遅れて願掛けの切り火の音だけが続いた。

 

 

  




 余談ですが前回と今回の幕間であるイッシーの誕生日(8月31日)で、イッシーとシオキちゃんは前より仲良くなれました。
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