あのすみません。俺のシフトだけ週7になってるんですけど、記入ミスですよね? ・・・・・・え、合ってる? 作:鯛焼きマン
奈良と大阪を分かつ金剛山地。
峠が連なる山岳の、その山深く。
時刻はちょうどお昼時。
「おいしそうだねぇ~」
「わーい、ごちそうだぁなあ~」
無邪気な男女の声。
それだけなら登山中にお弁当を食べようとしている若いカップルのほのぼのとした会話に聞こえる。
「だ、誰か・・・・・・」
『ごちそう』の対象が10代後半の人間の少年で無ければ、だが。
「それじゃ、いただきま~す」
喉を抉り、『声』を採取するために。
果物をもぐような感覚で人間の命を奪う行為。
「た、た、助けっ・・・・・・!」
少年は得体のしれないモノへの恐怖で腰が抜け、震えながら助けを求める。
しかし人ではない男女にとっては馬耳東風。
聞く耳は持たず、非情な所業はつつがなく行われる。
「待ちなさい」
一匹の小さな瑠璃色の狼が、残酷な手を払いのけた。
続いて、慄く男女の前に下り立つ影。
それは年齢二十歳前後の、首に
「大丈夫?」
女性的な均整の取れた体のラインと肩口あたりで切り揃えられた鮮やかな黒髪。
ふり返って少年を窺う顔を見れば目鼻立ちも非常に整っており、年相応の可愛さよりも気品のある美しさを感じさせた。
少年は目の前に舞い降りた美しい女性に先ほどまでの状況を忘れて目を奪われる。
「早く逃げて」
「え・・・・・・あっ、はい!」
だが、あくまで目を奪われたのは一瞬。
その意識は黒髪の女性の右手によって体を引き起こされたと同時に現実に戻った。
「あの、あなたはっ!?」
少年は自身を逃がす一方で、一切逃げようとしない黒髪の女性に尋ねる。
「私は大丈夫・・・・・・さあ、走って!」
彼女は『大丈夫』と単純明快に答えた。
「・・・・・・わかりましたっ!」
黒髪の女性と謎の男女、二つを見比べた後に少年は言う通りに走った。
結果として黒髪の女性を置いていく形で。
しかし少年の心には不思議と「見捨てた」という不快感は沸き上がらなかった。
その理由は少年自身にはわからなかった。
しかし第三者の視点、神の視点から指摘するとしたら・・・・・・それは腰を抜かし尻もちをついていた少年を引き起こした時に握られた手であった。
一見すると華奢に見える彼女の手から感じた力強さ。
それが少年を無意識に安心させ「この人なら大丈夫」と信じさせたのだ。
「あぁ~! せっかくのごちそうがぁ~あ・・・・・・」
少年が逃げていく姿を、苦虫を噛み潰すような顔で見送る男女。
その悔しさは、すぐに目の前の黒髪の女性への憎しみに変わる。
「鬼か」
「鬼め」
男女の姿は、その
黒髪の女性・・・・・・関西の鬼戦士はその醜い『変身』に眉一つ動かさず、ただ静かに構える。
「そう・・・・・・私は『鬼』」
懐から取り出すは鬼の
鬼戦士の女性はその音叉を手近な岩に軽く当て、音叉に特殊な『響き』を発生させる。
「・・・・・・鬼戦士の、仕置鬼っ!」
シオキは額に音叉を近づける。
音叉を通して彼女の体に『響き』が伝わることで、彼女の体もまた『変身』する。
ただしそれは異形の男女の醜い『変身』とは違った。
シオキの額に鬼の
シオキが『鉱』で創られた水晶の殻を内側から打ち破る時、その姿は長い二本角が後ろに反る、宝石のアレキサンドライトを思わせる体色を持つ『鬼』に変わっていた。
大いなる《自然の力》と鍛えられた《肉体の力》、そして人間の持つ《心の力》・・・・・・三位一体のバランスが生み出す《正の強さ》を纏う『変身』だった。
「来なさい。私が相手よ」
激昂した異形の男女・怪童子と妖姫は猿のように俊敏な動きで仕置鬼に飛び掛かり―――――
「ガっ―――――!?」
「ギッ―――――?!」
―――――まるで自立した意思を持っているかのように仕置鬼の首から外れ、不自然に伸びて絡みつく
「感情に任せて考えなしに敵の懐に飛び込む・・・・・・
怪童子と妖姫は「こんな布切れすぐに破いて脱出してやる」と言わんばかりに必死に抵抗するが、見たところ何の変哲もないマフラーはビクともしない。
通常『鬼』への『変身』の際、並の衣服は『変身』のエネルギーに耐え切れず全て喪失してしまう。
それは仕置鬼も例外ではない。だが、それでもこのマフラーだけは『変身』後も健在となっていた。
つまり仕置鬼のマフラーは市販の素材で作られた並の衣服ではないということだ。
・・・・・・ちなみに、『鬼』によっては炎やら雷やらを纏う『変身』であるが、それで服が燃えても
さらに言うなら昔から日本では『女の髪』は呪術の力や霊力を宿しやすいと言い伝えられており、
そして仕置鬼は美しい髪を持つ『鬼』であり、師匠から
「鬼闘術・
だがしかしそんなことをわざわざ異形達に話す義理はない仕置鬼は、師匠直伝の技『鬼闘術・鉄殻拳(珍しい鉱属性の師匠が自力で編み出した技で、そのため師匠自身と同属性の弟子である仕置鬼のみが使える。砂鉄などの周囲の鉱物を昆虫の外骨格のように体の一部に纏って攻撃する)』によって二体まとめて打ち倒した。
「・・・・・・出たわね、ヤマビコ」
育て親である童子と姫が倒されたことに反応して、彼らが育成していた
仕置鬼は森を騒がし大地を揺らすヤマビコの気配を感じると、腰に装着した二対の音撃棒を手に取った。
(ってひょえええええええええ思ってたよりデカぁあああああいいいいい?! いや大丈夫大丈夫私は大丈夫師匠から教えてもらった通りにすれば大丈夫ヤマビコ直接見たの初めてだけど大丈夫シオキはやればできる子元気な子だからああああああッ!!)
山の陰から貌を覗かせたヤマビコは、シオキちゃんの想像の1.5倍ぐらいはあった。
仕置きする鬼、仕置鬼。
本名、
これは(実は)関西支部で一番ビビりな『鬼』のお話。
8月のはじめ。
鬼戦士・仕置鬼こと
「わー、あの人すごい美人さんだ~!」
「スタイルも綺麗~、モデルさんかなぁ?」
道行く人々の目線が集まる。
それらを気にしないようにして私は行きつけの店に入る。
「いらっしゃいま・・・・・・あ」
「どうも」
『あ』とか言わない。
あと目を逸らさないで、現実から目を逸らすように私から目を逸らさないで地味に傷つくから。
気持ちはわかるけど。
「いつものお願いします。支払いは・・・・・・」
「カード、ですね」
「はい」
私はいつものように商品を受け取り、そして意気揚々と店から出た。
段ボール一杯のプロテインを肩に担いでスポーツ量販店から出てきた私を見て、さっきとは別の意味でどよめきが起こった。
私はそのままいつものようにスポーツジムに足を運んだ。
ここは駅の近くにある大規模なスポーツジムで、その敷地面積に違わず様々な施設が用意されている。
私は受付を済ませると、水泳の施設があるエリアの更衣室で競泳水着に着替える。
まずは軽い運動がてら、50mプールを二十周くらい泳いでみる。
「あっ、シオキさん」
「あら、望月くん。奇遇ね」
プールから上がってプールサイドのデッキチェアで休憩していると、同じ関西支部の仲間である望月くん・・・・・・
望月くんは音撃管を使う『鬼』の師匠の下で修業中の新人くん。
年齢は来月の9月で20歳。私より1歳年下の子だ。
歳が近いこと、お互いの師匠が姉弟子・弟弟子の関係なのもあってよく話す間柄だ。
「は! そうだ! シオキさん喉乾いてますよねっ?」
「え? そ、そうね」
「やっぱり! 自分、気が利かなくてすみません! いま飲み物持ってきます! ではっ!」
「えーと望月くんそういう気は使わなくても・・・・・・って行っちゃった」
私が止める間もなくプールの逆サイドにあるウォーターサーバーの所へやたら速い早歩き(プールで走ると危ないので)で行ってしまった。
彼のああいう体育会系のノリは正直慣れないけど、本人は100%善意でやってるので止めづらい。
確かに私も一応は先輩だ。
と言っても、今年やっと正式に『鬼』として独り立ちできたばっかりのペーペーなのに・・・・・・そう思っていても勢いで負けてしまう。
・・・・・・これは押しに弱い私が悪い。
(そういえば今年もあっという間に来ちゃったな、8月)
勢いが凄いと言えば去年の
8月31日。ほぼ一年前の出来事。
誕生日プレゼントでイヤリングを買ってもらったことをテレビ電話越しにすごい自慢された。
いや自慢と言うかなんというか・・・・・・主張がすごかった。
テレビショッピングのセールスマンかなってぐらい捲し立てられた。
リンドウの花を模したデザインで可愛いんだーとか、
リンドウの花言葉がうんたらーとか、
リンドウは自身の誕生日の誕生花なんだーとか、
サバキさんには絶対そんな知識なかっただろうになーとか、
それなのに偶然そんなロマンチックなもの引き当てちゃうサバキさんはすごいなーとか、
とかとかとか・・・・・・色々と(一年前のことだから細かいところは忘れた)。
『いや色眼鏡かけた上でのこじつけじゃない?』『褒めてるのか貶してるのかどっちなの?』等々ツッコミ所はあるのだけど、とにかく当時の私が
・・・・・・サバキさんって誰?
ま、それは後日、改めて本人に聞いた。
それにしてもあの子があそこまで感情的になるなんて珍しい。
いつもポヤポヤしているようで内心は冷静に物事を観察し、好奇心に忠実かつあやゆることを先入観なく探求する彼女をあそこまで取り乱させる『サバキさん』とは何者なのだろう。
(仕事の同僚。正確にはいっちゃんがサポーターとして仕事を手伝ってる相手、とは聞いてるけど・・・・・・)
いっちゃんの話では関東支部に所属する『鬼』の一人で、
うん、だからそれ褒めてるの?
あとは少し前に『猛士』内の噂で「期待の新人だよね~」的な話を聞いたぐらいか。
なるほどわからない(諦め)。
こればっかりは本人に会ってみなくてはわかりようもないことだろう。
(それにしてもプレゼントを貰ったぐらいで、
あのドライっ子いっちゃんが狂喜乱舞する相手とは・・・・・・ハっ!)
もしやあの子にも春が?!
・・・・・・・・・・・・いやいやいやまっさかぁ、ね?
あの子と釣り合う相手なんて早々・・・・・・いやでもそのまさかがありえるか「シオキさんどうぞ!」おひょい?!←不意打ちでちょいビビった
「ありがとう」
「いえいえ」
あれこれ考えている間に望月くんがミネラルウォーターが入った紙コップを両手に戻ってきた。
とりあえず、いっちゃんと『サバキさん』の関係については保留にしておこう。
「となり、良いですか?」
「ええ、いいわよ」
望月くんは隣のデッキチェアに腰掛け、自分の分のミネラルウォーターを飲んでいる。
あっ、そうだ。いい機会だから
「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?」
「? なんですか?」
私がいっちゃんの誕生日のことを思い出したのは、最近そのことで悩んでいたからだ。
しかしそれを決めるにあたってどうしても知りたいことがあった。
「男の人って女の人にどんなプレゼントを贈るの?」
「?」
突拍子のない質問内容にポカンとした表情を浮かべる望月くん。
気持ちはわかる。
私も異性から似たような質問をされたら『は? 突然なに言ってるのこの人』って思う。
だから下手な奴には聞けない。
これは望月くんの人の好さに付け込んだキラーパス(自覚あり)だ。
「男の人から女の人に・・・・・・ですか?」
「ええ、そうよ・・・・・・ああ、ごめんなさい大まかな事情は―――――」
例の『サバキさん』が今年はどんなプレゼントを贈るのか、そもそも今年も贈るつもりなのか。
それはわからない。
ただ、贈るのだとすれば少なくとも『私のプレゼントと被る』という事態を回避したいのだ。
「なるほど。つまり友達のバースデープレゼントを買いたいけど、友達の男友達(?)とプレゼントが被らないようにしたい―――――と」
「そう、その通りよ」
もし被ってしまった場合・・・・・・なんか変な空気になるに決まってる!
こう素直に喜べない的な?
「別に被ってしまっても仕方ないと思いますけど? そのくらいシオキさんの友達も許してくれますよ」
「いいえ、それじゃダメなのよ」
「ダメとは?」
望月くん。貴方はあの子を知らないからそんなことが言えるのよ。
「もしプレゼントが被っていたら・・・・・・きっと私はショックを受けるわ」
「はぁ・・・・・・ん? シオキさんが?」
そうよ(断言)。
「そしてショックを受けた私を、あの子はイジり倒すわ」
きっと『しーちゃん(プライベートでの私のあだ名)もまだまだだねー』的なことを言われてしまう!
私のクソ雑魚メンタルを弄ばれてしまう!
えぇい! ここらでマウントを取られるばかりが仕置鬼じゃないことを証明してやる!
今度こそあの小悪魔からマウントを奪ってみせる!
「えー、なんて言うか・・・・・・そう! そもそもショックを受ける理由なんてありませんよ!
プレゼントは物じゃなくて心です! 自信を持っていきましょうシオキさん!」
私の発言で呆気に取られていた望月くんだったが、何とか無難な意見を絞り出し励まそうとする。
ええ、普通ならそれで片付く問題。
相談すること自体が馬鹿馬鹿しい。
でも、良くも悪くも
そして根本的にビビりな私は、それを知っているから図太くなれない。
「それは・・・・・・・・・わかっているのよ。頭では」
「・・・・・・どうやら事情があるみたいですね」
「・・・・・・・・・・・・全部、私が弱いから悪いの」
だって、初めて、見たもの。
あの子の
付き合いは長いとは言えないけど、それでも私がずっと引き出せなかったものを引き出した『サバキさん』という人。
同じものを渡すとしたら、きっとその人から貰った方がいっちゃんも嬉しいはず。
そういう風に
あの子は聡いから・・・・・・きっと
気を遣って、笑って済ませようと頑張ってしまう。
私は・・・・・・誕生日の日くらいはそんな気を遣わず純粋に、あの子に笑っていてほしい。
嗚呼、私がもっと強い人間だったら、あの子に気を遣わせたりしないのに。
「・・・・・・ごめんなさい望月くん、変な話を持ちかけちゃって。
いま話したことは忘れて「し、シオキさんっ!!」はひょ?!」
なななななに望月くん?! 突然大声出して。
「シオキさん、自分・・・・・・いや! 俺、手伝います!」
え?
「俺、正直、シオキさんに何て言ってあげればいいのか、わかりません。
どうすればあなたの助けになるのか、わかりません。
でも、そんな俺なんかに、相談してくれて嬉しかったです。
その感謝をあなたに返したい。あなたの手助けがしたい。
我が儘言ってすみません。でも、それが俺の気持ちです!」
「望月くん・・・・・・」
「あー、ほらっ、やっぱり一人で考え込むとドツボに嵌っちゃうことって誰にでもありますし、
視野が狭くなっている時に横からアドバイスするぐらいなら自分にもできる、と思うので・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ダメ、でしょうか」
真っ直ぐ、だなぁ。
あーあ、こうも愚直な真っ直ぐさを見せられてしまっては、私もいつまでもうじうじしていられない。
これでも一応先輩だし、ね。
「大丈夫よ」
「それは・・・・・・」
そんなに緊張した顔を向けられると、どっちが悩みを打ち開けたのかわからなくなるわね。
ちょっと申し訳なく感じてしまう。
「じゃあ少しだけ、手助けをお願いするわ」
「っはい!」
望月くんの・・・・・・名前に反して太陽のように輝く笑顔を見てると、何だかグズグズ悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてしまう。
誰かに相談する、それだけで気分が少し晴れることもある。
これが、そうなのかしらね。
それに何だか今日一日で、彼と今まで以上に親しくなれた気がする。
「私を裏切らないのは、
「え? 何ですかシオキさん?」
「なんでもないわ」
この後、私はプールサイドという公衆の面前で超シリアス(?)な会話をしていたことに遅れて気付いた。
そして照れ隠しにプロテインを一気飲みしてむせた。
閑話。
とある男女の会話。
「そういえばイッシー。この前話したシオキちゃんって、どんな子なんだ?」
「シオキちゃんですかー? そうですねー、あの子は内心で自分に大丈夫大丈夫って言い聞かせながら、自分よりもっと不安になっている人に『もう大丈夫だよ』って言える・・・・・・そんな子です」
「・・・・・・そっか、いい子なんだな」
「はいっ!」
「ところで、この帽子なんてどうだ? 友達とどっか出掛ける時なんかに良いんじゃないか?」
「これですかー? んしょ・・・・・・どうですかー?」
「お、やっぱこういう淡い色合いがイッシーには似合ってるな。
まぁ、イッシーほどの美人なら大抵のものは着こなしちまうだろうけど」
「えへへー、ありがとうございます。じゃあ、これ、お願いしてもいいですか?」
「おう、もちろん。ってか本当に帽子だけで良いのか? 俺は去年あれだけいっぱい貰っちまったのに・・・・・・」
「良いんです良いんです。プレゼントは物じゃなくて心、ですし。
それにあんまり色々と貰っちゃうと
「あの子って?」
「うふふふー、誰でしょうー? ヒントは、うなじに息を吹きかけると沸騰したヤカンみたいな声で驚きますー」
「それはその子の秘密であってヒントでは無いような・・・・・・。
うーん・・・・・・わかんねぇ。でも、イッシーの顔を見る限り、その子からプレゼントを貰うのがとっても楽しみらしいな」
「はい、年に一度の、一番の楽しみです」
「そう断言されると、ちょっと妬けちまうなぁ」
「どうせ妬けるならー! もっと熱くなれよぉー!」
「何故に熱血」
プロテインは運動してから30分~45分以内に飲むと良いらしい。
あとアミノ酸を一緒に摂取するのも良いとのこと。
※作者の友人談
P.S.
24時間テレビの『石ノ森章太郎物語』を見て、とても感動した。
特に終盤に語られた章太郎の姉さんのヒーロー観、丈くんの「弱くてもカッコ悪くても頑張って戦う人はみんなヒーロー」という言葉、特に後者はウチの不肖サバキさんに通じる所があって嬉しかったです。
録画できたので永久保存確定です。