Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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6日目③

「慎二…!?あなた、どうしてここに!?」

 

「あ?寝ぼけてんのかよ、遠坂。今の僕達がやる事って言ったら、聖杯戦争以外にないだろうが」

 

「っ…それは、そうね。…もう一つ聞かせて頂戴。そのバーサーカーとアーチャーはどういう事?」

 

「あぁ、こいつらなら、僕が貰ったぜ?」

 

 事も無げにそう言い切る慎二。

 私のアーチャーを、『貰った』?…しかも、あのバーサーカーまで…!?

 

「どういう、意味よ」

 

「そのまんまさ。今やそいつらは、僕の手駒だってこと。…さて」

 

エミヤ(・・・)、さっき言ったとおりに頼むぜ」

 

「は?」

 

 アーチャーの手で捕らえられたままの衛宮君は、その言葉に怪訝な声を返す。

 その言葉の意味は、直ぐに彼の目の前居る存在から発せられることになる。

 

「了解した、マスター」

 

 『エミヤと呼びかけられたアーチャー』は、慎二の言葉に返答する。

 

「は?…ちょ、ちょっと待ちなさい!一体…!?」

 

「悪いが凛、その説明を果たす義理は、既に今の私にはない」

 

 

 

―――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood. )

 

幾度の戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades. )

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death. )

 

ただの一度も理解されない(Nor known to Life. )

 

彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons. )

 

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything. )

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. )

 

 

 

 詠唱を完了させたアーチャー―――エミヤは、過去の己自身と共にこの世界から消失した。

 

 

 

「消え、た…!?」

 

「安心しろよ、死んじゃない。…少なくとも今はまだ、な」

 

「くっ…シロウを返しなさい!ライダーのマスター!」

 

「ハッ!素直にお前の言う事を聞くとでも思ってんのか?」

 

「…ならば、力ずくで!」

 

「バーサーカー」

 

 襲い掛かるセイバーに対して、慎二はバーサーカーをけしかける。

 まずい、ライダーだっているっていうのに、バーサーカーまで居るなんて…!

 

「■■■■■■■■■――――――――――!!!」

 

 だが私の不安は、あらぬ方向に自らの武器を振り下ろしたバーサーカーによって、僅かに揺らぐことになった。

 

「まさか…今のバーサーカーは、目が見えてない?」

 

 アーチャーが何かしたのか、はたまたイリヤスフィールから強奪した際の副作用なのか。

 バーサーカーはただ暴れ回るばかりで、その攻撃をまともに命中させられない。

 これならば―――そんな希望は、もう一騎のサーヴァント、ライダーの手によって潰えることになる。

 

「ライダー、お前も行け。あぁ、それは遠坂にでも預けとけ」

 

「わかりました」

 

「え、ちょ!?」

 

 無造作に私に向けて投げ捨てられたイリヤスフィールの体をキャッチする。

 イリヤスフィールはぐったりとして気を失っており、その様子は彼女が魔力切れである事を指し示していた。

 

 セイバーを追い越して背後へと回りこんだライダーは、セイバーを狙わず、その先に居るバーサーカーへと攻撃を加えた。

 それでバーサーカーが傷つくことはない。だが、そのせいでバーサーカーの攻撃はライダーの方向へと向かう事になる。

 それはつまり、その直線上に居るセイバーも、ただでは済まないという事だ。

 

「くっ…」

 

 ライダーの誘導によって、セイバーを攻撃し続けるバーサーカー。

 その照準は正確なものではない。

 だが、あのバーサーカーの膂力が並ならぬものであることは、一度剣を合わせているセイバーもよくわかっているようで、油断せずにその攻撃を避け、時には受け流し続ける。

 更に、背後に居るライダーとて、バーサーカーの誘導しかできないわけではないだろう。

 もしセイバーがライダーを無視してバーサーカーのみに注力したのならば、その瞬間あの釘剣の矛先がセイバーへと向けられるであろうことは想像に難くない。

 

 バーサーカーの暴威。

 ライダーに背後を狙われる緊張感。

 

 そんな極限状態の中で、セイバーはよく戦っている。

 だが…。

 

(まずい、慎二の奴の目的は―――!)

 

 決定打に欠けるセイバー達の攻防。

 しかし時間が長引けば長引くほど、アーチャーによって攫われた衛宮君の命は危うくなる。

 折角魔力供給ができるようになったというのに、今ここで彼を失えば、そのままセイバーは消失せざるを得ないだろう。

 

(こうなったら、私が慎二の奴をぶっ飛ばして…!)

 

 元々、あいつだけはどうあっても倒すつもりだったのだ。

 幸い、サーヴァント二騎はセイバーにかかりきりで、今の状態ならば慎二と一騎打ちに持ち込める筈。

 私とアイツの一騎打ちならば、勝つのは私の方―――!

 

 いざ覚悟を決めて一歩踏み出して、しかしその瞬間、まるでその思考を読んでいたかのように、サーヴァント達の戦闘が止まった。

 

「もういいぜ、お前等」

 

「何…!?」

 

 慎二の言葉に従って、バーサーカーは停止し、ライダーもまたその釘剣を下げる。

 その二騎は、慎二とセイバーの間に立ち塞がるようにその傍に控えているため、慎二にその剣を届かせることは出来ないが―――

 

「どういうつもりだ、ライダーのマスター」

 

「お前もこれでわかっただろ。戦闘になっても千日手状態、このまま時間を稼いでいれば、その内お前のマスターはやられて僕の勝ちだ」

 

「…それは分からないだろう。それより先に、私の剣が貴様を討つ」

 

「まぁそう焦るなよ。…だから、一つ賭けをしよう」

 

「賭け、だと?」

 

「あぁ。これから僕がお前と話をして、まだ戦意を保っていられるようなら、その時点で僕はこの場は大人しく引こう」

 

「何だと?」

 

 ボロボロになり、魔力も切れて、立ち上がるのも辛いような状態でも、衛宮君を助けるためにアインツベルン城に突貫かますようなセイバーが?

彼女の意思の強さは、私もずっと見てきた。

 あのセイバーが、戦意を失うような話?

 …そんなもの、考えつかない。

 

 それに、そんな話をアイツがするとして、そんな話をしている内に衛宮君がやられてしまうかもしれない。

 もし万が一、それでセイバーが戦意を失ったとして、その約束をアイツが守る保証もない。

 確かに状況としては私達の方が不利で、追い詰められているのも私達の方だが、だからと言ってこんな提案を受ける理由はない。

 

「そう不安そうな顔するなよ、遠坂。別に心配しなくても、僕は本気でセイバーの戦意を折る気でいるさ。…それは、僕の妹にかけて誓おう」

 

「妹…?」

 

「慎二の提案を受けて、セイバー!」

 

「凛?」

 

 アイツがああ言う以上、アイツは必ず約束を守る。

 妹―――桜の名に懸けて誓って、それを破るなんてことは、アイツに限っては絶対にありえない。

 だから問題は、アイツの『話』とやらで本当にセイバーの戦意を折れるかどうかという一点のみとなるが…セイバーの意志の強さは、私もよく知っている。

 勝算は十分。なら、受ける価値はある。

 

「…いいでしょう。受けて立つ、ライダーのマスター」

 

「あぁ、セイバー。…いや、アルトリア・ペンドラゴン」

 

「!」

 

「なっ…」

 

 私ですら知らない、セイバーの真名を言い当てた慎二は、言葉を続けた。

 

 

 

「お前みたいな小娘が、王になったことは間違いだった。それを今ここに証明しよう」

 

 

 

 

 

 

「小娘…だと?貴様、私を愚弄するか!」

 

「あぁするさ、当然だろう。お前みたいな奴は王だなんて相応しくない。大人しく片田舎に引っ込んで村娘でもやってれば良かったんだ」

 

「…確かに、私は王に相応しくはなかったかもしれない。だが、何も知らないあなたからそんな罵りを受ける謂れはない」

 

「知っているさ。お前の真名も、お前が生きて何を成し遂げたのかも、何を思ってそれをしてきたのかも、そしてその果てに聖杯なんてものに縋って何を願おうとしてるのかも、全て知っているさ。…だから言ってるのさ、『小娘』…ってな」

 

「………ッ!」

 

 怒りの余り、これが話し合いであることも忘れて強く剣を握りしめた私は、しかし辛うじてその手を抑える。

 

 ―――何を言われようと、私の戦意は衰えない。それを証明すればいいだけの事。

 

「確かに、私は王に相応しくはなかった。だからこそ…」

 

「だから、王の選定をやり直そうとしている…ってか?」

 

「…そうだ」

 

 何故、彼が私の真名を知っているのか。

 何故、彼は私が聖杯に掛ける願いすら知りえているのか。

 不可思議なことは山程あるが、今は彼の言い分をへし折る事だけに集中する。

 私の願いが間違っているなど、認めるわけにはいかないのだから。

 

 ―――私は、あの結末を、変えなければならない。私には、その責任がある。

 

「何故、私の願いの邪魔をする。私の願いを否定するだけの願いが、貴様にもあるというのか!」

 

「別に僕は聖杯に願わなきゃならないことなんてないよ」

 

「ならば、何故!」

 

「それじゃぁ、ブリテンは救えないからさ」

 

 ブリテンを、救えない?

 …いや、確かにその可能性はある。

 あのブリテンが終わりを目前にしていたことは、統治した私が一番よく理解している。

 大地は痩せ、日々外敵の脅威にさらされるあの地を救えるものなど、本当は居ないのかもしれない。

 

 ―――それでも

 

「それでも、私以外の人間が選ばれるのならば、あのような結末は迎えることはなかった筈だ」

 

「少しでも、マシになる筈だ…ってか?」

 

「そうだ。だから私は、聖杯を取る。私のせいで不幸にしてしまった民達を、騎士達を、少しでもより良い未来へ導くために!」

 

 そうだ、この想いが、間違っているはずなどない。

 この理想が、間違っている事などあるわけがない。

 間違ってなど居る筈がない―――

 

 

 

「誰ならそんなことができる?」

 

 

 

 そう、思っていたのに。

 

「聖者の数字を持つ、太陽の騎士ガウェイン?最優と名高い湖の騎士ランスロット?それとも、お前に反抗する勢力をまとめ上げて見事反乱を成し遂げたモードレッドか?」

 

 私は、答えない。

 

「無理だよなぁ。最高の騎士として名高い彼ら十三…お前を抜けば十二人の円卓でさえも、あのブリテンを救えはしない。もし救えるとしたら、お前はその誰かにその王座を譲った筈だ」

 

 私は、答えない。

 

「お前の目的はブリテンを救う事。王座や権力、富に固執することなく、ただ『ブリテンの救済』という理想に自らを捧げ続けたお前なら、それでブリテンが救えると思ったなら、躊躇なくその座をその誰かに明け渡していたはずだ」

 

 私は、答え、られない。

 その時点で、私は空転する思考に囚われ、まともな思考能力を失っていた。

 目の前にいる敵の事も忘れ、ただ何故、と己に問い続けていた。

 

 それは確かに、彼の言う通りだ。

もし、自分以外の誰か、もっと王に相応しい誰かが居たのなら、私はその誰かに王の位を譲っていただろう。

 何故、私はそうしなかった?

 だが答えは出ない。いや、出せない。

 もしこの答えに辿り着いてしまったら、私は―――

 

「けれどこれくらいの事、お前なら分かって然るべきだったよな。

 王として相応しくなくとも、お前の王としての能力は本物だった。だからこそ、どん詰まりにあったあのブリテンを、辛うじて守っていられたんだから。

 もしお前が居なかったら?…そりゃぁ散々な未来があっただろうな。『自分こそが王足り得る』と叫ぶ騎士達がブリテンという王冠を取り合って、その間に無辜の民たちは恐ろしい幻獣魔獣の襲撃を受けてその命を散らし、そして土地は侵略者たちによって奪われる。…それを阻止できる人間なんざ、お前以外には居なかった筈だ」

 

 私は、私は、私は――――!

 

 

 

「なぁ、お前、ブリテンを救おうだなんて考えちゃいないだろ」

 

 

 

「そ、そんなわけがない!」

 

 そうだ、そんなわけがない。そんな事があってはならない。

 私は、確かにブリテンを救おうと、どうにかしてあの血塗られた結末を変えようと、そう思って。

 だから、そんなわけがないのだ。

 

「いいや、それは矛盾してるぜ。あのどうしようもなかったブリテンにおいては、お前がたどり着いたあの結末でさえ、十分に救い足り得る結末だった筈だ。お前がどれだけ心で納得できていなかろうと、現実としてあの地は滅びを定められていて、それでもあそこまで終わりの瞬間を引き延ばしたお前の行動は、紛れもない偉業だった筈だ。けれど、お前はそんな事をなかったことにしたいという。それは、ブリテンを救うという気持ちに根付いた願いじゃぁない」

 

 やめろ。

 

 やめてくれ。

 

 その先を言わないでくれ。

 

 その先を言われたら、私は―――

 

 

 

 

 

「お前はただ、『自分がブリテンを滅ぼした』という責任に、耐えられなかっただけだ」

 

 

 

 

 

 私は、その瞬間、膝を折った。

 

「ぁ………ぁ………」

 

 彼の言う通りだった。

 私は、ブリテンを救おうなどとは思っても居なかった。

 

 ただ、最後のあの景色が、自分の生み出したものだという事実に耐え切れなくて。

 

 全てをなかったことにしてしまおうとしただけだった。

 

 

 

 ―――自分が救おうとした筈のブリテンの民の事など、私は考えてなどいなかった。

 

 

 

「セイバー!?」

 

 私は、手にしていた聖剣を取り落とす。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。

 

あぁ、なんと虚しい響きだろうか。

こんな、私のような小娘に、勝利を約束したとて、意味はないだろうに。

 

既に、勝敗は決した。

 

彼らと戦うべき私は、既に戦う理由を失ってしまった。

聖杯に掛ける願いはなく。

故に、この戦争に残る意味はない。

ただ、この身が消えるその時を待つだけ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、世界がひび割れ、二人の人間が姿を現した。

 それは、私のマスターであるシロウの姿だった。

 その目の前には、彼と共に消えたアーチャーの姿もある。

 

「俺の、勝ちだ」

 

「あぁ、そして私の敗北だ」

 

 

 

 衛宮士郎は、未来の己に打ち勝った。

 

 

 

 

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