Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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対決、英雄王②

 

贋作者(フェイカー)だけでなく、あの狂戦士の魂までも取り込んだか」

 

 余裕を崩さない英雄王を、真っすぐに見据える。

 僕にとっては一世一代の大きな決断でも、王にとってはその程度。

 細胞一つ一つが余さず悲鳴を上げている現状、少し気を抜けばそのまま塵一つ残さず消えてしまいそうな物理的なプレッシャーを感じる中にあってなお、王にとってはこれで『最低限』。

 この身に溢れる力は、人類史においても比類なき位階のモノではあるが…人類史の頂点にある王にとっては、ここまでやっと目の前に立つことを許されるような地点でしかない。

 

 ―――あぁ、ようやっと見れるだけのものになったか

 

 傲慢な笑みは、まるでそう僕に語り掛けているかのようだった。

 

「さて、それでは小手調べだ」

 

 王の両脇に、黄金の波紋が波打った。

 そこから現れ出てくるのは、相も変わらず至高の財。

 もしアレが命中すれば、今の僕とて無事では済まないだろう。

 

「そら、凌いで見せよ」

 

「―――投影(トレース)

 

 使うのは、贋作者としての力。

 だが、作り出すのは贋作者の記憶にあるモノではない。

 引き出す記憶は、ギリシャの大英雄が握った斧剣。

 硬くて重い。それのみに特化した、武骨極まる暴力の具現―――!

 

開始(オン)!」

 

 本来の自身ならば持ち上げることすら困難なそれを、片手に握って容易く振るう。

 大英雄の膂力を身に宿した今の自分ならば、これくらいは造作もない。

 迫り来る二本の財を、ただ一振りで打ち払う。

 弾き飛ばされた財は、吹き飛ばされた先で大地を抉ってその威力を物語る。

 

「ならば、次は倍だ」

 

 四本の財が迫り来る。

 迎撃は可能。

 

「これはどうだ?」

 

 八つの財が迫り来る。

 まだ、なんとかなる。

 

「そろそろか?」

 

 ―――現れたのは、十六の波紋。

 自身に宿った魂が語り掛ける。片手で打ち払うのは、もう限界だと。

 

投影・開始(トレース・オン)!」

 

 ならばもう一本作るまで―――!

 

 もはや弾幕と呼べるレベルまでになった、財の嵐。

 そのど真ん中を、無理矢理に突っ切る。

 

「らぁっ!」

 

 裂帛の気合と共に、両手に握った斧剣を振るう。

 次々と飛んでくる財達を、一振りで二つ三つ弾き飛ばし、都合十六の砲撃を捌ききる。

 

「ならばこれでどうだ!」

 

 瞬間、次々と現れる黄金の波紋。

 現れ出ずるそれは、こちらにとっては砲門と同じ。

 ただの一つでも打ち漏らせば、その先にあるのは―――死。

 両手で足りる数であるかどうかなど考えるまでもない。

 

投影・開始(トレース・オン)!」

 

 ―――両手で足りないのならば。

 ―――作り出した世界すら酷使する。

 

 砲門と同じ数だけの贋作を呼び起こす。

 視界全てを覆うほどの、眼が眩むほどの財の壁を前に、醜悪な贋作で以て対抗する。

 矛先を変えるのが精一杯の贋作もあれば、衝突の瞬間に無様に砕け散る贋作もある。

 アーチャー・エミヤならば、いずれそこに至る衛宮士郎ならば、いくら贋作とはいえここまでの醜態は晒さなかったかもしれない。

 所詮真似事まででしかない僕の力では、暴威の嵐の中を走り抜ける『目』を作り出すところまで。

 

 ―――だが、それでも構わない。

 

 足りない力は、別から補う。

 未だ、投影した斧剣は健在。

 ならば、問題はない。

 どれだけ無様でも、醜悪でも、この剣があの王に届きさえすれば、僕の勝ちだ―――!

 

 ダンッ!と英雄王の目前の大地を踏みつける。

 もはや、王までの距離はあと数歩。

 ここまで来れば、十分に届く!

 

 振るうは、大英雄がたどり着いた一つの結論。

 数多の命を持つならば、その全てを殺しつくせばいい。

 死ぬまで殺せばいずれ死ぬ。

 そんな思考の果てに行き着いた、武の極限、その一つ。

 技も神秘も関係ない。ただ、己が振るう武のみを絶対と信じた一人の男の終着点―――!

 

射殺す(ナイン)―――百頭(ライブス)ッ!!!」

 

 反動で腕が千切れ飛びそうになるのを必死に繋ぎ止めながら、斧剣を振るう。

 大気は破裂し、踏み込んだ足は大地に埋まり、余りの暴力に世界が収縮するような錯覚すら感じる中。

 一息の間に、百閃。握った斧剣は耐え切れずに爆散する。

 この身を砕くことなく、僕はその力を振るいきり、見事―――

 

 

 

 英雄王の盾を、『たった一つだけ』粉砕することに成功した。

 

 

 

「ッ―――!」

 

「ハッ」

 

 振るった力の大きさの余り、脱力しそうになるのを必死にこらえて、全速力で離脱する。

 大英雄の膂力、その全てを注ぎ込んで飛んだ僕が見たのは―――再度放たれる、視界を埋め尽くす宝具の壁。

 

投影(トレース)―――くっ!」

 

 間に合わない。

 そう確信した僕は、中空で身を捻じり、手足を盾にその嵐を凌ぐ。

 掠っただけでそれらの宝具はこの身を切り、抉り、盾とした手足は拉げて弾け飛ぶ。

 衝撃に吹き飛ばされる形で王の眼前から遠く離れた僕は、聖杯の魔力と、大英雄がその身に宿す奇跡―――命のストックを用いて自らの肉体を復元させる『十二の試練(ゴッド・ハンド)』を用いて、再生させる。

 その様を、追い打ちをかけるでもなく、王は愉悦の笑みを浮かべて眺めていた。

 

「うむうむ、中々の見世物だったぞ。そのような矮小な雑種の身で、よくもまぁあのような無茶が出来たものだ。

 その身の丈を弁えない愚行―――セイバーを待つまでの手慰み程度にはなった。褒めて遣わすぞ、道化。

 …だが、我はそろそろセイバーめを迎え入れる準備をせねばならん」

 

 

 

「もう、死んでよいぞ、道化」

 

 

 

 再開される散財。迫り来る至高の財の嵐。

 今一度斧剣をその手に握り、その乱気流の中を生き延びんと足掻く。

 

「投影―――」

 

 弾き飛ばした宝具が爆散し、土煙を上げる。

 一撃一撃が必殺と呼べるだけのモノ。

 もう、王は僕を殺すことに躊躇いはない。既にセイバーの事を考えている王は、僕の事を払うべき埃程度にしか気に掛けてはいない。

 

「投影―――」

 

 財の嵐を掻い潜る中、獅子に追われる兎になったような感覚を味わう。

 いや、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという。ならば、これは猫に遊ばれる鼠と言うのがより相応しいだろうか。

 

「投影―――」

 

 まだ、王は油断している。

 いや、王が僕を前に、油断を失くすことなど有り得ない。

 事実、王が今の状態を維持するだけで、僕は容易く息絶えるだろう。

 無尽蔵の魔力供給があろうと、それを用いて命を蘇らせることが出来ようと、行使するのが僕である以上その速度には限度がある。

 もはや王には、僕を生かしておく理由などない。むしろセイバーを迎え入れる準備をするために、僕の事などさっさと片付けなければ、などと考えている事だろう。

 ならば先程のような温情は期待できない。手足の一つでも捥げたその瞬間、再生を超えた速度で僕は殺しつくされるだろう。 

 

「投影、投影、投影―――ッ!!!」

 

 だから、その前に勝負に出る。

 『もう十分』と同時に、『もう限界』と感じた僕は、意を決して再度英雄王へとその足を向ける。

 もはや、時間稼ぎはこれで限界。だがしかし、もはや十分に、『弾頭』の数は揃えた。

 

「ふん、何度やっても同じこと―――」

 

「同じじゃねぇよォッ!!!」

 

 手に握るは斧剣。

 だが、それだけではない。

 僕の後ろに続くのは、逃げ惑う中で投影し続けた―――百の贋作。

 

「なっ―――!」

 

 ここで初めて、王の顔が驚きに染まる。

 宝具の掃射を続けながら、自らの目前に波紋を呼び起こした英雄王は、数多の盾をそこに打ち立てる。

 さながらそれはもはや、盾を超えて一つの要塞の様相を呈していたが―――関係ない。

 

 百の贋作(無限の剣製)でも破れない。

 究極の一(射殺す百頭)でも届かない。

 

ならば。

 

 ――――究極の百を、叩きつけるまで!

 

宝具錬成(ファンタズム・アルケミクス)―――」

 

 

 

 

 

―――――無限の・射殺す百頭(アンリミテッド・ナインライブス)―――――

 

 

 

 

 

 

「おのれ―――!」

 

 まずは二振り、両手に握った斧剣を叩きつける。

 

「おのれ―――!」

 

 全力で叩きつけられた斧剣は、即座に砕け散る。

 空いた両手に、新たな贋作を手にする。

 

「おのれおのれおのれ―――!」

 

 叩きつけ、破砕する。

 

 ただそれを、繰り返す。

 

 繰り返す。

 

 繰り返す。

 

 繰り返す。

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ――――――ッッッ!!!」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 ただひたすらに、目の前の壁を削り続ける。

 その奥に居る、王を討ち取るために。

 

「らぁッッッ!!!」

 

 最後の一振り。

 それを叩きつけた瞬間、数多の盾はとうとうその最後の一枚までも砕け散る。

 余波によって巻き上げられた土埃が、王と僕を覆い、視界が途絶える。

 

「貴、様―――!」

 

 力を出し尽くし、その反動で、肉体は砕け散る。

 一振り一振りに、大英雄の全力を費やしたその百にして単一の奥義は、多大な負荷を僕に与えていた。

 もはや腕は千切れ飛ぶどころでは済まず、細胞の一つに至るまで余さず砕け散っている。

 それを支え続けた両足に胴も、腕程ではないにしろ碌でもない有様だ

 

 だが、まだチャンスはある。

 

 自らの宝が打ち破られた事に呆然とする王は、未だに僕に止めを刺すという思考に至っていない。

 生きている以上、僕にはまだ抗う余地が残されている。

 

 もはや、王を守る盾はない。

 力も、数も、もはや必要ない。

 ただ、その心臓を抉る一突きさえあれば―――!

 

「…、幻召喚(ストール)

 

 聖杯から汲み上げた魔力に任せて再生させたその手に握るは、紅の魔槍。

 因果逆転にして必中の呪いを持つ神秘を保有する、アルスターの光の御子の切り札―――!

 

 

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)―――ッ!」

 

 

 

 全てを掛けた、最後の一撃は。

 

 

 

 撃ち放たれた一本の槍に阻まれる。

 

 

 

 ―――それが宝だというのならば

 ―――我が持っていない道理はあるまい?

 

 この世の全ての財を集めた王。

 ならば『因果逆転の魔槍』の原典も、当然ある。

 

 双方から放たれた必中の槍は、同一の因果を持つが故にその矛先は集約し、互いに打ち払い合う。

 阻まれた槍は、英雄王に届くことはない。

 そしてそれはそのまま、自身の死を意味する。

 このまま後は、王の意志一つで百を超える宝具が放たれ、次の瞬間には、五体がバラバラになっている事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――返し」

 

 重ねて放たれた、更なる二本の因果がなければ、の話だが。

 

 

 

 

 

「が…はっ…!?」

 

 何が起きたのか。

 確かに、英雄王が放った槍は、紅の呪槍を打ち払った。

 その因果は届かなかった。

 だが英雄王は知らなかった。

 けれど僕は知っていた。

 

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』は命中しないという事を。

 

 そんなのは、ただの迷信のようなもので。

 本来、考慮するようなものではないのかもしれない。

 だが実際『原作』において、唯の一度も、この呪いの槍は戦いの中で心臓を穿つことは出来ていないのだ。

 

 だから僕は、油断なく、慢心なく、弱者らしく万全を期した。

 

 ケルトにおける大英雄、クー・フーリンの魂を取り込もうと考えたその瞬間、もう一騎の魂―――

 

 

 

二重・夢幻召喚(クロスリンク・インストール)

 

 アサシン―――ただ武技のみで魔法にまで至った侍を、取り込んでいたのだ。

 

 その男は、何も特別な事などなかった。

 優れた血統に産まれたわけでもなく、神秘深き時代を生きたわけでもなく、偉業を成して死んだわけでもない。

 ただ―――『空を飛ぶ燕を斬ろう』。

 戦士ですらない唯の農民が、その一念で桑の代わりに刀を握って振るい続けた結果。

 常識の埒外にあるその奇跡を宿した剣技、その名を―――『つばめ返し』

 

 一振りで三閃を放つという、『多次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)』という魔法を内包した、これもまた武の極限の一つ。

 

 因果逆転・必中必殺の魔槍。

 次元屈折・一振三閃の魔剣。

 

 その二つを合わせて放った一撃―――

 

『宝具錬成―――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)・返し』

 

 必中の一突きを、必殺の三撃とする魔技である。

 

 その矛は確かに、英雄王の心臓を貫いて見せた。

 

 

 

 

 

 

「貴ッ様…!」

 

「悪いな、英雄王」

 

 突き立てた朱槍を押し込む。

 

「恨みはない。けど…桜の幸せのために」

 

 ―――死んでくれ

 

 背から倒れ込み、聖杯へと立ち昇る渦へと飲み込まれていく英雄王。

 その様を見届けた僕は、己の身に宿していた英雄の魂を解放する。

 

「………ハ」

 

「ハハ、ハハハハハ!」

 

 ―――あぁ、これでもう、思い残すことはない。

 

 ただ一つの不安要素。

 出来るだけ十分な戦力が残るよう調整したとはいえ実際に英雄王に勝てるかどうかは分からなかった。

 そも、英雄王に確実に勝てる存在など居ない。

 王が唯一友と認めるエルキドゥでさえ、勝率は五分五分だろう。

 だから僕にできるのは、英雄王に勝った『原作』のルートを再現できるよう、なるべく可能性を残しておくことまでだった。

 だが、その憂いも既に僕自身の手で取り除くことができた。

 

 

 

 そこでようやく、近づいてくる沢山の気配を感知する。

 

「あぁ、なんだ、今更来たのか」

 

 ともかく、そろそろ僕も消える時らしい。

 

 既に、目的は達したに等しい。

 

 間桐臓硯や英雄王と言った不安要素は取り除き、衛宮士郎と遠坂凛という保護者足り得る人間も生きている。

 言峰綺礼に関しては微妙な所だが…まぁ、アレも僕が死んだ後に態々ほぼ一般人である桜を狙うほどの理由は持たないだろう。

 

 完全に魔術の世界を断って、一般人として過ごしていくのもいい。

 遠坂や衛宮の後を追って、魔術師としての大成を望むのもいいだろう。

 どんな形にせよ、後は―――

 

 桜が幸せに生きていける、唯の日常が続いていく。

 

 ―――だから、もう十分だ

 

 

 

「慎二!」

 

 現れたのは、衛宮にセイバー、そして遠坂に、臓硯とライダーも現れ、舞弥まで一緒に着いてきている。

 随分と大所帯なようだが、それも構わない。見送りに来る人間が多くて結構なことだ。

 そして、更に奥から出てくる気配がもう一人―――

 

「なっ―――」

 

 ―――お前は

 

 ―――お前だけには

 

 ―――来てほしくは、なかったんだけどな

 

 

 

 

 

「兄さん!」

 

 

 

 ―――あぁ、全くなんでお前が来ちまうのかな、桜

 

 

 

 

 

 





宝具錬成(ファンタズム・アルケミクス)
FGOでは絶対に実装されないであろう(コンプガチャ的な意味で)要素。
拙作におけるコレガヤリタカッタダケーその二。
ちなみに、その一はマジカル☆太極拳。



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