感想欄に余りに愉悦部の方が多かったので…
間桐桜に一切合切を―――
伝える
→伝えない
臓硯「彼女に態々辛い事実を伝える必要もないだろう」
「桜」
部屋の隅で虚空を見つめている少女へ向けて語り掛ける。
何日も食事を取っていないのだろう、頬はこけて唇はかさつき、かつての快活な面影は影も形もない。
呼びかけに反応することもなく、変わらず虚ろな目で虚空を見つめ続ける。
「しっかりしなさい!…慎二も、そう望んでるわ」
慎二。
その言葉に、少女は反応する。
「…たが」
「………桜?」
「あなたが、それを言うんですか。…兄さんを助けなかったあなたがッ!!!」
「っ…」
桜は、私に掴みかかって壁へと押し付ける。
私はその激昂を甘んじて受けることを選んだ。
「かっ、は…!」
「兄さん、兄さん、兄さん…!兄さんが、どこにもいないんですよ?兄さんが、帰ってきてくれないんです。あなたのせいだ。あなたが役立たずだから…!あなたが!あなたがッ!!あな、っ…ごほっ…!」
衰弱していた体には、そうやって叫ぶだけでも辛かったのだろう。
私を壁へと抑えつけていた手を放して、せき込む口元を覆って体を丸める桜。
「…桜」
「出ていって」
「ねぇ、聞いて桜」
「出て行ってッ!!!」
「………また来るわ」
今はまだ、どうにもできない。
ともかく時間を置いてもう一度来ようとだけ決めて、私は引き下がる事にした。
◆
「桜」
次に現れたのは、兄さんの面影が垣間見える人物。
私の現在の祖父である間桐臓硯だった。
「………慎二を、取り戻せる方法がある」
「!?」
「全魔術師が共通して持つ野望がある。この世界の、全ての始まりが記録されているという場所。アカシック・レコードとも呼ばれるそれは、魔術師達の間で『根源の渦』と呼ばれている」
「根源の、渦」
「そうだ。全ての始まりであるその場所は、逆説的にあらゆる場所へと繋がる場所でもある。
そこに辿り着けたのならば…恐らくは、慎二を取り戻す方法も手に入れられるはずだ」
「………」
「だがそれは、あらゆる魔術師達が、何世代掛けてもなお辿り着けない場所だ。
そこに辿り着ける可能性は―――」
「でも、兄さんを取り戻すには、そこに行くしかないんですね」
「…少なくとも、魔術的にも科学的にも、死者の蘇生は不可能だとされている。
それこそ、魔法を用いてもなお、な」
「なら、辿り着いて見せます。たとえ―――」
―――どんな犠牲を、払う事になったとしても
◆
「…また邪魔をしに来たんですか、先輩」
「えぇ、あなたにそんな事をさせるわけにはいかないもの。
…現存人類、およそ70億をエネルギー源として利用する、根源の渦への到達。そんな所業、許すわけにはいかないわ」
「もうやめろ桜!こんなこと、慎二の奴だって―――」
「うるさいッ!!!」
少女の悲痛な叫びが、洞窟の中に木霊する。
「誰のせいで、こんなことをする羽目になったと思ってるんですか!…あの日、あなた達がきちんと兄さんを助けてくれていれば、私は、私達は―――!」
「そうね、そこは言い訳しないわ。私達は慎二の奴に助けられた。慎二の奴を助けられなかったのは、私達に力が足りなかったから」
「そう思うなら、邪魔をしないでくれませんか?」
「そういうわけにはいかないわよ。…慎二の奴から、アンタの事を頼まれているもの。アンタを、人類絶滅の引き金になんてするわけにはいかないわ」
「―――あなたが」
「あなたが、兄さんの事を口にするなッ!!!」
◆
激しい戦いの果てに、勝利したのは私達だった。
ボロボロになったまま洞窟の壁面に体を預ける桜に、私は手に持つアゾット剣を突きつける。
「これで終わりよ」
「どう、して…私の、邪魔ばかり…そんなに、私が嫌いですか…不出来な妹が幸せになるのが、そんなに許せませんか?ねぇ、姉さん?」
姉さん、と。
ずっと、そう呼び掛けて欲しかったのに。
そう呼び掛けられた私は、ひどく胸が痛んでしょうがない。
「―――――――――」
「私は、ただもう一度、」
―――兄さんに会いたかっただけなのに
「それすら許してくれないんですか、一度も助けてくれなかったのに、手を差し伸べることすらしなかったあなたは、ひたすら私の邪魔ばかり…あなたなんて、あなたなんて―――最初から、居なければ良かった………ッ!!!」
奥歯が噛み砕けるほどに歯を食いしばって、目の前の少女を睨みつける。
なけなしの命の灯火と。
ありったけの憎悪を込めて。
「さようなら、桜」
―――それと、ごめんなさい
その言葉を、口にすることは出来なかった。
それこそ、私にそんな権利はないだろう。
子供の頃に別れて以来、アナタの事を忘れた事なんてなかった。
私が必死に研鑽を積んでいれば、苦痛から逃げずに立ち向かっていれば、その分あなたは幸せになるんだと無邪気に信じて。
そんな思いでずっと、優等生として表の顔を保ってきたし、血反吐を吐くような魔術の修練も我慢してきた。
なのにアンタは、そんな私とは無関係に、勝手に幸せにしてもらっていた。
ずっと、そんな未来を思い描いて努力してきた筈なのに、いざあなたが慎二と一緒に幸せそうにしているのを見たら、なんだか微妙な気分になって、でもまぁ幸せならそれでいいかって、無理矢理自分を納得させて。
―――私は、そんなあなたの幸せを、守ってやる事さえできなかった。
不甲斐ないお姉ちゃんでごめんなさい。
役に立たないお姉ちゃんでごめんなさい。
あなたを幸せにしてあげられなくて―――ごめんなさい。
言葉で謝ったって、意味なんてないわよね。
あなたが愛したアイツを見殺しにした私に、もはや償う手段なんて存在しない。
ならせめて、これ以上あなたの罪を重ねさせないことが、私にできる精一杯の―――
がしりと、首を握られる。
「あなた一人、幸せになんてさせない。―――私と共に地獄に落ちろ、遠坂凛!」
心臓を貫かれた桜が、最後の力を振り絞って、私の喉元に触れた両手から虚無の魔術を発動させる。
咄嗟に対抗魔術でレジストしようとしたけれど―――
―――いいわ。せめて、一緒に居てあげる
憎悪を込めて私を睨む桜の姿に、私はその気を失ってしまった。
大好きなあの子をこんなにしてしまったのは私で。
それを償う方法なんてないと思っていたけれど。
あの最期の瞬間、慎二は満足して逝った。
『桜を頼む』だなんて身勝手な願いを私達に押し付けて。
そんなアイツは、きっと天国で能天気に過ごしているんだろうし。
―――そうね、あなた一人地獄に行かせるわけにもいかないわよね。
憎悪によって磨かれたあの子の憤怒の咆哮が、私の首を噛み千切った。
◆
「皆、死んじまったよ、爺さん」
青年となり、孤独になった少年だった者は、自らが追うべき背中を見せてくれた男の墓標の前に立っていた。
「なぁ…俺はどうすればよかったのかな」
返答はない。
「けどさ、これからどうするかは決めてるんだ」
―――俺はやっぱり、アンタの後を追う事にする。
一を殺して十を救う。十を殺して百を救う。百を殺して千を救う。
理想とした背中を見せた男は、そんな生き方を選んだ、度し難いほどの聖人だった。
恩人だった親友もその手で殺し、その妹へ報いることすら叶わず、共に戦った少女を守り切る事も出来ず、父だった男の忘れ形見である姉を救う事も出来なかった少年に―――もはや、殺せない命はない。
きっと彼は、素晴らしき正義の味方になることだろう。
―――BAD END―――
~~~キャスター道場~~~
マスター・リリィ(巫女服に身を包んだ謎のキャスター、の若き日の姿)「というわけで!多くの皆様のリクエストにお応えして!バッドエンドルート解禁でございます!」
弟子ミ二号(ふんどし一丁にねじり鉢巻きの謎のアサシン)「応よ、マスター!今回のBADの条件はなんだったんでい!?」
マスター・リリィ「それは、終盤で間桐臓硯に、真っすぐ衛宮邸に向かわせてしまったこと!要らない気遣いが最悪の結果を呼び寄せてしまったわけです!
主人公に安らかに逝かせてはいけません!最後の瞬間までみじめったらしく声を掛けて、未練たらたらの状態にしてしまいましょう!
そうでもしないと、『あぁ、安心した…』なんて言って大人しく( ˘ω˘)スヤァしてしまうので!」
弟子ミ二号「応、マスター!諸君は最後の選択肢に戻るべし!最後の瞬間、間桐慎二少年に未練を呼び起こせそうな人物が、兄の帰りを待って食事を作っているはずだ!」
マスター・リリィ「その通りです!間桐慎二は聖剣の光に飲まれて( ˘ω˘)スヤァしている頃、少女が『兄さん、まだかな…』なんて言って膝を抱えて夜の空を見上げているので!きちんと死に目に会わせてあげる事!それがハッピーエンドの条件になるのです!」
弟子ミ二号「…ところで、何故このコーナーを私達が?」
マスター・リリィ「いやほら…私達、本編で全く出番がなかったから」