Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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※投稿日時をよくご確認の上お読み下さい


新たな始動

「フゥ―――…」

 

 一呼吸ついて、自らの中に眠る英雄の因子―――その記憶を呼び覚ます。

 薄暗い蟲蔵の中を飛び回る、『燕』の影を幻視する。

 

「―――疾ッ!」

 

 自らの領域に踏み込んできた燕へ向けて、手に握る刀を一閃。

 しかし、その剣閃が燕を捉えることはなく、ふわりとした軌道で剣先すれすれを通り過ぎた燕は、挑発するかのようにまた自由に空を舞う。

 

 やはり、届かない。

 

「まだ、遅い―――!」

 

 幻の燕へ向けて、僕はもう一度挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

 眼前に立つのは、妖艶な雰囲気を醸し出す妙齢の女性。彼女の手に握られているのは、僕が操るのと同じ朱槍。

 

 女性は巧みな槍捌きで以て、僕を苛烈に攻め立てる。

 ただの一振りも見逃すまいと、目をカッと開いて全身全霊を掛けてその槍の穂先の行く末を見極める。

 それでも、追いつくことは出来ない。眼前に迫った槍の穂先を自らの槍で振り払いながら首を傾けることで回避する。しかし避け切れずにその穂先は首を掠り、赤い筋を一本残して去っていく。

 振るわれた槍を避けようと一歩後退するも、やはり間に合わずに額には一文字に瑕が刻まれた。

 

 反撃など叶うべくもない。

 ただ生き残るために、その朱槍を見つめ続ける。

 

 ―――だが、それすらも、今の僕には成し得ない。

 

 槍に集中するあまり、繰り手本人への警戒がおろそかになっていた僕は、意識外から放たれたその蹴りに反応することができなかった。

 

「ッ―――!」

 

 体勢を崩し僕の喉へ、その朱槍が叩き込まれる。

 切り裂かれた首から真っ赤な血が溢れ出し、僕はもう何度目か数えるのも億劫なほどの死を迎えた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 緊張を解いて、全身を解しにかかる。

 幻想の中の赤い血液は消え失せ、現実通りの健康な肉体を正しく認識する。

 

「燕はともかく、やっぱり仮想スカサハを相手にした鍛錬は、身にはなるが身が保たないな…」

 

 これが、僕の最近の日課だった。

 僕の中に残った英霊の因子―――その内の二人、佐々木小次郎とクー・フーリンの残滓を励起させることで、仮想敵を作り出して、それを相手にして鍛錬する。

 佐々木小次郎からは、空を舞い、あの魔技『燕返し』を生み出させたという燕を。

 クー・フーリンからは、影の国の女王スカサハを。

 それぞれ呼び出し、模擬戦めいた事を行っている。

 

 …が、結果は全く以て芳しくない。

 燕の方は相変わらず掠りもしない。振るわれる位置が徐々に近づいてはいるのだが、近づけば近づくほどあの燕は機敏に回避するようになるので、届くには本当に『燕返し』を習得するしかない。しかし武術を極めるだけで第二魔法を実現させるという離れ業、一朝一夕にできるわけもないので、届くのはいつになることやら。

 スカサハとの戦いは、どうやってアレを倒すかというよりも、最後まで生きて立っているための方法を確立する方が先だろう。アレとは何度も戦っているが、今でも五分に一回は殺される有様だ。…初めは十秒も保たなかった事を考えれば、進歩してはいるのだろうが。

 

「こんなザマで、英雄王の満足の行く人生なんぞ送れるのかねぇ…」

 

 僕の中にわずかに残った英雄の霊基…から絞り出した記憶の搾りかす…を元に僕が想像する仮想敵。

 当然、劣化に劣化を重ねた粗悪な練習相手だ。

 その程度の相手ですら今の僕には荷が重いというのだから、僕が…というよりも英雄王が『十分』と判断するような場所はどれだけ遥か遠い場所なのか―――。

 

「クソッ、下らない事考えてる暇なんてないっていうのに」

 

 最近の遅々とした歩みに、どうにもナーバスになっているようだ。

 何はともあれ、他に道も見つけられない以上、このまま続けるしかないだろう。

 

「締めの筋トレに入るか」

 

 壁面近くにどけてあったバーベル(100kg)を頭上へと持ち上げて屈伸運動から開始する。これはヘラクレスの因子を意識したトレーニングメニューだ。

 そろそろこれも随分と軽く感じるようになってきた。そろそろ重量を増やしてもいい気がする。新しいものを買ってもいいが、折角だからルーンを刻んで重量を倍加でもさせてみようか―――

 

 

 

 

 

 

「兄さん」

 

「あぁ桜、どうした?」

 

 シャワーを浴びてすっきりとした僕は、家の居間へと上がってきていた。

 食欲を誘ういい匂いを漂わせる桜の料理に意識が奪われそうになりながらも、用件を切り出そうとする桜へと顔を向ける。

 

「兄さん宛に、こんな手紙が…」

 

「うん?」

 

 簡素ではあるものの細やかな装飾が施された高級感を感じさせる便箋を見る。

 裏返し、差し出し人を見て―――頭を抱えた。

 

「兄さん、どうしたんですか?」

 

「あぁ、うん…最近の悩みが解決したんだ」

 

「解、決…?むしろ、新しい悩みが増えた、みたいな感じですけれど…」

 

「まぁ、な」

 

 この問題を解決できたなら、きっとあの英雄王も満足する事だろう。

 もしできなければ―――人類が滅亡することになるのだが。

 手紙の裏に書かれていた名前は、本来僕が見ることのないものの筈だった。

 

 

 

 ―――人理保証機関 フィニス・カルデア―――

 

 

 

 

 ~Fate/Sprout Knight 人理修復編、開幕~

 

 

 




※しません



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