Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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特にネタが思いつかなかったので第二章は省略




第三章 ―オケアノス―

「くそっ、くそっ、くそっ!!!」

 

 地団太を踏んで苛立ちを露わにするのは、見目麗しい金髪の青年、イアソン。

 この第三特異点・オケアノスにおける聖杯の所有者に選ばれた彼は、一つの不安に押しつぶされそうになっていた。

 

「まさか、ヘラクレスの奴がカルデアに召喚されるなんて…!」

 

「イアソン様…」

 

「アーチャーなら問題ないか?いや、バーサーカーの力が百だとするならアーチャーの力は百二十…凡百の英霊なんぞ五か十が精々だろうが五人、六人と連れてこられて支援されたら埋まる程度の差しかない…!」

 

「イアソン様、心配には及びません」

 

「何がだっ!向こうにはバーサーカーとはいえヘラクレスが要るんだぞ!何かまかり間違って僕が殺されたらどうするつもりだ!」

 

「ご安心ください。聖杯の力があれば、このような事も出来るのです―――」

 

 

 

 

 

 

「おいおいおいおい!?一体何だいあんたは!?」

 

「あー、改めて説明するとなると面倒だな…」

 

「つーかそいつは何だい!?」

 

「あ?見りゃ分かんだろ、ペガサスだよ」

 

「ぺ、ぺがさす…!?なんでそんなもんに…」

 

「しょうがないだろ。いきなり海のど真ん中に放り出されたんだから。こいつにでも乗せて貰わないと僕が海に落ちちゃうだろうが」

 

「は?え?…あぁもうどうでもいいさね!ともかく、そんなお宝目の前にぶら下げられて引き下がれるかってんだい!野郎ども!準備しな!あの天馬、私達が頂くよ!」

 

「「「あいよ、船長!」」」

 

 

 

 

 

 

「………いやあの、ほんとすんませんでした」

 

「海賊風情がチョーシこいてマジですんません」

 

「オレらが悪かったっす。だからもうこれ以上は勘弁して…」

 

「なんだ?もういいのか?」

 

「アンタ、強いねぇ。まさか全員のしちまうなんて…ていうかなんでアンタ銃弾素手で弾けるんだい?」

 

「そんなもん鍛えたからに決まってんだろ。ま、普段から舞弥…メイドに対物ライフル打たせてそれ弾く練習してたし、僕を銃で打ち抜きたいんだったらさっきの十倍の弾速が要るだろうな」

 

「………あっはっはっは!アンタほど滅茶苦茶な奴ぁ見た事がないよ!

 さっきは襲っちまって悪かったね。アタシの船に乗せてやるから、そいつでチャラにしてくれやしないかい?」

 

「あぁ、良いぜ。多少じゃれつかれたくらいで目くじら立てるほど、僕も狭量じゃないからな」

 

「オレら、一応本気で殺すつもりだったんだけどなぁ…」

 

「完全に舐められてますね…」

 

「しょうがねぇだろ。あんなバケモンオレらにどうしろってんだ…船長が話を上手く纏めたみたいだし、オレらはそれに従うだけよ」

 

 

 

 

 

 

 ――――おい、冗談だろ…!

 

 僕はその光景に絶句する。

 確かに、この特異点ではヘラクレスが出てきていた。二十年近い歳月、それも密度の極めて濃い今世の中で欠けてしまった記憶も多いが、それくらいは覚えている。

 

「フハハハハハ!随分とみすぼらしい船が海を泳いでいるな!そんな船に乗っていないで、こちらに来ないか、女神よ?」

 

「ふん、誰が行くもんですか」

 

「えう、りゅあれ、わたさない…!」

 

「そうか、交渉は決裂か…まぁ別にいい。では行け、ライダー」

 

 イアソンはまるで自分の宝物を見せびらかしたくてしょうがない子供のように上機嫌な様子で、ヘラクレスへ語り掛ける。

 

「む?この身一つで良いのか?」

 

「仕方がなかろう。他のこの身では海を飛べんのだからな」

 

「まぁ、飛べないのなら泳げばいいだけではあるが…」

 

「この身が複数でかかる程の相手でもあるまい」

 

「この身はイアソンの守護に専念しよう。頼んだぞ、ライダーのこの身よ」

 

 ヘラクレスが問いかけ、ヘラクレスが返答し、ヘラクレスが他の選択肢を示し、ヘラクレスが傲慢にこちらを見下し、ヘラクレスがヘラクレスに言葉を掛ける。

 

 …何言ってるか分からないって?

 

 あぁ、出来る事なら僕もわかりたくないね。

 この目の前に広がる光景を受け入れたくない。

 けれど、いつまでも目を逸らしているわけにもいかないだろう。

 

 

 

「では、死合おうか、海賊たちよ」

 

 

 

 このオケアノスには、五人のヘラクレスが召喚されていた。

 

 

 

「ふっざけんなあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 僕は、力の限りこの理不尽を呪った。

 

 

 

 

 

 

「おらおら野郎どもォ!撃って撃って撃ちまくれェ!

 なぁ~にが『ライダーのヘラクレスが居ればお前らのような海賊なんぞ要らん』、だ!

 実際その通りだけどなァ!こっちだって海賊の…いや、男の意地くらいあるわァ!

 拙者たちを舐めた事、その身を以て後悔させてやるでござるよ!イアソンの野郎!」

 

「アッハッハッハ、いいねぇ!アンタみたいな威勢のいい奴ぁ大好きさね!さぁ、やってやるよ黒髭ェ!」

 

「え、マジで?…あ、いや、ふ、ふん!別にBBAに褒められたって、嬉しくなんてないんだからね!」

 

「誰も得しないツンデレなんてしてないでしっかり指揮しなさいな!」

 

「純粋にキモイ」

 

「皆、頑張れー」

 

「やる気削ぐぐらいなら船の中に引っ込んでてくださいますか!?」

 

「正直ダビデ、邪魔でしかない」

 

 

 

 

 

 

「…この身を迷宮に閉じ込めたか」

 

「ぼく、えうりゅあれ、まもる…!」

 

「この身を殺すか、ミノタウロスよ」

 

「うん…って、いいたい、けど、しない。

 しんじ、いってた。しんじにかてないぼくじゃ、へらくれすにはかてない、って」

 

「だろうな。いくら我が弓が本領を発揮できない迷宮の中とは言え、この身は純粋な力勝負で負ける気はしない」

 

「うん。だから、ぼくのやくめは、しんじが、いあそんたおすまで、おまえ、ここに、とじこめておく、こと…!」

 

「…よかろう、ミノタウロスよ」

 

「ちが、う」

 

「む?」

 

「ぼく、なまえ、ある。ぼくはたしかに、かいぶつの、みのたうろす、だけど、いまのぼくには、きちんとなまえでよんでくれるひと、たくさん、いるから」

 

「…それは失礼した。では名を聞こう」

 

「あすてりおす」

 

「この身の名はヘラクレスだ。…いざ尋常に、勝負と参ろうか、アステリオス!」

 

 

 

 

 

 

「ふん、貴様一人でヘラクレスの相手をするか、カルデアのマスター」

 

「あぁ。僕くらいしか、ヘラクレスを殺せる奴なんざ居ないからな」

 

「ハッ!随分と思い上がったな!貴様一人では、たった一人のヘラクレスすら殺せはせんよ。…それを証明してやれ、セイバー!」

 

「む、よかろう」

 

「この身はいかずともよいのか?」

 

「ふん、アイツ一人殺すのにヘラクレスが二人も必要なわけがないだろう」

 

「…なるほど。ならばこの身は、お前を守る事に専念しよう、イアソン」

 

「話はまとまったみたいだな。…かかって来いよ、セイバーのヘラクレス!」

 

 

 

 

「ぬんッ!!!」

 

「づ、ぁ…!」

 

 一際甲高い音を立てて、セイバーの振るう剣を弾いて距離を取る。

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「珍妙な槍技だ。いくら打とうともまるで大気に向けて振るっているかのような感覚ばかり…こんな技を使う者は、ギリシャのどこにも居なかった」

 

「…ま、そりゃそうだ。発祥は中国で、三千年だか四千年だかの歴史程度しか持たない武術だからな。お前の時代には、まだなかったもんだろうよ」

 

「成程」

 

 歓談もそこそこに、また殺し合いが始まる。

 ヘラクレスの剛剣を前に、良く保っていると自分でも思う。

 

 しかし、状況は良くない。

 

 以前のバゼットとの対決の時と同じだ。

 いくら技術を注ぎ込もうと、絶対的なフィジカルの差で押し込まれてしまう。

相手の圧倒的な攻撃力を前に、反撃の糸口がつかめない。

 このままでは徐々に押し込まれ、最終的には僕は敗北するだろう――――――

 

 

 

 

 

 

女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)!」

 

 僕の背中へと向けて撃ち放たれたそれを、ヘラクレスへと誘導する。

 

 

 

 

 

 

「ぬっ!?」

 

 その矢を突き立てられたヘラクレスは、ボーっとした表情で、ある一点を見つめてしまう。

 そこにいるのは一柱の女神。

 ただ『男を魅了する』ことだけに特化した、ゴルゴーン三姉妹が次女、エウリュアレ―――!

 

 その魅力に、所詮男であるヘラクレスは逆らえない。

 無防備に目の前に晒される心臓へ向けて―――

 

 

 

不死殺しの槍(カレス・オブ・ザ・ハルペー)ッ!!!」

 

 

 

 必殺の槍を、叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

「よくやった、エウリュアレ」

 

「偉そうにしないでくれるかしら。それと足!とっととここから遠ざかりなさい!ヘラクレスに狙われたらどうするつもり!?」

 

「…分かった。この扱いに色々と言いたいことはあるが、我を活かすならばこうするしかないことも理解している。狩人として、獣として、汝と共にあの大英雄から逃げ切ってみせよう」

 

「あぁ。なんとかまた隙を作って見せるから、そん時はまた頼むぜ、エウリュアレ。あとアタランテ」

 

「だから偉そうにしないでくれるかしら!」

 

「我はついでか…」

 

 

 

 

 

「ハルペー、だと…!?ということはアイツはペルセウスか!?くそ、だからヘラクレスの再生が起こらないのか!

 くそ、いけ、いけ!ヘラクレス!」

 

「わかった、どちらが行く?」

 

「両方だ!」

 

「…何?」

 

「馬鹿かお前は!アイツはそんじょそこらの英霊じゃない!お前と同じ時代を生きて、俺と同じく神に愛された男だぞ!そいつがあの女神の助力を受けてるんだ!まかり間違ってまたお前が殺されたらどうするつもりだ!」

 

「この身が信用できんと?」

 

「男の尻追っかけて俺の船を降りたお前が女神の魅了に耐えられるのか!?」

 

「…………………………そうだな」

 

 ペルセウスだけならば一人でも何も問題はなかっただろう。事実、セイバー一人でもあと一息で殺せるところだったのだ。

 しかし、あの女神の助力まであるというのなら話は別だ。

 十二の試練(ゴッド・ハンド)の力を無為に帰すあの不死殺しの槍を手にした英雄の前では、一瞬の隙が命取りになる。

 

「行くぞ、ペルセウス。今度は我々二人が相手だ」

 

「僕はペルセウスじゃないよ。ただ、ペルセウスの力を借りてるだけの現代人だ」

 

「…成程、マスターでありながらサーヴァントでもある、と随分と奇妙な事になっているな」

 

「改めて名を聞こうか、カルデアのマスター…いや、カルデアより来たりし戦士よ」

 

「間桐慎二。折角だから覚えて帰れよ、ヘラクレス…!」

 

 

 

 

 

 

「がっ…は…!」

 

「もはや終わりだ。女神もこちらの手に落ち、お前も満身創痍。…二人のこの身を前に、よくここまで戦った」

 

「…っ、は!勝ったつもりか?この僕に。アンタ随分と脳筋なんだな」

 

「?」

 

「確かに、アンタ達と僕の戦いは、僕の負けだよ。けど…この戦いは、僕の勝ちだ」

 

「何を………イアソンッ!!!」

 

「ん?」

 

 余裕綽々のイアソンは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不毀の極槍(ドゥリンダナ)ァ!!!」

 

 世界のあらゆるものを貫くと讃えられた槍の直撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、は…!?ヘク、トール…貴、様…!」

 

「いやぁ、オジサンも別に、裏切る気はなかったんだけどね?アンタの『ランサーのヘラクレスが居ればお前は要らない』っていう言葉も、そりゃそうだ、としか言えないし。

 …たださぁ、ヘラクレス―――『アキレウスを超える英雄』から勝利をもぎ取るチャンスっていうのに、年甲斐もなくときめいちゃってね」

 

 だから、ごめんね?

 

 いたずらっぽく微笑むヘクトールに見送られて、愚かなる船長の写し見は、この世から姿を消した。

 

 

 

 








「セイバーのヘラクレス、ヘラクレスレッド!」
「アーチャーのヘラクレス、ヘラクレスブルー!」
「ランサーのヘラクレス、ヘラクレスイエロー!」
「ライダーのヘラクレス、ヘラクレスホワイト!」
「アサシンのヘラクレス、ヘラクレスブラック!」

『五人そろって、ヘラクレンジャー!!!』チュドーン!(背後に爆炎)



 FGO編におけるコレガヤリタカッタダケーその1。


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