相対するのは、今もなお名高き円卓の騎士、その十三人の中でも『最強』と謳われる二人の剣士。
サー・ガウェイン。
サー・ランスロット。
「だから、今度こそ…最後のその時まで、我らは王に忠誠を捧げるのだ」
「あぁ。…今度は、もう王を裏切らない。…それが例え、異なる世界の王へ反逆することになったとしても」
ガウェインは告げる。最後の戦いの折、自らが私怨に囚われず王へ忠誠を捧げるべきだったという懺悔を。
ランスロットは告げる。騎士として、男として、ギネヴィア妃を見捨てきれず、王から離反してしまった後悔を。
現代にまで語り継がれる、誇り高き騎士の言葉を――――――――――
「ふざっけんじゃねぇッッッ!!!」
衛宮士郎は、両断する。
「ッ!?」「なっ…」
「お前達が…お前達が、そんなだから!」
「セイバーが、いつまで経っても幸せになれなかったんだろうがッ!!!」
『貴方こそが王に相応しい』、『貴方こそが真の王だ』、『貴方以外に、王となるべき人間など居ない』。
そんな言葉が、セイバーを王へと追い立て、縛り付け、その身を国の為に捧げさせるに至ったのだと…衛宮士郎は、その怒りを目の前の騎士たちへとぶつける。
「っ…何も知らない、現代の魔術師風情が!貴様に何が分かる!あの時を必死に生きてきた民達の嘆きを!そんな民達を守るために戦い続けてきた騎士たちの奮闘を!そして、そんな我々を束ねる王の苦悩を!」
「何も知らない貴様に、詰られる謂れなど、ない!」
まったくもってその通り。
衛宮士郎は、そんなものは知らない。
何の罪もない人々が、どんな思いで生きていたのか。
そんな人たちを守るために、どんな覚悟で以て騎士たちが剣を振るってきたのか。
「そんな、こと―――」
衛宮士郎が知っているのは―――
「知った、ことかぁッッッ!!!」
その身命を投げ打って。
全てを国へと捧げ、尽くして。
それでもなお、心は晴れず。
世界と契約し、死後すらもその国の為に捧げた、愛する彼女の生涯だけだ。
それは、彼女自身の選択だったのかもしれない。
彼女が『かくあるべし』と己に望んだ結果、そんな事になったのかもしれない。
だがそれでも―――誰か、止められたんじゃないのか?
たった一言でいい。
『もう十分だ』と、そう伝えるだけで、少なくとも死後を捧げてしまうほどの後悔を抱いたまま世界と契約してしまう事はなかったんじゃないのか?
共に同じ時代を生きたお前達ならば、セイバーの残酷なあの最期を、変えることができたんじゃないのか?
「俺は、お前達を許さない…!絶対にッ!」
「っ…黙れ、魔術師ィ!」
振るわれた太陽の聖剣が、衛宮士郎が両手に握る、干将・莫耶が打ち砕かれる。
―――ダメだ、このままじゃ
―――これじゃあ、こいつらを倒せない
―――もっと
―――もっと、強い剣を…!
「
何を投影するべきか。
そんなものは決まっている。
投影すべき真作ならば。
今、この眼前にあるのだから。
「はぁッ!」
「「!?」」
一刀で以て振り払われた己の剣に、二人の騎士は驚愕する。
だが、それ以上の驚きが、目前の魔術師が握る剣によってもたらされる。
「貴様、それは私の
「私の
衛宮士郎が投影したのは、眼前の騎士がその手に握る二本の聖剣だった。
「くっ…だが、例え剣を真似たとて!」
「我々に勝てる道理など!」
二人の騎士の強さは、聖剣によってもたらされたものではない。
それに足る強さを持つからこそ、その聖剣を与えられたのだ。
魔術師風情がその聖剣を握ったとて、その真価を発揮するなど有り得ない。
まして、太陽の騎士と湖の騎士の二人を凌駕するなど―――
―――
―――
三倍の力を得た最優の剣が、二刀を共に斬り払った。
衛宮士郎の技術は、
創造理念を鑑定し、
基本骨子を想定し、
構成材質を複製し、
製作技術を模倣し、
蓄積年月を再現し、
そして―――成長にいたる経験に、共感する。
その担い手が、陽が昇っている限り加護を得るという太陽の騎士だったというならば。
その担い手が、最高の剣技を持った最優の騎士と呼ばれる男だったというのならば。
衛宮士郎は、その担い手の力すらもその剣の中に投影する。
「ば、かな…!?」
戦況は拮抗―――しない。
騎士たちの力が足し算だというのならば、衛宮士郎の力は掛け算。
『三倍の力』と『最優の剣』の足し算では、『三倍の力を得た最優の剣』という掛け算を凌駕することは出来ない。
元の力が大きければ大きいほど、その差は隔絶したものとなる。
「我々が、敗北するなど―――有り得ん!」
だが、騎士たちも、己の矜持に掛けて敗北するわけにはいかない。
自分たちの敗北は、そのまま自らが忠誠を捧げる王の敗北へと繋がるかもしれないのだ。
もう二度と、そんな事は許せないと。
だからこそ、かつては共に戦った騎士たちすら文字通りに斬って捨てて、あの王への忠誠を捧げたのだから!
「
「がっ…!?」
湖の騎士の全力が、二刀の贋作を打ち破る。
その衝撃に衛宮士郎は吹き飛び、二人の騎士から遠く離れる。
力の源を砕かれ、騎士たちの眼前に大きな隙を晒すことになった衛宮士郎。
そこを狙いすましたかのように、太陽の騎士が剣を構える。
「
太陽の力を得て放たれる熱線が、衛宮士郎へと迫る。
回避は不可能。防御も無駄。敗北は必至。
「負けて、られる、か…ッ!」
敗北するわけにはいかない。
衛宮士郎は、彼らを許せない。
この手に勝利を。
そう望んだ衛宮士郎が投影したのは―――
太陽の剣と対をなす、星の聖剣。
「
王に、常に勝利をもたらしてきた星の聖剣が、太陽の聖剣の炎を、打ち払った。
◆
「あぁ、私は悲しい」
その唇に薄い笑みを浮かべた、反転した悲嘆の騎士トリスタンは、その手に構えた弓を衛宮士郎へと向ける。
二人の騎士に見事勝利した衛宮士郎。
しかし当然のことながら無事では済まない。既に全身はさび付いた鉄のように朽ち果てる寸前だ。
「止めなさい、バーサーカー!」
「■■■■■■■■■■――――――!!!」
「やらせはせんよ…!」
狂戦士が少女の意を受けてその斧剣をトリスタンへと向けるも、それを阻む黒衣の騎士アグラヴェイン。
その力量差は圧倒的であり、アグラヴェインは今にも息絶えそうな程に絶体絶命だ。
しかしそれでも、トリスタンが一矢放つ間ぐらいは持ちこたえて見せることだろう―――
「
だがその弓矢は、放たれることなく極大の雷霆に飲み込まれた。
「モードレッド…貴方、何故…」
「…オレは叛逆の騎士だ。チャンスがあるなら、それに乗っかるまでさ」
「モードレッド、貴様ァ…!」
突如剣を下した叛逆の騎士に訝しむセイバー。憤怒を隠そうともしないアグラヴェイン。
「さぁ行け!異なる世界のアーサー王!」
「………感謝する、モードレッド」
セイバーは最後に、その言葉だけを絞り出した。
自分が、この騎士に掛けることができる言葉などないだろう。
自らが最期を迎えることになった原因の一つである騎士。
そして、自らが拒絶した、自らと同じ血筋を持った子。
親としても王としても、彼女と交わす言葉を自分は持たない。
だからただ、この場で助けとなってくれたことに対する純粋な感謝だけを口にした。
「………ハハッ」
セイバーの言葉を聞いたモードレッドは、震えそうになる体を抑えつけて、力一杯剣を握った。
―――子として褒められたことはなかった
―――騎士としてその働きを労われるくらいが精々だった
―――感謝なんて、一度もされたことなどなかった
「全く…たったそれだけで何をこんなに嬉しがってんだ、オレはぁ…!」
「おい、アーサー王のマスター!」
「ッ?」
後を追って走り出した衛宮士郎に、叛逆の騎士から声を掛けられる。
「オレが何か言えた義理じゃないんだが…父上の事、頼んだぞ」
「………」
セイバーの生涯において、最後の引き金となった騎士。
本来ならば、衛宮士郎は彼女の事もまた憎んでしかるべきなのかもしれない。
だが、衛宮士郎はどうにも彼女の事を嫌えなかった。
その理由が今になってやっと、なんとなく理解出来た気がした。
「勿論だ」
そこは戦場。そう長く言葉を交わすことは出来ない。
ただ短く一言約束して、衛宮士郎は走り出した。
「やはり貴様は殺しておくべきだった、モードレッド…!」
「ハッ!できるもんならやってみろよ…ここは通さねぇぞ、アグラヴェイン!」
◆
衛宮士郎達は、その門を前に立ち尽くしていた。
敵対する者を阻む、絶対的な白亜の門。
たとえギリシャの大英雄、ヘラクレスの剛腕で以てしても、この門は破れない。
「私の、約束された勝利の剣ならば…!」
剣を構えるのはセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。
この居城の本来の持ち主、それと同一存在である彼女の振るう剣を、この門が『敵』と断ずることはないだろう。
なればこそ、この門を破る事が出来るのはセイバーのみ―――
「いいや、俺がやる、セイバー」
「シロウ…?」
衛宮士郎自身理解している。
これは、ただの八つ当たりだ。
セイバーを縛り付けていた、嫌味ったらしいほどに美しく綺麗なこの白亜の門を、自らの剣で砕きたいと、願う。
作り上げるのは―――
「
其れは、資格者を王へと導く、選定の剣―――
其れは、湖の騎士が振るいし、最優の剣―――
其れは、王の威光を輝き示す、雷霆の剣―――
其れは、忠節の騎士が担いし、太陽の剣―――
其れは、騎士たちを束ね、民を守り、世界を救う、星の聖剣―――
「是こそが、今もなお語り継がれる伝説―――」
コ レ が や り た か っ た !