Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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終章 そして後日談

「人類史全てを熱量へと変換した光…だと!?」

 

「それが、ソロモン…いえ、ゲーティアの持つ宝具!この人理焼却を行った目的!」

 

「そうだ!この力で以て、私はこの地球を作り直す!」

 

 圧倒的脅威を前に、衛宮士郎が、遠坂凛が、岸波白野が、藤丸立香が、膝をつきそうになるのを必死に堪えて立っている。

 だがそれも、あの光がこの場所に届くまでの僅かな間の事。アレが自分たちを消し去れば、人類最後の希望も潰えるだろう―――――

 

 

 

 

 

「それはおかしいなぁ、ゲーティア」

 

 それはあり得ないと、間桐慎二は不敵に笑う。

 

 

 

 

 

「…なんだと?」

 

「『人類史を焼却して得た熱量』…なら前提として、人類史は焼却されてなけりゃいけないよなぁ?」

 

「そうだ。既に人理焼却は成った、故にあれ程の熱量を―――」

 

「いいや、まだだ」

 

 

 

「まだ僕達は、ここに居る」

 

 

 

「――――――――――」

 

「21世紀に生を受け、そしてここまでたどり着いた僕達が居る」

 

 胸元から取り出したるは、英雄王より預かりしウルクの大杯。

 

「そんなもので何を成す?今の私の力の前では、聖杯一つではちり芥ほどの価値もない」

 

「だから、それは人理焼却が本当になっていたら、の話だろう?」

 

「さっきから、貴様は何を―――」

 

「ほれ、イリヤスフィール」

 

「えっ!?」

 

 無造作に放り投げられた聖杯をキャッチするイリヤスフィール。

 

「第一特異点、そこでお前は何を見た?」

 

「!…百年の争いの果てに統一された国家の戦いを。…ハクノ」

 

 意図を察したイリヤスフィールは、次は岸波白野へとその聖杯を投げ渡す。

 

「岸波、お前はどうだ?」

 

「全ての道へと通ずるローマ、その場所で最も美しい皇帝を。…慎二」

 

「あぁ。僕は、世界一周を成し遂げた海賊フランシス・ドレイクの生き様を。…ほら、遠坂」

 

「えぇ。産業革命時代、死の霧が煙るロンドンの街を。…桜」

 

「はい。私は、世界最強の国家誕生に至るための戦いを。…先輩」

 

「え、あ、あぁ…俺は、多くの人達が聖都とあがめる土地、その中で信仰と共に必死に生きる人達を」

 

 そして、最後は―――

 

「藤丸」

 

「あぁ。…始まりの時、人類と言うものを世界に刻んだ人々の戦いを」

 

「そう!僕達はずっとそれを見続け、その一つとして共に戦ってきた!そして、その縁は皆、この場所に集っている!」

 

「まさか、貴様―――!」

 

 そう、この場所には―――『共に戦った』、ただそれだけの細く薄い縁を頼りに駆け付けてくれた人類史に名を刻んだ英雄たちが集った。

 フランスの聖女、ジャンヌ・ダルクが。

 薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスが。

 太陽を落とした女、フランシス・ドレイクが。

 叛逆の騎士、モードレッドが。

 クリミアの天使、フローレンス・ナイチンゲールが。

 聖槍を持つ獅子王、アルトリア・ペンドラゴンが。

 原点にして頂点、英雄王ギルガメッシュが。

 

「人理定礎復元は、『既に成った』ッ!さぁ、やってやれ藤丸!」

 

「あぁ!」

 

 聖杯がまばゆい輝きを放つ。

 人類史を証明する者達が、一堂に会するこの場所ならば。

 人理焼却を根幹とする、あの光帯は―――

 

 

 

 

 

 宝具・人間賛歌(グランドオーダー)

 

 

 

 

 

 

 ゲーティアの宝具、誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)が、砕け散った。

 

 

 

「なん…だと…!?」

 

「その宝具は人理焼却されていることが前提だ。けど人類史に名を刻んだ多くの英雄たちが集うこの場所では、その存在自体が矛盾している」

 

「ぐ、ぬぅ!間桐、慎二!…衛宮士郎!岸波白野!遠坂凛!間桐桜!藤丸、立香…!貴様らぁ…!」

 

「さぁ、僕たちの勝ちだ…第一の獣、ビーストⅠ・ゲーティア!」

 

「いいや、まだだ!貴様らを殺し!英雄たちを殺し!全てを消し去れば!…人理定礎復元を保証する物は無くなる!ならば、貴様ら人類の尽くを殺しつくし、再度人理焼却を保証するまで!」

 

「やれるもんならやってみろよォ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーぉ遠坂、久しぶりだな!」

 

「えぇ、久しぶりね。綾子」

 

 私達が再会したのはとある飲食店。

 個室が用意されているやや高級な食事処である。

 

「本当に久しぶりだよな。お前達が揃って帰ってきたとき以来だから…」

 

「もう十年になるわね」

 

「十年か!お互い歳とったよな」

 

「そうね」

 

「で?お前の方は見つかったのか?」

 

「そういう綾子の方はどうなの?」

 

「……………」

 

「……………」

 

「やめましょう、この話題は」

 

「あぁ。互いに無駄に傷つくだけだ」

 

 …結局、高校時代に交わしたあの賭けの決着はまだついていないのよねえ。

 あの賭けを交わしてからもう十年、お互い相手が見つからないままもうじきアラサー。

 いい加減妥協を覚えるべきだろうかとも思うがそれは優雅ではないし…。

 

「いやしっかし、本当にびっくりしたよ、あの時は!」

 

「…どれの事?」

 

「どれもこれもだけど、まぁまずビックリしたのは衛宮だよ!まさか嫁さん三人も連れてくるなんてさ!しかもあんな綺麗処を!」

 

「あぁ…アルトリアにイリヤスフィール…それとジャンヌね」

 

 確かに、高校時代までの衛宮君しか知らない綾子からしたら、びっくりだったわよね…。

 イリヤスフィールは、あの後お嬢様然とした雰囲気を保ったまま順当に成長した。上流階級としての教育を受けて育ったイリヤスフィールの猫かぶりは私が惚れ惚れする程で、けれど昔のいたずらっぽい部分も残っており、他人の居ないところで衛宮君をからかうのは止めてはいないようだ。

 ジャンヌはあのツンケンした態度はそのままだけれど、衛宮君が行っていた家事を一手に引き受けるようになった。料理洗濯掃除買い物…『全く私以外全員ダメ人間なんだから!』と言いつつきちんと家の事を全部完璧にこなすジャンヌは完全にただのツンデレにしか見えない。

 そして一番凄まじいのがアルトリアの成長っぷりである。約束された勝利の剣を捨てて成長するようになったアルトリアだが、彼女の召喚当時の姿が本当に幼い姿だったという事を思い知らされることになった。何よあの暴力的な体積と質量は…こっそりこっち側だと思ってたのに、今では桜すら圧倒する程のボリュームを誇る美女になってしまっている。

 

 そしてそんな美女三人を娶った(勿論、現代日本では法的に認められていないので事実上の、ではあるが)衛宮君は、ご近所さんから羨望と嫉妬の視線を向けられている。

 

「しかし衛宮の奴、どうやって生計立ててるんだろうな?」

 

「あら、衛宮君はきちんと仕事をしてるじゃない」

 

「刀鍛冶、だろ?…でも、今時刀なんて売れないだろう?」

 

「あー…まぁ、いつの時代でも金持ちのモノ好きっていうのは居るものだから」

 

 人理修復の旅を終えた衛宮君は、刀鍛冶となった。

 魔術で造ったものではない、きちんと衛宮君自身が打って作った刀を売っている。

 

 あの旅を通してたくさんの『剣』を見て思う所があったのだろう、『自分の手で』きちんと刀を打ちたいと言った衛宮君は、あの旅の褒賞を使って工房―――魔術的な工房ではない。刀を打つためのものだ―――を作り、そこで刀を打っている。

 

 ………ぶっちぎりでイカれた性能のモノを。

 

 例えば、ラーマヤナの英雄ラーマの所有していた刀剣のように魔性に対して強烈な特攻を持つモノであったり、ジークフリートの持っていた竜殺しのように竜に対して絶対的な優位を持てるモノであったり、コルキスの王女メディアが所有していた短剣のようにあらゆる契約を破戒するものであったり、初代山の翁が振るう剣のように天命にある命を必ず殺す剣であったり…勿論、オリジナルの刀剣そのものと言えるほどの性能ではないけれど、現代においては破格の性能である事には違いない。

 まぁ、そんな性能なものなわけだから、協会の執行者だの教会の代行者だの、第一線でいわゆる『化物』と呼ばれるような相手と戦うような人種がこぞって大金を積んで買いに来るのだ。それこそ、一本あれば普通の人の一生くらいなら遊んで暮らせるような額がポンポン。非常に羨ましい。

 イリヤスフィールは、アインツベルン家の伝手を使って、そういった刀剣の売買の仲介を行っている。そしてアルトリアはそんな彼女の護衛だ。カルデアに侵攻してきた武装勢力を一人でまとめて薙ぎ払ったアルトリアならば、現役の代行者だろうが執行者だろうが襲撃を受けても遅れを取る事はないだろう。ましてや錬金術師の大家であるアインツベルンの魔術師であるイリヤスフィールがサポートについているのだ。襲撃した側に同情してしまうレベルである。

 …そんな調子だから、特異点のフランスで竜の魔女だなんだと恐れられていたジャンヌが、衛宮家の家事を引き受けることになったのである。どういうことだ。

 

「後はまぁ、やっぱり間桐の奴だよな」

 

「あの兄妹がデキてた事?」

 

「そんなのはこっちに居た時点で自明だったろ。びっくりしたのは、帰ってきた時点で子供まで作ってた事」

 

「…………………………あぁ」

 

「あの涙子ちゃんももうすぐ中学生なんだよなあ…この前三人で新都に来てた時に会ったけど、すっかり女の子らしく可愛くなってて…?どうした、遠坂?顔色悪いぞ?」

 

「いえ、気にしないで。お願いだから」

 

 …そうなのよね。

 あの人理修復の旅で七つの聖杯を手に入れた私達は、話し合ってそれらを使い切ってしまう事にした。

 残していたって碌なことにならないのは目に見えているし、人理修復の為に使ってしまったことにしてしまおう、と慎二の奴が言い出したのだ。そんなわけで…

 アルトリアやジャンヌは受肉を果たし、衛宮君も度重なる魔術行使でボロボロになった肉体を回復させていた。

 イリヤスフィールと、そのお付きの従者たちは普通の人間並みに健康な肉体を獲得し。

 私は普通に、今後の魔術研究の為の金銭を手に入れた。

 岸波君のサーヴァントも受肉していた。暴虐皇帝に悪逆妖怪、そして破壊の大王のトライアングルに囲まれた彼は今どこでどうしているだろうか…。

 藤丸君はマシュの寿命を延ばすために使った。本当なら元からそういう風に設計されていたマシュの寿命を延ばすことは出来なかった筈だった。いくら聖杯が、その膨大な魔力を以て『過程を省略して結果を得る』としても、辿り着く結果が正しく思い描けなければ省略するも何もない…のだが、そこの問題はホムンクルスの専門家であるイリヤスフィールが解決した。彼女の…というかアインツベルンの知識と技術を以て聖杯を行使すれば、その設計そのものを弄り回すことも可能である、と。

 

 もうここまでで既にヤバいことが重なりまくって三倍満になってるような状態だけれど…もうそんなアレコレをぶっちぎるヤバイ案件があの兄妹の所にあるのよね。

 

 間桐涙子。

 桜と慎二の間に生まれた子供。

 そして、『とある存在の触覚』としての役割を持った子。

 …彼女の意向次第では、人類は再度滅びの危機に晒されるかもしれない。

 

『いやあ、ああいうどうしようもないヤツを見るとどうしても救いたくなっちまって…つい』

 

 つい…じゃねえわよ!

 何てことしてくれてるのよアイツは!

 それを受け入れる桜も桜よ!全く本当にあの兄妹は!

 

 まぁ、色々文句を言いたいところではあるけれど、あの二人ならきちんと何とか治めてくれるでしょう。というかそうしてくれないと人理が滅ぶから本当に頼むわよ…?

 

 

 

「ま、平和が一番よね、ホント」

 

「あぁ、全くだ」

 

 そう言って私達はまたお酒を酌み交わしながら、互いの近況報告を行っていく。

 そうして暫くの時間を過ごし―――

 

 

 

「さて、それじゃあ私はそろそろお暇させてもらうわ」

 

「ん?…あぁ、もう随分と長い事喋ってたな」

 

「じゃぁまた。元気でね、綾子」

 

「あぁ!いい加減いい男見つけろよ、遠坂!」

 

「人の心配してる暇はないでしょうに…」

 

 久々の友人との語らいでいい気分になった私は、そそくさとその場を後にする。

 ついつい長居してしまった。早くしないと『見つかってしまうかも』―――

 

 

 

『やぁやぁやぁ!見つけましたよ凛さん!』

 

「げぇ、ルビー!?」

 

『ぐふふふふ…今日こそ私と契約して魔法少女に…』

 

「だれが!アラサーになった今、魔法少女になんてなったら色々な意味で私が終わっちゃうでしょうが!ずぇったいにお断りなんだから!」

 

 あの愉快型魔術礼装にそう吐き捨てた私は、異次元に放り込んでおいた宝石剣ゼルレッチを取り出して、無造作に何もない空間を斬り払う。

 するとそこには多次元宇宙が広がり、私は躊躇なくその空間に飛び込んだ。

 

 

 

『あらら…逃げられちゃいましたね』

 

「ふふ、かくれんぼの次は鬼ごっこか。年甲斐もなく楽しくなってきたな」

 

 そして、アラサー魔法少女を爆誕させようとする愉快な魔法使いは、自らと同じ魔法を習得した魔法使いを追って、自らもまた多次元宇宙へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 




 ぶっちぎりでヤバイ案件だという(ティア)間桐(マトウ)…一体なにマトなんだ…?

というわけで、本当にこれで拙作は終了です。
 これ以上はどうまかり間違っても続くことはないです。多分、きっと、めいびー…。
 貧乏に暇はないのです。早く定職につかないとまずいのです。もし作者が宝くじが何かにあたって暇になったらまた書き始めるかも…そんな感じです。
 こんな拙作にここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!



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