Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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5日目②

「えーっと、慎二、本当にその態勢でやるのか?」

 

「あん?なんだよ、文句でもあんのか?」

 

「?」

 

「いや、その…」

 

 胡坐をかいて座る慎二と、そんな慎二に乗っかって背中を慎二の胸に預ける桜。

 …座り辛いだろうとか、動きづらいだろうとか、それ以前に何故この兄妹の距離感はここまで近いのだろうか。

 

「ほら、ボーっとしてるとすぐ落ちるぜ?」

 

「え?うわ!?も、もう始まって…ちょ」

 

「はははははははは!!!」

 

「お前その空に上げた後にハメ殺しするのやめろぉ!俺なんにもできないじゃないか!」

 

「そうか?じゃぁ…」

 

「あ、丁度いいところに…えいっ」

 

ドゴォ!

 

「あ…」

 

「いえーい、桜。ナイススマッシュ」

 

「えへへ…」

 

「………はぁ」

 

 

 

――――――――――

 

――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

案の定、僕の後を追って屋上へと上がってきた衛宮とセイバーの姿を確認する。

 

「ライダー、やれ」

 

「…!」

 

「シロウ、下がって!」

 

「くっ…!」

 

 セイバーに突き飛ばされて、勢いそのままに転がってライダーの射線上から逃れる衛宮。

 残ったセイバーは、ライダーを迎え撃たんと剣を構えるが―――

 

「ぐっ!?」

 

 ライダーの余りの速さに追随出来ず、無様に受け流す事しかできない。

 ライダーが駆るのは、神代の幻獣、空を舞う天馬ペガサス。

 内包する神秘は膨大。いくら最優のセイバーと言えど、所詮人であるセイバーには、その神秘の塊を捕らえ、斬り伏せるには至らない。

 

「………くっ」

 

 だが、それでも英霊としての力か技術か、それとも意地か。

 襲い来るライダーを幾度も跳ね除け、戦況を拮抗にまで持ち込むセイバー。

 攻めきれないライダーと、反撃に打って出るに至らないセイバー。

 

 どちらが先に崩れるか―――。

 

「まぁ、そんな決着を待つまでもないなぁ…ライダー!」

 

 僕は、にたりといやらしい笑みを浮かべて、ライダーへと指示を出す。

 

「宝具の真名を解放し、あのセイバーに止めをさせ!」

 

「…はい」

 

 僕はそう声高に宣言する。

 ライダーは僕の指示に従い、膨大な魔力を迸らせる。

 渦巻く魔力はやがて一つの形を象り―――

 

 黄金の手綱となって現出する。

 

「それが、貴様の宝具か、ライダー!」

 

「えぇ…この子はとても優しい子でして、こうでもしないと、言う事を聞いてくれないのですよ」

 

 ライダーの意志を受けて、美しき天馬は殺意を植え付けられる。

 眼前にある、最優の騎士を抹殺せんと、嘶きながら天へと昇る。

 

「この子は強すぎる。…ですが、ここでなら、心おきなくその力を振るうことができる」

 

 笑みを浮かべるライダーには、既に勝利の確信があった。

 自らの宝具を用いて行われる、幻獣種による全力の特攻。

 そのような膨大な神秘を用いた絶対的な暴力を受け止められるものなど存在しない。

 

 だが、彼女は忘れていた。

 

 聖杯戦争。

 これこそは、そんな『絶対』を、各々の時代、世界において築き上げてきた、英雄英傑が揃い踏みする埒外の奇跡であることを。

 

 

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)―――――――――ッ!」

 

 

 

 それこそは、天馬に乗ってキマイラ殺しを成し遂げたと言われる英雄ベルレフォンの名を冠する手綱。

 その手綱で以て、全力を解放させられた天馬の突進は、幻想種最大最強と謳われる竜種の力にすら匹敵する。

 人のみでこれに耐えることは出来ず、流星の如く走るその光の本流に飲まれ、誇り高き騎士は跡形もなく消え去る―――

 

 だがそれは、その騎士が尋常なる人間であった場合の話である。

 

 

 

「『心おきなく力を振るうことができる』、か…」

 

 騎士の握る剣からもまた、光の本流が迸る。

 

「同感だ、ライダー」

 

 圧縮空気による光の屈折現象によって隠されていた騎士の剣が、その姿を露わにする。

 その剣は、美しき騎士が持つに相応しい逸品であり、見るものを魅了する輝きに満ちていた。

 それこそは、神秘の時代の終焉を飾った騎士たちの象徴。

 世界の危機すら救う、最強の一振り、星の聖剣―――!

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――――――――!!!」

 

 

 

 空を走る流星は、星々をも飲み込む光の本流に飲まれて消えた。

 

「なっ…!」

 

 衛宮士郎は絶句する。

 圧倒的な力を持つ聖剣に。

 そんなものを所有する少女の存在に。

 交わされた、この世の常識から外れた神秘の応酬に。

 

 自らの処理能力を超えた出来事を前に、呆然としていると―――

 

 コト。

 

 という、靴音が響く。

 その音に、衛宮士郎は現実に引き戻される。

 

 ―――そうだ、これで間桐慎二はサーヴァントを失った。

 

 それは即ち、聖杯戦争からの脱落を意味する。

 ならば、今この瞬間であるならば、彼の凶行を止めることができるのではないか。

 そう思い振り向いた先に―――

 

 

 

 光に飲まれて跡形もなく消えた筈の、騎兵の英霊を従えた間桐慎二の姿を目にした。

 

 

 

「な…に…!?」

 

「どうした衛宮。僕のライダーが生きているのが、そんなに信じられないか?」

 

「だ、だって、今目の前で、確かに消えたじゃないか!セイバーの聖剣にやられて…なのに、何で!」

 

「残念だったな。それはお前の勘違いだ」

 

 すっ、と僕は片手を挙げ、その手の甲を衛宮に向けて晒す。

 

 そこには、『一画欠けて二画となった』マスターの証、令呪が刻まれていた。

 

「―――ッ!」

 

 令呪。

 この聖杯戦争に参加するマスターであることの証明にして、サーヴァントに対して行使できる絶対的な命令権。

 マスターに対して三画与えられるこの令呪は、消費することによってサーヴァントに対して命令を行使できる。

 意に反する命令を無理矢理聞かせたり。

 逆に、サーヴァントの行動を助長する形で行使したり。

 

 そうそれこそ―――『相手の宝具を躱せ』と命じれば、サーヴァントは己の限界を超えてその命令を忠実に実行する。

 

「まさか、お前…それを使って…!」

 

「当然だろ。僕がみすみす、サーヴァントを無駄死にさせるような作戦を取るとでも思ったのか?」

 

 そう、僕の狙いは、セイバーの宝具を空振りさせることにあった。

 これによって―――

 

「お前は脱落だ、衛宮」

 

「それは、どういう…」

 

 僕が返答するよりも早く、その答えは出る。

 

 突如、聖剣を振るった態勢で静止していたセイバーが倒れ伏したのだ。

 

「ぐっ…」

 

「セイバー!?…慎二、お前、何をした!?」

 

「僕は何もしてないよ。…そいつが勝手に自滅しただけの話さ」

 

「何だと…!?」

 

 真っ当な魔術師として見れば極めて未熟である衛宮士郎には、サーヴァントへ魔力を供給する術がない。

 そんな状態で宝具を…それもあの聖剣のような超一級品を行使すればどうなるか。

 その答えが現状だ。枯渇した魔力を補いきれず、セイバーは立つことすらままならずに地に伏せる。

 

「じゃぁな衛宮。そのまま家で大人しくしてるなら、お前は殺さないでおいてやるよ」

 

「ま、待て!慎二!」

 

 その様子に満足した僕は、ライダーに命じて帰路へと着いた。

 背後に見える、悔し気に拳を握る衛宮の姿が、凄まじい勢いで離れていく。

 

 これによって、セイバーは使い物にならなくなった。

衛宮は、事実上の脱落状態。

 

 これで、布石は成った。

 

 

 

 

「…申し訳ありませんでした、シンジ」

 

「あん?」

 

「油断しました。まさかセイバーがあれ程の切り札を持っていたとは…おかげで、シンジに令呪を…」

 

「なんだ、そんなことか」

 

 突然謝ってきてなにかと思えば。

 セイバーがかの有名なアーサー王であることも、その宝具が星の聖剣、『約束された勝利の剣』であることも、僕は事前に知っていた。

 で、あるにも関わらず、ライダーにその情報を伝えず、出来る限り『原作』の状態を再現しようとしたのが今回の戦闘だ。

 つまり、概ね僕の思い通りに進んだのだった。

 

「何も問題はない。お前はそのまま、黙って僕の言う事を聞いて居ればいい」

 

「…はい、シンジ」

 

「さ、そろそろ人の居ないところへ降りろ。いつまでも天馬(こんなの)に乗っていたら、神秘の秘匿も何もあったもんじゃない。まぁ、それなりの高度を飛んでいるから、もし見られても普通は鳥か何かに見えるだろうが…」

 

「わかりました」

 

 程なくして、高層ビルの合間を縫うようにして人目を避けながら、地面へと降り立つ。

 

「…今日は随分と派手に戦ったからな。他の陣営に見つかる前に、とっとと帰ろうぜ」

 

 

 

 

 

「そんな釣れないこと言うなよ、坊主」

 

 その声に振り向けば。

 そこに居たのは、長身痩躯の、青いタイツのようなぴっちりとした衣装に身を包み、禍々しい気配を放つ赤い槍を手にした男と。

 その脇に立つ、スーツを身に纏った紫に近い赤色の髪をした凛々し気な女。

 

 ランサー陣営の二人は、各々殺気を漲らせた瞳で以て、こちらを見つめていた。

 

 

 


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