Fate/Sprout Knight   作:戯れ

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5日目③

「別に、俺に習う必要はないと思うけれど?」

 

「こんな妹に家督を取られてしまった哀れな長男に、態々師事する理由なんて…」

 

「この教室だって、ちょっと家で肩身が狭いから暇つぶしに始めただけのものだし」

 

「君がそれでいいなら別に構わないけどね。…まぁ、そこまで真剣に頼まれたなら、それなりにはきちんと教えてあげるよ、間桐慎二君」

 

「えぇ、よろしくお願いしますよ、両儀先生」

 

 

 

 

 

 

「構えろ、ライダー」

 

「はい?どういうつもりですか、慎二?」

 

「何、これからの聖杯戦争、意外と面倒なことになりそうだからな…少し『調整』しておこうと思っただけさ」

 

「調整…?」

 

「付き合ってもらうぜ、ライダー」

 

 それだけ言って、僕は呆けているライダーへ向けて―――

 

 

 

――――――――――

 

――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「やっと見つけました、一人目のマスター」

 

「おいおい、一人目ってこたぁないだろ。こいつで三人目だぜ?」

 

「私にとっては一人目ですので、間違ってはいません。…というか、私はまだ、あなたの独断専行を許したわけではありませんよ」

 

「好きにしろって言ったのは嬢ちゃんのほうじゃねぇか」

 

「それは、戦闘方法に関しての話です。戦術についてまでサーヴァントに丸投げする程、私は怠惰な人間ではない。それなのに、貴方は私が召喚の代償で臥せっている間に勝手に飛び出して…それと、嬢ちゃん、などと呼ぶのは止めるように言ったはずですが」

 

「はいはい、マスター殿。全く、お堅いこって…」

 

 

 

「…どういたしますか、マスター」

 

 どうもこうもない、最悪の状態だ。

 こちらは対セイバー戦で消耗した状態。対して向こうはおよそ万全と言っていい状態の様だ。

 もし戦闘になったら、こちらに勝ち目は極めて薄い。

 

「…よぉ、ランサーのマスター、でいいんだよな」

 

「あぁ?俺が他の何に見えるってんだ?」

 

 これ見よがしに手に持った赤い槍を見せびらかすランサー。

 

「槍を『投げて』扱うからアーチャーとか、複数ある宝具の一つとして槍を持っているからライダーとか、聖杯戦争じゃザラにあるからな。得物で相手を判断するのは危険なんだよ」

 

「あーなるほど…確かに、俺もライダーで召喚されても多分こいつは持ってくるだろうからな…だが安心しな坊主、俺は確かにランサーだよ」

 

「ランサー、これから戦う敵と歓談する必要はありません」

 

 僕とランサーの会話に水を差すランサーのマスター。

 けれどそれじゃ僕が困るんだよ。どうあっても、話し合いには応じてもらわなきゃならない。

 

「まぁそう言うなよ。こっちから提供できる情報もあれば、共闘する用意だってある。まだ僕で一人目なんだろ?他の参加者について知らない内から、軽々に動かない方が―――」

 

「いいえ、あなたはここで殺します」

 

 さらりと、ランサーのマスターは僕の提案を蹴る。

 

「…話くらいは聞いても」

 

「確かに、あなたの言う事は正論です。私の決断は、一見して早計過ぎるように思うでしょうが―――

私は、魔術師という人種を一切信用していない。

あなた達は、自らの神秘の探求にしか興味がなく、それ以外の一切について配慮しない。いずれ裏切られることは明らか。あなたから与えられる情報も、どれだけ信用できるかわかったものではない。

何より、あなた達は先程戦闘を終えたばかりで疲弊してるようだ。―――このような千載一遇のチャンス、逃す理由はありません」

 

「…そうかい」

 

 交渉は決裂。勝率は絶望的。

 

 ―――だからどうした。

 

 勝たなければならない。

 勝たなければ、桜は守れない。

 

 ならば、勝つだけの事だ。

 

 

 

「ランサーを抑えろ、ライダー!」

 

「はい、シンジ」

 

 

 

 

 

 

「私はマスターを仕留めます。あなたはサーヴァントを」

 

「あいよ、マスター」

 

 

 

 ランサーに指示を出して直後、私は走り出した。

 ランサーとライダーは衝突し、ランサーの槍と、ライダーの釘剣が鍔迫り合いになる。

 その脇を私は走り抜け、真っすぐにライダーのマスターへと向かっていく。

 それを、敵のライダーは見向きもせずに見送った。

 

「おいおい、いいのかよ。言っちゃなんだが、ウチのマスターは強い上に容赦がないぜ?」

 

「心配には及びません。何故なら―――」

 

 

 

「私のマスターも、強いですから」

 

 

 

 瞬間、世界が旋転する。

 

 

 

 

 

 

―――シンジ、あなたは一体、何者なのですか?

 

 湧き上がる疑問を抑えて、命令通りに、全速力で自らのマスターヘ向けて突撃を仕掛ける。

 

 初め、私はその意味が分からなかった。

 サーヴァントと戦うマスターなど普通はありえない。

 サーヴァントと言うのは、人類史に刻まれた英雄英傑、その影法師。

 皆が皆、常識の範疇からどこかしら外れた、ある意味では異常者と言うべき者達である。

 拳の一撃で岩をも砕く剛力の担い手も居れば、剣の一振りで山を切り裂く戦士もおり、現代文明における自動車ですら追いつけない健脚を持つものも居る。

 そんな者達に張り合おうなど、真っ当な人間の考えではない。

 いや、誰もがそんな風に、『特別な自分』を夢想するものだろうが、不可能という現実を前に、いつしかそんな幻想を忘れる筈だ。

 なのに―――

 

「っ…!?」

 

 ぐるりと、視界が反転する。

 シンジへと突撃を仕掛けた私は、衝突の瞬間、握った拳を両手で包み込まれた。

 そのままシンジは、その拳を受け止め切らずに肩先を掠めるようにして受け流し、そのまま流れるような動作で私の腕を取ると、背負い投げのような形で、私を投げ飛ばした。

 自らの突撃の力の全てを利用される形で受け流された私は、勢いそのままに上下を反転されたまま壁へと激突させられる。

 

「もう一度だ、ライダー」

 

「…っ、はい」

 

 そしてそれから幾度も、私は自らの無力さを思い知らされることになる。

 突撃。円を描くような動作で受け流され、射線上から離れられる。

 接近しての乱打。拳先を横から叩き落とされ、一撃たりともシンジには届かない。

 最終的には釘剣すら使用してシンジを襲い続けたが―――全て見切られ、避けられ、設置した鎖を逆に利用され、それらを足場に三次元的な動きを取る事で私の攻撃範囲から逃れすらした。

 偶然や奇跡の類ではない。

 シンジは確かに、磨き上げた自分自身の技術で以て、私の攻撃を凌いでいる。

 

 私は驚愕するしかない。

 私のステータスにおいて、敏捷値は最高クラスのAランク。筋力値はその一歩手前のBランクだが、怪力のスキルを持つ私の攻撃は、そのステータス以上の威力を誇る。

 そんな私を、まるで赤子の手をひねるように弄ぶシンジの能力は、通常の人間の範囲にない。

 確かにシンジは魔術師であり、現在も強化の魔術を全身に施すことでその能力を底上げしているようだが…。

 

「一体何故、そんな力を…」

 

「あぁん?決まってんだろ。お前みたいなのを相手にするのは生まれた時から知ってたから、その対抗措置だよ」

 

「生まれた、時から…?」

 

 シンジの幼少時の光景。

 私が見たのは、今は私とシンジしかいないこの蟲蔵で、修練と言う名の拷問を受けていた記憶だけだったが…。

 シンジはそれ以外にも、あんなレベルの苦行を、自らに課していたというのだろうか。

 まだ成人もしていない目前の少年が、何故そんな事をできたのか―――

 

 ―――それは、改めて問うまでもありませんね。

 

 自らの、最愛の妹。

 彼はずっと、それこそ彼の言った通り、生まれた時から、彼女を守るための修練を重ねてきたのだろう。

 

「…まぁ、こんなのはただのその場凌ぎにしかならないけどな。実際、お前の魔眼や、ましてや宝具に対する対抗手段なんて用意してない…っていうかできないし」

 

「それはそうでしょう。そこまで独力でできるようなら、サーヴァントの存在意義がなくなってしまいます」

 

「ま、そりゃそうだな。僕にできないことはお前にやってもらうから、精々頑張ってくれよ、ライダー?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

「が、は…!?」

 

 地面へと投げ出された私は、辛うじて受け身を取って即座に反転、いつの間にか通り過ぎていたライダーのマスターに向き直る。

 

「今、のは…」

 

 何と表現すべきだろうか。

 私が彼の体に触れた瞬間、全身に滾る力の所有権を奪われたかのような感覚。

 

 確かに、攻撃したのは自分だった筈だ。

 拳を握り、臓腑を抉り貫かんと突き出した。

 

 しかし…無様に転がっているのは自分の方だった。

 

「くっ…!」

 

 もう一度、拳を握り、目の前の魔術師の少年へと殴り掛かる。

 更に早く、更に速く、更に迅く―――!

 

「―――ッ!」

 

 しかし、届かない。

 私の拳は彼へダメージを与えるに至らず、その手に触れた瞬間にまたもその方向を捻じ曲げられる。

 

「まだ…!」

 

 勢いそのままに転がって距離を取り、反転して魔術師へと向き直る。

 距離を保ったまま、しっかりと足を踏みしめ、自らの射程圏内ギリギリに魔術師の肉体を捉える。

 

 繰り出すのは、必殺の一撃ではなく、牽制の意を込めた乱打。

 それも、魔術によって強化された肉体によって放たれる私の拳打は、常人であれば必殺足りうるだけの威力を備えているが、魔術師である目の前の少年の命を奪うには足りないだろう。

 だがそれでもいい。

 今は、この魔術師がどんな魔術で以て私の力を受け流しているのか、それを見極めるのが先決―――!

 

「ふっ、はっ!」

 

 脇を閉め、細かく拳打を入れていく。

 その全てを流される。

 私が打ち出し、魔術師が受け流す。

 その応酬が幾度か繰り返されたのち―――

 

「まさかとは思いましたが、やはりですか…」

 

 都合、数十合。

 互いの拳を打ち合わせて、ようやく理解した。

 いや、納得することができた、というべきか。

 

「まさか、魔術師が武術とは…それは太極拳ですね?」

 

「へぇ、よくわかったな」

 

「えぇ、以前、その手の使い手を見たことがありますので」

 

「…そうかい」

 

「だが、そうとわかっていれば問題はありません。…私とあなた、武人としての純粋な技量の勝負。ならば私に、負けはない―――!」

 

 自らが重ねてきた努力を。

 自らが行ってきた鍛錬を。

 自らが積んできた功績を。

 

 それらを私は信じている。

 

 私の強さは、今までの私の行いが証明している。

 否、自らの強さを証明するための今までだった。

 

 自らの経験が語りかけている。

 

 この少年に、私が負けることは、ない。

 

 

 

 

 

 

 バゼット・フラガ・マクレミッツから繰り出される、嵐のような拳打をひたすらに凌ぎ続けることに集中する。

 

「―――ッ!」

 

 魔術回路を励起させる。

 それは即ち、全身に巣食う刻印虫達を叩き起こす行為に他ならない。

 自身の内側を這いずり回る、あの吐き気を催す嫌悪感を伴った痛みに、歯を食いしばって耐える。

 

追走・開始(トレース・オン)

 

 全身に強化の魔術を施し、肉体の強度を底上げする。

 視覚と脳髄を中心に神経の伝達機能を強化し、反応速度を上昇させる。

 

 常識外の駆動を行うバゼットに対しては、ここまでやってやっと互角まで持ち込める。

 

(いや、互角ってのは盛り過ぎだな―――!)

 

 防戦一方。

 バゼットから繰り出される拳打を前に、僕は一切の反撃を許されない。

 反撃できるほどの隙が、バゼットの攻撃の中に見出せず、そもそも下手に反撃してもダメージを通すほどの威力を出せなければ次手の反撃で僕がお陀仏だ。

 

 故に。

 

「く…そがッ!」

 

 最低限の動きで。最小限の動作で。

 ひたすらに、バゼットの拳を逸らし、捻じ曲げ、受け流し―――耐えることに終始せざるを得ない。

 

 こんな千日手を繰り返していても意味はない。

 そもそものフィジカルからしてあちらの方が上。

 こちらから一切の攻撃を行えない以上、ダメージの蓄積はこちらの方が上。

 限界を迎える前に、一手でも僕が対応を間違えれば、その瞬間に僕は死ぬ。

 

 絶対的に不利な状況。

 

 それを、ひたすらに耐え凌ぐ。

 

 幾度、拳を躱したか、数えることすら億劫になる程の応酬の果て。

 強化された感覚が、その感覚の端に『ソレ』を捉えた。

 

「っ、らぁ!」

 

 拳打の中を強引に、その嵐の中を掻い潜るようにして抜ける。

 そして、そのままバゼットに背を向けたまま走り出した。

 

「―――愚かな」

 

 当然、無防備に背を晒した僕等唯の的でしかない。

 純粋な膂力で対応できないことは既に実証済み。

 ほんの数秒と経たず、その拳は僕の臓腑を抉るだろう。

 

 

 

「やれぇ、舞弥ァ!」

 

 

 

 その瞬間、人気のない暗い夜道の中に、マズルフラッシュの閃光が走る。

 

「っ!?」

 

 そこで反応できたのは流石封印指定の執行者と言うべきだろうか。

 音速を超えて迫るその弾丸に対して、その弾道上に自らの拳を置くようにしてその銃弾を凌ぐ。

 

「チッ、化物ですか」

 

「前もってそう言っただろうが!」

 

 トラックに乗って現れた舞弥は、拳で以て近距離から放たれたスナイパーライフルの弾丸を弾いて見せた執行者を前に悪態をつく。

 しかしそれでも仕事は正確だ。全速力で迫るバゼットに対して、舞弥は冷徹な機械の如き狙撃で以て対応した。

 

 セミオートのスナイパーライフル『ワルサーWA2000』を行使して弾丸を射出し、バゼットの足を止めることに成功した。

 だがそれでも、バゼットにはダメージ足りえない。

 真っすぐバゼットに向けられたその銃弾は、バゼットを傷つけるには至らない。故に、彼女は弾丸を回避するのではなく防御することを選んだ。

 その衝撃にほんの僅か、彼女は足を止めるだけ。極限まで強化された拳は、現代において作られた長距離狙撃兵器では貫くには至らない。

 ―――だが、時間稼ぎとしてはそれで十分。

 

 僕は、荷台に設置されていた長大なライフルを構える。

 もはやバゼットは目前に迫っている。打てる猶予は一発分のみ。

 それを眼前に捉え、バゼットは迎撃の姿勢を崩さない。

 多少その手に持つ武器を変わろうと、自らの鍛え上げられた肉体と強化された拳ならば弾き得る。

 その確信を―――

 

 

 

「僕の勝ちだ、バゼット・フラガ・マクレミッツ」

 

 撃ち放たれた弾丸が、文字通りに『吹き飛ばした』。

 

 

 

「―――――なっ」

 

 流石の執行者も、自らの右腕、その肘から先が吹き飛んだその光景に目を見開いた。

 

 そう、僕が武術を習得したのは、『殺す』ためじゃない。『生き残る』ためだ。

 才能のない僕は、攻める事も守る事も出来るような、万能の力を手に入れるには至らない。

 だから、あくまで僕個人は生き残る事に特化した。数ある武術の中から太極拳を選んだのもそのためだ。

 原作の知識から、遠坂が八極拳を習得している事は知っている。だが八極拳の理念は、『八極すなわち八方の極遠にまで達する威力で敵の門を打ち開く』。攻めの理念に傾倒する八極拳では、己の身を守るには不適格だった。

 だから僕は、太極拳を選択した。

 陰と陽。天と地。自と他。異なる二つを一つとするという基本構想。

 その方向性から、気配探知の要素も強く持ち、才能のない己でも相手の力を利用することで大きな結果を引き寄せることのできる性質、何よりその相手の力を自らの力として還元する武術特性が、間桐の魔術特性である『吸収』と相性が良かった。

 故に僕は、太極拳を習得、研鑽することで、不意打ち騙し討ちに対する手段とし、まさに今のような逃走の難しい局面においても生き残る事ができるように自らを鍛え上げた。

 

 そして、『攻め』においては、自分以外の力を躊躇なく使う事にした。

 ―――僕が取り出したのは、舞弥に用意させた『PGMヘカートⅡ』。

 ギリシア神話において死をつかさどる女神とされるヘカテー、その名を冠するこの銃こそは、12.7mmというワルサーの倍近い口径を誇り、その弾丸には12.7×99mmNATO弾を使用した、人ではなく戦車の装甲等をぶち抜くために設計された、対物(アンチ・マテリアル)ライフル―――!

 その威力は、対人用の狙撃銃であるワルサーの比ではない。

 

 ―――間桐慎二に才能は無い。

 

 そのことを、僕はよく知っている。

 僕一人でできることなどたかが知れている。

 だから、僕にできることを全部やるのは当然として。

 僕にできないことを何かに任せることに、僕は一切の躊躇を抱かない。

 

「あっ、がっ、何故…!?」

 

 血の噴出口を抑えて蹲るバゼットへ向けて、照準を合わせる。

 

 2発目の銃弾が、その頭蓋を穿たんと放たれ―――

 

 

 

 それを、血塗られた呪槍が打ち払った。

 

 

 

「させねぇよ」

 

 敵の追撃を振り払い、自らの主の危機に颯爽と現れ、それを救う。

 まさに英雄的所業。

 アルスターの光の御子の名に恥じない行い。

 

 ―――彼ならば、きっとそれが可能だろうと踏んでいた。

 

「喰らえ」

 

 槍を振り払った姿勢でいるランサーに対して、『ソレ』をけしかける。

 

「!?」

 

 『ソレ』は、地面から滲み出し、幾本もの黒い槍となってランサーへと襲い掛かる。

 ランサーも、それらを切り、払い、なんとか自らの身を守るが―――

 

「そっちもだ」

 

「っ!?マスター!」

 

 矛先を向けられたマスターを守るために、身を曝け出した。

 

 そう、僕は何でもやる。

 矜持になんて拘らない。

 必要とあらば、人質作戦紛いの事だってやる。

 

 ランサーによって蹴り飛ばされたことによって、やや強引ながらも『ソレ』の範囲から逃れるバゼット。

 しかしその代償に、ランサーはその肉体を完全に捉えられる。

 黒く染まり、闇へと飲まれていく。

 その呪いに、サーヴァントは抗えない。

 

「ら、ランサー!」

 

 バゼットの悲痛な叫びも虚しく。

 ランサーは、黒い『ソレ』の中へと、溶けて消えた。

 

 

 

 残ったのは、片腕を奪われ、サーヴァントを失ったマスター。

 ヘカートを構えた僕。

 ワルサーを構えた舞弥。

 自らの獲物である釘剣を構えたライダー。

 

「…くっ!」

 

 それらを前に、バゼットが選んだのは逃亡。

 流れ出る血を抑えながら、戦いの場であるここから逃走する。

 

「追いますか?」

 

「…いや、いい」

 

 手負いの獣程恐ろしい。

 奴は性質的にライダーとは相性が悪く、もし宝具や魔眼の使用に反応して奴の切り札を行使された場合、ライダーが脱落する可能性がある。

舞弥では地力で純粋に劣るため、追わせられない。

二人に補助に徹してもらった上で僕が向かえば確保することは出来るだろうが―――。

 

「僕もいい加減、限界、だし…な」

 

 もう、意識を保っているのも辛い。

 正直、逃げ出してくれて助かった。破れかぶれで襲い掛かって来られたら、負けはしないにしてもライダーか舞弥のどちらかが殺されていた可能性もあった。

 

 ランサーを喰らった反動で、僕はまた意識を失った。

 

 

 

 






ライダー「私の宝具は最強です」※ただし約束された勝利の剣には流石に勝てない
ライダー「私のマスターは最強です」※ただし封印指定の執行者には流石に勝てない
なんだか、ライダーさんが割とポンコツキャラ化してしまってるような…。



今回出てきた『両儀先生』はほぼオリキャラです。
それと、両儀家に太極拳が伝わっているとかいう設定も(多分)ありません。
作者が、マジカル☆八極拳があるならマジカル☆太極拳もありじゃね?→そういや両儀の家って太極から始まりの一に至る云々って話だったよな…太極拳によくある白黒のマークも良く出てきてたし→じゃぁ両儀の家の人間全員マジカル☆太極拳の使い手にしちゃおう!
という発想の果てに至った一発ネタです。
ワカメにマジカル☆太極拳を使わせたかったからそういう理由付けを作っただけで、特に伏線とかそういうのではないので軽く流してください。




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