オレたちは訓練と機体の調整を繰り返し行った。博士には慎重すぎると言われたが、落ちれば死ぬ。命がけだ。慎重にもなる。それに、機体が大きく損傷したら修理は不可能だろう。今までの苦労が水の泡だ。
アメリカビーバー 「ちょいとお待ちを……もう一回点検してから……」
ツチノコ 「何回目だよ!」
ビーバーはオレ以上に慎重だった。あきれるほどに。
キタキツネの操縦は、シミュレーター、地上滑走ともに上達していった。もともと驚異的だったのだが、「ゲームで鍛えてる」なんてレベルじゃなくなっていた。
シミュレーターでは空対空戦闘やエアショーばりのアクロバット飛行まで完璧にこなした。普通に飛ばすだけなのだからそこまで必要ないのだが……。
機体の調整がひと段落つくと、調整をビーバーたちにまかせて、オレは格納庫を離れ、温泉宿のシミュレーターで必死に訓練した。オレは機長だ。搭乗者の命を預かるんだ。手を抜くことは許されない。それに、キタキツネに負けるわけにはいかない。せめて同じレベルには……。
二日ぶりに帰ってきた格納庫。飛行機は整備中だった。飛行機のそばのテーブルで、タイリクオオカミが図面を広げていた。機内へ入って、異様な光景に驚いた。
ツチノコ 「なんだ、ごりゃああああ!」
飛行機の操舵輪(ヨーク)が操縦桿(スティック)に変わっており、座席のシートベルトが
全て、5点式シートベルトに変わっていた。
副操縦席にキタキツネが座っていて、客席ではアメリカビーバーとオグロプレーリードッグが、座席のわきにある折り畳み式テーブルを取り外していた。
ツチノコ 「……オレのいない間に……なんでこんな…………」
無茶苦茶しやがって!オレはうつむいた。体が怒りに震えた。
キタキツネが、操縦桿を握って言った。
キタキツネ 「このほうが操縦しやすい」
確かにシミュレーターはスティックだったが、大改造だろ……。
アメリカビーバー 「えっと、シートベルトは、このほうが安全ッスから……」
5点式なんて必要ねえだろ……戦闘機じゃねーんだぞ……。
オグロプレーリードッグ「軽くするために部品を外していたであります!」
必要な部分を損傷させたらどうする……削り過ぎれば重量バランスにも影響が出るぞ……。
これは、もっとやりやがったな……。
ツチノコ 「…………ほかに、どんな改造を……」
アメリカビーバー 「以前から、ちょいとずつやってたんスけど……エンジンの制御系をいじって出力制限を上げて、翼の後縁を延長して動翼の面積を増やして、動翼の制限角度を変更して、操縦応答性を上げるように…………」
ツチノコ 「やりすぎだ!そんなことしたらバランスが狂っちまうだろが!」
アメリカビーバー 「…………えっと、計算上は問題ないはずッス」
計算上?計算上だって?オレは顔をあげ、言った。
ツチノコ 「…………お前ら……お前らは死ぬ気か!!」
オレは感情にまかせて機外へ飛び出し、走った。あいつら何考えてやがる!……危険なら飛ばせない……計画中止だ……涙が出てきた…………。
気がつくとオレは滑走路の端に立っていて、そこから伸びる滑走路を見ていた。あの改造、運動性を上げるためのものだ。なぜそんなことを?普通に飛ぶなら必要ないはずだ。
キタキツネが走って滑走路にやってきた。
キタキツネ 「はあ、はあ……ごめん、ごめんなさい…………ぜんぶ、ぼくがやれって言ったの」
やっぱりな……。
ツチノコ 「お前と、あの心配性なビーバーがやったことだ。安全なんだろうよ」
博士と助手の知識、ビーバーの設計、オオカミの作図、プレーリーの工作。最強すぎる。間違いが起きるはずがない。だがこいつはちょっとタイプが違う。おそらく他のみんなも気づいているだろう。だからこいつの提案に乗ったんだ。正直に話すか。
ツチノコ 「オレはな、怖いんだよ。……オレのわがままで、こんな面倒なことにみんなを巻き込んじまって。一人で飛べりゃいいが、落ちるだろうな。オレはそれでも構わんが、みんなの苦労が無駄になっちまう。…………それに、時間がかかりすぎた。…………ほかのやつら、みんな、あんなもの飛べないって思ってるんだ」
キタキツネ 「あれは飛べるよ、だいじょうぶ」
根拠もなくそんなことを……いや、根拠はあるんだ。自覚がないんだろう。オレはエンジニアとしてもパイロットとしても中途半端だが……。
ツチノコ 「………………くやしいが……お前は……」
オグロプレーリードッグ「ツチノコどのー」
オグロプレーリードッグとアメリカビーバーがやってきた。
アメリカビーバー 「ツチノコさん、申しわけないっス、全部もとの形に…………」
ツチノコ 「もう遅い。無理に戻すとかえって危険だ」
タイリクオオカミ 「やっぱりここにいたね」
タイリクオオカミも歩いてきた。
タイリクオオカミ 「私も謝らなければいかんな。済まない。…………なにか悩んでいるようだが……みんな楽しんでいるんだよ。あれを飛ばすこと……君を手伝うことをね」
そうかよ、なら仕方ねえ。
ツチノコ 「…………改造個所を教えろ。……全部オレが確認する」
初飛行前夜。格納庫。
格納庫にはオレしかいない。何度も確認して、問題がないってわかっているのに、また飛行機の点検をしてしまっている。これじゃビーバーを笑えない。
ガチャリ、と格納庫わきのドアが開き、誰かが入ってきた。
ツチノコ 「うああ、誰だああ………………スナネコ!、何でここに?」
おどかすなよ。……というかお前、砂漠にいたんじゃ……ここまで結構距離があるぞ……
スナネコはそばへ歩いてくると、飛行機を見て、言った。
スナネコ 「これは本当に安全なんですか?」
何を今さら……。いつもののんびりした口調だ。………………いや、違うな……。
ツチノコ 「何度も言っただろ。落ちねえよ」
スナネコ 「絶対に、ですか?」
絶対に……絶対、では無いな。危険がないと言ったら嘘になる。ここは、どう言うべきか……
ツチノコ 「………………」
黙ってしまった。スナネコがオレの顔を見た。無表情だった。
スナネコ 「…………明日は見に行けません。ボクは夜行性なので」
怒らせちまったか? 見に来てくれないのは残念だが、仕方ねえか……それって、明日オレに何かあったら、会えるのは今夜が最後になるってことだよな………。
ツチノコ 「…………そうかよ……」
間。
なんだ?こいつはどうしてほしいんだ?…………どうする?
([ 抱きしめる ])
([格納庫から追い出す])
((([ 何もしない ]))) ← ピロリーン
何もしないのかよ!
スナネコは一歩踏み出し、オレに顔を近づけてくる。かわいい……とか思ってる場合じゃないぞ!…………どうする?
([ 頭をなでる ])
([ キスをする ])
([ 押し倒す ])
((([ 何もしない ]))) ← ピロリーン
また何もしないのかよ!
ツチノコ 「…………な……なんだよ」
そんな言葉しか出ねえのかオレ!わかってるだろ!
スナネコ 「なにもしないんですか?」
ツチノコ 「……何も?………………」
やっぱり待ってるじゃねえか!見つめられていることに耐えられず、目をそらしてしまった。顔が熱い。仕方ねえ……。
ツチノコ 「そういうのは……こいつが飛んでからだ」
先延ばししてしまった……どんだけ臆病なんだオレ……。
スナネコはかすかに笑うと、一歩引いて背を向け、足早にドアから出て行った。
今は思い出を作るより、おあずけにして希望を持たせた方がいいよな。そう自分に言い訳して、オレは飛行機の点検作業に戻った。…………点検、どこまでやったか忘れちまった……。
第3話「点検」 あとがき
読んでいただきありがとうございます。
選択肢で遊んでみました。
1番目の選択肢「格納庫から追い出す」はひどいです。選べません。
2番目の選択肢では「キスをする」が一番自然な流れのような気がしますが、あえて選んでいません。「押し倒す」を選んだらどうなっていたでしょうね。格納庫の床だと嫌だから、飛行機のシートを倒して……。