ひこうじょう ツチノコ視点版   作:くにむらせいじ

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第4話「フライト」

 

 初飛行の日。

 エプロンにはたくさんのフレンズが集まっていた。

ツチノコ       「なんでこんなにいるんだよ……」

 オレは飛行機の陰に隠れていた。 オレは、例の帽子をかぶり、例のジャケットを着て、例のブーツを履いていた。勝負服ってやつだ。あの映画の内容を考えると、ちょっと不吉な気もしたが、そんなの吹き飛ばしてやる。

アメリカビーバー   「点検終わったッスか?」

 アメリカビーバーが飛行機のドアから顔を出していた。

ツチノコ       「問題ねえよー」

タイリクオオカミ   「こっちも問題ないよ」

 脚の陰にしゃがんでいた、タイリクオオカミも答えた。

 

 初飛行のメンバーは以下の通りだ。

 

・ 機長    :ツチノコ

 

・ 副操縦士  :キタキツネ

 

・ 機上整備員 :アメリカビーバー・オグロプレーリードッグ

 この二匹に乗ってもらうのは念のためだ。ビーバーだけでも良かったのだが、プレーリーがいっしょに行きたいと言って聞かなかった。

 

・ 付き添い  :ギンギツネ

 唯一のお客さんだ。キタキツネについてきた。

 

・ チェイサー(随伴機)  :トキ・ショウジョウトキ

 機外から飛行状態を見守る役だ。知り合いだからということと、飛行能力の近いペア、ということで頼んだ。

 

・ 管制          :アフリカオオコノハズク(博士)・ワシミミズク(助手)

 離着陸の安全確認をやってもらう。管制といっても無線が無いためあまりやることが無い。

 

・ 地上整備員・記録係   :タイリクオオカミ

 飛行前、飛行後の機体の点検と、飛行の記録(スケッチ・クロッキー)をやってもらう。いっしょに乗る案もあったが、地上からの記録は重要だ。ほかに適任者はいなかった。

 

・ 地上整備員・マーシャラー:ハシビロコウ

 エプロンで機体の誘導を行ってもらう。操縦士選抜試験などで手伝ってもらった縁と、冷静に見守る能力があったため頼んだ。必要なら飛んで誘導してもらうことも可能だ。

 

 点検を終えた飛行機のそばに、博士と助手が飛んできた。

助手      「ついに、この時がきたのですね」

博士      「待ちくたびれたです」

ツチノコ    「博士、その……お願いがあるんだが……」

 本当はスナネコに頼みたかったんだがな……。

博士      「なんですか、いっしょには乗りませんよ」

ツチノコ    「ジャパリまん持ってたら一つくれねーか?  あとで必ず返すからさ」

 必ず生きて帰る。伝説的なパイロットが言ったジョークだ。本当はガムをもらうんだが、そんなもの誰も持っていないだろう。

タイリクオオカミ「本来は私の役割なんだが、あいにく持ってないんだよ」

 確か同僚に言ったんだよな。

博士      「意味がわからないのです。というか、なんなのですかその恰好は?」

 知らねえのかよ、両方とも!

ツチノコ    「考古学者に飛行機っつったらこの恰好なんだよ!」 

 あの時も同じことを言ったな。なんか懐かしいな。

 

 全員の搭乗が完了した。

 飛行機の前にたくさんの観客がいた。ハシビロコウとタイリクオオカミが観客を整理してくれているが、こいつらはプロペラの怖さを知らないだろう。オレはコックピットわきの窓をから顔を出し、叫んだ。

ツチノコ    「お前らー、近寄るんじゃねーぞー!」

 ハシビロコウが飛行機の前に立ち、後ろを振り向いた。

ハシビロコウ  「みんな、私よりも下がって」

 ハシビロコウが手を上げ、こちらに向けハンドサイン(エンジンスタート)をおくってきた。オレはエンジンスタートの操作をした。

 ガスタービンの始動音と共に、飛行機の左のプロペラが、ゆっくりと回り始めた。プロペラは徐々に回転数を上げっていった。続いて右のプロペラが回り始め、回転数を上げっていった。

 

 エンジンスタートのあとは再度点検を行う。何度も繰り返した手順だが、全ての確認を2回、いつも以上に慎重に行った。ハシビロコウの指示で、操縦桿、ラダーペダルを操作し、各舵面が正常に動くことを確認した。軽くエンジンの出力を上げ、エプロンから滑走路へとゆっくりと移動していった。滑走路に乗ると左へ曲がり、滑走路の北の端までゆっくりと移動していった。

 

  機内 

ギンギツネ      「なんでいすに縛り付けるのよ?」

アメリカビーバー   「それはシートベルトといって、安全のための装備ッス」

 うしろから会話が聞こえてきた。縛り付けるとか言うなよ……

ギンギツネ      「もっと乗れたんじゃないかしら?もったいないわね」

キタキツネ      「犠牲は少ないほうがいいから」

 右隣のキタキツネが答えた。怖いこと言うな! 集中できねえだろ!

ギンギツネ      「また不吉なことを……」

キタキツネ      「いいよ、ギンギツネといっしょなら」

ギンギツネ      「……そう……」

オグロプレーリードッグ「ビーバー殿といっしょなら、かまわないであります!」

アメリカビーバー   「オレっちも同じッスよ……」

ツチノコ       「お前らなんで死ぬのが前提なんだよ!」

 

 飛行機をUターンさせ、機首を滑走路の離陸方向に合わせた。ブレーキをかけたまま、左のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。今度は右のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。そしてまた一通りの点検を行った。

 

 コックピットからは見えなかったが、チェイサーのトキとショウジョウトキが、飛行機の真上 でホバリングして待機しているはずだ。

 

ツチノコ       「全て正常。滑走路上に障害物は無いな?」

キタキツネ      「だいじょうぶ」

 ツチノコは窓の外を見た。少し離れたところに、博士と助手が浮かんでいた。

 

 博士は緑色の巨大な旗を上げた。「離陸に支障なし(クリアード フォー テイクオフ)」、だ。

 

 オレはスロットルを上げた。プロペラの音が変わった。ブレーキリリース。飛行機が動き始めた。

 飛行機は徐々に速度を上げていった。

 怖い。オレは一瞬、操縦桿を引くのをためらってしまった。

キタキツネ      「はやく上げて」

 上げるのが遅れると危険だ。キタキツネに言われて慌てて操縦桿を引いた。

 機首が上がり、すぐに主脚が路面から離れた。慌てて操縦桿を引いたせいで、飛行機はやや急な角度で上昇した。ヘタクソな離陸になっちまった……。離陸すると、すぐにフラップを上げた。

 

 離陸した機体が左に傾き始めた。何だ?何が起きてる!?

キタキツネ      「戻して、かたむいてる」

ツチノコ       「わかってる!」

 急な操作は危険だ、操縦桿を少し右へ……ダメだ戻らない……

アメリカビーバー   「ツチノコさん!パワーを落とすッス!」

 オレは、ほぼ全開だったスロットルを戻した。機体はゆっくりと水平を取り戻した。カウンタートルク?起きないはずじゃ?……スピードを出しすぎた。チェイサーはついて来られたか?

 安心する間もなく、機体は左右(翼を振る方向)にふらつき始めた。揺れを抑えようと操縦桿を左右に倒すが、揺れはおさまらないどころか悪化していった。

ツチノコ       「おさまらねえ!……なんでっ……」

 操縦桿の操作と機体の挙動が逆転してる?

キタキツネ      「おちついて、まんなかに」

 言われた通りに操縦桿を動かすのをやめ、中央に保つと、機体は安定を取り戻した。操縦桿と機体の挙動にずれがあることに気づいた。シミュレーターはもっと反応が良かった。自分で揺らしていたんだ。

ツチノコ       「さすが……だな……」

 キタキツネはなぜこんなに的確な指示ができるんだ?同じシミュレーターで訓練したのに……。

 

 左を見ると、トキが飛んでいるのが見えた。ついて来られたようだ。彼女はこちらを見て、一定の距離を保って飛んでいた。ちらりと右を見ると、ショウジョウトキが飛んでいた。オレはすぐに視線を前へ戻した。このスピードで真横に編隊を組むのはかなり難しい。飛行機とフレンズでは大きく飛行特性が違う。ついてくるだけでも難しいはずだ。二羽の飛行能力の高さに驚かされた。

 

 うしろから会話が聞こえてきた。

アメリカビーバー   「やっぱり、シミュレーターとは違うんスね……」

オグロプレーリードッグ「本当に、本当に飛んだであります!」

アメリカビーバー   「……オレっち、ちょっと涙が出てきたッスよ」

ギンギツネ      「ひこうきって、こういうものだったのね…………」

 不覚にも涙がこぼれてしまった。隣のキタキツネに気づかれなかったよな……。

 

 オレは機体を軽く左右に旋回させるのを繰り返した。シミュレーターとは少し感覚が違うが、訓練の成果が出てきたようだ。

ツチノコ     「感覚がつかめてきたな。旋回して戻るぞ」

 落ち着け、ゆっくりと、やさしく、高度を保って旋回させろ……やった……機体は思い通りに動いてくれた……。

キタキツネ    「気持ちいい飛びかた…………ツチノコは下手だけど、やさしくて、すごく気持ちいいときもある」

ツチノコ     「変な言い方するな!」

 言い方はアレだが、やはりキタキツネは的確だった。

アメリカビーバー 「多分、飛行機の操縦も、フレンズによって得意なことが違うんスよ」

 そういうものなのだろうか?キタキツネは別格な気がするが。

 旋回を終え、進路を飛行場に向けて直線飛行に移った。機体は安定しているし、そろそろいいだろう。

ツチノコ     「操縦、代わってみるか?」

 オレはは前を見たまま言った。キタキツネへ操縦を渡し、操縦桿から手をはなし、ラダーペダルから足をはなした。

ツチノコ     「やっぱり……安定してるな……」

 キタキツネが突然、こちら側に手をのばしてランディングギア(脚)レバーを上に上げた。なにしてんだ、予定通りにやれ!

ツチノコ     「おい!初飛行ではギアを上げるなと……」

 ガコンと音がした。手遅れだ。

キタキツネ    「足が出てるとかっこわるい」

 かっこ悪いって、下りなくなったらどうする!

ツチノコ     「そういう問題じゃねえ!…………表示は……上がってるな……確認するぞ」

キタキツネ    「ちゃんと上がってるよ。へんなかんじ、なくなったから」

 キタキツネが妙なこと言ってるが無視だ。問題はないはずだが、念のため確認してもらおう。オレは窓の外のトキに手まねきをした。トキが飛行機に近づいてきた。近づきすぎると危険だが、打ち合わせ通りの距離を保ってくれた。

 オレは窓の外のトキにハンドサインをおくった。(脚は上がっているか?)

 トキがこちらを向き、両腕をあげて丸を作った。

ツチノコ     「大丈夫だ……仕方ねえ、まだギアは下ろさない。このまま行くぞ」

 

 オレは何の気なしに足を動かした。つま先がラダーペダルにコツンと当たった。

キタキツネ    「!」

 キタキツネがビクッとなった。なんだこの反応は。さらにコツンコツンと軽く蹴ってみた。操縦には影響ないはずだ。というか、向こうには伝わらないほどの弱い力だ。

キタキツネ    「ん……はっ……」

 なんか反応してる……これは…………おもしろい!

 オレは手をはなしていた操縦桿を軽くにぎってみた。

キタキツネ    「ふぁっ……なに?なにしてるの?」

 やはり敏感だ。

ツチノコ     「操縦に集中しろ」

 操縦桿を指でパチンとはじいた。

キタキツネ    「いたっ」

 今度は操縦桿を下から上へ、人差し指でこすってみた。

キタキツネ    「ぁあああ……くすぐったい……やめて」

ツチノコ     「…………」

 ちょっと怖くなった。これ以上はいろんな意味で危険な気がしたのでやめておいた。

 

 

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