初飛行の日。
エプロンにはたくさんのフレンズが集まっていた。
ツチノコ 「なんでこんなにいるんだよ……」
オレは飛行機の陰に隠れていた。 オレは、例の帽子をかぶり、例のジャケットを着て、例のブーツを履いていた。勝負服ってやつだ。あの映画の内容を考えると、ちょっと不吉な気もしたが、そんなの吹き飛ばしてやる。
アメリカビーバー 「点検終わったッスか?」
アメリカビーバーが飛行機のドアから顔を出していた。
ツチノコ 「問題ねえよー」
タイリクオオカミ 「こっちも問題ないよ」
脚の陰にしゃがんでいた、タイリクオオカミも答えた。
初飛行のメンバーは以下の通りだ。
・ 機長 :ツチノコ
・ 副操縦士 :キタキツネ
・ 機上整備員 :アメリカビーバー・オグロプレーリードッグ
この二匹に乗ってもらうのは念のためだ。ビーバーだけでも良かったのだが、プレーリーがいっしょに行きたいと言って聞かなかった。
・ 付き添い :ギンギツネ
唯一のお客さんだ。キタキツネについてきた。
・ チェイサー(随伴機) :トキ・ショウジョウトキ
機外から飛行状態を見守る役だ。知り合いだからということと、飛行能力の近いペア、ということで頼んだ。
・ 管制 :アフリカオオコノハズク(博士)・ワシミミズク(助手)
離着陸の安全確認をやってもらう。管制といっても無線が無いためあまりやることが無い。
・ 地上整備員・記録係 :タイリクオオカミ
飛行前、飛行後の機体の点検と、飛行の記録(スケッチ・クロッキー)をやってもらう。いっしょに乗る案もあったが、地上からの記録は重要だ。ほかに適任者はいなかった。
・ 地上整備員・マーシャラー:ハシビロコウ
エプロンで機体の誘導を行ってもらう。操縦士選抜試験などで手伝ってもらった縁と、冷静に見守る能力があったため頼んだ。必要なら飛んで誘導してもらうことも可能だ。
点検を終えた飛行機のそばに、博士と助手が飛んできた。
助手 「ついに、この時がきたのですね」
博士 「待ちくたびれたです」
ツチノコ 「博士、その……お願いがあるんだが……」
本当はスナネコに頼みたかったんだがな……。
博士 「なんですか、いっしょには乗りませんよ」
ツチノコ 「ジャパリまん持ってたら一つくれねーか? あとで必ず返すからさ」
必ず生きて帰る。伝説的なパイロットが言ったジョークだ。本当はガムをもらうんだが、そんなもの誰も持っていないだろう。
タイリクオオカミ「本来は私の役割なんだが、あいにく持ってないんだよ」
確か同僚に言ったんだよな。
博士 「意味がわからないのです。というか、なんなのですかその恰好は?」
知らねえのかよ、両方とも!
ツチノコ 「考古学者に飛行機っつったらこの恰好なんだよ!」
あの時も同じことを言ったな。なんか懐かしいな。
全員の搭乗が完了した。
飛行機の前にたくさんの観客がいた。ハシビロコウとタイリクオオカミが観客を整理してくれているが、こいつらはプロペラの怖さを知らないだろう。オレはコックピットわきの窓をから顔を出し、叫んだ。
ツチノコ 「お前らー、近寄るんじゃねーぞー!」
ハシビロコウが飛行機の前に立ち、後ろを振り向いた。
ハシビロコウ 「みんな、私よりも下がって」
ハシビロコウが手を上げ、こちらに向けハンドサイン(エンジンスタート)をおくってきた。オレはエンジンスタートの操作をした。
ガスタービンの始動音と共に、飛行機の左のプロペラが、ゆっくりと回り始めた。プロペラは徐々に回転数を上げっていった。続いて右のプロペラが回り始め、回転数を上げっていった。
エンジンスタートのあとは再度点検を行う。何度も繰り返した手順だが、全ての確認を2回、いつも以上に慎重に行った。ハシビロコウの指示で、操縦桿、ラダーペダルを操作し、各舵面が正常に動くことを確認した。軽くエンジンの出力を上げ、エプロンから滑走路へとゆっくりと移動していった。滑走路に乗ると左へ曲がり、滑走路の北の端までゆっくりと移動していった。
機内
ギンギツネ 「なんでいすに縛り付けるのよ?」
アメリカビーバー 「それはシートベルトといって、安全のための装備ッス」
うしろから会話が聞こえてきた。縛り付けるとか言うなよ……
ギンギツネ 「もっと乗れたんじゃないかしら?もったいないわね」
キタキツネ 「犠牲は少ないほうがいいから」
右隣のキタキツネが答えた。怖いこと言うな! 集中できねえだろ!
ギンギツネ 「また不吉なことを……」
キタキツネ 「いいよ、ギンギツネといっしょなら」
ギンギツネ 「……そう……」
オグロプレーリードッグ「ビーバー殿といっしょなら、かまわないであります!」
アメリカビーバー 「オレっちも同じッスよ……」
ツチノコ 「お前らなんで死ぬのが前提なんだよ!」
飛行機をUターンさせ、機首を滑走路の離陸方向に合わせた。ブレーキをかけたまま、左のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。今度は右のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。そしてまた一通りの点検を行った。
コックピットからは見えなかったが、チェイサーのトキとショウジョウトキが、飛行機の真上 でホバリングして待機しているはずだ。
ツチノコ 「全て正常。滑走路上に障害物は無いな?」
キタキツネ 「だいじょうぶ」
ツチノコは窓の外を見た。少し離れたところに、博士と助手が浮かんでいた。
博士は緑色の巨大な旗を上げた。「
オレはスロットルを上げた。プロペラの音が変わった。ブレーキリリース。飛行機が動き始めた。
飛行機は徐々に速度を上げていった。
怖い。オレは一瞬、操縦桿を引くのをためらってしまった。
キタキツネ 「はやく上げて」
上げるのが遅れると危険だ。キタキツネに言われて慌てて操縦桿を引いた。
機首が上がり、すぐに主脚が路面から離れた。慌てて操縦桿を引いたせいで、飛行機はやや急な角度で上昇した。ヘタクソな離陸になっちまった……。離陸すると、すぐにフラップを上げた。
離陸した機体が左に傾き始めた。何だ?何が起きてる!?
キタキツネ 「戻して、かたむいてる」
ツチノコ 「わかってる!」
急な操作は危険だ、操縦桿を少し右へ……ダメだ戻らない……
アメリカビーバー 「ツチノコさん!パワーを落とすッス!」
オレは、ほぼ全開だったスロットルを戻した。機体はゆっくりと水平を取り戻した。カウンタートルク?起きないはずじゃ?……スピードを出しすぎた。チェイサーはついて来られたか?
安心する間もなく、機体は左右(翼を振る方向)にふらつき始めた。揺れを抑えようと操縦桿を左右に倒すが、揺れはおさまらないどころか悪化していった。
ツチノコ 「おさまらねえ!……なんでっ……」
操縦桿の操作と機体の挙動が逆転してる?
キタキツネ 「おちついて、まんなかに」
言われた通りに操縦桿を動かすのをやめ、中央に保つと、機体は安定を取り戻した。操縦桿と機体の挙動にずれがあることに気づいた。シミュレーターはもっと反応が良かった。自分で揺らしていたんだ。
ツチノコ 「さすが……だな……」
キタキツネはなぜこんなに的確な指示ができるんだ?同じシミュレーターで訓練したのに……。
左を見ると、トキが飛んでいるのが見えた。ついて来られたようだ。彼女はこちらを見て、一定の距離を保って飛んでいた。ちらりと右を見ると、ショウジョウトキが飛んでいた。オレはすぐに視線を前へ戻した。このスピードで真横に編隊を組むのはかなり難しい。飛行機とフレンズでは大きく飛行特性が違う。ついてくるだけでも難しいはずだ。二羽の飛行能力の高さに驚かされた。
うしろから会話が聞こえてきた。
アメリカビーバー 「やっぱり、シミュレーターとは違うんスね……」
オグロプレーリードッグ「本当に、本当に飛んだであります!」
アメリカビーバー 「……オレっち、ちょっと涙が出てきたッスよ」
ギンギツネ 「ひこうきって、こういうものだったのね…………」
不覚にも涙がこぼれてしまった。隣のキタキツネに気づかれなかったよな……。
オレは機体を軽く左右に旋回させるのを繰り返した。シミュレーターとは少し感覚が違うが、訓練の成果が出てきたようだ。
ツチノコ 「感覚がつかめてきたな。旋回して戻るぞ」
落ち着け、ゆっくりと、やさしく、高度を保って旋回させろ……やった……機体は思い通りに動いてくれた……。
キタキツネ 「気持ちいい飛びかた…………ツチノコは下手だけど、やさしくて、すごく気持ちいいときもある」
ツチノコ 「変な言い方するな!」
言い方はアレだが、やはりキタキツネは的確だった。
アメリカビーバー 「多分、飛行機の操縦も、フレンズによって得意なことが違うんスよ」
そういうものなのだろうか?キタキツネは別格な気がするが。
旋回を終え、進路を飛行場に向けて直線飛行に移った。機体は安定しているし、そろそろいいだろう。
ツチノコ 「操縦、代わってみるか?」
オレはは前を見たまま言った。キタキツネへ操縦を渡し、操縦桿から手をはなし、ラダーペダルから足をはなした。
ツチノコ 「やっぱり……安定してるな……」
キタキツネが突然、こちら側に手をのばしてランディングギア(脚)レバーを上に上げた。なにしてんだ、予定通りにやれ!
ツチノコ 「おい!初飛行ではギアを上げるなと……」
ガコンと音がした。手遅れだ。
キタキツネ 「足が出てるとかっこわるい」
かっこ悪いって、下りなくなったらどうする!
ツチノコ 「そういう問題じゃねえ!…………表示は……上がってるな……確認するぞ」
キタキツネ 「ちゃんと上がってるよ。へんなかんじ、なくなったから」
キタキツネが妙なこと言ってるが無視だ。問題はないはずだが、念のため確認してもらおう。オレは窓の外のトキに手まねきをした。トキが飛行機に近づいてきた。近づきすぎると危険だが、打ち合わせ通りの距離を保ってくれた。
オレは窓の外のトキにハンドサインをおくった。(脚は上がっているか?)
トキがこちらを向き、両腕をあげて丸を作った。
ツチノコ 「大丈夫だ……仕方ねえ、まだギアは下ろさない。このまま行くぞ」
オレは何の気なしに足を動かした。つま先がラダーペダルにコツンと当たった。
キタキツネ 「!」
キタキツネがビクッとなった。なんだこの反応は。さらにコツンコツンと軽く蹴ってみた。操縦には影響ないはずだ。というか、向こうには伝わらないほどの弱い力だ。
キタキツネ 「ん……はっ……」
なんか反応してる……これは…………おもしろい!
オレは手をはなしていた操縦桿を軽くにぎってみた。
キタキツネ 「ふぁっ……なに?なにしてるの?」
やはり敏感だ。
ツチノコ 「操縦に集中しろ」
操縦桿を指でパチンとはじいた。
キタキツネ 「いたっ」
今度は操縦桿を下から上へ、人差し指でこすってみた。
キタキツネ 「ぁあああ……くすぐったい……やめて」
ツチノコ 「…………」
ちょっと怖くなった。これ以上はいろんな意味で危険な気がしたのでやめておいた。