右斜め前に、飛行場が見えてきた。
ツチノコ 「コースを滑走路へ。高度を下げてローパスする…………まだギアは下ろさない。ファンサービスだ。」
キタキツネ 「ふぁんさーびす……まっすぐじゃおもしろくない…………ちょっと遊んでみる……シートベルト、しめてね」
ツチノコ 「お前何する気だ!」
オグロプレーリードッグ「キタキツネ殿、何をするでありますか?」
プレーリーは楽しげだった。
アメリカビーバー 「オレっち、嫌な予感がするッス……」
ギンギツネ 「シートベルトは締めてるわよ?」
キタキツネは、ギンギツネの言葉を聞くと、スロットルを上げた。プロペラの音が変わる。
キタキツネが操縦桿を左に倒す。まずい!これは非常にまずい!
飛行機が、機体を大きく傾けて左に急旋回を始める。操縦を奪うか?ダメだ、それはかえって危険だ。飛行機は左に360度旋回して円を描くと、飛行場の前で切り返し、今度は右にに急旋回する。
ツチノコ 「なにしてんだお前えええ!」
飛行機は旋回を終え、直線飛行に戻り、ゆっくりと上昇していく。
ツチノコ 「無茶しやがって……」
オグロプレーリードッグ「さすがキタキツネ殿、すごいであります!」
アメリカビーバー 「そんな激しくしたら壊れちゃうッスよ」
オグロプレーリードッグ「……その言葉、昨夜も聞いたでありますな」
何だって?オレは後ろを振り向いた。
アメリカビーバー 「……それは言っちゃだめッスょ……」
アメリカビーバーは顔を赤くして手で覆い、うつむいた。今夜が最後になるかもしれないからってことか……オレたちと同じだよ、スナネコ……
ツチノコ 「…………オレも、そうすりゃ良かった……」
飛行機が上昇を終え、右に180度旋回して反転、降下を始める。着陸、するんだよな?
キタキツネ 「もう一回……」
ツチノコ 「やめろおおお!」
ギンギツネ 「……死ぬ……死んじゃう…………」
ギンギツネがぶつぶつ言っている。お客さん怖がってるじゃねえか……。
キタキツネ 「準備運動やめる…………ちょっと苦しいけどがまんしてね」
準備運動?やめろってそういう意味じゃねえ!
飛行機が右にに急旋回。さっきと逆の動きだが、傾きは90度に近く、旋回半径が小さい。強烈なGが体を襲う。うしろの連中失神するぞ!
ツチノコ 「腹に力入れろお!」
飛行機が飛行場の前で切り返し左へ旋回。こちらも旋回半径が小さい。血が下がるのを腹に力を入れて耐える。操縦を奪うか?……それは危険だ……それに腕が重い……。
オグロプレーリードッグ「ちょっと苦しいどころじゃ……ないであります……」
飛行機がそのまま旋回を続けながら、らせんを描いて上昇していく。なんだこの機動は……この機体のパワーじゃ無理だろ……。
アメリカビーバー 「意識が……飛んじゃうッス……」
右を見る。キタキツネは歯を食いしばって耐えている。この状態でなんで操縦できるんだ?。
飛行機が高度を落として加速する。Gが弱まり、少し脱力する。飛行機が機首を引き起こして急上昇。空しか見えなくなる。垂直、を通り越し天地が逆になる。オレの帽子が飛ぶ。
オグロプレーリードッグ「さ、さかさま、で、ありますー」
飛行機はそのままの勢いで降下に転じ、水平飛行に戻る。宙返りしやがった……。
窓の外に一瞬、チェイサーの姿が見えたな。追うのをあきらめたか……。
飛行機が再度上昇して反転、滑走路に向けて急降下。
滑走路上を低空で通過しつつ、観客の前でグルグルと右回りに2回連続ロール(横転)。天地が激しく入れ替わる。すぐに左回りに2回連続ロール。姿勢指示器(水平儀)がグルグル回転する。
ツチノコ 「本当に……壊れ……ちま……」
アメリカビーバー 「目が回るッス……」
動きがおさまった。また上昇している。こんどはやや緩い上昇で、高高度へ上昇していく。どこまで上がる気だ?……ためている……大技が来る……。
キタキツネ 「歌が聞こえる。トキさんだね」
何を言ってるんだこいつ……意味がわからない……壊れたか?
ツチノコ 「……お前……何する気だ……何を言って……」
十分に高度をとると、飛行機が反転し、飛行場前の海へ向かって急降下。速度が増していく。機体がガタガタと振動し始める。早すぎる!分解しちまう!落ちる!
アメリカビーバー 「だめッスよ!バラバラになっちゃうッス!」
キタキツネ 「気絶しないでね」
何?
右を見る。キタキツネが操縦桿を強く引き、操縦桿が両ひざの間に入る……。
飛行機がガクンと機首を引き起こして上昇に転じる。強烈なGで全員声も出ず、機体がきしむ音が聞こえる。一瞬目の前が白くなる………窓からは空しか見えず、空がグルグルと回転している。垂直上昇しながらロールしてる………速度が落ちていく……回転が止まる……さらに速度が落ちていき……止まる……止まった?速度計がゼロを示し……体が前に浮くような感覚……後退してる?バカな……。
突然機体が回転して、空が海に変わる。高度はさっきより低い。機体が降下しながら不安定な回転をしている。景色が不規則に回転している。姿勢指示器が理解不能な動きをしている。これは何だ?きりもみ?スピン?わからねえ……木の葉のように落ちてる……海が近づいてくる……すでに高度計はゼロ……スナネコ……ごめんな。
飛行機が機首を引き起こし、海面に突入する寸前で水平飛行に移る。助かった?……飛行機がすぐに海面スレスレで機体を大きく傾けて右旋回を始め、再び強烈なGに襲われる。目の前、右半分が海、左半分が空……翼端こすってねえか?……そのまま360度旋回すると、傾きが水平に戻り、飛行機はゆるく上昇していった。
キタキツネ 「もっと遊びたかったけど、燃料が少ないね。ざんねん」
まだ余裕があったのか……信じられないことだが、キタキツネは「安全の範囲内」(キタキツネの中の基準)で操縦していたんだ。単なるバカや無鉄砲なら、全員死んでいただろう。
ツチノコ 「…………ここまで……とは……」
キタキツネをずっと見てきて、わかったことがある。
こいつは、感覚が非常に鋭い。景色や計器を見る視覚。エンジンやプロペラの音、機体が風を切る音、機体が振動する音を聞く聴覚。舵面から操縦桿とペダルに返ってくる、力や振動を感じる触覚。機体の姿勢や加速度、遠心力などを感じる平衡感覚。それに、幽霊や地場を知覚するような謎の感覚。感覚で集めた情報を集約すれば、機体の周りの空気の流れまで読めるはずだ。機体の不調や強度限界だってわかるかもしれない。
「地上滑走試験」と「準備運動」だけで機体の特性を完璧に理解して、鋭い感覚で集めた情報を、頭で瞬時に処理し、正確に手足を動かして思い通りに操縦しているのだろう。それも、なかば本能的に。こいつは操縦桿を握れば、鳥になれるんだ。
オグロプレーリードッグ「すごいであります!楽しかったであります!」
アメリカビーバー 「……回復……早いッスね……オレっち……震えが止まんないッス……」
アメリカビーバー 「……えと、ギンギツネ……さん?」
ギンギツネ 「…………」
ギンギツネは失神していた。
キタキツネは天才なだけじゃない。こいつなりに努力していたことをオレは知っている。シミュレーターの訓練はオレと同じぐらいか、それ以上の時間やっていたらしい。仲間を危険にさらさないために。失神したやつがいたんだからやっぱり危険なんだが……努力をおこたらない天才。一瞬でもこいつに勝とうなんて考えたオレがバカだった……怒る気もおきなかった。
キタキツネ 「着陸するよ。操縦代わる?」
ツチノコ 「…………いや、お前のほうが安全だ」
飛行機は、ゆるく旋回して進路を滑走路に合わせ、ゆっくりと高度を落としていった。
ここからは予定通りだ。そろそろだ……左を見た。左側後方からトキが現れた。こちらを見ている。右を見ると、ショウジョウトキが飛んでいた。デルタ(三角)からアブレスト(横一列)へ。安定した、完璧な編隊だった。さすがと言うしかなかった。
キタキツネ 「ふぁんさーびす」
飛行機が大きく翼を振った。エプロンにいるたくさんの観客が見えた。歓声が上がったようだ。
博士が緑色の巨大な旗を振っているのが見えた。助手が巨大な矢印のパネルを掲げ、着陸方向を示していた。方向は離陸時と変わっていなかった。
飛行機はチェイサーを引き連れて……旋回して速度を落とし………………フラップを下げ………脚を下げた。トキに脚が下がっているかハンドサインで確認すると、トキがこちらを向いて両腕で丸を作った。
……滑走路に進路を合わせ………徐々に高度を落とし……………………………主脚が接地した。
ドン、と軽い衝撃があった。
機体はバウンドせず、スムーズに滑走路を走った。ここからの手順はハイスピードタキシーと同じだ。ブレーキ、プロペラピッチを反転。プロペラの音が大きくなった。
オレたちの乗った飛行機はエプロンに戻ってきて、ハシビロコウに誘導され、観客の前に止まった。チェイサーの二羽も戻ってきたが、飛行機の真上へ行ったため見えなくなった。ハシビロコウがこちらにハンドサイン(エンジン停止)をおくってきた。オレがエンジン停止の操作をすると、プロペラが回転数を落とし、止まった。
オレとキタキツネは機体の点検を済ませ、ドア開放の準備をした。
キタキツネはすぐに後部座席のギンギツネのそばへ行き、オレもその後を追った。操縦席のうしろに例の帽子が落ちていた。ギンギツネは意識を取り戻していたが、顔色が悪く、放心していた。
キタキツネ 「ギンギツネ……ごめん……」
オグロプレーリードッグ「ふたりは先にいくであります!」
アメリカビーバー 「主役ッスからね……ギンギツネさんは任せるッスよ」
オレが先に行かなきゃダメなんだよな……。
オレは例の帽子を拾ってかぶると、飛行機後部、左側にあるドアを開けた。ドアは外側へ下に開き、タラップになる。
機外へ出ると、オレから見て右側、機体前方の観客から拍手が起こった。やめてくれ、ものすごく恥ずかしい……苦手なんだよこういうの……。
オレはうつむいてタラップを降りた。顔が熱い。続いて、キタキツネが降りてきたが、オレのうしろに隠れて歩いた。やめろ……オレを盾にするな……。
続いてビーバーが降りてきた。
アメリカビーバー 「大丈夫ッスか?」
うしろを見ると、プレーリーが、ギンギツネを支えながら降りてくるところだった。
ギンギツネはプレーリーに支えられ、おぼつかない足取りで降りてきた。
ギンギツネ 「……うっ……おえぇ…………」
…………吐いてはいなかった。今回の一番の被害者だ…………機内でやらなかっただろうな?
少し離れた所に、博士と助手が浮かんでいた。ジャパリまん、返してあげなきゃな。
オレたち搭乗員とハシビロコウは、観客の前に並んだ。上にはチェイサーの2羽がホバリングしていた。
観客の中に、タイリクオオカミがいた。そのとなりには……。
タイリクオオカミ「みんないい
観客の中から、スナネコが飛び出してきた。
ツチノコ 「なんだおま……」
見に行かないって言ってたじゃねえか!いつからいたんだよ!
スナネコは、オレに抱き着くと、頬をオレの頬に押し付けてきた。やめろ!……こんな大勢の前で……スナネコは耳元でささやいた。
スナネコ 「……ねむい……です…………夜まで寝てます……まってて…くだ……」
オレは、無理やり頬を離した。なんだよそれ反則だろ!……くらくらする……顔が熱い……。
今日の主役はこいつだな。前へ出ろよ。
オレはスナネコに抱き着かれたまま、隣に立つキタキツネの背中を押した。そして、キタキツネの手首をつかみ、高く掲げた。
再び、歓声が沸き起こった。
初飛行のあと、今までの膨大なスケッチをもとに、タイリクオオカミが漫画を書いた。
タイトルは 「ひこうじょう」 だ。
おわり
第5話「ふぁんさーびす」 あとがき
読んでいただきありがとうございます。
三人称視点だったものをツチノコ視点に変換して、ゲーム(ADVとか)に近い感じを狙って書いてみました。
一人称視点になりきれていない部分が多い気がします。過去形、現在形、現在進行形の使い分けがうまくできていませんね。
「通常版」とほとんど変わっていないところもありますが、微妙にいじっていたりします。
視点を変えると「通常版」のシナリオが穴だらけであることに気づきました。物語を書くというのはこういうことなのかと、ほんのちょっとだけわかった気がします。
「通常版」で注釈で説明していたものを、ツチノコに語らせていますが、説明的でうっとうしい感じになってしまったかもしれません。特にキタキツネの天才ぶりを語る所がそうですね。
キタキツネが天才すぎるのですが、とんでもない天才でないと初飛行でアクロバットなんてできないと思い、アニメの「感覚が優れているっぽい(かまくらの中のかばんたちを見つける、温泉の地熱発電の不具合を見つける、セルリアンの出現を予見、磁場を感じる?)」「ゲームで鍛えてる」という設定を思い切り膨らませました。
こちらで書いたものを、「通常版」にフィードバックさせて少し加筆修正しました。
アクロバット飛行はツチノコ視点だとあんまりおもしろくないですね。アクロバット飛行は普通機外から見るものです。機内からの映像だけで書くのは難しく、機体の動きが良く分からなくなってしまうため、「通常版」の機外視点の文を残しています。管制やチェイサーの会話がなくなってしまったのも残念です。ここだけ視点を切り替えて書いても良かったかもしれません。
以下は、「通常版」のあとがきと同じです。
私は元々文章が下手なうえに、物語なんてほとんど書いたことがなかったのですが、なんとか読めるものになっていたらいいな、と思います。
「ひこうじょう」は、元々は「ジャパリ・フラグメンツ」の中の一編で、第1話「いつか」にあたる部分しかありませんでした。 第1話「いつか」だけで終わっていたほうがきれいだった気もしますが、飛行機は飛ぶためのものです。飛ばしたくなってしまったんです。
飛行機が一回飛ぶだけのおはなしなのに、異常な長さになってしまいました。加筆修正を繰り返しているうちどんどん長くなってしまいました。飛行機が飛ぶということの大変さ、素晴らしさ、離陸前の高揚感、エアショーの興奮、などを「けものフレンズ」のキャラクターを使って描く、こんなのほかに誰も書かない(いたらごめんなさい)と思って書きました。少しでも伝わったら嬉しいです。
私は飛行機が好きなだけの素人です。いろいろ間違っているかもしれません。
アクロバット飛行は、機体を改造したという設定を加味しても、ありえません。これは私が見たエアショーのアクロバット飛行をアレンジして組み合わせて書いています。ただ海面スレスレの飛行は私の空想であり、もっとありえません。ここは振り切ってしまえ、と思って書きました。
このおはなしでは、キタキツネは、感覚が非常に優れているという設定です。景色や計器を見る視覚。エンジンやプロペラの音、機体が風を切る音、機体が振動する音を聞く聴覚。舵面から操縦桿とペダルに返ってくる、力や振動を感じる触覚。機体の姿勢や加速度、遠心力などを感じる平衡感覚。幽霊や地場を知覚するような謎の感覚。
感覚で集めた情報を集約すれば、機体の周りの空気の流れまで読めます。機体の不調もわかります。
キタキツネは機体の特性を理解して、優れた感覚で集めた情報を、頭で瞬時に処理し、正確に手足を動かして思い通りに操縦しています。それをなかば本能的に行っています。キタキツネにとって、操縦している飛行機は自分の体と同じなのです。
無茶苦茶な設定ですが、アクロバットをやらせたかった為、こうなりました。
とんでもない天才でないと、初飛行でアクロバットなんてできないと思い、アニメ1期9話で、「感覚が優れているっぽい(かまくらの中のかばんたちを見つける、温泉の地熱発電の不具合を見つける、セルリアンの出現を予見、磁場を感じる?)」という描写があるのと、「ゲームで鍛えてる」らしいので、それを思い切り膨らませました。
ツチノコが男っぽくなりすぎました。キャラが違いすぎます。本当はもっとかわいくしたかったです。スナネコにヒロインになってもらいましたが、ツチノコとスナネコはアニメではほとんど絡んでいないんですよね。(4話では近くにいただけ、6話で出会ったけど直接の会話なし)けもフレで最初に見たのが4話( X-2を見に岐阜へ行った時に、泊まったホテルで、夜中にテレビをつけたらやっていた)だったので、この二匹には思い入れがあります。
書いている時は気付かなかったのですが、タイリクオオカミさんが筆者に似たキャラクターになってしまいました。私は図面を書いていましたし、スケッチを写真に置き換えると私の行動にそっくりです。写真と動画データが増えすぎて困っています。
続編は多分書きません。
以下おまけ
飛行機の設定画
飛行機と飛行場の詳細設定は、第1話のあとがきに書いてあります。
ねじれて見えるとか、バランスがおかしいとか、いろいろ変な所があります。フロントガラスと排気管は意図的に大きく描いています。
【挿絵表示】
キングエアC90(C90GT) ジャパリパーク仕様(改造前)
【挿絵表示】
キングエアC90GT改 ジャパリパーク仕様(レストア後の初飛行時)
【挿絵表示】
キングエアC90GT改 ジャパリパーク仕様 初飛行時の機内設定など
改造後では動翼が大きくなっています(微妙に色が違います)。でもこんな改造したらバランスが崩れそうです。強度の問題もありますし、エルロンリバーサルとかおこしそうな気がします。垂直尾翼の羽の先端(動翼にかかっている部分)は再塗装したため微妙に色が違い、塗りムラや刷毛の跡が残っています。
カットしたシーンです。
初飛行前夜。湖のログハウス。
オグロプレーリードッグとアメリカビーバーが「あいさつ」をしていた。二人の唇が離れた。
オグロプレーリードッグ「はっ……ビーバー殿、なかなか、上手くなったでありますな」
アメリカビーバー 「そ、そうッスか…………でも、これが最後になっちゃうかも…………しれないッス……ね」
オグロプレーリードッグ「何を言っているでありますか!、あれだけ入念に準備したであります。問題がおきるはずないであります!」
アメリカビーバー 「そうッスね、こんなこと言うのはみんなに失礼だってわかってるんスけど、やっぱり不安なんス」
オグロプレーリードッグ「不安なら、いくらでもあいさつしてあげるであります!」
アメリカビーバー 「…………ちょいと……お願いを……聞いてほしいんスけど…………」
ボツになった、初飛行前夜の格納庫、スナネコの一人称版です。
初飛行前夜。格納庫の外。
[ スナネコ ]
なんだか会いたいような、そうでもないような…………不思議な気持ち。……すぐに飽きちゃうのはボクの悪い癖だけど、ツチノコだけは飽きないんだ。
格納庫のわきにあるドア。それを開けるレバーに手をかけた。はじめは開け方がわからなかったこれも、今は…………あれ?開かない……手が動かない。
不器用なボクでも……………………サンドスター、勇気をください。
ガチャリ、とドアが開き、中へ入った。
ツチノコ 「うああ、誰だああ………………スナネコ!、何でここに?」
なんでって、鈍いよね…もう。ツチノコは、飛行機のそばでなにか作業していた。ボクにはなにをしているのかわからなかった。ツチノコのそばへ歩いて、飛行機をみた。こんなものが飛ぶなんて、いまだに信じられなかった。
スナネコ 「これは本当に安全なんですか?」
ツチノコ 「何度も言っただろ。落ちねえよ」
まあ、そう言うよね。
スナネコ 「絶対に、ですか?」
ツチノコ 「………………」
答えられないんだ。危険もあるってことだね。やめてって言いたい。でもみんな夢をかなえたいと思っている。夢見ることは大事だけれど、夢見てるだけじゃ、ただの願い事。ボクには止められないんだ。
ツチノコの顔を見た。
スナネコ 「…………明日は見に行けません。ボクは夜行性なので」
もう長いこと寝ていない。それに正直見たくない。さよならの準備なんて出来ていない。
ツチノコ 「…………そうかよ……」
かっこいい所、見せたいんだよね。それに、これが最後になっちゃうかもしれないもんね。 …………ほら、なにもしないの?最後かもしれないんだよ?
ツチノコは動かない。これは、ボクから近づくしかないのかな。……あと一歩、進みたいのに踏み出せない。足が重い。言いたいことも言えず消えてった。……………………サンドスター、もう一度、勇気をください。
動いた!大丈夫、足は動いている………ツチノコの顔が近づく。のぞき込むように、さらに顔を近づける。
ツチノコ 「…………な……なんだよ」
わかってるんだよね?なにも気づかないの?やっぱり鈍いね。
スナネコ 「なにもしないんですか?」
うわあ、なに言ってるんだボク!まっすぐすぎる。眠すぎて変になっちゃった?
ツチノコ 「……何も?………………」
ツチノコは、目をそらした。赤くなってるね。かわいい。
ツチノコ 「そういうのは……こいつが飛んでからだ」
それはずるいよ、ねえ、もう………せめて、笑おう。ボクはツチノコから一歩引いて、ツチノコに背を向け、ドアから出て行った。うまく笑えたかな?今は無理だけど、明日は笑い飛ばそう。
明日の夜に、また会いましょう。