続・やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。 作:シェイド
大変遅れております!ほんと楽しみにしていた方申し訳ありません!!
体調が優れなかったとかいうわけではなく、単にどう3巻を書くか悩んでいたら2ヶ月以上放置していました!スイマセン!スイマセン!
前回言っていたコマチ主体の話と原作三巻の内容です。
【光妖精】と【ロキ・ファミリア】、アイズへの極秘依頼
「あーダメダメ、こんなんじゃ実戦じゃ使えないよ」
ある日、アイズ達が長期でダンジョンに潜っていた時、【ロキ・ファミリア】の
一人の女性……いや、見た目は少女が演習場で鍛錬をしていた。
【ロキ・ファミリア】幹部、Lv.6【
「う~ん、次は【ライトニング】を剣身に集中させて……それをそのまま放つ……はしたことあるし……」
「なんじゃコマチ、一人で鍛錬か?」
「ガレス……うん、そうだよ」
思考錯誤しているコマチに背後から声をかけたのは【
彼は【ロキ・ファミリア】の最古参で最高幹部であるが、現在フィン、リヴェリアが出払っているため事務仕事に追われている。
「しかし随分とコマチも強くなったものだ」
「ううん、まだまだだよ。現にガレスに勝てないと思うしねー」
「がっはっは、そりゃあまだ負けんわ……ただ強くなった、それは軽く儂等の想像を超えてな」
「……そうだろうね」
「辛気臭い話はなしにして……コマチ、今から儂と模擬戦をしないか?」
「え?」
「なあに、ただダンジョンに潜れとらんからで体がなまって仕方がない。お主も随分強くなったし、本気でやっても問題ないようじゃしな」
「……のった」
「決まりじゃ」
こうして二人の模擬戦が始まった。
***
「はあああ!!」
「ふん!」
先制攻撃はコマチだ。
ただの、ごく普通の剣の振り。コマチの剣はそれだけで凄まじい速度を出しながらガレスに向かうも、ガレスは簡単に、普段と変わらない様子でそれを受け止める。
「ライトニング!」
コマチの十八番である速攻魔法。普段ならダメージを与えるために使用するが、今回は目くらましに使っていた。
理由はごく単純。ガレスにこの程度の魔法など効きはしないからだ。
ステイタスは互いにLv.6。個々で見れば力と耐久はガレスが圧倒的であり、敏捷と魔力ではコマチが優っているとみえるこの対決。
普通に見ればガレスが勝つに決まっているものだが、これに技と駆け引きが加わってくるため、同じレベル同士の対決は気が抜けないものになってくる。
コマチは【ライトニング】を放ったあと、すぐさまガレスの背後に回ろうと駆ける。敏捷値はベートには及ばないまでもアイズを超えるそれは、もはや一瞬といっても過言ではない。
「はぁぁぁぁぁ!」
「ふぅん!!」
が、それくらいでやられるガレスではない。
目の前から消えたコマチを察知し、斧を横薙ぎに振るった。
轟音。
かなりの力が込められたそれは、後ろから襲いかかろうとしていたコマチの剣をコマチごと吹き飛ばす。
コマチは咄嗟に受け身をとるも、腕のあたりから少し血が出ていた。
もちろんその程度の負傷でへこたれるコマチではない。
「やっぱ強いや、ガレスは」
「がっはっは、まだまだ若い者には負けんわ!」
「さて、仕切り直しだね……ありゃりゃ」
【ライトニング】を刀身に纏わせて斬り合いに持ち込んで隙を作らせようかな……と思っていたコマチの目に飛び込んできたのは、【ロキ・ファミリア】の第二級、第三級やLv.1の団員だった。
先程のガレスの轟音で何があったのかを見に来たのだ。
「うおおお!!コマチさんとガレスさんが戦ってるっす!」
【超凡夫】ラウル・ノールドが目を輝かせながら修練場を見つめている。
それもそのはず、第一級冒険者同士の対決など滅多に見られるものではない。
さらに【光の妖精】と【重傑】の対決はこの6年間、一度も起こり得ていないものだったりするため団員達が興奮するのはしょうがないだろう。
「おーいラウル、お主も混ざらんか?」
「ええ!?」
「おい、ラウルいい機会だぞ!行って来いよ!」
「骨はちゃんと拾うから安心して戦ってラウル」
「俺それ死んでるっすよ!!」
ガレスも気づいたらしく、ラウルにちょっかいをかけ、すぐさま他の団員が乗る。
いつも通り弄られるラウル。どんまい。
「じゃあ、仕切り直して続きやろう、ガレス」
「よしかかってこい」
再び戦闘態勢をとった二人は先程と同じく、いや、先程より激しい戦闘を繰り広げ始めた。
***
「いい汗かいたなぁ」
黄昏の館女性用シャワールーム。
コマチはここで一人汗を流している。
あのあと昼飯時までガレスと本気で模擬戦をしていたが、結果は引き分け。
ガレスは本当に強くなったと豪快に笑っていたが、コマチはそうは思っていなかった。
「まだまだだ……」
コマチ自身、この6年間は激動の、激変の月日だった。
兄の抜けた【ロキ・ファミリア】の戦力は激減した。いや、それ以上に『遠征』時の
フィン、ガレス、リヴェリアが手を抜いていたわけではない。それほどまでにハチマン・ヒキガヤという冒険者の死というものは絶大な影響をもたらしたのだ。
『遠征』に出れば必ず一人は死者が出る。いくらLv.6の最高峰が三人いたからと言って全員を常時カバーできているわけではない。
コマチはそんな【ファミリア】の現状を変えようと強くなるために必然的にダンジョンに潜る日が多くなった。
実際一人で『下層』、『深層』で何度も死にかけた。安全マージンなど一切取らず、毎日毎日、毎日毎日、ひたすらダンジョンに潜った。
そうして数年前、Lv.6に到達した。
その頃には今の第一級冒険者であるベート、ティオネ、ティオナが強くなってきたこともあり、レフィーヤが入団した三年前からは一度も死者が出ていない。
コマチ自身も遊撃部隊を率いる立場になり、【ファミリア】の幹部としても責任を持つようになった。
そんな日々を過ごしてきたコマチの中にあったもの、それは……。
「お兄ちゃん……
兄への執着。
もはやブラコンという言葉すら生ぬるい。
ヤンデレを超えたナニカ。
コマチはハチマンが死んでいないと信じている。いや、思いこもうとしている。
そんな状態が6年。普通では考えられない……異常な精神状態である。
「コマチ強くなってるんだよ?アイズだって他の皆だって強くなってるんだよ?だから、早く帰って来てよ……」
コマチの独り言がシャワー室で反響した。
***
「何なんだよあの数は!?」
「つべこべ言うな!早く逃げろ!!」
――――――『中層』24階層。
巨大な樹木が立ち並び、壁や天井に途切れ途切れに付着している苔が青や緑色に発光し、場を明るく照らし出す様は秘境と言えるほど幻想的だった。
広い通路が入り組んだそんな大樹のダンジョンの中で、美しい風景に似つかわしくない慌ただしさで大勢の冒険者達が走っている。
下級冒険者から多くの羨望と憧れを向けられる都市の実力者達は、しかし、今は逃げ惑っている。
冒険者達の背後には、数えきれないほどのモンスターの大軍が迫っている。
【ファミリア】の異なった複数パーティが同時に巻き込まれ、一蓮托生とばかりに退却を強いられる。申し訳程度に武器が打ち鳴らされる音や、矢が射る音が響いていたが、それも夥しい行軍の前に押しつぶされ、退却の進路上にいた冒険者パーティも巻き込まれ、悲鳴の数が加速していく。
「どっかの馬鹿がモンスターどもを引っ張ってきたのか?!」
『
「最近のこの階層はおかしいぞ……!?モンスターとの
仲間がやられた!!誰か、誰か助けてッ!畜生!!
モンスターの群れに呑みこまれたものは鋭い牙や爪に引き裂かれその命を失うものが相次いでいく。
「一体どうなってやがる!?」
叫喚を放ちながら冒険者達は上の階層へと繋がる階段に駆けこんでいった。
「………行ったか」
冒険者達が後にした24階層の中心付近。
一人の男がちらっと高い木々の隙間から様子をうかがっていた。
「それにしても……なんでこんなに大量発生してるんだよ。近頃のダンジョンってこんな仕様なのか?」
『ダンジョンって鬼畜すぎない?』
いや、もう一人。
「……冗談はこれくらいにしてだな。本当は原因探しをしたいんだが生憎証拠を残すと
『うんうん』
「とりあえずこのモンスターの大軍狩るぞ。そうすれば
『むーっ!私とデートしてる時に他の女の名前出すなんて、めっ!だよ!!』
「これデートじゃないだろ……早く仕留める。×××、行くぞ」
『はーい』
「【解放】」
そう男が唱えた瞬間少女の体を光が包み、一振りの槍が顕現した。
それを手に持った男はモンスターの大軍に狙いを定める。
「喰らえ」
刹那、モンスターの大軍はその姿を魔石やドロップアイテムへと変えた。
【剣姫】の手によって『ウダイオス』撃破が成し遂げられた、二日後のことであった。
***
――――【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインによる『ウダイオス』単独撃破。
その一報は瞬く間に冒険者達、いや、都市中に広まった。
多くの者が改めて恐怖や畏怖、憧れを抱く中。
そのアイズは、【ファミリア】のホームで盛大に落ち込んでいた。
37階層での死闘の末、『ウダイオス』を倒したアイズはリヴェリアとともに地上へ帰る途中、生き倒れていた冒険者―――再開を望んでいた白兎、ベルと出会った。不始末によってとり逃がしたミノタウロスから救い出し、そして酒場で傷つけてしまった白髪の少年だ。
気絶している彼をモンスターから護衛し、計らずとも謝罪する絶好の機会を手に入れたアイズだったのだが……結果は惨敗。
脱兎の如く逃走されるという、非情な現実が彼女を打ちのめした。邂逅の時と全く同じ、悪夢の再来である。
――――私は、逃げられたのだ!
――――やっとのことで出会えた白兎に、ベルに、全力で!
悲しみと言うには生ぬるいほどの衝撃を受けたアイズは失意のどん底に落とされた。派手に項垂れてホームへと帰ってきた彼女の姿を見て、他の団員達はもちろん、さすがのティオナとティオネもぎょっとうろたえ、声をかけることすらかなわなかったほどである。
ただ一人、白兎を発見したところまで同行していたリヴェリアにどうしたのだと問いかけられ、アイズはぽつり、ぽつりと訳を話した。
『……ちゃった』
『なに?』
『また、逃げられちゃった』
『……くっ』
肩を揺らし、確かに笑ったリヴェリアを、アイズはどんっ!と両手で突き飛ばした。
真っ赤になって頬を膨らませると、リヴェリアはいよいよ声を上げて笑い出して、レフィーヤ達エルフを動揺させた。高貴な王族が耐えきれぬとばかりに笑声を上げる光景を、彼女達は見たことがなかったのだろう。そんなアイズも一二回程しかないが。
(リヴェリアがいけないんだ……)
ぐすん、とアイズは人知れず泣きべそをかく。
心の中に住むミニマムアイズはすでに奇声を上げながらどこから取り出したのか分からない毛布に抱きついている。
(ぜんぶ、リヴェリアが悪いんだもん。膝枕なんて提案をしたから……。ハチマンのは気持ち良くても私のは気持ちよくなかったんだ……)
あああ、と両膝を抱えてアイズは幼児退行する。
(……私、怖がられているのかな?)
ひょっとしてひょっとするかも……と一度考え出せば歯止めが効かなくなってしまった。
アイズは巷で『戦姫』と畏れられるほどに有名である。白兎の前でミノタウロスをあっという間に八つ裂きにし、しかもその血を浴びせた自分は……恐怖ではないだろうか。
後ろ向きの思考が止められない。負の連鎖が続いていく。心の奥底で完成したのは、ミニマムアイズのもとから愛らしいモフモフの白兎が逃走していく悲劇的な構図だった。
――――私は、怖がられているのだ!!
うにゅう、と音を立て、アイズは倒れた。
「ほれ、アイズたん。いつまで落ち込んでんねん」
と、立ち上がったロキが声をかけてくる。
先程まで客人が来ていたようだが、失意に沈んだアイズにはおぼろげな記憶しかなった。
「……うううー!」
「……こりゃ重症やな」
普段ならありえないくらいに感情を外に出しているアイズは、客間のソファのクッションに顔を埋まらせている。
「そや、【ステイタス】更新しよ?帰って来てからまだやっとらへんやろ?な?」
「……わかった」
見かねたように提案してきたロキに、アイズはのろのろと頷いた。
癒えない傷を抱えながら、勧められるまま身を委ね、ロキの部屋へ入った。
「フヒヒ、今ならアイズたん好き放題に……」
「変なことしたら斬る」
「え、まじで?」
いつものようにたくさんのガラクタが散らばっている部屋から椅子を取り出したロキは、アイズを座らせて背中に自身の血を垂らしていく。
「……?」
ふと、背を這う指の動きが止まった。ぴたりと動きを止めたロキの方を振り向けば、彼女はわなわなと震えていた。
どうしたのだろうとアイズが思っていると――――女神はがばっと顔を上げ、歓声を放った。
「アイズたんLv.6キタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
感情の赴くままに大音声が打ちあがる。
ホームの隅から隅まで響き渡った主神の喝采に、何かがひっくりかえるような慌ただしい騒音が館の至る所で生まれた。
うひょー!と子供のように小躍りする主神を前にしながらも、アイズの頭の中は未だに少年のことで埋め尽くされていたため、きょとん、としてしまっていた。
***
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.5
力:D555→D598
耐久:D547→D571
器用:A825→A866
敏捷:A822→A849
魔力:A899→S915
狩人:E
耐異常:F
剣士:F
「これがLv.5最後の【ステイタス】やな!」
更新した【ステイタス】の内容を流れるように共通語へと書き換え、ほいっとロキが羊皮紙を手渡してくる。
軒並みかなり上昇した基本能力値の中でも、『魔力』は他を抜きんでた。【ランクアップ】する冒険者の最終ステイタスは大抵がDかC、よくてBだ。アビリティ最高評価と言われているSに到達する者などほとんどおらず、十分に誇っていい成果だ。
「【ランクアップ】の特典、『発展アビリティ』も発現可能や!よかったなぁアイズたん、Lv.5の時はなんもなかったもんなぁ」
「………どんなアビリティ?」
「『精癒』や!あのリヴェリアとハチマンだけが持ってたやつ!選べるのも一つだけやし「それでいいよ!」ア、はい」
興奮気味のロキにハチマンの名前が出たからか興奮しだしたアイズがのっかり、結果、アイズが勝った。
……勝ったところで何もないのだが。
待機状態にしている【ステイタス】へ、ロキは早速とばかりに指を走らせた。
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.6
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
狩人:E
耐異常:F
剣士:F
精癒:I
アイズはロキが共通語に書き直す前に用紙を受け取り、解読してしまった。
発展アビリティ『精癒』は精神力の自動回復。深い休息を取らなくても、『魔法』を行使した側から少量ではあるものの精神力が回復していく。極端な話、時間さえあればマジック・ポーションが不要となるのだ。精神力の消費が激しい魔導師なあらば、泣いて喜ぶ『レアアビリティ』の一つである。
すべての能力項目も含め、アイズが積み重ねてきた【経験値】――――不断の努力が実を結んだ結果であった。
「なんや、階層主を一人で倒したんか。そりゃ【ランクアップ】するわ。これ、ハチマンの時とおんなじやなぁ」
「うん、めっちゃ強かった。これをLv.4でやり遂げたハチマンは最強だと思う」
「お、おおう、せやな。確かになー、アイツに勝てる奴おらんかったからな……Lv.5になってからは、もう敵なしや。フィン達でさえ一対一じゃ敵わんくなっとったし」
「……アビリティSSS、私もあれくらいの数値が手に入ったらいいのに」
「アイズたんやっぱり知ってるんかー、それ他言せんといてな?【ロキ・ファミリア】だけの秘密や、秘密」
「もちろん、だよ」
基本アビリティ、発展アビリティはI~Sまでの評価値がある、というのが一般的な認識ではあるが、実はその上も存在する。
SS、SSS。どれも数千におよぶステイタス値が必要で到達できた者など神話の時代からでも一人や二人くらいではないだろうかとさえいわれる程に極めてまれなケースだった。
「アイズたん」
「うん?」
「……今のアイズたんには強くなること以外に気にかかることがあるみたいやなー」
「!?」
否定、できない。
あの少年と出会ってから、時間があれば彼のことを考えている気がする。今さっきまでも少年との触れ合いで一喜一憂していたのだ。
どうしちゃったんだろう、とアイズは胸に手を当てて考え込む。
戸惑いとは異なる素朴な疑問だった。
「も、もしかして男!?男かアイズたん!?いや、でもそれはありえんか……」
「……?」
ぶつぶつとなにかを言っている主神を尻目に首をかしげるアイズ。
よくわからなかったからこれはよくある『発作』だととらえることにした。たまにわけのわからないことをいう主神の行動を団員達は『発作』と呼んでいるのだ。
(これから……どうしよう)
とにかく、気が重たかった。
いつか、少年に謝罪できる日がやって来るのだろうか。
逃げ去る白兎の横顔を思い出したアイズは、もう一度、しょんぼりとしたのだった。
***
翌日、食堂。
アイズのLv.6到達を受け、【ロキ・ファミリア】は色めき立っていた。
ある者は褒め称え、誇らしげに思い、ある狼は不機嫌そうに肉にかぶりつきながら話しかけてくるラウルを蹴飛ばし、あるアマゾネスの妹は先を越されたー!と悔しがって姉がげんなりしていた。
そんなファミリアの様子に派閥の首脳陣達は朝食後、首領の執務室に集まっていた。
「アイズもとうとうLv.6になりおったか」
「あの娘に触発され、ティオナ達もすぐに続くだろうな。……まあ今回のアイズのように無茶をやらなければいいが」
「はは、ま、士気が上がることはいいことだよ」
ドワーフのガレス、エルフのリヴェリア、小人族のフィンが言葉をかわす。
「フィン達もうかうかしておられんとちゃう?古参の面子を潰されんようになー」
そしてもう一人。
主神であるロキがニヤニヤしながら三人に向けて言い放つ。
「これでLv.6はフィン、リヴェリア、ガレス、コマチ、アイズの5名になったわけや。駄女神んとこに引けをとらんな」
「……ロキ、まだ女神フレイヤを駄女神と呼んでいるのかい?」
「当たり前や!ハチマンに誘惑しかけといて魅了が効かんで逆に虜とか駄女神としか言いようがないしなー」
「それは、そうだろうが……」
しばらくの間は雑談で盛り上がった四人だったが、フィンが途中で話を変える。
「じゃ、そろそろ始めようか。極彩色の魔石とそれにまつわる話。詳しい話の情報交換をしよう」
***
――――
……え?
――――
……何を言ってる、の?
――――あの子は似てるんでしょ?姿はぜーんぜん違うけど、
……やめて。
――――結局、
……やめて!!
「………は」
気がついた時にはダンジョンの入口に立っていた。
(さっきのは何……?)
先程見た光景は、相手は、いったい誰なのか。
うーん、うーんと悩んでいた時、アイズの目の前に知った顔が現れる。
「あ、ヴァレンシュタイン氏!お願いがあるんですが聞いていただけますでしょうか!」
「あなたは、昨日の」
話しかけてきたのは昨日会ったばかりの客人、ハーフエルフのエイナ・チュールだった。
***
「あの、白い髪の男の子を見かけませんでしたか?」
「ええ!け、【剣姫】!」
ダンジョン5階層。
『上層』に区分される場所でアイズは人探しをしていた。
先程エイナから個人的な依頼――――『少年ベル・クラネル』を助けてほしいというものだった――――を遂行中である。
Lv.6の速力をもって各階層を聞き込みをしながら踏破していく。
7、8、9……10階層。
(10階層?どうして……?)
10階層に来てアイズの頭に疑問符が浮かんだ。
アイズの知り得る少年は駆けだしの冒険者だったはずだ。ミノタウロスに殺されかけていたときの動きを見るに、冒険者の中でも底辺に位置するであろう動きだったはずだ。
それが、どうして。
(……成長、した?)
この約20日の間に?
当時のアイズでも、ハチマン達の指導期間があったとはいえ、一人で辿り着くまでに3ヶ月かかったこの10階層に、そんな短期間で。
(速過ぎる――――)
いくらなんでも荒唐無稽すぎる。
そんな冒険者は聞いたことがない。
いや、今はそんなことより捜索……。
アイズは頭を切り替えて階層内を疾走する。
その時。
「ファイアボルト!」
『グエェ!!』
間違いない。
この音、この剣戟、戦闘が行われている。
そしてそこに少年は―――いた。
(私と、同じ―――――)
速攻魔法。
見ただけで分かる、最速の魔法。
本当に、少年はここで戦えるほどの力を手に入れていたのだ。
だが。
『グオオオ!!』
「ッあ!」
5体ほどのモンスターに囲まれては戦闘も難しいだろう。
アイズはその手に『デスぺレート』を持ち、すぐさまモンスターを両断した。
『グエエー!!?』
「!?」
視界を遮断する霧の立ち込める階層の中。
アイズと少年はまた会ったのだ。
「す、すいませんっ!」
「あ」
崩れた包囲網をみて、少年は強行突破を決行した。
もちろんモンスターが襲いかかろうとしたが、瞬く間にアイズに殲滅させられた。
「行っちゃった……」
それまでの戦闘が嘘だったのかのように静まり返った草原の中で。
アイズは、ぽつりとつぶやいた。
声を懸けることもできなかった。
「……」
でも、とアイズは思う。
ひょっとしたら手助け出来たかもしれない。
少年は明らかに焦っていた。まるで仲間を助けるために焦燥にかられていた……ようにもみえた。
この勘は多分、当たっている。
アイズには謎の確信があった。
(これからどうしよう)
少年を助けたものの、このまますぐ戻れば顔を合わせるかもしれない。それはなんとなく避けたかった。
「……?」
何か光っている……?
光っているものを手に取ってみれば、エメラルド色に輝いたプロテクターだった。
モンスターからの防戦を物語るかのように、滑らかな表面はぼろぼろになっている。
「あ、もしかして……」
少年の装備品かもしれない。
先程の戦闘で少年の腕から光が出ていたのは見ていた。『オーク』の攻撃で叩き落とされたのかもしれない。
両手で持ったプロテクターを見下ろしながら、これが少年のものであると確信する。
「……?」
ふと。
視線を感じた。
がさり、とした背後の草むらからは上の階層から迷い込んだのか、兎のモンスター『ニードル・ラビット』が飛びはねていた。アイズの周りに広がる血や灰を見て、力量差を悟ったのか逃げ出していった。
ただのモンスター……?
いや、違う。さっきから意識に引っ掛かっているのはもっと別の、盗み見るような気配。
気のせい?
「……」
いや。
『……気付かれてしまうか。お見逸れする』
霧が揺らいだ。
出てきたのは全身を黒いローブで包み込んだ謎の人影だった。
「私に、何か用ですか?」
「ああ、その通りだ。だが言う前に、その剣を下ろしてほしい。君に危害を加えるつもりはない」
歩み出てきた不審人物は足を止めた。
確かに敵意をわずかにも感じ取れない。あえてアイズの間合いに入り、自身の生死をこちらの手にゆだねている。この距離ならばこちらが速い。
ひとまず剣を下げるアイズ。
「……あなたは誰?」
「なに、しがない魔術師さ。……以前ルルネ・ルーイに接触した人物、と言えば分かってもらえるだろうか」
「……ルルネさんに、クエストを依頼した人物……」
「ああ。その認識で良い。早速だが【剣姫】。君に冒険者依頼を出したい」
驚愕でいっぱいになっているアイズを前に、言葉を続ける黒いローブ。
「24階層で起きている異常事態の調査、及び鎮圧だ」
報酬はもちろん用意しよう、と黒衣の人物は続ける。
「ことの原因の目ぼしは付いている。恐らく、階層の最奥……食糧庫」
アイズは黙って聞く一方で、思考を走らせる。
24階層のイレギュラーは初めて聞いた話だが、どうして自分に依頼するのだろうか。どうやら機会を窺っていたようなのでなにかの意図があると思われる。
アイズは黒衣の人物を見つめた。
「実は以前、ハシャーナに依頼した30階層でも今回と同じことが起きていた」
「!」
アイズの肩が震えた。
その表情を同様に一変させた。
ここまで言えばわかるだろうと、告げるかのように。
「『リヴィラの街』を襲撃した人物……例の『宝珠』と関係している可能性が高い」
息を呑む。
これは自分を釣るための罠だとわかっていつつも、やはり思い出すのはあの時の光景。
――――そうか、お前が『アリア』か。
赤髪の調教師。謎の『宝珠』。
「事態は深刻だ。剣姫、君の力をどうか貸して欲しい」
アイズは懊悩し、散々悩んだあとで……しっかりとうなずいた。
「わかりました」
「ありがとう。では、よろしく頼む。まずは『リヴィラの街』によって他の協力者たちと顔合わせをしてほしい」
「わかりました」
特定の酒場で合い言葉を言え、という指示内容にアイズは頷いた。
伝えるべきことを伝え終わった黒衣の人物は、余計な話はせずに後退し、霧の中に消えていった。
最初の目的地は18階層。
調教師の女や『宝珠』のことを思い浮かべながら、アイズは現在地から出発した。
ぐちゃぐちゃになりましたね……申し訳ない。
続きは出来る限り今月に出します(出したい)。