続・やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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一日遅れで申し訳ありません!
多分これからも土曜か日曜かになると思います!

今回は短めです。


喫茶店と思い出

 『豊穣の女主人事件』(ロキ命名)の翌日。

 【ロキ・ファミリア】所属の魔導師、レフィーヤ・ウィリディスはある場所へと向かっていた。

 昨日はベートが白目をむいてからというもの、ベートはティオナやリヴェリアを始めとした団員にさらに追撃を加えられ(ベート気絶中に)、ベートは部屋に放り込まれた。

 ベートは自身のしてしまったことを後悔している様子で今朝からアイズに謝罪しようとしていたが、ティオナ達に妨害されている姿が朝から目撃されていた。

 アイズも傷心気味でいつもなら遠征直後でも必ずダンジョンに出向くのに、今回は部屋に閉じこもったまま一度も姿を見せていない。

 

 アイズに憧れているレフィーヤとしては元気づけたいものだが、逆効果になってしまっては元も子もないため、アイズと長年の付き合いがあるロキとリヴェリアが昼食とともに様子を見に行くらしい。

(私だってアイズさんを元気づけたい……!)

 昨日の騒動でアイズが傷心気味になってしまったのがベートのせいだと思い込んでいるレフィーヤは、しばらくはベートに関わらないようにするつもりだった。

 そして、彼女が現在向かっているのは……。

 

「……ダイダロス通りに来たのは久しぶりですね」

 

 ダイダロス通り。

 奇人ダイダロスが築きあげた通りの名で、度重なる区間整理のせいで一度迷いこめば二度と出ることが出来ないとまで言われるほど複雑になっている。オラリオに住む人々からはもう一つの迷宮とも呼ばれている。

 オラリオの東と南東のメインストリートに挟まれる形で存在する住宅街。

 ダイダロス通りに住む者は貧しいものが多く、貧民層の広域住宅街であると言った方が正しいだろう。

 そんな場所にレフィーヤが来た理由は。

 

「あった……!青い屋根の家!」

 

 ある程度広めな道の途中にある青い屋根の家から路地裏に入り、三つ目の十字路を右に曲がり、そこから二つ目の十字路を左に曲がってしばらく進んだ場所には……まるで隠れた名店のような雰囲気を醸し出している喫茶店がある。

 レフィーヤは少し緊張しながらも扉を開ける。

 

「こ、こんにちは」

 

「いらっしゃいませ……おや、レフィーヤさんでしたか」

 

「お久しぶりです……サリオンさん」

 

「確かに久しぶりですね。この席にどうぞ」

 

「はい」

 

 扉を開けた先で迎えてくれたのは、優し気な笑みを浮かべるエルフの男性だった。

 

 

***

 

 

「今回の遠征も無事に帰ってこれました」

 

「そうですか……レフィーヤさんが無事で嬉しいです」

 

「え?」

 

「レフィーヤさんは開店当初からこの店に通ってくれている常連さんですし、何より同じ種族ですからね。かなりの付き合いがある人がいなくなってしまうのは……耐えられません」

 

「そ、そうですか。ならこれからも無事で帰ってこなきゃですね」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「もちろんです!」

 

 レフィーヤは学区に通っていた三年前からこの喫茶店に通っている常連であり、【ロキ・ファミリア】に入団してからは遠征後は必ず来るようにしている。

 喫茶店が出来たのがちょうど四年前くらいで、レフィーヤがこの喫茶店を知ったのはたまたまの偶然だ。学校の休日にダイダロス通りを探索していたら案の定迷ってしまい、この喫茶店に行きついた、というわけである。

 

「注文はどうされますか?」

 

「いつものでお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 少し待ってて下さいね、と言って店主であるサリオンは店の奥の厨房へと歩いていった。

 レフィーヤがいつも頼むものはホットケーキに紅茶のセットだ。価格は1000ヴァリスなのだが、レフィーヤが払ったのは初めてきた一度だけで、それ以降は払っていない。何故ならサリオンが受け取ってくれないからだ。

 店主であるサリオンはレフィーヤの故郷があったエルフの森とは遠く離れた隠れエルフの一族であり、様々な事情からこのオラリオで喫茶店を営んでいるのだと言う。

 サリオン曰く、「自分は客の笑顔が見られればそれでいい」らしく、この貧民地域の中にある孤児院に料理を作って持って行ってもいるようだ。

 レフィーヤとしては相手は年上であり、自分は客だからお金を受け取ってほしいのだが、サリオンが中々に剛情のためいつもお金は支払えていない。

 

「やっぱりここは落ち着きますね……静かで気持ちが良いです」

 

 店主がエルフだからか、店の作りが特殊なのかは分からないが、この喫茶店内は心地よい雰囲気で溢れていた。

 周りを見渡せば自分以外に客はなく、木製のテーブルは外から入る光を浴びて輝いていた。

(これって……もしかしてサリオンさんと二人きり……?)

 レフィーヤがここに通い続けている理由は三つある。

 一つは先程も話した通り雰囲気が良いからであり、二つ目はどのメニューも美味しいから。そして三つ目は……。

(ど、どうしよう、今更緊張してきた……!)

 レフィーヤはサリオンにただならぬ感情を抱いている。

 レフィーヤ自身、それがなんなのかは分からないが、とにかく緊張するのだ。

 あの優しさに触れるだけでどうしようもなく心がときめいてしまうし、笑顔を見れば赤面してしまう。

 前回に来た時に頭を撫でられたときなんか気持ちよ過ぎてそのまま眠ってしまった。

(平常心平常心平常心平常心……へージョーシン)

 レフィーヤは一人ブツブツと暗示のように繰り返す。

 繰り返していくうちに無心となりつつあり、新たな境地を開こうとしていたレフィーヤの元に、甘く香ばしいいい匂いが漂ってきた。

 その匂いの元とともに、奥の厨房からサリオンが出てくる。

 

「わぁ!」

 

「お待たせいたしました。こちらパンケーキになります。すぐに紅茶を持ってきますがよろしいですか?」

 

「お願いします!」

 

 数十秒後、サリオンが紅茶とクッキーを持って戻ってきた。

 

「紅茶はアイスとホット、どちらがいいですか?」

 

「アイスで」

 

「どうぞ」

 

 綺麗な波紋が描かれているグラスに出来たてのアイスティーが注がれる。

 

「いただきます」

 

「はい、どうぞ」

 

「はむっ……んん~っ!今日はこれを食べに来たんです♪」

 

「喜んでいただけたなら嬉しいです。ついでですがクッキー食べませんか?前の客の時に作り過ぎてしまって」

 

「食べます!」

 

 今のレフィーヤを見れば分かるだろうが、普段からはありえないほどに目が輝いている。

 三年間通っていただけあって、喫茶店のメニューのほとんどは食べたことがあったりするレフィーヤ。クッキーの美味しさももちろん知っている。

 

「はぁ~この時間が幸せなんです~」

 

「あはは、レフィーヤさん最近疲れているんですか?それか食事をあまりしていないとか?」

 

「遠征終わりはこんなもんです……それと食事はしてますけど……」

 

「いえ、私が作った菓子をすぐに平らげてしまったので、余程お腹が空いていたのかと」

 

「こ、これはち、違うんです!!」

 

「違う……というと」

 

「私が食いしん坊なわけじゃなくてサリオンさんが作る菓子が美味し過ぎるからいけないんです!」

 

「それはそれは。嬉しいことを言ってくれますね」

 

「ほ、本当ですよ!お世辞とかじゃないですから!本心です!」

 

「ふふっ、わかってますよ」

 

 それは客の顔を見れば分かる、とサリオンは告げた。

 その後は【ロキ・ファミリア】の話を中心に時折菓子をつまみながら談笑をしていた。

 サリオンは一時期冒険者だったこともあるらしく、レフィーヤの話に対する理解度が高い。そのためレフィーヤもついつい色々と話しこんでしまい、すっかり日が落ち始めていた。

 

「おや、もうこんな時間ですか。あっという間でしたね」

 

「そうですね。ここは気分が落ち着くのでいつまでもいれる気がします」

 

「雰囲気にはこだわったのでそう言ってくれるお客がいると私も嬉しいです」

 

 すっと不意にサリオンが視線を夕日に向けた。

 その青色の瞳は何を見ているのだろうか。

 そんなサリオンを見つめていたレフィーヤは唐突に、あ、と相談事を思い出した。

 

「サリオンさん、ちょっと相談なんですが……」

 

「どうしました?」

 

「あの、実はアイズさんの元気がないんです」

 

「アイズさん……【剣姫】がですか?」

 

「はい。昨日、遠征後は恒例の宴を『豊穣の女主人』で開いたのですが……その時にハメを外し過ぎたベートさんがある冒険者を罵ったんです。それからアイズさんには雑魚は釣り合わないとか言って……その後に一人のお客が食い逃げして店を出て行ったのをアイズさんが追いかけて行って……今朝から一度も部屋から出てこなくなってしまって」

 

「……そういうことだったのか」

 

 正直レフィーヤの説明はかなり雑だろう。何故アイズが傷ついたのかがさっぱり理解できない筈だ。

 しかし、サリオンは静かに瞑目し考えるようなしぐさを取っている。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……それでレフィーヤさんはどうしたいんですか?」

 

「……私はアイズさんに元気になってもらいたいです」

 

「そのために何をすればいいのか分からないから相談……ということですか?」

 

「は、はい!」

 

 レフィーヤは真剣な表情でサリオンを見つめる。

 だがこの時レフィーヤは気付くことが出来ていなかった。

 ……サリオンの口調が少し変であることに。

 

「……相談とかいつぶりだろうな

 

「え?」

 

「あぁ、いえ、なんでもないですよ。それで【剣姫】を元気づけるための方法、ですか」

 

「はい」

 

「……そうですね。それなら――――――――――」

 

 

***

 

 

 東の空より朝日が上り、今日もまた一日が始まる。

 だが【ロキ・ファミリア】の【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタインはいつも通りとは言い難かった。

 普段であれば朝早くに起床して剣の素振りを行うのに、ホームの中庭の長いすに座ってぼーっとしていた。

(あの男の子……傷ついた、かな)

 アイズが考えていたのは先日の酒場で見かけた少年のことだった。

 アイズが悩んでいるのはベートに罵られたから―――――――ではない。

 そのことを聞かれたのが、何故か酷く心が痛んだのだ。

(謝りたい……)

 どうしたいのか自分でもよくわかっていない。

 でも、それでも、多分謝りたい。

 少年を傷つけてしまったことを。

 だって、少年の姿は幼い時の――――――――自分に凄く似ているから。

 力が無くて、この世の理不尽に立ち向かおうとしても何もできなかったあの頃に。

(それに……あの狼男……ハチマンに似てた)

 少年を追いかけて店を出た後、再び戻る際にすれ違った狼男。ハチマンはヒューマンだしあの狼男がハチマンなわけがない。

 それでも、彼にハチマンの面影を見たのは事実だ。

(ベートさんを一撃で気絶させて……強さも本当に似てる。……気分もすっきりしたし)

 このオラリオ内に狼人で冒険者をやっているものは数少ない。

 さらに第一級冒険者であるベート以上の狼人はこのオラリオには()()()()()()なのだ。

 ……ついでに言えばベートの物言いには表情には出さなくても心の中のミニマムアイズが激怒であったためすっきりしたのは秘密だ。

 

「……」

 

 

***

 

 

「むー」

 

 腕を組み、ティオナは唸る。

 

「ティオナさん……?」

 

「何難しい声出してんのよ」

 

 酒場での件から数日経ったある日。

 朝の食堂でレフィーヤとティオネに見つめられながら、考え込む。

 

「アイズ、まだ元気なかった」

 

「ベートに腹が立っているだけでしょう?放っておけばその内元に戻るわよ」

 

「いや、多分ベートはあんまり関係ないんだよ。確かにアイズも心の中では腹が立っているかもしれないけど、アイズは端からあの狼男のことは気にしてない」

 

「あんた、白目向いたベートにあれだけのことをしといて……」

 

「アイズは別のことで落ち込んでる」

 

 ティオナは考えることが苦手だ。

 アイズの心を気遣ってやることなんてできないだろうし、悩みそのものの解決も無理だろう。お節介を焼きに行ってもきっと失敗で終わる。

 これまでもこれからも、ティオナは能天気な振る舞いで、アイズから笑顔を引っ張り出してやることしかできない。

 

「あ、いいこと思いついた。レフィーヤ、ティオネ。この後予定とかある?」

 

「いえ、特にはないです」

 

「あたしは団長の手伝いに……」

 

「じゃあ暇だね。今日あたしに付き合って!」

 

「ちょっとっ!」

 

 小難しいことなんて知ったこっちゃないとばかりにティオナは即決する。

 要はティオナがアイズのしょぼくれた顔を見たくないだけ。

 アイズの親友を自称する彼女は椅子から立ち上がった。

 

「あたし、アイズ呼んでくる!」

 

 行きよいよく食堂を飛び出す。

 ホーム内のあちこちを駆けまわり、アイズの姿を探す。

 部屋、屋根裏、公務室、主神の部屋……。

 色々な場所を探してみるものの、アイズの姿は見当たらない。

 

「……おい」

 

「わっ!?」

 

 狭い廊下を走っていたときだ。

 長い脚が横木のように壁にかけられ、ティオナの行く手を阻む。どうにか停止ししたティオナは、いきなり通せんぼしてきたベートを睨みつけた。

 

「ちょっとあぶないじゃん!どいてよベート!」

 

「……アイズなら、中庭にいるぞ」

 

「え……」

 

 呆気にとられるティオナを見て、ベートは足をどける。

 唇を結び、不貞腐れたようにその灰髪をかきながら、その場を離れだした。

 廊下の奥へと消えた背中に、調子が狂ったような表情をしたようなティオナは、両目をつぶってべーっと下を突き出した後、素直に中庭へと向かった。

 

「!!」

 

 ベートの言葉通り、アイズはいた。

 木の下の長椅子に座り、視線を空へと向けている。

 ティオナはぱっと顔を明るくさせ駆け寄った。

 

「ア~イズ!」

 

「……ティオナ?」

 

「買い物に行こう!」

 

 

***

 

 

 レフィーヤ達と合流したティオナはアイズを連れて街へと繰り出した。

 都市の最北端にあるホームから近い北のメインストリート。ギルド関係者が住まう高級住宅街も隣接するこの大通りは、商店街として活気付いている。

 

「ったく、強引に連れだして……」

 

「いーじゃんたまにはさ。ぱーっと気晴らしに買い物に行きたいって、ティオネだって前に行ってたでしょ?」

 

「あの、ティオナさん、それで何を買いに行くんですか?」

 

「服!服買いに行こう!アイズもいいよね!?」

 

「う、うん」

 

 アイズの手を握り、ティオナは先導するように歩みを進める。

 北のメインストリート界隈は服飾関係で有名である。

 種族間に存在する衣装の壁は意外と大きく、体躯の大きさの関係もあれば、露出を好むアマゾネスと極力露出させないことを好むエルフなど、様々な問題が未だにある。

 今では商人たちの介入により服飾事情を発展させ、客と店側とのトラブルはあまり起きないようになった。

 

「ティオナさん、大通りのお店よりも路地裏の方が品ぞろえはよくないですか?お店もいっぱいありますし」

 

「わかってる、あたしとティオネがよく行く店が、そこの道を曲がったところすぐなんだ」

 

「えっ、ティオナさん達のお店って……」

 

 レフィーヤはまさかという危惧を抱くがティオナを止めることが出来なかった。

 

「こ、ここは……」

 

 紫色を基調とした看板と店を仰ぎ、レフィーヤの動きが止まる。

 開け放たれた扉からでも、非常にきわどい衣装が窺えるのは、アマゾネスの服飾店だ。

 

「久しぶりねー、私もちょっと羽目を外しちゃおうかしら」

 

「アイズ、行こう!」

 

「あの―――」

 

 ティオナとティオネに左右を挟まれたアイズはそのまま店内に連行される。レフィーヤも慌てて後を追った。

 結論から言えば、店内はアマゾネス以外の種族にとっては毒そのものだった。

 

「ア―イズ、これ着てみない?きっと似合うよ」

 

「なっ、なんでアイズさんが着ることになっているんですか!?」

 

「別にいいじゃない、せっかくだし。レフィーヤもどう?」

 

「き、着ませんっ!」

 

 確かに神の降臨とともに少しずつ影響が広がってきており、場合と用途によっては、他種族の衣装に興味を持って手を出すものもいなくはない。

 

「アイズ、これは?」

 

「え、えっと……」

 

 無邪気な笑顔とともにアマゾネスが着るような服を勧めてくるため、アイズは少しばかり困惑しているようだ。

 

「だ、駄目です!」

 

 わなわなと肩を震わせたレフィーヤの怒りが爆発した。

 

「こんな、こんなみだらな服をアイズさんに着せるなんて、私が許しません!?アイズさんにはもっと、もっともっと清く美しく慎み深い恰好をしなくては!そうっ、私たちエルフのような!!」

 

 ばんっと自分の胸を手で叩き、真っ赤な顔でまくし立てるレフィーヤ。

 無意識の内の種族の対抗意識を燃やしている彼女に、ティオナは揺さぶりをかける。

 

「でも、こんな服を着たアイズも見たくない?」

 

 ぴたっ、と動きを止めるレフィーヤ。

 ティオナの着ているパレオと胸巻きに、彼女の紺碧の目が止まる。

 

「あ、ありえません!?」

 

「ちょっとは考えたでしょ?でしょ~?」

 

 何を馬鹿なことをっ、と赤い顔を振って誤魔化そうとするレフィーヤは、アイズの手を取った。

 

「アイズさん、エルフの店に……いえ、ヒューマンの店に行きましょう!不肖ながらこの私が精一杯見繕います!」

 

「レ、レフィーヤ……」

 

 戸惑い、驚くアイズを尻目にレフィーヤはアイズの手を取り店の外へと出て行く。

 お互いに見交わすティオナとティオネは、にやりっ、と鏡で写したかのようにそっくりな双子の笑みを浮かべ、彼女たちを追いかける。

 その後もずっと、彼女達はアイズを振り回し続けた。

 

 

***

 

 

「「「おおー」」」

 

 三つの感嘆が重なる。ティオナ達が声を揃える中、気恥かしさで頬を染めるアイズは、人形の様にたたずみ軽くうつむいた。

 白い短衣にミニスカート。さり気なく花を象った刺繍が施されており柄は美しい。単純な服装の組み合わせだが、着こなしをしている素材が素材だ。美しい金髪を持つ女神とさえ言われる美貌を持つアイズが着れば、よく映えている。

 

「に、似合ってます、アイズさん!」

 

「うんうん、すごくいい!ロキがいたら飛びついてきそう!」

 

「それは嫌かな……」

 

 黄色い声が試着をしたアイズを取り囲む。

 彼女達はしきりにアイズの服装についての意見を述べ合っているが、アイズは違った。

(……こんなふうに服を買いに来たのは、5年前だっけ……)

 アイズは6年前の『27階層の悪夢』で師匠であり、心の支え―――――ハチマンを失った。

 それからというもの今日にいたるこの日まで、ほとんどの毎日をダンジョンで過ごしてきた。

 剣と鎧がない自分を見て、彼女達はどう思っているのか。

 

「アイズー!これを買おう!」

 

「う、うん」

 

「……あ……アイズさん、あの」

 

「……どうしたの、レフィーヤ?」

 

「ちょっと着てほしいものがあるんですけど、いいですか?」

 

「……いいよ」

 

 やった、と小さくつぶやいたレフィーヤは素早く店内を回り、再びアイズ達の元へ。

 

「あの、これなんですが……」

 

「……!」

 

「よかったら着てくれませんか?」

 

「いいよ」

 

(え?アイズの反応いつもより早くない?)

 レフィーヤとアイズの会話を聞いていたティオナはそう思ったが、あまり気にしないようにした。

 今着ている服の上から、レフィーヤの持ってきた服を重ね着する。

 アイズが試着を終えてレフィーヤ達の方を向けば……。

 

「ア、アイズさん!似合いすぎです!とても可愛らしいですよ!」

 

「いいじゃん!アイズ、それも買おうね!」

 

 まさに称賛の嵐だった。

 その後会計を済ませ、アイズはそのままその服の状態でティオナ達に連れまわされるのだった。

 

 

***

 

 

 西日が照り、街が茜色に染まっている。

 市街の奥で日入りが始まる中、ティオナ達はホームへの帰路へとついていた。

 

「あー、遊んだぁー」

 

「た、楽しかったですけど、疲れましたね……」

 

 四人固まって談笑を交わしながら、ティオナ達はホーム沿いに出る街路を折れ曲がった。

 

「あれ?」

 

「馬車……?」

 

 館の正門に普段見慣れない乗り物を見つけ、ティオナとレフィーヤは不思議そうにする。

 近寄って見れば豪華なドレスに身を包んだロキがまさに馬車に乗り込もうとしていた。

 

「わっ、ロキ、何その格好!?髪型まで変わっちゃってるし!」

 

「ん?帰ってきおったか四人娘。ぬふっ、どや?似合うか?」

 

「はい、似合ってますけど……どこに行かれるんですか?」

 

「ちょぉーっと神が馬鹿騒ぎする『宴』に足運ぼう思ってな」

 

「あら、『神の宴』には興味なかったんじゃないの、ロキ?」

 

「―――――フヒヒ。まぁちょっと愉快な情報耳に挟んでなぁ、貧乏神のドチビをいじりに行こ思って……それにあの駄女神にも探り入れんといかんし

 

 ティオナ達は最後の方はよく聞き取れなかったものの、前半よくわからないことを言っていたので首をかしげている。

 取りあえず、ロキがよからぬことを考えているということだけは分かった。

 馬車は相当立派なもので、車体本体に天蓋や窓がついており、数人が楽にくつろげるスペースも備わっていた。御者席にいるのは「なんで自分が……」とばかりにがっくりと首を追っているラウルだ。

 うわぁー、と気の毒そうなティオナの視線が寄せられる中、毛並みのいい馬が、ぶるるっ、と嘶く。

 

「ほんじゃー行ってくるわ!ご飯は適当に食べといてなー!あ、アイズたん、その服良かったな。よく似合ってるで」

 

 ぱちんっ、という音とともに馬車が動き出す。

 窓から手を振ってくるロキを眺めた後、ティオナ達は顔を見合わせてアイズを見た。

 アイズも自身の格好を目にする。

(レフィーヤには……感謝しなくちゃ)

 アイズが着ている服は――――――――――――()()()()()()()()()()()

 




怪物祭まで行けませんでした。
次は神の宴と怪物祭ですね。
次でソード・オラトリア一巻の内容が終わります。
そろそろコマチ視点で書きたい……。

日間7位!嬉しいです!
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