続・やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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すみません。今回もかなり遅くなりました。
しかも短いです。
本当はここで二巻を終わらせ三巻に入ろうと思っていたのですが……思っていた以上にリアルがきつかったです。
GWに遅れている分は取り戻す予定です。


謎の宝玉と忠告

 フィン達を中心にした騒ぎが起こる広場の端の商店の影で。

 その()()はいた。

(面倒なことになった……やはり殺したのは早計だったか。いや、エニュオに見られたら殺せと言いつけられている)

 男の喉を潰し、骨を折った感触は、未だ手中に残っていた。

 指を細かく動かしながら、行き場のない感情を持て余す。

(さて、どうするか……動きにくくなった。そもそもアレはこの街に残っているのか。まだ残っている気がするんだが……)

 心の中でブツブツと呟きを繰り返す。

 こっそりと群衆の端に紛れながら、場を取り締まる者たちを油断なく見据え、思考を働かせる。

(これ以外にも『アリア』の件もある……ああ、めんどくさい……)

 苛立ちが表情に表れ始め、いっそこの場の人間をすべて殺してしまおうか……そんな自棄的な考えが頭をよぎった時、その光景が視界に入った。

 人込みからそろそろと離れ始め、誰も見ていないときを見計らって走り出した獣人の冒険者と、それを追うヒューマンとエルフ。

 追われ、追う彼女達はただならぬ雰囲気を醸し出しながらわき目も振らず、広場から離れる。

 

「……」

 

 コツ、コツと音を鳴らし、その人物は足の向きを変えた。

 沈黙を纏いながら群衆の間を縫い、怪訝そうな視線を浴びながら彼女達を追う。

 階層内の水晶の光はゆっくりと落ち始め、街に『夜』が訪れようとしていた。

 

 

***

 

 

(へぇ、動き出したのか)

 18階層の天井にびっしりと生えている水晶の間から。

 一人の男が双眼鏡を使って下の様子を見ていた。

(フェルズさんが仕入れた情報から依頼した冒険者依頼(クエスト)だったんだが……やはり見張りがいる)

 男は内心で一人思考する。

(逃げたのがルルネ・ルーイ……フェルズさんが直接接触した冒険者。ヘルメスのとこのLv.3、か。それで追っているのがレフィーヤとアイズ……Lv.3とLv.5、か。この面子だと少しまずい……だがフィンにリヴェリアがいるし俺が出なくても……フェルズさんも出来る限り姿は見せないようにしろって言ってたしな……もうちょっと情報が欲しい)

 男は観察を続行した。

 

 

***

 

 

 アイズ達は逃げ出した犬人の少女を捕まえることに成功していた。

 始めは二人揃って後ろから追いかけていたが、途中でアイズが第一級冒険者にしか許されないであろう凄まじい移動速度で遠回りし、挟み撃ちにした。

 

「はぁ、はぁ、捕まえましたね。さすがアイズさん」

 

「ううん、レフィーヤのおかげだよ」

 

「はぁ、はぁ……事情聴取は団長達に任せた方がいいですね」

 

「うん、そうだね。広場に戻ろう」

 

 挙動不審だった彼女を怪しい人物と睨み、アイズとレフィーヤはフィンのもとに連れて行こうとした。

 しかし。

 

「やめて!!?」

 

 犬人の少女は途端に声を上げ、懇願する。

 

「お願い、やめて!あそこに連れてかないで!!そしたら、次は私が……!」

 

「あ、あのっ」

 

「ちょっ、ちょっと何してるんですか!」

 

 アイズに縋りつく形で両腕を掴み、犬人の少女は懇願する。

 そのあまりにも必死な様子に、アイズとレフィーヤは困ったように顔を見合わせる。

 

「どうしましょうか……?」

 

「……人のいない場所に連れて行こう」

 

「……わかりました」

 

 怯えている少女を見ながらアイズが提案する。

 少女の怖がりようは異常であり、未だに気が動転しているため一旦場所を変えることにした。

 人気のない階層内の端の方へと移動し、アイズとレフィーヤは犬人の少女と向かい合った。

 

「もう、大丈夫?」

 

「……うん」

 

 辺りはすでに『夜』に差し掛かっており、暗くなりつつあった。

 

「貴方の名前は?」

 

「ルルネ、ルルネ・ルーイ」

 

「Lv.と所属を教えてもらえますか?」

 

「第三級、Lv.2.所属は【ヘルメス・ファミリア】……」

 

 アイズとレフィーヤの質問にうつむきがちながらも答える少女。ルルネはすっかり落ち着きを取り戻したようである。

 彼女の瞳を見つめながら、アイズは事情を尋ねる。

 

「どうして広場から逃げ出したの?」

 

「……殺されると思ったんだ」

 

「なんで、ですか?」

 

「……貴方が、ハシャーナさんの荷物を持っているから?」

 

 アイズの鋭い言葉にレフィーヤとルルネが目を見張る中、アイズの瞳は少女が持っている小鞄(ポーチ)に向けている。

 ルルネは持っていた小鞄(ポーチ)に反射的に手を添え、やがて告白するようにぎこちなくうなずいた。

 

「どうして貴方がハシャーナさんの荷物を……も、もしかして盗んだんですか?」

 

「ち、違うっ!私は、依頼を受けたんだ」

 

 依頼、という言葉を聞いてレフィーヤははっとする。アイズも脳裏にヴィリーの宿で見た血まみれの洋皮紙が浮かべる。

 先を促すようにアイズは問う。

 

「その依頼の内容は?」

 

「……18階層(ここ)で受け取った荷物を、依頼人に届けること」

 

「運び屋ってことですか?」

 

「ああ。指定された酒場で、荷物を持ってくる相手と落ち合う手はずだったんだ。相手のことは知らなかったけど、装備の特徴は聞いてた。全身型鎧(フルプレート)の冒険者がやって来た時は、すぐにそいつだってわかった」

 

 後は他人を装いさり気なく近づいて、合言葉を口にするだけだったという。

 全身型鎧(フルプレート)の冒険者―――ハシャーナもルルネが依頼内容の人物だと気付き、彼が差し出した荷物を一瞬で受け取った。荷物を狙っていたローブの女も勘づけないほどの、本当にわずかな間に。

 そしてその後、依頼完了によって気を緩めていたハシャーナは、女の誘いに乗ってしまい殺害されてしまったのだ。

 

「役割を分担させて、しかも別派閥(べつべつ)の人を雇うなんて……」

 

 荷物を採取をする人物と、届けにくる人物を分けるかぎり、依頼人は相当用意周到だと言える。もし採取した者の足取りを掴んだとしても、多くの冒険者が出入りするこの『リヴィラの街』で荷物を回されてしまえば、その行方を追うのは限りなく困難だ。

 秘密裏な行動をさせていたことといい、多くの予備策を講じている謎の依頼人に、レフィーヤは思わず言葉をこぼす。

 

「依頼人は、誰ですか?」

 

「わからない……ほ、本当なんだって!ちょっと前に誰もいない夜道を歩いていたら、いきなり黒いローブの奴が現れて……」

 

「黒いローブ?」

 

「そう。全身真っ黒なローブに身を包んでて、声も濁してあったから男か女かも分からなかった。最初は怪し過ぎたから依頼は拒否しようと思ったんだけど……報酬がめちゃくちゃ良くてさ、前金も良い額だったし」

 

 どこか恥ずかしそうに目線を逸らしながらルルネが言う。

 アイズは金貨を差し出す黒いローブの人物の前で、その尻尾をブンブン振っている彼女の姿が想像できてしまった。

 

「あれ、でもルルネさんLv.2ですよね?Lv.2一人で……『リヴィラの街』に行って帰ってくるなんて、危険じゃないですか?」

 

 『リヴィラの街』が存在する18階層。中層中間区のLv.2のアビリティ到達基準はG~D。よってLv.2の者が単独(ソロ)で往復するとなると、第三級の中でも上位の力が求められるというわけだ。

 話を聞く限り用意周到な依頼人が絶対とは言えない第三級冒険者に依頼を頼むのだろうか。

 レフィーヤが疑問をこぼすと、ルルネはあからさまに狼狽した後、言葉を濁しながら白状した。

 

「そ、その、主神(ヘルメス)様には黙ってろって言われてるんだけど……じ、実は私Lv.3なんだ」

 

「「……」」

 

 何とも言えない表情をするアイズとレフィーヤに、ルルネはしゅんと体を縮こませる。

 だが、これでわかったことがある。

 つまり依頼人は、ルルネのさらしていないLv.3であるという事実を知っている程の情報網を持っているということだ。

 

「……ぐずぐずしてないで、すぐに地上に戻ればよかった。見覚えのある鎧が公に晒されて、荷物を渡しに来た奴が殺されたと分かってから……犯人はこの荷物を狙ってるんじゃないかって、私……」

 

 そんな恐怖の感情が浮かんでいたルルネを見つけたのがアイズ……ということらしい。

 再び俯くルルネを前に、アイズとレフィーヤはしばし沈黙し、視線を交わした。

 

「アイズさん、やっぱり団長に知らせた方が……」

 

「―――――駄目!」

 

 レフィーヤの提案はルルネの激しい拒否の言葉に遮られる。

 

「人がいるところは怖い!きっと次は私が狙われる……!犯人はまだこの街にいるんだ!」

 

 小鞄を胸抱き、ルルネはまくし立てるように言葉を続ける。

 レフィーヤが困り果てていると、アイズはルルネとその小鞄を見つめ、口を開いた。

 

「私たちに、その荷物を渡して」

 

 ルルネは瞳目した。

 感情が乏しいであろうアイズの金色の瞳が強い訴えを放っている。

 毅然とした【剣姫】の眼差しにたじろぐルルネは、しばらく依頼との間で揺れ動いた後、命がなくては元も子もないと悟ったのか、アイズの要求に頷いた。

 

「詮索するな、絶対に誰にも見せるなって言われてたんだけど……」

 

 荷物が入っている小鞄を地面に下ろし、蓋を開ける。

 二重底になっている仕切りを外して出てきたのは、口紐がきつく締められた袋だ。

 ルルネは緊張した面持ちで、その膨らんだ中身を取り出した。

 

「……!」

 

「な、なんですか、これは……?」

 

 ルルネから手渡されたのは、アイズの両手に収まる球体だった。

 緑色の宝玉。薄い透明の膜につつまれているのは液体と―――不気味な胎児だ。

 丸まった小さな体には不釣り合いなほどの大きい目が、アイズとレフィーヤのことを見上げている。まるで(おんな)であることを象徴するかのように髪が生えており、頭部の位置から曲線を描き、背筋の先端まで伸びていた。謎の幼体は沈黙を守っているものの、ドクンッ、ドクンッ、とかすかな鼓動を打っている。

 ドロップアイテム?

 あるいは新種のモンスター?

 レフィーヤが色々と考えを巡らせる一方で、アイズはその宝玉に釘づけになっていた。

(この、感じ……)

 奇妙な感覚に襲われる。

 手の中で脈打つ宝玉と同調するように、心臓の音が速まった。

 胎児の眼球と見つめ合い、体中の血が恐ろしい勢いでざわめいていく。

(なに、これ?)

 目の前の宝玉がなんであるかは分からない。

 鼓膜の奥で鳴り響く高い耳鳴り。皮膚の下を蚯蚓が這いずり回る様な感覚。猛烈な吐き気。

 目眩に襲われた瞬間、アイズは耐え切れず膝を折った。

 

「アイズさん!?」

 

 地面に膝をつき、手の上に宝玉が転がり落ちる。

 レフィーヤの手に上体を支えられながら、アイズは大きく呼吸を乱す。

 ルルネはすでに泣きそうな顔で立ちつくしていた。

 

「……っ!」

 

 アイズの異常を喚起する源を察し、すぐさま緑色の宝玉を拾い上げ、アイズから一定の距離を取る。

 はぁ、はぁ、と胸を上下させていたアイズの体は徐々に静まり、回復していった。

 レフィーヤとルルネに茫然と見守られるなか、座り込むアイズは目を薄く開き、胸当ての上から手を押さえた。

 

 

***

 

 

「あれが……またお目にかかれたが……」

 

 アイズ達が宝玉を囲んでいる中。

 階層内の天井に生えている水晶より双眼鏡でその様子を見ていた男は、その宝玉を見て目を丸くする。

(……アイズが苦しんでる。そしてあの幼体……まさかとは思っていたが、な)

 突如として苦しみだしたアイズを見ながら、男は一人思考に沈み、そして結論を出す。

 

「……なぁ『×××××』、質問なんだけどさ……」

 

『質問?』

 

「おう」

 

 男が虚空に呼びかけると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「あれ、あの宝玉。なんでアイズはあんな調子なのに、前に見つけた時の俺には何にもなかったんだ?」

 

『あぁ~えっとね、××の場合は後から私が同調(シンクロ)したから後天性なんだよ。彼女の場合は()()()()()()()()()()()()()()()……』

 

「……持って生まれた者と後から手に入れた者の差、というわけか」

 

『そうそう。まぁでも私は××と同調(シンクロ)出来て嬉しいよ♪』

 

「おい、やめろ。そんなこと言われたらうっかり惚れちまいそうになるじゃねーか」

 

『……惚れちゃっていいのになぁ

 

「ん?何か言ったか?」

 

『なんでもなーい』

 

「ならいいが……さて、これからどうするかな……」

 

『あの黒ローブの人にはなんて言われてるの?』

 

「姿は見せるなだと。曰く、敵の実態がある程度掴めるまでは俺を隠しておきたいらしい」

 

『そりゃそうだよ。××は切り札なんだからさ♪』

 

「……切り札かどうかはともかくとして、とりあえず忠告しておくことにするか」

 

 そして男は、アイズ達の様子を窺っている不審な人物に目を向けた――――――

 

 

***

 

 

 その瞳は少女達の動向を追っていた。

 薄闇に体を包み、気配を闇と同化している視線は少女達の顔をなぞり、最後にヒューマンの剣士のところで止まった。

 ――――強いな。

 瞳が細まる。

 あれは手間がかかりそうだ。他の二人はすぐにでも殺せそうだが、あのヒューマンだけは別格だ。隙のない身のこなしを纏っていることからもそのことが窺える。

 しばらく観察を続けていると、背後に一つの気配が現れた。

 

「―――誰だ」

 

「……」

 

 振り返ると目に入ってきたのは全身を黒いローブで包んだ人物だった。

 瞬間、咄嗟に身構える。

 自身の勘が、本能が告げている。

 目の前にいる存在は危険過ぎる。あのヒューマンよりも強いのは明らかだ。

 警戒を最大限にまで引き上げていると、黒いローブの人物が口を開いた。

 

「……忠告だ」

 

「……何?」

 

「もし、【ロキ・ファミリア】に一定以上深入りし害をもたらした場合、すぐさまお前を殺す」

 

「……」

 

「忠告はしたぞ」

 

 そう言ってその黒いローブの人物は一瞬にして視界から消えうせた。

 その場に残ったのは圧倒的な威圧により口を開くことが出来なかった、アイズ達を追っていた存在だけであった。

 




まだ二巻続きます。

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