続・やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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はい、更新遅い作者です。
この作品を楽しみにしている方には申し訳ないくらい遅くなってしまいましたが、これで二巻の内容が終わりました。
三巻読まなきゃ……頑張ります。
もうすぐ夏休みですもんね!……あ、補習ばっかでした。
さらにインターハイがあるので……また遅くなるかもしれません。

前書きが長くなりましたが、第一章完結です、どうぞ。


怪人と弧王と秘められし力

「……アイスブリッツ!」

 

「くっ!?」

 

 アイズの氷の砲撃に女は驚きの表情をして、少し遅れてから回避行動をとった。

 だが左足に氷の砲撃が当たり、その威力に女は吹き飛ばされる。

 

「……これは驚いたな」

 

 水晶に当たり衝撃で埃が舞っていたが、女は静かに立ち上がりアイズを見つめる。

(……左足についていた氷を衝撃と合わせて水晶に当てることで壊した……やっぱり強い)

 アイズも並ならぬ強者を前に再び構える。

(アイズさんの魔法……!?しかも詠唱なしの魔法……初めて見た……。って、違う違う!私も援護しなきゃ!)

 

「―――――【解き放つ一条の光。聖木の弓幹。汝、弓の名手なり】」

 

 その光景を見ていたレフィーヤは自身にも出来ることをと、援護のために詠唱を開始する。

 魔法円が展開され、魔力の高まりを察知した赤髪の女がレフィーヤの方に気を配るが、アイズが邪魔させないとばかりに攻撃を更に鋭くする。

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

 アイズの繰り出す斬撃の量が増す一方、レフィーヤも短文詠唱の過程を高速で終える。

 敵はアイズから離れることができない。

 そして玉音の響きとともに、魔法円から強い光が立ち昇る。

 

「【アルクス・レイ】!」

 

 撃ち放たれる光の矢。

 速度重視の単発魔法。だがレフィーヤの巨大な魔力に加え大量の精神力(マインド)が込められた魔法は、もはや矢ではなく大閃光(ビーム)だった。

 さらに、魔法属性として自動追尾機能を持つため避けることは許されない。

 アイズが巻き込まれないよう射線から外れ、大閃光(ビーム)が女のもとに迫る。

 驀進してくる魔法に女は目を細め、そして――――――次の瞬間には()()()()()()()()()()()()()

 

「え!?」

 

「ッ!?」

 

 レフィーヤとアイズの驚愕もろとも女が大閃光を受け止める。

 女の左手から血が飛び散るが、女は気にする素振りすら見せない。それどころか少しずつ押していき、ついには押し返した。

 魔法自体を放ったレフィーヤに向けて跳ね返す。さすがに威力が高く軌道がズレたものの、水晶が爆砕され、衝撃波が起こった。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

 

 悲鳴を上げるレフィーヤは元いた場所から吹き飛び、その際に携えていた小鞄が手から離れ、袋から飛びだした緑色の宝玉が地面に転がる。

 その威力の衝撃で少しだけ体制を崩してしまったアイズに対し、女は容赦ない攻撃を仕掛けてくる。

 

「やはり強い……だが」

 

「!?」

 

「私の方に分があるな」

 

 あまり使わない魔法を使い、魔法剣士のようなスタイルを用いていると言うのに防戦一方。なんとか攻撃は全て捌けてはいるものの、魔法が無ければすでに致命傷を食らっている筈だった。

(やるしかないッ)

 そして、アイズは目の前の敵の危険度から、強力すぎるが故に対人では一切使わなかった魔法を解禁する。

 

「【目覚めろ(テンペスト)】!!」

 

 アイズが魔法を紡ぐと同時に気流が生まれ、【エアリアル】が発動する。剣に、全身に風の力が付与される。

 爆発的に自身のスペックを上げたアイズは女に向かって疾走する。

 

「なっ」

 

 女が驚愕する。長剣を弾きながら胴体を突く。女は後ろに避け、アイズはさらに距離を詰める。

 風を纏った長剣を逆袈裟に放つ。それを女は自身の得物で弾くが、アイズは追撃とばかりに上から降り下げる。

 咄嗟に防御した相手だったが体は耐え切れず、凄まじい勢いで後方へ飛ばされた。

 巻き起こる風の咆哮。数段キレが増した斬撃の嵐。その風の恩恵を得たアイズは一方的に赤髪の女を攻め立てる。

 ガガガガガッ!っと石畳を削りながら大きく後退した女はやっとのことで停止すると、顔を上げアイズを見上げてくる。

 その双眸は大きく見開かれてアイズを凝視している。

 そして、アイズにとって聞き捨てならないことを口にした。

 

「今の風……そうか、お前が『アリア』か」

 

 その呟かれた名前(単語)に――――アイズは金の双眸を大きく見張る。

 ドクンッ、と胸を揺らす一際高い鼓動の音。声も出せないほどの衝撃が全身を襲い、何故、という言葉が頭を埋め尽くす。

 どちらも驚愕を浮かべる中、一瞬、奇妙な沈黙が両者の間に走った。

 

『――――ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!』

 

 そこで、突如。

 地面に転がっていた宝玉が――――――雌の胎児が、叫喚を上げる。

 

「!?」

 

 背後から響きはじめた甲高い叫び声にアイズは振り返った。

 同じくその声を聞き、焦燥をあらわにした赤髪の女が動き出すより早く。

 胎児は宝玉の中でもがくように体を動かし、そして手を動かして緑色の膜を突き破った。

 

『ァァァァアアアァ!!』

 

 あたかもアイズの魔法がきっかけであったかのように急に活動を開始した胎児は、その小さな体のどこにそんな力があったのか、いきなりありえないほどの飛距離を飛礫のように飛んだ。

 自身の顔に迫った不気味な存在をアイズが回避すると、そのまま胎児はその方向に飛んでいき、今尚水晶の壁に埋まっていた食人花モンスターに接触、噛みついたかと思えば()()()()

 

「なっ―――――――」

 

「……ちっ」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!?』

 

 瀕死だったはずの食人花が咆哮を上げる。

 食人花全体に赤い脈状の線が走って行き、それが体に広がって行くたびに絶叫が大きくなっていく。

 一度びくりっ、と震えたかと思うと長大な体全体が膨れ上がった。

 悶え苦しみながら変化を続けるモンスター。その光景を目で見ていたレフィーヤは凍りつく。

 それは変容に次ぐ変容だった。

 常軌を逸した成長、いや、進化と呼んだほうがいいだろうか。

 あの宝玉はモンスターを強制的に別の存在へと至らせる禁断の実であったのか。

 呆然とするアイズの前で、食人花?は音を立て少しずつ姿を変化させていく。

 まるで蛹から羽化をする蝶のように、人らしき輪郭がメリメリと体液の上から起きあがって行く。

 のた打ち回るモンスターは変容中に前触れなく襲いかかってきた。

 めちゃくちゃに攻撃を仕掛けてくるその巨体から、アイズは疾駆してレフィーヤとルルネを抱え込み、その場からすぐさま脱出した。

 

「ええい、全て台無しだ……!」

 

 続いて赤髪の女もその場を離脱する。

 モンスターはアイズ達を追いかけ至る所に、その触手で攻撃を放つ。逃げるアイズは二人を抱いたまま疾走、地形を無視しながらついてくるモンスターから縦横無尽に逃げ回る。

 一方、触手で辺りを破壊しながらも、別の食人花モンスターを見つけると容赦なく食らいついた。

 そして、アイズの瞳は。

 羽化を遂げたような、モンスターの体皮を被った女体の姿をとらえた。

 

 

***

 

 

「……」

 

『ねえ、あれはいいの?』

 

「……()()()()()()()()。あれくらいならヒュリテ姉妹でも対処できるし、全員でかかれば圧倒出来るはずだ」

 

 男は突如として現れた女体型のモンスターを見て呟く。

 その瞳はその姿を見ていながらも、()()()()()()を見るように女体型モンスターを見つめている。

 

『……本当に醜いね』

 

「やっぱり黒幕は……」

 

『うん、そうだと思うよ』

 

「……眠くなってきた。帰るか」

 

『そうだね』

 

 そして、先程までリヴィラの街を観察していた男と少女は、突如としてその場から消え去った……。

 

 

***

 

 

「なにあれ!?」

 

「あいつ、50階層の……!?」

 

 階層内の至るところで戦闘が繰り広げられる中、突如として出現した巨大な女体型のモンスターに驚くティオナとティオネ。

 ティオネの頭に過るのは、以前50階層に出現した同じような女体型のモンスター。

 あの時は下半身が芋虫だったが、今回は先ほどから街内で暴れまわっていた蛇のような食人花らしい。

 その女体型は街の中心部、水晶広場へと進路を取り、立ちふさがるものは壊しながら進んでいる。

 

「もうここらへんでモンスターに狙われている人いないよね!?」

 

「助けた側から広場に追い返したでしょ?さっさと行くわよ!」

 

 破壊された天幕や小屋を踏みつけ跳躍しながら、ティオナ達は一直線に町の中心部へと向かった。

 

 

***

 

 

「どこから現れた……と、問いただしたいところだが、始末する方が先決だな」

 

「ああ、そうだね」

 

「なんでてめえらはそんなに冷静なんだよ!?ちったあ慌てろよ!」

 

 ボールスの悲鳴が響き渡る横で、リヴェリアとフィンはその巨躯を見上げた。

 レフィーヤとルルネを抱え込んで逃げてきたアイズに続き、食人花の足を侵入させ、轟音とともに女体型モンスターが広場に侵入する。リヴェリアの火炎魔法によって多くのモンスターが焼き払われたとはいえ未だにモンスターと対峙している冒険者たちは、軒並みそろってその圧倒的な威容に息を止める。

 

「50階層のモンスターも、あの胎児のせいでこんな風に……?」

 

 アイズに下ろされるレフィーヤは、眼の前の女体型を仰ぐ。

 複数の食人花に寄生、もとい吸収した女体型の規模は、50階層の個体を上回っていた。高さに大した差はないが、横幅がその長い足のせいで凄まじい物となている。足を折りたたんでいる状態でも十Mくらいはあるだろうか。

 

「着いたー!」

 

「あー、間近で見るともっと気色悪いわね」

 

 そこにティオナとティオネが頭上から広場に降り立つ。

 一つの屋根の上に集まっているアイズ達。

 

『!』

 

 そして、女体型が動く。

 ドガガガガッ!っと激しい音を立てながら触手をアイズに向け突撃させた。

 アイズは気絶しているルルネをレフィーヤに任せ、巻き込まないように逆方向に走る。すると、女体型はアイズの走っていく方向に体の向きを変える。

 

「狙いはアイズか!」

 

「発動している魔法に反応しているのかな」

 

 備えてある触手全てを持ってアイズを襲いに行っている女体型に、リヴェリアとフィンは杖と槍を引っ提げてモンスターのもとに接近する。

 

「そりゃあ―――ッ!!」

 

『オオオオオオオッ!?』

 

「はぁ!」

 

『オオオオオオオ!?』

 

 そんな彼らより先にティオナティオネがモンスターに斬りかかる。

 振り下ろされたティオナの大双刃が女体型の食人花の一つの首を斬りおとす。

 二つ名である【大切断(アマゾン)】の名前に違わず、一刀のもとにその太い脚を断ち切る豪快な斬撃は凄まじいの一言に尽きる。先程までの食人花との戦闘とさほど変わらず、通常よりも太く盛り上がった長足を跳ね飛ばした。

 

『……』

 

「痛ったぁ!?」

 

 花を付けた部分を失った足は斬られた断面から血を流しながらも、そこからティオナを弾き飛ばす。

 大双刃(ウルガ)の極厚の剣身を盾にして防いだ彼女は、地面を一度転がってからすぐさま立ちあがる。

 

「力めちゃくちゃ強くなってるんだけどー!!?しかも首落としたの動くのー!?」

 

「あれはもう足の一本に過ぎないでしょうが、そりゃあ動くわよ!」

 

 妹とは異なり冷静に足の一本を料理するティオネが叫ぶ。湾短刀(ククリナイフ)を用いて葉脈が走っている長足を瞬く間にずたずたに切り裂く彼女は、危なげなく攻撃を回避していく。

 動きに精彩を失われた足を、ここぞとばかりに再起不能に追い込もうとするティオネだが、そこで女体の上半身が動く。

 アイズを追っていた顔を彼女に向け、腕の触手を槍の如く放出する。

 

「くそッ!」

 

 押し寄せる無数の触手を二刀の湾短刀(ククリナイフ)で切り払う。直線だけではなく曲線も描きながら四方より押し寄せる宿主に悪態をつきながらも、その場から離脱し、懐より取り出した投げナイフを投擲する。

 女体の上半身にせまる白刃を、触手の一本が撃墜する。

 

「リヴェリア、先に行く」

 

「ああ。―――――そこのエルフ、背の弓を貸せ!」

 

「は、はい!?」

 

 フィンが瞬く間に加速して足の一本に槍を突き刺す中、リヴェリアが近くにいたエルフの男に声をかける。

 王族(ハイエルフ)の声に彼は無条件に従った。副武装(サブウェポン)であった大型の破砕弓を矢筒ごと、走って来るリヴェリアに渡す。

 素早く矢筒を腰に装着したリヴェリアはその紫紺色の弓を構え、立て続きに矢を連射した。上半身に射った矢をわざと触手に弾かせ、本命であるフィンの支援攻撃を次々と着弾させて行く。

 王族(ハイエルフ)の森で育ち、狩猟が数少ない趣味の一つであった【ロキ・ファミリア】の副首領は、弓の腕にも秀でていた。巨大な矢が次々に突き刺さり、食人花の足は威力に負け、ぐにゃりと体をたわめる。

 

「ボールス、人手が足りない!指揮は任せた!」

 

 そしてリヴェリアの援護を受けながら長槍を振り回すフィン。

 あたかも背中に目があるかのようにリヴェリアから続々と放たれる矢はかする気配すらせず、モンスターの足を切り裂いては穿っていく。その小柄の体でわずかな隙間もかいくぐり、アイズに群がろうとする複数の足をまとめて相手にする。

 女体の両腕から放たれる触手に対し、フィンはそれを利用、そのまま()()()()()()()()()()()()()()

 これにはさしもの女体型モンスターも驚いたのか、一瞬の硬直に陥る。

 これを見逃す二人ではなく、フィンは女体型の腕の一つを槍で切り裂き、リヴェリアは反対側の腕に矢を突き刺す。

 

『ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!?』

 

「あ、あいつらやっぱり頭がどうかしてやがる!?」

 

 広場の中心で巻き起こる激しい戦闘を前に、ボールスが及び腰になりながら呻き声を上げた。

 たった四人で女体型を圧倒する【ロキ・ファミリア】を前に、周囲でモンスターの残党と戦闘をしている他冒険者達も喉を鳴らした。

 

『……!』

 

 ティオナ、ティオネ、リヴェリア、フィン。四人の凄まじい波状攻撃を前に女体型はアイズを見失った。索敵しようとするもティオナ達の凄まじい攻撃に意識を割かれ、致し方なく彼女たちの迎撃に移る。

 

「みんな……!」

 

 食人花の足に追いまわされていたアイズは女体型の集中攻撃から一旦解放され、飛び交うティオナ達の姿を見る。

 自身もあの攻撃に加わり、一気に女体型モンスターをたたみかけようとしたアイズだったが―――彼女の姿を影が覆った。

 

「!」

 

 振り下ろされた攻撃を間一髪アイズは回避する。

 体の向きを変えれば、そこにいたのは赤髪の女だった。

 

「お前の相手は私だ。このままだとただでは帰れん……付き合ってもらうぞ」

 

「……!」

 

 赤髪の女の目が鋭くなり、アイズも瞳を吊り上げた。

 赤髪の女は広場から追い出すように激しく攻めかかって来る。アイズは対抗するように《デスぺレート》を用い、応戦した。

 他のことにかまける余裕はない、相手がそれを許しはしない。同時に、相手には聞かなければならない事柄もある。

 

「アイズ!?」

 

 ティオナの声を背で聞きながら走り出していく。

 アイズは女との一騎打ちに応じ、広場から移動していった。

 

 

***

 

 

「レフィーヤ、以前行った連携を覚えているな?あれをやるぞ」

 

「わ、わかりました!」

 

 近づいてきたリヴェリアにレフィーヤは頷く。

 お互い別方向に走り出し、女体型の前後に回った。

 

『―――――――――――!!』

 

 アイズが広場から離れていった一方、超大型モンスターとの戦闘が続いていく。

 フィンを中心として女体型攻略が進められていく中、手のあいた冒険者達は勇み、戦列に加わろうとした。

 しかし、女型の今もなお十を超える食人花の足を広げ、全方位の冒険者たちを薙ぎ払っていく。

 

「うおおおおおおおおおお!?や、やべぇ、死ぬう!?」

 

「ちょっと!周りの奴ら避難させなさい!庇いきれないわよ!?」

 

 広場を破壊していく衝撃と強風にボールスが悲鳴を上げ、ティオネもまた叫ぶ。

まるで渦潮だ。

 大海に出現した潮流のように複数の足をめまぐるしく振り回し、近づこうが近づかくまいが敵を蹴散らしていく。その足の射程距離は驚くほど長く、魔力を察知された魔導師達は率先してやられ、仲間を守ろうと大盾を構えたドワーフはあっけなく吹き飛ばされた。

 後方だろうが一切関係ない。どこにいようとその変則的な動きをする足に蹂躪され、吹き飛ばされる。せめてもの救いは、フィン達によって破壊された両腕が機能していないことか。

 

「ちょくちょくぶった斬ってるんだけど、ねッ!!」

 

『ゲェェ!?』

 

 ティオナの強力な一撃が食人花を屠るが焼け石に水状態。切っても切っても削りきれない。

 

「恐らく上半身の中心に核が埋まってるんだろうけど……遠距離物理攻撃は意味を成さない、か」

 

 フィンは近くに落ちていた他冒険者の短槍を拾い上げ、女型の上半身に投擲しながら呟く。短槍は真っ直ぐに女体型へと向かうが、少しずつ回復していた腕より無数の触手が飛びだし、槍を弾いた。

 あの触手は対地対空の武器であり、同時に鉄壁の盾でもある。今なお増え続けていく膨大な数の触手を前に、接近は難しく、しかしだからといって火力不足。

 フィンの最強の魔法を使えば倒せるだろうが……インターバルが24時間な上に反動が大きい。

 

「やっぱりリヴェリア達にまかせるしかないか」

 

 フィンが一瞥する方向、広場の東側最奥。

 島の湖を背にする形で、リヴェリアは杖を水平に構え、詠唱を始める。

 

「―――――【終末の前触れよ、白き雪よ、黄昏を前に渦を巻け】」

 

 広域展開される魔法円。

 何重もの翡翠色の円が輝きを放ち、その存在を誇示するかのように魔力が徐々に大きくなっていく。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

『!?』

 

 ようやくその魔力を感知したのか、女体型がぐりんっ、とその巨体を反転させる。

 食人花の足が大きく吠え、感知した魔力の方へ猛進する。その巨躯の進撃を阻むことはフィン達でさえもかなわない。周囲の冒険者が転がるように退避していく中、誰もが前衛壁役(ウオール)を放棄した。

 しかし、リヴェリアの詠唱は続く。

 

「【吹雪け、三度の厳冬】―――――」

 

『!?』

 

 そして女体型の射程圏内に入ろうとした時……リヴェリアは詠唱を止め退避、展開されていた魔法円は消失し、魔法に使われていた魔力は空転するだけに終わった。

 触手からの攻撃を防ぎながら回避して退散するリヴェリアを見て、どこか腑に落ちない様子の女体型。

 

「―――――【雨の如く降り注ぎ、蛮族どもを焼き払え】!」

 

『?……!!』

 

 女体型が震えた。

 すぐさま転身する女体型が捉えたのは、詠唱をしているレフィーヤの姿。

 リヴェリアは囮だ。

 彼女の抜きんでた魔力によって女体型を引きつけ、その隙にレフィーヤが詠唱を完成させる。強力な魔導師を二枚使った囮攻撃(デコイ・アタック)

 一方の魔導士が敵を引きつけ、もう一人が本命の砲撃を放つ連携攻撃。

 

「総員退避だ!」

 

「でけぇのが来るぞ!!?」

 

 フィンとボールスの声に全冒険者が反応、すぐさまレフィーヤの射線上から撤退する中。

 誰もいなくなった広大な視界へ、ありったけの魔力を込めたレフィーヤの一撃が放たれた。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

『―――――――――――アアアァァッ!?』

 

 炎矢の豪雨が女体型を襲った。

 夥しい紅蓮の魔力弾がモンスターの全身を削り取る。

 しかし、女体型も賢かった。

 このままだと全身焼かれて絶滅すると思ったのか、上半身を下半身から切り離してその場から離脱した。

 

「あ!逃げた!!」

 

「アイツ湖に飛び込む気!?」

 

 その場から離脱しはじめた女体型の上半身を見たティオナとティオネはすぐさま後を追い始める。

 

「ティオナ、左から回り込みなさい!」

 

「わかった!」

 

 湖へと繋がる断壁を昇り始めた女体型を見て、ティオネが素早く判断を下す。

 自らも崖を蹴って跳躍し、懐から投げナイフを取り出し投擲、女体型の動きを遅らせる。

 

「逃がすかッ!!」

 

 二刀の湾短刀を用いて、接近後再生した両腕を断壁からはがし、女体型を下に落とす。

 そこに、ティオナ。

 

 

「いっっくよおおおお―――――――ッ!!」

 

 

 大斬撃。

 

『―――――――――ァ……』

 

 迸った大双刃の破壊力の前に、モンスターは木端微塵に砕け散った。

 落下を続ける中で、モンスターの残骸はあとかたも無く大気へと消え去って行った。

 

「やっりーっ!」

 

「馬鹿ティオナ!魔石ごと吹っ飛ばしてどうすんのよ!」

 

「あ」

 

 声を上げ喜ぶティオナだったが、特殊なモンスターが調査できなくなるとティオネに伝えられ、間抜けな顔で固まる。

 現在進行形で自由落下運動をしながら落ちている中で、ティオネのガミガミとした説教と、ティオナのへこへことした謝罪が繰り返される。

 

「……アイズとレフィーヤ、大丈夫かなぁ」

 

「大丈夫よ、団長とリヴェリアがついてるんだから、平気に決まってるわ」

 

「……うん、そだねっ」

 

 やがて目の前に迫る湖を視界に入れながら、ティオナが不安そうに呟き、ティオネが明るい声で自慢げに言葉を口にして、ティオナは安心の笑みを浮かべた。

 そして、どぼんっ、と。

 アマゾネスの姉妹はいきよいよく湖に着水した。

 

 

***

 

 

 食人花のモンスターが絶滅する中。

 アイズと赤髪の女は戦場を広場の西に移していた。

 

「っ!!」

 

「便利な風だな」

 

 剣の切れ味、速度ともに上昇させる【エアリエル】に赤髪の女は表情を変えずに呟く。

 風の付与魔法が彼女の階層主じみた強撃を弾き返す。振るわれる長剣のことごとくを縦横無尽の剣閃で打ちおとした。

 凄まじい剣戟が続く中で、一度赤髪の女が距離を取った。

 そして、新たな疑惑を口にする。

 

「……その剣捌き……どこかで見たことがあるな。いや、気のせいか」

 

「!!」

 

「風の付与と言い、少し似ているが……いや、聞いていたのとは少々違うか」

 

「くっ!」

 

 女は少し一人だけで呟いた後、再びアイズに襲いかかっていた。

 響き渡る何合にも渡る剣戟の音。

 しかし、戦闘をしながらもアイズの頭にはある一つの可能性が浮かんでいた。

(さっきの私の似てる戦闘……もしかして……)

 

「身が入っていないぞ」

 

「うぐぅ!?」

 

 ほんの少しだけ思考した際に出来た隙。

 それを赤髪の女は見逃さなかった。

 アイズの剣を弾いた後、凄まじいスピードで胴体を殴り、アイズを吹っ飛ばす。

 アイズもすぐに切り替え受け身を取り、すぐに立ちあがって身構える。

 

「……動揺が窺えるな」

 

「……貴方が言う、私と同じような人って誰!?」

 

「知らん」

 

「なら、『アリア』……その名前をどこで!?」

 

「さあな」

 

「……アイスブリッツ!!」

 

 アイズは柳眉を逆立てながら魔法を放ち、再び斬りかかった。

 魔法をかわしきった赤髪の女に目にもとまらない剣閃が一瞬の内に数回走る。ほとんどの冒険者ならば圧倒される剣術を、女は的確に捌いていく。

 恐らくは『深層』のモンスターのドロップアイテムをそのまま武器にしたのか、柄と剣身のみの長剣は野太刀のようであった。その剣を持ってアイズの《デスぺレート》と互角に打ち合う。

 ―――――いや、敵はアイズの風を圧倒している。

 どんなに技術を行使しようとも、どんなに隙を作ろうとしても、どれだけ高速に斬りかかろうとも、女は的確に捌き、そして反撃を繰り出してくる。アイズは戦闘をしながらも焦る気持ちを懸命の堪え、ひたすら攻勢に転じていた。守ったら負けるという確信が、自身の胸の中にあったのかもしれない。

 

「――――――人形のような顔をしていると思ったが」

 

 そして。

 激しい戦闘中つい前のめりになってしまったアイズの剣筋を、赤髪の女は見逃さなかった。

 次の瞬間、女の体がぶれる。

 アイズの剣はかわされ、懐に潜り込みすくい上げるような一撃を見舞った。

 

「っ!?」

 

 アイズは咄嗟に剣を地面に突き刺しガードするも、その威力に吹き飛ばされたアイズはそのまま後ろの水晶の壁にぶつかり、頭を始めとした至るところより血が流れ始める。

 

「やはり強かったが……これで終わりだ」

 

 そんなアイズの前より、長剣を投げ捨て、地面に突き刺さったままの《デスぺレート》を抜き取り、それも遠くへと放り投げて近づいてくる赤髪の女。

 そして、水晶の壁にぶつかり、未だ体制を整え切れていないアイズに向かって突撃してくる。

 対応できない。

 顔をゆがめるアイズ、だが……

 

”最後まで勝機を探せ、勝利を諦めんな”

 

 ある言葉が胸の中を反芻し、咄嗟に左手を突き出した。

 左手を犠牲にしてでも、右手の魔法で逆転する。

 アイズが覚悟を決め、女の籠手による攻撃が繰り出された―――次の瞬間。

 

「なにっ」

 

「姫君への手出しは」

 

「我らが許さん」

 

「フィン、リヴェリア……」

 

 アイズがかすれた声を出すとともに、二人は交差した槍と杖を振るい、一度女をアイズから遠ざける。

 そのままフィンが女に向かって突撃し、リヴェリアはレフィーヤとともにアイズの治療を開始する。

 

「君がモンスターを統率していた調教師(テイマー)か?」

 

「……お喋りとは余裕があるな」

 

「なに、君ほどじゃない」

 

 普段は温厚であるフィンの顔つきは、戦士の顔に変わっていた。

 小柄な体格を生かして軽いフットワークで女の繰り出す拳をかわし、いなしていく。さらに様々な角度から攻撃を仕掛け、女の体を揺さぶって行く。時には大胆にも懐に潜り込み、時には距離を離す。常に機先を制する格好で優位な戦闘に進めていく。

 凄まじい力と速さで斬りかかって来るアイズとはまた違った戦法を用いる小人族の首領に、赤髪の女は舌打ちを放った。武器を失っている彼女は完全に攻めあぐね、また、武器を持っていても対応しきれなくなるほどにフィンの技術と技量を凄まじいものがあった。

 堪らず長槍を掴もうとするも、先読みされていたかのように穂先は逃げて生き、そこから流れるような動きで突きが放たれる。

 

「調子に―――乗るなッ!!」

 

「ッ!……ふっ」

 

 振り上げられた左足は地面を砕き、大地を振動させた。

 体重の軽いフィンは空中に体を投げ出される形に。

 そこに女の拳がせまるが……その様子にフィンは笑みを浮かべる。

 そうこなくては、とでもいうように。

 次の瞬間には天地逆転したフィンが女の眼前に迫っていた。

 

「!!」

 

 咄嗟に槍を突き立てて高度を稼ぎ、女の拳をかわして懐よりナイフを抜き、女に斬りつける。

 その衝撃で女は後ろに仰け反るが、すぐにフィンに視点を合わせて反撃をしようと腕を掲げる、が、フィンが一歩早い。

 すでに顔面に拳を振り抜き、その小柄な体からは考えられないような一撃を女に見舞う。

 案の定女は吹き飛ばされ、後ろに立っていた水晶を壊しながら地面に倒れる。

 

「フィン、大丈夫か?」

 

「……指が折れた」

 

「なに?」

 

 治療を終えたリヴェリアがフィンに駆けつけるとともに、フィンは自身の拳を見ながら呟く。

 ただの人間というわけではなさそうだった、と女が倒れた方角を見ながらリヴェリアに言うフィン。

 土煙が巻き起こる中、手をつきながらも立ち上がる女。

 

「第一級……Lv.5、いや、6か」

 

 左頬に拳の跡が付き、胸のあたりからも出血をしている女は、忌々しそうに吐き捨てる。

 フィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、そしてガレス。ランドロックを加えたLv.6の彼等が【ロキ・ファミリア】の最大戦力だ。

 アイズ以上の戦闘の経験に、積み重ねられた技と駆け引きが、純粋な数値以上の力を引きだし、女を圧倒する。

 

「分が悪いか……」

 

 女はそう呟いたが最後、真後ろに位置する湖に向かって疾駆し始める。

 

「ッッ!」

 

「アイズさん!?」

 

 その様子をみたアイズは傷の痛みも気にせずに跳躍、女の後を追う。

 アイズにはまだ聞いていないことがある。

 

 ―――――――どうして『アリア』という名前を知っているの?

 

 ―――――――貴方が私に似ていたと呟いた人は誰なの?

 

 ―――――――貴方は……何者なの?

 

 アイズが【エアリアル】状態で追うものの、残り数十センチのところで女は背後に落ち、湖の底へと消えていった。

 レフィーヤが遅れて追いついてきたのを脇に、アイズは唇を引き結んだ。表情は抑えられていても、右手がぎゅっと拳を作る。

 眼科に広がる湖に視線を固定させながら、アイズは忘れていた久しい感情――――悔しさを、胸の奥に刻み込んだ。

 

 敗戦の後にも似た虚無感が、少女の体を包む。

 階層の天井、そこに広がる水晶の明かりが少女の金髪を照らしだしていた。

 

 

***

 

 

 風のような人だった。

 子供のように純粋で、まだ幼かった自分よりも無邪気で。

 人の悪意と言うものを知らず、知らされず。

 白い雲と一緒に流れる、あの青い空のように。

 誰よりも自由な、風のような人だった。

 

 そして自分は。

 そんな風のように振る舞い、温かく、優しかった彼女が大好きだった。

 屈託のない笑顔を浮かべる母親(かのじょ)のことが大好きだった。

 頭を撫でる手つきも、頬に添えられる温もりも、耳朶をくすぐるような綺麗な声音も、彼女が何度も語る、優しくて幸福な物語を、覚えている。

 そんな彼女に、貴方のようになりたいと言う。

 

「あなたはあなただから、私にはなれないわよ?」

 

 彼女は面白おかしそうに笑いながら言う。

 そんな幸せな時の中、ふと、彼女は振り返った。

 そこには一人の青年がいた。

 彼は二人の光景をほほえましく見ながらも、踵を返し言った。

 

「行くぞ、アリア」

 

 すまない――――と父親(ちちおや)は謝りながら。

 ごめんなさい――――母親(かのじょ)は言いながら。

 自分を置いて、二人だけでどっかに行ってしまうのだ。

 

 

***

 

 

 場面が移り変わる。

 最初はただ憧れただけだった。

 自分の悲願を、願望を聞き、より親身になってくれた。

 鍛錬する時も、稽古をつけてくれる時も、食事をするときも、一緒に買い物をするときにも、嫌な顔一つせずに付き合ってくれた彼。

 ひとたび戦闘になれば顔つきは変わり、目の色は変わり、漆黒の闇を纏って敵を蹂躙する。

 師匠(かれ)は優しい人だった。

 師匠(かれ)と共に生きていきたかった。

 師匠(かれ)の傍にずっといたかった。

 師匠(かれ)が、私だけの英雄なのだと思いたかった。

 

 でも――――――――師匠(かれ)もいなくなってしまった。

 師匠(かれ)は私だけの英雄ではなかったのだ。

 最後に他のみんなを出来る限り守って……そしていなくなってしまった。

 

 また、私はひとりぼっちになってしまったのだ。

 

 

***

 

 

「……」

 

 夢の霧が晴れて行く。

 久しく見ていなかった光景を連続で見るとは思ってもおらず、未だ意識がはっきりとしない。

 ゆっくりと意識を覚醒させていき、瞼をゆっくりと開けて行く。

 そこには二人のアマゾネスの顔があった。

 

「平気、アイズ?」

 

「……うん」

 

 ティオナの声に間をおいて答えるアイズ。

 現在37階層まで来ていたアイズ達はルームにて少しばかりの休憩をとっていた。

 『リヴィラの街』の事件から早一週間。アイズ達は後始末を付けた後、本来の目的であった資金稼ぎのためにダンジョンを下へ下へと潜って行った。

 他の面子が資源や魔石の話をしている中で、アイズは一人、押し黙って内面に意識を落としていた。

 『アリア』という名前と。

 あの赤髪の調教師と。

 そして師匠(かれ)の後ろ姿がぐるぐると頭の中で回っている。

(強かった……)

 強い、強かった。

 あの赤髪の調教師の実力を、激しく襲いかかって来るその苛烈な姿を思い出しながら、アイズは何度もそう呟く。

 もし彼女を逆に追い詰めることが出来たなら、何かを聞き出すことが出来たかもしれない。

 何故『アリア』のことを知っているのか、いつ師匠(かれ)と遭遇したのか、わかったのかもしれない。

(もっと、力があったなら……)

 弱い。

 弱過ぎる。

 アイズ・ヴァレンシュタインはなんて弱い。

 何故今まで忘れていたのだろう。

 己の悲願を、何故思い出としようとしていたのだろう。

 何故大切な人を奪った集団を、見逃そうとしていたのだろう。

 無意識の内にアイズは力を入れ、手に拳を作る。

 胸の内に静まっていた黒き炎が復活し、静かに彼女の体を焦がしていく。

(もっと、もっと強く!)

 目の前に現れた大量のモンスターを前に、アイズは剣を抜刀し、勢よいよく突撃を始めた。

 切り裂く、切り裂く、斬り裂く!!

(弱い、弱い、弱い自分が許せない)

 アイズの胸を焦がすのは過去の出来事だ。

 それがなければ彼女は剣をとることはなかった。

 しかし、天は彼女に剣をあたえた。

 ならばやることは一つだ。

 アイズは己の芯たる心中で黒い炎を強くしながら、一体、また一体とモンスターを倒していくのだった。

 

 

***

 

 

「……フィン、リヴェリア、私だけ残らせてほしい」

 

 アイズがこう言いだしたのは、そろそろ地上に帰還しようとしたときだった。

 

「何も置いていかなくていい、食料も、回復薬も」

 

「ちょ、ちょっと待って!アイズ、まさか深層に一人で残る気!?」

 

「……うん」

 

「それはさすがにアイズでも無理があるわよ」

 

 ダンジョンは基本、四つの段階に分けられている。

 1層から12層までを上層、13層から23層を中層、24層から36層を下層、36層からを深層……といった具合にだ。

 それぞれの段階には目安の規定があり、例えば上層なら、Lv.1ソロは4層、Lv.1の5人パーティで12層と言うような感じだ。

 もちろん階層を重ねるごとに推定Lvは上がって行くが……深層のみ規定が存在しない。

 なぜならば深層は上層、中層、下層よりも異常事態が起こりやすい。

 Lv.4以上の実力者が複数名いればいけないこともないが、あくまでの話である。

 アイズのLvは現在5。

 第一級冒険者という都市に20人存在しない人物の一人であるが、そんな人物でも深層とは一人でいけるようなところではないのだ。

 唯一の例外は、Lv.7の力を超えた者だけだ。

 

「……私からもお願いだ、フィン。この子を残らせてあげてほしい」

 

「リヴェリア!?」

 

「私も残る」

 

「……わかった。許可するよ。リヴェリア、ちょっといいかな」

 

「ああ」

 

 首領と副首領は少女達から離れ、二人だけに聞こえる声で会話を始める。

 

「……今回はどうしたんだい?」

 

「……あの子は今回の一件で、少し狂いが生じ始めている。気持ちを抑えつけても、いずれ暴走してしまう。それならばいっそ、目の届くところで発散させればいいと思っただけだ」

 

「なるほどね。……いいよ、アイズは君に一任する。ただし、君がアイズの責任も持つんだ。見ると言ったからにはね」

 

「……すまない」

 

「いや、いいよ。僕もいつか発散させてあげなければとは思っていたしね。僕の手持ちのマジック・ポーションは全部置いていく」

 

「感謝する」

 

 【ファミリア】の副団長として―――そして年長者としてのあり方を説くフィンに、リヴェリアは感謝の意を告げる。古くからの付き合いもあってか、お互いの気持ちは分かっている。

 ティオナやレフィーヤが私も残る!と息巻いていたが、ティオネとフィンに連れられて、ブーブー言いながらも先の地上へと戻って行った。

 

 

「それでアイズ、何をする気だ?」

 

「……くる」

 

 二人きりになったアイズとリヴェリアは、地面から響くゴゴゴゴゴッとした音に気がつく。

 

「まさか……」

 

 リヴェリアのつぶやきがこぼれ落ちた瞬間。

 ピキッ、と。

 岩の悲鳴とともに夥しい亀裂が走る。

 床に巨大な亀裂が入ったかと思えば、全身骨の巨体が出現した。

 

『――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 果てしない産声を上げるのは『リヴィラの街』を襲撃した女体型モンスター以上の巨体。

 

「そうか、もう三ヶ月経つのか……」

 

 『迷宮の弧王(モンスターレックス)』。

 名は、『ウダイオス』。

 深層出現モンスター『スパルトイ』をそのまま巨大化したようなモンスターだが、その強さは何百倍にも跳ね上がる。

 下半身は地面に埋めたままで、骨盤から上のみの体だけでも軽く10Mはある巨体。全身を支えるのは骨の至る所にある赤い関節部分。巨躯中心には規格外の大きさの魔石が埋め込まれていたりする。

 

「リヴェリア……手を出さないで」

 

「なに?」

 

「私だって……ハチマンみたいに一人で倒して見せるから」

 

 そう言った瞬間、アイズは走り出す。

 

「【テンペスト】!」

 

 風の気流を纏い、『ウダイオス』へと向かっていく。

 それをみた『ウダイオス』は地面より逆杭(パイル)を繰り出し、アイズに襲いかかる。

 『ウダイオス』は迷宮の弧王の中でも旋回能力、回避能力が最低の代わりに、この攻撃がある。

 このルーム全体が支配域と思わせるほどの攻撃範囲、さらに速度と強度を持っている。

 

「はああ!!!」

 

 アイズは真っ向から立ち向かい、剣を振るって逆杭(パイル)を砕いていく。

 私は弱い。

 私は弱い!

 強くならなきゃ!

 そんな気持ちが心の中で反芻する。

 

「アイスブリッツ!」

 

 地面に氷の砲弾を放ち、一瞬逆杭(パイル)の出現を足止めする。

 その一瞬のすきを突き、アイズは『ウダイオス』の左肩の関節部分に全力の指突を繰り出す。

 見事に攻撃が決まり、『ウダイオス』は左肩から下を失う。

 

『ゴアアアアアアアアツッ!!』

 

 叫びを上げる『ウダイオス』。

 アイズは一度その咆哮に耐えた後、再び攻撃を開始した。

 

 

***

 

 

「アイズ……」

 

 そのアイズが戦闘をしている少し遠いところから。

 リヴェリアがアイズを見守っていた。

 一人で『ウダイオス』に挑むのを見るのは初めてだが、聞いたことを含めれば二回目だ。

(ハチマンの……Lv.4での『偉業』……あれは異常すぎるが、もしアイズが一人で倒しきれば十分に『偉業』と呼べるだろう)

 アイズの師……六年前のとある事件によっていなくなってしまった一人の団員を思い出しながら、リヴェリアは戦闘を見守り続ける。

 リヴェリアが願うはただ一つ。

 アイズが無事に戦闘を終えること、それに尽きた。

 

 

***

 

 

「はぁ、はぁ、【テンペスト】!!」

 

 アイズは『ウダイオス』との戦闘を続けていた。

 腕を失った後、地面からの逆杭(パイル)攻撃が激しくなり、近づくことが容易ではなくなった。何回攻撃を受けたかすらわからない。

 それでも、まだ気持ちは死んでいない、心は折れていない。まだ、やれる。

 

「アイスブリッツ!」

 

 氷の速攻魔法を12連唱し、少しの時間だけ『ウダイオス』の動きを拘束する。

 

「はああああっっ!!」

 

 その隙に突撃し、今度は人の体でいう肝臓辺りをぶち壊す。

 ここで、『ウダイオス』が動いた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

「ッッ!?」

 

 凄まじい咆哮がルーム内に木霊する。

 そして。

 次には地面から巨大な大剣が姿を現した。

 それを右手で持つ『ウダイオス』。

 

『オオオオオオオオオオオッッ!』

「アイズ、避けろ!!」

「ッ!?」

 

 咄嗟のことで反応できなかったアイズは、その凄まじい剣の威力にルームの端までブッ飛ばされた。

 

「ガハッ、ケホッ!」

 

 口からは血が飛び散る。

(『ウダイオス』が剣を……そんなの聞いたことない……いや、一度だけある)

 アイズが思い出しているのは師匠との会話だ。

 その時、彼は言ったのだ。

()()()()()()()()()()()()()()、これが手に入る……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

 その『ウダイオス』は()()()()()()()()()()()()、と。

(……ハチマンの言った通りだった……本当に、強い)

 遠・中距離には地面より逆杭(パイル)を出して攻撃し、近づけばその剣で迎撃する。完璧な戦法である。

(これを、ハチマンLv.4で……やっぱり遠い)

 それでも。

 それでも。

 やると決めたから。

 強くならなけばいけないから。

 私は、弱い自分を克服したい。

 

「勝負……!」

 

 アイズは再度突撃した。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 普段からは考えつかないような叫び声を上げながら『ウダイオス』に向かう。

 案の定逆杭(パイル)が襲ってくるが、圧倒的な速さで攻撃を置き去りにする。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

 

 さらに風を強く呼び込む。

 全身に纏っていた風の気流を剣に……攻撃に集中させる。

 

 私は強くなりたい!

 追いつきたい、追い越したい。

 それが過去の虚像だとしても、今には関係ないことだとしても。

 絶対に、取り返して見せる。

 

 この時、アイズは無意識の内にとある『スキル』を発動していた。

 発現している二つのスキル。そのうちの一つを無意識の内に。

 そのスキル名は―――――

 

「はああああああああ!!」

 

 アイズは全力を持って跳躍。

 『ウダイオス』の頭上に姿を現す。

 

「アイスブリッツ!!」

 

 19連唱。

 『ウダイオス』は視界を一瞬にして氷の世界に閉じ込められる。

 そして。

 

 

「リル・ラファーガ!!」

 

 

 アイズは己の最強技を渾身の力を持ってぶつけた。

 『ウダイオス』はその威力によって、上半身の大多数を崩壊させたのだった。

魔石に剣を突き刺し、それで、終。

 『ウダイオス』は灰へと姿を変え、アイズは師匠のハチマンに次ぐ『偉業』を達成させたのだった。

 




いやあ、長かった。
ちょっとおかしいとこがあるかもしれません。あったら訂正してくれると嬉しいです。
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