続・やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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大変遅くなり申し訳ありません!!
ようやく完成しました!


迷宮探偵ロキ、ウラノスの最強の切り札、アイズ、白兎との再会

 アイズが『偉業』を達成していた頃。

 【ロキ・ファミリア】の主神であるロキは、眷族の一人である第一級冒険者でLv.5、狼人のベート・ローガと東のメインストリートを歩いていた。

 

「あっ、ジャガ丸くんや。ベート、一緒に食べへん?」

 

「食わねーよ。さっきから寄り道ばっかしてんじゃねえのっての」

 

 大通りから折れた脇道に露店を見つけるロキに、ベートは不機嫌そうに告げた。結局一人で注文しに行った主神に軽く舌打ちを放つ。

 あむあむとジャガ丸くんを頬張るロキと並んで歩くベートには、通りの脇に並んでいる店先や、すれ違うものたちから視線が集まっていた。その全ては女性達のものだ。

 引き締まった長い脚に180Cに達する高い身の丈。近付く者は噛みつくとばかりな野性的な雰囲気と、額から頬にかけて刻まれた鋭い刺青に隠れがちではあるが、その目鼻立ちは美系と言えるほどに整っている。獣人の特徴である頭からはえた獣耳と揺れ動く尻尾は、一部の者たちから言えば愛嬌があってかわいい、らしい。

 色めき立ちながら先程から見つめてくる獣人の女性二人対して、ベートはぎろっと、その琥珀色の瞳を吊り上げた。

 睨みつけられた彼女達はびくっとして、慌てて離れていく。

 

「あ~、もったいなぁ、あの娘めっちゃ可愛かったのに……ベートぉ、もっと女の子には優しくや、優しくっ!」

 

「俺は弱え女が一番嫌いだ」

 

 食べ終わり指を舐めながら言ってくるロキに対し、ベートは吐き捨てるように言った。

 

「え~、うそぉ。こう、か弱そうな娘からウルウル見上げられたら、きゅんと来ん?守ってあげたくならん?」

 

「ハッ、吐き気がしやがる。てめーの身も一つ守れねえなら、巣穴の中に引っ込んで一生出てくるんじゃねー」

 

「いけずやなぁ……もうっ、ほんまベートったらツンデレなんやから」

 

「おいコラ、何意味わかんねえこと言ってやがる」

 

「まあ、つまりアレやな――――ベートはアイズたんにメロメロちゅうことや!」

 

「んなこと言ってねえだろッ!?」

 

 ああ!!?と赤くなりながら叫ぶベートに、ひっひっひっとロキは邪笑する。

 ひょうきんな主神の前では、ベートの態度も形無しだった。

 

「くっそたれめ……ところでいつまでおなじようにあるき続けるつもりだ。調べもんがったんじゃねえのか」

 

 威嚇するように歯を剥きながら、ベートはロキに問いただす。

 ホームにて調べものの手伝いを依頼されたから仕方なしに主神に着いて回っているのに、先程から東のメインストリートで歩き回ってるだけだ。

 路地裏や人目の少ないところに入り込んではそこらへんの露店や街の人に何かを聞いていることしかしていないロキに、ベートはじれったそうに毛並みを振るう。

 

「んー、実はうちなりに調べて回っててなぁ……今は見逃しが無いかつめとるとこ」

 

 今日を含め怪物祭からの二日間、ロキは独自に東のメインストリートを調査していた。

 女神フレイヤとの密談後、彼女以外にモンスターを脱走させた者……アイズやレフィーヤが対峙した謎の食人花モンスターを放った第三者がいるとロキは踏んでいた。

 アイズ達に、なによりレフィーヤが重傷を負わされたのだ。ロキとしては動く理由には充分だった。

 しかし、未だ手がかりがつかめていないのも事実。

 食人花が地中から出てきたときに空いた穴も、今ではすでに埋められており平穏を取り戻している。

 

「つまり調べもんってのは、アイズ達がやりやったモンスターの情報ってことか。面倒臭えなぁ……ギルドやガネーシャの連中は知らねーのかよ?」

 

「ちょっと探り入れてみよう思っとったけど、怪物祭の後始末やらなんやらでそれどころじゃなくてなぁ」

 

 ベートと会話しつつ、ロキは己の視界に移り込んできた巨大な円形闘技場(アンフィテアトルム)を見上げた。

 東のメインストリート近辺、都市の東地区は他の地区とは異なり円形闘技場(アンフィテアトルム)を始めとしたギルド管理施設が集まっている区間だ。開催されるほとんどの行事がここらで行われ、そのためか辺りには宿などの建物も多い。

 高い建物、三階建て以上の宿屋が目立つ入り組んだ路地に入る。進むにつれて、赤煉瓦の豪華なホテルから古びた木造建築の安宿に移り変わって行く中、やがてロキの足が止まった。

 狭い路地の先にあったのは、周囲を建物で囲まれたわずかな空間だった。

薄汚れた機材が隅に乱暴に置かれているそこは、石造りの小屋が、ぽつんと建っている。

 

「他はあらかた調べた……残るはここしかないなぁ」

 

 そう言ってロキは木製の扉を開け、ベートとともに中へと入った。

 部屋の中には床の真ん中に地下へと続くであろう螺旋階段があるだけで、他には何もなかった。

 もちろんの如く螺旋階段を下り、そのうち下水道へと出た。

 ベートが「いよいよめんどくなってきやがった……」とげんなりしながらぼやいた。

 

「ちゃんと後で褒美用意するわ」

 

「どうせ酒だろ」

 

「ヒドっ、ベートはうちのこと呑んだっくれの酔っ払いとしか思ってないんやな!?」

 

「事実だろ……」

 

 下水道の水路を沿いながら他愛もない話をする二人。

 しばらく進んでいるとザーっと会話の邪魔になるくらいの水音が耳に届き、音の方へと行けば主水路に辿り着いた。

 下水路の空気は地上と比べれば淀んではいるが、あの鼻の曲がる様な下水路特有の強烈なにおいは漂っていない。

 ロキが魔石灯で照らしだす先には、紫紺のきらめきを放つ何本もの結晶の柱が存在した。鉄柵のような形状であり、水流を瀬切るわけでもなく一過させているそれは、オラリオが誇る魔石製品の一つだ。

 等間隔に並べられた浄化柱が抜ける汚水を洗い、清潔な水へと変える。言わば浄化装置である。溝の中を行く水流は排水とは思えないほど透き通っていた。

 

「……アイツもこんなんよう造ってくれとったなあ」

 

「ああ?なんだロキ」

 

「なんでもないでー」

 

 ロキが過去に思いを飛ばす中、ベートは疑問顔を浮かべながら、奥へと進む。

 そのうち脇道に錠のついた水路を発見する。

 

「旧式の地下水路か?」

 

「とりあえず怪しいとこは行っとく必要はあるだろ」

 

 ベートはそう言って一蹴りで錠を粉々にし、先を進んだ。

 

「おいおい、水浸しじゃねーか」

 

 錠の後すぐの場所にあった下へ続く細い階段の先は通路と水路の区別なく浸水していた。

 それからはロキがベートにおんぶをねだったり、ロキがベートを煽ったりと色々あったものの、どんどん奥へと進んでいく。

 やがて、その『穴』は現れた。

 

「……派手にやられとるなぁ」

 

 そこにはなにかが這い出たような痕跡があり、それは周囲の壁を貫通したりとボロボロになっていた。

 

「これは当たりか?」

 

「……下りろ、ロキ」

 

 有無を言わせない物言いに、彼の横顔を見たロキは素直に従った。

 水面近くに降り立つ中で、ベートは目付きを鋭くしながら穴の奥を見据える。

 

「あの馬鹿アマゾネスどもはどこ調べていやがった……しっかり()()()()()()()()()

 

 そしてベートを先頭に穴を進むこと約数分。

 一本道だった水路は終わり、そして……

 

「ここは……貯水槽か?」

 

 ロキは魔石灯をかざしながら広い空間を見渡す。

 あきらかに今までとは違う感覚が体を襲ってくる。

 周囲を警戒していたロキの耳に、ずるずる、と何かは引きずられる音が響く。

 ばっと視線を戻した先には、こちらに背を向け佇んでいるベート、そして薄闇の中を蠢く巨大な何かだった。

 

「ロキ、出てくるんじゃねーぞ」

 

 すでに臨戦態勢に入っているベートが振り向くことなく告げる。

 巨大な何かは次第に姿が分かるようになり……それは先日の食人花であった。

 

『オオオオオオオオオオオオッッ』

 

「てめえら、臭ぇんだよ!?」

 

 三体の食人花と戦闘を開始するベート。

 一番近くの食人花の胴体に狙いを定め、相手が攻撃を仕掛けてきた瞬間に駆ける。

 【ロキ・ファミリア】随一の俊足をもつベートは単純な一蹴りで食人花の巨体を弾き飛ばす。その様子はまるでボールを蹴るかのようだ。

 

「うーむ、全く見えん」

 

 そんなベートの戦いを見ながらロキは呟く。

 ベートらしき灰色の斜線が入ったかと思えば食人花が吹き飛ばされている。

 

「あ、そや、いいもんあるんやった」

 

 ロキは自身の懐からあるメガネを取り出す。

 それを装着し終えると、なんとベートの姿が見え始める。

 圧倒的な速さで敵に接近し、純粋な力で吹き飛ばす。それをただの人間と同じであるロキが見えている。

 それは先程装着したメガネの効果だ。

 ある時、ロキがハチマンに眷族の戦いっぷりが見たいとおねだりし続けた結果、『神秘』アビリティの力を用いて作ってくれたものだった。

(うおお、ベートめっちゃ速い。ただ、食人花の方が硬過ぎるだけ……はよ知らせんと)

 先日ティオネ、ティオナが素手で攻撃した時と同じように打撃はあまり効かないようである。

 そしてロキが声をかけようとするが……ぽたり。

 ロキの肩に一滴の粘液が落ちた。

 それを見て瞬時に状況を察したロキはその場から走り出すと頭上を仰いだ。

 予想に違わずそこにいたのは醜い口を開く食人花のモンスターだった。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「どっひゃー!!」

 

 さっきまでロキがいた場所に触手の鞭が叩きつけられ、間一髪危機を脱する。

 その後もコソ泥のようなすばしっこい動きで食人花の攻撃をかわし続けるロキだったが、所詮は神の力を封印した一般人だ。限界は来る。

 そして。食われそうになったところで……

 

「ほい!」

 

 ロキは懐から魔石を取り出し、遠くへと投げた。

 すると食人花は見事に魔石の方へと転進した。

 

「純粋な魔力、魔石、人ってところか、あのモンスターの優先順位は。あ、ベート!行ったでー!!」

 

「ったく、本当に食えねえ、なッ!!」

 

 一瞬初めて余裕を失ったベートだったが、臨機応変な彼女の対応に形だけのため息をつき、対面する形になったモンスター目掛けて蹴りをぶちかます。

 

「あ!言っとくの忘れとったけどそのモンスターは打撃にめっぽう強いみたいやで!?」

 

「先に言え!バカ女!」

 

 ベートは悪態づきながらも淡々とモンスターを蹴っては蹴る。

 正面と真横から襲いかかってくる食人花モンスターに対し、ベートはその俊足で必ず先手を取る。ベート自身が速すぎるせいで食人花モンスターは後手に回るしかなく、ただ、ひたすらに蹴りをくらい続けるのだ。

 しかし、ベートの蹴りでは倒せないことも事実。

 

「……癪だが使うか」

 

 腰のホルスターに取り付けてある一振りの剣……魔剣を手にしたベートはそれをすぐさま振るった。

 魔剣は折れるものの、その魔剣より放たれた火炎の魔法はベートの《フェルズウェイト》に収束されていき、相生された。

 

「ベート、その魔剣いくらしたん?」

 

「100万」

 

「うはーっ、一撃100万の攻撃かぁ。豪勢やなー」

 

「……行くぜ」

 

 野獣を連想させる凶暴な笑み。

 前方でようやく姿勢を立て直した食人花モンスター達に、ベートは一歩、また一歩と歩みを進めていく。徐々にその歩みが速くなっていき、そして加速した。

 モンスター達がこぞって迫っていたのを()()にベートは跳躍した。

 未だにベートの位置を把握できていない食人花モンスターは、次の瞬間焼け飛んだ。

 

『ァァ――――――――――――――』

 

 魔剣の力と素の身体スペックの力によって凄まじい力へと昇華した攻撃が一撃で食人花モンスターを倒していく。

 一体蹴り倒したベートが着地したと同時に、いち早く位置を把握した個体がベートへと体当たりを仕掛ける、が。

 

「焼けろ!!」

 

 円月蹴(サマーソルト)

 天地逆転した姿勢のまま、ベートは食人花モンスターを次々と屠って行く。

 

「ベート、ひとつ魔石とっといてー!」

 

「あ?かったりぃなぁ」

 

 残り二体となった食人花モンスターのうち、近い方に狙いを定め、先程より加減し、さらに角度調整をした攻撃を放つ。

 攻撃を受けた食人花モンスターは見事に魔石のある口奥を残して無残に焼け散った。

臭えッ、と思わず眉間にしわが寄るも、右手で魔石を取り出し消滅させる。

 

「てめえで最後だ!」

 

 僅か一瞬で最高速度まで上り詰める狼人に、食人花モンスターは迎撃せんと無数の触手を放つ。

 しかし、凄まじい速度に達しているベートは、それを見切る、避ける、かいくぐり、瞬く間に突破した。

 食人花モンスターの全身が硬直する。

 そんなことなど気にも留めずにベートは跳躍、そして。

 

「消し飛びやがれええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

 直後、頭部に炸裂した攻撃が大爆発を起こし、その巨大な体躯を凄まじい勢いで吹き飛ばした。

 石柱を3、4本破壊したところでようやく止まり、そのまま再度爆発、灰になりモンスターは消滅した。

 

「派手やなぁ」

 

 戦闘をすべてみていたロキのつぶやきが、静まり返った貯水槽に響く。

 戦いが終結した薄闇の中、ベートの右足から炎が薄れていき、通常の状態へ。

 メタルブーツは、本来の美しい白銀の輝きを辺りに散らしていた。

 

 

***

 

 

「収穫はあったけど、犯人に辿り着きそうなもんはなんもなかったなー」

 

「魔剣一本使わせやがって、ちっとも割にあってねーぞ」

 

 黄昏の館への帰り際。

 二人は先程の出来事についてぼやいていた。

 

「それにしてもこの魔石、変な色しとるなぁ」

 

「そういえばティオネがそれと同じのを50階層のモンスターから手に入れてたぞ」

 

「50階層……それってもしかして前の遠征で出くわした新種のモンスターってやつ?」

 

「ああ、気色悪い芋虫みてえなモンスターだった」

 

 さっきの食人花に少し似てやがる、とベートは付け加え、ロキは手に持っている魔石を見つめながら思考を始める。

(この魔石はあきらかに初めて見るもんや……それに怪物祭のタイミングや、この地下水路という目立たない場所におった食人花のモンスター……。やっぱり、なんか()におるな)

 そうして街路に沿って歩いていたときだった。

 一人のとある神と出くわしたのは。

 

「ん?ディオニュソスか?」

 

「……ロキ?」

 

 見覚えのあった顔に、ロキは足を止める。

 首まで伸びている金髪に、微笑めば異性が思わず蕩けてしまうような甘い美顔を持つ彼は、先日の『神の宴』で出会ったばかりの男神だ。側には【ファミリア】の団員であろう、美しい黒髪のエルフの少女が控えている。

 よお、奇遇だとばかりにロキは声をかけようとする。

 

「待て」

 

 が、歩み寄ろうとした彼女の足を、その一声が止めた。

 ん?と背後を振りむけば、ベートが険ある目付きでディオニュソス達を睨みつけている。

 

「そいつらだ」

 

「……どゆこと?」

 

「あの地下水路で嗅いだ残り香は、()()()()()()()()

 

 ロキがすっと細目を開く中、ディオニュソスとエルフの団員は、張り詰めた表情を浮かべた。

 このベートの警告から数瞬後、場が動いた。

 ディオニュソス達を鋭く睨みつけているベートに対し、エルフの団員が主神を守ろうと身を翻す。

 

「止せ、フィルヴィズ。お前では彼に敵わない」

 

「ですがっ、ディオニュソス様」

 

 フィルヴィスと呼ばれた少女は主神の言葉を受けながらも退こうとしない。

 純粋なエルフの少女だ。その顔立ちや造形は言うまでもなく、宝石のような赤緋の瞳に白い肌、露出が非常に少ない純白を基調とした服を着ており、エルフ族の潔癖性が色濃く反映されていた。

 美しい娘やな、とロキが場違いな感想を浮かべていると、少女の肩に手を置きディオニュソスが前に出た。

 

「逃げも隠れもしない。だからロキ、訳を聞いてくれないだろうか?」

 

「……ええやろう、適当な店に入ろうか」

 

 潔い態度とこちらから目を離さない男神の姿勢に、話だけは聞くとロキは申し出をまず了承した。

 側にあった赤煉瓦ホテルの一階、外からは仕切られている休憩室を利用する。宿の者に多めの金を握らせ、融通してもらった。

 他者はもちろん子どもたちにも聞かれたくないのか、「できれば神々だけで話したい」という要望も告げられ、ロキはそれも受け入れる。

 

「おい、いいのか」

 

「まあ、大丈夫やろう。何かあったら合図送るから、ベート助け来てなー?」

 

 耳打ちしてベートに言葉を伝えると、彼は萎えたような表情を浮かべ、ホテルの外、休憩室の真正面でおとなしく待機した。

 他の席とも離れた個室に似た場所に通され、ロキはどかっと腰を落とす。

 

「よし、おら話せ」

 

 ディオニュソスからはこの件に関わっている理由、そして残り香があった理由が話された。

 簡単にまとめると、

 

一ヶ月前に【ディオニュソス・ファミリア】のLv.1二人、Lv.2一人が殺された。

    ↓

独自で調べ始める。 

    ↓

団員の遺体の近くにあった魔石に目を付け、怪物祭の時に同じものを手に入れる。

    ↓

その他様々なところを調べ、食人花のモンスターを発見するも、自身の眷族の力が及ばず、中途半端に終わっている。

 

 ということだ。

 

「ギルドの記録で裏をとれば死んだ団員のこともわかるはずだ」

 

「……ま、とりあえずは自分の話は信じたる。そこまで言うなら嘘ではないやろ」

 

「すまない。ありがとう、ロキ」

 

「で?自分が一番怪しいと思うのは誰なんや?」

 

「……普通に考えればあの怪物祭を開催した、モンスターを地上に運びだした者だ」

 

「ガネーシャか?確かにそうやけどアイツは眷族大好きやし、そんな危険なことするわけがない……」

 

「待て、ロキ。ガネーシャは違うと私でも思う」

 

「なら他に当てあんのか?」

 

「……私はギルドが怪しいと思っている」

 

「!!?」

 

「この怪物祭を開催しようとしたのは誰だ?ガネーシャか?違う、発端はギルドだ。あの催しはギルドが提案してきたものだった」

 

 実はこの『怪物祭(モンスターフィリア)』、その歴史は浅かったりする。

 数年前にギルドが神会で提案し、神達に「面白そうだから」という理由で了承を得て開催され始めた背景がある。

 つまり、ディオニュソスは……。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ああ」

 

「……ありえへん」

 

「どうしてだい?」

 

「だって今まで平和を守ってきた、あの管理組織(ギルド)やぞ?ウラノスやぞ?今頃になって都市を脅かすまねいてどうするっていうんや」

 

「だが私が一番黒だと思っているのはギルドだ。少なくとも、疑うだけの理由はあるだろう?」

 

 怪物祭の発端、そしてそこで起きた食人花モンスターの事件。ギルドを疑うには十分な理由だ。

 ここでロキは気付いた。

 ディオニュソスが危険を冒してまで魔石を手に入れた理由、それはギルドを警戒し、ギルドに回収させないために行動を起こしたのだ。

 黙りこくるロキ。

 口を噤んだ彼女をしばらく窺っていたディオニュソスは、おもむろに切り出す。

 

「そこで提案なんだが」

 

「……?」

 

「ロキがギルドに探りを入れていてくれないか?」

 

「…………はあっ?」

 

「ギルドがもしLv.3以上……ウラノスが私兵を持っていたとすれば、私の【ファミリア】が迂闊に近づいては危険だ。その点、都市最強とも名高い【ファミリア】を率いるロキなら憂いはないだろう?」

 

「おい、コラッ、ふざけんなっ、誰がそんなめんどくさい真似するかッ」

 

「……ロキもこのまま引き下がるわけにはいかないだろう?」

 

「……」

 

 ――――――――このヤロウ。

 ロキは目の前にいる男神の襟首を掴んで、頬に張り手を叩きこみたい衝動に駆られた。

 ディオニュソスの言うとおり、ロキにはアイズ達可愛い眷族に手を出されて黙っているわけにはいかない。目の前に手がかりがぶら下がっているのなら食いつかない道理はなかった。

 

「……さては自分、遅かれ早かれうちを巻き込むつもりやったな?」

 

「まさか、偶然だよ。まあ誰かに協力を仰ぐつもりではあったけどね」

 

「ちっ」

 

「とりあえずさっきの話は考えていてくれ。私達も独自に調査を続けることにするよ」

 

 何か進展があったら知らせる、と言い残してディオニュソスは去って行った。

 そうしてしばらくの間思案するように虚空を見据えていると、外で待っていたベートが様子を見にやってきた。

 

「オイ、もういいのか?」

 

「……すまん、もうちょっとだけ付き合ってくれ、ベート」

 

 不真面目な態度が完璧に鳴りを潜めていた主神を見て、ベートはため息交じりに黙って従った。ホテルを出て東のメインストリートを抜けたあと、中央広場を経由してメインストリートへと向かった。

 『冒険者通り』の名でも親しまれる通りに入ってしまえば、荘厳な万神殿(パンテオン)、白い柱で作られたギルド本部がどこからでも視界に入ってきた。

 

「ベート、とりあえずここでまっといてくれ」

 

「またかよ……」

 

「もしうちが一時間経っても帰ってこんかったら、何かあったと思って動いて構わん。頼むで」

 

 ロキはベートに言ったあと一人、ギルドへと入って行った。

 

 

***

 

 

 入口をくぐり、広いロビーを歩きながら目的の人物を探す。

 その人物はすぐに見つかった。

 

「お、ミィシャちゃん。仕事頑張っとるなあ」

 

「あ、ロキ様ぁ」

 

 顔見知りである目的の人物を見つけたロキはとある質問をした。

 

「ところでミィシャちゃん、聞きたいんやけど……」

 

「はいはいどうしたんですかー?」

 

「ウラノスおる?」

 

 その名が出た瞬間、ミイシャは動きを止めた。

 穏やかな空気が流れるギルド内で、彼女とロキだけが別世界にきりとられたかのように静まり返る。

 

「ゥ、ウ、ウラノス様ですか?え、っと、そのぅ……!?」

 

「ミィシャちゃん、あかん、みんな忙しいから一人でお仕事せんとな」

 

 ミィシャは助けを請い周りを見回すも、彼女以外は現在窓口にいない。うろうろしている彼女を見て、遠目からギルド職員は、また女好きの女神にちょっかい出されてるくらいにしか思っていないだろう。ミィシャは孤立していた。

 

「う、上層部に確認をしますので、少しお待ち……」

 

「そういうんはめんどいからいい、それより一つだけ答えてな?」

 

「はい?」

 

「ウラノスはいつもんとこ?」

 

「……」

 

 はいともいいえとも答えきれない童顔の受付嬢は、視線をすっと横に逃がす。

 顔に出やすいそんな彼女の様子に、ロキは破顔した。

 

「ミィシャちゃんありがとなー、今度酒奢ったるからー!」

 

「ちょ、ロキ様!!?」

 

 返事で確信を持ったロキは職員以外立ち入り禁止の奥の廊下へと歩みを進める。

 あまりに堂々とし過ぎていて、職員達もいく分か呆けていた。反応する頃にはすでにロキは奥の方へと歩みを進めていた。

 

「確かこっちらへんだったような……」

 

「――――お待ちください、神ロキ!?」

 

「ん、きおったか」

 

 目の前に広がる地下階段に歩みを進めようとしたとき、ばたばたとたくさんの足音が聞こえてきた。

 大勢のギルド職員を引き連れているのは、中年のエルフの男性だった。

 名をロイマン・マルディールという、事実上のギルドの最高権力者である。

 他のギルド職員よりも高価なスーツに身を包んでいるものの、エルフとは思えないほど肥え太った体は、まるで富をありあました豪商人のようである。

 

「今すぐお戻りください!」

 

「んぅー?まーた太ったんちゃうか?こーんなブニブニしおってー」

 

「どこを掴んでおられるのですかっ……ではなく!この先には立ち言ってはならない場所、そもそもの話!中立であるギルドにはいくら神でも不可侵であって!」

 

「固いこと言うなっちゅうに。ちょーっとウラノスに聞きたいことがあるだけって」

 

「いけませんっ、なりませんっ!」

 

 ロイマンは、ギルドを疑うならば確かに探りを入れなければならない人物の一人であるが、、まあ、白だろうとロキは確信を持っている。放蕩した日々を送り続けている彼が、都市を脅かしてみすみす今の生活を手放す筈ないからだ。彼を言葉巧みに誘導する進言者、例えば周りに群がっているギルド職員の方が疑う価値がある。

 しかし、ロキの狙いはあくまでこの先の地下階段の先で待つ者―――――――ウラノスのみだ。

(どうするかなー)

 ロイマン達に見つかる前に、あの階段を下りておくべきだった。

 いくらロキが神の一神とはいえ、あの先に向かおうとすればこの場にいる者は実力行使で取り押さえ、建物の外に放り出すだろう。それほどまでにあの地下の存在はギルドにとって重要であり、かつロイマン達は余計な部外者が接触することを恐れている。

 むにむに、と依然ロイマンの腹で遊びながら思考に耽っていたその時。

 

『――――――構わん。ロイマン、通せ』

 

 地下階段の奥から厳威のこもった声が届いてきた。

 

「しかし、ウラノス……!」

 

『よいと言っている。お前達は退け』

 

 呻くロイマンを低い声が黙らせる。

 彼は地下階段とロキを交互に見た後、がっくりとうなだれながら他の者達とともにその場を去った。

 

「……」

 

 ロキは無言で歩みを進めるのだった。

 

 

***

 

 

「アイズ、本当にあのドロップアイテムを預けてしまって良かったのか?」

 

「うん、私は大剣苦手だから」

 

 一方、『ウダイオス』を倒したアイズはリヴェリアとともにダンジョンから帰還しようとしていた。

 すでに『上層』まで戻ってきている。

 あの『ウダイオス』との激戦の後に魔石とともに手に入れた大剣……『ウダイオスの黒剣』はリヴィラの街で預けてしまった。

 街を仕切っているボールスは昔鍛冶師を志していたらしく、その上級鍛冶師の第一級武装にも劣らない研ぎ澄まされたドロップアイテムを見て。必ずものにしてみせると懇願され、アイズは次回の遠征時の保管武器として預けたのだ。

 

「……?」

 

「どうした、アイズ」

 

 5階層に到達し、しばらく進んでいると。

 アイズはルームの中でぽつんと転がっている一人の冒険者の姿を発見した。

 

「人が倒れてる」

 

「モンスターにやられたか」

 

 眉を曇らせるリヴェリアとともにアイズも近付いていく。

 はっきりと顔が見えるところまできて、アイズの顔が驚きに染まっていく。

 下級冒険者を思わせる貧相な装備、まだ成熟しきっていない体、そして処女雪のような白髪。

 倒れていた冒険者はアイズが再開したいと思っていた白兎……ベルだった。

 

「外傷はないし、治療や解読の必要もない……典型的な精神疲労だな」

 

 膝をつきベルの体を診断したリヴェリアは拍子抜けしたような結論を出す。

 

「この子は……」

 

「何だ、知り合いかアイズ?」

 

「ううん、直接話したことはないけど……前に話したミノタウロスの……」

 

「……なるほど、あの馬鹿がそしった少年か」

 

 リヴェリアと会話しながらもアイズの視線がベルから離れることはない。

 以前から謝罪しようと願っていた思いに加えて、今の姿を以前の自分と重ねていた。

 

「リヴェリア、私、この子に償いがしたい」

 

「言いようは他にあるだろう……硬すぎるぞ、アイズ」

 

「……あれ?」

 

「まあ、この場で助けてやるのは当然として……アイズ、今から言うことを少年にしてやれ。きっとそれで充分だと思う」

 

「……なに?」

 

「膝枕だ」

 

「……そんなことでいいの?」

 

「……確証はないが、今のお前にされて喜ばない男はいないさ」

 

「よく、分かんないけど……膝枕はハチマンにしてもらって気持ち良かったのは覚えているから……うん、やる」

 

「……さて、私は先に戻る。少年が起きたらけじめをつけて帰ってこい、アイズ」

 

「うん、ありがとうリヴェリア」

 

「ああ」

 

 そう告げた後、リヴェリアはその場を後にする。

 ここは上層だ。アイズには何も危険が迫らないことが分かっている彼女は心配せず、むしろ気をきかせて離れていった。

 そしてアイズはベルの頭を持ち上げ、自身の膝に置いた。

 

「……」

 

(恥ずかしい、かな……ハチマンもそんな気持ちだったの?照れながらも頭を撫でてくれていたのは、そういう……あ、頭を撫でてみよう、かな……)

 細い太ももにかかる重みは、どこか新鮮なものだった。

 アイズはそろそろと手をベルの頭に近づけ、振動が伝わらないように、ゆっくり、優しく撫で始めた。

 途中で何度かモンスターが襲ってくるものの、手首の返しだけで剣を振り、斬撃で屠っていた。

 

「頑張ってるん、だね……」

 

 最後に見かけた酒場……いや、駄女神フレイヤと応対した際にちらっと見かけた時より、装備が新しくなっている。

 しかもすでに掠り傷やかけた跡などが残っており、使いこまれているのが見るだけで分かる。

 恐らく毎日ダンジョンに潜ってモンスターと戦っているのだ。きっと努力しているのだ。

 純粋な少年の想いに触れ、自然と心が透明になっていく。

 

「……ん、んう?」

 

「あ……」

 

「……お母さん?」

 

 すると少し寝ぼけた目で、ベルが口を開いた。

 その呟きに、アイズの肩が揺れる。

(君も、いないの?)

 その心の内の声に、帰ってくる言葉はなかった。

(似てるんだね……)

 抱いてはいけない親近感と、少しの寂寥を覚えながら。

 アイズは少年に謝った。

 

「ごめんね、私は君のお母さんじゃない」

 

「……ん?うん?」

 

 すると目が覚めたのか、少年が目を見開く。

 

「……………幻覚?」

 

「幻覚じゃないよ」

 

 少年の一言目はそれだった。

 そうして辺りを見渡し、自分の置かれている状況を把握したところで……。

 

「―――――だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 全力でアイズの膝から、そのまま宙返りでどんどん離れていく少年。

 

「あ……」

 

 突然のことで驚きを隠せないアイズ。

 

「なんで、いつも逃げちゃうの?」

 

 ちょっぴり泣きそうになったアイズだった。

 

 

***

 

 

 薄暗い場所にカツン、カツンと足音が響いている。

 ロキは地下へ通ずる階段を一段一段降りていった。

 階段が終わり少し進むと、薄暗い中松明を照らした場所が見え始める。

 巨大な玉座に座っているのは2メートルを超えた体躯を持った老神、ギルドの長、ウラノス。

 

「久しぶりやなぁ、ウラノス」

 

「……そうだな、ロキ」

 

「……今回のフィリア祭は大変やったなぁ。駄女神が魅了でモンスター放つわ、謎の新種が現れるや」

 

「……」

 

「ギルドは責任求められて大変やったろなぁ、ロイマン達も苦労したろうに」

 

「……」

 

「……もうええ、単刀直入に聞く。あのモンスターを放ったのは、ギルドか?」

 

「……それは違う」

 

「それは、な」

 

 神には下界に生きる子ども達……人間の嘘を見破るのは可能だが、神には神の思っていることが分からない。

 しかし、ロキは今の問答でウラノスはこの件に関わっていないだろうと、確信できていた。

(ウラノスではない、が、ウラノスは別の件で何か暗躍している……)

 ロキにわかったことはそれくらいだったが、ウラノスがこの件に白であればもう用はない。

 

「ほいじゃあな、ウラノス」

 

「…………待て」

 

 帰ろうとするとウラノスが引き止めた。

 

「……なんや?もしかして自分が犯人やーっとでも言うつもりか?」

 

「違う……ロキ、お前は死んだはずの人間が生きていて、そして何か他人に隠さなければならないとき、絶対に隠しきれると保証できるか?」

 

「は?」

 

「ロキはどっちだ」

 

 いきなり始まった質問。普通の人ならば意味がわからないだろう。

 しかし、ロキには心当たりがあった。

 

「……お前も知っとるんか?」

 

「……ああ。そして、お前に報告しておく」

 

「……は?」

 

 そうウラノスが言った後、台座の右より人影が現れた。

 その正体は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼が私達の、オラリオの切り札だ」

 

「……このこと、黙ってて悪かったな、ロキ」

 

「ッ!!ハチ、マン……!?」

 




次回はコマチ視点でいきます!
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