夜明けの先で、待ってて   作:昼夜米主義

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ちょっと遅れたけど、連続投稿です。
5話もシクヨロ!


『母』(しゅら)の第六話

「――シァッ!」

 

迫りくる横薙ぎ。

僕はそれに、今こそ、教わった奥義を使うべき場面と確信をした。

 

「『蜃気楼』ォ!」

 

マリアージュ流戦技 歩法の三『蜃気楼』!

急発進、急停止の切り替えによる、対峙する相手に錯覚を見せる技!

つまり、分身の()()ぅうううッ!

 

「甘いッ!」

「……いっづぁあああッ!」

 

だが、そんな技は聞かぬとばかりに、容赦なく切り返しを胸に受けた。

ちょま、ボキって音したんですが。

 

「まったく、『蜃気楼』にそんな(りき)んでどうするのよ」

「ごほっ……いや、奥義だし……」

「……まあ、拘りがあるのは良いことだけれど、技名叫ぶ暇があるならワンテンポ速くできたはずよ? そういうことは、私相手にまともに出来るようになってから言いなさい」

「……はぁい」

 

しょんぼりとした僕の様子に、思うところがあったのだろうか。

母上は続けてこういった。

 

「確かに、技名を叫んで振るうこともあるわ」

「へ?」

「でもそれは、技を使うときに一々するんじゃないの」

「じゃあどんな時に?」

「まず、相手が強い時ね。相手が強すぎて、震えてしまうときに、自分を奮い立たせるの」

「……」

「何よ」

「いや、母上もそんな時があるんだなって」

 

少なくとも、今の僕が知る『最強』は母上だ。

おじいちゃんやお父様が強いのは知ってはいるけど、実感として知っているのは母上だし、マリアージュ家の当主は、家系で最も強い奴が就く。

そんな母上が()()()()()()相手なんて、想像ができない。

 

「いや、私より強い奴なんてゴロゴロしてるわよ」

「ええー」

 

いや、信じてない訳じゃないですよ?

ええーでもなぁ。

母上が勝てない存在と、将来戦いたくないなぁって。

正直、僕はそう思った。

そんな様子の僕に、思うところがあったのか、母上は話をつづけた。

 

「まず、陛下ね」

「聖王陛下ですか?」

「まあ、一対一(タイマン)で負ける気はしないけど、流石に聖王家の【戦船】に勝てるなんて思うほどに思いあがってないわよ」

「そもそも、本当にあるんですか? そんな超兵器」

「あるわよ? ってああ! そっか、対外的には失われたことにしてるんだっけ」

「……それって機密では?」

「まあそうね、他ではなせば近衛が出てくる程度には機密ね」

 

ちょ、それヤバい奴ですやん。

 

「まあ、話さなければ良いことよ。あとは……そうね、ガリアの【屍】(マリアージュ)とかね」

「え? ああ、例の」

「そうよ【冥王】イクスヴェリアの【屍】。ウチと同じ名を持つ兵器よ」

 

あ、そういや疑問に思っていたことがあったんだ。

 

「そういえば、なんでウチはそんな名前を?」

「単純に、クロード様が【屍】みたいに生き汚くて、死んだときも敵を壊滅させて死んだからよ」

「要するに、皮肉と」

「そうよ」

 

ひっでえ由来。

戦場で討ち死にした忠臣に、もうちょっとなんかあったろ。

 

「付けられた、次代……というか、正しくはこっちが“マリアージュ家初代当主”なんだけど、その人は『父に相応しい名だ、私も肖りたいものだ!』なんて言ったみたいだけど」

「なんて戦闘民族――!」

 

喜ぶのかよ。

付けた当人も唖然としたろうよ。

というか、今出たの圧倒的物量とかそういうのばっかなんですが。

え? 母上殺すには軍団持って来いって言外に言ってる?

 

「その他には、【災禍――って、これは禁句だった」

「ちょ、マジでシャレにならない情報ぽろっと出すのやめてくださいよ!」

「ごめんごめん、でもねジゼル」

「はい? なんでしょう」

「私ですら、個人戦力で足元にすらたどり着けないほどの圧倒的強者が居るって事は、覚えておきなさい」

「あっはい」

 

絶対会いたくないんですが、それは。

 

「まあ、話を戻すわ……次は、そうね。()()()()()()()覚悟した時かしらね」

「覚悟ですか」

「そうよ、もう後が無い時、自分の全てを使い尽くす時に叫ぶのよ」

 

僕は、この時に母上が言った言葉を、後に思いだすことになる。

 

「逃れられない“死”を目前としてね」

「……」

 

僕は母上のその言葉に、なにかを返すことはできなかった。

それは重く、命の取り合いを知らない僕が、何かを言うことができないと思ったからだ。

 

「さて、休憩はこのくらいで良いかしら」

「ええーもうちょっとお願いします」

「ダメよ時間は有限。使える時に使わなきゃ勿体ないもの、それに―――」

「それに?」

「もっと、なにかをやっておけばよかったなんて、思いたくないじゃない?」

「……そっすね」

「……ちょっと、その言葉遣いどこで覚えてきたのよ」

「オッサンから」

「っち! ボーマンのヤロォ後でシめてやる」

 

ウソぴょん。

実は目の前の人からでした。

そんなこと言えば、拳骨食らうからね、しかたないね。

 

「行くわよ!」

「ちょ構えさせてっ」

「敵は待ってくれないわよっ」

 

その日、僕は容赦なく滅多打ちにされた。

もうちょっと容赦してくれても良いと思うの。

 

 

 

 

 

クロンは、ジゼルに対してなんかごちゃごちゃと考えているらしい。

まあ、もう何十年の付き合いだ。

彼が考えていることくらい、いくら脳筋な私にだってわかる。

私の一人息子、ジゼライドには戦う才が無い。

ああ、いや、これだと誤解されるか。

正しくは、()()()()()()()()()が無い。

致命的に無い。

だって、ジゼルには閃きが無いからだ。

その場で、戦場の空気を読んで、対応する才能が無いからだ。

無い無い尽くしの、無能なのだ。

クロンもそうだけど、クロンはクロンで、別ベクトルの才能を持っている。

それで、補える人だ。

だから問題ない。

けど、ジゼルにはそれが無い。

いやまあ、根性は凄いと思う。

今までの私の部下で、こうも毎日私と模擬戦をして、心が折れなかった人は居なかった。

少なくとも、彼らよりも加減はしてるし気も使ってるけど、でもそれ以上に容赦をしてない。

骨が折れたらくっつければ良いし、肉が削げたら貼ればいい。

その程度には、容赦はしてない。

現に、ヘタクソな『蜃気楼』をしたお仕置にした一撃で、ジゼルの肋骨を折っている。

結構痛い感じに。

でも、この子は折れてない。

心が強い。

まあ、実力はよわっちぃけど。

心が強いのは認めてる。

それがこの子の、才能とは呼べない長所だ。

だって、心が強くても意味が無い。

心が強い前に、力が強くなくちゃいけない。

諦めないだけで、心が折れないだけで勝てるなら、今頃貧民街(スラム)で過酷な環境を過ごした者たちは、みんな強者になってるはずだから。

でも、現実は違う。

心が強かろうが、弱かろうが、純粋に強い奴が勝つ。

戦いの最後で、心が強い方が勝つというのは否定しない。

でも、最低限拮抗できることが条件だ。

必要最低限を満たせない奴は、死んでいく。

それが当たり前というヤツだろう。

クロンは物理的に折ってしまって、戦えないようにするつもりらしいが、まあ無理だろう。

身体が折れても、心が折れない奴もいる。

少なくとも、私は何人か知ってる。

……まあ、みんな私が殺ったんだけど。

心が折れなくても、首が飛べば是非もないよね!

 

まあ、そんな私だから、ジゼルがそんな惨めな終わりを晒すのはヤダなって思うわけだ。

 

後悔と悲壮感。

死の瞬間の、あの諦めの表情。

始めて、心が折れたものがする取り返しのつかない絶望。

戦場の倣いとして、私はいつか戦いの内に死ぬだろう。

けど、少なくとも、私はそんな死に方はしたくない。

そして、させたくない。

だから、だからできる限り、ジゼルを強くしてあげたい。

少なくとも、こんな修羅の家に生まれさせてしまった者としての、贖罪だ。

 

 

 

普通の母として愛してあげられない、修羅としての、精いっぱいの愛だ。




次回の投稿は、今日中にしたい(願望)
それが無理なら、今週の水曜には投稿します。

0:19 ルビのミスの修正
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