なにもひねりのない恋愛小説   作:人生下り坂

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1話

「ねぇ、もう一度どこかで私とあったら・・・恋人になってよ」

「へ?・・・あの意味がわか――」

「はい!復唱!!」

「も、『もう一度会ったら恋人になる』です!?」

「うん。よろしい。じゃあ~ね~、覚えててよぉ~」

「え、ちょっと、あの、ま、待って・・・・・・・・・行っちゃった」

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「まとめると、初対面の美少女がいきなり告白してきて風のように去っていった。か、なるほどなぁ」

 

「う、うん」

 

 ガタンガタン、と揺れる電車の中で真新しい制服に身を包まれた2人の男子が吊革につかまりながら話していた。短髪の茶髪にはしっかりとワックスでセットしてあり、きりっとした力強い目に右耳は太陽光を受けキラッと銀色に光るピアスが一つ、すらっと伸びた足をした男子学生と、

 

「すごくびっくりしちゃって、なんていえばいいか考えてたら、あっという間にいなくなっちゃって」

 

 平均より小さめの背丈に不潔ととられない程度に切られた野暮ったい黒髪に黒縁の眼鏡、俯いてぼそぼそと喋る男子学生は少々落ち込み気味に話していた。春休み中に何か面白い事があったか?という話題を振られ、面白いかどうかはわからないがあまりにも衝撃的な出来事だったので話したのだが、

 

「ふ」

 

「・・・ふ?」

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!」

 

「えぇぇぇぇぇ?!」

 

「おま、せっちゃん!せっちゃんこの野郎!人が春休み中に入学する高校の課題にひーこら言ってる間にそんなうらやまけしからんステキ体験しやがって!!!」

 

 せっちゃんと呼ばれた黒髪の少年は茶髪の少年の怒りの言葉をたたきつけられた。ついでに唾も飛んできており、眼鏡に付着したしぶきに黒髪の少年は不快そうに眉を歪めながら反論した。

 

「えぇ~、なに言ってるのさ冬樹君。その課題だって昨日の朝から僕が手伝ったじゃないか」

 

「それとこれとは話が別だって!問題は今日から始まるバラ色で桃色の高校生活に胸をときめかせてたら、友人がすでにマンガでしかお目にかかれないようなハッピー体験してるってことだよ!ふざけんなぁ!」

 

「………そんなこと言われても。でもさ、言われた場所って日本で一番大きい遊園地なんだよ。お互い名前もどこから来たのかすら知らないで、もう一度どこかで会ってさらにお互いがお互いに気付くなんてありえないよ。………しかも僕なんて影が薄いっていうか印象に残りづらいからなおさらだよ」

 

「は?何言ってんだよ。告白してくるぐらいだから向こうもばっちり覚えてるに決まってっしょ。てか、遊園地って妹ちゃんの希望だっけ?高校入学のお祝いなのに本人希望じゃなくて妹ちゃんの行きたいとこなんて、できた兄貴してるよなぁ。暖人お兄ちゃんは」

 

 うりうり、と茶化しながら冬樹は暖人を肘でつついた。暖人は反論しようと口を開こうとしたが思い返してみると、親に『そういえば、お祝いしてなかったな。明日は好きなところに連れてくぞ』なんて言われたが特に思い浮かばず、妹の陽向が行きたいと言っていた遊園地をとっさに言って行ってきた、という経緯があったので言ったら反論どころか墓穴を掘るので開きかけた口を閉じた。ちなみに妹は大喜びだった。

 

「ま、会えたら訳を聞くなり付き合うなり好きにすればいいんじゃね?その彼女がいないんじゃどうもできねーし。相手なしでうだうだやったってしょーもねーっしょ」

 

「・・・・・・そうだよね。ありがとう。僕は本当にいい友人を持てて嬉しいよ」

 

「おう!存分に感謝しろよ」

 

(・・・付き合うって言うとお父さんとお母さんみたいな感じになるのかなぁ・・・・・・あれはちょっとなぁ)

 

「はぁ、今度はどうしたんだよ?」

 

「え?ああ、いやぁ、恋人っていったら家のお父さんとお母さんを思い出してね。・・・参考にならないっていうのかなりすぎるっていうか」

 

「あー、せっちゃんとこのはなー。いつも新婚さんって感じでさ仲良いよな」

 

「良すぎるよ。あれは新婚じゃなくてバカップルって言葉がぴったりかも」

 

「悪いよりはいいじゃねーの?それでさー昨日のテレビで――――――」

 

 それからは二人で他愛のない話をだらだらとしていると―――

 

『ご乗車ありがとうございます。間も無くぅ~南玉手ぇ~、南玉手ぇ~。お出口は左側です。お忘れ物の無い――』

 

 間延びした声の車内アナウンスが2人の降りる予定の駅名を告げた。それを聞いた2人は電車を降りたが、改札前は人で溢れていた。

 

「うへぇ、人がいっぱいというか俺らと同じ制服着てるやついっぱいだな」

 

「当たり前だよ。全校生徒500人近くいるんだから改札前は混むよ。もう一本早い電車に乗ればもう少しマシじゃないかな?」

 

「このごみごみ空間を回避できるのはいいけど、早く学校行っても暇だし止めとく」

 

「冬樹君の場合は早起きしないんじゃなくてできないんでしょ」

 

「いやいや。俺はやればできる子なんだって。やらないしやる気ないだけだって」

 

 冬樹の言葉に暖人は、はいはい、と苦笑しながら答えながら改札を抜ける。同じ学生服を着ている人が作る波はおそらく学校に続いているのだろう。二人も波の一部にとなって学校を目指す。道中はどんな部活に入るか、高校の授業はどんな感じなのか、今日のテストは自信がないと話していたら冬樹は顔を青くしていた。どうやら冬樹は課題で頭がいっぱいだったらしい。

 

 そんな事を話していると二人の視界に高校が見えてきた。暖人はふと自分に告白した人が頭に浮かぶ。

 

(もう一度会ったら恋人・・・か。もしかして同じ高校だったりするのかな。いやいや、ないよね。そうだったとしてもそれはそれで気まずいかも)

 

「ん?例の彼女のことでも考えてんの?」

 

「え?!・・・えっと、その、ちが………くないかな」

 

「せっちゃんはわかりやすすぎ。考えてもしょうがないって。そんな事は会った時に悩めばいいん―――だぁってぇ!!」

 

 スパン!と手拍子のような子気味の良い音が暖人の背中から全身に響き暖人は2、3歩前に押し出された。背中の痛みに目を細めながら振り返る暖人の目には、冬樹がニヤッとしながら右手をひらひらさせている姿が映った。

 

「気合はいっただろ?」

 

「・・・・・・おかげさまで」

 

「せっかくの初登校なんだからそんな辛気臭い面やめて、もっと笑顔を振りまいてこうぜ!」

 

「振りまくのはどうかと思うけど、そうかもね」

 

 気合かどうかは暖人にはわからなかったが、先ほどまで自身の中でぐるぐるとめぐっていたモヤモヤしたモノは外へと出て行ってしまっていた。代わりに背中がじんじんと痛むが友人がくれた気合いだ。ありがたく頂戴しようと思った。そして、暖人は鞄をあさり一冊の本を手渡した。

 

「ん?これって中学で使ってた数学の教科書じゃん?俺にどうしろって?」

 

「今日のテストのだよ。冬樹君は忘れてるかなって思ってさ。高校の授業をやってないのにテストってことは中学までの範囲って事だろうし。全教科は無理だろうから、冬樹君が一番苦手な数学を持ってきたんだ。公式だけでも見れば少しは足しになるかなってね」

 

「――――さっすがせっちゃん!!セバスチャンのあだ名は伊達じゃないな!!!」

 

「・・・そのあだ名、高校に行っても言われるのかなぁ」

 

「それはせっちゃん次第だな。お、クラス分けの紙が貼ってあんじゃん」

 

「あ、本当だ。玄関口前に貼ってあるね」

 

 二人はいつの間にか高校前に着いており、クラス分けの紙の前には人垣ができていた。二人も紙の前に進んで見てみると、クラスは一組から五組で一つの組で40人前後のようで、肝心の自分たちの名前を探すと、

 

「あ!あった。冬樹君、僕たち三組だって。同じクラスだね」

 

「お!マジだ!同じクラスって初めてだよな。よろしくな、せっちゃん」

 

「あはは、こっちこそよろしくね」

 

「つーわけで、だ」

 

「ん?」

 

「この公式の使い方を教えろ下さい」

 

 冬樹は先ほどからパラパラめくりながら眺めていた数学の教科書のページの上に人差し指でトントンと叩いて暖人に見せた。

 

「うん、任されたよ。それじゃあ、早くクラスに行かないとね」

 

「まじでホント助かる!帰りにポテトか肉まんかなんかおごらせてくれよ!!」

 

「それだったら、チョコまんがいいかな」

 

「女子か」

 

「冬樹君は知らないの?甘いものは正義だよ」

 

「女子か」

 

「ミルクティー追加で」

 

「女子か・・・・・・あれ?なんか増えてね?」

 

「早く行かないと時間なくなるよー」

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、ちょっと疲れたね」

 

 テストが終わり、暖人は帰り支度を済ませて、机に突っ伏している友人に声をかけると、初日にテストってまぁじありえない、とくぐもった声で返ってきた。机に突っ伏したまま返事をしたためだろう。登校初日のお約束の自己紹介や学級委員決めなどは明日すると担任の先生から説明があり周りのクラスメートは早々に帰り支度をしている。二人も友達の輪を広げるのは明日からにして、登校した道を逆に歩いて、コンビニに入った。

 

「いや~、教えてもらった公式まんま出てきたな。助かったわー。チョコまんとミルクティーおごらせろよ」

 

「あはは、お役に立てて嬉しいよ。ミルクティーは自分で買うからチョコまんをよろしくね」

 

 会計を済ませた2人は再び帰路に就いた。暖人がチョコまんをほおばっていると冬樹から、そういやさー、と声がかかった。

 

「席が一つ空いてたけど、初日からさぼりってスゲーよな」

 

「さぼりじゃなくて家庭の事情で一か月遅れで学校に来るんだって。先生がいってたでしょ」

 

「まじか、テストで頭いっぱいで全然きいてなかったわ」

 

「もう、大事な話かもしれないんだからちゃんと聞きなよ。たしか名前は水上紅葉さんって言ってたかな」

 

「まじで!?女子か!・・・これはフラグが立ったな」

 

 冬樹は顎に手を当てて流し目で暖人を見た。なんとなくろくでもないかくだらないことを考えているなと冬樹は感じたが話に乗ってみることにした。

 

「なんの?」

 

「なんのじゃないって!これはその女子が例の女の子ってことだよ!!」

 

「えー、それはマンガの読みすぎじゃないかな」

 

「いやいや、これはワンチャンあるって、まぁ~じぃ~で!」

 

 冬樹は両手をピストルの形にして暖人にビシッと銃口を向ける。話題が無いからって乗るんじゃなかったと暖人は思った。

 

「・・・そうだね。会えたらいいなーくらいは期待しておくよ」

 

「お?朝とは違う反応じゃん」

 

「むしろ朝のがあったからだよ。会えても会えなくてもその時はその時だって言ったのは冬樹君でしょ?一か月後に来る女の子のことを考えるより、クラスメートの顔と名前を覚えたほうがいいんじゃないかな?あんまり先のことを妄想してると鬼が笑うよ?」

 

「そりゃそうだけどさー。あー、俺にも告白してくれる大和撫子な女の子いないかなー」

 

「世界は広いからねー。頑張って探せばきっといるよー。・・・たぶん」

 

「あ!露骨に目ぇそらすなよ!!・・・ちっきしょう、絶対に高校生の間に彼女つくってお前の前でイチャイチャしてやっからな!!」

 

 期待して待ってるよ、と返せば、絶対にしてやるからな!じゃあな!と返ってきた。気が付けば別れ道についていたらしい。また明日ね、と暖人は冬樹の背に声をかけて自分も帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、暖人はベッドに寝そべりながら告白してくれた女の子を考えていた。

 

(会えたら良いのかな、悪いのかな。昼間はああ言ったけど、自分でも判断つかないや。そういえば、同じクラスにはいなかったけど他のクラスにいるかもしれないな。まぁ、一か月もあればそれもわかるよね)

 

 考えが会いたいという方向にシフトしていることに気が付かないまま暖人は睡魔に身をゆだねすうすうと寝息をたてて眠ってしまった。

 

 結論から言えば同学年の中にも上級生の中にも例の女の子いなかった。初めは少し落胆したものの、部活見学や学級委員決めや授業を受けたりなど高校生活を過ごしているうちに、暖人の中では例の女の子のことはだんだん薄れつつあった。が、5月に入って二日目に暖人は強制的思い出すことになった。

 

担任が遅れて入学してくる生徒が来たぞ、と言って次に扉に向かって入っていいぞー、と声をかけた。

 

 クラスの中がしんと静まり、扉に視線が向けられた。

 

 扉を開けて入ってきた人物を見れば、男子からはおおっと声が上がり色めき立ち、女子は綺麗とぼそぼそと近くの人と話してる。

 

 暖人の耳にはそれらの音は一切入ってこなかった。

 

 胸が早鐘を打っている。

 

 クラスの関心の中心にいると知ってか知らずか、その人物はきりっとした表情を崩さず、黒く艶やかな長髪を頭の後ろに結んだポニーテールを揺らしながらずんずんと進み教壇に立つと、

 

 心臓の音がうるさかった。

 

水上紅葉(みずかみもみじ)です。漢字は紅葉狩りの紅葉って書きます。父の仕事の都合で一か月遅れての入学ですけど、みんなと仲良くなれたらなって思っています。気軽に下の名前で読んで下さい。よろしくお願いします」

 

 良く通る透き通った声で自己紹介する人物を見て暖人はぼそりと呟いた。

 

「あの人だ」

 

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