自分でもやらかしたと思っています。
もしもの話をしよう。もしも君がシャワーで汗を流した後、風呂場から脱衣所へ移動した時に見知らぬ女性が見知らぬ脱衣所で全裸になっていたら君はどうするだろうか? それもおそらく中学生三年生から高校生二年生ぐらいまでの若くて翠色の瞳をした美少女だ。
――――目の前におっぱいがあった時、君はどうするだろうか?
紳士的な人間なら何も見なかったことにしておっぱいに背を向けるだろう。
変態的な人間なら何も考えず、欲望のままおっぱいへ飛び付くだろう。
ならば、俺のように紳士的で変態的な人間が取る行動は限られてくる。
手に吸い付くような柔らかい肌、マシュマロやおもちのようにモチモチしていながら確かにある弾力、青いショートヘアの髪と翠色の瞳を持つ美少女が活発そうな顔を恥ずかしそうに赤らめる。
「……………………」
「はッ、俺は一体何を!」
公園の池で泳ぐ鯉がエサを求めているみたいに口をパクパクさせている美少女の表情を見て、俺は自分がとんでもない行動を起こしていたことに気付く。視線の先で俺の手が美少女へ伸びていた。それも美少女が持つ二つのおっぱいへ。
考えてみてほしい。シャワーを浴びて全裸の男性が同じく全裸で見知らぬ美少女のおっぱいを鷲掴みにしている。そんな光景や状況になった時、君はどうするだろう。
少なくともお先真っ暗で刑務所へ放り込まれることは確定。だったらいっその事、もう一度あのモチモチ触感を味わってもいいんじゃなかろうか。
よく判らない状況でよく判らない行動を犯してしまった俺はよく判らないなりに自分の本能たるエロスを信じて今一度、美少女のおっぱいを揉――――。
「変態ぃぃぃぃ!」
その言葉と共に顔面へ激しい衝撃が襲う。鼻が折れ、鼻血がドクドクと流れていく感覚を味わいながら、薄れていく意識の中で顔を赤らめながらも格闘家のように拳を構えている美少女の姿を見た気がした。
◇
美少女ちゃんが放った渾身の一撃で意識を刈り取られた俺が次の目を覚ましたのは清潔感が漂う病室だった。全裸だった筈の俺は病院の入院患者が着るような服を着せられて、ベッドの上で気持ちよく寝ていた。
そんな病室で目を覚ましてベッドから身体を起こした俺は激痛と戸惑いの表情を浮かべながら周囲を見渡した。病室を見渡しただけで理解出来る明らかに俺の故郷と違いすぎる科学技術を前にしてぎょ、と驚いている俺に気付いて今度は白衣を纏った大学生くらいの年齢であろう金髪の美女が心配そうな顔を浮かべて声を掛けてきた。
大丈夫です、と答えた後、身体に異常がないか色々質問されたので答えていく。名前も知らない美女と話している間、俺のエロスセンサーが警告音をずっと鳴らしていた。白衣と茶色の衣服によって目立っていないが名前も知らない美女は巨乳だった。
エロスのパワーで高速回転していく俺の思考。俺の容態を気にして色々質問してくれる美女に答えながら、別の思考が現在の状況を把握しようと躍起になっている。
第一に何故、自宅の風呂でシャワーを浴びただけなのに脱衣所へ出たら目の前に全裸の美少女がいたのか。俺は一人暮らしで女なんて自宅へ連れ込んだことは無い。よって、意味不明。
何故、美少女のおっぱいを揉んだのか。……煩悩に負けたから、以上。
何故、病室にいるのか。俺が気絶したからだ。おそらく美少女に撃破された俺は完全に気絶した為、余罪的なモノを吐かせる為に保護されたのだと予想する。
「あ、そういえば名前を聞いていなかったね。私の名前はシャマル。皆からはシャマル先生って呼ばれているわ」
「俺の名前は――――」
グルグルと高速回転している思考の中、美女ことシャマルちゃんの会話で言葉が詰まる。
「俺の名前ッ!」
言葉が、名前が出てこない。俺という存在の名前が出てこない。シャワーで汗を流していた、なんて下らないことは覚えているのに、自分の名前がわからない。
「一応、悪いと思ったけど血液検査で身元を確認した結果、ミッドチルダの民間人じゃないことは確認済みで旅行者としてミッドチルダへ訪れた形跡も無し。…………貴方が非合法なルートでミッドチルダを訪れたことはもう判っているの。わざわざ機動六課の女子シャワー室で何をするつもりか判らないけど、正直に話してくれたら少しは罪を軽く出来るわ」
自分の名前が判らない、と驚愕している俺を余所にシャマルちゃんは優しく、そして厳しい目付きで俺のことを見ている。なんとなく、俺のことを思って言ってくれているのだと理解出来た。しかし。
「ミッドチルダってなんですか?」
シャマルちゃんのニュアンス的に地名であることは予想がつく。だが、そんな地名を聞いたことは無い。いや、俺が知らないだけでそういう地名があることは確定しているんだけど。
「え……、本当に判らないの? いや、でも、嘘を言っているようには……」
その言葉に驚いたのはシャマルちゃんだった。何かブツブツと呟いているけど何を言っているのか聞こえない。
――――これはヤバイ。そのミッドチルダという地名は有名なのだろう。しかし、よく考えてみれば名前と自分の生い立ちを思い出せない記憶喪失の俺が持つ一般的知識の中にミッドチルダなんて有名な名前の地名は存在しない。
記憶喪失で自分のことを話せず、おそらく常識的な知識を知らない。そんな人間は怪しさ満載だ。ここは嘘を吐いてでも怪しさを和らげねば。元々、美少女へ犯罪行為をした俺は捕まる。しかし、余計な警戒をされてしまうのは避けたい。
「それぐらい知っています。ここの地名ですよね」
会話の流れからここの地名に違いない。
「ここはクラナガンよ?」
「………………、や、やだな~、冗談ですよ。隣町のことですよね」
両手を広げて、ハッハッハ~、と笑う俺。シャマルちゃんのジト目が俺の心臓へ突き刺さる。
「……すいません、ミッドチルダってなんですか?」
「……そう、嘘を言っているようには見えないし、もしかしたら異世界渡航者なのかしら」
「異世界渡航者?」
いきなり、訳の判らない単語が飛び出した。異世界とかゲームの中だけにしてください。
首を傾げた俺に色々と説明してくれるシャマルちゃん。正直、さっぱり理解出来なかった。
ただ、要約すると、なんと世界はひとつだけじゃなかったんだよ。な、なんだって~!
こんな感じの驚愕が俺を襲った。それと同時にある天命が俺に舞い降りた。このまま偶然、ミッドチルダを訪れてしまった異世界渡航者になれば美少女のおっぱいを揉んだ罪はうやむやのまま消えるだろう。
だが、その場合、あの美少女やシャマルちゃんに俺は変態だと認識されてしまう訳だ。勿論、紳士である俺はそれが嫌だ。
――――ならば、俺に出来ることは自分の身を削るのみ!
「あ、シャマルちゃん。これは失礼なことをしました」
「ん? どうかしましたか?」
突然、頭を下げた俺にきょとん、と首を傾げるシャマルちゃん。綺麗な美女なのに可愛いとは何事か。
内心で下らないツッコミを入れつつ、俺は手を伸ばす。
――――そう、シャマルちゃんのおっぱいへ。
その感触はやはり――――以下略。
「な、なにするんですか、いきなり!」
かぁー、と頬を赤らめて俺から距離を取るシャマルちゃん。両手で身体を抱き締めて身を固めるシャマルちゃんが可愛いと思いつつ、俺は悪びれた表情を浮かべない。むしろ、何で嫌がっているのか判らない。そんな表情を浮かべる。
「え、俺の世界では女性に挨拶や感謝、敬意を示す時、女性のおっぱいを揉む文化があるのですが……。も、もしかしてミッドチルダでは違うのですか?」
戸惑いの表情を浮かべる。………………勿論、演技で。
「……え、あの、その、そうだったんですか。それならスバルの胸を揉んだのも……」
「はい、挨拶したのにいきなり殴られてびっくりしましたよ」
そう俺は自分の良心という名の身を削る。
俺の犯罪行為も水に流されるだろう。文化の違いというごり押しで。
「なんとなく、今の反応でこの世界では悪いことだと感じました。だから、“文化の違い”とはいえ、失礼なことをしたようなので謝らせてください」
真剣な表情で頭を下げるとシャマルちゃんが慌てながら言う。
「文化の違いは異世界渡航者だから仕方ないですよ」
多分、ストレスが溜まっていたんだと思います。