優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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今回はやっとレオ、マリカ、那月の異能が出せました!

それとUAが10000更新しました。読んでくれた皆様ありがとうございます!これからもこの作品をよろしくお願いします!


10話 平和な日常

七星剣武祭も終わり、夏休みも明け蓮達は二学期を迎えた。

始業式が終わり、一週間が過ぎた頃、レオ、一輝、マリカ、那月は食堂で蓮を待っていた。

待っている理由は近々行われる生徒会選挙が始まるのと、来月に風紀委員会の入れ替わりの時期なのでその準備に追われているからだ。

 

「すまない、待たせた」

「おう、お疲れさん」

「お疲れー」

「お疲れ」

「お疲れ様です」

 

待った時間は十分ほど。予め風紀委員会で遅れると連絡を言われていた四人は頭を下げた蓮を笑いながら労う。

蓮は自分の昼食であるうどんが乗ったお盆をテーブルに置くと空いてる席に腰を下ろした。

 

「思ったより風紀委員の仕事が長引いてな」

「やっぱ忙しいのか?次期副委員長ってのは」

「まあな」

 

実は蓮は新学期になってから委員の入れ替えが終わった後、風紀委員の副委員長を務めることになっている。

だからか、そのため前副委員長からの引き継ぎのための資料や、これから忙しくなるであろう事務処理を担当していたのだ。

風紀委員会は主に実働部隊で構成された組織なので、事務面は全員が分担して行うことになっているのだが、今は彼が中心に事務をこなしているという状況になっている。

 

今日も四時限目を休み、先生から急遽言い渡された仕事に勤しんでいたのだ。

幸い、成績は全く問題ないので支障はなかった。

 

「そうなんだ。じゃあ、今日の鍛錬はどうするの?」

 

彼らはいつも放課後になれば、演習場に移動し各々の能力や剣術、体術を鍛えている。

放課後になれば共に鍛錬に励むのが彼らの日常だったが、蓮が風紀委員に入ってからは先にレオ達の四人が場所を抑えて、遅れて蓮が合流するという形になっている。

最近忙しくなってるから、今日も遅れてくるのかというマリカの質問に蓮は申し訳なさそうに頷いた。

 

「すまんな、今日も遅れそうだ」

「うん。分かった」

 

マリカの快諾に蓮は一つ頷くと箸の手を動かしてうどんを食べ始めた。

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

放課後、蓮達が鍛錬をする場所は日によって変わる、訓練場が空いてれば訓練場へ、空いてなかったら校舎の裏手や各所に点在する森の広場で、もしくはプールで行うこともある。

彼らは週に一、二回のペースで模擬戦を行なっている。

今日は第五訓練場に彼らの姿はあった。

とはいえ、最近は蓮が風紀委員会の仕事で遅れるため、決まって、レオ、マリカ、那月、一輝の四人が場所取りをしている。

そして蓮が合流した後、第五訓練場ではいくつもの金属音が響く。

音の発生源はリングの上で2組に分かれ時間制限を設けた模擬戦を行なっているレオと蓮、マリカと一輝だ。

 

いつもはどの訓練場でも放課後は各々が自由に戦えるバトルロイヤルの場となり、好きに暴れられるため、何人もの生徒が利用して戦いの賑わいで沸いているのだが、今回は偶然なのか、レオ達以外は誰もおらず、貸切状態で戦いをしていた。

 

「オラァッ!」

 

気合の入った声とともに、手甲型の固有霊装、《ジークフリート》を嵌めたレオが拳を突き出す。

蓮はそれを間一髪で避けカウンターの一閃を腹部に刻む。だが、だが刃が当たった瞬間甲高い音を立てて刃の進行が止まる。

レオの全身は赤光を帯びており、赤い魔力の膜が蓮の刀を弾いたのだ。

これは魔力が持つ衝撃に対する耐久力を活用した防御術、魔力防御ではなくレオの異能によるものだ。

 

レオの異能は『硬化』。シンプルに防御力を底上げするものだ。

それで全身に防御力向上の鎧《鋼鉄装甲(パンツァー)》を発動していたのだ。

外部からの攻撃を遮断できるほどの防御力場を鎧のように纏うことでレオは蓮の斬撃を無力化したのだ。

 

「《槌矛(シュトライトコルブン)》!」

 

レオが叫んだ直後、振り上げた右拳に魔力が集まり、レオの拳を分厚く覆い、蓮に殴りかかる。

 

「《海龍纏鎧》!」

 

蓮は避けずに全身に氷と水で構成された鎧を瞬時に纏う。関節部分は水で、装甲部分は氷で作られた鎧は並みの攻撃では傷ひとつつかない。

すかさず蓮は左腕でレオの拳を受ける。

装甲板に鉄球が衝突したような、殴ったにしては重すぎる音が響いた。

蓮の体が数メートル跳ね飛ばされるが、すぐに足を踏ん張り体勢を立て直す。

 

「……ッ!(流石に響くな)」

 

数メートルの後退を余儀なくされた蓮は兜の下で左腕に感じた痺れに笑みを浮かべる。

蓮が作った氷の籠手は生半可な攻撃なら衝撃も通さないのだが、レオの拳はそれを貫通し、蓮の左腕には破城槌でも打ち込まれたような衝撃が響いていた。その証拠に、籠手には亀裂が入っている。

これがレオの強みだ。

レオは身体能力がずば抜けて高い。魔力放出なしなら蓮を遥かに凌ぐほどだ。

だから、レオの異能はレオ自身の身体スペックとてつもなく相性がいい。ただでさえ堅牢な一撃が、さらに堅牢になるのだ。広範囲攻撃無しの近接オンリーの戦いだが、十分に手強い。

蓮はすっと立ち上がり、籠手を修復する。

 

「やはりパワーならお前の方が圧倒的に上だな」

「ま、それぐらいしか蓮に勝てるもんがねぇからな」

 

レオは肩を竦めて笑う。

レオも自分の強みがパワーだということは自覚している。もっと頭を使う戦い方をした方が有利なのだろうが、はっきり言って自分はそういうのがあまり得意ではない。だから、シンプルにパワーを高めることにしたのだ。

それを考えれば蓮はレオにとって最高の鍛錬相手だった。

彼が生み出す氷は不純物がない分硬い。その上、彼の膨大な魔力によってその防御力は桁違いに上がる。

だから、蓮の氷はレオのパワーを上げるためのいいサンドバッグになるのだ。

逆に、蓮もレオの攻撃を受けることで氷の硬度上昇を行なっている。

 

「次はもっと固めに行くぞ」

「おう、たのむわ」

 

蓮は《海龍纏鎧》の強度をもう一段階あげて、レオに向け駆け出した。

 

 

そして別のリング上ではもう一つの戦いが繰り広げられていた。

マリカと一輝だ。

 

一輝がリング中央で《陰鉄》を正眼に構え、マリカはリングを縦横無尽に駆け巡っていた。

マリカが幾度も一輝とぶつかり、甲高い金属音を鳴らし、火花を散らす。

 

「くっ、なんて重さだ……!」

 

マリカの斬撃を受け止める《陰鉄》が軋み、支える両腕に痺れが伝わってくる。

白銀の刀身を持つ日本刀《蛟丸》を振るうマリカはその身からは想像もつかないほどのとてつもなく重い斬撃を幾度も叩きつけながら、その重さをものともしない速度でリングを駆け巡る。

 

マリカの異能は『慣性制御』。自分と自分が触れたものに掛かる慣性を操作する異能だ。

一輝に叩きつける重撃はマリカの伐刀絶技《山津波》。自分と《蛟丸》に掛かる慣性を極小化して的に高速接近し、インパクトの瞬間、消していた慣性を上乗せして刀身の慣性を増幅して対象物に叩きつける技だ。

慣性を消して得たスピード、プラス、慣性を増幅して得た重さは最大威力で十トンの巨大なギロチンの刃を空高くから落とすのに匹敵する程だ。

 

レオがディフェンス特化ならば、マリカはパワーとスピードに特化している。

一輝もこれほどの重撃を繰り出す相手とは今まであったことがない上、一輝とマリカは剣術の腕はほぼ互角、一輝は予想以上に苦戦を強いられていた。

 

(……ほんと、黒鉄も滅茶苦茶よね)

 

だが、マリカもマリカで一輝の防戦に内心歯噛みしていた。

一輝はマリカの重撃を無駄のない動きで受け流し、地面に衝撃を逃していたのだ。その証拠に、一輝の足元ではリングが陥没し、ひび割れ、破砕されている。

マリカ自身もここまで受け流せる敵と戦うのは珍しかった。

 

一輝とマリカの模擬戦はほとんどが決着がつかず時間切れで引き分けに終わる。

マリカは天賦の才と異能の慣性制御、一輝は積み重ねた努力の結晶と異常とも言える観察眼。

それが二人の戦いを拮抗させていた。

幾重にも斬り結んだ二人は今はお互いに得物を正眼に構えつけ入れる隙を窺っている。

 

そしてマリカが慣性を極小化し一輝に斬りかかろうとした瞬間、模擬戦の終了を告げる声が響いた。

 

「そこまでです!」

「「「「ッッ!!」」」」

 

時間を計っていた那月の声が響いて、四人は同時に動きを止めると、各々霊装をしまいリングから降りてベンチにいる那月の元に集まると休憩する。

ドリンクを飲むレオはマリカと一輝に鍛錬の成果を尋ねた。

 

「そっちはどうだった?」

「また引き分け。レオ達はどうなのよ」

「どうも何もまた俺の負けだよ」

 

レオはドリンクを片手に肩を竦め首を横に振った。

結局あの後、強度を上げられた《海龍纏鎧》を破ることはできず、逆に氷の槍を何本も撃ち込まれ、力場が緩んだところに一撃を叩き込まれ負けた。

 

「ま、それもそっか」

 

マリカの軽口にレオは顔を顰めただけで反論はしなかった。

この場にいる蓮以外の四人は蓮との模擬戦で一度も蓮に勝てたことがない。いずれもが敗北に終わっている。

それに、いつまでたっても蓮に勝てないことにレオ達は蓮が天才だから、Aランクだから勝てないなどくだらない言い訳をするつもりはない。

マリカもそういう意味で軽口をたたいたわけではない。

蓮はこの場にいる誰よりも剣術と魔術を磨き上げ、経験を積んでいるから強いと分かっているからこその発言。

レオもそれを理解していたから、何も反論しなかったのだ。

 

それに、レオがかなり汗を流しているのに対し蓮は僅かにしか汗をかいておらず、さらに疲れを感じさせずに涼しい顔でドリンクを飲んでいたので、差別的な思考に囚われること自体が馬鹿馬鹿しく思えてしまうのだ。

 

「私は少し休むけど、みんなはまだ試合するの?」

「僕も少し休むよ」

「俺もだ。魔力がすっからかんだしな」

 

マリカの言葉に一輝とレオが便乗してドリンクとタオルを片手にベンチに座り込む。

三人とも差はあれど汗を流しており、少しクールダウンの時間は必要だった。

そうなると、必然的に次に戦う組み合わせは決まる。

まだ今日は試合をしていない那月と、まだ余力を残している蓮だ。

二人は顔を見合わせるとお互いに笑みを浮かべ、

 

「じゃあ、那月、やるか?」

「はい、お願いします」

 

二人はリングへと上がり、お互い開始戦に立ち霊装を顕現する。

 

「行くぞ。《蒼月》」

「来てください。《彩葉(いろは)》」

 

蓮は二本の藍色の日本刀を腰に提げる。対する那月は若葉色のボロボロの表紙の手帳サイズの本が彼女の胸の前で滞空し、淡い黄緑の光を放っている。それは佐倉那月の固有霊装。《彩葉》だ。

 

「それでは、始め!」

 

二人とも準備が整い、審判役のマリカが手を振り下ろし、模擬戦が始まった。

 

まず蓮が《蒼月》を構え、一気に肉薄する。だが、

 

「《色葉語録(ショートカット)》——防護壁」

 

那月の黄金色の瞳が黄緑の光を帯び、舌からは翡翠のプラズマが迸り、《彩葉》が独りでに開きページが黄緑に光った次の瞬間、那月と蓮の間に巨大な壁が突如出現した。

 

これが那月の異能『言霊』。言葉に纏わる概念を操り実体化させる異能だ。今のは伐刀絶技《色葉語録(ショートカット)》。自分が記憶した物質を言葉にし実体化させる技。

那月の瞳が光り、舌からプラズマを発するのは言霊を使用した時に現れる副次的なものだ。

そして彼女の能力は多彩さが売りだ。なにせ、彼女は言葉の数だけ別の能力を持っているのだから。少ないなんてありえない。

 

那月は言霊の異能で防御壁を作り出し、蓮の攻撃を阻んだ。

そして、言霊はこの程度では終わらない。

 

「ッッ!」

 

蓮は振り下ろそうとした手を止め、バックステップ。すると、那月は舌からプラズマを迸らせながら言葉を紡いだ。

 

「《色葉語録》——槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍槍!」

「ハァッ!」

 

退避した蓮の真上に突如槍が何本も出現し驟雨のように降り注ぐ、それに気づいていた蓮はこともなげに《蒼月》を振るい降り注ぐ槍の雨の悉くを斬り払う。

那月はすかさず次の言霊を紡ぐ。蓮の左右から三メートルを超える巨大な二枚の分厚い鋼鉄の板。それは、

 

「《色葉語録》プレス!」

 

左右から圧力をかけて中にある物を圧壊させる工作機械、プレス機だった。

《幻想形態》の為死ぬことはないものの、喰らえば体を潰された痛みを味わう事になる。それにこの瞬間まで槍の雨が降り続けていて、瞬時にプレス機に反応して耐え凌ぐのは並の騎士なら到底不可能。だが、そこは《七星剣王》だ。瞬時に対応してみせた。

 

「《蛟龍双牙》」

 

《蒼月》に膨大な水を刀身に纏わせ長大な二体の蛟龍を生み出す。

その蛟龍は主人の意思に応え巨大な顎を開き押し潰そうと迫るプレス機を押し留め、循環する超高圧の水牙を持って鋼鉄の板を噛み砕いた。

 

「ッ!《色葉語録》!」

 

槍の雨を凌がれ、プレス機を砕かれた那月は二頭の蛟龍を仕舞いこちらに迫ろうとする蓮を、

 

「落とし穴!」

「なにっ?」

 

那月は蓮がいた場所に落とし穴を生成し落とす。

蓮は踏み込もうとした地面が突然陥没した事に僅かに目を見開きその穴に落ちていく、穴の底を見れば何本もの槍が生えており、落ちたら串刺しになるのは確実だ。

さらに間髪入れず那月が次の言霊を紡ぐ。

 

「《色葉語録》——落雷!」

 

《彩葉》から閃光が生じ、それに呼応するように蓮の頭上に雷雲が集い、雷が迸る。

迸る雷撃が無防備な蓮を仕留めようと襲う。だが、

 

「———咲き乱れろ。《雪華繚乱》」

 

空中に生じた雷が蓮を撃ち倒そうとした瞬間、落ちて行く蓮がそう言葉を紡ぎ、魔術を発動する。

リング上に六枚の花弁を持つ大小様々な青白い氷の花《雪華》が咲き乱れ、雷が空中に咲いた大量の《雪華》に防がれた。

 

「えっ?」

 

初めて見る伐刀絶技に那月だけでなくマリカ達も目を見開く中、落とし穴から青い人影が飛び出し、空中に浮かぶ《雪華》を足場にし、無空を駆け回りながら空を飛び、那月の正面まで瞬時に移動していた。

那月の正面に移動した青い人影、新宮寺蓮は那月の首筋に銀光煌めく刃を添え告げた。

 

「ここまでだな」

「参りました。お見事です」

 

剣先を引かれ告げられた言葉に那月は穏やかな笑みを浮かべ頭を下げる。

 

「お疲れ。最後のはなかなか良かったぞ」

「ありがとうございます。でも、蓮さんは難なく対応しましたね。それに最後の伐刀絶技はどんなものなんですか?見たところ《雪華》と似ていたのですが……」

「ああ、《雪華繚乱》だ。空中に《雪華》を大量に展開する伐刀絶技で、俺の空中戦でも使える技の一つ。今まで見せたことはなかったから、知らないのは当然だ」

「そうだったんですか」

 

那月は蓮の言葉に納得する。

すると、マリカ達がリングに上がりマリカが那月にタオルを手渡した。

 

「那月、お疲れ。すごかったわよ」

 

マリカの賛辞に那月は首を横に振る。

 

「ありがとうマリカちゃん。でも、私は全然弱いよ」

「そうか?俺達よりかは善戦できてたと思うぜ」

「うん、そうだね。僕達じゃあんな戦い方できないし、佐倉さんならではだよ」

「ありがとう、レオ君、黒鉄君」

 

男子二人からの気休めに那月は微笑む。

すると、蓮が軽くかいた汗をタオルでぬぐいながら一つ提案をする。

 

「そろそろ食堂に行こうか。時間もちょうどいいしな」

 

時計を見れば時刻は6時半。たしかに夕食の時間としてはちょうどいい。

 

「賛成〜。もうお腹ペコペコだったのよ」

「早く行こうぜ。腹減った」

 

似たような発言をする二人に蓮はやはりこの二人は色々と似通った部分があるなと思ったが声に出すと面倒なので、心の内にそのまま潜め、マリカ達と共に食堂へ向かう。

 

 

そして彼らは和気藹々と夕食を共にし、食後談笑した後各々自室へと帰る。

 

 

同じ教室で勉強し、放課後は全員で鍛錬し五人で切磋琢磨する。食事は昼と夕を共にしそれぞれ部屋に戻って一日を終える。

 

 

それが彼らの、とても賑やかな破軍学園の日常だった。

 




レオとマリカの異能は魔法科でも彼らが得意としていた魔法をモデルにし、マリカの異能は魔法科の山津波と全く同じなのですが、レオの硬化に関しては設定を変えています。

それと那月の言霊の異能は夜桜四重奏の言霊使い五十音ことはの能力をモデルにしています。


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