今回は10000字超えです。
時間はかかったが書ききりました。今回はやりたかった展開の一つですので、どうかお許しを……
すごい今更ですけど、評価が黄色になりました!
評価してくださった皆様、お気に入り登録ひてくれた皆様、本当にありがとうございます!
これからもこの作品をよろしくお願いします!
翌朝、蓮はいつもの時間通りに起き、びしょ濡れになり汗が張り付いた体をシャワーで洗い流す。
シャワーから上がり、タオルで体を拭い、髪に残っている水気を魔術で取り払う。
そこまではいつもと同じだ。
だが、今日はいつもと違いトレーナーではなく、制服を手に取り着替えていく。
今日は月影に返事をする日でもあり、軍務もあるため、いつも行なっている早朝トレーニングはやめ早めに出ることにしたのだ。
制服に着替え髪をうなじで結んだ蓮は淡々と朝食の準備を進めていく。
パンを二枚焼き、焼きあがるまでの間にベーコンエッグを焼いていく。
パンが焼きあがれば、その上にベーコンエッグを乗せ、もう一枚にはバターを塗り、特製のフレッシュジュースをコップに入れれば蓮お手製朝食の完成だ。
席に着いた蓮はテレビをつけ、早朝のニュースを見る。
つけたニュース番組では、
『十年に一人の天才騎士!ヴァーミリオン皇国第二皇女ステラ・ヴァーミリオン様(15)。破軍学園に首席入学!』
という見出しが画面に映っていた。
「ステラ・ヴァーミリオン……Aランクで確か二つ名は《紅蓮の皇女》だったか」
蓮は見出しと同時に出ている顔写真を見ながら自分が知り得ている情報をつぶやく。
画面には燃え盛る炎を体現するかのようなウェーブのかかった紅蓮の髪や、日本人離れした美しい顔立ちの中央で鮮やかに輝く
まさしく紅蓮と呼ぶにふさわしい姿だ。自分が蒼髪碧眼から紺碧が二つ名に含まれているように、彼女もその容姿と立場から《紅蓮の皇女》の二つ名がつけられたのだろう。
「……ヴァーミリオン皇国からの
ヴァーミリオン皇国は亡き母サフィアの故郷だ。そしてステラ・ヴァーミリオンはその国のお姫様でもある。
「『炎』の能力で、魔力量は平均の30倍か。……人間のままでその魔力量なら最高峰と言われてもおかしくはないか」
前情報として黒乃から聞かされていた彼女の実力に感嘆の声を漏らす。
正確には違うが大和と同じ炎の異能。そして魔力量は平均の30倍、それはとてつもない量だ。しかも、彼女は因果の外に出ていない正真正銘の人間。《魔人》に至っていなかった時の蓮ですら総魔力量は平均の25倍だったのだ。人間の中では最高峰の潜在能力を秘めているかもしれない。
もっとも、25倍ある時点で十分最高クラスなのだが、《魔人》になった以上魔力量は増加しているためその情報は既に意味をなさない。
「……破軍にくるのならいつか会えるだろうし、その時にでも確かめればいいか」
蓮はテレビに映る彼女を見定めるような目で見ると最後に静かな声でそう呟いた。
それと同時に朝食を終わらせ、画面を消すと、食器を魔術を使い洗浄、乾燥まで一気に済ませた。水魔術を使えば食器の洗浄や服の洗濯など普通にやるのと比べれば簡単に終わる。
それにしばらく学園を空けるのだ、食器も洗濯物も綺麗にしておかなければあとあと面倒なことになる。
「よし。これで大丈夫だろ」
家事を終えた蓮は昨日あらかじめ準備しておいた大型リュックサックを肩にかけると玄関の扉を開ける。
「行ってくる」
誰もいない部屋に一言そう言い、彼は部屋を後にした。
そして一階に降り寮を出た時、彼を呼ぶ声が聞こえた。
「お、蓮!」
「レオ、それにお前達も、おはよう」
声の方向に視線を向ければ、ジャージ姿のレオが寮前の道に置かれているベンチに座りながらこちらに手を振っていた。さらにレオの周囲にはマリカ、那月、秋彦、陽香、凪の五人もいた。
時間的に早朝トレーニングを終えたばかりなのだろう。
それぞれ内容は違えど早朝トレーニングの終盤では全員が自然と集まるようになっている。
いつもならここに蓮も入っているのだが、こうして招集や軍務がある日はその輪には入らなかった。
「その荷物、もしかしてまた招集か?」
「ああ、そうだ。また数日空けることになる」
「新学期始まって早々忙しいわね。少しは休んだほうがいいんじゃない?」
レオとマリカが蓮に近づきながらそう言う。心配しているとも取れるその言葉にれんは首を横に振る。
「いや、さほど忙しくはない」
本心からの言葉にレオとマリカは更に心配することはなかった。彼らは蓮がむざむざやられるような人間ではないと思っているからだ。
そして次に蓮は同じクラスメイトの那月と秋彦に目を向ける。
「那月、秋彦。陽香にはもう言ったがいない間のノートを頼んでもいいか?陽香一人に全て任せるのは申し訳ないからな」
「うん、それくらいなら大丈夫だよ」
「はい。私達で分担しときます」
「ああ、頼む」
最後に同じ風紀委員の陽香と凪に声をかける。
「陽香、凪。委員長に数日委員の仕事を休むことと入学式に間に合わないかもしれないと言うことを伝えておいてほしい。頼めるか?」
「うん、任せて」
「は、はいっ」
「じゃあ、行ってくる」
凪は抑揚のあまりない声音で頷き、陽香は声をうわずらせながらそう答えた。蓮は最後に一言そう言うと彼らに背を向けそのまま駐車場へと歩いて行った。
駐車場の一角には蓮が普段仕事のために使う移動手段として黒いバイクが置いてある。招集や軍務が多いことを鑑みての特例措置だ。
だが、今日はそのバイクは使わない。
蓮はバイクが置いてある方向とは真逆、赤い車の方へ歩み寄る。
窓を叩くまでもなく、助手席の扉が開いた。運転席にはまだ若い一人の女性が座っていた。
「おはようございます。黒木さん」
「おはよう蓮くん。時間通りね」
黒木響子少尉。氷室の部下であり蓮と同じ独立魔戦大隊の一人だ。
彼女は氷室からの命令で蓮の送迎を任されたのだ。昨日の時点で待ち合わせ時間を決め、今こうして時間通りに合流した。
「さっきの子達はお友達?」
「さっき?……ああ、
「そう」
クスッ、と黒木が笑いをこぼした。
黒木が自分の能力を使えば場所にもよるが離れた場所を見るくらいは造作もないはずだだから蓮は驚きはしなかった。
「じゃあ今日はお願いします」
「ええ、荷物は後部座席に置いてね」
「はい」
彼女の言葉に従い後部座席に荷物を置き助手席に座ろうと扉を開き身を屈めたその瞬間、
「いやぁあああああ‼︎‼︎ケダモノぉぉおおおおお‼︎‼︎」
女子のものと思われる甲高い悲鳴が響き渡ったのだ。
「は?」
座り込もうとした蓮は思わず間抜けな声をあげ、悲鳴の発生源と思われる第一学生寮の方へ視線を向けると訝しげに眉を潜めた。
黒木も窓を開けて蓮と同じようにその方向を見て首をかしげた。
「今の悲鳴は何かしら?」
「……おそらく誰かがセクハラでもしたんでしょう。ケダモノと叫んでましたし」
「こんな早朝から?それは流石にあり得ないんじゃないかしら」
「…………だといいんですが」
蓮は半ば祈るように呟く。
どうにも面倒ごとになりそうな気がしてならない。それにルームメイトを男女混合にしたのだ、男女間の問題が起きないはずがない。少なくとも一度ぐらいは事故が起きると蓮は思っている。
「……とりあえずもう行きましょう。時間が惜しい、総理も待ってるはずです」
「え、ええ、そうね」
蓮はもっともな理由で現実から目を背け今度こそ助手席に座る。黒木もそれに頷きハンドルを回し官邸へと向かった。
ちなみに、先程の悲鳴は今朝話題にあげたばかりの姫君のものであり、自分の友人がその姫君に痴漢行為を働いたこと、その後に二人の間に一悶着あったことを蓮は帰還後に知ることになる。
△▼△▼△▼
「やあ、昨日ぶりだね。朝早くご苦労」
「待たせてしまい申し訳ありません。月影総理」
「いやそんなことはないよ。私もつい先ほどきたばかりだからね」
制服から軍服に着替えた蓮と月影はお互い挨拶をする。
黒木も氷室から事情は聞かされているが、月影からの指示で席を外しているため、今書斎には二人しかいない。
「それでどうするかは決めてくれたかな?」
挨拶もそこそこに、月影はそう切り出した。
「はい。今回の件ですが、自分は辞退させていただきます」
「……そうか、分かった」
「国の存亡をかけた計画に私情を持ち込んでしまい申し訳ありません」
深々と頭を下げた蓮に月影は苦笑を浮かべ首を横に振る。
「いや、元々こちらが無理を言っているんだ。自分の都合を交えるのはなんら不思議ではない。君が謝るようなことは何一つないよ。
もし気が変わったらいつでも連絡をいれて欲しい、その時は君を歓迎するよ」
「………分かりました」
蓮は月影の言葉に頷き顔を上げる。その表情は申し訳なさが伺えたものの、自分の選択に後悔はしていないように見えた。
「月影総理、最後に一つよろしいですか?」
「構わないよ。何かな?」
蓮は月影の目を見据える。
「自分は今の家族や生活を誰にも壊させるつもりはありません。もし、それが脅かされるようなことが起きれば自分は容赦するつもりはありません。たとえ、国家や世界であろうとも関係なく、自分が全て滅ぼします。………それが、俺が決めた《魔人》としての在り方です」
「ッ」
月影は息を呑んだ。
一瞬にしてこの部屋を冷気が支配していた。
それは雪や氷がもたらす冷気ではなく、一点の曇りもない細く鋭い鋼の刃のような冷気。
鬼気とも言えるそれを放っている張本人は、その鋼の冷気をすぐに収め、穏やかな笑みを浮かべると、軽く頭を下げる。
「話は以上です。この後軍務がありますので自分はこれで失礼します」
「…あ、ああ、気をつけるんだよ」
「はい」
そして蓮は月影に背を向け扉を開き外に出る。
その際、外から話し声が聞こえたが、おそらく外で待っていた黒木に声をかけたのだろう。
コツコツと二つの靴音がだんだんと遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった頃、月影は
「……ハハ、これは参ったね」
月影は乾いた笑い声を上げた。
先程までは平静としていたが、今はその反動で血の気が引いた顔には冷や汗が滲んでいた。
(蛇に睨まれた蛙の気持ちはこんなものなのかもしれないね)
月影はそんな馬鹿げたことを思ってしまった自分に対して苦笑を浮かべた。
「………彼はまるで諸刃の剣だ」
その表現は言い得て妙だ。
新宮寺蓮はこの国、いや《連盟》において最高戦力の一つであり、また危険分子でもある。
鎖に繋げられない理性ある怪物、といったところだろう。
矛盾しているように見えるが、それこそが彼なのだ。
こちら側が誠意を見せていれば彼は裏切らないし強大な戦力にもなる、しかし、逆に彼の逆鱗に触れるようなことをしてしまえば、こちら側が滅ぼされる。
「《魔人》とはいえ、16歳であれだけの気迫を放てるとは末恐ろしいよ。
《覚醒》の
新宮寺蓮というハイリスクハイリターンの存在。齢16歳の身で国のトップにそう思わせるほどの《魔人》に月影は畏敬を感じてしまった。
氷室の進言に偽りがないことを理解した。
「……国家や市民のためではなく家族や友人を守るために戦う、か。なるほど、君はまさしく《魔人》だよ」
国や市民の為に自分を犠牲にすることはなく、あくまでも家族や友人のために戦う。
それはとんだエゴだ。
だが、そのエゴこそ彼が《魔人》たる所以なのだ。
それに《魔人》というのは総じてエゴイストだ。誰もが自分の揺るぎないエゴを、願いを持っている。
そもそもそれらは《魔人》に至るための絶対条件であり、なければ《魔人》になることなど到底不可能だ。
彼が国家や市民のためではなく、身内や友人のために戦うのも彼自身の願いから来ているのだろう。
「……まあとやかく言っても仕方がない。計画もそろそろ大詰めだ。彼の事は一度置いておこう」
月影は思考を切り替え、暁学園の計画が記された書類を手にし、計画の最終調整に取り掛かった。
△▼△▼△▼
月影との話が終わった後、蓮は黒木と共にヘリで移動し青森の津軽陸軍基地に来ていた。そこで氷室から作戦の説明が行われると言われていたからだ。
野戦用の軍服に着替えた二人は、風間の部下によって作戦室に通された。
「来たか。黒木もご苦労だった」
入室と共に敬礼した二人にぞんざいな答礼を返し、氷室は二人に座るように指示した。
「さて、まずこの映像を見てくれ」
壁一面を使った大型ディスプレイに、衛星写真と思しき写真が表示された。
そこには二隻の大型船が写っている。
「今から十分前の写真だ。斥候部隊からの報告によればここから約30キロ離れた港に停泊している二隻のうち一隻は貨物船であり、もう一隻は偽装した護衛艦とのことだ。
使徒の数は六名。信奉者は約三百名。動員規模から見て大規模なテロを行う意図があると我々は推測している」
氷室の言葉に作戦室の雰囲気が一気に引き締まった。
これだけの規模ならばテロは容易に行えるだろう。そして、それによってもたらされる被害は甚大なはず。
「いつ奴らが動くかわからない以上事態は一刻の猶予もない。故に先手を打ち奇襲をかける必要がある。
他の隊は既に配置についている。黒木、お前の隊にも既に指示を出して配置についてもらっている。特尉と共に合流しろ」
「「はい」」
「うむ、ではお前達が隊に合流次第作戦を開始する。急いで準備してくれ」
命令を下された二人は敬礼し、それぞれ準備に取り掛かる。
「特尉、君から預かった荷物はトレーラーに置いてあります。急ぎましょう」
蓮は久しぶりに再会した上司の一人、柳葉少尉の声に頷き彼の後をついていった。
駐車場に停めてあった大型装甲トレーラー二台の一つの中に入り預けていた荷物を受け取り中から戦闘服を取り出しハンガーに掛けると、おもむろに着ているものを全て脱ぎ捨てる。
トレーラーの中には女性士卒の目もあったが、お互い気にする様子はなかった。独立魔戦大隊の兵士は全身検査をすることはなんら珍しくもない。
男性士卒が女性士卒に全裸を見られるだけでなく、その逆もまた然りなのだ。
羞恥心で立ちすくんでしまうようではやっていけない職場なのだ。
蓮は手早く戦闘服を着込み、最後にフルフェイスのヘルメットを被る。
「必要な情報は全てバイザーに転送したよ」
「ええ、確認しました」
蓮はヘルメットを操作して情報を確認すると頷く。
すると、そこに氷室と黒木がやって来た。
黒木は蓮と同じタイプの女用の戦闘服を着ており、ヘルメットは脇に抱えていた。
「特尉、準備はできたな」
「はい」
「それなら黒木と共にすぐ向かってくれ。言っておくが手加減する必要はない。敵に降伏を勧告する必要もない。殲滅しろ」
「了解しました」
「では特尉行きましょうか」
蓮は黒木と共にトレーラーの外へ出て飛び降りる。
「行くぞ。《蒼月》」
蓮は腰に自身の霊装、二本の藍刀を顕現し腰に提げる。
そして、黒木も同じく霊装を顕現させる。
「来なさい。《
白塗りの鞘に納められた一本の小太刀《白月》を顕現し、
腰に提げると、視線を交わし頷き合うとそれぞれの能力で黒木の隊と合流するべく空へと飛び上がった。
△▼△▼△▼
同時刻、破軍学園の食堂の一角では蓮を除くいつものメンバー六人が陣取り共に夕食をとっていたが、ふとレオが声を上げた。
「そういや皆選抜戦はどうするんだ?俺は出るつもりだぜ」
二週間後から行われる七星剣武祭の出場選手選抜戦。今年からは全校生徒参加の実戦選抜となっているが、強制ではなく自由参加なので、もし参加しないのならば試合の日程をメールで送ってくる『選抜戦実行委員会』に不参加の意思を書いて返信することになっている。
そして、レオは出るつもりのようだ。
レオの言葉に全員が食事や談笑を止め、それぞれ答える。
「僕も出るよ。自分の力がどこまで通用するか知りたいしね」
「……私も。ずっと出たかったから」
「私も出ますよ」
秋彦、凪、陽香の三人は出る気満々のようだ。
「私は出ませんよ。戦うのはあまり好きではありませんし」
那月は参加するつもりはないらしい。彼女の能力は強力なのだが、好戦的な性格ではないしかなり内気というか引っ込み思案なので出ないのも不思議ではない。
そして最後の一人、マリカはというと、
「あたしは勿論出るわよ。選抜戦だしあわよくば強い人と本気でやれるかもしれないし」
彼女も参加の意思を見せた。これで、那月以外は全員参加することになった。
「でも、理事長も粋なことしてくれたわよね。おかげで今年は退屈することはなさそう」
「お前、ほんと好戦的だよな」
「だまらっしゃい」
レオの苦笑まじりの軽口にマリカは右手を上げレオの左肩を軽く叩き、ジト目で睨んでくるレオを無視し今度はマリカが声を上げ話題を変えた。
「そういえばさ、今朝の試合凄かったわねー」
今朝の試合、それは今日、破軍学園に鳴り物入りで入学したばかりの
どういう経緯で模擬戦することになったのかは不明だが、噂を聞きつけたマリカ達は全員で試合を見ることにしたのだ。
結果から言えば黒鉄一輝の勝利だった。敗因としては一輝がFランクだからと油断していたこと、それ以上に単純な実力が一輝の方が上だったことだ。
マリカ達は一輝が勝つことを疑ってはいなかったが、他に見に来ていた生徒達はFランクがAランクに勝つという予想外な結末に言葉を失い固まっていたそうだ。
「まあ、初見で《一刀修羅》はキツイだろうな」
「でも、初見で瞬殺した人もいるんだけどねー」
「うん、あの時はすごかったよね」
「あー、ありゃあすごかった。一瞬で終わっちまったもんな」
蓮と一輝の初めての模擬戦をその場で見ていたレオ、マリカ、那月は当時の瞬殺劇を思い出し笑みを浮かべる。
その模擬戦を知らない秋彦、陽香、凪も瞬殺したのが今ここにはいない蓮のことだとすぐに気づき賞賛の笑みを浮かべた。
「やっぱり、蓮さんはすごいね」
「…うん、本当に」
「でも、一体何がどうなって模擬戦やることになったんだろう」
『さあ?』
当然の疑問を漏らした秋彦に事情を知らないレオ達はそう答えるしかなかった。
「ところで、皆さんは蓮さんとステラ・ヴァーミリオンさんが戦ったらどっちが勝つと思いますか?」
那月がふと漏らした疑問に、全員が一度顔を見合わせ、
「そりゃあ蓮が勝つに決まってるだろ」
「蓮くんの圧勝ね」
「蓮さんが勝ちます」
「…蓮さん」
「蓮だね」
「ふふ、皆さんそういうと思ってました」
と、全会一致で蓮が勝利することを疑わなかった。
△▼△▼△▼
場所は変わり、蓮と黒木は、黒木の隊(黒木を含め八人の分隊規模にも及ばない小集団だが、全員が相当な手練れだ)と合流し港から少し離れた山の中腹にいた。
「……よし、ハッキング完了。通信手段は全て遮断したわ」
「さすがは《
「ありがとう。けれど、そんな大それたものじゃないわよ」
冗談めかした笑顔ながらも、黒木も本音のところ、満更でもなさそうだった。
そして、今のでわかるように黒木の能力は自然干渉系《雷》。
彼女は電子や電波への干渉を得意としている魔導騎士だ。
黒木は氷室からの命令で《解放軍》が持ちうる通信手段、船の電力その全てをハッキングし掌握したのだ。言葉にすれば簡単なことだが、実際やるとなれば魔力制御力が最低でもAは無いと出来ない芸当だ。
それを確認した蓮は腰に提げた《蒼月》を鞘ごと手に取りその名を呼ぶ。
「《蒼月》」
するとその声に呼応するように淡い青光を放ち《蒼月》が日本刀から
なぜなら、固有霊装とは己の魂の形、自分の生き様だ。
双剣や複数展開するタイプならば、複数個展開できるが、形そのものが変わるなどありえない。
しかし、蓮はそれを成し遂げた。
『黒川事件』を境に魂がバケモノへと変質した彼は己のあり方さえもその日を境に変わってしまったのだ。
この現象を目の当たりにして黒木達は特に驚きはせず、さも当たり前かのように見ていた。だが、事実彼らの中ではこれは見慣れた光景なのだ。それはこの後に起こる現象も然り。
両手に持った銀色に青いラインのある銃身を持つ二丁拳銃へと姿を変えた《蒼月》を構え、右手を斜めに伸ばす。
銃口が向く先は山の麓、《解放軍》達が潜む港。
「少佐、黒木少尉が準備を終えましたので作戦を開始します」
『うむ、了解した』
現在地から港まで、直線距離で約700m。
蓮が構えている拳銃形態の《蒼月》には、当然照準スコープなどついていない。
にも関わらず、ここにいる全員「見えるのか?」と訊かなかった。
蓮に見えているのは分かりきっていることだからだ。
黒木自身、蓮と視え方が違うが、港内のどこに兵がいて、どれが使徒であるか、視えているからだ。
そして彼は港内にいる見回りをしていると思われる三人組の兵士の一人に狙いを定め静かに引き金を引いた。
銃声にしては甲高く異質な音が響き魔弾が放たれた。
『迷彩』が施された不可視の弾丸はそのまま真っ直ぐに見回りをしている三人組の兵士の一人に向かって伸びていき、着弾した瞬間、その魔術が発動した。
標的の肉体が青い光に覆われたかと思えば、来ている服、持っている武器ごと輪郭が消えた。
それまで兵士の身体があった空中に、ポッと、薄い炎が生じた。
青と橙が混ざり合った炎は、一瞬で消えた。
地面に落ちた、僅かな灰だけを残して、兵士の身体は消失、いや、
残された二人の兵士は、突然の出来事に度肝を抜かれ叫ぶことも喚くこともできずにいた。
慄然とした表情で、互いに、交互に、顔を見合わせる。程なくして、彼らが悲鳴を上げようとした瞬間、二人の身体を青い光が覆い、仲間と全く同じ運命を辿った。
僅かな灰を残し肉体、衣服、武器全てが灼熱の炎で焼き尽くされたのだ。
しかし、なぜ蓮が炎の能力を使っているのか?
彼は水使いのはず。水の応用で爆発を起こすことはできても、対象物を焼き尽くす炎など出せるわけがない。伐刀者の能力は一人に一つが原則であり、那月の『言霊』のように複数扱えるように見えてもその実、そういう能力だからであり、厳密には一つである。
しかし、どの世界にも例外はある。魔人がそうであるように、複数の能力を持つ者も少なからず存在する。
それが蓮だ。彼は少し違うが水と炎、先天的に二つの能力を有しているイレギュラーな存在なのだ。
両親ともに《魔人》だったからなのかは分からないが、少なくとも彼は世界最強夫婦とまで謳われた二人の能力を両方とも受け継いでいた。
「《
無機物、有機物関係なく対象物を完全に焼失させる伐刀絶技《悪魔の焔》。
自分で名付けたわけではなく、いつしか敵側で噂になり名付けられた、冷酷無比な魔術に黒木は隠しきれない戦慄と共に呟きを漏らした。
他の者も顔は見えないが、黒木と同じような反応をしていることが空気で分かった。だが、そんな空気に頓着せず、港全体を上から見渡し
「少尉、そろそろ行きましょう」
「…ええ、そうね。じゃあ行きましょうか」
黒木の言葉にその場にいた九人は全員空を飛び港へと直行した。
△▼△▼△▼
「ん?」
見回りをしていた別の三人組の兵士の一人がふと空を見上げた。
「おい、どうした?」
「いや、なんか向こうの方でなんか飛んで来たような」
「はぁ?何も飛んでねぇぞ」
「鳥と見間違えたんだろ」
他の二人はゲラゲラと声をあげ、気のせいだと笑う。
男は鳥じゃないもっと大きな何かが飛んで来たように見えたんだがと首を捻るも、すぐにどうでもいいか、と自己完結し二人の方に振り向く。
すると、二人のすぐ後ろに黒い人影が一つ闇の中静かに佇んでいたのが見えた。
「お、おいっ!」
後ろっ!と二人に叫ぼうとした瞬間、人影が振るった二つの銀閃によって二人の首は既に宙を舞っていた。
「ヒッ」
男の口から悲鳴が上がりかけた。
だが声が悲鳴に変わる前に、人影が振るう銀閃が彼の視界を左右に分けた。
男は体を縦に真っ直ぐに切り裂かれ、左右に肉体を分かちながら断面から勢いよく鮮血を溢れさせ、人影の服を汚しながら崩れ落ちる。
足元に崩れ落ちた男の死体に人影は視線を向けると、いつの間に血を洗い落とした蒼銀の双刀を二丁拳銃へと変化させ銃口を向け引き金を引き死体を焼き消した。他の二つも同じように焼き消していく。
「………」
死体を無残に焼き消した謎の人影ー新宮寺蓮はたった今命のやり取りをし三人を殺したのにも関わらずヘルメットの陰では眉を一つ動かす様子がなかった。
彼の後ろに数人の黒づくめの兵士が降り立つ。それぞれが刀や槍、銃を手にしている。
蓮はそのうちの一人と一言二言言葉を交わすと、貨物船の中へと踏み込んだ。
「…はぁ」
《解放軍》との接触から二十分。一方的な蹂躙をし敵を殲滅した蓮は一人、港から約5キロ離れた海の上に立っていた。
藍色の闇に染まった空の下、ヘルメット越しでもわかるほど右目を青く輝かせ、水平線を眺め浅く息をついた。
他の隊員達は船の取り調べや逃走者がいないか捜索を行っている。蓮は氷室からの指示で後処理が終わるまで後続の船がいないかを海上で警戒することになっていたのだ。
彼ほどの水使いならば大気中の水分や海の水に自分の魔力を張り巡らせることでまさしく千里眼や順風耳の如く遥か遠く離れた場所の出来事でも見聞きすることができる。
更には水や氷で様々な生物を創り出し使役し見回りさせることでも指摘が来た場合迎撃することもできる。
事実、今も鮫や鯨、鯱、海豚などの海洋生物や、鷹や鷲などの鳥類を百数体創り出し、海と空の警戒をさせている。視覚と聴覚を共有させているため、それぞれの状況も逐一把握できている。
並みの水使いがやろうものならあまりにも多過ぎる情報量に神経が焼き切れて死ぬか、いくら魔力制御が優れていようとも魔力が枯渇してすぐに力尽きる。
《魔人》であり、その魔人としての膨大な魔力と異常すぎる魔力制御、そして彼の
彼は緊張の糸を緩めず、警戒を続けながら一人でいるのをいいことに物思いに耽っていた。
考えていることは暁学園のこと。
その話は断った。母を裏切ることなどできるわけがなかったから。
実の両親を亡くして十一年。彼女には負担ををかけすぎた。両親を亡くした日も、黒川事件の時も、他にも色々と迷惑をかけてきたのに彼女は自分を見捨てなかった。
人間から化け物に堕ち大量殺戮を行なった自分を、
今もなお人を殺し手を血で汚し続けている自分を、
親友の子とはいえ血の繋がりがない赤の他人の自分を、
彼女はそれでも、こんな自分を息子として愛してくれている。なら、その愛を裏切るわけにはいかない。
今回、月影に暁学園の話を持ちかけられ断りはしたものの、良いきっかけになった。
こうして、己のあり方を再認識することができたのだから。
自分が何の為に在るのかを、何の為に戦うのかを。
それを昨日今日で、はっきりと再認識できた。
自分に定められたものを。
自分に残された二つの衝動を。
獣となり、戦場を闊歩し敵を殲滅する。
敵方にとっての悪夢や、絶望の象徴となり戦う。
全ては愛する者を護る為に、怨敵への報復を果たす為に。
家族を愛し護ろうとする家族愛。
怨敵を必ず殺そうとする復讐心。
それらが、七年前、彼が九歳の時に定められた《魔人》としての責務と在り方だ。
異能の2つ持ちと霊装の形態変化。これは絶対に外せない設定の一つですので、不満があってもどうか温かい目で見ててください。
彼は暁学園を断りました。普通なら食いつく話なんですけど、まあ魔人だからってのもあるし、彼にも譲れないものなありますからね。
あと、一輝とステラの試合やその他諸々はザックリカット。なんでかって、そりゃあ、まあ………ねえ?
次回、紅蓮のお姫様と紺碧の王者の邂逅回………の、予定です!