優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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ついに、ついに、フェアリーテイルファイナルシーズンが本日から放送開始しました!

いやー、昔から大好きだな漫画だから嬉しいです!

毎週欠かさず録画して見なければ。ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ


16話 最強の称号を持つ男

「じゃあ、停学が明けたら相手してあげることにしたんだ?」

「ああ」

 

夕方、いつものメンバーで食堂に集まり夕食を食べてる中、マリカが蓮にそう尋ねてきた。それに蓮は一言返し、味噌汁を啜る。

 

「それでどう倒すつもりなんだ?作戦とか考えてんのか?」

 

すると今度はレオが楽しそうにそう尋ねてきた。

彼の、いやここにいる全員が蓮が勝つことを疑っていないため、勝てるかではなく、どうやって倒すのか、作戦はあるのかと尋ねてきた。他の皆も興味津々にこちらに視線を向けてくる。

蓮は箸を置くと、不敵な笑みを浮かべ。

 

「特に必要ない。今日会ってみてある程度の力量は把握した」

 

そう淡々と告げた蓮は箸を持ち、食事を再開する。

これでマリカとレオは揃って人の悪い笑みを浮かべるあたり、やはり二人の思考回路は似ている。(本人はどちらも強硬に否定するだろうが)。

 

「あーあ、ヴァーミリオンさんもついてないわね。入学早々大魔王にボッコボコにされるんだから」

「だな。どんな蹂躙をするんだか」

「まあ、そこまで徹底的にはしないんじゃないかな?」

「さ、流石に蓮さんでも手加減しますよ」

「どうかな。蓮さん試合になると容赦ないし」

「みんな、少し言い過ぎよ。蓮さんに失礼じゃない」

「いいんだ、陽香。俺は気にしてないし、叩き潰すことには変わりないんだからな」

「うわっ、大魔王が蹂躙宣言した」

 

………と、少し物騒な内容だが、大きな盛り上がりを招き。その後、食事が終わっても食堂が閉まるまで学生らしく賑やかに騒いだ。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「ステラ、大丈夫?」

「……ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう、イッキ」

 

蓮達が食堂で盛り上がっていた時、一輝は自室で気落ちしているルームメイトのステラ・ヴァーミリオンに優しく声をかけた。

あの後、ステラは蓮の気迫に呑まれてしばらく座り込んでいた。それほどに彼女は蓮という存在に恐怖したのだ。そうなった原因は彼女にあるのだが、確かにあれは初対面でやられたら確実に恐怖するだろうから、彼女だけが悪いとはとてもじゃないが言えなかった。

 

「……あれが、《七星剣王》なのね」

 

ステラは唇を噛み締めながらそう呟いた。それに、一輝は静かに頷き肯定する。

 

「……うん。七星の頂を目指す以上、絶対に避けては通れない壁だよ」

「凄かったわ。あんなに凄い気迫を出せる人はヴァーミリオン皇国にはいなかったわ。……ねえ、イッキから見て、あの人はどれくらい強いの?」

「まさしく最強の一言に尽きるよ。僕でも手も足も出ない。なにせ、《一刀修羅》を使った状態で瞬殺されたぐらいだからね」

「………えっ?」

 

そう告げた一輝の言葉にステラは目を見開いた。

《一刀修羅》それは一輝の唯一にして最強の伐刀絶技だ。自分はその絶技に翻弄され負けた。なのに、蓮はそれを瞬殺したという事実がステラの背筋に寒いものを感じた。

 

「勿論、君には炎の異能があるから変わると思うけど、間違いなく君よりは遥かに強いよ。もし戦っても確実に負ける」

「……でしょうね。あの人の氷を溶かせなかった時点で格上なのはわかったわ」

 

ステラは怒ることもなく、冷静にその事実を受け止めた。

彼女も力の差は感じた。それに、彼の気迫に呑まれた時点で彼が自分よりも圧倒的に強いということはわかった。

 

「それでも、ステラは挑むんだろ?」

「……ええ、勿論よ。勝てないから挑まないなんてことはしないわ。勝てなくても、経験になるのならやるわよ」

 

そう言うステラの瞳には焔のような強い闘志の光が宿っていた。それを見た一輝は素直に彼女を凄いと尊敬した。

現状の強さに胡座をかかず、常に上を目指し続けるその姿は、一人の騎士としてだけではなく、一人の女性としてもとても魅力的に見えた。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

一週間後の早朝、蓮は往復20キロのマラソンを行なっていた。。

彼は第二学生寮から10キロほど離れた小高い丘をコースにしており、丘に着けば武術の鍛錬と魔術の調整を行い、終われば丘を下り寮へと戻る。

いつもならば、寮に着くまではコースがコースなだけに滅多に誰かとは会わないが、今日は帰りの途中でとある二人の人物に出会った。

 

「……あ、おはよう、ございます」

「おはよう、新宮寺君」

 

会ったのは一週間前に邂逅を果たしたステラ・ヴァーミリオンと彼女のルームメイトの一輝だった。

ステラは少しおずおずとし、一輝は少し強張っているもののなるべく自然体で挨拶をしてきた。

 

「ああ、おはよう。黒鉄、ヴァーミリオン」

 

蓮も彼らの裏にあるそれぞれの思惑は無視し、自然体でそう挨拶をし、そのまま走り去ろうとするが、ステラに呼び止められた。

 

「あ、あの、シングウジ先輩…」

「なんだ?ヴァーミリオン」

 

蓮は足を止めると、ステラに身体を向け彼女を見下ろす。

先週に味わった恐怖を思い出し、一度びくりと身体を震わせるものの、なんとか踏みとどまり、蓮に頭を下げた。

 

「先週は迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。

それで折り入ってお願いがあります」

「模擬戦のことか?」

「はい。改めて、アタシと手合わせをしてください」

 

一週間前と同じように頭を下げるステラを見下ろすと、彼女に背を向け、

 

「今日の十一時。第13訓練場に来い。そこで相手をしてやる」

「っ!はいっ!ありがとうございますっ!」

 

ステラは顔をパァッと輝かせ勢いよく頭を下げる。蓮はそれを一瞥し軽く手を振ると、マラソンの続きを始め彼らの元から走り去った。

 

こうして、Aランク同士の試合が成立し、それは瞬く間に学園全体に広がった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

昼。学園は喧騒に包まれていた。

それもそのはず、伐刀者最高位のAランクであり、鳴り物入りで入学した超大型ルーキーである《紅蓮の皇女》の二つ名を持つステラ・ヴァーミリオンが、同じAランクであり破軍学園校内序列第1位、歴代最強の現《七星剣王》、二つ名を《紺碧の海王》その他いくつもの二つ名を持つ最強の男、新宮寺蓮に決闘を申し込んだからだ。

Aランク同士の激突に当然学園中の生徒達だけでなく教員達までもが盛り上がり、試合会場となった第十三訓練場には生徒教員問わず、人で溢れかえっていた。

新聞部の計らいで大型モニターを取り付け、入れなくなった人達でも外で見れるようにしている。

 

『さあ!会場の内外で試合を今か今かと待っている皆様‼︎急遽決まった試合ですが、これは必ず見るべき試合です‼︎

我が校の校内序列最高位にして歴代最強の《七星剣王》!《紺碧の海王》新宮寺蓮に!ヴァーミリオン皇国の第二皇女の《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンが勝負を申し込み戦いが成立したのですから‼︎

世にも珍しいAランク学生騎士の試合。これは見なければ損だぁ‼︎

そして、実況は私、月夜見が!解説は青山先生がお送りします!』

『よろしくお願いします』

 

実況席ではマイクを片手に腕を振り回し、盛り上がりを隠さない破軍学園『放送部』の少女と、その隣にいる緑髪のおっとりとした若い女性教師、蓮の担任である青山摩耶がいた。彼女らの後ろの席には理事長である黒乃と今年から臨時講師として来た寧音の姿もあった。恐らくは、周囲に被害を出さない為だろう。

そして、訓練場内のボルテージがマックスに達した時、タイミングよく今回の主役の一人が姿を現した。

まずはじめに姿を現したのは今回の挑戦者(チャレンジャー)。鮮やかな赤髪を靡かせ、表情を引き締めている少女。《紅蓮の皇女》の二つ名を持つステラ・ヴァーミリオンだ。

 

『おーーーーっと!まず最初に赤ゲートから姿を現したのは《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン選手です!』

 

大歓声の中、ステラはリングに上がり向かいの青ゲートの奥にいる人物を鋭く見据え、出てくるのをじっと待つ。

暫くし、青ゲートの奥の闇の中から一人の男が姿をあらわす。

ポニーテールに束ねた鮮やかな青髪を靡かせる長身痩躯の男。《七星剣王》の称号を持つ新宮寺蓮だ。

 

『そして青ゲートからは、あの男が来た————‼︎我らが破軍学園の、この日本の頂点に立つ最強の《七星剣王》!我が校の風紀委員会副委員長にして校内序列最高位の《紺碧の海王》新宮寺蓮選手の入場だ———‼︎‼︎』

 

ステラの時よりも一際大きい歓声が訓練場に響く。

もはや轟音と形容すべき歓声の中、蓮はゆっくりとリングに上がり、ステラの二十メートル先で止まる。

ステラは蓮に軽く頭を下げる。

 

「今回は急な試合を受けていただきありがとうございます」

「別に気にしてない。ちゃんと反省もしたようだからな、断る理由がない」

 

二人は軽く言葉を交わすと、開始線に立ち、

 

「全力で行かせてもらいます!歴代最強の《七星剣王》‼︎

《紺碧の海王》新宮寺蓮先輩!………傅きなさい。《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!」

 

ステラが熱を帯びた赤い燐光を発しながら、その両手に紅蓮の炎を纏う黄金の大剣を顕現させる。

刀身からは彼女の意気込みを表すかのように紅蓮の炎が激しく揺らめき熱風が巻き起こっている。

 

「行くぞ。《蒼月》」

 

蓮は右手を前に突き出し掌を上に向ける。

瞬間、月の輝きのように淡く、冷気を帯びた青白い燐光と青く輝く水が溢れ、紺碧色に輝く月のような形の魔力球が掌の上に出現した。

蓮はそれを掴むと、刀を身に付けるように右腰に添える。

紺碧の月は、二つに割れると静かに剣の形へと変わり、やがて藍色の光沢に包まれた二振りの日本刀へと姿を変えた。

海を凝縮したような艶やかな藍色は光の反射で光沢を放っていた。

 

「それが、シングウジ先輩の霊装……」

「ああ、《蒼月》だ」

「……刀は抜かないんですか?」

「ああ、抜かない。今のところこれを抜く気は無い」

 

それは暗に刀を抜くほどの相手では無いと言ってる様なものだ。

プライドの高いステラは一瞬カッとなったものの、すぐに落ち着きを取り戻す。

彼にはそれを言えるだけの実力があると理解しているが故にだ。

 

(アタシより格上なのは一週間前でもうわかっている。なら、この人の技術を盗んでやる!この人との戦いで学べないことなんて一つもないんだから!)

 

格上との戦いで学べないことなど何一つない。

だからステラは、倒すつもりで挑むと同時に彼の戦い方を観察しあわよくば自分のものにしようという魂胆で戦いに臨むことにした。

全ての前準備が整い、会場は一層大きな興奮に揺れる。あとは開始の合図を待つだけだ。

 

『幻想形態』での試合だが、二人のAランクの実力を、此処にいる人間達は見ることとなるのだ。

歴史に名を刻むほどの大英雄の資質を持つ二人の天才の戦いを。

そして、

 

『それでは試合、———開始ィィ‼︎‼︎』

 

実況の月夜見が手を振り下ろし、戦いの始まりを告げるブザーを鳴らした。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

試合の合図が鳴る。

ステラは開幕速攻を仕掛ける。この一週間公開されてる彼の試合映像を嫌という程見て対策はしてきたが、それでも情報が足りない。ならば、彼よりも先に一撃を見舞うしか無い。

ステラは30倍の魔力量をフルに活用し足裏に魔力を集めて爆発させ加速をする。

轟、と風を鳴らしステラは蓮に迫り、炎纏う一刀を大上段に構え振り下ろす。

伐刀絶技《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》の炎を纏った《妃竜の罪剣》の温度は摂氏3,000度。それに加え、ステラの武装は大剣。超重量武器だ。そんな重撃をまともに喰らえば一撃で戦闘不能になる。

それに対して、蓮はそれを一瞥しただけで刀すら抜かず自然体で佇んでいた。

 

「ハァァァァァ‼︎‼︎」

 

裂帛の気合いとともに叩きつけられた重撃。

戟音と衝撃が訓練場に響き、訓練場そのものが激震し、更に爆炎が噴きあがり、両者の姿が炎に呑まれ搔き消える。

最初から全力全開の攻撃に、観客は一斉に盛り上がる。

 

『き、決まったァァ————‼︎‼︎まず最初に一撃を入れたのはステラ選手!なんと言うパワー!なんという炎!こちらにまで熱風が届いてきます!果たして新宮寺選手は無事なのでしょうか⁉︎』

『うわ〜、熱いですねぇ〜』

『此処でもほんわかですね⁉︎青山先生!』

 

解説が若干天然混じりの発言をしているが、今観客が注目しているのはステラと蓮の事だ。爆炎の中で一体何が起こっているのか、それだけだ。

やがて爆炎が晴れ、二人の姿が浮かび上がる。浮かび上がった二人の光景に観客達は絶句し、誰かが嘘だろ、と呟いた。

ステラの一撃を蓮は平然と受け止めていた。

炎を纏う大上段の振り下ろしの一撃を蓮は右手の人差し指と中指、たった二本の指で挟んで軽々と受け止めていたからだ。

伐刀絶技《妃竜の息吹》を纏う攻撃は近づく敵を悉く焼き払う。にも拘らず、それを水も氷も使わずにたった二本の指だけで止められた。

 

『な、なんとォォォ⁉︎⁉︎指二本で受け止めてる‼︎新宮寺選手無傷です!ステラさんのあの爆炎を受けながらも、全く動かずにたったの指二本で攻撃を受け止めた———‼︎‼︎青山先生これはどういう事なのでしょうか⁉︎』

『どうも何も、ただのシンプルな魔力防御ですよ。でも、見た感じ挟んでる指先にしか魔力纏ってなさそうなんですよね』

 

は?と観客達からそんな困惑する声が漏れ、ざわめく。

 

「…うそ、でしょ……!」

 

予期せぬ事態にステラは目をむく。

初撃で終わるとは思っていなかった。だが、今の攻撃を、指先だけの魔力防御で受け止められ、爆炎を生身で凌がれたことには流石に動揺を隠せなかった。

指の間で震える《妃竜の罪剣》を見て、蓮はぼそりと呟いた。

 

「大体3000度くらいか。A級の火力としては及第点だが、俺からすれば全然温い。その上、パワーも軽い。レオの方が重いな」

 

冷静に分析した蓮は指先で大剣を挟んだまま、

 

「ガッ⁉︎」

 

硬直したままのステラの鳩尾に鋭い蹴りを打ち込み、二十数メートル吹き飛ばす。

 

「ゲホッ、ごほっ!おぇっ!つぅ…!」

 

リングを転がり、やがて横たわるステラは肉体を貫くような痛みに腹を抑え悶絶する。

 

(け、蹴り一つで、こんなに……⁉︎)

 

伐刀者は魔力を纏うことでバリアの役割を果たすことができる。それは魔力が多けれ多いほど堅牢になり、世界最高の魔力を持つステラの魔力防御は計り知れない。

だが、蓮の蹴りはたったの一撃でステラの堅牢な魔力防御を突き破ったのだ。とはいえ、流石の蓮も素の身体能力で彼女の防御を突破できるほど頑強ではない。魔力放出込みの蹴りだ。

それでも、ステラの心には大きな焦燥が生まれた。

今までこれほど重い一撃を受けたことはなかった。いつもパワーで圧倒してきたステラはパワーで圧倒されるという経験がなかったからだ。

しかし、ステラはそこで一度思考を打ち切り、ゆっくりと立ち上がる。蓮は追撃をかけずにその場から一歩も動かずにこちらを見ているだけだった。追い討ちをかけるまでもないと言わんばかりにその場に佇んでいた。

その表情には明らかな余裕があり、これにステラは悔しそうに唇を歪めると、指揮刀のように《妃竜の罪剣》を振るうと、

 

「燃やし尽くせっ!《焦土蹂撃(ブロークンアロー)》」

 

背後に百を超える炎熱の球体を作り出し、勢いよく撃ち出し、幾条もの光の矢となり蓮に襲いかかる。

リングの横幅全てを埋め尽くすように迫る炎熱の絨毯爆撃は蓮に回避の隙間を許さず、蹂躙するはずだった。

 

「咲き乱れろ。《雪華繚乱》」

 

蓮は指をパチンと鳴らし、背後にステラが生み出した炎熱の球体と全く同数の大小様々な氷の花を咲かし、手裏剣のように回転させて炎熱の矢を迎え撃つ。

蓮を呑み込むはずだった爆炎は一つ残らず無数の雪華に斬り刻まれ、

 

「え……?」

 

そのまま雨あられとステラに氷雪の絨毯爆撃が降り注いだ。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎」

 

悲鳴と轟音と氷雪。もはや会場の誰も、ステラの姿を視認することはできない。それどころか、人一人倒すにはあまりに行き過ぎた暴力の前に絶句するしかなかった。

やがて、氷雪と粉塵が晴れた頃、ボロボロになったステラは地面に再び転がっていた。

 

「うぐ…、うぅっ…」

 

膝を突き、痛みに呻くステラ。彼女の周囲には無数の雪華が地面に突き刺さっている。ナパーム弾の直撃にも耐えうる特殊石材で作られている伐刀者用のリングに、まるでバターにナイフを突き刺すかのように深々と雪華が突き刺さっていた。

それだけで、その氷華が異常な切れ味を持っていることがわかる。

 

(つ、強い……っ!)

 

自分の得意分野である攻撃で力負け、魔術でも圧倒された。たった2度の攻防で圧倒的な格差があることを思い知らされる。

ステラ・ヴァーミリオンが『燃料無限の超高機動重戦車』と例えるならば、新宮寺蓮は『燃料無限の超高機動戦艦』だ。重戦車と戦艦。どちらが上かなど比べるまでもない。

感じたことのない圧倒的力量差に動揺するステラに、蓮は無表情なまま冷ややかな侮言を告げる。

 

「無様だなステラ・ヴァーミリオン。

俺と同じAランクで、魔力量は世界最高の30倍だから少しは期待していたが。この程度の力量なら相手をする必要もなかったな。とんだ無駄足だった」

「———、」

 

その態度は、その侮辱は、———消えかかっていたステラの闘争心に再び火をつけた。

 

「こ、んのおぉおおおお!」

 

ステラは怒りのまま剣に炎熱を纏わせ、

 

「喰らい尽くせっ!《妃竜の大顎(ドラゴンファング)》ッッ‼︎‼︎」

 

振り抜く勢いで蓮に撃ち放つ。

《妃竜の罪剣》の切っ先から迸った火炎は瞬く間に蛇のように長い体を持つ炎竜の形を成す。

飛び出した炎竜の数は三匹。それが身をくねらせながら、乱ぐい歯の並ぶ顎門を開いて食いかからんと蓮に襲いかかる。

しかし、蓮は右手をスッと前に突き出し掌に魔法陣を浮かべ対応する。

 

「…甘い」

 

リングを突き破り咲いた氷の薔薇から荊が伸びて炎竜を瞬く間に絡め取り、更に四方八方に浮かび上がった無数の青い魔法陣から円錐状の水の槍が伸びて炎竜の身体を貫き、地面に縫い付けることで完全に無力化する。

氷薔薇の荊棘(ソーン・ローゼ)》。

渦巻き貫く海流槍(アクア・ウェルテ ・スピア)》。

氷の薔薇と荊を生み出し敵を拘束。円錐状の水槍で敵を貫く二つの伐刀絶技だ。

そして、ステラに視線を向け、気付く。

《妃竜の大顎》に気を取られた一瞬のうちに、ステラの姿がリング上から消失したことに。

 

(消えた?…いや、これは…)

 

目を霊眼に切り替えることで、視界の端に動く赤い人影を視認した蓮は彼女が陽炎の要領で姿を眩ませていることに気づいた。

そして、蓮の背後、陽炎のように揺らぐ空間からステラが現れ、蓮の首筋めがけ剣を振り下ろした。

陽炎の暗幕(フレイムベール)

熱により光を屈折させることで、自身の身体を敵に見えなくするステラの伐刀絶技だ。

彼女の魔力量に物を言わせる物量で攻め立てるだけが能の騎士ではない。彼女のスタイルは蓮と同じ超高次元オールラウンダーだ。魔術の引き出しも多い。

そしてその引き出しから取り出した戦術でステラは見事、蓮の背後を取った。だが、そう思っているのはステラだけだ、蓮には一挙一足行動の全てが見えていた。

 

「ヤアァアァァッ!…ぐぁっ⁉︎」

 

無防備な蓮に渾身の袈裟懸けを打ちおろそうとするが、次の瞬間、真横からまるで大型トラックに追突されたような超質量の衝撃がステラの体を殴り付け、彼女の体を吹き飛ばし観客席の壁に叩きつけられる。

 

「か…っはッ……!一体、何が……?」

 

大きく開いた口から肺の中の酸素をすべて吐き出し、地面に倒れこもうとするが、剣を地面に突き立てることで支える。

視線を向ければ、彼の背後には水で構成された一体の巨大な蛟龍が主人を守るように佇んでいた。伐刀絶技《蛟龍牙》だ。

蛇のような外見のそれは、ステラの《妃竜の大顎》を三匹束ねたよりも大きい。そして、蛇とは違い三本の爪を持つ二本の腕がある。

先程の衝撃は、あの蛟龍が巨体を鞭のように振り横から叩きつけたものだとステラはすぐに理解した。

蓮はリングに上がってきたステラに顔だけ向け、

 

「お前には足りないものがある」

「足りないもの……?」

「そうだ。一つは経験。苦戦した経験が少なすぎるから立ち回りが甘くなる。そして、もう一つは圧倒的な敗北だ。一輝のような小手先のものではなく、自分の持ちうる力全てを使っても悉く通用しない敗北だ。他にもあるが、今必要なのはその二つだ。他のことなど後でどうにでもなる」

そう告げ、蓮は今まで発動していた魔術を全て解除。

完全に身一つとなった蓮はステラにある提案をする。

 

「ヴァーミリオン。今お前が放てる最強の伐刀絶技で来い。無論全力でだ」

 

その提案にステラは息を飲むと、挑戦的な笑みを浮かべ、

 

「っ…上等!やってやるわよ!」

 

その提案に乗る。

実力はあちらが何段も上だ。このままやってもジリ貧でこっちが負ける。それなら、僅かにでも勝算が高い方を選択する他ない。

 

「蒼天を穿て!煉獄の炎!」

 

ステラはその場で《妃竜の罪剣》を天に掲げ、残った全魔力を注ぎ込み、そこに宿る炎の光度と温度を一層猛らせ、揺らぐ炎という形で存在できないほどの炎熱を束ね、 刃渡り二百メートルを優に超える光の刃を生み出し、ドームの天井を溶かし貫くほどの光の柱を形成した。

 

「今のアタシじゃ貴方には勝てない。だからこれは、いつか必ず貴方に追いついていつか超えてみせるという決意!」

 

そして、太陽の光そのものとも言える光の柱が徐々に傾き始めた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『お、おい、またかよ!』

『逃げろぉぉ!巻き込まれるぞォォォォ!』

 

観客の生徒達は光の剣に恐れ悲鳴を挙げて逃げていく。

そんな中、青ゲートの真上の観客席で観戦していた、マリカ達七名は全く動じずに面白そうにその剣を見上げる。

 

「おー、一度見たがこりゃ前よりもすげえな。ここまで熱気が届いてくるぜ」

「ああ、流石Aランクと言うべきだろうね。凄まじいよ」

 

レオと秋彦は彼女が放とうとしている最強の伐刀絶技に素直な賞賛を浮かべながら笑う。

 

「確かにあれはすごいですけど、蓮さんなら問題ないですよ」

「うん。蓮さんなら難なく対応できる」

「ええ、そうですね」

「当然よ。蓮君とヴァーミリオンさんじゃ踏んできた場数が圧倒的に違う。負けるなんてありえないわよ」

 

元よりここにいる6人は蓮が負けるとは微塵も思っていない。必ず勝つと思っている。

今すぐA級リーグに参加しても上位に食い込めるだろうと言われているぐらいなのだ、いくら才能があろうともルーキーごときに蓮が遅れを取るわけがない。

 

そんなことを話しているうちに、光の剣はさらに傾き、蓮に向かって振り下ろされていった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「焼き尽くせ!《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》————‼︎」

 

眼前には天を衝くほどに吹き上がる紅蓮の火柱。それが、蓮に向け振り下ろされる。

その光の剣は滅びの意味を知っている。

その紅蓮の炎は戦域全てのものを焼き払える。

その太陽は森羅万象全てを灰燼に帰すことができる。

並の伐刀者ならば、受け止めることすら叶わない滅死の極光。

それが、その外見からは予想できない速さを持って蓮に迫る。

 

(……凄まじいな)

 

蓮は素直にそう思わざるをえなかった。

これだけの火柱は流石にAランクでなければ出せない。

これだけの灼熱の炎。幼い頃は自分の身体すら焼いていたはずだ。しかし、彼女はそれをここまで使いこなすレベルまで高めた。その努力は賞賛に値するものだ。

 

「見事なものだ。だが……」

 

彼が最後まで言い終わる前に、紅蓮の火柱は、蓮を呑み込んだ。

——その刹那、

 

「えっ⁉︎」

 

ステラの放った最高の一撃。縦一線に振り切るはずだった炎の魔剣が、途中で動きを止めた。

なぜ止まった?なぜ動かない?意味がわからず混乱する。

しかし、その答えはすぐにわかった。

熱閃の中心で、蓮が片手で魔剣の刃を掴み止めていたからだ。

 

「そんなっ…⁉︎」

 

目の前の現実が、理解できずにステラは混乱する。

自分が持ちうる中で最高かつ最強の一撃はもはや対人で振るわれるものではなく、対軍、対城レベルの一撃だ。

それが、片手で平然と受け止められるとは思わなかったからだ。

蓮は不敵な笑みを浮かべると先程の続きを呟いた。

 

「俺はもっと熱い炎を知っている」

 

蓮はもっと熱い炎を操れる男を知っている。

彼のあの紅蓮の火焔は、もっと猛々しかった。もっと激しかった。

それに比べれば、彼女の炎など生ぬるい。

 

「だから、この程度の炎に遅れを取るわけにはいかない」

 

蓮は刃を掴んだまま、一歩、一歩ゆっくりと歩き出す。

その歩みに合わせギシギシと、規格外の膂力を自慢とするステラの両手に、今まで感じたことのない圧迫がかかる。

踵が徐々にリングにめり込み、足元の床に亀裂を刻んでいく。

 

(これでも、力負けするの⁉︎)

 

それは彼女にとって初めての経験だった。

今まで、彼女が誇る最強の伐刀絶技《天壌焼き焦がす竜王の焔》を真正面から受け切り、押し返したものなど誰一人としていなかった。

しかも、それを右腕一本でなそうとしている理不尽な現実は、ステラを更に驚愕させた。

 

「お前はまだまだ強くなれる。だが今はまだ弱い。だから経験を積め。その未熟な器に勝利も、敗北も、屈辱も、あらゆる経験全てを注いで強くなるんだ」

 

そう言って、刀身を掴む手に更に魔力が込められ、《天壌焼き焦がす竜王の焔》の刀身が瞬く間に凍り付き、粉々に砕け散った。

 

「ッッ⁉︎」

「これで終わりだ」

 

蓮が呟き右手をゆっくりとあげると、彼を中心に白い霧が、渦を巻き流れる。

霧は冷気でできていた。

それはやがて吹雪となり彼を中心に吹き荒れる。

その様は、まるで死者に裁きをもたらす、氷の魔王の現界か。

 

「凍てつけ」

 

冷たく、低く、権威が込められた声音で告げ、蓮は右手を振り下ろした。

 

 

「《ニブルヘイム》」

 

 

それは彼が持つ二つ名の一つ《氷雪の魔王》の代名詞となった絶対零度の超広域殲滅魔術。

あらゆるもの全てを凍てつかせる魔王の裁き。

空間が凍りつき、訓練場内部は一瞬にして極寒の冷気に覆われ、厳冬を超えた凍原の地獄へと変わった。

 

「……う、嘘」

 

ただの訓練場が、晶光煌く、氷雪の世界へと瞬く間に塗り替えられ、その様を目の前で目の当たりにしたステラは畏怖を込めた声音でそう呟く。

訓練場はそのほとんどが氷結しており、端の部分でも霜が降りていた。

外は春の陽気に包まれ暖かいはずなのに、今この場だけは氷点下よりもさらに低く気温が下がっており、場内にいるものはほとんどが血の気が引いた唇を震わせているが、全員無事だ。吹雪に巻き込まれる直前、黒乃や寧音、教師陣による迅速な対応で事なきを得たからだ。

 

しかし、ステラは酷い状態だった。

髪や服には氷が張り付いており、四肢に至っては完全に凍りつきその場から動けないでいる。

氷の彫像になる寸前の状態に彼女はなっていたのだ。

超至近距離で防御するまもなく喰らったのだから当然といえば当然の帰結だった。

 

『で、出ましたー!《ニブルヘイム》!相変わらず、凄まじい威力です!訓練場が一瞬にして凍りつきました!これが《七星剣王》!やはり日本最強の実力は伊達じゃない!というか、寒い!寒すぎです!』

 

寒さによって声が震えている実況の悲鳴を聞きながら、まだ意識があるステラは、眼前に立つ男を見る。

《天壌焼き焦がす竜王の焔》により空いた天井の穴からは雲一つない透き通った青空が覗き、眩しい太陽の日差しが差し込む。

それらを背に、凍原の中心に悠然と佇み、青い瞳でこちらを見下ろす蓮。風に煽られた青髪を靡かせるその姿は、まさしく絶対王者のそれだった。

 

(これが…《七星剣王》。…七星の頂に住まう、最強の男の実力……こんな凄い人が、いるなんて)

 

ステラは畏怖の視線を込めて彼を見る。

彼の実力はステラの予想をはるかに上回っていた。彼の底が全く見えなかった。

 

(こんなに、強いなんて……遠すぎる、わよ…)

 

七星の頂を目指すなら避けては通れぬ存在。

辿り着くためには彼を超える必要がある。だが、そのビジョンが全く見えない。

もちろん、覚悟も決意もある。諦めるつもりもない。だが、遥か高みにある頂までの道が霞んだ気がした。

 

「そこまで。勝者、新宮寺蓮」

 

静かに響いた黒乃の声を最後に、ステラはゆっくりと意識を手放す。

 

(でも、これからもっと、強くなって…いつか、貴方を超えてみせるわ。……シングウジ先輩)

 

最後に相手をしてくれた王者に敬意を込めた視線を送り、心の中で再戦することを誓い、完全に意識を失った。

 

 




大魔王の蹂躙、気が弱い人ならトラウマができるでしょうね。はい。
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