16巻買いました!
最初のカラーで素晴らしい絵が見れて眼福だった。皆さんいい物をお持ちでしたね……。
それと《大炎》の宗教名見て銀魂を思い出したのは私だけではないはず。
毎回予想の斜め上を言っていて、読んでいてほんとに飽きない!
今まで出てきたキャラたちの成長も見れたし、カナタや刀華、泡沫の日常系ストーリーが見れて良かったです。
というか、刀華さんは大丈夫なんでしょうか。読んでて不安しかない。
それととりあえず、蔵人と綾瀬はとっととくっついて欲しいと思った。
5/12追記 《海龍纏鎧·王牙》の形状に一つ設定を追加しました。
解放軍の事件から一夜が明けた月曜日から、破軍学園ではついに六つの『七星剣武祭出場枠』を巡る『選抜戦』が始まった。
マリカと秋彦は一日目に、陽香と凪は二日目に、蓮とレオは三日目に試合がある。
そして既に二日目までの試合は終わり、あとは三日目の試合を残すだけとなった。
一日目、序列5位《剣の舞姫》木葉マリカは慣性操作による伐刀絶技《山津波》で敵に高速接近し、一刀の元に切り捨て瞬殺した。
序列6位《精霊使い》岸田秋彦は概念干渉系『精霊』の能力で、様々な精霊を使役し、敵を圧倒した。
二日目、序列8位《
序列9位《閃光の魔女》五十嵐陽香は『光』の能力で、凪とは打って変わって繊細な魔術で敵を翻弄し勝利。
蓮の友人達の殆どが無傷での完全勝利を飾っており、その序列に恥じない戦いをした。
他にも期待の新人の首席入学者Aランク《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン、次席入学者Bランク無名の黒鉄珠雫も目を引く戦いぶりだった。
二人は一日目の試合に出場し、ステラは一歩も動かずに圧倒的な力を見せつけ相手を蹂躙した。珠雫は卓越した魔術制御により属性の相性差を物ともせず、相手を容易くねじ伏せた。
そして蓮達と関わりの深かったもう一人《落第騎士》黒鉄一輝は二日目の試合に出場した。
対戦相手は元同級生の《狩人》桐原静矢だ。
広範囲攻撃を持たない一輝にとって、桐原は相性最悪の相手だった。
それに加えてその日の一輝はコンディションが最悪だった。
公式デビュー戦の緊張だけではない。
ただただ理不尽に耐え続けてきた彼がやっとの思いで得たチャンス。それはプラスにもなるが、同時に自らの全てを試される機会でもあった。
負ければ、全てが無に帰す。これまでの苦渋の日々が、全て無駄だったのではないかという未曾有のプレッシャーが彼の心を蝕んでいたのだ。
それに加え、天敵とも言える桐原は己の能力をさらに向上させており、一輝にとってまさしく最悪の事態に陥っていた。
そして、桐原に嬲られていた時に、『七星剣武祭で優勝し、七星剣王になれば卒業させてやる』という本来知るはずのない真実を観衆達が知り、彼らは一輝を嘲笑った。
初めはその罵声に一輝のクラスメイトたちが反論した。
『七星剣王ですら稀のAランク騎士であるヴァーミリオンに勝ってるから、実力がある』と。
だが、それすらもヤラセや八百長などありもしない荒唐無稽な空想を正当化し現実を否定する言葉に、やがて飲み込まれていった。
桐原の煽りに呼応した観衆達の津波のような罵詈雑言が重圧となり一輝の心が折れそうになっていた。
だが、そんな彼らにステラが激昂しこう叫んだのだ。
『FランクがAランクに勝てるわけがない?そんなの、アンタ達が勝手に決めつけた格付けじゃないのッ!アタシ達天才には何をやっても勝てない。そうやって勝手に枠にはめて、自分自身の諦めを正当化しているだけ!そうやってお前達が諦めるのは勝手の。だけどお前達の諦めを理由に一輝の強さを否定するなッ!』と。
それは彼の実力を身を以て体験しているからこそ、自分自身の価値を信じ続けた男の魂の輝きを見たからこそ言える言葉。
あれほど他人を強いと思った瞬間はない。あれほど他人に憧れた瞬間もなかった。そしてそれがどれだけ誇り高いことか、彼女は知っているから。
『才能なんてその人間のほんの一部でしかない。そんな小さなモノにしがみついているアンタ達に、イッキの強さがわかるわけがないッ!理解できるわけがない!だからそんな知った風な口で、アタシの大好きな騎士をバカにするなぁっっ‼︎‼︎』
それは一人の少女の嘘偽りない紛れも無い本心。
自分が海を渡って初めて戦い、負かされた自分の憧れの騎士だから。
自分は黒鉄一輝という男の価値を信じているから。
その叱咤に、一輝の心には確かな闘志の炎が灯り、立ち上がる。
そこからは一輝の逆転劇の始まりだった。
他人の剣術の型や太刀筋から積み重ねられた歴史を紐解き、そこに至る思想を汲み取り根幹にざす『理』を暴き剣術を盗む己の剣術《
それを応用し、対戦相手の『絶対価値観』を盗み出し、思考や感情の全てを掌握する《
今まで見下していた人間が自分を追い詰める状況に、今まで試合で怪我をしたことがなかった桐原は恐怖し、彼に必死で命乞いをし、挙句にはジャンケンで決着をつけようなど子供じみた懇願をしたが、それに一輝が耳を貸すはずもなく、結局鼻の頭の皮膚を出血すらしない程度に浅く切られただけで口から泡を吹き失神した。
選抜戦二日目、《落第騎士》黒鉄一輝と《狩人》桐原静矢の戦いは大多数の予想を裏切る結果に、つまり黒鉄一輝の逆転勝利に終わった。
その日彼等は魅せられた。
凡人が才能のあるものを降すいう逆転劇に———。
しかし、次の日彼らは思い知らされる。理解させられる。刻み込まれる。
絶対的強者がどんなものなのかを。
圧倒的才能がどんなものなのかを。
唯一無二の最強の男の実力を。
桐原程度の『名ばかりの天才』では無い。紛う事なき『本物の天才』の実力を————!
▼△▼△▼△
そして選抜戦三日目最終試合。
試合会場の一つ第七訓練場では本日最後の試合が始まろうとしていた。
観客席は満席になり、先日のAランク同士の試合の時のように外に観衆は溢れ、大型モニターを再び取り付ける事態となる。
しかしそうなるのも当然だ。なぜなら、今から行われる試合はそれだけ見る価値があるものなのだから。
『さあ、ついに本日の最終試合が行われるわけですが、すごい人だかりです!しかしそれも当然!なぜならこの試合はそれだけ注目される選手が出るのですから!なお実況は引き続き、私、放送部の月夜見が、解説は西京寧音が担当します!』
『ういー、よろしくねー』
『さあそれでは注目の選手の紹介です!まず赤ゲートから出てきたのはこの男っ!
その高い攻撃力と防御力はまさに鋼の如く、勇猛果敢に戦う姿はまさに獅子の如し!その姿からついた二つ名は《鋼の獅子》!
七星剣武祭代表有力候補の一人、学内序列7位の二年Dランク葛城レオンハルト選手ッ!』
実況の紹介に合わせ、赤ゲートからは茶髪の大柄な少年が出てくる。
茶髪に翡翠の瞳をもつ、ワイルドな少年は葛城レオンハルトだ。
レオは実況の紹介に合わせ、自分の意気込みを見せるかのように拳を上に突き上げる。
すると、観客席から歓声が湧き上がった。
『葛城選手気合は十分のようです!』
『いいねぇ、うちはああいうの好きだぜー』
『西京先生の好みはどうでもいいです』
『さいですか』
月夜見は先日解説をすっぽかされたことを根に持っているのか、寧音を雑にあしらう。
レオはそんな会話を聞き流しながら、リングの開始戦に立ち、青ゲートをじっと見据える。やがて、青ゲートから人影が姿を見せた。
蒼髪を靡かせ、怜悧な輝きを秘めた碧眼を携えた凛々しい青年新宮寺蓮が青ゲートから姿を現した。
『次に青ゲートから姿を見せるは我らが破軍学園新宮寺理事長の息子であり、風紀委員会副委員長にして、校内序列最高位!
彼こそ我らが破軍の誇りであり、日本の全ての学生騎士達の頂点に立つ覇王!
先日、学内序列上位の最上級生を全く寄せ付けず圧勝したステラ・ヴァーミリオン選手に無傷の完全勝利を飾り、U-12最年少での優勝記録は未だ破られず、七星剣武祭では一年生ながら圧倒的な強さで頂に上り詰め歴代最強の《七星剣王》と謳われる前年度主席入学者!その容姿と圧倒的な水魔術から《紺碧の海王》の二つ名を付けられ、それ以外にも数多の二つ名を持ち、未だ公式戦・交流戦共に無敗の絶対王者!
最強という言葉はこの男のためにあるようなものッ!
七星剣武祭代表最有力候補筆頭!二年Aランク新宮寺蓮選手ッ!』
実況の紹介に合わせ、蓮がリングに上がるとレオの時よりも大きい歓声が上がる。
紹介に蓮は特に反応することもなく威風堂々と、超然とした歩みで開始戦に立ちレオと向かい合う。
蒼髪の奥から覗く碧眼と目を合わせた瞬間、レオは楽しそうに笑った。
「へへっ、面白ぇ」
こちらを射抜くような鋭い眼光。氷刃の如き冷たい眼差しがこちらを真っ直ぐに見据えている。
確かに凄まじい。大抵のものなら目を合わせるだけで萎縮するだろう。だが、そんなことでは彼の闘志は損なわれない。
レオにはあえて強敵を求める悪癖こそないが、相手が強ければ強いほど、萎縮するのではなく血を熱くたぎらせる傾向がある。
それは、
ーそれがどうした、と。
戦う前から負けた気になるよりずっといい。心が折れたら、逃げることすらできなくなる。
それがレオの信条だった。
心が折れることは、命を放棄すること。
逃げるのは、逃げられると思っているからだ。逃げることを諦めていないからだ。牙を剥く獣を前にした時、人は逃げようと思って逃げられるか?何も考えず闇雲に逃げ出すか、生き延びることを諦めて立ちつくすのではないだろうか。
ーそんな無様な死に方だけは御免だ。俺は戦って、生きる。
二人は20メートルほど間合いを開けて開始戦に立ち向かい合う。
怜悧な輝きを秘めた紺碧の眼光と好戦的かつ野生的な翡翠の眼光が交差する。
両者の間に言葉はない。交わす必要がなかった。
二人は交わす言葉もないまま、己が霊装を顕現させる。
「《ジークフリート》!」
「行くぞ。《蒼月》」
レオは両手に深紅の装飾が施された光沢のある漆黒の手甲《ジークフリート》を嵌め拳を構え、蓮は蒼銀の双刀《蒼月》を腰に提げ自然体で構える。
『それでは本日の最終試合、開始です!』
試合の火蓋が切って落とされた。
それと同時にレオが蓮に向けて駆け出す。
「《
「《海龍纒鎧》」
レオが叫んだ直後、赤光を放つ過剰な魔力がレオの右拳を分厚く覆い、蓮の全身を青白い魔力光が覆い水氷の武士鎧が包む。
「オオオオォォォォッッ‼︎‼︎」
雄叫びを上げながら、拳を強く引き絞り蓮に殴りかかる。
蓮はそれに対して避けずに左腕に雪華を形成し盾のように構えディフェンスの態勢をとり、レオの拳を受ける。
瞬間、重すぎる金属音が訓練場に響いた。
蓮の体が大きく跳ね飛ばされる。蓮は後方宙返りで転倒することなく、余裕を持って姿勢を立て直した。
「ッ!」
そして今度は蓮から動いた。
左腕に装着していた雪華を掴み外し、強く踏み込むと、右腕を大きく振るい手裏剣のようにレオ目掛け勢いよく投擲した。
「うおっ⁉︎」
レオはそれを間一髪回避。髪が数本斬られ宙に舞う。
レオの真横を通り過ぎた雪華は観客席の壁に深々と突き刺さる。
蓮は雪華を投擲した直後、足首、踵、腰、背中、肩、肘の、身体の各部の装甲がスライドし下から氷で構成した小さな筒状のようなものを何本も生やし、そこから水をジェット噴射のように噴出させ、レオに急速に迫る。
伐刀絶技《
蓮は青白く輝く右拳を強く引き絞り、右肘から一層激しく水を噴射させ、先程のレオと同じように襲いかかる。
「《
レオの防御は間一髪で間に合った。
全身に赤光放つ『硬化』の鎧を纏い、腕を交差させ拳を両腕で受ける。だが、
「ぐぉっ⁉︎」
レオの想定を上回る硬く重い一撃が、交差した両腕に突き刺さり、大きく吹き飛ぶ。
リングを転がったレオは急いで顔を上げようとし、自分の眼前に一つの影を見た瞬間、思考するよりも早く自ら地面を転がる。
《雪華繚乱》と《水進機構》を併用し頭上にいつの間にか移動していた蓮が左足を大きく振り上げた状態のまま勢い良く降下し踵をレオがいた場所に叩きつけた。
リングは叩きつけられた蓮の踵を中心に蜘蛛の巣状にひび割れ粉砕される。その余波は観客席にまで及び亀裂を刻む。
レオは足場を崩され、蹌踉めき片膝をつく。その隙を突き再び蓮が迫る。右足で大きく踏み込んだ蓮が左拳を振り上げ、上から叩きつけるように振り下ろす。
この左拳も先ほどと同じように水のジェット噴流の加速を得ており、凄まじい速度でレオの頭部めがけ迫る。
「《
レオが指を揃えた右手を突き出す。
硬化した指の穂先と氷纏う拳が激突する。
一際重い金属音が響き、衝撃がリングを駆け抜ける。
「ッ!」
蓮は兜の下で僅かに目を見開く。
拮抗していた。自分の加速した氷拳とレオの硬化した四本貫手が。
そしてレオの貫手が刺さった一点に二人の規格外の膂力が集中し、そこを中心に亀裂が生じはじめる。その亀裂はだんだんと広がり、やがて甲高い音を立て手首から先の氷が粉々に砕け散り素手が露わになった。そこをすかさずレオが蓮の左手首を逃さないように強く掴む。
「オオラァァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎」
「ッッ!」
雄叫びをあげて振るわれるボディアッパー。
蓮は回避しようとするも左手首がレオに掴まれたせいで回避できない。
その左拳には赤光が分厚く覆われている。発動している魔術は《槍》ではなく《槌矛》。レオが持つ一番の攻撃力を持つ鉄拳の一撃。
そして、右手で防ぐよりも一瞬先にそのボディアッパーが蓮の胸を捉え、重すぎる金属音を立てる。その音の中にピシリと小さな破砕音が混ざり聞こえた。
蓮の体が大きく殴り飛ばされるが、倒れまいとつま先に力を入れ、更に《水進機構》による慣性中和で踏みとどまるもの、勢いは殺せずリングを削りながら十メートルほど後退を余儀なくされた。
(…ここまで重いのか。お前の拳は)
蓮は内心でそう呟くと、殴られた胸部に視線を向ける。
大きな亀裂が入り、ボロボロと小さな氷の破片がいくつも零れ、中から制服があらわになっていた。
並大抵のものなら亀裂すら入れることができないほどの強度を持つこの氷鎧にレオは亀裂を入れ、砕いたのだ。
普段の鍛錬以上の強度、それこそ七星剣武祭で使用した氷の強度に匹敵するほどのものだ。
これには蓮も僅かながらも驚いた。
魔力放出による膂力強化とレオの異常な肉体性能が合わさり、手加減なしで放たれた全力の鉄拳《槌矛》。それは、ステラ・ヴァーミリオンの訓練場を揺らすほどの重撃を、容易く受け止めた蓮の堅牢なる防御を突破したことに他ならない。
そして胸に残る痺れと鈍痛。膝をつくほどのようなものではないがレオは僅かでも蓮にダメージを与えた。
蓮は本気でもなければ全力ではない。強すぎる『魔人』の力のほぼ全てを封じ力に制限をかけている。しかし、それでも並大抵のものなら容易くねじ伏せるレベルだ。
だが、レオは本気ではなくても圧倒的な防御力を持つ蓮の鎧の強度を一時的に上回った。これを成した学生騎士は、去年の七星剣武祭でAランクに昇格した、真弓、麻依、克己の三人だけだ。
序列7位《鋼の獅子》葛城レオンハルト。彼は間違いなく強い。ランクこそ平凡なDだが、それをカバーできるほどの圧倒的な肉体性能や戦闘センスを持っている。
近接戦闘に限定するならレオは七星剣王クラスだ。
強いのは知っている。蓮には及ばずとも、Dランクながらその高い攻撃力と防御力、攻防一体のシンプルな異能で序列7位まで登りつめた実力なのだ。しかし、ここまで強いとは、流石の蓮も思わなかった。
基礎能力が去年の時よりも著しく向上している。戦い方だけじゃない、魔力制御も、戦闘に必要な全てが大きく成長していた。
そして、この状態の氷を僅かにでも砕ける程のパワーを持っているのなら、
蓮は人知れずそう思うと氷を瞬時に修復し、拳を強く握りしめ《水進機構》から水を噴射させ勢い良くレオに飛び出した。
▼△▼△▼△
リングの上で繰り広げられる格闘戦。
戟音を奏で、火花を散らし、青と赤の二色の軌跡が激しくぶつかり交差する。
拳だけでなく、足技も交えた壮絶な格闘戦。お互い殴り合うかと思えば、どちらともなく攻勢に出て、どちらともなく守勢に回る。一進一退の攻防が試合開始から十分間ずっと幾重にも繰り広げられていた。
実況を務める月夜見の声が熱を増す。
『激しい格闘戦が繰り広げられていますっ‼︎
お互い一歩も引かないっ!一歩も譲らないっ!
男の意地のぶつかり合いだァァァァ‼︎‼︎‼︎』
月夜見の声に呼応して、観客達もそこかしこで驚きの声をあげる。
『すげぇ!葛城の奴新宮寺と互角にやりあえてる!』
『強いとは思ってたけど、ここまでやれんのかよ⁉︎』
『レオくんいっけー!!』
『あの《七星剣王》相手に、すごい……っ!』
『新宮寺の氷を何度も砕いてる!どんなパワーしてんだよ⁉︎』
『でも、瞬時に修復して対応してる!どれだけ高レベルな魔力制御なのよ⁉︎』
『副委員長!そのまま押し切れーー!!!』
『どっちも揃って化け物だ。葛城はDランクなのに、Aランクの新宮寺と張り合ってる……!』
『二人の戦いに会場中がどよめいています!
それもそのはず!力も、技も、その全てが校内戦レベルではありません!
七星剣王とそれに食らいつく実力者の戦い!
お互い被弾はありながらも一歩も引かない!
まさに龍虎相打つ!この戦い、いったいどちらに勝利の女神は微笑むのでしょうか‼︎』
選抜戦初戦の戦いとは思えぬほどに高度な戦い。それは観客たちを魅了し、熱狂の渦に引きずり込んだ。
「あの葛城という人、Dランクとは思えない強さですね」
「音が尋常じゃないわ。二人ともどんなパワーしてるのかしらね」
同じように試合を見ていた珠雫もアリスも感嘆の声を漏らす。
そして、彼らと同じように試合を見ていたステラは、
「すごいっ……」
険しい表情を浮かべながら、二人の戦いに感嘆の声をこぼす。
珠雫やアリスと違い直接蓮と戦った経験があったからこそ、彼らの強さをより強く痛感したのだ。
自分以上の剛力を使う騎士が二人もいたこと、自分は蓮にかなり手加減されていたこと。その二つの事実を理解したからだ。そして、その呟きを隣で聞いていた一輝は、試合から目を離さずに彼女の言葉に応えるように口を開く。
「ステラ、珠雫。この試合はよく見ておいたほうがいい。新宮寺君は勿論のこと、現時点では今彼と戦っている葛城君も君達と同格か格上の騎士だ」
一輝の言葉に二人はやや強張った表情で頷く。
「……ええ、正直、かなり勉強になるわ」
「…私もです。どうやら認識を改めないといけませんね」
二人はそのまま試合を見続ける。
自分より格上と同格の騎士達の戦いから少しでも技術を吸収するために。
そして、一輝達がいる赤ゲートとは正反対の位置にある青ゲートの真上で試合を見ているマリカ達一行もまた驚いていた。
「レオ君凄いですね。蓮さんとあそこまで撃ち合えるなんて」
「うん。去年のレオではあそこまで戦うことはできなかった」
「…凄い」
「うん、蓮さんと互角に殴り合えるのは葛城君のパワーだから出来る芸当だよ。少なくとも私達じゃあんな戦い方できないよ」
彼らもレオの成長に驚いていた。
少なくとも去年のレオでは、あそこまで殴り合えていなかった。そうする前に魔術の持続時間が切れるか、蓮に押し切られ敗北していたからだ。けれど今は違う。あの七星剣王と十分も壮絶な殴り合いを続けている。日本で無類の強さを誇る彼と互角に殴り合えるのすさまじいことだ。しかしそれと同時に、一つの現実が彼らには見えていた。
「…でも、蓮は全力も本気も出していない」
秋彦の呟きに全員が同意する。
そう。去年の七星剣武祭を見ていたから、今まで彼の強さを見てきたから、分かる。
蓮は手加減していると。
蓮はレオのように近接特化型の伐刀者ではない。数多の経験と圧倒的な戦闘技術とセンスによる近、中、遠距離の全てに対応できる全距離対応万能型の伐刀者だ。全ての距離において敵を圧倒し捩じ伏せるほどの技術と暴力を持っている。まさしくオールラウンダー型の伐刀者だ。
今の攻防に限定すれば確かに五分なのだろう。しかし広い視野で戦い全体を見つめれば、蓮が手加減をしていることぐらい一目瞭然。レオもそれは重々承知のはずだ。
そして彼らの会話に一切参加しなかったマリカは神妙な面持ちでリングを見下ろしていた。
(………レオ、アンタ早く『アレ』を使わないと、何もできないまま負けるわよ)
▼△▼△▼△
(……分かっちゃいたが、やっぱ強ぇなぁ)
蓮と長時間殴り合いを続けるレオは内心苦笑いする。
分かってはいたことだが、やはり蓮は強い。
周りは拮抗していると騒いでいるが、実際は違う。自分は彼に手加減をされている。だから互角に見えるだけなのだ。《海龍纏鎧》と《水進機構》しか使っていないのが良い証拠。だが、そんなこと今に始まった事ではない。
なぜなら、彼が手加減していることなどとうに分かり切っていることだから。
それに、だんだんとレオは防戦を強いられるようになってきている。
蓮の連撃の回転速度が上がってきている上に、ダメージらしいダメージが入らない。
《水進機構》による急激な加速による攻撃の回転速度の強制上昇。それは肉体に相当な負荷を与えるはずだが、彼はそれを意に介さずに速度を上げ続けてきている。砕いた氷も次の瞬間には何事もなかったかのように真新しい状態へと修復されており、いくら砕いても彼の肉体に届く前に氷に阻まれてしまう。
おそらく『治癒』も並行して使用し続けているのだろう。
どんな傷でもほぼ一瞬で治してしまうほどの超高レベルな治癒術の使い手だ。致命傷すらも彼にかかればすぐに治せてしまう。だからレオの攻撃もすぐに治せているはずだ。
逆に自分の肉体には容赦なく打撃が撃ち込まれていき《鋼鉄装甲》でも防げなくなり、ダメージは服の上からは分からずとも確実に蓄積され続けていき、内臓は傷つきもう何度も血を吐いている。
こうして戦うたびに思う。
やっぱり、
U—12の世界大会を最年少で優勝した記録を持つ青年。
その時点で、当時の《七星剣王》よりも強いと称され、今では彼と互角に戦えるのはA級リーグのトップ選手達だけだとも噂されている男。それだけの実力を持つ男に、並の人よりも体が頑丈でパワーがあるだけの自分が勝とうなんて烏滸がましいことなのだろう。
誰に言われるまでもなくそんなことは分かっている。
元服を迎えてすらいない中学生の段階で既に『特例召集』に何度も参加し、幾多の戦場で戦い生き残ってきたのだ、普通の鍛錬しかしていない自分が渡り合えるわけがない。
それに、レオは初めてプールで彼と鍛錬を共にした日、更衣室で着替えている時に彼の肉体に刻印された数多の傷痕を見ている。
アレは素人目から見ても普通の鍛錬でできるものではなく、実際に殺し合った末にできた傷だと分かるほどだ。
それがどれだけの修羅場をくぐり抜けた末にできたものなのか、レオには想像ができなかった。
しかしそれを見た時自分はハッキリと理解した。
—だから彼は強いのだと。
修羅場を経験しているから、常在戦場の心構えが出来ているから、自分の手を人の血で汚す覚悟があるから、彼はあそこまで強いのだと。
なら、経験も、心構えも、覚悟も足りない自分や他の生徒達が勝てないのは当然だ。自分が蓮に勝てるものがあるとすればそれはフィジカルだけ。能力や、戦闘センス、戦闘技術、経験においては比べるまでもなく劣っている。しかもそのフィジカルの優位でさえ彼が魔力放出での膂力強化を行えば容易く覆される。
つまり自分はこの男に勝っているものなど何一つとしてないのだ。
だが——
(そんなことは分かってるッッ‼︎‼︎)
レオはそんな現実を認めた上でそう心の中で叫ぶ。
そんなことはわかりきっている。今更言ったって何も変わらない。
(今のままじゃ足りねぇッ!)
自分には彼と比べて決定的に足りないものがある。
それを補うために一ヶ月積んで身につけた力がある。
この戦況を打開できるとまでは言わないが、少なくとも、少しは改善できるかもしれない切り札をレオは身につけた。
とはいえ最初に使う相手が蓮だったのはレオとしては願ったり叶ったりだ。
なぜなら、この一ヶ月積んできたものは何もかも全て、彼と、《七星剣王》新宮寺蓮と戦うために会得したとっておきなのだから…ッ!
レオは殴られた勢いを利用して後ろに大きく飛び距離をとる。
蓮との距離は約五メートル。蓮なら一瞬で詰めれる距離だろう、だがそこにレオは切り札を切るタイミングを見出した。
そして彼は高らかに吼え、自分の切り札を切るための呪いを唱えた。
「吼えろォッ‼︎《ジークフリート》ォォォ——ッッ‼︎‼︎」
瞬間、彼の体から赤光が燃え盛る炎のように噴き出し全身が今までのとは比較にならないほどの眩い赤い魔力光を帯びた。
それだけに終わらず彼の右手には
それは、《鋼の獅子》が行き着いた一つの答えだった。
△▼△▼△▼
『アンタには足りないものがある』
つい2ヶ月前、マリカに突然呼び出された時に言われた言葉だった。
『足りないもの?』
いつもとは違い表情は引き締められ、真剣味を帯びていたので、レオは大人しく耳を傾ける。
『ええ、アンタの歩兵としての潜在能力は一級品よ。近接戦闘だけならアンタはかなり上まで食い込めると思う』
思いがけない高評価をつけられて、レオは呆気にとられる。普段から口喧嘩が絶えない間柄の彼女がこうも素直に賞賛するのだ。喜ぶよりむしろ訝しむのが普通だった。
『でも、アンタには人を殺す覚悟はある?』
『っ……オメェにはあるのか?』
『ええ、あるわ。私も蓮くんほどじゃないけどそれなりに実戦経験は積んでるし、人だって殺したことがある。そもそも私はそういう剣を使っているからね』
『……確かに俺は人を殺したこともねぇし。実戦経験も、そういう技術も俺にはねぇ』
レオは蓮と違い、人間の肉を斬り裂き、骨を砕く暴力を実体験していない。戦場になど立ったことがない。
『レオ、アンタ前にあたしに蓮くんの力になりたいって相談してきたわよね。厳しいようだけど今のアンタじゃ何もできないわ。無論、あたしも他のみんなもそう。あたし達は序列こそ一桁に入ってはいるけど、蓮くんと比べたら天と地ほどの実力の差があるわ。彼にはそれだけの実力がある』
『……だろうな。けどよ…』
そう反論しかけてレオは突然口をつぐむ。
『あんなに大量の傷を見たら力になりたいって思うのも仕方ねぇだろ』と言おうとしていたが、そもそも彼の全身の古傷の事は本人に口止めされている。
勝手に話したら後でなんて言われるかわからない。
レオは後のことを考えて少しゾッとした。
そんな彼の態度に、マリカは疑問を感じた。
『?何よ?』
『いや、なんでもねぇ。確かに俺は蓮と比べたら全然弱ぇよ。アイツがその気になれば一瞬で終わっちまうだろうな』
『そうね分かってるなら話が早いわ。なら当然分かってるわよね。今のままじゃ到底無理だって』
マリカの眼差しが、レオの瞳を射抜いた。
レオは無言で頷く。
『蓮くんの力になりたいっていうなら、最低でも殺し合いを覚悟しておく必要があるわ。蓮くんがいる場所はそういうとこよ。本気でそう思っているなら、アンタは自分の手を人の血で汚す覚悟をする必要がある。アンタにはそれが出来るの?』
『愚問だぜ。俺は蓮のダチだ。アイツの力になれんならなんだってやってやる』
レオはマリカの眼差しからわずかも目をそらす事なく、簡潔に、明快に答えた。
『フフッ、オトコノコね』
マリカはそれに含み笑いをこぼす。
その笑顔が妙に艶かしくて、レオは思わず目を逸らす。
『だったら、あたしが教えてあげる』
逆光の中、マリカは言葉を紡ぎ。
『どこまでやれるか分からないけどアンタが強くなれる手助けをしてあげるわ。精々覚悟しなさい』
そう楽しそうに告げた。
△▼△▼△▼
レオの身体から赤い魔力光が炎のように迸ったのを視認した瞬間、蓮は一人納得していた。
(なるほど。これがそうか)
実を言うところ、レオには何か秘策のようなものがあるのを蓮は戦いながら感じ取っていた。
それに戦いながら分かったことがいくつかある。
格闘技術の向上もあるがそれではない。レオは蓮やマリカと違い我流で自分を鍛えてきた。そのせいなのかどうかはわからないが放たれる気迫の鋭さはまるで荒々しい獣を連想させ、身体の動きも野生的だったが今は違う。
その獣のような気迫の中に極僅かだが、研ぎ澄まされた剣気のようなものを感じた。
もう一つは彼の瞳。
今までは長く殴り合っていれば、必ず瞳の闘志の輝きが弱まっていた。だが、それがいつまでたっても消えない。むしろその逆。髪の奥に輝く眼光は、その鋭さを増していた。
明らかに前とは違う。
彼に何かしらの指導を行った人物がいる。何かしらの策があるのは疑っていいだろう。
そして、その疑念は今目の前に映る光景によって確信へと変わった。
全身を輝きを放つ赤光が帯びており、炎のように揺らめくそれは凶悪な獣を打ち倒しその毛皮を褒美として賜り鎧にした一人の戦士を彷彿とさせる。
彼の右手には彼の身長を上回る、約二メートルの長さの黒曜石を思わせる漆黒の大剣が一振り握られている。
その両刃の刀身は象の頭を切り落とせるのではないかと思うほどに大きく、その反面、刃は並の刀剣よりも薄い。
刀身には、荒々しい深紅の装飾が施されており、それは一見獅子を象ったようにも見える。
固有霊装の形態変化と新たな伐刀絶技。
今目の前で起きている現象はその二つだ。
固有霊装の形が変わることは特に驚きはしない。自分のように前例があるのだから他の人ができても何らおかしくはない。
重要なのはもう一つの方。
深紅色に燃えるその鎧は、獣の—まるで獅子の毛皮を纏ったようにも見える。
蓮は霊眼で彼の鎧を視る。
霊眼の制御によりその者が使う伐刀絶技がどんなものか、どれだけの魔力が込められているのかを解析できるようになった蓮はレオが身に纏う鎧が《鋼鉄装甲》よりも魔力密度が濃いことを看破する。
(…魔力密度が《鋼鉄装甲》のそれを遥かに上回っているな。魔力の過剰放出で『硬化』の強度を通常の何十倍にもあげたのか。原理こそ黒鉄の《一刀修羅》に似ているが、あれとは別物。どちらかといえば俺の……)
さらにあることにも気がついた蓮はレオの次の動きを警戒する。だがその反面、兜の下では不敵な笑みを浮かべていた。
(なら見せてもらおうか。お前のその力)
そしてレオの突然の変化に観客たちは困惑の声をあげ、実況はマイク片手に声を張り上げた。
『こ、これは一体どういうことでしょうか⁉︎葛城選手から突然赤い光が立ち上ったかと思えば、彼の右手には黒い大剣が⁉︎私の記憶が正しければ葛城選手の固有霊装は籠手だったはずですが……』
『霊装の形が変わったんだろうねぇ』
『デ、霊装の形が変わる?そんなことが可能なんですかっ?』
『うん可能だよ。事故で記憶をなくしたりて形が変わる奴もいるからねー。でも、レオ坊は違うだろうね。レオ坊の場合は、多分テメェのあり方を変えたんだろうね』
『あり方をですか?』
『そ。霊装ってのはテメェの魂の形であり生き様だ。己のあり方が変われば当然霊装の形も変わってくる。
レオ坊が何を思って形を変えたのかは分からないけど、どう説明しろって言われりゃあそう答えるしかねぇよ』
寧音の言葉に会場中がどよめく。
霊装そのものが変わるなど、常識では考えられないことだ。事故で記憶をなくした伐刀者の霊装の形が変わると言う話はあるにはあるが、それもかなり珍しいケース。
だからこそ今レオが成したことに、彼の霊装の形をよく知る観客らが驚愕したのだ。だが、周りが驚愕に包まれる中マリカだけは寧音の言葉を肯定した。
「ええ、西京先生の言う通りよ。レオは霊装の形が変わったわ」
まるでこうなることが、いやそもそもレオの霊装が変わることを知っていたかのような口ぶりだ。
「マリカちゃんは知ってたの?レオ君の霊装の形が変わっていたことを」
「当然よ。だってアタシがうちでアイツを鍛えていた時に成ったんだもの。みんなも知ってるでしょ?レオがうちの道場に春休みに通ってたことを」
那月の問いにそう答えたマリカの言葉に秋彦達は納得する。
確かに春休みレオが泊まり込みでマリカの実家木葉家の道場で鍛えてもらった話は聞いていた。
木葉家は黒鉄家には劣るもののそれなりの名家だ。剣術に秀でており木葉の剣といえば剣術の世界ではかなり有名な家柄だ。
「確かに鍛えてもらった話は聞いてたよ。でも、霊装の形が変わるってことは余程のことだ。今までの自分自身のすべてを捨て去るほどの決意で努力をしなきゃできない。…それに、あの赤い鎧は《
一つの疑問が解決すれば、また新たな疑問が出てくる。
今の彼の身に起きているもう一つの現象。今まで見たことない新たな伐刀絶技だ。獅子の毛皮のように揺らめくその赤光の鎧は秋彦達が知る《鋼鉄装甲》とはまた違うようにも見えた。
新技なのは確かなのだろうがあれが一体どのようなものか考えても出てこず疑問を浮かべる秋彦達にマリカは膝を組み直し眼下の様子から目を離さないまま言った。
「いいから見てなさい。今のアイツは……強いわよ」
そうマリカが言い終えたと同時にレオが蓮に向けて駆け出した。
△▼△▼△▼
「それがお前の奥の手だな?」
「ああ」
蓮の問いにレオは周囲のどよめきには目もくれずそう短く返す。
「《
レオは新たな霊装である大剣を右手で構え強く踏み込むと、
「さっきよりは戦えるぜッ‼︎」
そう叫び猛然と蓮に突撃する。
「ッ!」
五メートルの距離をほぼ一瞬で詰めたレオは右手の大剣を斜めに一閃する。
虚を突かれたとまではいかないが、それでも先程より遥かに早くなった動きに蓮はすかさず対応し左腕を盾のように構え受け止めようとする。だが、
(ッ!これはっ!)
左腕と大剣がぶつかる瞬間蓮は己の直感に任せ、足裏から魔力を爆発させ、さらに《水進機構》の噴射口をほぼ全て前面へ向け勢いよく水を噴射させながら後ろに下がりその斬撃から逃れる。
蓮がいた場所を赤の一閃が通り抜ける。
観客達から見れば、レオの大剣の一閃から蓮が逃れ大剣が空振りしたように見える。
しかしそれは間違いだ。なぜなら、
「…へへっ」
「……」
蓮の左手首から流れる『赤』が、レオの斬撃を完全には避けれなかったことを証明していたからだ。
『『『『なっ⁉︎⁉︎』』』』
会場のほとんどの観客達が困惑の声を上げた。
当たり前だ。日本最強の学生騎士が、《七星剣王》たるあの新宮寺蓮が、僅かながらも血を流したのだから。
左手首に刻まれた、斬った、とも分からぬほど、僅かな細い線。そこから赤い雫が溢れ滴り落ちていた。
「……」
それは瞬時に『治癒』により塞がり何事もなかったかのように治っていたが、彼らは彼の蒼白の鎧に朱が浮かんだのをはっきりと見た。
『あの《七星剣王》に傷をつけた』。
その事実が、ある種の驚愕となって会場を包み込んだ。
『な、な、な、なんということでしょう!あの新宮寺選手の左手から血が滴っていました!新宮寺選手初めての流血ですっ!』
(……これは驚いたな)
実況の声を聞きながら、蓮は内心で密かに驚いていた。
まさかレオがここまでやるとは思わなかったからだ。
最近では月一でしかできなくなっていた模擬戦でもあの大剣や《金剛獅子》は見たことがなかった。そのことから、明らかに隠し球として扱っていたことは明白。
パワーもスピードもさっきより段違いだった。
間違いなくさっきのようにはいかない。
それにあの薄い刃が厄介だ。
他の刀剣よりも遥かに薄いあの刃は、どんな刀剣よりも、どんな剃刀よりも鋭い刃となり、余程のことがなければ大抵のものは斬り裂いてしまうのだろう。
刃筋を通す——刃を真っ直ぐ入れて真っ直ぐ振り抜く。刀身の軌跡が真っ平らな平面になるほどの綺麗な斬撃。
これこそが木葉一門の秘剣『薄羽蜻蛉』。
短くも密度の濃い修行の結果として、レオが身につけた
そういえばレオは昼休みにマリカの実家の木葉家の道場で泊まり込みで鍛えてもらったと言っていたことを蓮はふと思い出した。
おそらくそこで剣術を学んだのだろう。どうりでマリカの剣と似通っている部分があったわけだ。
更に言えば《金剛獅子》も厄介だった。彼のその伐刀絶技は《落第騎士》黒鉄一輝が持つ唯一の伐刀絶技《一刀修羅》にかなり似ている。
《一刀修羅》は一輝が己の脳のリミッターを外すことで、たった一分に己の持つ全ての力を使い尽くすことで、最弱の能力だった身体能力倍加の強化倍率を倍から何十倍にも引き上げる伐刀絶技だ。
レオの《金剛獅子》はこれに限りなく近いが、全く同じというわけではない。
なぜなら、この絶技には《一刀修羅》と同じように時間制限はあるものの、一輝とは違いオンオフが自在であり、デメリットもあるにはあるが、《一刀修羅》の、使用した一分後にはまともに呼吸すらできないほど衰弱しきる、というほどのものではないからだ。つまり、《一刀修羅》のデメリットをできる限り削ったものがレオの《金剛獅子》なのだ。
鍛えた魔力制御や集中力により一切の無駄なく魔力を伐刀絶技や攻撃に転用させ、過剰注入し凝縮することで、一時的に鎧の硬度を上げさらに魔力放出による破壊、防御、推進の力を底上げしているのだ。
その強化倍率は数十倍どころか、数百倍にまで引き上げられている。
今のレオの肉体には生半可な攻撃はダメージだけでなく衝撃すらも通さず受け付けない。全て絶対硬度の鎧の前に阻まれるだけだ。
秘剣『薄羽蜻蛉』と伐刀絶技《金剛獅子》
どちらも蓮と渡り合う、あるいは人を殺すための覚悟を身につける為に得た技だった。
「オオオォォォォォォォッッ‼︎‼︎」
「ッ‼︎」
再びレオが猛然と突撃する。
だが、今度は蓮も何もしないというわけではなかった。
「……ッ!」
右手に魔法陣を浮かべすかさずレオの突貫に対応する。
次の瞬間、彼の進路を阻むように上下左右から水氷の刃と槍が伸びる。
至近距離での《渦巻き貫く海流槍》と《斬り裂く海流の乱刃》の同時発動。普通なら対応できない。レオもその例に漏れずガードが間に合わなかった。
それらは何の妨害もないために真っ直ぐにレオの衣服を貫くはずだったが《金剛獅子》を身に纏うレオの皮膚を穿つどころか窪ませることすらできず、甲高い音を立てその動きを止める。
そう。《金剛獅子》により絶対の硬度を宿したレオの肉体は蓮の水氷の刃と槍すらも阻んだのだ。
「おらぁっ‼︎」
「っっ」
レオはそれをまるで意に介さずに大剣を大きく振るい水氷の刃槍の水平に断ち斬り、前へと強く踏み込み、彼の眼前へと進み出て射程圏内に蓮を捉える。
しかし、今大剣を振るったとしても刃が届く前に蓮は簡単に避けるだろう。だからレオは左拳を構える。
そもそも大剣はあくまで囮や、蓮を驚かせるための物だ。まだ剣術を習いたての自分が剣で蓮に勝とうだなんて到底無理な話だ。
付け焼き刃の剣術ではない、自分の持つ全身全霊の拳の一撃を放つ。
蓮はすぐさま両腕をクロスさせこれをガードするも、
「ッッ———っ!」
その剛拳は蓮のガードを物ともせず両腕の氷を完全に殴り砕きその下の両腕が不自然な方向に曲がり、衝撃を伝って兜、胸部の氷も半分ほど砕き割り後方に大きく殴り飛ばした。
吹き飛びながらも《水進機構》を噴射させることでで地面を転がることはなく、すぐに両足を地につけ踏ん張り再びリングを削り十メートルほど後退しただけで倒れずには済んだ。
蓮は砕けた両腕を力なく下げる。彼の剛拳を受け止めた両腕は粉々に砕かれてしまい、いくら力を入れてもピクリとも動かない。それに上半身を覆う氷の約半分が粉々に砕かれ、兜の氷も砕かれ、素顔が半分ほど露わになっている。
砕けた両腕も鎧も瞬時に治癒、修復。問題ないことを確認し顔を上げた蓮の眼前にはすでにレオが迫っていた。
「ッ!」
「ラァッ!」
蓮が退避する隙を与えず間合いに飛び込み、パンチを繰り出す。
《金剛獅子》を身に纏うそれは《槌矛》のそれを超える絶対の硬度を宿している。
一撃が胸に打ち込まれる。再び胸部の鎧が容易く砕ける。
一撃が顔面に打ち込まれる。再び兜が容易く砕ける。
堅牢な氷の鎧を、絶対の硬度を宿したレオの拳が打つ。
殴る。殴る。殴る。
連打する。
鉄拳、否、金剛拳のラッシュ。
戦車砲にも等しい打撃の嵐が蓮の肉体に次々と打ち込まれていく。一撃一撃もらうたびに、氷が砕け、肉体が傷ついていった。
蓮が大きく吹き飛び、今度こそ地面を転がり地に伏した。
地面には、彼が吐き出した血が飛び散っており、蓮がいるところまでの道を作っているようにも見えた。
それは内臓に大きな損傷を負っている何よりの証左。
レオはその場でへたり込んで荒い息を何度も吐く。
大粒の汗を大量に流し、肩は大きく上下している。明らかに消耗が激しい。もって後数分というところだろう。
『し、新宮寺選手、ダウン!あの《七星剣王》が!日本で一番強く誇り高い騎士が!地に伏しました!』
『…………』
蓮が地に伏すという予想外の光景に、会場中はどよめきの声を上げることすらできずに驚愕に声を出せないでいた。
両腕は肘から先が粉砕骨折。肋骨が三本骨折。内臓もいくつか損傷し、もはや意識を失ってもおかしくないほどに甚大な外的損傷だった。
これを見ていた観客達の脳裏に一つの考えがよぎる。
『あの《七星剣王》が負けてしまうのか?』
つい先日にFランクの黒鉄一輝がAランクのステラ・ヴァーミリオンに逆転勝ちを成したように、Dランクの葛城レオンハルトがAランクの新宮寺蓮を下すのではないかと思ってしまっていた。
…………しかし、それはあくまで可能性であり、大部分の半端者達の考え。
本物の実力者達は、彼らをよく知る者達は、あの最強が、あの《七星剣王》がこの程度の損傷で終わるわけがないことをよく知っている。
だとすれば、これは終わりではなくむしろ始まり。今までのはただのお遊びだ。
本当の戦いがやっと始まろうとしていた。
「……」
蓮の指がピクリと動く。
全身を淡い蒼光が包んだ次の瞬間、彼の傷は全て治癒されており、傷一つ残っておらず、損傷した腕も何事もなかったかのようになり、服についた血や、リングに飛び散った血は全てが青い粒子となり彼の体内に戻るように吸い込まれていく。
蒼光が収まった時、蓮は砕け散ったはずの両手でリングをついて、上半身を持ち上げ、ゆっくり立ち上がる。
試合前となんら変わらない、余裕に満ち足りた超然とした姿で。
「相変わらず無茶苦茶だな…」
レオは驚愕を隠さずに呟く。
確かにこうなることは分かっていた。分かってはいたが………あまりにも治癒の速度が速すぎる。並大抵なら数十秒もかかるものでも彼にかかればコンマ数秒なのだから無茶苦茶と言われてもおかしくはない。
だが彼はすぐに気を取り直して、膝に力を入れ再び大剣を構える。
《金剛獅子》のリミットまであと僅かだが、これがないと彼とは戦えないから、動揺している暇があるならこの絶技の維持とこの後の戦いに全神経を注ぐ。
対する蓮は、凄絶な笑みを浮かべて口の端を僅かに釣り上げていた。
「ッッ‼︎(ヤベぇなこれ…)」
その笑みにレオは背筋に冷たいものが流れる。
彼から放たれる絶対的な威圧感。一瞬でも怯めば間違いなくそこで終わる。瞬く間に呑み込まれてしまう。いや、喰われる。
彼の内側には背筋が凍るような何かがある。狂気にも似たそれに触れてはダメだ、とレオは本能的に感じ取ってしまった。
やがて、蓮が静かに口を開く。
「お前がここまでやるとは思ってもいなかったよ」
そう言ってゆっくりと両腕を広げる。
眼を灼くほどに激しく、それでいて美しい青白い光の粒子が、蓮の身体から沸き立った。
「どうやら俺はお前の実力を見誤っていたらしい。去年よりもだいぶ強くなってるな」
「お前よりは全然弱ぇよ」
「それでもだ。お前ほど硬かった相手は十束先輩以来だ。誇っていいぞ、お前は十分強い。だからこそ…
そう言って《海龍纒鎧》を纏う蓮。
それと同時に濃密な魔力が、激しい輝きを伴い彼を中心に渦巻き、吹き荒れる。
「…ついに出したか」
レオは好戦的な笑みを浮かべながらも、これから起こるものがなんなのかを知っているが故に、冷や汗をにじませ苦々しく呟く。
やがて、彼の眼前で蓮の全身を包む《海龍纒鎧》の形状が変わっていく。
兜の額からは鬼を思わせる一対の角、側頭部からは龍を思わせる鹿のような角が一対、計大小四本の氷の角が兜からそそり立つ。
四肢の装甲は一回り太くなり、狂暴さを感じさせる極めて鋭利な鉤爪を持つ獣のそれへと変わる。
腰からは魔力を凝縮させた半透明の青い尻尾が伸び、ゆらゆらと揺れる。
背中には無数の突起が立ち並び、後頭部から尾にかけて背骨をなぞるように三角形の鰭が一列に並ぶ。
両眼からは炎が如き青い輝きが漏れ出て揺らめく。
それはさながら神話や御伽噺の世界に住む龍が、人に近い姿形をとって人の世に降臨したようにも見えた。
一人の青年は凛々しい武者から荒ぶる龍人へと姿を変える。
青白い燐光を放ち、蒼光に身を包み、圧倒的な威容を放つその姿は、神秘的であり幻想的であったが、同時に荒々しさと禍々しさを兼ね備えていた。
その威風堂々たる佇まいは、まさしく風格ある王者そのもの。
これこそが昨年の七星剣武祭において、二位の《妖精姫》三枝真弓と《鉄壁の武者》十束克己を圧倒し完膚なきまでの蹂躙を見せた伐刀絶技。
その名は———
「———《
龍は獅子を喰い殺さんと初めてその爪牙を剥いた。
………ちょっと、レオ君強くしすぎたかな?
ちなみに、《