優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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三ヶ月近くもお待たせしてしまい本当申し訳ありません!

コロナが今もなお猛威を振るう中、みなさん体調とかは大丈夫でしょうか?私はまだ元気ですが、やはり外出する時は不安になりますね。皆さんもお気をつけください。

それはそうと、UAが五万を超えました!読んでくださった皆さんありがとうございます!他の方々の作品からすれば少ないと思いますが、それでも私にとっては嬉しい更新記録です!

そして魔法科高校の劣等生の来訪者編がついに始まりましたね!映画ではもうやらないかなと思ってたので、嬉しいです!

それと、蓮の妹の楓ちゃんですが、原作の方で黒乃の娘の名前が出てきたのでそちらの方に修正しておきます!こういう名前はなるべく原作に合わせていきたいので……。

それでは、最新話をどうぞ!





24話 祈望

貴徳原カナタは彼を、新宮寺蓮の姿を夢で見る事がある。

 

最初は彼が両親と楽しそうにしているとても幸せな光景が写っていた。

二人と笑い合う幼い彼の年相応に無邪気に笑う姿は今でも忘れられない。本当に、この日々は彼にとって、そしてカナタにとっても幸せだった。

彼が愛する大好きな両親と共に過ごす。そんなありふれた、けれどかけがえのない幸せがそこにはあった。

 

だが、その光景はやがて炎に焼かれ消えて、両親の姿も炎に呑まれて消えてしまった。

炎が消え、場面が切り替わると誰もいなくなった葬儀の場で、彼らの遺体の前で泣いている蓮と彼に寄り添う幼いカナタの姿があった。

この時に彼が復讐を、もう誰も失わないように強くなることを決意したのをカナタは今でも覚えている。

あの時、自分は何もできなかった。

彼を復讐に堕ちることを止める事ができなかった。彼を繋ぎ止める言葉を言えなくて、その手を引き止めることができなくて、ただ彼の隣に居て慰めることしかできなかった。

 

もっと何かできることがあったはずだ。なのに、自分は何もできず、見ていることしかできなかった。

 

それから彼は取り憑かれたように鍛錬に没頭していた。友達とも遊ぶことはなく、暇さえあればただひたすらに強くなるために鍛錬していた。

どれだけ血反吐を吐こうとも、どれだけ傷を負おうとも、彼は自身を実験台にして治癒術の研鑽を重ねて、強引に回復し鍛錬に打ち込んでいた。

そこにはある種の狂気が伺えて、同年代の子供達は勿論、大人ですら諦めてしまいそうな鍛錬量に音をあげることはせず、ただひたすらに愚直に強くなろうとしていた。

その姿はあまりにも悲しくて、痛々しかった。

みかねた黒乃の頼みでカナタが連れ出してなければ、刀華や泡沫とも遊ぶことはなかったし、同じクラスメイトたちとも親しくならなかっただろう。

 

そして、その後は蓮がカナタや刀華、泡沫を背に庇いながら一人で戦うあの時の光景が映り、最後にはどこか遠くに行ってしまう夢。

どれだけ走っても彼には追い付けず、どれだけ呼びかけても彼に声が届くことはなく、やがて彼は遠くに消えてしまう。そこで夢はいつも終わっていた。

 

しかし、六年の時を経て彼と再会してから夢では続きを見るようになった。

 

場面は切り替わり、カナタは海の上に立っていた。

 

『ここは……?』

 

初めて見る光景にカナタは戸惑いを隠せない。

あたりは真夜中のように暗く、藍色と黒色が混ざる海は酷く不気味だ。

雲ひとつない藍色の夜空に浮かぶ青白い月が海を照らしていなければ、暗闇に呑まれたのではないかと錯覚するほどだ。

 

夜空に浮かぶ月明かりが海に反射して、道のようになって水平線の果てまで続いている光景は幻想的で美しかった。

カナタも思わずその光景に見惚れてしまう。だが、それも一瞬、彼女はすぐさま蓮の姿を探す。

 

不意に後ろから水音がきこえて振り向くと、そこには探していた彼の姿があった。

 

彼女は安堵の表情を浮かべるも、すぐに表情を悲痛なものへと変えた。

彼の姿はあの9歳の姿ではなく、背や髪が伸びた今の姿だった。だが、それが原因ではない。今の彼の姿に彼女は悲痛な表情を浮かべたのだ。

蓮の姿はみるも無惨なものだった。

背中や腹には無数の刀剣が突き刺さり、全身の至る所には痛々しい傷が刻まれ、服に血を滲ませていた。透き通った水のようにきれいだった髪は赤黒い血で薄汚れていた。血で汚れていない部分を探す方が難しいほどに。

両手に持つ《蒼月》も、赤黒い血で白銀色の刃を濡らし妖しい輝きを放っている。

海へと流れ落ちた血は彼の足元を中心に赤黒く染めていった。

先程聞こえた水音は血が海に滴り落ちた音だったのだ。

 

そんな傷だらけの姿の蓮は彼女から数メートル離れた位置に立ってカナタに視線を向けていた。

 

 

『蓮さん……』

『………』

 

 

カナタが呼んでも蓮は何も応えてくれない。

ただ、こちらへと向けられる海色の瞳に光はなく、暗く淀んで虚な瞳。まるでこちらを見ているようで見ていない。そんな瞳だった。

空色と海色の瞳が交錯し、しばらく経った頃。

蓮は口の端を小さく吊り上げて、悲痛に満ちた笑みを浮かべると不意に口を開いた。

 

 

『ごめんな』

 

 

紡がれたのはたった一言の謝罪。

だが、その一言に込められた想いを彼女は知っている。知っているから、彼女はその目尻に涙を浮かばせてしまった。

そして蓮はそのまま彼女に背を向け、暗い闇へと歩き始めた。

 

『ッッ、駄目っ‼︎』

 

カナタは咄嗟に蓮を追いかけ引き止めようとする。

だが、突如彼女の足元から黒い鎖が何本も飛び出し彼女の体を戒める。

 

『待って!行かないで!蓮さんッ!そっちに行っては駄目ですッ!』

 

カナタは叫びながら、鎖を破ろうと身を捩るがどれだけ力を入れても鎖は信じ難い強度を持ち、拘束はわずかも緩まない。

その間も蓮との距離はひたすら遠ざかるばかり。そして、彼の行く手には業火がいつの間にか燃え盛っていた。

空もいつの間にか暗い曇天へと変わっており、あんなにも美しかった月は雲に呑まれ、黒く染まった空からは幾度も雷鳴が轟いている。

 

そして紅蓮の炎は、全てを悉く焼き尽くしてしまいそうな勢いで燃え盛っていて、近づくものを拒むような、そんな感じだった。

 

彼はその業火を前に躊躇わずに足を踏み入れる。炎はまるで彼を歓迎するかのように道を開けて、再び彼の通り過ぎた後を炎で閉ざす。

それは彼が地獄を歩くのを歓迎するかのようだった。

 

『いやっ、蓮さんッ!止まって!そっちに行かないでっ‼︎‼︎』

 

そしてその背に向けてカナタは涙を流しながら何度も叫ぶ。しかしその声が届くことはなく、手を差し伸べることもできない。

 

ある程度歩いた時、蓮はふと足を止めて振り返る。一瞬、カナタは声が届いたのかと喜色を浮かべたが、すぐに表情を張り詰めた。

 

なぜなら、炎に照らされた彼の髪は白銀へ、瞳は黄金へと変わっていたたから。

それだけではない。

彼の額と側頭部には青い炎を凝縮したような青黒い角が大小4本生えていた。瞳孔は縦に割れており、青く染まっている。

顔面の半分ぐらいは肌色の皮膚から何か別の組織へと変わっていて、青色に煌めく硬質なものはまるで鱗のよう。

耳も鋭く尖り、鱗のようなもので覆われている。わずかに空いた口から覗く歯は鋭く尖った牙へと変わっていた。

 

彼は人の姿でありながら人ならざる異形へと変化しつつあったのだ。

 

『———』

 

蓮はカナタを一瞥すると、口を開いて何かを呟く。遠すぎるからか何を言っているのかは分からなかった。そして、彼は、再び彼女に背を向けて炎の中を歩き出す。

今度は止まることはなく、だんだんとカナタとの距離が広がり、遂にはカナタの眼前で炎に呑まれ……消えてしまった。

 

 

「待ってっ‼︎‼︎」

 

カナタは悲鳴じみた声を上げながら身を起こす。

瞬間、目に映った光景が、炎ではなく寮部屋の壁だったことから、彼女は自分が夢を見ていたんだということに気付いた。

 

「はぁ、はぁ……今のは、夢?」

 

カナタは荒くなった息を整えながら呟く。

ふと自分が涙を流していることに気がついた。

 

「私、泣いて……」

 

カナタは零れ落ちる涙を拭う。

普段から滅多に涙を流すことはない彼女が泣くのは、それだけショックが大きかったのか、あるいは見た夢が彼のことだったからか。あるいは、その両方か。いや、そうなのだろう。

蓮がカナタを大切に想うように、カナタもまた蓮のことを大切に想い、愛しいとまで感じているのだから。

そんな彼女からすれば、今の夢はあまりにも悲しすぎた。

 

夢の中で彼は炎に呑まれた。それはまるで彼がいつか無残に死んでしまう日を予見したかのようだった。

しかも、炎に呑まれた光景が両親と同じ末路を辿ってしまうような、そんな予感を抱かせたのだ。

 

「蓮さん……」

 

カナタはいいようのしれない不安に震える体を自らの腕で抱いて落ち着かせようとする。だが、震えは一向に落ち着かなかった。

彼女は掠れるようなか細い声で嗚咽を漏らす。

 

 

「私は、どうしたら……」

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

まだ日が昇ったばかりで幾分か涼しい早朝の破軍学園内を赤いジャージを着たカナタは走っていた。

中途半端な時間に目が覚めてしまった彼女は、そのまま二度寝して仕舞えばもしかしたら、またあの悪夢を見てしまいそうだったので、気晴らしも兼ねてランニングを行うことにしたのだ。

ルームメイトの刀華はまだ眠っていたので、わざわざ起こさずに寝かせてあげることにした。それに、今日ばかりはあんな夢を見てしまった後だからか、一人で走りたい気分だった。ルートも変えている。

 

(あの蓮さんの姿は……あれは、あの時の……)

 

炎に呑まれる直前に見た彼のあの姿、人と化物の両方の性質を持っているような姿は一度だけ見たことがあった。

全てが変わったあの悪夢の日《黒川事件》でだ。

あの日、彼は死にかけた。明らかに瀕死の重傷だった。胴体に刻まれた傷はあまりにも深く、心臓も斬り裂かれたはず。流血はすでに致死量を超えていて、傷痕からは損傷した内臓や砕けた骨が零れ落ちていたほどだった。治癒を行うための魔力も残っていなかった。

だというのに、どういうわけか彼は立ち上がった。魔力も尽きて死に体のはずなのに、彼の体からは莫大な魔力が噴き出していた。

しかも、その魔力量は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけの莫大な魔力を噴き出しながら、獣のような狂った咆哮をあげた蓮は、カナタの眼前で()()姿()()()()()()()()()

 

あの変化がなんなのかわからない。蓮の異能がそうさせたのか、あるいはまだ未解明の伐刀者の未知の力なのか。

一つわかるのは、あれが夢ではなく現実で起きたということだけだった。

 

異様な音を立てながら、自身の肉体を別の何かへと変質させた彼の姿は、まさしく化け物と形容するほかになく、それが元々蓮だったとしても、恐怖を抱かずにはいられなかった。

そして、化け物へと転じた彼は怒りや憎しみ、悲しみ、負の感情を凝縮したような怨嗟の雄叫びを上げながら敵に襲いかかった。

そこからはもはや戦闘とは呼べるようなものではなく、ただの蹂躙だった。

まるで傷つけられた獣が、傷つけた者に怒り狂いその敵を殺そうと怒りのままに襲い掛かる、まさしくそんな構図だった。

 

圧倒的な力で周囲をも巻き込んで破壊の限りを尽くした蓮は、敵を無残に殺した後やがて力尽きた。そして、その破壊の爪痕は町だけでなく、見ていた人たちの、守ったはずの人達の心にも深く刻んでしまった。

その結果、彼等は蓮を人として見ることはできず、大量殺戮の化け物としてしか見れなくなり、本能的な恐怖や、純粋な怒りから彼を拒絶した。

彼はそれに怒ることもせず、只々それを受け入れて黒乃と共に町を去った。

 

六年が経ち、彼の姿をビデオで見た時、カナタは刀華が泣いていなければ、自分が泣き崩れていたことだろう。

また会えたんだと。謝罪の機会が得られたのだと。叶わないと思っていたことに心を躍らせていたことだろう。

しかし、その反面彼に会わせる顔がないとも思っていた。一番寄り添うべき時に寄り添えず、立ち去る背を見送ることしかできなかった自分が一体どの面を下げて彼に会えばいいんだと。

 

《黒川事件》での苦しみは自分達は同じ傷を抱えた者がいたから、時に励まし合うことができた。

だが、蓮は違う。彼は別の地で黒乃と新たな生活を始めた。例え彼女が彼の苦しみを慮り、母として支えることができたとしても、分かち合うことはできなかった。

しかも蓮は自身の能力で取り返しのつかないことをしてしまっている。心の傷は、誰よりも大きいだろう。将来を嘱望され、神童と言われようとも、彼だってまだ9歳の子供だった。まだ誰かの助けが必要な年なのだ。到底一人で抱えきれるものではなかった。

 

カナタには刀華や泡沫、『若葉の家』の子供達がいた。辛い時も、苦しい時も、いつも共にいてみんなで強くなることができた。だがその頃、蓮はたった一人異郷の地で、後悔と罪悪感に苛まれ押しつぶされそうになりながら、苦しみ続けた。

一体どれだけ悩んだのか、どれだけ自分を呪ったのだろう。

それを分かっているからこそ、彼との再会を手放しで喜べるわけがなかった。

 

それでも一度会って話をしたかったカナタは、風紀委員スカウトの件で会長である真弓に頼み込み、真弓と麻衣が行くはずだったのを自分が代わり、二人で喫茶店に立ち寄った時、それを酷く痛感した。

 

彼は今もずっと過去に囚われたままなのだということに。

 

両親を失った絶望、大切な家族を殺した敵への憎悪と怒り、取り返しのつかないことをしてしまった罪悪感、自身の力に対する恐怖。復讐と贖罪。それらがないまぜになって今もなお彼のことを蝕み続けているのだとわかってしまった。

だからあの時誓ったのだ。

例え世界の誰もが彼を拒絶したとしても、化け物だと恐れたとしても、自分は、自分だけは最後まで彼の味方であり続けると。

 

(といっても、黒乃さんや寧音さんは最後まで味方でいるでしょうけど……)

 

確かにそう誓ったが、黒乃や寧音も彼の味方であり続けるだろう。それだけは断言できる。

 

そんなことを考えるうちに、彼女は自分が寮からだいぶ離れたところまで走ってきたことに気づいた。

場所的には学園の端の方。小高い丘がある場所だ。そこからは破軍学園だけでなく周辺の地域も一望できるほどに小高い場所だ。

彼女は丘の頂上で一休みしようと思い、そこへと向かうと先客がいることに気づく。

 

(あれは……蓮さん?)

 

カナタよりも先に丘の頂上には青いジャージを着た蒼髪の青年、蓮がいた。

カナタと同じ早朝の鍛錬なのだろう。

十メートルほどの中空にふわりと浮かぶ蓮は、《蒼月》を腰から提げたまま両腕を指揮棒のように振るっている。その腕の動きに合わせて、彼の周囲には淡く輝く半透明な水で構成された多種多様な海の生き物達が悠々と空を泳いでいた。

まるでそこには海があるかのように、空を気持ち良さそうにふわふわと泳いでいた。

まるで彼が指揮者であり、生物達が楽器を奏でる奏者であるかのように、朝焼けの光を舞台照明のようにして青と橙に照らされるそれは音こそないが、一種のオーケストラのようだ。

 

「……綺麗」

 

カナタは夢のことも忘れて、その幻想的な光景に思わず魅入ってしまう。

しかし、それで終わりではなかった。

今度は蓮の体が淡い輝きを帯びるとだんだんと体の色を失い紺碧色に輝く人型の水へと変化した。

次の瞬間、彼を水の球体が包みある形を作る。そこにいたのは半透明の体を宙にくねらせる一頭の青い海龍だった。

 

「え…?」

 

カナタは思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。

海龍の大きさは20m近くあるだろう。頭部の4本の角、鋭い鉤爪や背中の突起、背鰭や尾鰭は《海龍纏鎧・王牙》の特徴にそっくりだ。

そしてカナタの視線に気づかないまま、海龍と化した蓮は悠々と生物達と共に宙を泳ぐ。

時にはゆったりと、時には素早く天を自由気ままに泳ぐその姿はまさしく神話の世界に住む海龍だった。

カナタは思わずその光景に魅入られており、ただその海龍の遊泳を見上げていた。

 

『?』

「ぁっ」

 

十分ぐらい経った頃、カナタは海龍とふと目があった。海色の瞳がカナタを視界に収めると、海龍はカナタへとゆっくりと降下していき、カナタの眼前でその巨躯を淡く輝かせると姿を変えて、元の蓮の姿へと変わった。

 

「カナタ、おはよう。お前も朝の鍛錬か?」

「おはようございます蓮さん。今日は少し早く起きたのでその分早めに……蓮さんも鍛錬をされていたようですが、今は何をされていたのですか?」

「日課の鍛錬だ。ちょうど今は魔力制御の応用をしていた」

 

蓮はそう言って右腕を少し上げる。

すると、右腕が色を失い水へと変わる。それを見てカナタは蓮がやっていたことを理解した。

 

「まさか……自分の体を水に変えた上で、足りない部分は魔力で補いながら自身を別の形へと形成したということですか?」

「そういうことだ。ほら」

 

そう言いながら蓮の腕が形を変えて翼、刃へと次々と様々な形へと変えていった。

それを何食わぬ顔で平然と行なっている蓮にカナタは純粋に凄いと同時に戦慄した。

 

水使いだけでなく、炎や雷、風などの自然干渉系の伐刀者達は魔力制御の鍛錬の一環で自身の肉体を魔力化し、自身が持つ属性へと変換させることを試す。

しかし、試みたものは大多数がそれを断念する。

 

 

それはなぜか?

 

 

難しすぎるからだ。

肉体を魔力化し、自身の属性へと変換し、再び元の肉体へと再構成する。

言葉にして仕舞えばたったそれだけだが、それをこなせるというのは、魔力制御の極地の一つである技術を持っているということでもある。

 

一流の魔力制御力を以て、数十兆の細胞からなる人体の一つ一つに干渉し、それら全てを肉体から魔力へと変えて、蓮の場合ならば水へと変換し、再構成の式を組んで発動し、元の肉体へと再構成する。

そうすることで、彼は斬撃や打撃などの物理攻撃を完全に無効化している。

だが、これは()()()()()()()()()()()()()()()()()

例え、式を組んだとしてもそれが死後に発動しなければそれまでであり、再構成をほんの少しでも誤れば、後にどんな障害が残るかわからない。

発動しようにもあまりにも高度すぎる魔術処理に、脳が悲鳴を上げて神経が焼き切れてしまう可能性もある。

 

確かに物理攻撃無効化は大きなメリットであり、戦いにおいては強力な手札の一つだ。

しかし、その為に必要な技術が高すぎるし、リスクも大きすぎるのだ。

だからこそ、殆どの者が自身の肉体の粒子化を断念してしまう。

雷使いである刀華もそれを試みたことはある。だが、彼女も今現在の自身の技量ではできずに断念している。

連盟基準で最低でも魔力制御がAはなければできない超高難度の技術だ。

 

物理攻撃を完全無効化し、傷ついた肉体を再構築することで回復、あるいは蘇生する伐刀絶技——— 《青華輪廻(リィン・カーネーション)》だ。

 

蓮が今使ったのはまさしくその絶技ではあるが、《青華輪廻》はそれだけでなく更に、液体化した肉体と魔力で生み出した水を合わせて自身の質量を超える物体にすら流体変化することも可能である。更に彼は大量の水の生物たちを生み出して様々な操作を行う伐刀絶技《海神の遊戯(アクアワルツ・ルデーレ)》も併用していた。

 

どちらも超高難度の技術であり、カナタはさすが魔力制御がSなだけはあると感嘆はした。だが、同時に戦慄したのは、それをなすことは…言って仕舞えば、狂気の沙汰だからだ。

肉体の粒子化ができるということとは、自殺行為を何度も繰り返しているのと同じこと。

それは普通の人間がやれる事ではない。

なのに、蓮はそれを日課の鍛錬に組み込んで毎朝平然と行なっている。毎日自殺行為を繰り返しているのと同じだからこそ、カナタは戦慄したのだ。

 

「……凄い、ですわね」

「俺にとってはこれは出来て当たり前の事だ。出来なければ俺はとうに死んでいる」

 

さも当然であるかのように淡々と言う蓮の言葉に、カナタは悲痛な表情を浮かべ、俯く。

死の恐怖を意に介さずに、神経を焼くはずの激痛すらなく、毎朝自殺行為を繰り返している。

一体、その領域に辿り着くまでにどれだけの苦痛を味わったのだろうか。

それが強くなりたいという一心だけならば、まだ良かったのだろう。だが、そこには間違いなく復讐心があったはずだ。自身をも焼き尽くす程の昏い憎悪の炎がその背後にはあったはずだ。

 

(……本当に不甲斐ないですわね)

 

誰よりも彼のそばに寄り添っていたはずなのに、その炎を消すことができなかった自分が情けなくて、ただ隣に居ただけで満足していた自分に腹が立った。

 

「何か嫌なことでもあったか?」

「え…?」

 

突然の問いにカナタは思わず顔を上げる。

蓮は心配そうにこちらを覗き込んでいた。

 

「い、いえ、大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」

 

カナタは慌てて表情を取り繕いそう言って誤魔化した。あんなこと言えるわけが無い。

余計なことを言って彼に変な気を遣わせたくなかったから。

 

「……そうか。ならいいんだが、悩み事があるなら聞くぞ?」

「ええ、その時はお願いします」

「ああ」

 

蓮は一応の納得をみせる。

蓮は人の感情に疎いわけでは無い。先程のカナタの表情を見れば何かあったのは明白。だが、蓮はそれを深くは尋ねない。

無理に聞き出そうとするのは良く無いことだとわかっているから。

蓮は時計を見る。そろそろ、戻る時間だった。

 

「俺はもう戻るが、カナタはここを使うのか?」

「……いえ、今日は走るだけのつもりでしたし、私もこの後は寮に戻ろうと思っていますわ」

「そうか」

 

そう言って蓮は先に寮へと戻ろうとする。だが、そこでカナタが止めた。

 

「あの、蓮さん…」

「ん、なんだ?」

「あの、私もご一緒してもよろしいですか?」

「…まぁ、それはいいが。俺のペースは速いぞ。着いて来れるか?」

 

蓮の問いにカナタは力強く頷いた。

彼が言った言葉はそのままの意味なのだろうが、カナタには別の意味でも捉えられたからだ。

 

「はい。着いていきます」

「ならいい。じゃあ行こうか」

「はいっ」

 

そうして、蓮が走り出しカナタがその後に続く。確かに蓮のペースは速いが、今はまだ着いていける速度だ。

 

(……懐かしいですわね)

 

カナタは彼の大きな背中を見ながら、思い出す。

昔もこうだった。

彼の背中をいつも追いかけていた。

いつか彼の隣に立ちたくて、その為に彼の隣に相応しくあろうと努力してきた。

それでも、いくら走っても彼の背中には追いつけなかった。けれど、だからこそ追いかけ甲斐があった。

 

それは今も変わらない。

今も変わらず彼女は彼の背中を追いかけ続けている。どれだけ実力の差を見せつけられようとも、それでもなお追いかけることをやめなかった。

 

もう後悔したくないから。

あの日、何もできなかった。

去ってしまう貴方を抱きしめることも、引き止めることすらできなかった。

何も言えなかった。何も言えずに別れてしまった。彼を癒す言葉をかけられなかった。

だから、次こそ救ける。

今度こそ、彼を守ろう。

今度こそ、彼を支えよう。

今度こそ、彼を癒そう。

 

もう二度と後悔しない為に、私は彼の味方であり続けよう。

 

いつまでも、貴方に着いていきましょう。

仮令、貴方が、音の速さで駆け抜けて行っても。

仮令、空を突き抜け、星々の高みへ翔け昇っても。

いつか、貴方の隣に並び立つ為に、私はどこまでも貴方に着いていきます。

 

 

それが《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》貴徳原カナタが抱いた騎士としての覚悟だ。

 

 

 

 

 

ちなみに蓮の二十キロマラソンについて行ったはいいものの、蓮のあまりの速度と緩急の激しさに魔力放出を使って必死に食らい付こうとしたカナタだったが、途中でギブアップして蓮に背負われて寮に戻ったのは、余談だ。

 

 

その際に、彼に背負われて嬉しそうな表情をしていたのは彼女だけの秘密。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

夕方、授業を終え放課後を迎えた蓮は風紀委員も非番なため、レオ達と共に今日はプールでトレーニングをしようと考えていたところ、突然黒乃から電話での呼び出しがかかった。

 

「それで、母さん。急に呼び出したのは何かあったからなのか?」

「そうだ」

 

理事長室で来客用のソファーに座る蓮は向かいのソファーに座る黒乃へと問いかける。

黒乃は蓮の問いに頷く。

 

「ああ、実はお前に取材の依頼が来ててな」

「取材?」

「そうだ。七星剣武祭前に《七星剣王》であるお前の取材をしたいらしい。しかも、大手キー局からだ」

 

そう言って、黒乃はそのキー局から送られてきた取材についての書類を蓮に見せる。

見れば、そこには確かに大手のキー局の名前があり、取材をしたいと言う旨が書かれていた。

 

「……日にちは?」

「今週末の土曜日だそうだ。その日は選抜戦もないだろう?」

「…確かにないが…」

 

蓮は言い淀む。

キー局からの取材依頼。伐刀者として名を上げていくということはそれだけメディアに注目されることにつながる。

黒乃や寧音、大和やサフィアも取材を受け雑誌に記事を掲載された経験がある。

蓮もリトルリーグで優勝した時も取材は受けたし、雑誌にも載ったことがある。そして、これから騎士として生きていく以上はメディアにも多く出るべきだろう。

 

だが、例えそうだとしても蓮はメディアに出ることを躊躇う。

蓮がメディアの取材を躊躇う理由。それは父と母の関係を知られてしまう可能性があるからだ。水使い、そして、水を体現したかのような蒼髪碧眼の持ち主。

それだけでもサフィアとの関係性を疑う者がいるかもしれない。特にヴァーミリオン皇国の国民ならば尚更のこと。

蓮はそれをよしとしない。

注目されるということはそれだけ関係に気付いてしまう者達が増える可能性がある。

 

そしてもしも関係に気付いたものがいれば、蓮を始末しようと思う者も増える。

今はその強大な力のみで殺害対象にされているが、あの二人の子という情報が加われば、更に刺客が増える可能性だってある。

今でこそ自分一人で対処できているが、もしかしたら家族や友人達にも、魔の手が及ぶかもしれない。

黒乃や寧音はまだ大丈夫だろう。だが、義父である拓海やまだ3歳児の妹、鳴は安全とは言い難い。特に蓮と黒乃が学園にいる間は尚更危険だ。政府にも護衛を頼んではいるがそれでも万全ではない。それに、友人であるレオ達も敵が彼等よりも強ければ危険だ。

彼らの身を案じるならばこの情報は何が合っても公開するべきではないのだ。

 

しかし、本音を言うならば自分があの二人の息子だということを言いたい。

自分こそがあの英雄達の息子であり、唯一にして正当な後継者なのだと胸を張って言いたい。

別に黒乃の息子であることが嫌というわけではない。彼女に引き取られて良かったと思っている。

それでも、あの二人は、自分にとって誇りであり、夢であり、目標でもあったから、彼等の息子であるということも言いたかった。

 

かといって、出生を明かしてしまったせいで彼等の身に危険が及んでしまっては本末転倒だ。

復讐の為だけでなく、大切な者達を守るためにも戦う彼にとって、守るべき者達を危険に晒し傷つけてしまうということは許しがたい屈辱であり、最も恐れていることなのだ。

だから明かさない。明かせるわけがない。

自分のせいで大切な者達を傷つけてしまうなど、見たくなかったから。

 

去年もそういう考えから、七星剣武祭での記者の質問には答えたものの、雑誌の取材依頼には応じなかったのだ。

 

黒乃はそんな蓮の心情を察して、母性を感じさせる優しい笑顔で言った。

 

「お前の言いたいことは分かってる。私達のことを気にかけているんだろう?」

「………」

「お前は本当に優しい子だ。私はそんなお前の母親でいれることが誇らしいよ。でもな、私はお前があいつらの息子として活躍する姿も見たいんだ。いつか、新宮寺の姓ではなく桜木とインディゴ、あの二人の姓を名乗って、騎士の世界を勝ち上がっていく姿をな」

 

いつか新宮寺蓮ではなく、桜木大和と桜木・I(インディゴ)・サフィアの二人の息子、桜木・I(インディゴ)・蓮として活躍する姿を見たい。

それが黒乃がずっと抱いてきた願いだった。

たとえ姓名が変ろうとも、血の繋がりがなかろうともそれでも黒乃にとって蓮は愛しい大切な息子であることには変わりはないのだから。だとすれば、名字が違うことなど些事だ。それがあろうともなかろうとも、彼女が蓮へと注ぐ愛情は変わらないから。

蓮もまたそんな黒乃の心情を察したのか、気恥ずかしそうに視線を逸らした。

黒乃はそんな様子を見て笑う。

 

「ふふ、まあ今回は嫌なら断っていいさ。ただ私がそういう思いでいることを知っていてくれればいい」

「……ごめん。だが、今はまだ無理でもいつか必ず名乗ることは約束する」

「ならいい。先方には私から連絡を入れておく」

「ありがとう。……それで、話はそれだけか?」

「いや、まだ二つある」

 

そう言って黒乃は膝を組み、口から紫煙を吐き出すと、次の話題を口にする。

 

「奥多摩にうちが所有する合宿施設があるのは知っているだろ?」

「ああ、去年七星剣武祭前にはそこに強化合宿に行ったからな。それがどうかしたのか?」

「向こうの管理人からどうも妙な報告を聞いてな」

「妙な報告?」

 

蓮の問いに黒乃は頷いて答えた。

 

「ああ、最近不審者が出たそうだ」

「不審者、ね。妙ってのは不審者の特徴がか?」

「そうだ。なんでも体長四メートル程の巨人や古代生物の群れらしい」

「は?」

 

突然出た荒唐無稽な特徴に、蓮は思わずそんな声をあげるが、すぐに可能性に気づく。

 

「……まさか伐刀者の仕業か?」

「やはりお前もそう思うか。そうだ。私もそう考えている。そこでだ、お前には奥多摩に調査に向かってもらいたい」

「まぁいいが。俺一人でか?別にそれでも構わないが」

「いや、生徒会にも頼んでいる。あちらには外部から助っ人を呼ぶよう言っておいた。お前も含めれば能力的には十分だろう」

「ちょっと待て」

 

蓮は黒乃の言葉に待ったをかけると、険しい表情を浮かべて続ける。

 

「どうして生徒会と一緒なんだ?あれぐらいの範囲なら俺一人でも十分だ。それに、俺と泡沫の仲の悪さは知っているだろ。わざわざ一緒に行く意味がない」

 

蓮と泡沫の仲は悪い。一方的に泡沫が嫌っているのだが、その事実は黒乃も知っているはずだ。にもかかわらず、その二人を同じ調査に向かわせるなど一体どういうつもりなのか。蓮はそんな疑念と困惑の視線を黒乃に送る。

黒乃は一つ息をつくと、深々とソファーの背にもたれた。

 

「それは十分に分かっている。確かにあれぐらいの範囲の捜索ならお前一人でも何ら問題はない」

「だったら…」

「だが、もしもあっちで強大な敵と遭遇したとき、お前は必ずそいつと戦うはずだ。なら誰がその状況を伝える?」

「っ」

「生半可なものなら逃げることも叶わないような敵が現れたら、お前は必ず身を呈して戦うはずだ。その時、その情報を学園に伝えるものとしてある程度の実力を持ったものがいなければならない。敵から逃げ切れる実力を持つものがな」

「……確かに、それだと生徒会が適任か…」

 

理にかなった説明に蓮は不承不承だが納得する。確かに蓮が戦った場合、敵の強さにもよるが余波に巻き込まれる可能性だってある。その余波から最低限自分の身を守ることができ、かつ心をおられずに学園へと情報を伝えることができるとしたら、実力者の集団である生徒会が適任だろう。

 

「そうだ。泡沫がお前を嫌っていることは知っている。だから向こうでは単独行動をとっていい。それにもしも何かあっても、東堂かカナタに伝えれば御祓も無碍にはできないはずだ」

 

確かに泡沫は蓮を嫌悪していて未だに二人の仲は元に戻っていないが、刀華とカナタは蓮との仲を修復しつつある。

そして、泡沫は昔から刀華に全幅の信頼を置いている。カナタも刀華ほどではないが信頼されているだろう。

そんな二人からの指示なら泡沫も素直に聞き入れるはずだ。黒乃はそれを分かっていた。

蓮もそれについては分かっており、深くため息をつくと両手を軽くあげて降参の意思を見せる。

 

「分かった分かった。生徒会と一緒に行けばいいんだろう」

「ああ任せた。調査は来週だ。頼んだぞ」

「ああ」

「そして最後にもう一つだ」

 

黒乃は膝を組んで、先ほどとは違いどこか心配するような、気遣うような表情を浮かべる。

 

「蓮、()()()()()()()

「………」

 

黒乃の問いに蓮はしばし沈黙すると、答えた。

 

「ああ、()()大丈夫だ」

「……信じていいんだな?」

「ああ、破軍に入ってからは一度も()()()は使ってないからな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

黒乃は蓮の言葉に一度目を伏せると、悲しみを堪え縋るような声音で呟いた。

 

「……だとしても、最悪の時以外はなるべくあの力は使わないでくれ。いつ()に戻れなくなるかわからない。そうなったら、私は……」

「分かってる。母さんに迷惑は掛けないつもりだ」

「ならいい。話は終わりだ。急に呼び出してすまなかったな」

「いや構わないよ。じゃあ、俺はこれで」

 

そう言って蓮は理事長したから出て行った。

一人になった黒乃は煙草を口から離して携帯灰皿に押し込むと、深々と息をついて暗い表情を浮かべた。

 

(蓮が嘘をついていないのは分かる。だが……)

 

黒乃はあることを危惧している。

今さっき蓮が言ったことに嘘偽りがないのは分かっている。

だが、それでも黒乃が言った最悪の時が来たら蓮はまず間違いなく『力』を使うだろう。

敵が自分以外では太刀打ちできないほどに強大かつ危険であり、後ろに守るべき者達がいる時、彼は躊躇わずに払う代償が大きすぎる『力』を使う。

 

最悪、命を落としかねないほどの代償を。

 

蓮はそんなリスクを承知で我が身を顧みずに、『力』を使い大切な者達を守ろうとするはずだ。彼はそう言った自己犠牲ができてしまう子になってしまった。

 

それは大切だからという優しさから、失いたくないという恐怖から来ているのだが、黒乃からすれば、守るべき対象に自分を含めていないことが辛かった。

 

そして、もう一つ蓮が躊躇なく『力』を解放する場合がある。黒乃はそちらの方を危惧していた。

 

それは、仇敵との遭遇だ。

 

蓮は両親を奪った敵の名前は知らずとも、その顔と魔力のオーラを見て覚えてしまっている。

12年経とうともそれは鮮明に残っていて、もしも遭遇してしまったのなら、蓮は黒乃達の制止すら無視して怒りのままに『力』を解き放ち暴れ回るだろう。

 

そうなったら周囲への被害は計り知れない。

まだ9歳の頃の時点で街を半壊させたのだ。当時と比べ桁違いに強くなった蓮が万全の状態でその力を解放し完全に理性を無くせば、街どころか、県、地方すらも壊せるだろう。

 

……いや、そんな可愛いものでは済まない。

 

蓮という《魔人》の本質は……この星に大きな傷を刻むことができてしまう程の力を持つ、人の形をした一つの『災害』なのだから。

 

それだけは何としても避けなければならない。

 

もしも蓮が理性をなくし暴走してしまった時、それを止めれるのはこの国では黒乃と寧音だけ。二人しか()()()()()()()()()()()()()()

それは重々承知している。

蓮もまたそれを了承しており、二人に子殺しの罪を背負わせないようになるべく『力』は使わないようにしている。

 

だが、一度蓮が暴走し、それを止めるために自分達が対峙した時、黒乃は一つ確信があった。

 

 

自分達では蓮には勝てない。

 

 

彼には、新宮寺蓮という名の災害には黒乃や寧音でも太刀打ちができない。圧倒的な暴威に呑まれるだけだ。

それだけ、蓮という《魔人》の力は常軌を逸している。同じ《魔人》でも上位に位置する力を彼は齢17にして持ってしまった。

 

だが、それでも黒乃達は蓮を止めなければ…殺さなければいけない。

子殺しの罪を背負ったとしても、黒乃達は何がなんでもやらなければいけないのだ。

 

 

 

 

———蓮を守る為に。

 

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

誰もが寝静まった深夜に彼等は動く。

 

闇夜の森を突き進む複数の影があった。

各々が様々な武器を持ち、漆黒の服装に身を包み闇夜の中を進む。

木々の間から月光が照らさなければ、それは完全に闇に紛れ、同化していただろう。

 

わずかな物音しか立てずに突き進む彼らの動き、素人目から見たとしても熟練したそれだ。

 

彼らは備え、機を待っていた。

狩りの時を見極め、こうして今夜が絶好の機会と判断したのだ。

 

獣が群れを成し狩りをするように、彼らもまた見事に息のあった動きで、森を駆け抜けていく。

森を抜けた彼らの視線の先には、一つの建物が映る。その一室。そこに彼らの目標が、彼等が喰い殺そうとしている獲物がいる。

 

そして、黒き走狗達はこの日のために研ぎ澄ました牙と爪を携え駆ける。

 

残酷で無慈悲な狂宴の夜が、今始まろうとしていた。

 

 




ヒロインまじどうしよ……(^◇^;)
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