優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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今回も二万文字……というか、最高文字数更新してしまったよ!

詰めに詰めた結果こうなったわけですが……まぁ後悔はない!
思ったより早く出来上がりました!

というわけで、最新話どうぞ!


26話 狂瀾怒濤

月夜の雪原に輝く紺碧の水流と紅蓮の火炎。

二種類の異能をその双剣に宿し、青白い燐光を総身から迸らせる蓮を前に、黒狗達は蓮を囲んだまま動かない。

黒ずくめの格好だからわからないが、彼らの顔には一様に冷や汗が伝っており、表情は強張っている。

 

警戒しているのだ。これだけの精鋭を用いても殺しきれない化け物じみた男があろうことか、二つの異能を有しているのだから。

今までの暗殺対象の中で間違いなく最強である男をどうすれば殺せるのかと、思案しているのだ。

 

そんな緊迫した空気の中、蓮が火炎纏う左剣をゆらりと掲げる。

そこには煌々と燃え盛る紅蓮の火焔が宿っており、それが激しさを増していく。

 

「《煉獄》」

 

彼の言葉に応え、振り下ろされた左剣から灼熱の業火が周囲へと解き放たれる。

伐刀絶技《煉獄(れんごく)》。

《ニブルヘイム》と同系統の超広域殲滅魔術。

燃え盛る超高熱の火炎をただ周囲へと解き放ち、敵を焼き尽くすシンプルな焼却魔術だ。

直後、《ニブルヘイム》が広がる領域全てに炎が広がり、煉獄の紅世界が広がる。

灼熱の火炎が、舞い散る火花が、銀世界に紅を加え紅白へと彩っていく。そしてあろうことか、《煉獄》の熱気は《ニブルヘイム》の冷気と相克を起こすことはなく一つの技として混ざり合う。

 

蓮は《煉獄》を発動させることで炎と氷の二つを融合させた伐刀絶技を発動したのだ。

極寒の冷気と灼熱の熱気が混ざり、白き凍獄と紅き煉獄が融合し、世界を氷焔の地獄へと塗り替える絶技。敵を焼き尽くし、凍てつかせる終末世界の具現。

その名も———

 

 

「——《氷焔地獄(インフェルノ)》」

 

 

半径5キロ《ニブルヘイム》が広がっていた銀世界は瞬く間に焔の赤が加わり、紅白の氷焔世界へと塗り替えられていく。

灼熱の熱波と極寒の寒波が入り混じり、津波となってジーフェン達に襲いかかる。

 

『『ッッ‼︎‼︎』』

 

そして、これには彼らも各々が能力で防御するだけでなく魔力の障壁も加えて完全防御の体勢に入る。

彼らは中国内でも屈指の熟練した伐刀者。

2種類の暴威を耐えることはできたが、体には所々小さな火傷や凍傷が出来ているものもいた。

 

(ッッ、どれだけ対軍魔術を持ってるんだ⁉︎この男はッ‼︎‼︎)

 

ジーフェンは彼の手札の多さに驚愕する。

見るに炎の魔術も水とほぼ同等の熟練度だと断定して間違いはないだろう。手札の数も同様。それだけでなく水や氷と炎を組み合わせた融合魔術が他にもあると予測できる。

そして何よりも恐るべき点は、それだけの力をまだ元服したばかりの少年が扱えているという不変の事実だ。

明らかに常軌を逸した強さだ。

これが《魔人》なのか。

これが人の限界を超えた者なのか。

 

危険だ。危険すぎる。

この男は確実に世界にとっての厄災の火種となり得る危険な存在だ。

一刻も早くこいつを殺さなければ、未曾有の災害となり得る。

そう危機感を抱いたジーフェンは半ば叫ぶように指示を出した。

 

「っ殺せっ!」

 

隊長であるジーフェンの指示のもと、彼らは蓮を殺さんと再び襲いかかる。そして蓮もまた迎え撃つために動いた。

 

「——」

 

氷焔地獄の中心に立つ蓮は《蒼月》を構える。

その動作はさながら、翼を広げるかのよう。

そして、グッと勢いよく身を屈め、脚に力を込めて、足裏で炎を爆発させると勢いよくジーフェン達に迫った。

 

「—— ッッ‼︎‼︎」

 

蒼紅の閃光と化した蓮は水流と火炎纏う《蒼月》を振るう。

 

「《双刃乱舞(そうじんらんぶ)》」

 

水と炎の刃が無数に放たれる。

青い水の刃《流水刃》と赤の炎の刃《烈火刃》が無数に宙を駆けて彼らに襲いかかる。しかし、それらは彼らの眼前に現れた薄緑の障壁に阻まれた。

だが、蓮に阻まれた動揺はない。障壁の硬度は先程確認しているからこそ今のは小手調べに過ぎない。

その時、背後の影からジーフェンが飛び出てくる。大太刀の鋒だけでなく、彼の背後に広がる影の黒刃を無数に伸ばし蓮の背中へと向け、彼に襲いかかった。

だが、

 

「……」

 

蓮はそれに難なく反応し、眼光を青く輝かせながら反転すると、水氷と火炎の無数の刃で影の刃を相殺し、ジーフェンに刃を振り下ろす。

 

「ッッ」

 

それを大太刀で受け止めたジーフェンは、先程の動揺はもうなく、暗殺者の、獲物を狩る狩人の眼をしていた。そして再び最初の時のように二人は凄まじい速度で斬り合う。

影を纏う黒刀と水纏う蒼刀、炎纏う紅刀が宙に三色の軌跡を描きながらぶつかる。

そして幾度となく斬り合い、鍔迫り合いをした時、蓮は素早く呪いを唱えた。

 

「——爆ぜろ 《爆蓮華(ばくれんげ)》」

「ぐっ」

 

直後、左剣の紅蓮の輝きが増し刀身が爆ぜる。

紅蓮の爆炎がジーフェンを呑み込み吹き飛ばした。

地面を転がるジーフェンに爆炎の中を突っ切った蓮は右の水刃を振り下ろす。地面を深々と切り裂くほどの威力だったが、間一髪のところで避けられ影の中に逃げられる。

そして、無数の土龍や雷獣、風の大鷲、火の鳥、毒蛇が再び喰らわんと迫ってくる。だが、

 

「《双龍八津牙(そうりゅうやつが)》」

 

《蒼月》の刀身が輝き、右剣から青白い燐光を散らしながら蒼の蛟龍《蛟龍牙》が、左剣から紅蓮の火花を散らしながら紅の焔龍《焔龍牙》がそれぞれ8頭ずつ計16頭放たれ、それらを迎え撃つ。

先程のように相打ちで消滅すると思われたが、先程とは込められた魔力量や放たれた数が違うからか、蓮の龍達が削られながらも敵の獣達を次々と蹂躙し始めたのだ。

その間に、蓮は《蒼翼》を大きく広げ宙に飛び上がると《蒼月》を振るい呪いを唱える。

 

「《雪華繚乱(せっかりょうらん)》《焔華万紅(えんかばんこう)》」

 

宙に現れるのは六枚花弁の蒼銀の雪華と五枚花弁の紅蓮の焔華。藍色の月夜に咲く蒼と紅の2色の大小様々な花々。それが蓮の背後に数百輪と咲き乱れる。

そして更に呪いを唱える。

 

「舞い散れー《双輪・乱れ花吹雪(そうりん・みだれはなふぶき)》」

 

放つは二つを融合させた蓮オリジナルの伐刀絶技。炎と氷の花々で敵を蹂躙する技だ。

その言霊に呼応し、2色の花々は解き放たれ、まさしく花吹雪となって襲いかかる。

一見すれば、2色の花々が夜空を彩り舞い散る様は幻想的で美しい。だが、その実それらは凶悪な冷気と熱気を秘めた殺戮の華だ。

それらが無数に宙を舞って襲いかかる。

彼らは各々能力を使いそれらを凌ぎ、相殺していく。しかし、あまりの華の量に防御が破られていき小さな傷を多数に刻んでいく。

それを見下ろし、いざ動こうとした蓮の背後に突如人影が現れた。

 

「…ッ」

 

現れたのは両耳に金色の翼の耳飾りをつけた女ーハオ・メイ。

彼女は黄金色の魔力を右拳に込め蓮へと殴りかかる。

 

(この女が《空間移動》の使い手か)

 

メイの魔力の性質を視た蓮は、彼女が転移使いであることを看破し防御ではなく回避を選択する。

往々にして空間移動系の伐刀絶技を使う者は、触れたり、何かを媒介にマーキングしたりすることでその能力を発動させることが多い。

彼女もそうだろう。これが攻撃と転移両方を兼ね備えた技だとするなら接触を避け回避が得策だ。

 

「ッ?」

 

そして彼女の接触を余裕をもって回避した蓮は、背後から殺気を感じとる。

背中越しに視線を向ければ、いつのまにかリーファがおり、炎槌が迫っていた。

 

「ッッ!」

「《爆槌》ッ!」

 

既に振り下ろしの段階に入っていた動作に、蓮の防御は間に合わず兜に炎槌が叩きつけられる。そして着弾の瞬間、蓮がジーフェンを爆炎で吹き飛ばしたように、兜で巨大な爆炎が巻き起こり、蓮を下へ勢いよく吹き飛ばす。

 

「グッ!」

 

地面へとまっすぐ落ちていく蓮は《蒼翼》で勢いを殺しながら、残っていた焔龍を操作し、自身を受け止めさせることで撃墜を免れる。

だが、今度はレイが真横に突然現れて紫電纏う雷拳を振り抜いていた。

蓮は目を見開きながらも、彼の眼前に《雪華》を移動させて盾とし防ごうとする。だが、レイの拳が橙光を、『透過』の輝きを纏い、《雪華》だけでなく《王牙》の鎧すらすり抜けて肉体の芯に直接雷撃を叩き込む。

 

「ガッ」

 

肉体を直接強烈な雷で焼かれ、蓮は短い苦悶の声をあげる。そして、拳の勢いそのままに蓮は殴り飛ばされる。

殴り飛ばされた蓮を待ち構えるのは、ガオランとシャオメイ。彼等はそれぞれ霊装の刃に萌黄色の輝きを纏っていた。

 

「ッッッ‼︎‼︎」

 

それに蓮は回避行動を取ったが、二人が全身に黄金色の輝きを纏った瞬間、その場から消え、ガオランが正面に、シャオメイが背後に転移していた。

穂先が自身の眼前に迫った時、蓮は咄嗟に体を横に逸らす。そのおかげか、槍は蓮の頭を突き刺すことはなかったが、右肩を《王牙》ごと貫かれた。そして、シャオメイの斬撃は背中に大きな十字傷を刻み、白炎で焼く。

 

「くっ」

 

蒼銀の氷鎧が傷つかれた部分を中心に赤を滲ませていく。

 

(くそ、そういう使い方かッ!)

 

蓮はすぐに体勢を立て直し、ガオランとシャオメイに《蒼月》を振るう。

紺碧の水流がシャオメイを、紅蓮の火炎がガオランを捕らえる。青と赤の刃を奔らせ、閃光の如き速度の斬撃が迫る。

 

「ぐぁっ!」

「ぁっ」

 

蒼紅の閃光が二人を圧して、ガオランは爆ぜる爆焔に吹き飛ばされ、シャオメイは研ぎ澄まされた水流に霊装である風火輪を上に弾かれる。そして、ガラ空きになった胴体に、水纏う右剣が吸い込まれる。

しかし、右剣がシャオメイの胴体を断とうとする直前に、彼女の姿が掻き消えた。

 

「……」

 

霊眼で宙に残る金色の光の残滓の道を辿れば、メイの側に腹を押さえているシャオメイの姿があった。

手の隙間から溢れる血を見るに、どうやら転移には成功したものの完全には躱し切れず、胴薙ぎが彼女の体を掠めたらしい。

 

(……とりあえず、()()()()()()()()()()()()()。しかし、転移がここまで面倒に成るか)

 

蓮は襲いかかる他の攻撃を凌ぎながら距離を取ると、傷を治癒しながらそんな事を思い、《空間移動》の厄介さに改めて感心する。

彼らは転移を利用することで、攻撃の予備動作を終えた段階で蓮の近くへと転移させることでほぼタイムラグなしの連撃を繰り出しているのだ。

それに加えて『透過』や『貫通』を利用することで防御を無視して攻撃を直接届かせ、危険な場合は転移で逃すと言う厄介な戦法を取っていたのだ。

距離を取った蓮に追撃をかけようと彼らが迫ってくる。

 

「《螺旋焔槍(らせんえんそう)》《渦巻き貫く海流槍(アクア・ウェルテ・スピア)

 

蓮は炎の槍と水氷の槍を以て迎え撃つ。

二色の槍衾が彼等を刺し貫かんと迫る。

 

「《反鏡》」

 

しかし、それらはミンファンが自分達の眼前に展開した鏡の形にも似た山吹色の『反射』の壁で全て反射された。

まだ距離がある蓮は上に飛んで回避しようとするが、既に蓮の左右、上、背後は三メートルの障壁に囲まれてしまっていた。

斬り裂こうにも、それよりも槍衾の方が早く届いてしまう。そして、逃走経路を失った蓮に自身の致死の槍衾が迫る。

 

「ッッ《氷華の城壁(クリスタル・ランパード)》‼︎‼︎」

 

蓮は両足に魔力を込め、自身の眼前に《雪華繚乱》の防壁をも上回る厚さ4m横幅60m高さ30mにも及ぶ巨大な華の装飾が施された堅牢な城壁を生み出す。

城壁ができた瞬間、槍衾が激突するも蓮の持つ防御系伐刀絶技の中では最硬度の盾だ。破られずに槍衾は霧散する。

 

「《叢雨》」

 

その間に、蓮は障壁を《叢雨》で斬り裂いていく。

 

「っ⁉︎」

 

そして上空に飛びあがろうとした蓮は突如ガクンっと体勢を崩し、片膝を突く。

 

「なに…?」

 

蓮は突然のことに困惑する。

急に四肢から力が抜けた。いや、急にというよりは無視できないほどに力が落ちたというべきだろう。

それに魔力も、明らかに今まで消費した量よりも多い量の魔力が抜けている。今でこそ回復が追いついているおかげで大事には至ってはいないが、看過することはできない。

霊眼で自身の肉体を視れば、《蒼月》に浮かんでいたはずの勾玉の紋様が自身の両腕にも浮かんでおり、そこから青い光がゆらゆらと漏れ出ているのがわかる。

 

(…そういうことか…)

 

それで蓮はついに不明な異能の一つの正体を看破した。

短刀の男、ウゥリィ。彼の能力は概念干渉系《減少》。ありとあらゆるものを減少させる能力だ。体力や魔力などの何らかのエネルギーを減少させることができる。速度や温度、質量などあらゆる物だ。

おそらくは、先ほどの銀勾玉の紋様が魔術発動のための刻印であり、刻印が刻まれている者の力を減少させているのだろう。

 

それは正しい。

ウゥリィの伐刀絶技《堕落の呪印》。呪印を刻まれた者の魔力や体力、筋力などを、術者が解かない限り、また術者の魔力が許す限り、減少させ続けるという代物だ。

 

(……これは、無視はできないな)

 

もともと莫大な魔力を持ち、魔人になったことで魔力上限が大幅に上昇したため、今でこそ大した量は減ってはいないが体力は看過できない。放置してはならない物だ。

なによりも先にあの減少使いの男を殺すべきだと蓮は判断する。

 

「厄介なっ」

 

蓮は眼前の城壁の一部が萌黄色に輝いたのを見て、毒づきながら咄嗟にそこから飛び退く。直後、巨大な萌黄色の魔力の閃光が壁を貫き、巨大な穴が空く。

並外れた硬度を持っているのは確かなのだが、《貫通》の能力である以上、意味をなさない。

大穴からは黒狗達が姿を現す。多少の消耗があり、全員が火傷や凍傷、裂傷などで血を流しているが、未だ余力は十分に見える。

 

そして蓮が彼らへと駆け出そうとした瞬間、蓮の真横の氷壁に黒い影が滲み、そこだけでなく、足元、背後、正面の影からも無数の水氷、炎の槍が飛び出す。

 

「ッッ⁉︎」

 

足を止め飛翔しようとしたものの、それは間に合わず、自身が出した槍衾が影を伝って襲いかかった。

ガガガと氷を削る異音が響き、蓮はそこで動けなくなる。削られてはいるものの《王牙》自体は破られてはいない。だが、それでも槍衾の威力は強く蓮をその場に抑えつけたのだ。

どうやら先ほどの槍衾の一部を影の中に取り込んで放出したようだ。

 

「ハァッ!!」

 

蓮はその槍衾を《蒼月》で全て斬り裂く。

だが、その直後突如蓮の真後ろ。転移してきた淡藤色の錫杖を構えた女ールー・ランが現れ、錫杖から白菫色の鎖が4本放たれる。

 

(これはっ、まずいっ!!!)

 

その魔力の性質を視た蓮は目を見開き、明らかな動揺を見せる。

しかし、蓮の反応は間に合わずに、鎖が右腕に巻きつく。そして、鎖が輝いた瞬間、蓮が身に纏う《王牙》が消失し、《蒼月》に宿っていた水流と火炎も消える。

 

「ッッ‼︎‼︎」

 

予想通りの事象に蓮は苦い表情を浮かべながら、鎖を斬ろうと剣を振り下ろす。だが、それは薄緑の障壁に阻まれる。

()()()()()()()()()()()では、この障壁を短時間で斬り裂くのは難しい。だからこそ、蓮はこの事象の元凶を、ランを殺さんと彼女に接近するがこれもまた障壁に阻まれて行けなくなった。

そして、蓮にタイランが迫る。障壁を斬るのをやめ、迎え撃とうとするが今度は左腕が足元の影から伸びた影の腕に絡め取られる。

 

(しまったっ)

 

液体化で逃れられない蓮は、魔力強化した腕力で影を千切ろうとするも、千切るたびに新しい影が絡み付いて抜け出せない。

それだけでなく、下半身を縫い付けるように影の刃が両脚に突き刺さっているせいで動けない。

そうして抜け出そうともがく蓮に迫るタイランは激しく輝く薄紅色の輝きを全身に纏い、左拳を構えていた。

 

(っ、情報不足が仇になったかっ!)

 

不明だった二つの能力のうち、一つは『減少』だということがわかった。

だが、タイランの能力だけはまだ分析不足が故に不明。そしてその不明がいま大きく響いてしまった。

それでも、彼の左拳に宿る輝きが、自分にとって危険なものであることはわかった。

 

「オオオオォッ‼︎」

 

魔術も発動できず、両手が縛られている無防備な胴体に、タイランの拳が吸い込まれるように叩き込まれる。

拳が胸部に深々と突き刺さった瞬間、未曾有の衝撃が全身を駆け巡り、蓮を容易く殴り飛ばす。

 

「ガッ、ハァッ…!」

 

その威力は凄まじく、蓮の足を地面から引き抜き、宙を舞う。

背後の分厚い氷壁を障子を破るかのように容易く突き破り、地面に突き刺さるがそれでも止まらず地面を抉り、道を作りながら250mも吹っ飛ばされた。

 

「ガハッ、ハァー、ハァッ、ゴフッ」

 

やっと止まった蓮は口から何度も大量の血を吐く。胸部は大きく凹み、肋骨だけでなく背骨も砕け、内臓もいくつか傷ついているのが分かる。

蓮にしては珍しく重傷とも言える傷を負ったが、まず今のを受けて重傷でいられること自体が可笑しいのだ。

並の者ならば今ので確実に死んでいた。

蓮は《青華輪廻》で肉体を再構成し治癒しながら、ランの能力を思案する。

 

(今ので16人。魔力無効までいるな)

 

そう。ランの能力は魔力を無効化するという能力だ。そして、この能力は蓮でさえも天敵になりうる。

なぜなら、伐刀者が超人たり得るのは魔術を扱えるから。その魔術を無効化されるということは、魔術での攻撃手段がなくなるということだ。

そしてこれは《魔人》も例外ではない。

《魔人》といえどその力の源は魔力だ。限界を超えたが故に絶大な魔力を有してはいるが、無効化の能力の前では無意味。

どんな強力無比な魔術であっても、それの源が魔力である限り全ての魔術を無効化できるのだ。

 

伐刀絶技《虚縛り》。無効化の能力を宿した魔力の鎖を相手に巻きつけることで、巻きつけている間のみ、あらゆる魔術の発動を打ち消すという凶悪な技だ。

今は鎖がないので蓮は治癒に専念できる。

 

蓮の多彩な伐刀絶技は、物理攻撃無効化や超広域殲滅魔術など、確かに強力無比ではあるが、魔力が無効化されて仕舞えば発動できない。攻撃力こそないが、対蓮の能力としてはまず間違いなく最悪の能力の一つ。

 

(無効化がいるならば、確かに俺を殺せるな)

 

しかも、タチの悪いことに敵は無効化だけではない。先ほどの連携から考えるに、無効化された場合蓮は無防備になる。魔力自体は扱えるため、魔力制御で防御や強化はできる。だが、それでも万全とはいえない。

魔力無効化の能力があれば、手練れであるならば蓮を殺せる可能性は十二分にあるのだ。

 

「………」

 

3秒もたたずに治癒を終わらせた蓮は静かに立ち上がる。同時に、黒狗達が蓮の前に降り立つ。

 

「先程のでも殺しきれないか。しかも、すでに治癒も終わっている。末恐ろしい男だ。致命傷が致命傷ではないと言うことか。やはり貴様は一撃で殺さなければいけないようだな」

「……ああ、そうだな」

 

ジーフェンの言葉に蓮は笑みを浮かべると再び《王牙》を纏い《蒼月》を構える。

その様子にジーフェンは感心する。

 

「鎧が消されたことに対する動揺も既にないか」

「いや、あるさ。無効化の能力が貴様達の連携でこうも活きるとは思わなかっただけだ。見事な連携だよ。《黒狗》」

「だが、それでも我々は貴様を殺せていない。ならば、貴様を殺せるまで繰り返すのみだ」

「やってみろ」

 

そう言うや否や、蓮は飛び出す。魔力放出で強化された脚力での大気を突き破るような速度に、ジーフェンは影の刃で迎え撃とうとする。だが、

 

「《鬼神纏鎧・焔魔(きしんてんがい・えんま)》」

「ッッ!」

 

蓮は鎧を切り替える。

凍てつく氷と荒れ狂う激流を纏う頑強たる大海の龍王の鎧から、全てを焼き払う獄炎纏う煉獄の鬼神の鎧へと。

《王牙》同様身体能力超強化の焔鎧だ。

蒼銀の水氷が消え、代わりに紅蓮の火炎が彼の全身を包み、一回り太い四肢や額から生える2本の角、象られた甲冑が鬼を想起させる。

 

「燃え尽きろ」

 

蓮は鎧から灼熱の炎を解き放ち影の刃を悉く焼き払う。

 

「ッッ‼︎」

 

蓮は焼き崩れる影の刃群を突き抜ける。ジーフェン達の前にジンが躍り出て、自分達と蓮の間に障壁を展開した。

しかし、蓮は障壁を前に止まることはせず、《蒼月》を共に鞘に納め左剣を手に、居合の構えを取り駆ける。

鞘からは紅蓮の炎が迸り、焼き尽くす熱気が溢れる。茎から炎を噴射させて刀身の射出速度をあげる。

放たれるのは父より受け継いだもう一振りの伝家の宝刀。

 

 

 

「———《鬼切(おにきり)》」

 

 

 

紅蓮一閃。

赫焔が爆ぜ、ゴォと轟音が鳴り響く。

紅蓮の火炎纏う一閃は障壁を容易く斬り裂いた。そして、《叢雨》と同様飛ぶ斬撃となり、眼前にいたジンの右腕を肩から斬り飛ばした。

 

「っぐ、ぁっ!」

 

右腕が宙を舞い、激痛に呻き声を上げるジン。傷口からは血は溢れていない。斬られたと同時に超高熱の火炎が傷口を焼いたのだ。

右肩を抑え悶えるジンに追撃をかけんと蓮は迫るが、そうはさせまいと他の者達がカバーに回る。

しかし、それは織り込み済みだったのか、あっさりとバックステップで距離を取る。

そして、無数の《雪華》と《焔華》の二色の花々を空中に展開すると、軽い足取りで《焔華》の一つに乗り、足場として駆け回る。

それはかつてレオを蹂躙した《雪華》の足場を使った三次元立体機動だ。

蓮は紅蓮の閃光となって、炎の尾を引きながら宙を駆け回り、襲いかかる。

 

(……流石だな。これも凌ぐか)

 

しかし、流石は《黒狗》。レオの時とは違い、人数がいるからこそ、その分一人にかかる防御の負担が減っていると言うのもあるが、彼ら自身の技量の高さもあって、蓮の猛攻を凌いでいたのだ。

やがて、目が慣れたのだろう。

彼らは防御をしながらも、次々と反撃し始めてきた。蓮はその攻撃を掻い潜り、防ぎながら、駆け抜けていく。

花々を飛び回りながら、蓮は上空に無数の火焔の球体を一瞬で生み出す。

藍色の夜空に浮かぶ無数の赤い焔球は、さながら太陽が分裂したかのような赤き流星群。

 

「《爆焔紅玉(ばくえんこうぎょく)》」

 

それが降り注ぐ。

《蒼爆水雷》に匹敵する火力を持つこの赤き星々は純粋な爆弾となり、空爆そのものとなって襲いかかる。

さしもの彼らもそれには目を見開き、各々が防御体勢を取り、能力だけでなく魔力障壁をも展開する。

ジンが全員を覆える障壁を展開し、それにリーユエが『反射』を付加して、爆撃を跳ね返していく。

だが、蓮は動じない。

 

「《爆焔紅玉》」

 

更に赤の焔球を生成し、反射された自身の焔球にぶつけて相殺していく。

赤の爆炎が彼らの間に広がり、一時的にお互いの視界を塞ぐ。

しかし、その爆轟を突き破り更なる焔球が襲いかかる。

 

『っっ‼︎‼︎』

 

ジンとリーユエは反射障壁を維持し続ける。

その後も爆撃は続き反射障壁に凄まじい衝撃が響き続ける。更なる爆炎により一向にお互いの姿は見えない。

それでも黒狗達は動いた。

メイの転移によりリー、リーファ、ラオが上空へ現れる。場所は蓮の頭上2m。

そこへ転移した彼らは眼下の蓮へと攻撃を仕掛けるべく視線を向ける。

 

しかし、そこに蓮の姿はなかった。

 

『『『ッッ⁉︎⁉︎』』』

 

そこにいるはずの男がいないことに驚いたが、彼らも歴戦の猛者だ。すぐに蓮の目的に気づき、未だ障壁の下にいる仲間に警告を飛ばす。

 

「気をつけろっ!!これは罠だっ!!!」

 

警告が飛ぶも、もう手遅れだった。

 

 

「まずは貴様からだ」

 

 

その声は障壁の下にいたウゥリィの真後ろから聞こえた。

声が聞こえた直後、ウゥリィの首が宙を舞う。

ぐるりと逆さになった視界に、首がない自分の体が見え、その背後に獄焔を纏い剣を振り抜いている、赫焔の鬼の姿を見た。

 

 

「…は…?」

 

 

それがウゥリィの最期の言葉だった。

 

 

「まず一人」

 

 

静かに、鬼の声が響いた。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

自分が異能に目覚めたのは生後まもなくらしい。

 

 

父曰く、自分は生まれた直後、母の腕の中で産声を上げながら水と炎を解き放ったらしい。

 

咄嗟に両親が己の異能で自分の暴発を抑えたくれたことで、分娩室どころか病院を破壊しなくてすんだ。

 

だが、あの時はさぞ度肝を抜いたことだろう。

 

なぜなら、通常伐刀者の能力発現は自我が芽生えてからと言われているからだ。

まだ自我すら朧げな乳幼児の時点で能力が発現する例は確かにある。そういった子供は、大体が強い能力を持っている。

だが、それがまさか乳幼児どころか出産直後の新生児の時点で能力を発現し、あまつさえ母と父が持つ二つの能力を受け継いでいたとは誰も思わなかったはずだ。

 

《魔人》であり、ともに10年に1人の天才と称される二人だからだろうか、星の因果から外れた者達の子供だからこそ、常識では当てはまらないことが起きたのだろうか。

 

詳しい理由はわからない。

だが、自分が二つの異能を持って生まれたことは確かだった。

しかし、生まれてはや一年半が立ち自我を獲得した頃、自分は二人に片方は使わないように言われた。

 

それは自分への危険を減らすため。

今はまだ公表してはいないが、いつか二人の息子だと世間に公表した時、二人の能力を持っていることを知られては危険だと言っていたからだ。

 

それは息子を想う愛が故の決断。

 

昔は意味がわからなかったが、二人の言いつけ通り自分は片方を、炎を封じた。

だが、封じたとはいえど裏で研鑽することは欠かさなかった。

二人の指導のもと、自分は着実に異能の扱いを覚えていった。

 

やがて、霊装が発現し自分の手にはまだ余る藍色の双刀を手にした時、自分は初めて恐怖した。

自身の中に得体の知れない何かがあることを感じ取ったからだ。

内側から自分を喰らい尽くすような、そんな恐ろしい怪物が自分の中に宿っていることを本能的に理解したのだ。

そして己の内側にいる何かに恐怖し、泣きじゃくる自分に両親は優しく言った。

 

『その力が危険であっても、それはお前の敵じゃない。いつか必ずお前の味方になってくれる。だから、怖がる必要も、泣く必要もないんだ。大丈夫。心配しなくてもできるさ。

何せ、お前は俺とサフィアの息子なんだからな』

 

『いつか必ず使うべき時が来るわ。だから、その時が来たら考え、受け入れなさい。そうしたら、必ずその力は応えてくれるわ。

だって、私達の息子だもの。貴方なら、ヤマトと同じようにその力も使いこなせるわ』

 

そう、自分は両親に言われた。

 

 

だから自分は決めた。

 

その時が来たら躊躇なくこの力を使おう。

 

母の水と父の炎……そして、この『獣』の力を。

 

 

今度こそ誰かを守れるように。

二度と繰り返さないために。

 

 

だって俺は、《紅蓮の炎神(お父さん)》と《紺碧の戦乙女(お母さん)》の唯一の後継者(息子)なのだから。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「一人」

 

 

淡々と蓮の声が響く。

ウゥリィの首が宙を舞ってゴトッと地面に落ちた後、体が血飛沫を上げながら崩れ落ちる。

蓮は《爆焔紅玉》を囮にし、その爆焔で焔幕を作り上げて、背に生やした《水進機構》で背後に上空から回り込んだのだ。

そして厄介な能力を持っているウゥリィの背後に移動し、首を切り落とした。幸い、ウゥリィは一番外側にいたから容易く接近できた。

 

他の者達が驚く中、蓮は手を開いたり閉じたりして自身の状態を見て、腕と《蒼月》から銀勾玉の呪印が消え、力の漏出が止まったことを確認する。

 

(減少が止まったな。これである程度戦いやすくなった)

 

そして、早速漏出していた魔力や体力が回復し始めているのを把握する。

自身の状態を再認識し、動こうとした時、既に黒狗達は動いていた。

瞬く間に蓮を取り囲む。

 

「仲間を殺された動揺はなしか。よく訓練されている」

「当然だ。我らは中華連邦が暗部《黒狗》。最後の1人になろうとも必ず獲物の心臓に牙を立てる。それこそが我らの使命だ。

そのためなら、この命喜んで国家に捧げよう」

「暗殺者の矜持か。そう言うのは嫌いじゃない。ただ、俺に牙を立てることは果たしてできるか?」

「ほざけ」

 

そう言って、ジーフェンは影の刃を操作する。しかも、今度は四方だけでなく、巨大な刃を伸ばした上からの攻撃も加えている。

更には影の黒狗が群れを成して、刃を口に咥えて襲いかかってきた。

それを見て、蓮はさらに鎧を切り替える。

 

 

「《鬼龍纏鎧・陰陽(きりゅうてんがい・おんみょう)》」

 

 

顕現するは水氷と火炎が合わさった鎧。

氷の鎧の上に、焔の鎧が加わり羽衣と化す。

《王牙》と《焔魔》。二つの鎧を融合させた鬼龍の鎧。角は4本へとなり、尾も生えた。背には再び《蒼翼》が創り出される。

姿形は《王牙》をベースにし、その上に炎の羽衣とかした《焔魔》が加わった。

蒼紅の鎧を身に纏った蓮は更に発動する。

 

「《海鮫血牙(かいこうけつが)》」

 

蓮の背後に浮かんだ青の魔法陣。そこから大量の水鮫の群れが現れる。

牙や鰭が鋭い水流の刃となっており、敵を喰い散らかす、血に飢えた青鮫の群れだ。

それらが主人の命に応えて、黒狗達を迎え撃つ。

黒狗と青鮫が刃をぶつけ合い、喰らい合いをしている中、刃は襲いかかるが、それを再び焔で焼き尽くしていく。

そんな中、蓮は1人へと視線を向けながら呟く。

 

「意気込んでいるところ悪いが、早速もう一人追加だ」

 

そして蓮は1人に照準を定めると、青き眼光を対象へ向けながら静かにその技の名を唱えた。

 

 

「——《紅の血華(クリムゾン・リリィ)》」

 

 

その直後、シャオメイに異変が起きた。

 

「ぁ、ぐっ…ぁぁ、あ゛っ」

『ッッ‼︎‼︎』

 

シャオメイは手に持っていた霊装を落とし、震える両腕で自身の体を抱きながら何か苦しんでおり、悲鳴ともうめき声とも取れる声をあげている。

見れば、彼女の腹には花を象った青い魔法陣が浮かんでいる。

 

「ぃ、やっぁ…、たす、けっ……」

 

そうして彼女は涙を流し仲間達へ助けを求めながら、その体を一気に破裂させた。

肉が弾ける音が響き、紅い華を咲かせてあたりに鮮血を撒き散らしながら、一瞬で散らした。

 

『………』

「二人」

 

仲間の一人が破裂した光景にジーフェン達は今度こそ思わず目を見開き絶句し、攻撃が止まった。

 

「貴様…いま、何をした……?」

「見ての通り肉体を破裂させた。

《紅の血華》。対象の血液を気化させて、体内から破裂させる殺すための魔術だ」

 

伐刀絶技《紅の血華》。

原理は《蒼爆水雷》と同じ、液体を気化する魔術だ。しかし、この場合用いる液体は対象の血。蓮は対象の肉体に干渉し血液に己の魔力粒子を混ぜることで、血液を支配しそれらを気化させ、その圧力で皮膚と筋肉が弾け飛び、弾け飛んだ赤血球が真紅の華を咲かせるのだ。

これは倒すためでも勝つためでもなく、確実に敵を屠るための殺人用の即死魔術だ。

蓮は先ほどシャオメイの腹を斬った際に、魔術発動の為の魔力を流し込んでいたのだ。

 

「これで十四人だ。増援がいるなら早く呼べ。いないなら命をかけて俺を殺す方法を模索しろ」

 

そう言って蓮は《蒼翼》で飛翔し未だ硬直している黒狗達の中で、近くにいたリーファとの距離を一息で詰める。

リーファは先程の光景に動揺していたのか、蓮の急襲に反応が遅れた。

 

「くっ!」

「遅い」

 

蓮は振るわれる炎槌を容易く避けると、左脚で上から踏みつけ、勢いよく身体を回転させて氷の尻尾での鞭打で右肩を狙って薙ぎ払う。

 

「ぐっ!」

 

回避する間も無く打ち据えられた、リーファの右肩はバキと嫌な音を響かせる。

今の音なら、間違いなく砕けただろう。

苦悶に顔を歪ませ、一瞬動きを鈍らせたリーファに蓮は今度は《蒼月》を納めた右拳で、頭蓋を砕かんと振り下ろす。

しかし、それが当たる前にリーファが消えて、入れ替わるようにタイランが目の前に現れ、交差させた両腕のガードで受け止めた。

 

「「………」」

 

無言で睨み合う2人。

加減なしの蓮の拳を受け止めたタイランは、激痛に身を歪めるどころか、微塵も動かない。

おそらくはこれも彼の異能が働いているのだろう。現に、彼の全身を薄紅色の魔力光が鎧のように覆っていて、何らかの伐刀絶技を使っているのはわかる。

 

「フッ!」

 

だから蓮はそれを確かめるために一度拳を引いた後、左剣も納めて炎纏う双拳でのラッシュを放つ。

音もなく、視認できないほどの速度で振るわれた拳は、ガードに触れた瞬間に爆ぜる。

強力な拳撃と、ゼロ距離での爆破がタイランを呑み込む。

そして、連続に響くはずの打撃音と爆音は、あまりのラッシュに一つの音として成立させた。

普通ならこれで全身の骨を砕けるはず。

だが、どいうわけか、タイランは全く動じていない。蓮よりも大柄な体格と相待って、まるで巌のようだ。

 

(これでも効いていないだと?)

 

防御型の伐刀絶技か、それともただ単純に体の頑丈さで耐えているのか。果たして、このカラクリが一体どんな物なのか思考を巡らせる蓮だったが、

 

「ハァッ!」

 

今度はタイランが動く。

薄紅色を宿す剛拳を蓮に振り抜かんと迫った。

今までの二度の強力な攻撃から、受けてはまずいと判断した蓮は飛翔し回避する。

そして、確かに拳は避けることができた。

 

「ッなっ‼︎」

 

だが、拳は余波で蓮を吹っ飛ばし、振り抜かれた拳が大地を撃った瞬間、大地が割れた。

轟音と土煙をあげて、彼の拳は地面を放射状に砕いたのだ。

空中で体勢を立て直した蓮は、その破壊力に思わず目を見開く。

 

(なんだ、この威力はっ)

 

地面をたやすく砕くほどの威力。

先ほどの《王牙》を砕いたと言い、並の伐刀者なら一撃で殺せてしまうような馬鹿げた威力。

やはり、パワーに特化した異能なのか。

しかし、それでは先ほどの蓮のラッシュを耐えた防御力はどう説明する?

攻撃力と防御力は違う。

攻撃は最大の防御ともいうが、タイランは先ほどの一撃のみを除いて、防御しか行ってなかったはず。

だとしたら、カウンター系か?

『反射』のように、力を跳ね返す異能だろうか。だが、霊眼で見た限り、『反射』の異能とは波長が完全に異なっているので『反射』ではないということになる。

 

そこまで考えた時、蓮の背後にリーとレイが迫る。リーは偃月刀を振るい巨大な暴風の塊を、レイは拳を振るい雷撃を放つ。

蓮はそれを巨大な《流水刃》と炎の刃《烈火刃》で相殺する。しかし、その直後予想外のことが起きた。

 

(仲間を狙っただと⁉︎)

 

間髪入れずに放たれた暴風と雷撃が、蓮ではなくタイランを狙ったのだ。

一瞬、仲間割れかと思ったが視線で追った先にいるタイランが全く動じていないことから、それも作戦のうちだと気づく。

そして、暴風と雷撃がタイランを呑み込んだ。

舞った土煙が消え、その中にいたタイランは鎧が少し汚れている程度で傷らしい傷がなかったのだ。

 

(…まさか……)

 

その様子に蓮は一つの可能性を思い浮かべる。

タイランの能力が蓮の予想通りならば、面倒だ。

それを確かめるために、蓮は背後の2人を無視して、タイランへと向かう。

《蒼翼》で噴射加速し、身体能力超強化の拳に炎を爆発させる《爆蓮華》を込めた爆拳を防御体勢を取ったタイランへと振り下ろす。

蒼紅の閃光がタイランに触れた瞬間、大爆発を起こし轟音を生む。爆破の衝撃波が周囲へ解き放たれ、木々を揺らす。周囲のもの達が思わず身構えるほどの衝撃波だった。

爆焔の中から蓮が飛び出してホバリングし、眼下をジッと見据える。

やがて爆炎が晴れ、中から姿を現したタイランは相変わらずの無傷だった。

 

(……やはりそうか…)

 

蓮はそれで彼の能力をいよいよ確信する。

次の瞬間、こちらを見上げていたタイランが姿を消し、蓮の背後へと転移する。

そして振りかぶった右拳にとてつもない魔力光を纏わせて、蓮の顔面に振り下ろす。

 

「………」

 

蓮はそれを危なげない動作で見切ると、()()()両腕をクロスさせて防御体勢を取った。

直後、拳が蓮のガードを打ち、()()()()()()()籠手の氷を砕き、炎を掻き消して、両腕を容易くへし折り、拳が胸に突き刺さる。

 

「ぐっ」

 

胸部へと再び突き刺さった拳の衝撃に、蓮は苦悶の声をあげ血を吐きながらも身を任せ、下方へ勢いよく落ちる。

落ちながら《蒼翼》を噴射させて緩やかに曲がることで地面スレスレを飛翔し、再び高く飛び上がる。

飛び上がった時にはすでに両腕は治癒され、籠手も修復されていた。

蓮は彼の能力を確信し、彼を見下ろしながら、タイランに問う。

 

「貴様……俺の力を『蓄積』しているな?」

「………」

 

タイランは蓮の問いには答えず、再び拳を構える。しかし、膨れ上がった殺気が蓮の問いを正しいと認めているようなものだった。

 

蓮のいう通り、タイランは概念干渉系《蓄積》の異能の持ち主だ。

自身が受けたあらゆる衝撃。打撃、銃撃、斬撃、霊装が全身鎧であることからそれらを全て受け止め、体内に蓄積させることができる。し自身に蓄積し、必要に応じて放出することができるカウンター系の能力。

彼は今までの蓮の攻撃の衝撃をことあるたびに吸収し、蓮へと放ったのだ。

だからこそ、《王牙》が砕けたり、常人なら一撃で殺せる一撃を放つことができたのだ。

これはジーフェン同様《反射使い》よりも厄介だ。なぜなら、反射使いは相手の攻撃が強ければ強いほど、技の威力が勝るが、所詮は一発ずつ。『蓄積』のように衝撃を溜めて、まとめて放出することはできないのだ。その点で言えば、『蓄積』の方が『反射』よりも優れている。こと蓮との戦いにおいては尚更。

 

「それなら俺の鎧を砕けるのも道理だ。俺の力をまとめて返したんだ。先の影使い同様俺自身の力を利用すれば傷つけることができるわけだ」

 

『透過』『貫通』『魔力無効化』

この三つの能力がなければ、ジーフェンを除いた彼らが蓮の鎧に傷をつけることはできない。

だが、出来ないなら、敵の力を利用して壊せばいい。

それだけの話だったのだ。

 

「ッッ!」

 

そして、足元からジーフェンが影の刃を、ガオランが無数の土龍を伸ばして襲いかかる。既に青鮫と黒狗の戦いは終わっており、どちらも消滅している。

蓮はそれらを《蒼月》で斬り裂きながら、掻い潜るとランへと迫る。

ウゥリィとシャオメイは殺した。ならば、次狙うのは無効化を持つラン。彼女の能力がこの中で一番厄介で危険だからだ。

それは彼らも分かっているのだろう。ランを守るように動く。

 

ガオランが地面に槍を突き刺し、無数の瑠璃色の魔法陣から土塊のゴーレムを生み出し迎え撃つ。蓮の眼前に現れた身長7mはあろうゴーレムが数にして約50、地中の鉄分を固めて作った大剣や棍棒などの武器を構えて、足音を鳴らしながら迫る。

ランまでの道が閉ざされ、視界がゴーレム達に遮られる。

蓮はそれに対して手法を変えて対抗する。

 

「《蒼月》」

 

蓮は両手の《蒼月》を一度魔力の粒子へと戻し、次の瞬間には白銀の刃を持つ藍色の槍へと姿を変えた。

霊装の形態変化だ。

それを手に、蓮は穂先に紺碧の輝きを灯し水を纏わせると、

 

「ハァッッ!!」

 

流水を思わせる澱みない動作で槍を振るい、瞬く間にゴーレムの群れを青い月光が斬り払っていく。

その槍技は《騎士槍技》。

母より受け継いだ水使い専用の槍技だ。

突きと払いの槍の攻撃手段である二つを織り交ぜ、そこに水の異能を加えた流麗の極み。

そうして振るわれる槍技はまさしく流麗なる舞踏そのもの。

ゴーレム達の攻撃を掠ることもなく、交錯すればゴーレムが、水が流れるが如く宙を滑る青の軌跡にたちまちに斬り裂かれ、穿たれて土塊へと戻っていく。

 

「槍だとっ⁉︎貴様の霊装は双剣のはずだ!」

「俺の霊装は特殊なんでな!」

 

目をむいて驚愕するガオランに蓮はそう言い放つと、槍を片手で持つと地面を砕くほど強い踏み込みをし、槍を投擲した。

 

「穿てっ!!!」

 

主人の言葉に応え、小さな水の竜巻を纏う《蒼月》はまさしく一条の閃光となって、射線上のゴーレム達を瞬く間に砕き、ガオランへと迫る。

 

「ッッッッ!!!」

 

ガオランは地中の鉄分を操作して、鉄の壁を生成。それを何層も作り出し投擲を受け止めようとする。だが、槍はそれらを紙を貫くように容易く砕いていった。

やがて、最後の一枚を穿ち、更にガオランを穿たんと迫った瞬間、ガオランは下の影から出てきたジーフェンによって影の中へと引き摺り下ろされ、間一髪のところで回避。

槍はそのまま飛翔し、途中で虚空に消えた。

そうして武器を自ら手放した蓮に、さらなる攻撃が迫る。

 

「ッ!」

 

蓮が真横へ視線を向けた瞬間、視界を埋め尽くすほどの距離まで迫った紫色の大蛇が口を開けて襲いかかってきていた。

回避する間も無く蓮は大蛇に丸呑みにされる。

 

「そのまま骨まで溶けろっ!」

 

ラオは蓮を飲み込んだ毒大蛇に魔力をさらに送り込み、《毒蛇の呪血》よりも強力な、瞬く間に細胞を溶かし殺す毒塊の蛇、《妖呪の蛇神》で蓮を呑み込み鎧ごと骨まで溶かそうとする。

だが———

 

 

「———《炎陽(えんよう)》」

 

 

瞬間、太陽が生まれる。

毒の大蛇の喉元から視認できるほどの太陽が如し眩い紅蓮の光が生まれ、大蛇の内側から煌々と燃え盛る紅蓮の焔が噴き出した。

燃え尽きつつある毒蛇の体内からは無傷の蓮が現れる。

夜空に燦然と輝く紅蓮の日輪となりて、焔灯る藍槍を構えて蓮はラオを見下ろし告げる。

 

「無駄だ。貴様の毒はもう俺には通用しない」

「くっ、化け物がっ」

「ああ、自覚しているさ。そんなこと……だが、貴様達はそんな化け物を殺しにきたのだろう」

 

歯噛みするラオに蓮は自嘲じみた笑みを浮かべて肩を竦めると、双剣形態へと戻した《蒼月》を構えてラオへと襲いかかるが、今度はジン、レイ、グーウェイがラオの左右を駆け抜けて襲いかかる。

彼らは大剣の形状をした薄緑の障壁と雷の巨拳、巨大な氷の大斧を以って蓮に襲いかかった。

 

「灰塵となれー《焔獄焼嵐(えんごくしょうらん)》」

 

それらを蓮は素早く呪いを唱えて発動した紅蓮の炎の竜巻で自身を包むように展開し、攻撃の全てを飲み込む。

超高熱の紅蓮の火炎の竜巻が彼らの攻撃を焼き消していく。障壁の大剣だけは竜巻を抜けたが、それは《蒼月》で外へと弾き出す。

そして、弾いてから5秒後に蓮は竜巻の中から飛び出す。

 

「ッッ‼︎」

 

焔竜巻のあまりの熱量に距離を取っていた彼らは飛び出してきた蓮に、各々攻撃を仕掛ける。水と炎の刃で迎撃している蓮だったが、足元から伸びた影の刃に呆気なく貫かれた。

やったか、と思った彼らだったがジーフェンだけが気付き叫ぶ。

 

「っ違うっ!これは人形だっ‼︎」

『ッッ⁉︎』

 

ジーフェンの警告が飛んだ直後、蓮の体が青く輝き次の瞬間大爆発を起こす。

《陰陽》を纏っていたからこそわかりづらかったが、この蓮は彼が作り出した彼そっくりな精巧な氷人形であり、人型の《蒼爆水雷》を《陰陽》の形状で氷炎で包んで擬似的な人間爆弾に仕立て上げたものだったのだ。

それにまんまと騙された彼らは爆発に防御体勢を取る。

 

青い爆発は轟音を生み、地面を大きく抉る。

ジンが張った障壁も容易く砕かれる。

リーユエとタイランは己の能力で凌いだものの、他の者達はジーフェンが自分ごと影の中に引き摺り込んでなければ間違いなく負傷は確実だった。

そして爆煙が晴れ、影の中から出た時、蓮の姿はどこにも無かった。

見失った蓮の居場所を特定すべく、彼らは魔力や気配を探る。

そして、この中で最も気配感知に優れているジーフェンが蓮を捉える。

場所は———ラオの背後。

 

「ラオ後ろだ!!」

「三人」

 

ジーフェンが叫ぶと同時にラオの背後から声が聞こえる。

見ればラオの背後の空間が揺らめいており、そこにはいつのまにか蓮がいた。

伐刀絶技《陽炎幻夢(かげろうげんむ)》。

鏡花水月(ミラージュ・ムーン)》と同じ隠蔽魔術であり、く熱を用いて自身の姿を見えなくする絶技。蓮はそれを用いて、ラオの背後に回り込んだのだ。

 

「ッ⁉︎⁉︎」

 

ラオは目を見開き、咄嗟に迎撃しようと振り向こうとする。だが、それよりも蓮の行動の方が早かった。

 

「《黄泉陰火(よみいんか)》」

「ガッ⁉︎」

 

瞬間、紅蓮の炎を灯す蓮の左剣がラオの左胸を、心臓を貫いた。

直後、剣から炎が広がりラオの体が紅蓮の炎に包まれると一瞬で焼失する。後には何もなく、わずかに残った灰だけがラオがその場にいたことを証明していた。

 

「……まさか、《悪魔の焔(デーモン・フレア)》?」

 

リーファがそう呟く。

その言葉を他の者達も知っていたのか、困惑と驚愕の視線を向ける。

だが、そうなるのも当然だ。

悪魔の焔(デーモン・フレア)》ともう一つの技名、そしてある二つ名は裏社会に今もなお轟く正体不明の存在であるが、特に中国においては、それらは不倶戴天の敵と言ってもいい存在の名前であり、技なのだ。

そしてジーフェンが、蓮に問うた。

 

「水と炎の二つを使える時点でまさかとは思ったが、……貴様が、あの《破壊神(バイラヴァ)》だな?」

 

それは、3年前に裏社会でその名を轟かせた正体不明の怪物の二つ名。

たった1人で戦争を終わらせた超常の化け物。

中国軍の上層部がその名を恐れ、名を口にすることを禁じた悪夢の存在。

その問いに蓮は、兜の下で酷薄な笑みを浮かべ、

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

それを肯定した。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 

『沖縄防衛戦』

 

 

のちにそう名付けられた海戦が起きたのは今から3年前。場所は沖縄の日本海側の地域。

当時、日本は中国からの侵略を受けた。

理由は不明。

《同盟》と《連盟》との対立があり、アメリカ、ロシア、中国と《同盟》でも有数の大国にある日本という小国。

三大国に囲まれておきながら、日本という小国は歴史上においてかつて一度たりとも、彼らに敗北し侵略されたことはない。

 

それだけの強さを誇っている日本は3年前に沖縄近海に現れた中国軍の先鋒艦隊と戦った。

 

卓越した《空間移動》の使い手がいたのだろう。突如、次々と軍艦を転移させて、日本の監視網を潜り抜けて沖縄近海へと現れた彼らは、本州、九州から離れている沖縄諸島をまず占領することを決めた。

 

しかも、その中国艦隊には当時中国最強の一角を担っていた、《四仙》と並ぶ希少な存在《四神》ー《青龍》《朱雀》《白虎》《玄武》、そして《麒麟》の5頭の神獣『四神』を宿す者達に冠せられる呼び名があり、そのうちの一人、《白虎》ルオ・ガンフーも先遣隊としてこの侵略作戦に参加していた。

上層部の人間達は中国最強の《魔人》の一人がいるのだから、その作戦は成功すると確信すらしていた。

 

 

だが、その結果は———惨敗。

 

 

僅かな捕虜を残し、先鋒艦隊が悉く壊滅された。軍艦は一隻も例外なく消滅し、9割以上の兵が戦死。《白虎》も敗北し、戦場で命を落とした。その一報を聞いた中国政府は訳がわからなかったらしい。

勝利を確信していた作戦が、蓋を開けてみれば、あちらは被害が軽微でこちらだけが壊滅的被害を被ったのだから。

 

これを成し得たのは、ガンフーと同じく《魔人》だったという。初めは、《夜叉姫》か《闘神》が戦ったのだと思っていた。

だが、唯一命からがら帰還に成功した《転移使い》や捕虜で帰還した者達の報告を聞けば、それは《夜叉姫》でもなければ、《闘神》でもなく、さらには《世界時計》でもない正体不明の存在。

 

精々わかるのは、それが青い魔力光を放っていたこと、()()()()()()()()()()()()()()()()を使っていたということ、そして()()姿()()()()()()()()()ということだけだ。

 

その者の正体まではわからず、その《転移使い》もその化け物につけられた戦いの傷が祟ってその数ヶ月後に死亡した。

その後、彼等の報告と、いくつか戦闘途中で送られてきたビデオを見た彼等は、その怪物に畏怖した。

 

人ならざる異形の怪物。炎と水を携えて敵の悉くを蹂躙するその姿に、悪い冗談だと、タチの悪い夢だと願うほどに。

 

だが、これは紛れもない事実であり現実だ。

 

中国軍が敗北し《白虎》が死亡したという情報は瞬く間に全世界へと伝わり、裏社会を駆け巡った。

そして、正体不明の名も無き怪物は、中国をはじめとし、裏の世界である二つ名で呼ばれるようになった。

 

 

その獄焔は敵の存在を許さず、灰塵となって焼き尽くす一切焼却の悪魔の裁き。

 

 

ー《悪魔の焔(デーモンフレア)》ー

 

 

その聖水は味方の傷を、命を癒し、死の淵から救い上げる神の恵み。

 

 

ー《神の聖水(ディバインアクア)》ー

 

 

敵を滅ぼす獄焔と味方を蘇らせる聖水。その二つを操る超常の魔神を、畏怖を込めてかの神話の神に擬えてこう呼んだ。

 

 

 

破壊と再生を齎す魔神『破壊神(バイラヴァ)』と。

 

 

 

そして、そう呼ばれた者が当時まだ14歳の中学生だったということは知る由もない。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

破壊神(バイラヴァ)

 

 

昔にそう呼ばれ畏怖された二つ名を思い出し、蓮は懐かしさに兜の下で笑みを浮かべ、ジーフェンの問いを肯定した。

 

「ああ、そうだ」

 

沖縄の地で()()()()()を制したあの日、自分は確かに中国の艦隊を滅ぼし、敵兵を蹂躙した。

それ以来、自分がそう呼ばれていたことは知っていた。なぜなら、蓮もまた裏で戦い続けてきた人間。そういった情報も手に入れることができるからだ。

 

「まさか……貴様があの《破壊神(バイラヴァ)》だったとはな。だが、その時の貴様は14歳のはずだ」

「ああ、だが、その時点で俺は《魔人》だったからな。そこらの学生騎士と同じように考えてもらっては困る」

 

ジーフェンは蓮の言葉に剣を構えながら答える。

 

「どこまでも常識はずれな存在だな貴様は。……何にせよ、貴様を殺せば我々は宿敵を殺せる上に脅威を取り除けるわけか」

「殺せると思っているのか?すでに三人殺されていて、残りも消耗があるだろうに。どうやったら俺を殺せるというんだ?」

「くどい。殺せるまで繰り返す、それだけのことだ」

「なるほど。実に分かりやすい。なら、やってみろ」

 

そして再び彼等は動き出す。

対する蓮は、槍形態だった《蒼月》を双剣へと戻し、再び水流と火炎を宿して駆け出した。

ランを狙おうにも、恐らく彼らは何が何でも彼女を守るだろう。それでは時間がかかりすぎる。少なくとも黒乃と寧音がここに来てしまう前に彼らを殺さなければいけない。

 

「《焔獄焼嵐》《渦巻く激流の竜巻》」

 

蓮は炎と水の竜巻を自身の周囲に展開する。その数八個。

赤と青の竜巻が交互に並び、時計の針のように輪を描いてそそり立ち、激しく渦を巻く。

それらが渦巻きながら、移動を始めジーフェン達へと襲いかかった。

しかし、その八つの竜巻の半分は、ランが伸ばした4本の魔力無効化の鎖に絡みつかれて呆気なく霧散し、残りの4つも彼らが距離をとったことで飲み込まずには至らない。

 

「ッッ!」

 

蓮は残った四つを操作し、自身を囲むように移動させる。しかし、これもまたランの伸ばした鎖に絡みつかれて霧散。

だが、その間に竜巻の勢いを利用して上空へと飛翔し高度を上げる。

四つの竜巻が霧散した時には既に100mの高度まで上昇した蓮は双剣を二本とも天に掲げ、素早く呪いを唱える。

 

 

「———薙ぎ払え《蒼刀(そうとう)湍津姫(たぎつひめ)》。焼き祓え《紅刀(こうとう)咲耶姫(さくやひめ)》」

 

 

瞬間、一瞬で現れるのは天をも貫くほどの滾り狂う激流と燃え盛る光熱の二柱。

蓮がもつステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔》と同系統の必殺技。激しく渦巻く激流と激しく燃え盛る光熱の双剣で相手の一切合切を薙ぎ払う必殺の剣だ。

表舞台ではリトルの時以外では今まで一度たりとも使われたことのない絶技。

 

「集束」

 

その二柱を蓮は一呼吸もしないうちに圧縮する。

一度制御を間違えば、周囲を破壊しかねない滾り狂う激流と燃え盛る光熱の柱を蓮は類い稀な魔力制御によって圧縮に圧縮を重ねて小さくしていく。

幾重にも幾重にもその工程を繰り返し、やがて刃渡り400mはあった二柱は、もはや柱の形ではなく、刃渡り4mを超える程度の大きさにまで圧縮形成された紺碧色の蒼刀と紅蓮色の紅刀へと変わっていた。

裏の世界では何度も使用され、敵組織を幾度となく呑み込んできた蓮の厄災の双剣が姿を表した。

その厄災の双剣を両手に蓮は地面へと勢いよく降下しグーウェイとガオランへと振り下ろす。

 

「ッッ⁉︎」

 

初めは霊装で受け止めようとしていたが、それをやめ咄嗟に全力で回避したために、間一髪で二人はその攻撃を逃れる。

そして、極光の双剣が地面へと叩きつかれた瞬間、———大地が大きく切り裂かれた。

 

「なっ……」

「馬鹿なっ」

 

あまりの威力にグーウェイ達だけでなく全員が絶句する。

蓮の極光の双剣は大地に底の見えぬほどの斬痕を二つ刻んだのだ。その距離は実に約8km。尋常じゃない射程と破壊力を誇るそれに彼らも絶句するほかにない。

蓮の二つの極光の剣は彼が持つ数多の伐刀絶技の中でもとりわけ強力無比な絶技だ。

有効射程は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()射程は数千km。力を抑えた状態でも5kmは優に超えるほどだ。

 

まさしく厄災としか言いようのない破壊の極光の双剣を手に、蓮は追撃をかける。

青と赤の極光の双剣を、先程と遜色ない速度で振りまわし、まさしく嵐となって避けたグーウェイとガオランに襲いかかる。

あまりの勢いにグーウェイとガオランは防戦一方となる。

 

(反撃の隙がないっ‼︎‼︎)

(なんて重さだよっ⁉︎)

 

今は何とか魔術と霊装を駆使して防いではいるが、防げるのがやっとな程度だ。すぐに破られてしまうだろう。

事実、それから十合も切り合わないうちに、障壁は容易く破られ、大斧も両腕ごと斬り飛ばされてしまい、両腕とともに宙を舞う。

ガオランも槍を弾かれて無防備になる。

そして無防備になった二人に、極光の双剣が両断せんと迫る。

しかし、二人が突如消え蓮の背後にタイランが転移で現れ、拳を振り翳す。

 

先程の大爆発の威力を蓄積して放つ拳撃が迫るそれを、蓮は左剣で迎え撃つ。

 

「ガッ⁉︎」

 

先程とは違い、タイランの拳はあっけなく弾かれ、鎧型の霊装だったことも幸いし、切り裂かれることはなく横薙ぎに吹っ飛ばされた。

それをカバーするようにリーファとレイが左右から迫る。

5mはあろう巨大な炎の大槌と、籠手から伸ばした4mはある雷の大刀を携えて振り下ろす。しかし、それらは蓮の極光の双剣を前に呆気なく弾かれる。

そして、蓮はその場で勢いよく体を回転させて、二人を切り裂こうとする。

蒼紅の竜巻と化した蓮に二人は霊装を掲げて能力を使いながら防御体制を取る。

レイは何とか霊装で防ぎ、間合いの外へと弾かれるだけで済んだが、リーファは竜巻の猛攻にうまく防御ができずに、腰から両断された。

 

「……ぁ…」

「四人目」

「リーファぁぁぁッッ!!!」

 

ボトリと、切り離された上半身と下半身が地面に落ちる。夥しい量の血と臓物をこぼしながら崩れ落ちる光景に、レイが悲鳴染みた声で彼女の名を叫んだ。

仲間以上の情があったのだろう。彼の声からは確かに親愛以上の愛を感じた。

事実、彼らは恋人であった。こんな明日も生きれるか知らぬ身であってもと、二人はお互いを愛していた。

 

それは蓮もまた感じ取っていた。

蓮は誰であろうと人の愛を否定しない。

暗殺者だから情を持つなとも言わない。

暗殺者としてどれだけ心を殺そうとも人である限り、心を、感情を持つのは必然なのだから。

 

それに、蓮はそういう者達を多く殺してきた。故郷に家族や恋人がいた者、共に肩を並べ戦う恋人がいた者。それらを全て『敵』と断じて殺し続けてきた。

自身の大切な者達を守る為に、どれだけ人の『愛』を斬り捨て、『幸せ』を奪ったのか分かっているからこそ、蓮は彼らの愛を笑わない。

だからこそ蓮は冷酷な声音で告げた。

 

「すぐにあの世で再会させてやる」

 

そうして、レイへと迫る。が、直後、横から襲いかかる影の槍へと意識を変えて左剣を振り下ろす。

大地ごと蓮は影槍を焼き斬っていく。それからも、影刃、影槍、影狗が断続的に、間隔を空けて影の中から飛び出して蓮に襲いかかる。

他の者達への攻撃ができないほどの密度で放たれるそれを、蓮は極光の双剣で悉く薙ぎ払っていく。その様は一見すれば巨大な剣の翼を振るい、舞を踊るよう。

 

蒼紅の剣翼を羽ばたかせて、蓮は大地を舞い黒き影を悉く切り裂いていく。

それがしばらく続き、影の中から萌黄色の巨大な閃光が迫ってきた。

 

「ッッ!!!」

 

剣翼を掻い潜って頭部へと迫るそれを、蓮は何とか上体ごと逸らして避ける。だが、

 

(ッ、影移動っ!)

 

避けた先にあった影が閃光を飲み込むと、数瞬後に、今度は右側から襲いかかる。蓮はそれすらも間一髪で避けるが、かすった極光の左剣が僅ばかり、削られていた。

 

(この剣も貫くのかっ!)

 

《貫通》あらゆるものを貫く概念系の能力。

それは、どうやら蓮の有する必殺の剣すらも貫くらしい。

更に避けても、今度は正面から、また避けても今度は真下から、とおそらくは魔力が続く限りこの応酬は続くのだろう。

それだけでなく、風の刃や水の刃も影の中から飛び出して襲いかかってくる。

それらを捌きながら、《貫通》の閃光を避け続ける。その時、蓮の正面の影の中から一人の女が躍り出る。

 

(ここでくるのかっ‼︎)

 

出てきた女はラン。

錫杖の先端に白菫色の魔力の刃を作り、蓮へと迫る。

蓮は彼女が刃を自身に届かせる前に、殺さなければと動く。

他の攻撃を無視し、蓮は左の炎剣を前方に突き出す。風と水の刃が全身を撃ち、《貫通》の極光が右腕を水剣ごと吹き飛ばしたがそれすら構わずに、蓮はランの腹を貫いた。

だが、()()()()()()()()()()()()()

 

(っっ透過っ!!)

 

ランの体はいつのまにか橙光に覆われていた。それは『透過』の異能が付加された証。

リーユエはこの土壇場でランに『透過』を付与したのだ。

『透過』と『魔力無効化』。蓮にとって最悪な組み合わせの攻撃が迫る。

そして蓮の目前まで迫ったランは全身から魔力を噴き出しながら、錫杖の刃を伸ばし、

 

「《虚刀(きょとう)朧華(ろうか)》ッッ!!!!」

「〜〜〜ッッ!?!?」

 

白菫色の刃が蓮の胸を貫いた。

瞬間、刃を起点に鎖が伸びて蓮の全身を縛りつけ、魔力無効化の能力が働き、蓮が今用いているあらゆる伐刀絶技が、紅の極光の炎剣と《陰陽》の鎧が霧散する。

 

「がっ、こ、のっ…!」

「ガフッ⁉︎」

 

蓮は血反吐を吐きながらも、《蒼月》を籠手形態に変えて貫手でランの胸を貫く。全身から魔力を吹き出していたことで、『透過』の効果は消えており、蓮の貫手が鳩尾に風穴を開けて彼女の胸を貫通したのだ。

ランもまた血反吐を吐き、ガクッと膝から崩れる。風穴は開けた。ならば、あとは死を待つのみ。彼女が死ねば、あとはどうにでもなる。

これで終わり———

 

「ハァァァァァァァァッッッ!!!!」

「なにっ⁉︎」

 

あろうことか、彼女は倒れなかった。

崩れ落ちる体を、足で支え、血反吐を吐きながらも更に己の魔力を高めたのだ。

直後、彼女の全身から先端に杭のついた白菫色の鎖を放ち、蓮の全身を突き刺しさらなる拘束をする。

 

(まだ、動けるのかっ⁉︎)

 

意地でも崩れ落ちないランに目を見張る蓮。

そして露わになった首目掛けてジーフェンが影纏う大太刀を振り抜いた。

 

(魔力防御をっ!!)

 

蓮は咄嗟に首に魔力を集中させて、超高密度の魔力の障壁を作り、ジーフェンの影刀の一撃を止める。

 

「かっ…⁉︎」

 

ガキィンと甲高い金属音を鳴らして、止まった刃はギリギリと燐光を散らしながら蓮の首を刎ねようと障壁を削る。

それに蓮は明らかな動揺を浮かべる。

 

(まずいっ!削れ始めてるっ!!)

 

その時、ジーフェンとは反対側から紫電の雷刃が首に叩きつけられた。こちらもまた甲高い音を鳴らしながら、障壁を削っている。

見れば、レイが合わせた籠手から伸ばした一本の雷刃を構えていた。

 

「貴様はここで殺すっ!!散って行った仲間達の為にも!!」

「ッッ!!」

 

両サイドから迫る黒の影刀と青紫の雷刃。

それは蓮の首を刎ねようとギリギリと燐光を散らしながら、障壁を削っていく。

だが、蓮はそれよりも先に目の前で刃を突き立てている、瀕死のランにとどめを刺すことを優先する。

 

(こいつらは後回しだっ!先にこの女をっ!)

 

ランを殺し、無効化を解けば瞬時に発動できる《青華輪廻》で肉体の再構築を行える。

そうすれば、自分は万全の状態に戻れる。

蓮は右腕を引き抜き、再び刀形態へと戻した《蒼月》で下から両断しようと振り上げる。が、それは半ばで止まる。

あげようとした左腕が薄緑の障壁に阻まれていたからだ。

 

(障壁使いッッ!!目障りなっ!!)

 

次の瞬間、リーの風纏う偃月刀で左腕が斬り落とされる。二の腕半ばで斬り落とされた左腕は、《蒼月》を離してしまい地面に落ちる。

ランの腹に刺さっていた《蒼月》も腹の風穴から滑り落ちて地面に転がる。

 

(左腕も斬られたっ!)

 

ならば脚だ。

魔力で超強化した脚力で、高く跳び上がる。そうすることで無効化の範囲から逃れよう。

そして、足に力を込めようとした刹那、力が入らなくなる。

 

(足がっ⁉︎何が起きたっ⁉︎)

 

何事かと目を向ければ、両太腿にはそれぞれ風穴が空いており、少し離れたところで矢を構えたジーファイがいた。

 

(貫通使いかっ!!くそっ、脚に力が入らないっ!!)

 

《貫通》で足を穿たれた蓮は、その場から逃げることすらできなかった。

魔力無効化の鎖も今もなお蓮を縛り付けている。今の蓮に唯一残された方法は、首の防御を上げ維持し続けることだけだ。

 

「オオォォォォォァァァアアア!!!」

「ぐぅぁぁぁああああああっっ!!!」

「ぬぅあああああああああっっ!!!」

 

蓮、ジーフェン、レイの三人の雄叫びが戦場に響く。

どれくらい続いただろう。

ピシリと小さな音が響いた。

音の発生源は首元の蓮の魔力障壁。

ギリギリと燐光を散らす蓮の魔力障壁に小さなヒビが入っていた。

黒の影刀と青紫の雷刃が障壁を砕きつつあったのだ。

そこからはもうあっという間で、やがて魔力障壁は甲高い音を立てて一瞬で砕かれ二つの刃が蓮の首に刃を立てる。

 

 

『——————』

 

 

次の瞬間、ついに蓮の首は宙を舞った。

 

 

 

「蓮さんッッ‼︎‼︎」

 

 

 

蓮は意識が薄れていく最中、最後に少女の泣き出しそうな悲鳴が聞こえた気がした。

 

 




新しく判明したキャラと異能はこんな感じです。

フェイ・タイランー『蓄積』
チェン・ウゥリィー『減少』
黄金色ー転移使いーハオ・メイー耳飾り
白菫色ー魔力無効化ールー・ランー錫杖

これでとりあえず黒狗メンバーの能力と名前は全て公開できましたねー。
改めて考えると無効化ってめちゃ強いですよね。原作でも諸星くん魔人相手にいい立ち回りしてましたし。


そして、次回いよいよクライマックスです!次回がどうなるかはお楽しみにー!


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