優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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やっとFGOの第二章「永久凍土帝国アナスタシア 獣国の皇女」が始まりましたね!

アタランテオルタも出るようですし楽しみです!

それと今回は新しいオリキャラが登場します。


4話 望まぬ再会

「よっ、お疲れさん」

「お疲れー蓮くん」

「お疲れ様です。蓮さん」

 

リングから引き揚げた蓮を労ったのは先に模擬戦を済ませ彼の帰りを待っていたレオ、マリカ、那月だ。

 

「ほんの少し魔力を使っただけだ。特に疲れるようなことはしてないさ」

 

いつものように不敵な笑みを浮かべ余裕のある声でそう答えた。

 

「でも桐原の奴意外だったわね。いつもは範囲攻撃使える奴とは試合しないのになんで今日に限って蓮くんとやったんだろう。瞬殺されるってのはわかってただろうに」

 

桐原は能力の特性上、広範囲攻撃を使える敵とは絶対戦わない。

全情報を遮断する完全なステルス迷彩は相手から姿を晦ますことは出来てもその場からいなくなるなんてことはできない。どこに隠れていてもリングの上にいるのは確実。

蓮の場合は水でも氷でもいい。リングを氷原や海に変えて仕舞えばそれだけで彼を倒すことはできる。

 

桐原自身もそれはよくわかっているはずだ。なのになぜ蓮との模擬戦を素直に受けたのか、それがマリカにとっては疑問だった。そしてそれはレオも那月も同じだった。

 

「ああ、確かに。あのチキン野郎ならビビって棄権すると思ってた」

「私も同感です。桐原くんは広範囲攻撃を使える人と戦ったのは見たことありませんし、自分の口からもそう言ってましたしね」

 

事実、桐原は勝てる相手としか戦わず、範囲攻撃持ちとは戦わないと言うことを自分の口から話している。

そしてその言葉の通り、今まで範囲攻撃持ちと戦う姿を見たものは誰もいない。

三人はそのことを覚えていて、当然の疑問を思ったのだ。

だが、あの試合中に桐原の妄言を聞いていて彼の目論見を知った蓮はその疑問に答えた。

 

「いや今回の桐原の目的は俺に勝つことじゃない。俺を自分達のところに引き込むつもりだったんだよ」

 

そして蓮は桐原が話した内容をそのまま彼らに伝える。すると、

 

「はぁ?何よそれ私達が雑魚?あんな腰抜けに言われたかないわよ」

「……ムカつく話だな。あのチキン野郎なめやがって」

「流石にそれは言い過ぎです。伐刀者の優劣は才能だけではないのに」

 

三者三様の意見に蓮は頷く。

 

「那月の言う通り伐刀者の強さは才能だけでは決まらない。自分の能力を深く理解しどのように使いこなすかが重要だ。才能があるからと言ってその上にあぐらをかいていたら宝の持ち腐れになるだけだ」

 

才能があるからと言って何もしなければそれはただの驕りとなりいざという時何もできなくなる。

逆に才能が他人より劣っていたとしても己の能力をちゃんと理解し使いこなすことでその優劣の差は容易くひっくり返る。

桐原のように異能こそが至上だと考えているならば、それは大きな間違いだ。

 

極少数の本当に強い騎士達は、異能こそが至上ではなく己が持ちうる全てを極めようと日々鍛錬している。異能に頼りきりではなく、武道を第二の武器としているのだ。

そしてそのような本物達が桐原のような半端者に負ける道理などあるわけがない。

それに、

 

「桐原は俺をどうしても自分達のグループに引き込みたかったんだ。異能至上主義のあいつのことだ。才能があるものを一つに固め、他との格付けをする魂胆だったのだろう。だが、そんなこと俺は微塵も興味がないしくだらないからな、速攻で却下させてもらったよ」

 

蓮の言葉に三人は納得したように頷く。

 

「それであの瞬殺だったのかぁ、でもよぉどうやって桐原の居場所がわかったんだ?蓮には見えてねぇだろ?」

「そうよ、あれは範囲があるから観客席にいたアタシ達には見えていたけど蓮くんには見えてないはず、見えない桐原相手にあんなに正確に水の斬撃を飛ばすなんて……」

 

一つの疑問が解決すれば、今度は別の疑問が浮かび上がる。

先程の桐原を瞬殺した時の絡繰だ。

一体何をしたのか?なぜ桐原の場所を把握できていたのか?

一歩も動かずに、矢が放たれた瞬間に動きそれよりも速く敵を切り裂くなど自分達では到底真似できない。

レオもマリカも並大抵の敵には負けないし実戦経験もそれなりに積んでいる。だがあそこまで完璧に自分を隠蔽する異能だと手の打ちようがないのだ。

だが、一人だけその核心に迫る内容を呟いた。

 

「………もしかして、魔力の光を『視た』んですか?」

 

那月だった。

魔力の光を『視る』。一見訳がわからない内容だ。レオもマリカも何を言っているんだ、という目で那月を見ている。

だが蓮だけは目をわずかに見開いてほんの少し驚いていた。

 

「………何でそう思うんだい?」

「蓮さんは水使いですからリング全体を攻撃すればいいのに、何故か消えたリング全体を探るように見渡してました。それが可笑しいと思ったんです。それで見えないはずの桐原さんが矢を放った瞬間、そこに焦点を合わせ攻撃したからもしかしたら魔力の光が見えてるのかなって思ったんです」

 

那月の説明にレオとマリカは感心したように頷き、蓮は肩をすくめ苦笑いを浮かべると、

 

「これは驚いた。まさかそこまで見抜かれてるとはね」

「えっ?じゃあ、まさか……」

「そうだ。那月の言う通り俺は桐原の魔力の光を視て攻撃した」

 

那月が蓮の言葉に眼を見開いて固まっていた。

 

「えっと、どう言うことなの?私、さっぱりなんだけど」

「俺もだ。魔力の光なんて普通に見えるだろ?」

 

話の全容が見えない二人は訳がわからずに蓮に問う。

 

「ああ、レオが言う通り魔力の光は見える。だが、それはあくまで可視化できるほどに高まった場合のみだ。伐刀者が無意識に纏っている魔力は無色のエネルギー体だから通常は見えない。だが、稀にその無色のエネルギーですら様々な色調として視える眼をもつ者がいる。それが『霊眼』と呼ばれる特殊な眼だ」

 

『霊眼』。一部ではすべてを見抜く眼とも言われ、千人に一人の特異存在である伐刀者達の中でもさらに希少な一種の「特異体質」のことで、意図せずに人が無意識にまとう魔力の光が見えてしまうものだ。

 

そのため霊眼を持つ者は、先天的に伐刀絶技使用時の魔力の輝きに過剰な反応を示してしまう。

例えば、一般の人には部屋のライトの明るさ程度にしか見えない魔力の光も、その霊眼では太陽の光を直視した時の眩しさと同じなのだ。

 

無意識に纏う魔力の光ですら眼を痛めてしまうほどだ。

だから下手すればその視覚がもたらす過剰な情報量にそれを処理する視覚神経と脳が悲鳴をあげ、失明の危険性もある。

 

言い換えれば、その眼をコントロールすることができれば、他の人では感知できないような迷彩を施された魔力の罠ですら見破ることができ対応することができる。

つまり、戦闘においてはその眼をコントロールできれば敵よりも一枚多く手札を持つことができるのだ。

 

だが、先程あげたようにリスクが大きすぎる。まさしく諸刃の剣というわけだ。

 

「俺はその霊眼の持ち主でな。今では完璧に制御できるようになった」

「成る程ね。それで桐原の魔力の光を辿ったってことなの?」

「ああ、桐原の魔力の色は空色。いくら異能が完全隠蔽で姿が見えなくても、俺からすればはっきりした人の姿が人の輪郭を象った魔力の塊に変わっただけだからな、空色の塊を辿ればいいってわけだ」

 

でも、と蓮は視線を二人から那月へと向ける。

 

「那月はよく気づいたな。普通の人ならただ立っている風に見えたはずなんだが、もしかして知ってたのか?」

「はい。『霊眼』のことは昔本で読みました。かなり古い本だったので実在しているかどうかは分かりませんでしたが、まさか本当に実在しているとは思いませんでした」

 

彼女は見た目にそぐわず読書が好きだ。

そのせいか寮の自室にも様々なジャンルの本が置いてあるらしい。

 

「…あーそうだ。三人とも俺が霊眼を持ってるってことは周りには黙っといて欲しいんだけど?」

 

蓮は思い出したように困惑した表情で間を取ると、三人に近づき声を潜める。

 

「別にいいけどよ。その眼なんか問題があんのか?普通にすげえと思うんだがなぁ」

 

蓮の言葉にどこか不思議げに問うレオに、難しい顔で考えていたマリカぎ、割と本気の声で叱りつけた。

 

「バカね、大有りよ。微弱な魔力の光ですら見抜ける眼なんて喉から手が出るほど欲しいものに決まってるじゃない。下手すれば眼を奪われるってことも考えられるわ」

「マリカの言う通りだと俺も考えている。一部の間ではこの眼を神聖視する者もいるらしいしな。最悪拉致されてモルモットにされるかもしれない」

 

想像してしまったのだろう。顔を青褪めたレオは何度も深く頷いている。

那月もやはりその可能性は考えていたのだろう。顔を青ざめて体を小刻みに震わしていた。

 

「とりあえず暗い話はここまでにしよう。ちょうど昼休みだ。早く食堂に行こう」

 

時間を見ればもうすぐ12時になるところだった。

今日はそれぞれ模擬戦を終えれば各自自由解散となっているので、蓮達一行は途中で一輝と合流し食堂に向かうことにした。

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

その日の放課後場所は変わり、破軍学園の生徒会室。

 

そこの生徒会長が座る机では、二人の少女がタブレットである動画を見ていた。

 

一人は女性としては小柄な方で腰まであるような長い黒髪が特徴の少女。

 

一人は女性としては長身で可愛いと言うよりは凛々しいと評したほうがいい黒髪のショートボブが特徴の少女。

 

小柄な少女はこの学園の三年生で現生徒会長の《妖精姫》三枝真弓、長身の少女は同じく三年生で風紀委員長の《斬姫》渡辺麻衣。

二つ名を持ち序列一位と二位という学園きっての実力者である。

そして二人はある動画を見ていた。

 

「……うわぁ、この子凄いわね」

「ああ、寸分違わずに水の斬撃で切り裂いている。観客席まで切り裂く斬撃の威力もそうだが、正確に狙ったのも凄まじいな」

 

二人は今年の新入生の中間試験の録画映像を見ていた。

そしてその中でも凄まじかった今年の新入生主席新宮寺連の試合映像を見て感嘆の声を二人は漏らしていた。

 

二人がこれを見ていたのにはちゃんと目的がある。

それは、

 

「うむ、彼は風紀委員に欲しいな。これほどの強さなら風紀委員として申し分ない」

 

そう、彼女らは彼を風紀委員に推薦しようと考えているのだ。

毎年ではないが風紀委員会は新入生の中から一人生徒会役員に選ぶことがある。

そして今年は風紀委員会の枠が一枠あまりその空きを一年生の中から選ぼうと言うことなのだ。

 

「しかも彼は座学も優秀ときた。まさしく文武両道だな」

「そうね。実技の成績は文句なしの一位として、まさか座学でも一位だなんてねー」

 

まだ成績優秀者は公表されてはいないが、彼女らは教員達から暫定的なものを一応貰っている。

その結果、新宮寺蓮は座学実技共に一位の成績だったのだ。

 

「新入生主席でAランクで文武両道。完璧すぎるわね。彼なら全く問題ないと思うし、会長権限で任命しちゃおうかしら」

「賛成だ。それにもし断られても無理やりにでも引き入れてやるさ」

 

二人揃って人の悪い笑みを浮かべそう呟く。

確かに彼は文武共に秀でているとても優秀な生徒に映るのだろう。そしてそれは他の生徒達もそうだ。

一年生の間ではすでに新宮寺蓮は完璧超人だと言われているらしい。(もちろん当人もその事実は知っている)

 

そして二人が人の悪い笑みを浮かべあっている時、ちょうどタイミング良くか悪くかは分からないが、生徒会室に二人の女子生徒が入ってきた。

 

「こんにちは」

「失礼します」

 

栗色の髪を三つ編みにした眼鏡をかけた美少女と白いドレスのような服と鍔の広い帽子を被った長い金髪の長身の美少女。彼女らは二年生の生徒会副会長《雷切》東堂刀華と同じく二年生の会計《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》貴徳原カナタだ。

 

二人はタブレットを見ながら談笑していた真弓と麻衣を視界に納めると困ったような呆れたようなどちらともいえない曖昧な表情を浮かべた。

 

「もう会長またサボりですか?それに渡辺委員長も仕事してください」

「まあまあ落ち着いて、刀華ちゃん。これはれっきとした仕事なのよ?」

「そうだぞ東堂。これは今年空いた風紀委員の選考なのだよ」

「選考?誰かめぼしい子でもいるんですか?」

「そうなの!一人すごい子がいてね」

 

楽しそうに話す真弓がタブレットを片手に刀華達にこちらに来るよう促す。

二人は促されるまま彼女達に近寄ると真弓が見せてきたタブレットの映像に映る人物を見る。

 

「「……えっ?」」

 

二人は目を見開き瞳が驚愕に揺れた。

映像に映る蒼髪の少年新宮寺蓮。彼女達は彼のことを知っていた。

そして知っていたが故に動揺してしまった。

だが、それは僅かなものでそれに気づかなかった真弓はそのまま楽しそうに話し続ける。

 

「彼は一年一組所属の《紺碧の海王》新宮寺蓮君。歴代最高成績で主席入学を果たしたAランク騎士でしかも中学生にして『特例召集』を何度も経験しているんですって」

 

『特例召集』。それは学生の身でありながら何度も実戦に参加するもので。彼は中学生でありながら《解放軍(リベリオン)》を筆頭とする様々な能力犯罪者組織の拠点をいくつも壊滅させた実績を持つ優秀な学生騎士だ。

 

「ほんと頼もしいわよね。こういう子が登校に入学してくれるなんて」

「それでだ。私達は彼を風紀委員に任命しようと思ってるんだ」

「……彼をですか?」

「ああ、『特例召集』を経験しているなら実力は申し分ないだろうし心強い」

 

カナタの問いに麻衣は言う。

確かにこれ以上ない正論だ。誰も反論できるわけがない。

だが、

 

「……ですが、まだ本人には話していないのでしょう?いつお話しするつもりなのですか?」

「近いうちにするつもりだ。そうだな明後日にでも彼を生徒会室に招待しよう」

「……そうですか」

 

それきりカナタは口を閉じた。

そして今になって一言も言葉を発していない刀華の異変にカナタの正面にいた真弓と麻衣は気づいた。

 

「刀華ちゃん?」

「東堂?」

 

二人は不思議そうに彼女の名を呼んだ。

それにつられてカナタも刀華を見る。

 

「………っ!」

 

刀華は泣いていた。ポロポロと溢れる涙を隠すことなく呆然と立ち尽くしていたのだ。

 

「お、おい東堂どうしたんだ?」

 

麻衣の言葉に刀華は自分が涙を流していることにようやく気づき慌てて涙を拭うとなんでもないように取り繕う。

 

「っ!い、いえ、なんでもありませんっ!見苦しいところを見せてしまってすみませんでした」

 

今の態度の急変を見ていればなんでもない風には見えなかったが、二人はそれの追求はしなかった。

その涙の理由を知っているカナタはただ刀華を心配そうに見ていた。

 

「すみません会長。来たばっかりなんですが少し席を外させてもらいます」

「う、うん、いいわよ」

「では、失礼します」

 

そう言って刀華は真弓と麻衣に一礼をした後生徒会室を後にした。その後数秒間静寂が支配していたが、それをカナタが破った。

 

「会長。私も少し席を外させてもらいます」

「え?あ、うん、いいけど」

「失礼しますわ」

 

そう告げるやいなや一礼もせずすぐに二人に背を向け駆け足で生徒会室を出て行った。その彼女らしからぬ行動に二人は訳がわからず首を傾げた。

 

「……私、何か気に触ること言ったかしら?」

 

当然状況を理解できていない真弓は首をかしげる。

 

「……大丈夫だ。私も訳がわからない」

 

真弓と同じように状況が理解できなかった麻衣はただそう返すことしかできなかった。

 

 

 

 

 

生徒会室を後にしたカナタは刀華の後を追いかけ屋上へと辿り着いた。

もうすぐ沈みそうな夕陽が殺風景な屋上の景色を茜色に染めている中、彼女が探していた人物はその無骨なフェンスに手をかけていた。

 

「………刀華ちゃん」

 

カナタは彼女の名を呼ぶ。

 

「……カナちゃん。追いかけてきたの?」

「はい。刀華ちゃんは何か考え事があるとよく一人になりますから」

「ごめんね。迷惑かけちゃって」

「いいえ、構いませんわ。それで、やっぱり蓮さんのことですか?」

 

刀華の問いに答えたカナタはほぼ分かっていたが恐る恐ると先ほどの涙の理由を尋ねた。

その問いに刀華はカナタへと体を向けると、悲しげな笑みを浮かべ頷いた。

 

「……うん、そうだね。久しぶりに彼の顔を見て動揺しちゃったんだ。もう二度と会えないと思ってたから」

「……ええ、私もそう思ってました。もう6年も経ってましたからね……」

 

少し嬉しそうに、だが悲しげな声でカナタは呟く。

そして刀華は遠い目をし過去に想いを馳せる。

 

「そっか、もう6年も経ってるんだね、あの日から。今振り返ってみればあっという間だね」

「はい、そうですね」

「ねえ、カナちゃん」

「なんでしょう?」

「さっきの話が本当ならさ、明後日蓮くんは私たちと顔を合わせるかもしれないんだよね」

「ええ、そうなりますね」

 

先ほどの真弓と麻衣の会話を思い出し首肯する。

確かに彼女らの言い分が正しく実行されるのであれば、刀華とカナタは生徒会役員として彼と顔を合わせないといけない。

普通なら別に気負いすることもない。だが、

 

「……カナちゃん。私は彼に会うのが怖いよ」

「……っ」

 

刀華の悲痛な声にカナタは息を飲んだ。

それは彼女の心の傷であり今までずっとカナタが危惧していたことだったからだ。

6年前のあの事件は彼女の心に深い傷を負わせた。それは罪となり重荷となって彼女を今もなお苦しめている。

 

「だってあれだけのことをしたんだよ?私達を助けてくれたのに、恩を仇で返すような真似をした。今更会えるわけがないよ」

「……刀華ちゃん」

「彼は悪くないのに、むしろ被害者なのにみんな寄ってたかって彼を悪者にして、挙げ句の果てには町から追い出した。それを私は見ることしかできなかった」

「……刀華ちゃん、もうやめてください」

 

カナタの制止の言葉も今の彼女には届かない。

刀華は再び涙を流し始め、胸のあたりを抑え独白を続ける。

 

「あの時私達が守られたから蓮くんが取り返しのつかない十字架を背負うことになったっ!あんなことになるんだったらいっそ——」

「刀華ちゃん!」

 

声を荒げ何か言葉を吐き出そうとしたらその瞬間。刀華はカナタの抱擁により後に続く言葉を遮られた。

——『自分が死ねばよかったんだ』——という言葉を。

 

「…カナ、ちゃん」

 

刀華は声の震えを、流れる涙を止められず、カナタの抱擁に驚く。

その彼女の耳元で、カナタは穏やかな声音で伝え、栗色の髪を撫でる。

 

「そんなことを考えたら駄目です。私は蓮さんも刀華ちゃんのどちらか片方でも死んでしまったら嫌です。だから自分の命をそんな風に無下に扱わないでください」

「……っ!」

「あの時言ったでしょう?私は貴方のことをずっと支え続けるって。だから何か辛いことがあったら私に言ってください。必ず力になりますから」

 

それはまるで妹を励ます姉のようだった。

そしてそれが限界だった。

その優しい言葉に、包み込むような暖かい抱擁に、嗚咽が溢れる。

あの時の後悔と悲哀が涙となり、悲鳴となり吐き出されていく。

 

カナタのドレスの胸元が刀華の涙により濡れていくが、そんなことは全く気にせず刀華が泣き止むまでずっと無言で抱擁を緩めず頭を撫で続けた。

 

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

 

「蓮お前にお客さんだぜ」

 

中間試験が終わった翌日。授業が終わり放課後を迎えた時、カバンの中身を整理している蓮にレオがそう声をかけた。

 

「客?」

「ああ、二年生で白いドレス着てる人だ。廊下で待ってるってよ」

「白いドレス着てるって学園内にそんな生徒いるの?」

 

レオの言葉に答えたのは蓮ではなくマリカだった。マリカは蓮越しに顔を覗かせるとそう声を張り上げる。

 

「事実いるんだからそう言ったんだよ。まあ普通は可笑しいよな」

「そうですね。生徒なら制服着用のはずですし」

 

マリカだけでなくレオと那月も訳が分からないという顔をしている。

 

「別に制服着用は義務じゃないぞ?校則には服装は自由と書いてあったはずだ」

「え、そうなの?」

「ああ。よく読めばわかることだ。とりあえず廊下で待ってるんだな?」

「ああ、そう言ってたぞ」

「分かった。じゃあ先に行っといてくれ、後から向かう」

「了解」

 

レオの言葉に頷くと教室の出入り口へと向かい廊下へと出る。

周りを見渡しレオが言ってた白いドレスを着ている生徒を捜そうとするがその必要はなかった。

なぜなら、すぐに見つけれたからだ。

殆どの生徒が白と黒のツートンカラーの制服を着て廊下を歩いている中、ただ一人純白のベルラインドレスを着た長身の女性は廊下の窓側の壁の前で立っていたからだ。

 

鍔の広い帽子を被っているせいで、目元は見えないが、後の輪郭や美しいブロンドから整った容姿を想像させる。

その佇まいはまるで上流階級の貴婦人のようで、彼女の前を横切る生徒達は、彼女の雰囲気に二度見していた。

蓮を呼ぶ件の少女が彼女だと即断定し近づく。

 

「すみません。待たせましたか」

 

一応形だけの謝罪をする。

 

「いえ、呼び出したのはこちらですしお気になさらないでください」

 

まるで唄うように典雅な声音で淑女のように丁寧に答えると帽子を取り素顔を見せる。

 

「————」

 

その顔を見た瞬間、蓮の時が止まる。

日本人離れした美しく整った容姿に、蓮とはまた違う色合いの青色の双眸。

その少女を蓮は知っていた。

忘れるわけがない。

彼女は、蓮にとってとても大切な人であり、姉同然の人。

 

 

「お久しぶりです、6年ぶりですわね」

 

 

とても会いたくなかった、

 

 

「蓮さん」

 

 

幼馴染だった。

 

 




破軍学園に生徒会があるなら風紀委員会があってもおかしくないよね、と思い書きました。

それと、特殊な眼『霊眼』についてはどこのをモデルにしたかはわかる人にはわかると思います。

気づいた方は感想欄で他の読者に気づかれない程度に話してみてください。

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