優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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14巻ついに販売しましたね!
寧音の過去と黒乃の出会い。それにナジームの戦闘。とりあえず最初から最後まで痺れる内容でした。
とくに、ナジームとの戦闘でのバケモノっぷりは私的には大好物なものでしたので、読んでる間ドキドキが止まらなかったです。


と、まあ前置きはこのくらいにして、少し時間がかかったのですが書けましたので投稿します。
今回は少し短めですが。


6話 意外な勧誘

 

作戦は30分で終幕を迎えた。

『レガリア』は非戦闘員が多数を占める弱小組織だ。実験の内容はかなり危険なものだったが、兵力はそれほどなかったため、当初想定していた時間よりもだいぶ早く作戦が終わったのだ。

 

子供達を無事救出した蓮は桑原や増田よりも先に離脱し水の能力で安全かつ迅速に外で待つ黒木の元へと運んだ。

黒木の方は何人か逃亡者が出ていたようで、彼らを一人残らず縛り上げ、その積み上がった人の山の上で呑気に座り蓮の帰りを待っていた。

黒木の元に辿り着いた時に、ちょうど後続の部隊が到着し、中で拘束した研究者達の確保やまだ息のある敵兵の拘束をする為に中へと向かった。

 

救出した子供達は体に異常が無いか検査をするため、病院に運ばれた。

 

後続の部隊が中で捜索をしている中、蓮は施設の破壊などの後始末を氷室達に任せることにした。

軍人とはいえまだ学生だ。明日も学校があり、今は夜の3時だ。そろそろ帰らないと明日、というか今日の学業生活に支障が出るかもしれない。(もっとも、彼が一度の徹夜ぐらいで体調を崩すわけないのは知っていたが、氷室のせめてもの親切心だ)。

蓮もそれに当然気づいており、素直にその言葉に甘えることにした。

 

「今回もご苦労だった。特尉」

 

帰路につこうとする彼を、行きと同じく氷室と、今度は副官の黒木が見送る。

そして氷室は彼を労った。

まだ学生である彼を、深夜に駆り出した事に関してだろう。

だが、蓮は首を横に振って返す。

 

「いえ、前も言いましたが、本官も大隊の一人です。こうして任務に出動するのは当然のことですよ。それに今回は子供達を助けれましたから」

 

蓮の言葉に氷室は呆れたように、だがどこか嬉しそうに息をつくと、笑みを浮かべる。

 

「まったく、お前のそういうところは変わらずだな。ああ、そうだ、今年の七星剣武祭は出るのか?」

「まだ分かりません。ですが、出れるなら出て優勝を狙いますよ」

「ハハハ、お前なら優勝は確実なんじゃないのか?」

「さあ、それはどうでしょう」

 

氷室の言葉に蓮は笑って流した。

 

「蓮君。今度みんなでお酒飲みに行きましょう。いいお店知ってるから」

「楽しみにしてます。黒木少尉」

 

隊の中では一番年齢が近い黒木少尉が笑みを浮かべながらそう言葉をかける。軍務で鍛え上げられた彼女はメリハリのある目に毒なプロポーションの持ち主だが、今の服装もルックスも派手ではなく、性格にも飾りけがないので、蓮も気軽に言葉を交わすことができる。

 

「では、俺はこれで失礼します」

「ああ、そうだな。気をつけてな」

「はい」

 

そして二人に一礼すると、ヘルメットをかぶりバイクをまたがり、光のない山道をヘッドライトで照らしながら走り去っていった。

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

その日の朝。いつものようにレオ、マリカ、那月、一輝と寮前で待ち合わせをし、一緒に登校していた。

普段なら、このまままっすぐと校舎まで行き、教室まで親友達と共に行くはずだった。

だが、今朝は違った。

 

「あなたが新宮寺くんですね」

 

のんびりと歩む背後から、彼を呼ぶ声に蓮は振り向く。

腰まである長い黒髪に赤い瞳のこのメンバーで一番小さい那月よりもさらに小柄な少女。

こちらを見上げる少女の顔に蓮は見覚えがあった。

 

「おはようございます。三枝会長」

 

蓮に続いて、他の四人も一礼する。

 

「あら、私のこと知ってたの?」

「この学園の生徒会長にして序列一位の《妖精姫》三枝真弓先輩を知らない人はこの学園にはいないと思いますが?」

「ふふ、嬉しいわね。ありがと」

 

真弓はクスリと微笑んだ。美少女なルックスと、小柄ながらもバランスのとれたプロポーションは、高校生になりたての男子生徒ならば勘違いしそうな蠱惑的な雰囲気を醸し出していた。

 

「それで、今日はいったいどのようなご用件で?」

 

蓮はそれなりに丁寧な対応で真弓にそう訊ねた。

 

「昨日の件で話したいのだけれど……ご一緒しても構わないかしら?」

「はい、それは構いませんが……」

「あ、別に内緒話をするわけじゃないから、また後にしましょうか?」

 

そう言って、微笑みながら目を向けたのは、一歩後ろに固まっている4人の友人達。

彼らは滅相も無い、と言葉と身振りで意思表示した。

 

「お話というのは、生徒会のことでしょうか?」

 

彼らの許可を得た蓮は、話の流れを自分の方へ引き戻した。

 

「ええ。細かい時間を伝え忘れていたから空いてる時間を聞こうと思って。お昼はどうするご予定かしら?」

「食堂で済ますと思いますよ」

「じゃあ、生徒会室でお昼をご一緒しない?お弁当の自配機もあるし」

「……生徒会室にはそんなものが置かれているのですか?」

 

蓮は驚きを隠せずそう問い返した。

自動配膳機は、一般の施設ではあまりお目にかかれない。見れるのは、空港の無人食堂や、飛行機や長距離列車などの特別な施設だ。なのになぜ、騎士学校の生徒会室に置かれているのだろうか。

 

「余りこういうことは言いたくないんだけど、忙しい時は遅くまで仕事をすることもあるから」

 

真弓は、ばつの悪い照れ笑いを浮かべながら、勧誘を続ける。

 

「何だったら、みなさんで来ていただいてもいいんですよ。生徒会の活動を知っていただくのも、役員の務めですから」

 

しかし、真弓の社交的な申し出を、全くの正反対の口調で謝絶したものがいた。

 

「せっかくですけど、私達はご遠慮させていただきます」

 

はっきりとした返答、拒絶だ。

マリカの普段とは異なる態度に、気まずい空気が流れ、わずかに沈黙が訪れる。

彼女が何を思って謝絶したのかわからない以上、何もできない。

 

「そうですか。じゃあ、新宮寺くんだけでも」

 

ただ一人、真弓は笑顔を崩さなかった。

彼女の謝絶に鈍い、というよりかは、何か自分たちが知らない事情を弁えている風にも感じられた。

そしてマリカのとった態度を考慮するならば、このまま断るのは難しくなった。

だから、蓮は観念してその勧誘を受けることにした。

 

「……分かりました。俺一人でお邪魔させていただきます」

「そうですか。よかった。じゃあ、詳しいお話はその時にしましょう。お昼休みにお待ちしてますね」

 

何が楽しかったのか、くるりと背を向けた真弓は、軽い足取りで立ち去った。

それを見送った蓮は、チラリと視線をマリカへと移す。

マリカは余り変化は見られないが、僅かばかり不機嫌なようだ。

 

同じ校舎へ向かうというのに、残された五人の空気だけでなく、足取りまでもが重くなった。

何故こうなったのか、と思わず蓮の口からため息が漏れた。

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

そして早くも昼休みだ。

生徒会室へ向かう足は僅かばかり重い。重いのは気分の問題であり、ただの比喩表現だ。だが、前に進みたくないという意味では同じだ。

なにせ、生徒会室にはカナタだけでなく刀華や泡沫もいるはずなのだ。

昨日、カナタから聞いた話では刀華は副会長、泡沫は庶務をしているそうだ。泡沫はともかく、刀華は会う確率はかなり高い。

出会い頭の空気が重くなるのは確実だ。

蓮は腹をくくるべきかと覚悟を決めた。

 

生徒会室は、三階の廊下の突き当たりにある。

見た目は他の教室と同じだ。違いがあるとするなら、ドア上部に設けられた「生徒会室」と刻まれた木彫りのプレートと巧妙に隠されたセキュリティシステムぐらいだろう。

 

扉の前で一度深呼吸し、ノックをする。

中から明るい歓迎の言葉が返される。蓮はドアノブに手をかけ、扉を開く。

 

「失礼します」

「いらっしゃい。遠慮しないで入って」

 

正面にある長机の奥から真弓の声がかけられた。

何がそんなに楽しいのか、笑顔で手招きしている。

蓮はドアから一歩の位置に立ち止まり、手を横につけ、目を伏せ、一度お辞儀をする。

 

「どうぞ掛けて。お話は、お食事をしながらにしましょう」

 

蓮の丁寧な対応に表情を綻ばせた真弓は、会議用の長机に座るよう促す。

学校の備品としては珍しいであろう、重厚な木製の方卓に、椅子を引いて座る。

 

「何がいいですか?色々ありますよ」

 

驚いたことに、ここには自配機があるだけでなく、メニューまで複数あるらしい。しかも、周りを見れば冷蔵庫だけでなく簡単なキッチンもある。本当に揃っている。

 

「じゃあお肉料理でお願いできますか?」

「ええ、ふふ男の子ですね」

 

真弓は壁際に据え付けられた和箪笥ほどの大きさを操作して注文した。

ホスト席にはもちろん真弓が、その隣、蓮の前に一人の女性とが、その隣にもう一人女子生徒が座っていた。

そして真弓が話を切り出した。

 

「知らないと思うから、紹介しときますね。私の隣が三年の書記の篠原鈴華、通称スズちゃん」

「……私のことをそう呼ぶのは会長だけですよ」

 

この瞬間、真弓にあだ名をつけられるような事態は絶対に避けよう、いや避けなければならない、と蓮は強く決心した。

それに鈴華の印象はカナタ同様かなり大人びて見えている。どう見ても「スズちゃん」より、「鈴華さん」とかの方があっている。

とはいえ、もうすでに蓮のことを『れー坊』と呼ぶ人がいるのは伏せとこう。

 

「その隣は風紀委員長の渡辺麻衣」

「よろしく」

「それと今はここにはいないけど、副会長のとーかちゃんと、会計のかなちゃん、庶務のうたくんの三人を加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

 

どうやら今はあの三人はいないようだ。多分、カナタが気を利かせてくれたのだろう。そのことに心の内で安堵した。

と、ここで麻衣が軽く口を挟んだ。

 

「私は違うがな」

「そうね。麻依は別ね。あっ、準備ができたようね」

 

ちょうど自配機から、無個性ながらも正確に盛り付けされた料理がトレーに乗って出てきた。

しかし、出てきたのは計三つ。。

ひとつたりない、そう思い、視線を巡らすと麻依が弁当箱を取り出したのが見えた。

真弓と鈴華が立ち上がり、自分たちのを運んでから、蓮の分を運び、奇妙な会食が始まった。

まずは当たり障りのない話題。この学園に入学してからどうだ、とか。学園には慣れたか、など上級生が下級生に気にかけるようなありきたりな話題だ。

それが済み、蓮は会話の話題を変えるために麻依に言葉をかける。

 

「そのお弁当は、渡辺先輩が自分で作ったものですか?」

「そうだ。……意外か?」

 

少し意地の悪い笑みを浮かべ答えにくい口調で返した。

彼女からしたら、出来過ぎな下級生を少しからかうつもりで浮かべたものなのだが、

 

「いいえ、少しも。女性がお弁当を作るのはごく普通のことだと思いますよ」

「……そ、そうか」

 

思いがけない返しに麻衣は少し顔を赤らめ気恥ずかしさを覚えた。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

 

真弓が会話をそこで切り上げ、唐突に切り出した。

まあ高校生の昼休みはそう長くはない。それにすでに食べ終わっている。そろそろ本題に入ってもいい頃だと思っていた蓮は頷く。

そこで真弓は麻衣と視線を合わせ頷くと、真弓ではなく麻衣が口を開いた。

 

「単刀直入に言おう。私達は、君が風紀委員会に入ってくれることを希望する」

「………理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「そうだな。まずは風紀委員とはなんなのか、から話そうか」

 

麻衣は一つ頷くと説明する。

 

「風紀委員は校則違反者を取り締まる組織だ。主な任務は学園で定められた場所、場合以外での能力使用に関する校則違反者の摘発と、魔術を使用した争乱行為を取り締まる。つまり、学内限定での警察と検察を兼ね備えた組織というわけだ」

「それで、何故俺が?」

「なに、簡単なことだ。君は強いだろ。しかも、『特例招集』も経験している。私としてはそういう本物の実力者が風紀委員になって違反者を取り締まって欲しいと思っているんだ……っと、そろそろ昼休みが終わってしまうな。すまないな、蓮くん放課後に続きを話したいんだが、構わないか?」

 

麻衣の言う通り時計を見ればもう直ぐ昼休みが終わりそうだ。それにこればかりは有耶無耶では済ませられない話だ。

 

「……わかりました。放課後にまた伺います」

「ああ、さっきの話、考えておいてくれよ?」

 

蓮は彼女の念押しに渋々といった様子で頷くと席を立ち一礼し、生徒会室を後にした。

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

「風紀委員……か」

 

誰もいない無人の廊下を歩きながら一人でに呟いた蓮。

生徒会長に呼ばれたからなんなのかと思えば、まあ大体は予想のつく話だった。

実力者が風紀委員となり違反者を取り締まる。確かにその方が安全かつ道理にあっている。だが、

 

「………はぁ」

 

蓮は深いため息をついた。

別に風紀委員を務めるのは構わない。中学の時も生徒会役員の経験があるから不安にはならない。

問題はそこではない。

 

(カナタはともかく刀華と泡沫にはあまり会いたくねぇな)

 

それが蓮が溜息をついた原因だ。

カナタに聞いた話と昔の彼らを考えれば会えば修羅場になるのは確実だ。

どうにかして彼らとの接触を避けることはできないだろうか、そんな現実逃避をしていると目の前の曲がり角から三つの人影が出てきた。

 

「————」

 

その三人を、いや正確にはカナタと共に歩く二人の姿に息を詰まらせた。

一人はくすんだ銀色の癖毛と光のない金色の瞳のともすれば幼稚園児にすら見える小柄な少年。

もう一人は栗色の髪を三つ編みにした少女。

御祓泡沫と東堂刀華だ。

最も会いたくない時に、会ってしまったことに内心で再び溜息をこぼした。

そして曲がり角を曲がり切り、蓮の存在に気づいたところで三人は彼の姿を視認した。

 

「………えっ?」

「…………滝沢?」

 

楽しそうに談笑していたであろう彼らは笑顔を一転させ、動揺を隠せていなかった。

刀華は目を見開き一言小さく零し、泡沫は呆然とした声で彼の旧姓を呼んだ。

 

「……………」

 

蓮はなるべく無表情を保ったまま、彼らから目を背け、横を通り抜けようとする。だが、

 

「おい、待てよ」

 

彼は低い声音で呼び止められた。

そちらに視線を向ければ、案の定泡沫がその顔を激情に歪ませ、まるで親の仇でも見るかのような目で見上げていた。

 

「……何ですか?」

「……何でお前がここにいるんだよ」

「いたらだめですか?」

「っ当たり前だろうがっ!お前が騎士になる資格がないのは自分でもわかっているだろっ!」

 

泡沫の怒りの叫びに、蓮は僅かに顔を顰める。

こうなることは分かっていた。だから、何も言えない。何も言わない。ただ罵倒をありのまま受け入れる。

何も言わない蓮に泡沫はさらに苛立ちを募らせ決定的な言葉を発した。

 

「お前が騎士を目指す?よくもそんなふざけた真似……この六年、刀華達がどんな思いで過ごしてきたかも知らないでっ!」

「ッッ」

「………」

 

泡沫の言葉に刀華がピクリと反応し、カナタが息を呑む。蓮は泡沫から刀華に視線を移す。するとこちらを見ていた視線は逸らされた。よく見れば刀華の体が小刻みに震えているのが分かる。恐怖によるものだ。

蓮に会うことに対する恐怖、それが身体を震わすほどのものだと理解した時、蓮は目を伏せ、その瞳を冷たいものへと変えると、

 

「……話はそれだけですか?」

「えっ?」

 

予想外の言葉に泡沫は間抜けな声を漏らす。だが、淡々と蓮は言葉を続ける。

 

「これ以上用がないのなら俺はもう行かせてもらいます。午後の授業に遅れてしまうので」

 

何も言えない泡沫達に背を向けると蓮はそのまま立ち去った。

 

 




一年生編は10話から15話の間で終わらせようと思っています。

それと今、並行して前日譚の方も執筆しております。出来次第投稿しますので、そちらもよろしくお願いします。

ではまた次回、さよならー。
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