「全員揃ったな?」
蓮が風紀委員入りを果たした翌日。風紀委員会本部には蓮を含めた風紀委員、計七名が揃い腰掛けていた。
そんな中、全員の有無を確認した麻衣は立ち上がった。
「今日は新入りを紹介する。立て」
事前の打ち合わせも予告もなかった展開に、特にまごつく事なく、すぐさま立ち上がった。
落ち着いた面持ちながら肩の力を抜きすぎているような風情のある蓮の姿は実力主義が徹底されているこの委員会内では頼もしく見えるだろう。
「1ー1の新宮寺蓮だ。今日から早速パトロールに加わってもらう」
彼の名は学園内ではある程度広まっていたらしく、ざわめきが生じた。
それもそうだ。今学園で噂になっているAランクの新入生。その話題の当人がまさかの風紀委員会入りをしていたのだから。
「誰が面倒を見るんですか?」
二年生の、岡村と言う生徒が手を挙げてそう発言した。
「しばらくは私が見る。今日のところは私に同行させて、巡回のイメージを掴んでもらうつもりだ」
「使えるんですか?」
値踏みするような視線で蓮の体つきを見回す。
確かに彼はAランクで実力もあるのだろう。だが、実戦で使えるかどうかが彼らにとっては重要だ。
新参者を無条件で歓迎するほど彼は安くはないようだ。
麻衣は岡村を余裕の顔で見ていた。
「ああ、心配するな。使えるやつだ。
新宮寺の腕前は動画で見たから問題ない。こいつはまさしく本物だ」
麻衣がそう強く言い放った。
麻衣の言葉にその場にいた全員が見る目を変えその目には疑惑ではなく歓迎の色を浮かばせた。その顔には全く、侮ったりしたりする色が無かった。
「さて、ほかに言いたい奴はいないな?なら、早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。
新宮寺については私が説明するから残れ。他のものは、出動!」
全員が一斉に立ち上がり、踵を揃えて、握り込んだ右手で左胸を叩いた。
何の真似かと思ったが、後で聞いたところによれば、風紀委員会で採用されている伝統の敬礼だった。他にも、挨拶は時間を問わず「おはよう」を使うと言うルールもあるらしい。
麻衣、蓮を除いた五名が、次々と本部室を出て行く。
彼らは出て行く前に蓮に一人ずつ軽い自己紹介をし声をかけて、本部室を後にしていった。
「まずこれを渡しておこう」
声を掛けた麻衣は、黒と赤の腕章と薄型のビデオレコーダーを手渡す。
「レコーダーは胸ポケットに入れておけ。ちょうどレンズ部分が外に出る大きさになっている。スイッチは右側面のボタンだ」
言われた通りブレザーの胸ポケットに入れて見ると、そのまま撮影できるサイズになっていた。
「今後、巡回の時は常にそのレコーダーを携帯する事。違反行為を見つけたら、すぐにスイッチを入れろ。
ただし、撮影を意識する必要はない。風紀委員の証言は証拠としてそのまま証拠に採用される。
念のため、くらいに考えて貰えばいい」
蓮の返答を確認し、麻衣は携帯端末を出すように指示した。
「委員会用の通信コードを送信するぞ……よし、確認してくれ」
「確認しました」
「報告の際は必ずこのコードを使用すること、こちらから指示ある際も、このコードを使うから必ず確認しろ。
最後は
風紀委員の霊装使用については、いちいち誰かの指示を仰ぐ必要がないし、場所も学内ならどこででも使って構わない。
だが、不正使用が判明した場合は、委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられる。くれぐれも、甘く考えない事だ」
「了解しました」
「うむ。なら早速パトロールと行こうか」
麻衣に促され、蓮は麻衣の後に続き最後に本部を出て行った。
「とまあ、見てもらった通り巡回ルートに決まりはない。校内をくまなく見て回る必要もない。大体は特定のルートを回る奴ばかりだ」
学園内巡回中に麻衣は基本的なことをレクチャーを行なっていた。
風紀委員の基本的なことをあらかた聞き終えた蓮は納得したように頷く。
「まあ大体はこんな感じだな。何か質問はあるか?」
「いえ、今のところは」
「うむ、なら今日はもう終わりだ。ところで、一つ聞きたいんだがいいかな?」
「何でしょうか?」
了承を得た麻衣は笑みを浮かべると、
「君は今年の七星剣武祭には出るのか?」
七星剣武祭。それは日本に存在する七つの騎士学校。
南関東の『破軍学園』。北関東の『貪狼学園』。東北の『巨門学園』。北海道の禄存学園』。九州・沖縄の『文曲学園』。中国・四国の『廉貞学園』。近畿・中部の『武曲学園』。
その七校からそれぞれ代表選手を出し、一番強い騎士を決める武の祭典だ。
蓮は麻衣の言葉に頷く。
「まあ出れるなら一度は出て見たいですね」
「ふっ、そうか。まあ、今年は私も真弓、それに十束も出るからな。それに加え、君も出てくれるなら心強い」
「今年は出るんですか?」
蓮は意外そうな声をあげる。
教員達から聞いた話では真弓と麻衣、十束は一年、二年と諸事情で七星剣武祭を出ていないからだ。今年もてっきり出ない思っていたから、まさかと蓮は驚いてしまったのだ。
「ああ、そうだ。我々は今年で最後だからね。
ここ最近は破軍は負け続きだから、今年はAランクの君も含めて私達で一気に首位独占してやろうじゃないか」
好戦的な笑みを浮かべ胸の前で握りこぶしを作りながら麻衣はそう意気込んだ。
確かにこの三人が出るのならば心強い。
学内序列一位の《妖精姫》と二位の《斬姫》。そして三大巨頭の最後の一人《鉄壁の武者》十束克己。全員がBランクの実力者達だ。
七星剣武祭に出れば上位三冠は間違いなしと言われている程だ。
「そうは言っても、まだ俺は選抜されてませんよ?そもそも一年生から代表生が出るのは稀ではありませんでしたか?」
確かに一年生で七星剣武祭に出るのは珍しい。破軍学園でもここしばらくは出ていない。
だか、麻衣はそれを一蹴する。
「何、特に問題ないだろ。リトルで世界1位をとった男を七星剣武祭に出さないなんてそんなの周りから大バッシングを食らうだけさ」
どうやら彼女は蓮が選抜されることを疑ってはいないようだ。そしてタイミングがいいのか悪いのか本部の扉からノック音が聞こえ真弓が入ってきた。
「麻衣、ここに蓮くんは…っていたいた」
「どうしましたか?会長」
「さっき先生達に呼ばれていてね。蓮君に話があってきたの」
真弓の言葉にまさかと思いつつも、その話を聞いてみることにした。
「……ちなみに、そのお話というのは?」
「七星剣武祭代表のことなんだけどね。実は一枠余っちゃってね、その最後の一枠にあなたが選抜されたの」
辻褄を合わせたかのような内容に蓮は思わず声を上げそうになったが、それを堪える。だが、視界の端で麻衣がニヤリと笑ったのが見えてしまい嘆息する。
「……それで、俺の意思を確認しにきたという訳ですか」
「そうなのよ。で、どうかな、出てくれる?」
真弓は両手を合わせながら上目遣いでこちらを見上げる。
それが見事に似合っていて、あざとさを感じさせていた。
そして真弓の問いに対する蓮の答えは決まっていた。
「はい、俺でよければ、ぜひ」
すると真弓の顔がパァッと明るくなり満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。貴方が出てくれるなら私たちとしても心強いわ」
「な?私の言った通りになっただろ?」
真弓の満面な笑顔と麻衣の勝ち誇った顔に蓮は苦笑を浮かべ、
「ええ、そうですね」
一言、そう返した。
△▼△▼△▼
「えっ?七星剣武祭の代表に選ばれた?」
放課後、風紀委員の見回りを終えた蓮は待っていたレオらと合流し、そろそろ常連扱いを受ける程度には足繁く通っている本格的な店構えの喫茶店に、彼らは腰を落ち着け、今日あったことを話した時の一輝の反応がこれだった。
他の三人も目をまん丸にして驚きを示していた。
「七星剣武祭代表って、全校で六人だけなんじゃないんですか?」
「まあね」
目を丸くしたまま問い掛けた那月の質問を、蓮があっさりと肯定する。二人の表情は、まさしく対照的だった。
「まあねって……蓮くん、感動薄すぎ」
絶句する那月と呆れ顔のマリカ。その隣でレオが楽しそうに笑ってる。
「蓮にしてみりゃ、七星剣武祭なんざ出れて当然、ってこったろ」
「でも、一年生が七星剣武祭に出場するなんてほとんどないことだよ?」
「前例はあんだろ?先生達だって、リトルで世界1位とった天才を出場させないはずねぇって」
一輝の反論に笑顔のまま再反論したレオ。
「天才は止めろ」
それに対して、照れているのではなく、本気で嫌そうに蓮が釘を突き刺した。
「蓮さん、本当に天才と言われるのがお嫌いなんですね……」
「都合のいい言葉だからな」
皮肉その他の他意もなく不思議そうに問い掛けた那月に、蓮はきっぱりと答えた。
「いや、でも凄いよ」
雲行きが怪しくなった雰囲気を察してか、それを晴らそうと一輝が話した。
「一年生の出場者は今まででも数える程しかいないし、Aランクとなれば戦績次第では卒業後にA級リーグへの推薦もあるから」
A級リーグとは《国際魔導騎士連盟》が開催している伐刀者にのる格闘興行《
今世界で一番人気のあるスポーツであり、一年の放送権料が3兆円を超えるという競技の花形とも言えるトップリーグに推薦される。
それは魔導騎士を目指すものにとってどれだけ凄いことか、ここにいる全員は理解していた。
「正式発表はいつなんですか?」
「来週だと聞いている」
蓮を最後につい今日七星剣武祭のメンバー選定が終わったばかりだ。
任命式も含め諸々と準備する時間が必要なのだろう。
「へー、それじゃあ来週まで秘密ってわけか?」
レオが若干楽しそうに訪ねてくる。その瞳からはワクワク感が見えており、宣伝して回ろうという魂胆が見え見えだった。
「別に秘密ということではないんだが、三枝会長から無闇に言いふらすなと言われてるからな。そう捉えて構わんだろ」
そう言って、特に宣伝しそうなレオとマリカに視線を向ける。すると、二人はすかさず顔を背け半笑いを浮かべていた。
そしてマリカがその視線から逃れるように話題を変え、それにレオがすかさず乗る。
「そ、そういえばうちの学園では四人目だよね?Aランクでの七星剣武祭出場者って」
「あ、ああ、確かにそうだな。そう考えるとやっぱすげぇよな」
そうやって二人があからさまに話題を変えた、か蓮はそれに突っ込むことはせず、というより言わなくてもわかってるだろうと、思い注文しておいたコーヒーを一口啜る。
その時、ふと口の端がつり上がっていたのに気づいたものは誰一人いなかった。
△▼△▼△▼
そして七星剣武祭代表任命式の当日の朝、一年一組の教室では、
「おはよう。聞いたぜ、新宮寺、凄いじゃないか」
「おはよう、新宮寺君。頑張ってね」
「おはようございます、新宮寺くん、応援してますよ」
「ヨッ。頑張れよ、新宮寺」
普段それほど親しくないクラスメイト達が、蓮に挨拶のついでに激励しているという状況が発生していた。
月曜日、教室に到着してから、蓮は次々とクラスメイトのエールを受け取っていた。
何について、といえばもちろん、七星剣武祭代表に選ばれたことについてである。
「皆、情報が早ぇな」
「本当ですね。まだ先週決まったばかりで、正式発表にはなっていないのに」
「ホント。私達は蓮くんから聞いたから知ってるわけだけど、一体どこから聞き出してくるんだろうね?」
「さあ、僕達は誰も口外してないし……」
レオも那月もマリカも一輝もとぼけているという顔ではない。どうやら、釘を刺したお陰か、宣伝して回ることはなかったようだ。
とはいえ、緘口令を敷いているわけでもないので、大方、教員達の会話が聞こえたとかそんなところだろう。
「確か、五限目が全校集会になって、体育館で任命式なんですよね」
那月がそう言いながら、生徒手帳で今日の予定を確認している。
午前は通常授業で、そして午後が五限目が任命式になっている。
高々選手の任命式のために一限を削り全校生徒を集めるというのは、それだけこれがどれだけ大きなイベントなのかを示している。
「そういえば、出れなかった二、三年生とか、桐原はか〜な〜り、悔しがってるみたいよ」
真弓から代表入りの話を聞いた時に、実は候補には桐原や何人かの二、三年生も含まれていたらしいのだが、先生達の合議の結果、蓮がその椅子に座り、選ばれなかった生徒達がいたそうだ。
それに桐原は中間試験の時以来、妙に蓮に対抗意識があったため(もっとも、桐原が勝手に抱いているだけだ)、プライドを盛大に逆撫でされ、その上この抜擢だ。
前々からエリート意識を持っていた桐原にはますます苛立ちを募らせる結果になったようだ。
現に今もマリカの言葉に教室の隅にいた桐原が額に青筋を立ててこちらを睨んでいるのが遠くからでも見える。
「……そうみたいだな」
朝から嫉妬の視線に晒された蓮からすればもうわかりきっていたことなのでそう嘆息する。
嫉妬どころから敵意を向けてきた生徒達も少なからずいたが、蓮はあえてそこには触れないようにした。
それに嫉妬される側に立つことが多かった蓮にはもう慣れたことだが、逆に嫉妬を抱いたことが乏しいために、その辺りの機微を察することができなかった。
「仕方ないですよ。嫉妬は理屈じゃありませんし」
那月のザックリとした答えに、蓮は言葉を返せず、
「ま、辺に気負わずに普段通りにやればいいんじゃない?」
マリカの投げやりな気休めに苦笑を返すことしかできなかった。
四時限目終了後、普段は滅多に使われない体育館に、全校生徒が集まり、六名の代表の正式な任命式が行われるのを待っていた。
そして、代表メンバー達は他の生徒達が座っているところとは別の代表戦用の席に座り、理事長が名前を呼ぶのを待っていた。
「何だか少し緊張しますね」
いつの間にか蓮の隣に来ていたカナタが蓮に話しかける。
いつもは落ち着きのある彼女でも少しそわそわしていた。
「そうですね」
蓮とカナタはあの二人きりでの会話以降、お互い敬語で話すことにしていた。 昔のように馴れ馴れしい口調で話すと、色々と勘ぐられそうなのでただの先輩、後輩の関係を演じている。
『ではこれより、任命式を開始する。名前を呼ばれたものは壇上へ上がるように』
その時ちょうど任命式が始まり代表の名を読み上げていく。
『三年Bランク。三枝真弓』
『三年Bランク。渡辺麻衣』
『三年Bランク。十束克己』
『二年Bランク。東堂刀華』
『二年Bランク。貴徳原カナタ』
そして最後に、
『一年Aランク。新宮寺蓮』
蓮の名が呼ばれた。
「はい」
短く返事をして席を立つと、脇の階段から壇上に上がる。
、先に呼ばれた五人と同じように理事長の前に歩いて行き、
『おめでとう』
「ありがとうございます」
賞状とメダルを受け取り、一礼し、これまた先に呼ばれた五人と同じように、集まった全校生徒の方を向いて、壇上に代表選手として横並びになる。
少し余裕ができたので舞台の下を見渡すと、前半分の主に上級生の人の列に、異分子が紛れ込んでいるのに気づく。
その異分子ーーマリカは前から三列目、ほぼ最前列といっても過言でない席で、蓮の視線に気付き手を振っていた
さらに目を凝らせば、マリカの隣には那月、その逆側にはレオ、さらにその隣には一輝、その後ろにも見覚えのある顔が並んでいる。
1ー1よクラスメイトのほとんどが、上級生のきつい視線にもめげず、一塊に陣取っていたのだ。
蓮が彼らの勇気ある行動に目を奪われているうちに、理事長が選手団団長に選ばれた真弓に校旗の預託を行い、最後に高らかに宣言していた。
『ここに並ぶ六人を、正式に我が破軍学園の七星剣武祭代表と認める!』
瞬間、大きな拍手と割れんばかりの喝采が起こった。
音の発生源は言うまでもなくこの体育館にいる生徒と教師全員だ。
だが、その中でもひときわ大きく目立ったのが、蓮のクラスメイト達だ。
彼らは理事長が宣言した瞬間に、他の生徒達よりも早く手を打ち鳴らし応援の声を、祝福のエールを、叱咤の激励を他ならぬ蓮に送った。
それはやがて選手全員に対するものへと変わり、体育館全体に広がった。
こうして、南関東『破軍学園』の七星剣武祭代表選手が出揃った。
次は合宿編か、もしくはそれをすっ飛ばして七星剣武祭に行くか、検討中です。
ちなみに風紀委員会の設定は魔法科高校の劣等生のものです。