優等騎士の英雄譚   作:桐谷 アキト

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合宿はカットで、七星剣武祭もこの話で終わりです!


9話 頂を征した王

破軍学園に限らず七星剣武祭前はどの学園でも強化合宿が行われる。

破軍学園は7月下旬の大会直前に奥多摩にある合宿施設で十日間の強化合宿が行われ、代表選手はそこに参加し直前の追い込みをし、七星剣武祭に臨む。

 

代表の六名はそこで各々の鍛錬法で個々に実力を高めていった。

 

そして、毎年8月半ばに行われる七星剣武祭。

 

今年は驚異の大番狂わせが起きた。

 

二十年連続で決勝進出を続け、最近では五年連続で表彰台を独占していた日本最強、世界有数の強豪校『武曲学園』が表彰台どころかベスト4にも入れなかったのだ。

武曲学園の連覇を止めた学園は近年弱小校と噂されていた破軍学園だ。

 

今年は破軍学園が表彰台だけでなくベスト4を独占し、それだけで終わらずベスト8に一人、ベスト16に一人と好成績を叩き出したのだ。

 

今年もどうせ武曲が独占するだろうと思われていたが、それをここ数年はベスト16にも入れていなかった負け続きの破軍がまさかの下克上を果たしたことに、日本全国が熱狂に包まれた。

 

試合の内容もどれもが接戦ではなく、そのほとんどが圧倒的な勝利を飾っている。まるで、今まで舐められていたツケを返すかのように、怒涛の勢いで七星の頂まで上り詰めたのだ。

 

あまりにも予想外な結果に、殆どの人が驚いていたが、その代表メンバーの詳細を知った瞬間、全員が納得した。納得してしまった。

 

今年の破軍学園の七星剣武祭代表は全員が幾度も《特例招集》を経験し、数々の犯罪組織を潰し、犯罪者を捕らえた実績を持っていた。

どの年でも各校に半分《特例招集》経験者がいれば多い方に分類されるのに、まさか全員が経験しているとは誰が思うだろうか、

それに加え、彼らは全員がBランク以上で一人はAランクという他に類を見ない組み合わせ。

出場者はBランクからDランクが殆どであり、歴代の『七星剣王』は大半はBランクかCランクに占められているのだから、この人選ははっきり言って反則そのものだった。

 

そして、ベスト4の四人は特に異常だった。

 

今大会覇者の《紺碧の海王》改め歴代最強の《七星剣王》新宮寺蓮。

 

2位の《妖精姫》三枝真弓。

 

3位の《斬姫》渡辺麻衣。

 

4位の《鉄壁の武者》十束克己。

 

彼らはそれぞれの出場ブロックA、B、C、Dブロックを無傷で制した怪物達だ。

 

新宮寺蓮は海と形容すべき大規模な水魔術と多彩な氷魔術と卓越した剣術で相手を薙ぎ払った。

 

三枝真弓は『凍結』の異能と芸術の域まで高められた高速高精度の射撃で相手を圧倒した。

 

渡辺麻衣は『斥力』を操る異能で臨機応変、多種多彩な重ね合わせの魔術で相手を翻弄した。

 

十束克己は類を見ないほどの堅牢な障壁を何重にも張り攻撃をほとんど自分に届かせず防ぎ、相手を叩き潰した。

 

その四人は全員が学生騎士のレベルを超えており、準決勝以降の4試合はどれもがA級リーグでしか見れないような高レベルな試合だった。

 

それに加え、真弓、麻衣、克己の三人はBランクとしてはあまりにも強すぎるため、大会中に急遽BランクからAランクへの昇格が決まったぐらいだ。

 

世界的に見ても卓越した水準にあり、学生騎士レベル程度に収まるようなものではなかった。

 

そして、圧倒的な強さで頂を征した一人のAランクと三人のBランク改め四人のAランク騎士達は破軍学園の《黄金世代》の三人の騎士に並ぶ逸材と噂されるようになった。

 

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

七星剣武祭の表彰式終わった後、蓮は歴代最強の七星剣王ということで日本だけでなく海外の報道陣も加わったインタビューを引き受け、約二時間インタビューに答え続けるという重労働を経て、選手宿舎のロビーにあるソファーに座りぐったりともたれかかっていた。

 

報道陣の数が多すぎたのだ。

報道陣は日本だけでなく海外のもおり、何カ国いるかわからないぐらいいて、さすがの蓮も途中で逃げたかったが、運営の人達が逃さずに約二時間引っ切り無しに話し続けていたのだ。

 

彼は精根尽き果てた佇まいにロビーにいる一部始終を見ていたスタッフ達は同情の眼差しを向けながら仕事に専念していた。

蓮は深く息を吐き、部屋に戻り休もうと考えたちょうどその時、タイミングを見計らっていたように、蓮の目の前にペットボトルが差し出された。

 

「飲むか?」

「あ……ありがとうございます。十束先輩」

 

蓮にペットボトルを差し出したのは一人の大柄な男。

見上げるような大男というわけではなく、身長は185センチ前後。だが分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでもわかる、くっきりと隆起した筋肉と存在感の大きさがまるで巌のような印象を抱かせていた。

彼は十束克己。破軍学園三年の三大巨頭の一人で、《鉄壁の武者》の通り名を持つ今大会4位入賞の男だ。

 

蓮は彼に礼を言うと、ペットボトルを受け取り、中身をグッと呷る。

 

「ぷはっ……はぁ、助かりました」

「構わん。大分疲れたようだな」

「……ええ、そうですね」

「流石の《七星剣王》でも試合のようには行かんか」

「それはまあ……はい、なにせ、こんなにインタビューを受けるのは初めてですから」

 

蓮は苦笑を浮かべながらそう答えた。

 

「リトルの時とは違うのか?」

「あの時はまだ子供でしたし、インタビューも数を少なくしてたそうです」

 

さすがに当時10歳の蓮に今日のような大人数のインタビューは体力的にも精神的にもきついだろう。

あの時は運営側が蓮がまだ幼かかったから、インタビューの数を減らすように言ったのかもしれない。

 

「……僭越ながら、先輩はどちらも苦になさらないように見受けられますが」

「慣れているからな」

 

そういえばこの人は名門十束家の次期当主だった、と今更ながらに思い出した。

それに彼のどっしりと構えた姿勢からも場数を踏んでいることがよくわかる。

 

「それと、新宮寺」

「はい?」

 

蓮が顔を上げれば、克己が蓮に手を差し出していた。

克己さん穏やかな笑みを浮かべる。

 

「一足先に言わせてもらう。七星剣武祭優勝おめでとう」

「……あ、ありがとうございます」

 

差し出された手を蓮は握る。

彼の手は見た目通りゴツゴツとしており、力強かった。

克己は清々しさが感じられる声で言った。

 

「俺はお前という気高い騎士と戦えたことを誇りに思う。素晴らしい戦いだった」

「……ッ!俺もです。貴方達との試合はとても充実しました」

 

そう。あれほど充実した戦いは本当に久しぶりだった。

克己とは準決勝で、真弓とは決勝戦で、麻衣とは合宿でそれぞれ戦った。

合宿からの三週間。蓮にとってとても充実した日々だった。

それは克己らも同じだ。今年の七星剣武祭は彼らの三年間で一番充実した戦いだった。

固い握手を交わし、お互い笑みを浮かべた時、蓮を呼ぶ声が聞こえた。

 

「蓮」

 

声のした方に二人揃って振り抜くと、そこには二人の女性の姿があった。

ピシッとスーツを着こなしている黒髪の麗人と丈の合ってないダボダボの着物を着た黒髪の童女。正反対の服装の二人は蓮が良く知る人達だった。

だから彼は彼女らの名を呼んだ。

 

「母さん、寧音さん。久しぶり」

 

黒髪の麗人は蓮の母である新宮寺黒乃。童女の方は現在KOKの三位《夜叉姫》の二つ名を持つ太平洋圏最強騎士西京寧音だ。

彼女も黒乃同様幼い頃から世話になっていた人だ。

 

「ああ、久しぶりだな。それと七星剣武祭優勝おめでとう」

「ウチも久しぶりさねー。ま、なんにせよ、優勝おめでとさん、歴代最強の《七星剣王》くん」

「ありがとう、二人とも」

 

二人の賛辞に蓮はそう短く返すと、背後で無言で佇む克己へと視線を戻す。克己は僅かに目を見開いていた。

しかし驚くのは無理もないことだ。なにせ蓮が気軽に話している二人は日本人なら誰もが知っているほどの超有名人だ。それにその片方が蓮の母親ならば尚更のこと。

 

「十束先輩、紹介します。彼女は俺の母で、こちらはご存知の通り《夜叉姫》です」

「……そうだったのか。初めまして、破軍学園三年十束克己です」

 

克己は最初こそ驚いていたものの、すぐに落ち着きを取り戻し二人に名乗り一礼する。

 

「丁寧にありがとう十束君。紹介に預かった新宮寺蓮の母新宮寺黒乃です。息子がお世話になっています。息子が学校で何か迷惑はかけていませんか?」

「いえ、そんなことはありません、彼は風紀委員として良くやってくれてます」

「そうですか、なら良かったです。それでだ蓮、お前に少し話があって来た、今から時間取れるか?」

 

黒乃の言葉に蓮は目線を克己に向け、視線で席を外して構わないかと問う。克己はそれに頷く。

それを確認した蓮は申し出を了承した。

 

「ああ、大丈夫だよ」

「ならついて来てくれ」

「分かった。では十束先輩、また」

「ああ、またな」

 

そう言って、蓮は黒乃と寧音の後に続きロビーを後にした。

 

 

△▼△▼△▼

 

 

黒乃と寧音に連れられ、蓮が来たのはホテルのある客室に向かう、おそらく、二人がこの期間中に使っていた部屋だ。

 

「とりあえず、かけてくれ」

 

黒乃に促され、部屋に備え付けられたソファーに座る。そして黒乃と寧音は向かいのソファーに座る。

 

「さっきも言ったが、改めて七星剣武祭優勝おめでとう。拓海も喜んでたぞ」

「父さんが?そりゃ良かった。それと鳴は元気か?」

「ああ、もう自分で歩けるようになったぞ」

「……マジか。見たかったな、それ」

 

蓮は少し悔しそうにそう呟いた。

血は繋がってはいないものの、去年生まれたばかりの可愛い妹の成長の決定的瞬間を見れなかったのは兄として惜しいものだった。

そんな様子に黒乃はクスリと微笑んだ。

 

「この夏休みに一度帰ってくるのだろ?ならその時にでも一緒に散歩にでも行ってやればいい。鳴も会いたがってたからな」

「ん、まあ、そうだな。じゃあそうするとして、一体何の話だ?」

 

すると、黒乃は真剣な表情を浮かべ答えた。

 

「実は来年から破軍学園の理事長を務めることになってな、それを伝えに来たんだ」

「驚いた。なんで母さんが?」

「理由としては二つだ。一つは破軍学園が近年、日本にある他の騎士学校六校と比べていいところがない上、七星剣武祭も今年を除いて負け続きだ。そんな破軍学園を立て直すために私が呼ばれたんだ。着任は11月を予定している」

「二つ目は?」

「端的に言うならお前の監視役を頼まれたんだ」

「それは俺が《魔人(デスペラード)》で、()()()()()()があるからか?」

「そうだ」

 

蓮は深く息を吐くと、顔を顰めながら視線を窓の外に向ける。

《魔人》。その言葉は日本などの小国が数多く加入している《国際魔導騎士連盟》において最高機密事項。

伐刀者は生まれながらに持っている魔力の総量によって個々の運命が定められる。そして魔力の上限は決して変わることはない。

それは絶対不変の理であり、誰もが知っている事実。

だがごく稀にその前提を覆す例外が存在する。

己の限界を極め尽くし、自らの強固な意志で運命の鎖を断ち切り、人としての魂の限界を打ち破り、運命の外側に至った例外。

その存在を《魔人(デスペラード)》と呼び、それに至る現象を《覚醒(ブルートソウル)》と呼ぶ。

 

この覚醒に至った者はこの星を巡る運命の輪から外れ、一般的に変わることはないと言われている魔力上限を引き上げることができる文字通りの『ジョーカー』。

彼らがどれだけいるかでその国の兵力は大幅に左右されるぐらいだ、一騎当千。いや、それすら生温いほどに《魔人》と言う戦力は絶大なのだ。

 

現在日本国籍を持つ《魔導騎士》達の中で、《魔人》はたったの三人。

一人は《大英雄》黒鉄龍馬と同じ時代を生きた伝説の騎士《闘神》南郷寅次郎。

一人は今ここにいる《闘神》の愛弟子、《夜叉姫》西京寧音。

そして最後の一人は、寧音と同じくここにいる最年少で至った()()()()()()()()()()、《七星剣王》新宮寺蓮。

 

そして黒乃と寧音は六年前に引き起こした事件のことも考慮して、まだ若すぎる《魔人》新宮寺蓮が再び能力を暴走させないように監視と警護の任務に当たることになったのだ。

蓮は顰めていた表情を申し訳なさそうにすると、二人に頭を下げる。

 

「ごめん、俺のせいで二人に余計な仕事を……」

 

六年前の事件のせいで蓮は二人には多大な迷惑をかけてしまった。

それに罪悪感を感じてしまっていた蓮は二人にそう謝罪した。だが、二人はそれを笑って流した。

 

「大丈夫だ。お前の頑張りは私達がよく知っているからな、全然余計な仕事じゃないさ。それに息子の成長する姿を近くで見れるんだ。親としては嬉しいことなんだぞ」

「そうだぜれー坊。れー坊が力を使いこなせるようになっているのはよく知っているからさ、そこまで気にする必要はねーよ」

 

二人の嘘偽りもない言葉に蓮は一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに苦笑を浮かべ、

 

「………ああ、ありがとう」

 

ただ、そう返した。

 

 

 

その後、理事長に着任するにあたって、学園の現状を知りたいという黒乃の申し出に、蓮は今の腐った学園の現状を事細かに説明していった。

それからいくつか談笑をした三人は、やがて部屋を出た。

 

「じゃあ来週には一旦帰るよ」

「ああ、待ってるぞ」

「じゃあ、ウチも遊びに行っていい?鳴ちゃんに会いてぇし」

「どうせお前はフラッと来るだろ。だが、鳴に変なこと教えたら許さんからな」

「うわー、怖ぇー、親バカは怖いねぇ、れー坊もそう思うだろ?」

 

どすの利いた声で黒乃は寧音をジロリと睨む。が、寧音は飄々とした笑みを浮かべ蓮に同意を求める始末。だが、それがこの二人の間ではよくあることだから、黒乃も「全く……」とため息を吐くだけだった。

そして、そんな時だった。

 

「あ、いたいた!おーい、蓮くーん」

 

大声で手を振りながらこちらに近づく少女は、予想通りマリカだった。そして、

 

「マリカちゃん、ここホテル内だから静かにしないと……」

 

少し恥ずかしそうにマリカの袖を引っ張っている那月が、その後ろにはレオと一輝が続いてきていたが、レオはマリカの悠然とした振る舞いに眉を顰め、一輝は苦笑いを浮かべている。

 

「お前らなんでここに?」

 

蓮は少し驚きながらもマリカに話しかけた。

 

「三枝先輩がホテルのレストラン貸し切って祝勝会するから蓮くんを探してきてって言われたの」

 

蓮の声の調子で釘を刺されたことを察したのか、マリカは無駄口をたたかず簡潔に答えた。

 

「なるほど、分かった」

「ん、って、ねぇ蓮くんの後ろにいる二人ってまさか……」

 

すると、マリカは後ろの二人に気付き恐る恐るといった様子で尋ねる。他の三人も黒乃と寧音に気づいたのか若干どよめきの声を上げていた。

それを見た蓮はわざとらしく笑みを浮かべると、半身になり後ろの二人が彼らによく見えるようにする。

 

「紹介するよ。この人は俺の母さんで、こっちは知り合いの西京寧音さん、皆には《世界時計(ワールドクロック)》と《夜叉姫》って言った方がわかるかな?」

 

蓮の紹介に4人はあからさまに驚いていた。

彼はそれを一瞥すると、今度は黒乃達に振り向いて、レオ達の紹介をする。

 

「母さん、寧音さん。彼らは俺のクラスメイトで友人だ。前にいるのが木場マリカさんと佐倉那月さん。それで後ろが葛城レオンハルトに黒鉄一輝だ」

 

そうすると、4人は慌てて2人に頭を下げそれぞれ挨拶する。

4人の慌てた様子を見て黒乃と寧音は笑うと、黒乃は軽く頭を下げ、寧音は軽く手を振る。

 

「新宮寺蓮の母の新宮寺黒乃だ。息子がいつもお世話になってる」

「ウチはれー坊の姉貴分の西京寧音だぜー。れー坊がいつも世話になってるねー」

「い、いえ、むしろ私達の方が世話になりっぱなしで、息子さんとは仲良くしてもらっていますっ」

 

2人の挨拶にマリカはあからさまに慌てて胸の前で両手を振りながらそう慌てて口早に話した。

その言葉に、残りの三人も頷いており、ガチガチに緊張しているのが目に見えて分かった。

そんな様子に両者の間で見ていた蓮は笑みを浮かべ、

 

「マリカ落ち着け、お前らもだ。そんなに緊張しなくてももっと気軽に接すればいいから」

「いや、それ無理だからっ、《世界時計(ワールドクロック)》と《夜叉姫》だよ⁉︎日本のトップスター達じゃん!緊張するなって言う方が無理だから!」

 

まあ友人を探していたら突然日本のトップスターの二人が探している人の後ろにいたのだ。テレビ越しでしか見たことがない彼らにとって本物は緊張するのかもしれない。

同じことを繰り返し言うほど慌てているマリカに寧音はカラカラと楽しそうに笑う。

 

「トップスターとは嬉しいこと言ってくれるお嬢ちゃんだねぇ。なかなか可愛いし、もしかしてれー坊の彼女?」

「えぇっ⁉︎い、いえ私は……」

「寧音さん調子に乗らない」

「寧音あまりからかうな」

「へいへい、冗談だって、さすが親子。息ぴったりだぜ」

 

軽くマリカを茶化したがすかさず蓮と黒乃の息ぴったりの釘刺しに若干楽しみながらも素直に従う。

寧音の態度に嘆息すると黒乃は一歩前に踏み出し穏やかな笑みを浮かべ未だに緊張しているマリカ達に言った。

 

「蓮の言う通りもっと気楽に接してくれて構わない。それにその様子だと息子と仲良くしてくれてるみたいだから、これからもこの子のことをよろしくお願いします」

『は、はい』

 

四人からの返事を確認した蓮は黒乃達に背を向け言った。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」

「ああ」

「またねー」

 

背中越しに蓮は頷くと、四人に近づき彼らの肩を叩いた。

 

「ほら、ぼけっとしてないで行くぞ。三枝先輩が呼んでるんだろ?」

「え、あ、ああ」

「なら急ごう。ちょうど腹も減ってきたからな」

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ蓮くん!」

 

先んじて行く蓮の背中を四人は黒乃達に一礼した後、慌てて追いかける。

そして追いついた先でマリカやレオが蓮に何かを言っているが、何を言っているのかは黒乃達には聞こえない。だが、彼らが浮かべている笑みがその会話が楽しげなものを示していた。

 

それを見ていた黒乃は嬉しそうに表情を綻ばせていたのは隣にいた寧音だけが気づいた。

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

 

その日の夜、選手達が利用していた宿舎の一階にあるレストランでは、

 

「では、新宮寺蓮くんの《七星剣武祭》優勝を祝して、乾杯っ!」

 

レストランを貸し切り破軍学園の選手達や応援に来ていた生徒達が祝勝会に集い、真弓が手に持ったビールのグラスを掲げ、蓮を祝福する。

 

『乾杯ッ!』

 

他の面々もグラスを掲げ蓮に祝福を送り、賑やかな祝勝会が始まった。

 

 

同ホテルの同階にある蓮達が貸し切っているレストランの向かいにある別のレストランでは黒乃と寧音が夜景を楽しみながら、向こうから聞こえる祝勝会の賑わいに耳を傾け、優雅な夕食を摂っていた。

 

「向こうは楽しんでるな」

「だね〜」

 

話題にしていたのは一年生ながら《七星剣王》の座を勝ち取った蓮のことだった。

 

「れー坊ももう15歳かー。あれからもう十年経つんだね」

「ああ、今思えば早いものだな」

「くーちゃんとしてはどうなのよ」

「何がだ?」

「何って、そりゃあれー坊の事だよ。あの日れー坊を引き取ってあの二人に代わって育てて、大きくなったと思ったら、今や歴代最強の《七星剣王》の称号を勝ち取った。母親としちゃどう思ってんだい?」

 

寧音の質問に黒乃は誇らしげな笑みを浮かべ答えた。

 

「無論、誇らしいさ。《七星剣王》の称号を取った事もそうだが、それ以上に私はあの子の母親でいれるということが嬉しいよ」

 

黒乃は蓮の苦悩を誰よりも近くで見て、知っている。

彼の過去の苦しみを知っているからこそ、あそこまで立派に成長した息子の姿を黒乃は誇らしく思ったのだ。

それを聞いた寧音は呆れたように溜息をついて頬杖をつくと呟いたり

 

「まったく、くーちゃんもそうだけどやまちゃんといい、サーちゃんといい、ウチの友達は揃いも揃って親バカだよねぇ」

 

付き合いが長いから、寧音自身も蓮のことを弟のように可愛がって誇らしく思っているのはとっくに分かりきっていた。

黒乃は母親として、寧音は姉貴分として蓮を可愛がり支えてきた。お互いの苦労をよく知っているから、寧音が照れ隠しに呟いているのに気付き笑みを浮かべる。

 

「私が親バカならお前は姉バカだな」

「……うっせ」

 

黒乃の返しに寧音はプイッと顔を背けていたが、口角が緩んでいたのを黒乃は見逃さなかった。だが、それに触れると面倒事になりそうなのであえて触れずに、祝勝会の賑わいに再び耳を傾けた。

 

向こうから今もなお賑やかな声が聞こえ、耳を澄ませば蓮の笑い声も聞こえてくる。

 

それを聞いた黒乃は穏やかな笑みを浮かべた。

 

もし叶うのなら、このまま蓮の両親を殺した仇への復讐心も消えてほしい。

 

自分の命や、誇りなんかよりもずっと大切な息子だから、もう復讐に囚われるのなんてやめて、自分の幸せのためにこれからの未来を生きて欲しい。

 

一人の母親として、彼らから託された者の一人として、そう願わずにはいれなかった。

 

(今度は私達があの子を守るから、お前達は安らかに眠っててくれ。……大和、サフィア)

 

黒乃は今はもうこの世にいない、親友の二人の名を心の内で呟いた。 

 




あと、2、3話で一年生編は終わらせる予定です。
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