スロー・ナ・ライフ ーTS転生した精霊の日常ー   作:メガネ愛好者

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 どうもお久しぶりです。メガネ愛好者です。

 この作品を投稿する経緯については後程活動報告にて述べさせていただきます。
 一先ずは、暫しの間この作品をお楽しみいただけたらと思います。当分……いや、この作品が完結するまでは他の作品に手を出す気はありませんので。

 それでは。




第一話 千歳さん、転生する

 

 

 どうも初めまして。自分、千歳(ちとせ)っていうもんです。

 

 

 趣味は読書と昼寝。基本マイペースでいい加減な性格だと自分は思うんだけど、知人の話によるとなんだかんだ言って真面目なやつとのこと。自分としては人に言われるほど真面目に生きてたつもりはなかったと思うんだけどね。なんでやろ。

 

 

 そんな千歳さんですが、今、非常に面倒な事に巻き込まれていたりします。何せ自分、気づけば自宅どころか戸籍すらなくなってしまったものでして……

 

 

 おそらくは住民票なども無くなっていると思われる。持ち物も一切合切消えており、つまるところ現状の千歳さんはホームレスの仲間入りを果たしてしまったようなんだ。……なんだか無性に切なくなってきた。帰る場所がないって結構心に来るものがあるのな。

 

 

 そんな宿無し職無し無一文な千歳さん、どうしてこのような事になってしまったのかというと……簡潔に述べ、千歳さんが『転生者』という奴だからだ。

 

 

 転生とは所謂生まれ変わりを意味し、転生者とは生まれ変わった人間のことを差す。千歳さんが元いた世界では近頃割と頻繁な程に小説やアニメに取り入れられている要素の一つだな。

 中でも『異世界転生』という、死後に別の世界に転生してなんやかんやすると言った作品をよく見かけるようになったけど……今の現状、まさにそれ。

 

 どうやら千歳さん、今話題の異世界転生を果たしてしまったらしいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかも、()()()()()転生したって言うね。

 

 

 「えぇ……?」

 

 

 まさかの展開に思わず情けない声が漏れてしまったのは致し方無きこと。それだけ千歳さんが受けた困惑は計り知れなかったと言うことさ。

 

 前世では成人手前の男性だったって言うのに、今ではその面影さえ何処へやら。視界に映る自身の両手は今や見慣れた男の手ではなく、力を込めれば折れてしまいそうなほど細く染み一つない綺麗な女性のそれにしかみえなかった。自分の意志通りに動かせる当たり、この手が自分のものであることは疑いようもないっぽい。

 更にはその手前、前世で言うところの胸板にあたる場所には……服(?)越しからでも十分わかる程の膨らみが確認出来る。出来てしまった。

 

 そこから連鎖的に、千歳さんはあることに気づいてしまう。……気づいてしまった。

 

 見なくとも分かる。触れずとも分かる。自身のある場所から、男の象徴ともいえるであろう”アレ”の感覚が……無くなっていることに。

 

 

 「…………マジか」

 

 

 その感覚に思わず天を仰ぐ。

 頭上には雲一つない澄み切った青空が広がっていたが、千歳さんの気持ちとしては、空を覆いつくす程の曇天が広がっている気分だった。

 

 自身の体に現れた変化。頭では理解出来なくとも、心では何故か納得してしまっている自分がいる。

 

 

 ——性転換——

 

 

 どうやら男性であった千歳さんは、疑うべくもなく女性として生まれ変わってしまったらしい。

 

 

 ……因みに、何がとは言わないけど……未経験だった。何がとは言わないけど……ッ!

 

 

 

 

 

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 そもそも何故千歳さんは転生することになったのか? なんてことはない。前世で死んで、『神様』とやらに出会って、どういう訳か転生することになった。ただそれだけのこと。

 

 やけに落ち着いてないかって? いやいや、これでも結構戸惑ってるからね? ただこの状況に千歳さんの頭が追い付いていないってだけ。その上で深く考えることをやめたからか、割かし心は落ち着いているだけにすぎないんだ。頭ん中は未だに訳が分からずアッパラパーさ。……え? そこは思考を止めちゃダメだって? 知ってる。

 

 でもいいじゃん。どうせ自分は死んでしまった身だし、死んでまで額に皺を浮かべてウンウン唸る必要も無いと思うんだ。ぶっちゃけ悩んだところでどうにかなる訳でもなし、別にもうどうでもいいかなーとさえ考えていたりするぐらいさ。

 

 極論だけど、世の中なるようにしかならんしね。取り繕ったところでどうしようもないんなら、千歳さんは心の赴くままやりたいようにするだけさ。

 

 要は――「せっかくだし、脳みそ空っぽにして生きていこうぜ!」ってことだね! ……今思うと、この時の千歳さんは半ば自棄になっていたんだと思う。今更ながら計画性皆無な方針に流石の千歳さんも笑えないです。自分で決めたことだけども。

 

 

 そんなこんなで千歳さんは神様と名乗る存在に出会ってしまったわけだけど、どうやら自分が死んでしまったのにはいろいろと深い事情があるらしい。

 

 事の顛末やそれに対する処遇やらを語り始める自称神様。それに対して千歳さんは……別に今更話をまともに聞く気もなかったので、ついつい聞き流してしまった。半分寝惚けていたと言っても過言じゃないね。『趣味昼寝』は伊達じゃないってことさ。

 

 それに「どうせなるようにしかならないんだろ?」と投げ槍気味にもなってたし、そうなってもしょうがないと言える程に現実味が沸かなかったんだ。だから千歳さんの対応は悪くないはず……え? 対応云々よりも態度が悪いって? 知ってる。

 

 

 そうして、まるで校長の長話を居眠りで乗り越えるが如く自称神様の事情説明を適当に聞き流していると、最後に神様は「実はこれが本題」と言わんばかりに問いかけてきたのだった。

 

 その内容は簡単に言えば「己が望み述べよ」って感じだった気がする。……多分。半分寝惚けてたから少し自信はないけどあってる筈だ。

 

 とりあえず無難に「充実した堕落生活。訳して駄ライフを送りたい」って言ったんだっけ? 見事にダメ人間な回答だけど、大多数の者は一度ぐらいそうありたいと願うと思う。千歳さんもその例に洩れなかったってだけのことさ。

 

 

 ――――その結果がこれ(性転換)ってどうなのさ?

 

 

 何だろうね? 金持ちに(なび)いて玉の輿生活でも送れってことなのかね? 確かにそれなら堕落した生活を送れる可能性もないとは言い切れないけど……相手次第では爛れた生活になる可能性が無きにしも非ず。そんなのは千歳さんの望むところじゃない。寧ろ元男としては断固拒否である。

 

 そもそも何故に性転換? 別にそのままでもよかったじゃん。意味不明にも程がある。一体神様は何を考えてこの姿にしたのやら……

 

 

 …………うん、不毛だわ。いくら考えたところで神様の考えなんてわかる訳もないんだし、この件は後回しにしよう。

 

 何より今は性転換したことよりも、これから自分が何をしたらいいかを考えた方がいいのかもしれないしさ。

 

 転生したとは言っても、別に千歳さんにはこれといってやりたいこととか無いんだわ。『願い=駄ライフ』ってことになるぐらいだし、元々何か目標に向かって頑張るタイプでもなかったからなぁ……どうしたものか。

 

 

 一先ず性転換のことは頭の隅に追いやり、今後の方針を決めていこうと思う。何をするにしてもまずはそこからだ。

 

 

 「とは言ってもなぁ…………うん?」

 

 

 ここで今更ながらに気づいたことだけど、どうやら声も以前と比べてだいぶ変わっているみたいだ。

 

 前世の自分は少なくとも女性とは間違われないであろう少し低めの声だった。それが今では女性寄りの凛々しい声に変わっているのだ。

 

 流石に性転換程ではないにしろ、多少の驚きはあると言うもの。救いとしてはロリ声とかアニメ声じゃなかったことかな。その点だけは評価しよう。……本当によかったと安堵せざるを得ない。

 

 

 さて、少し本題から逸れてしまったけど、まずは一つ一つ状況を整理していこうと思う。それから今度の目的を決めるのも遅くはないだろうし。

 

 確か神様の話によると「地球であることに変わりはないが、間違いなくそこは異世界である」とのことだ。所謂パラレルワールドってやつだろうか?

 

 まぁ異世界っていうんだから、全く同じ地球であるとは限らないんだろうね。そこから察するに、もしかすると何か千歳さんが知らない常識がこの世界にある可能性も否定できないという……前途多難だ。

 

 そんな訳で、ここにきて千歳さんは初めて周囲の状況を確認をすることにした。

 

 何せ未だに千歳さんは自身の両手と胸部の膨らみ、そして見慣れつつも僅かに違和感を覚える灰色の景色(コンクリート)ぐらいしか目にしていないからな。

 

 後はチラチラと視界を遮る深緑色の髪の毛もそうなんだけど……今は見なかったことにする。例え前世と髪の色が変わっていたとしても、一々気にしていたら日が暮れてしまうというもの。性転換した以上の衝撃が無い限り、ここからは多少の変化は些細なもんだと流すことにしよう。

 

 

 

 

 

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 結論から言うと、もう何から何まで異常事態過ぎてよくわからんことがわかりました。最早頭の中が混乱しすぎてアッパラパーの思考放棄寸前である。

 

 というのも、そもそも千歳さんが現状いるこの場所事態がそもそも異質異様すぎてどう判断すればいいのか困ってるんだよ。元の世界でもそう見ることはない、寧ろ平凡な日常を過ごしているだけならまず生で見ることはないであろう平凡とはかけ離れた光景――

 

 

 ――小規模とはいえ、()()()()()()()()()に千歳さんは立ち竦んでいたのだった。

 

 

 「いやこれどういう状況?」

 

 

 ホント訳がわからない。流石に急展開すぎやしないかコレ? いやまあ転生なんて事態がそもそも急展開っちゃ急展開なことなんだけど……それにしたってだろこれは。もっとこう、赤子からとか転生後の自室で目覚めるとか、そういった穏やかな始まり方になるもんじゃないの普通? こんな破天荒な再スタートになるとは流石に予想外なんだけど……

 

 

 ……とりあえず現状を再確認しよう。今はとにかく落ち着いて現状の理解を深めるべきで自暴自棄になるにはまだ早すぎる。頑張れ千歳さん、まだ第二の人生は始まったばかりだぞ!

 

 

 そんなわけで改めて周囲の状況を再確認してみたんだけど……うーん、ホントどう判断すればいいのやら……

 

 

 一言でいえば"廃墟"だった。

 このクレーターのせいなのかどうかは定かじゃないけど、周囲にある建造物のほとんどが酷い有り様になっている。まるで強い衝撃を受けて壊れたかのようにボロボロだった。

 ビルの壁には大小様々な亀裂が走り、ガラスは残らず木っ端微塵。周囲に人の気配は感じられず、まるで人が滅んでしまったかのような哀愁漂う光景だった。

 

 一体何が原因でこんな有り様になってるのか検討もつかない。そもそもこのクレーターは何さ? 綺麗な円を描くように抉れてるし、それこそまるで隕石が落ちたみたいで――

 

 

 …………あれ、この状況……もしかしなくても千歳さんが原因だったりする?

 

 

 いや千歳さんとしては全く身に覚えがないんだけど……この状況、どうにも千歳さんが多少なりとも関わっている気がしてならない。流石にこれで無関係とは考えられんよなぁ……

 

 何がどうなって出来たかまではわからないけど、過程を考えたところで結果が変わる訳でもない。千歳さんはそっと事実から目を逸らすことにした。

 

 

 いやだって完全に地雷でしょこれ。酷い有様の街並みに直径5m程のクレーター。その中心に佇む不審な装いの女性(千歳さん)とか…………うん、これはアウトですわ。

 

 この場の光景を誰かに見られでもすれば、間違いなく面倒なことになりかねない。転生して早々警察沙汰とか嫌だぞ。

 

 

 ともかく、今はこの場から離れることが先決だと思う。このままここにいてもしょうがないし、面倒事に巻き込まれるとわかっていて待ち受けるなんて、そこまで千歳さんはマヌケじゃない。

 

 

 「……って、早速かぁ」

 

 

 クレーターから離れようとした千歳さん。しかしそこで、まるで見計らっていたかのように、そして先程の予感を裏付けるが如く、千歳さんの第六感的な何かが『遠くから迫りくる何か』を捉えたのだった。

 

 何となしに第六感とか言っちゃったけど、多分あってると思う。というかそうとしか言えないような感覚なんだよねぇ、この感じ。

 

 まだ距離はあるけど、間違いなく()()()何かが近づいてくるのを感じる。飛行機……にしてはやけに小さい。それこそ人一人分程の大きさの何かが複数、この場所に真っすぐと向かってきているのが、どういう理屈かわかってしまったのだった。

 

 

 ……激しく、嫌な予感がしてしょうがない。それはもう、近づいてくる何かと遭遇した瞬間、この先の未来が確定してしまうレベルで。……それも悪い方向に。

 

 よし、フラグは全力回避するに限る。ここは身を隠させてもらおう。

 

 とりあえずは急いでクレーターから脱出し――――何気なくジャンプしてみたけど、一気にクレーターの外まで跳ぶことが出来てしまった。どうなってんのコレ?――――ある程度クレーターから距離を置いたところにあるビルの陰に身を隠す。

 

 そのまま立ち去ってもよかったんだけど、後学の為にも何が来るのかぐらい確認しておきたかったのだ。流石に正体ぐらいは知っておきたいし、正直何が来るのか気になるところ。

 

 それに、出来ればこの世界について何かしらの情報も欲しいからね。もしも対象が言葉を介する生命体なら、その会話に聞き耳を立てて情報を頂くとしよう。

 

 ビルの陰に隠れ、ひっそりとその時を待つ。……なんだろ、この前世でやったステルスゲーを彷彿とさせる状況は。やばい、少し楽しくなってきたかも。

 

 そうして密かに心を高揚させながらクレーター外周を見張ること数分後……

 

 

 「空間震の発震源に到着。『精霊』は……やはりいないわね」

 

 「隊長、どうします?」

 

 「総員! 周辺を警戒しつつ辺りを散策! 決して単独で動く事が無いよう複数人で行動し、見つけ次第すぐさま合図を送りなさい! 全員で対処するわよ!!」

 

 「「「了解!」」」

 

 

 ……目のやり場に困るようなボディースーツ姿の女性達が、近未来的な武装を装備して空から降りてきたのだった。

 

 

 (なんじゃありゃ……)

 

 

 クレーターに降り立った女性達、その数ざっと二十人程。軍隊で言うなら一個小隊ぐらいはいるだろうか?

 

 全体的にまだ学生ではないかと思われる少女ばかりで、成人を迎えてそうな者は極僅か。ただのコスプレ集団と言っても通じそうな程、これまた現実味の湧かない光景が視界の先に広がった。

 

 

 (この世界、大丈夫なのかなぁ……明らかに未成年な子に銃を持たせるとか、そこまで殺伐とした世界なのだろうか? あまり考えたくないなぁ)

 

 

 世界のブラックさを垣間見てしまったことで、これから先の未来に僅かばかりの不安が募る。学生が懐から当たり前のように拳銃を取り出す世界……駄目だ、生きていける気がしないよ……

 

 と、ともかく今は情報収集だ。せっかくの情報源なんだし聞き耳を立ててみよう。なんだかんだ言ってあんな物々しい装備を身に着けているぐらいだし、彼女達の情報はそれなりに有用性がある筈。…………あるよね?

 

 

 

 ■■■□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 そうして視界の先にいる集団を警戒しつつ聞き耳を立てること数分――断片的にだけど、ある程度の情報を彼女達から得ることに成功した。

 

 話をまとめると、どうやらあの集団はクレーターの発生原因を探っているようだ。

 

 そして、その原因というのが――

 

 

 「精霊かぁ……」

 

 

 『精霊』という謎に満ちた生命体の仕業なんだとか。

 

 つまりだ。これまでの状況から察するに……

 

 

 千歳さんは、精霊に生まれ変わったってことなのだろうか?

 

 

 精霊……なんだろ、違和感が仕事してない感じがする。

 

 普通なら「千歳さんが精霊とかありえないから」と笑い飛ばしているところなのに……精霊と聞いて、何故だか不思議と心にストンと落ちてしまった。

 

 自分が精霊だと言われても全くの違和感がない。これを例えるなら……「お前は人間だ」と言われ、「なに言ってんの君?」と素で返すぐらい当然のことのように思えてしまう。

 

 

 「千歳さん……人じゃなくなっちゃったかぁ……」

 

 

 サヨナラ人生! 今日からは『千歳さん・タイプ=スピリット』だ! なんてね。

 

 転生ときて性転換からの別種族。非常識なトリプルストレートに千歳さんの頭がそろそろどうにかなってしまいそうだ。正直に言ってもう処理しきれんのです。……元からとか言っちゃダメよ?

 

 とりあえず、一度何処かゆっくりと落ち着けるところで頭を休めたいな。流石に現状が訳ワカメすぎる。……もうこの際、マジで考えることをやめて本能のままに生きた方がいいのかもしれないなぁ。多分、きっとその方が精神的には楽になりそうだし。……え? 流石にそれは駄目だって? 知ってる。

 

 唯一の救いは、自分がどういった存在なのか(精霊であること)を知れたことで、それに纏わる知識が呼び起こされた事かな。

 

 

 その知識とは主に三つ。『霊力』『霊装』『天使』についてだ。

 

 

 まず霊力についてだが、これは単純に精霊に宿る力の源とでも思ってもらえればおk。所謂ファンタジーで言うところの魔力ってやつかね?

 

 そんな霊力には様々な使い方が出来る。ぶっちゃけ万能と言えないでもない実用性があるみたいで、後で試すけど服装を変えられたりも出来るらしい。

 

 後は霊力を集めて打ち出すと言った、所謂『霊力弾』なるものを放つことも出来たり、単純に身体能力を上げることも可能。これについてはさっきの大ジャンプがそれに当てはまる。無意識ながらに使っていたようだ。

 

 なるほど、確かに使い方によっては千歳さんの願いでもある駄ライフを送ることだって出来るかもしれない。そう言った意味では、神様は千歳さんの願いを聞き入れてくれたのかもね。

 

 

 次に霊装についてだが……正直に言うと、これに関してはあまり触れたくなかったりする。

 

 というのも、実は今着ている服が霊装に当たるものなんだけど……簡潔に言うと、今の千歳さん、かなり際どい衣装を身に纏っております。

 

 上から順に説明していくと、まず丈の短い黒のタンクトップの上から金色の蔦のような模様があしらわれている深碧色のストールを右肩と首元を隠すように纏っている。……尚、タンクトップの丈が短いのに合わせてストールも上部にしか纏っていないせいで、自然と千歳さんのお腹が丸見えになってしまっているのにはあまり触れたくないところ。

 

 だって普通に恥ずかしいし。へそやら腰やらも丸見えなので、ホントに恥ずかしい。元男にコレは酷じゃあないかね神様よ? 無駄にスタイルがいいせいで普通に似合っているのがなんか悔しいです。そして虚しいです。

 

 次に下だが、こちらは腰にストールと同じ金色の蔦の模様があしらわれた深碧色の腰布を巻いている。その下は……ご想像にお任せ。

 

 一つだけ言っておくと、腰布は左前の辺りでバックリとスリットが入ってるんだけど……見方によれば()()()()()ようにも見えてしまう。チラリズムがヤバい。見えそうで見えないのがかなりエロイ。……それが自分の体で再現されているという事実に絶望した。泣きそう。

 

 また、腰布の結んでいるところには手持ちサイズのランタンのようなものがぶら下がってる。なんだかこのランタン一つで今の服装に『墓守』のような印象を抱いてしまうのは何故だろう? ……あ、天使の名前がそっち関連なのも理由かも。天使の名前については後程紹介するので少し待っててな。

 

 さて、話は戻ってランタンのことなんだけど……その中には淡く光る青色の焔が灯っていた。

 

 なにこれ? なんで青いんだろ? たまにガスコンロで見る青い炎に気持ち近い気がするけど……ちょっと違う。

 

 この焔はそれよりも薄く、今にも消えそうな程に弱々しく思える。

 

 試しにランタンへと手を近づけてみると、なんと不思議なことに冷気を感じた。

 

 冷たい。焔なのに冷たいのだ。流石精霊、よくわからんものをお持ちのようで……とりあえずこれは保留で。

 

 最後に金色の蔦の紋様があしなわれた茶色のロングサンダルを履き、ついでとばかりにお馴染みの金色の蔦で鎖骨まである深緑色の髪を首の後ろで一纏めに結べばあら不思議。

 

 

 霊装——〈神威霊装・終番(マサク・マヴディル)〉を身に纏う精霊千歳の降臨である!

 

 

 「どうしてそうなった」

 

 

 今にも顔から火が出そうです。

 

 もう何も言えねぇ。際どい……際ど過ぎんぞ神様ァ!

 

 主に肌の露出がホントもうっ! ——って感じで羞恥心がマッハで爆走するレベルで身悶えてしまいそうなんだけど!? 今はそんな場合じゃないから自制してるけどっ、ホントなんなのさこの霊装は!? 趣味ですか!? 神様貴方の趣味なんですかー!?

 

 ……あ、ヤバい。意識したら恥ずかしさがまた込みあがってきた。耐えてくれっ、もう少しだけ耐えてくれ! 千歳さんの粘土メンタルッ!

 

 

 そしてここで新たに悲報。羞恥心にメンタルが殺されそうになっている千歳さんですが、その心に反して体は全くと言っていい程、着ることに抵抗を示していないっていうね。

 

 どういうことさね。違和感仕事してくださいマイボディ。何しれっと着こなしちゃってるのさマイボディ? なんだか自分に裏切られた気分だよ……これではあの集団と同じくコスプレした人だと思われかねないじゃないか。人のことを言えないとはまさにこの事よ……くそっ、涙出てきたっ。

 

 

 ――ただし、そんなコスプレもかくやと言ったような衣装ではあるのだが……忘れてはいけない。これもまた、精霊が有する力の一端だということを。

 

 

 改めて説明するが、霊装とはいわば『鎧』だ。

 

 それが意味する通り、この……墓守風コス? も見た目に反してとんでもない耐久力と防御力を備えているのだ。

 

 知識によると、ちょっとやそっとの脅威なら軽く跳ね除けるとのこと。おそらく、あの集団が持つ重火器程度なら余裕で耐えられる程の頑丈さはあるようだ。銃弾を弾くストールor腰布とかパネェ。

 

 また、霊力によって常に状態維持されているのか、霊装には汚れや皺が全くつかない。雨に濡れることもないし、破れても一瞬で修復される。更にはどんな環境にも適応し、常に快適な着心地を約束するとか。

 

 何処のセールストークだよと一瞬思ったけど、どうやら嘘偽りない事実のようだ。因みにこの状態維持は霊力で拵えた服にも適用されるっぽい。

 

 ともかく、現状ではこの霊装を着ていればある程度の安全は保障される。例えそれが露出多めの墓守風コスであったとしても、安全性を考えるなら今はこの姿のままでいた方が良さそうだ。……まぁ安全性が確保されればすぐにでも着替えますけどね。それまでは無心でいようそうしよう。そうしないとマジでつらい。

 

 

 余談だけど、たまたま近くのビルの窓ガラスに映った今の千歳さんの顔が……髪や目の色は違ったけど、何だか見覚えのある顔つきをしていました。

 

 

 (あれ……この顔つき、若い時の母さんに似て……)

 

 

 どうやら今の千歳さん、完全に別の女性として生まれ変わったという訳ではないようです。

 

 ある意味前世の名残と言うのかもしれないけど……なんだか複雑な気持ちである。しかも下手すると元の方よりも美人に見え――ヒッ! さ、殺気!? どこから!?

 

 

 そして最後に天使についてだが、これは霊装とは真逆に位置するものだ。

 

 天使というのは精霊が持つ強大な力の象徴と言えるだろう。

 

 霊装が何者にも脅かされない絶対的な鎧であれば、天使は迫りくる脅威を振り払う絶対的な矛。何かしら特殊な能力を宿した武器とのことだ。

 

 それでその武器というのが――――っ。

 

 

 「ヤベ……あいつ等こっちに向かって来てるわ」

 

 

 新たに得た知識を整理している間に、どうやらあの集団(とりあえず今は『ASD(あの・集・団)』とでも呼んでおくか)が千歳さんの霊力波とやらを感知してしまったようだ。こちらに真っすぐと向かってきている。

 

 ジャンプした時ぐらいしか霊力使ってない筈なのに……もしかして、精霊って何もしてなくても霊力を出してたりするのか? それとも霊装が問題だったり? そうなると霊力で拵えた服もアウトなんじゃ……もしそうだったとしたら、後で何かしらの対策を考えないといかないな。

 

 

 (とにかく今はここから離れるべき……いや、相手がこっちの霊力を辿っているとすると、今から逃げて上手く撒けるか? 贅沢に言えば、可能な限り千歳さんが精霊であることは隠したいんだけど……)

 

 

 ビルの陰から迫りくるASDを視界に捉えつつ、これからどう行動すべきか検討する。

 

 相手が背部のスラスターによって空を飛ぶ以上、いくら身体能力を強化したところで追いつかれる可能性もない訳じゃない。ASDの話を聞いた手前、可能な限り彼女達とは関わりたくないと言うのが本音だ。

 

 

 ASDの会話を盗み聞きしてわかった事だが、あいつ等の目的は『精霊の討伐』……要は千歳さんを殺す事が目的みたいだ。

 

 精霊が現れる度に空間震が起き、そのせいで街が滅茶苦茶になってしまう。だからこそ精霊を討伐することが出来れば、その後に予想される空間震を無くすことが出来るかもしれない――つまりはそういうことらしい。

 

 うん、千歳さんの予感は間違ってなかった。だってあのままクレーターにいれば、会敵即殺が如く銃ブッパだっただろうからな。流石に転生して早々死にたくはない。

 

 その上、例えその場を後にしたところで顔バレしてたら意味がない。街中で偶然鉢合わせでもしてみろ、目も当てられんよ。

 

 

 …………よし、決めた。

 現状で掲げる千歳さんの目標は……この三つにする。

 

 

 まず『死なない事』『顔バレしない事』

 

 そして――『人を殺さない事』だ。

 

 

 いくら相手が殺しに来てるとしても、千歳さんは元々平和ボケした日本人だ。施設損壊はまだいいが(いやよくはないんだろうけど……)、人殺しは流石に抵抗がある。想像するだけでも忌避感や嫌悪感が湧くぐらいだし、千歳さんに人殺しは無理だろう。

 

 だから千歳さんは、人を殺さない。例え相手が殺しに来ていても、それを理由に千歳さんが相手を殺めることはない。

 

 『出来るだけ』ではなく『絶対に』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――まぁその分、容赦なく無力化させてもらいますがね?

 

 んじゃ、唐突で悪いが……天使の名前のご開帳だ。

 

 

 

 

 

 「……〈侵蝕霊廟(イロウエル)〉」

 

 

 

 

 

 ■■■■□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 『ソレ』は、突如として彼女達を襲った。

 

 空間震警報。それは精霊の現界――空間震の発生を予期し、住民の避難と対精霊部隊――通称『AST』の出動を意味していた。

 

 現状、精霊の存在は世間に知られていない。下手に精霊(天災級の怪物)の存在が広まってしまえば、余計な混乱を招くことになる可能性が高いからだ。

 

 そしてそれは同時にASTの存在もまた秘匿されることに繋がってくる。故に、ASTは住民が避難した後に出動せざるを得ないのだ。

 

 例え、精霊が既に現界していたとしても……

 

 今回も例に洩れず、住民の避難が終わったのを見計らい出動する予定だったAST隊員達。

 

 しかしここで、想定外な事が起きた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()空間震が発生した。

 

 

 幸いなことに、空間震が発生した周辺の避難は既に終わっていた。しかしそれでもまだ避難し終えていない場所が多数あったのにも関わらず、空間震は発生してしまったのだ。

 

 今までなら少なくとも住民が避難するまでの余裕はあった。何せ住民が余裕をもって避難する時間を儲ける為に、あらかじめ余震を感じ取って知らせる空間震警報を設置していたのだから。

 

 しかしその常識が、今回の件で覆された。

 

 警報が鳴り響く中、完全に避難が終わっていない中、轟音と共に空間震は落ちた。

 

 これにASTは目を疑ったであろう。そして口を揃えて言葉を漏らしてしまう。――「早すぎる」と。

 

 急いで発信源へと向かうも、そこに精霊の姿はなかった。

 

 規模的にはまだ小規模ではあったものの、隊員達は気が気でない。

 

 

 ――もしこれが、避難が終わっていない場所で起きたら――

 

 

 最悪の事態を想像し、数名の隊員が息を呑む。そんな中で今回現界したであろう精霊の危険性を察知したASTの隊長は隊員達に指示を出す。

 

 空間震が起きてから多少時間が経ってしまったとはいえ、まだ精霊が近くにいるかもしれない。それならば次がないよう精霊を見つけ出し、これを討伐する。もしかするとその場から動いていない可能性も十分にある為、どちらにしても油断は出来ない。

 

 隊員達は即座に頷く。今回のような事が繰り返すなど悪夢以外の何者でもないのだから。

 

 僅かに残っていた霊力を解析し精霊の追跡を始めるAST。

 

 そして彼女達はその霊力を辿り、人類を脅かす災害がいるであろう予測地点へと向かったのだった。

 

 

 ――しかし、そんなAST達の覚悟を嘲笑うかのように、『ソレ』は彼女達の前に姿を現した。

 

 

 「何、アレ……?」

 

 

 誰が呟いた言葉かはわからない。しかしその言葉は、ここに居合わせた隊員全員の想いだっただろう。

 

 ――今まで、彼女達が遭遇した精霊達は例にもれずその全てが美目麗しい少女の姿だった。同性ですら心を奪われかねない程の圧倒的な美貌を持つ絶世の美少女達。それが隊員達にとっての『精霊』という認識だった。

 

 

 しかし、此度現界した『コレ』は違う。

 

 

 大きさは2m程。全身を黒い靄で覆っているせいか、全貌がいまいちわからない。目を凝らすもそれが一体何なのかまではわからなかった。

 

 しかし、これだけは言える。

 

 

 「ば、化け物……っ」

 

 

 『ソレ』は()()()()()()()()()()()

 

 そもそも生き物であるかさえ疑わしく思える。動物のような姿かと思えば、鳥のような姿にも見え、次の瞬間には魚のような姿にも見えてしまう。

 

 形状を留めることなく常に変化を繰り返し、次々に別の何かへと変貌する。挙句には生物の骨格ではない姿になることも。

 

 これを『異形』と言わずして何と言う? まるでそう言わんばかりのおぞましき姿に隊員達は次々と顔を青ざめていく。

 

 

 既にこの時点で一部の隊員は心が折れかけていた。

 

 圧倒的な力を持つ精霊とは異なり、『ソレ』はそこに存在するだけで彼女達の精神を直接干渉し、蝕み始めていく。

 

 目の前の存在は、この場にいる者全てに『未知』と言う名の『恐怖』を擦り付けた。

 

 本能が危険を察知する。「今すぐ逃げろ」と心が叫ぶ。――それなのに、動けない。

 

 あまりにもおぞましい姿の『ソレ』を目視した瞬間から、まるで体を縫い付けられたかのようにピクリとも動かない。その上、目を逸らすことさえも叶わなかった。

 

 場は強制的に静まり返る。それは異様な程に、異質なまでに、それこそ自身の激しく動悸する胸の鼓動が聞こえてくるほどの静寂がその場に満ちていく。

 

 

 しかしその静寂は、長くは続かなかった。

 

 

 突如として変化を止めた未知の生物。

 

 最終的に球体へと姿を変えた『ソレ』は、急激に膨れ上がったかと思えば、次の瞬間には粉々に()()()()

 

 

  ――ブワァッ!!!

 

 

 まるで風船が割れたかのように破裂した『ソレ』は、破裂と同時に中から何かを噴出する。

 

 それは、その身に纏っていた黒い靄だった。

 

 

 「――ッ! 総員、退避ッ!!」

 

 

 いち早く正気に戻ったASTの隊長は、周囲の隊員に叫びかける。

 

 あの靄が何かまではわからない。だが、それが何かまではわからなくとも、どうするべきかは理解出来る。

 

 

 あの靄に触れてはいけない。絶対に何か良くないことが起きる。

 

 

 隊長の叫びによって一部の隊員も正気に戻り、後方への退避を開始した。

 

 しかし、全てではない。まだ正気を取り戻せていない隊員達は、迫りくる黒い靄を前にしても動けずにいる。

 

 そして黒い靄はその場から逃げられなかった隊員達を――呑み込んだ。

 

 

 

 ――【変質する星(ウル・アッシャス)】――

 

 

 

 何処からか響いた言葉。直接脳に語り掛けるようなそれに伴い、黒い靄に変化がもたらされる。

 

 隊員達を覆った靄は、隊員一人一人を包み込むよう流動したかと思えば一瞬の内に黒い繭のような形状へと姿を変えた。

 

 繭に捕らわれた隊員達は背部のスラスターによって空中に留まっていたが、それが今黒い繭によって遮られた事でそのまま地上に自由落下を始めてしまう。繭自体は弾力性があるのか、地面に落下しても弾む程度で済んだのは不幸中の幸いだろうか……

 

 

 やがて周囲に広がった黒い靄は霧散し、後には靄から逃れた隊員達が、焦燥した表情で黒い繭に捕らわれた仲間を救出する光景が広がった。

 

 周囲を見渡しても、あの謎めいた『ナニカ』の姿は見えない。どうやらこの場から離れたか消失(ロスト)したようだ。

 

 その事に安堵のため息を溢す隊員達。しかしそんな隊員達の心情は晴れなかった。

 

 

 此度の精霊……と言っていいのかもわからない未知の存在を取り逃してしまった。それはつまり、またあのおぞましい存在と対峙せねばならないことを意味していたから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――某日某所、未確認の精霊(仮)が現界する。

 

 特異な空間震と非生物的な姿。今までにないパターンで現界した異形の精霊(仮)――精霊と称してよいかどうかもわからない未知の存在だが、かの対象が放つ霊力波からは精霊のそれと合致していた為、現状は精霊と同じ扱いとする――は、此度の出撃でASTに大きな打撃を残す。

 

 そのおぞましき姿は周囲に恐怖を無差別に振り撒き、黒い繭に捕らわれた隊員達の一部は精神に異常を来すまでに至った。

 

 極度の恐慌状態。暗闇に対し過剰なまでの拒否反応を示すようになってしまい、一種の精神的外傷(トラウマ)を患ってしまう。

 

 現状では精神安定剤の飲用による症状の緩和が行われているが、完全に回復するまでには至っていない。

 

 これ以降、かの症状が確認された隊員は精神の不安定さにより一時戦線から離脱。症状が完治され次第復帰するかは隊員達の意思を尊重するとのこと。

 

 されど、回復以降に再発症の可能性もないとは言い切れない。十分に警戒すべし。

 

 

 理不尽な暴力による蹂躙ではなく、強制的な精神への干渉と後に現れる後遺症という今までにない傾向、それに加え予測できない空間震の発生という脅威から――対象の危険度を『AAA』と暫定。

 

 

 

 ————以後、かの対象を識別名〈シェイド〉と命名する。

 

 

 






 因みに時間軸は原作の()()()だったりする。

 次回。千歳さん、とある精霊と○○になる。それでは。

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