スロー・ナ・ライフ ーTS転生した精霊の日常ー 作:メガネ愛好者
どうも、メガネ愛好者です。
……次話書くのだけで何ヶ月かけてるんや自分。
その上、シリアス低めとか言いながら今回ガチシリアスじゃないか。何故だ……何故シリアスになってしまうんや……
スローライフ書きたいのに気付いていたらシリアス書いてた。しかも何度書き直しても余計にシリアス度が増すばかり——
……うん、私、きっとこういう小説しか書けないのね(悟)
気を取り直して……今回は七罪視点です。
『七罪が今の平穏な日々を手に入れるまでの物語・全編』になります。
ほのぼのなんて期待するな。何事にも暗い過去は付き物なんです……
あ、ここで注意事項。
七罪ちゃん、いろんな意味で暴走します。
それでは。
PS.タグ変更並びに前話に変更点があるので、未読であればそちらを先にご覧いただけたらと思います。
リビングを後にした七罪が向かった先は洗面所だった。
今や見慣れた洗面台の前に立ち、傍に置かれていた歯ブラシを手に取れば慣れた手つきで歯についた汚れを落としていく七罪。
別に霊力を使えば汚れとは無縁の生活を送れるのだが、現状での霊力運用はあまり好ましい手段とは言えなかった。
いくら七罪が千歳に
もしもそこでASTを始めとした彼方側の存在――〈ラタトスク〉はともかく、DEMなどに勘づかれでもすれば、今の生活も儘ならなくなってしまうのは確実だろう。例え千歳がすぐ傍にいて再封印出来る状況だったとしても、下手をすればその一瞬の間に洩れた霊力をどこかしらの観測機が拾ってしまう可能性もある以上、極力日常生活において七罪は精霊の力を使わないよう心掛けていた。
千歳と暮らしていくには人間として生きていかなければ都合が悪い。どれだけ手間が増えようとも、それを無視してまで今の平穏を壊す気など七罪にはなかった。
そんな彼女は歯ブラシから流れるシャカシャカといった小気味良い音を耳に入れつつ、物思いに更けていた。
(あれからもう二年、か……)
脳裏に浮かぶはあの日の光景。
それは七罪が初めて現界した日――彼女にとっての
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二年前、私は一人茫然と街を彷徨っていた。
今の自分とは比べようもない程にみすぼらしい姿、それこそまるで捨て子のような雰囲気を纏っていた私に頼れる人なんて一人もおらず、誰かを頼ろうにも周囲の者から向けられるのは嫌悪感を露わにした眼差しと拒絶を示す心無い言葉のみ。
「近寄るな」「話しかけるな」「邪魔だ」「どっかにいけ」
その言葉一つ一つが私の心に突き刺さる。無理に関わろうとすれば物理的に突き放そうともしてくる始末……
正直、限界だった。
人の目から逃れ、人通りの少ない路地裏へと身を隠した私。ひんやりと冷たいコンクリートの壁に背中を預けつつ、私はそのまま身を縮こまらせた。
――私が一体何をしたの? なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのよ……――
今思い返してみても腹立たしくて仕方がない。訳も分からないまま知らない場所に放り出された挙句、そのまま放置されるとかふざけんじゃないわよ。理不尽にも程があるでしょうが。もしも仕立て人が目の前に現れたとしたら、私は迷わずソイツの顔面に向けて拳を振り抜いていたわね。……まぁそれは今でも変わらないけど。
でも、その時の私が真っ先に抱いた感情は……苛立ちではなく、恐怖心だった。
頼れる相手は一人もいない。通りには大勢の人がいるのに、誰一人として私のことを気にも留めてくれない。まるで私一人が世界から隔離されているかのような、そんな錯覚さえ覚えてしまう。
寂しかった。心細かった。そして何より……一人でいるのが怖かった。
孤独感、疎外感、劣等感など、そうした負の感情が時間が経つごとに心を埋め尽くしていく。心臓が締め付けられるように苦しくて、頭の中はぐちゃぐちゃで、目からは止めどなく涙が溢れてきてしまう。
そうしてとうとう堪えきれず、泣き叫びそうになった時……私の前に、アイツが現れた。
『……どした、迷子にでもなったか?』
ぶっきらぼうな物言いとは裏腹に、何処か親近感が湧いてくる朗らかな表情を浮かべたアイツ――小汚い姿の私を見て顔を顰めることもなく、純粋な親切心のみで歩み寄ってきたときのアイツの姿が、今でも脳裏から離れない。
そして、不安に塗れた私の心を優しく包み込むかのような安心感を抱かせるアイツの雰囲気に……私の心は呆気なく傾いた。
気づけば私は大声を上げて泣いていた。みっともなく、恥も捨てて、ただただ子供のように泣き喚いてしまった。
そんな私の反応に対し、しどろもどろに狼狽えていたアイツの姿が印象に残る。まさか泣かれるとは思ってもいなかったのだろう、正直すまなかったと思ってる。
……でも、しょうがないじゃない。私は私で限界だったのよ……だから、そこは大目に見てほしい。
アイツは一向に泣き止まない私をどうにか落ち着かせようとしていたが、アイツの慌て様からどうすればいいのか見当もつかない様子だった。……まぁ自分で言うのもアレだけど、気休め程度の慰めを一つ二つ掛けて収まるほど、私の溜め込んだ鬱憤はそこまで生易しくなんかないけれども。
私が受けた傷は決して浅くはない。"誰にも相手にされなかった"という人によっては"その程度"と思うことでも、私にとってはとても耐えられるような事ではなかったのだ。
何せ、その時の私には
精霊のことや一般常識などの最低限の知識は何故かあったけど、それ以外の記憶――私個人に関する記憶は綺麗サッパリ消えていた。自分がどんな性格だったのかさえ曖昧になっていて、暫くはまともに頭が回らなかったぐらいだ。
つまり、いってしまえば私は生まれたての赤子同然……いや、多少の知識はあったからそれよりはマシなんだろうけど、それに近い状態で現界したといっても過言じゃない。
そんな私が周囲の人間達から拒絶に近い形でぞんざいにあしらわれて……傷つかない訳がないじゃない。私は、そこまで強くないんだから……
積もりに積もった感情の発露。それは決壊したダムの如く溢れ出し、自身の意志で抑え込むことなど出来はしなかった。
そんな感情の波を抑え込むのは容易な話じゃない……筈なんだけどね。
気づけば私はアイツに抱きしめられていた。
ただ背中に両腕を回すだけの抱擁。見よう見真似でやってみたと言わんばかりのそれに力加減なんてものはありもせず、正直に言って「へたくそ」以外の何者でもなかった。私のことを落ち着かせたいのかサバ折りにしたいのかどっちなんだと不満を抱く程の粗末な抱擁だった。
……それでも、私はアイツの抱擁を振り解こうとはしなかった。
初めて感じた人の温もり。それは冷え切った私の身体を徐々に温めてくれた。その力強さも苦しさより頼もしさが勝り、密着したことで聞こえる心臓の音が妙に心地良く聞こえた。
胸に込みあがる異様な熱に私の心が満たされていく。出会ったばかりだというのに、どうやら私の心は既にアイツを受け入れようとしているようだ。自分の事ながらチョロすぎやしないだろうか? ……まぁ、いいか。こんな気持ちになるのもアイツだけだし、アイツになら……うん、構わない。
言葉は無かった。慰めの言葉がアイツの口から出ることは始終なかった。……でも、それでよかったんだと今は思える。
建前なんていらない。ただ私のことを見てくれた。私の相手をしてくれた。私という存在を受け止めてくれた。たったそれだけのことが私にとっての救いとなり、歓喜に心が打ち震える。そして感情が抑えられなくなった私は、自然と自分からアイツに縋りついていた。
もう離さない。もう離れない。離れたくなんてないといわんばかりに、私はアイツの――千歳の腕の中で、涙が枯れるまで泣き続けたのだった。
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過去の記憶を思い返している内に手早く歯磨きを終えた私は、鏡越しに今の自分の姿を視界に収める。
鏡に映るは二年前とは異なる私。
サラサラのロングヘアーに健康体を維持した艶やかな肌、猫背は改善され、以前まであった卑屈気な雰囲気などは見る影がない程に霧散している。
私は変わった。変わることが出来た。千歳の助力もあったとはいえ、〈
きっと千歳と出会わなければこうはならなかったと思う。おそらくは未だに自分自身を卑下したまま、変わろうとする努力もせずに天使を使って姿を偽り誤魔化していたのではないだろうか。
〈
今の私が私でいられるのは千歳のおかげだ。千歳がいたからこそ、今私は幸せに暮らせている。
当初は「放っておけなかった」ってだけの理由から始まった曖昧な関係だったけど、今は『家族』という確かな繋がりで結ばれている。お互いに心を許し、少なくとも私は千歳の事を全面的に信頼している。
けれど……
(千歳……)
先程の光景が脳裏によぎる。
記憶が曖昧となり、自身が男なのか女なのか判断できずに頭を抱える千歳の姿。その歪な言動に、自然と私の表情は強張ってしまう。
千歳がああなったのは、私のせいだ。
恥ずかしい話だけど……千歳と出会ってから暫くの間、私は千歳の傍から離れなかった。……離れられなかった。
千歳との出会いを境に、気づけば私は千歳に依存するようになっていたのだ。
それは一瞬でも手を離した瞬間、私の目の前から千歳が消えてしまうような錯覚に見舞われてしまい、その不安から何らかの症状を引き起こしてしまう程のものだった。特に多かったのは過呼吸だ。胸を締め付ける程の強い不安感に呼吸が儘ならなくなり、終いには失神してしまう事もあった。
そんな私の状態に気づいた千歳は、流石にこのまま放っておくことは出来なかったのだろう、暫くの間私の傍にいてくれる事を約束してくれた。何だったらこれから一緒に世界巡りでもしないかとも言う。その提案に、気づけば私は二つ返事で頷いていた。
……それが事の発端。私ではなく千歳にとっての
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千歳は出来る限り私の傍に寄り添ってくれた。
手を繋いでと頼めば握ってくれたし、頭を撫でてと頼めば撫でてくれた。抱きしめてと頼めばあのへたくそな抱擁をしてくれる。
私が求めれば、千歳は可能な限り応じてくれた。嫌な顔は一切せず、私のことを第一に考えてくれた。
私は満たされていた。あの時の感じた不安感など抱くこともなく、ただただ幸福の海に沈んでいった。
……でも、そんな時だった。
常に千歳の傍から離れなかった私は、ふと違和感を感じてしまう。……感じてしまった。
千歳は私との間に何らかの壁を作っている。
確証はなかった。でも、千歳を見ているとなんとなくそうではないかと感じてしまった。
最初の頃はそんな様子もなかったし、私の要求に嬉々として応じてくれていた。……でも、次第に千歳の態度は変化していき、何処か余所余所しい雰囲気を纏うようになってしまったのだ。
何かと私に遠慮したり、壊れ物でも触るかのように接してきたり、挙句の果てには顔を合わせただけで赤面してすぐさま顔を逸らしたりと、どうにも落ち着かない様子を見せる千歳。
特に様子がおかしかったのは、千歳と一緒にお風呂に入るようになってからね。同じベッドに寄り添いながら寝る時も相当だったけど、その時の千歳は明らかに私と距離を置いていた。
因みにその時の千歳の様子は――
『……どうしたの?』
『な、何でもないですよ? いやホントマジで何もないですホント。全然問題ないですハイ。……ホントだよ? 千歳さん、別に緊張してるとかそんな事全然ないから寧ろウェルカムだから!! ……あ、いや、決してやましいことではないから深くは考えないで? 単純に見惚――じゃなくてそうじゃなくて……っ、と、ともかく! 千歳さんは至って平常であるからして七罪ちゃんが気にするようなことは全然ないからゆっくりしていってネッ!?』
『……うん、わかった。千歳がそう言うなら、気にしない』
『お、おう……なんかごめん』
『……? 何で謝るの?』
『あー、その……なんとなく?』
『……へんなの』
早口で何やら色々言ってたけど、その半分も正確に聞き取れなかった私は一先ず追及することをやめ、再び千歳をそれとなく観察する。
その後、何かを我慢するかのようなしかめっ面を浮かべたかと思えば、何かを思い出しては一気に気落ちし、まるで知りたくもなかった現実に直面してしまったかのように愕然とし、終いには打ちひしがれる。そして暫くして顔を上げた千歳が私を視界に収めた瞬間、それまでの悲壮感は一気に霧散したかのように赤面しながら慌てふためき、再び何かを思い出しては気落ちする……そんな無限ループがお風呂から上がるまで続いたのだった。……正直に言って挙動不審過ぎる。
その時の私には千歳の隔てる壁が何を意味しているのかが全く分からなかった。後程その理由を聞いて納得はしたが、その理由にこのときの私が気づけるかどうかと問われれば……答えはNOだ。
分かった事は――千歳が私に対して何らかの感情を隠している。それも、私に知られては不味いような何かを――それだけだった。
ここで私の不信感は急速に増していった。
冷静に見ていれば千歳が私のことを忌避している訳がない事など一目瞭然だ。理由はわからないけど、当時から千歳は私のことを何かと気にかけてくれていたからね。
……でも、当時の私にとってはその壁の存在自体がよろしくなかった。
先程も言ったが、私は千歳に依存していた。
――それも、病的なまでに。
出会ってから数週間で、気づけば私は千歳がいなければ気が狂ってしまいかねない程に依存していた。もしも千歳が少しでも私から何も言わずに離れていれば、途端に情緒不安定になってしまっていたことだろう。
だからこそ、千歳が私に何かしら壁を作っていることに気づき、それを確信した瞬間……私の思考は一瞬で黒く染まった。
『嫌々付き合うぐらいなら初めから私に関わらないでよ!!』
その時の私に心の余裕なんて一切無かった。
千歳は唯一私の事を見てくれた。
千歳だけが私と言う存在を受け止めてくれた。
千歳がいたからまだ私は正気を保っていられた。
千歳の存在そのものが私の心の支えになっていた。
千歳は――
千歳は――――
千歳は――――――
千歳は……私の全てだった。
だから、そんな千歳に『裏切られた』と、そう感じた瞬間————私の
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……次に私が見たのは、凄惨な光景だった。
周囲はまるで現代アートのような、それでいて何処か禍々しさを感じさせる惨状へと変貌していた。
街の建造物は軒並み奇妙な形状と色彩のオブジェへと様変わりしており、その大半が中程から砕け散っている。
罅割れた道路は粘土のように捻じ曲がり、未だ軟性を失っていないのか時間経過に伴い重力に引かれ形状を崩していく。
近くにあった車両や店に並んでいた品物などはそもそもの形状を留めておらず、微かに元の名残を残して周囲に散らばっていた。
そして、私の正面には座り込んだアイツ――
『……おう……目、覚めたか……?』
ボロボロの霊装を身に纏い、全身に裂傷や打撲などの様々な傷を残して血を流す……そんな千歳が、掠れた声で語り掛けてきた。
……そこで、私は悟った。悟ってしまった。
この状況は何なのか、一体何が起きたのか……いや、
やってしまった。
どうしよう。
どうしよう……
……違う。
違う、違うの……
私、そんなつもりじゃ……
こんな、つもりじゃ……
私は……ただ……
私、は……
……私は、取り返しのつかないことをしてしまった。
急速に冷めていく思考に、今までの自分がどれだけ身勝手だったのかを思い知らされ、打ちのめされる。
千歳は裏切ってなんかいない。
寧ろ千歳は私のことを過保護なくらい気にかけてくれていた。
確かに何らかの壁があったのは間違いないけど、誰にだって人には言えないことが一つや二つはあるだろう。
そんな当たり前な事さえ忘れて、私は自分のことを優先した。
千歳は私のことを優先してくれていたというのに、私は私の事しか考えていなかった。
それだけでも最低なのに、その上で私は……千歳を傷つけてしまった。
持てる限りの全力を出し切ったと言わんばかりに、力なく座り込む千歳。きっと千歳は、全身全霊を持って私のことを止めてくれたのだろう……私の視界に映る千歳の有様から、それがどれほど困難な事だったのかが想像できてしまう。
至る所に出来た青痣によって千歳の肌は変色し、裂傷から流れる赤い血が周囲に舞っている土埃と混じりあって千歳の体を汚している。擦り傷なんて数えるのも億劫な程あり、もしかすると何処か骨が折れているかもしれない。
今にも力尽きそうな程に傷つき、衰弱している千歳の姿に涙が止めどなく溢れてくる。埋め尽くさんばかりの罪悪感が心に押し寄せ、私の心を容赦なく抉ってくる。
もしかしたら、私のせいで千歳が死んでいたかもしれない。それ程までの重症を、意識がなかったとはいえ私が与えてしまった。
きっと、嫌われた。
千歳からしてみれば、成り行きで関わりを持ち、親身にしていた相手が急に訳も分からず暴走した上で殺しにかかってきたのだ。これ以上好く理由なんてある訳がないし、嫌わない理由にならない訳がない。
こんな身勝手で執着質な地雷女、嫌って当然だ。
嫌われるに、決まってる……
――そう思っていた矢先、私の視界を何かが埋め尽くした。
『……ごめん』
耳元で聞こえるアイツの声は、今にも消えてしまいそうなほどに弱々しかった。
『嫌じゃ、ないから……』
体に広がる温もりと、普段よりも力のない締め付けが私の体を包み込む。
『……七罪と、いたいんだ』
……なんで、そんなことを言うんだろう。
『ずっと、傍に……いたいんだ』
自分を傷つけた相手に対して、何を……
『だって……だって、
――オレは、七罪が――
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洗面所を後にした私は、身支度を整えた後に玄関へと向かった。
その道中、リビングの扉の前にて一度歩みを止めて、視線をリビングの扉――正確にはその先にいるであろう千歳へと向ける。
「……行ってきます」
あの時のことを思い出してしまったせいか、自然と声が小さくなってしまった。多分これでは千歳に声が届かないだろう……
私の心には未だにあの時の罪悪感が燻っている。
当たり前だ。事はそんな簡単に割り切れるものじゃない。
自身の感情が拗れた結果――例え今は完治して当時の傷跡が残っていなくても――千歳を傷つけてしまったことは事実なんだ。例え千歳が気にしていないからと、それでなかったことにするなんて私には出来ない。出来る訳がない。それに……
(あの時、私が暴走してなければ……)
あの一件の後、千歳は私との間に隔てていた壁の正体を独白した。
千歳が作っていた壁……それは、以前までの自分が男だったということ。
元々は何処にでもいるようなただの一般人だった千歳だが……ある日、とある存在が目の前に現れたと言う。
そいつは自身を神だと誇称した。
……正直に言って、私は胡散臭いと思った。そんな都合のいい奴がいるのかと。
どうやら千歳もそう思ったらしい。というか今でも半信半疑だとか。
そんな胡散臭い存在の手によって、よくわからないうちに精霊にされてしまった千歳。その拍子に肉体が女の体へと変貌してしまったようだ。
今では大分慣れてきたが、それでもまだ女の体に慣れておらず、そのうえ心は男のまま……そんな状況の中、同じ精霊とはいえ元から女である私とどう付き合って行けばいいのかわからなくなっていき、次第にその迷いが態度として現れるようになってしまった――それが、千歳が余所余所しくなった原因だった。
因みに、時折千歳が挙動不審になる原因もここにある。
どうやら千歳は私と過ごしていくうちに、私のことを「女の子」だと意識してしまうようになったみたい。そのせいで冷静にしていられなかったとか。お風呂の時にはそれが顕著に現れたとのこと。
……え? それを聞いて何か思うところはないのかって?
別に何も。正直どうでもいいわね。
だって私は千歳が女だから好きになった訳じゃないもの。だから例え千歳が以前まで男だったからって、それが理由で嫌いになる訳がないじゃない。
言っておくけど、現状ではあの時のこともあるから過度に執着しないよう気をつけているってだけで別に以前の気持ちが消えた訳ではないのよ? 千歳から離れたくないのは今でも変わらないし寧ろ我慢してるせいで日に日にその欲求が増していってるし何だったら今すぐにでも千歳に飛びつきたいぐらいには我慢の限界が近づいているしというかさっき千歳が私なんかを可愛いって言ってくれたんだけど聞き間違いじゃないよねホントなんで千歳はああいうことサラッと言えるのよ反則でしょあぁ思い出したら千歳に抱き着きたくなってきたそう言えば千歳最近は何度も繰り返してるうちに抱きしめるの上手くなっちゃったのよねあの時のへたくそな抱きしめ方の方が私的には好きなんだけど少し残念まぁあれはあれで心地いいから好きだけどそうだ頭も撫でてもらおう千歳って抱きしめるのはへたくそだったのに頭を撫でるのは昔から上手かったからねなんでも今はもう会えなくなった妹に再三せがまれて慣れているとか何それ羨ましい私だって千歳に撫でてもらいたいのに今では私が千歳の妹なのよそれなら私が代わりにその妹さんの分も撫でてもらっても構わないわよねでも自分から強請るのは少し気恥ずかしいしあの時の負い目もあるしで無理に強要するのは抵抗あるしあぁもうイライラするなんであの時の私は暴走しちゃったわけそのせいで千歳に思う存分甘えられないじゃないホント余計な事してくれたわね私自業自得だとわかっていても納得出来ないししたくない――――
………さて、話を戻すわね。
……さっきのことは追及しないで。さもないと床に溢した牛乳を拭き取ったボロ雑巾に変えるわよ。いいわね?
何にしろ、私の一方的な感情の爆発に千歳を巻き込んでしまい、挙句の果てにはそれで千歳を傷つけてしまった訳だ。この時のことは私が全面的に悪いのは明らかだ。
……それなのに、千歳は自分にも非がある、事前に打ち明けていればそもそもこんな事にはならなかった筈だと申し訳なさそうに頭を下げてくる。
そんな訳ない。千歳が悪いなんてことある筈がない。この件は結局私が千歳の事を疑念して邪推したのが事の発端だ。だから、千歳が自身を悪く思う必要なんて何処にもない……その筈なのに――
『だから……うん、
この瞬間から、千歳は私との間に作っていた壁を……
変化はその翌日から現れた。
余所余所しかった態度はなくなり、雰囲気も柔らかくなった。以前まで見せていたガサツな部分も鳴りを潜め、口調も気持ち落ち着きのあるものへと変わっている。
一言で言えば……そう、千歳は
以前までの千歳の仕草や態度からは確かに元男だった時の片鱗が見受けられた。私が千歳の独白を受けてすんなり納得できたのもこれが理由だ。
しかし、その時の千歳――「変わる」と宣言したあの日からの千歳からはそんな様子を一切見せない。やることなすこと全てが女のそれで……
それは……まるで……
『……え? 何さ急に。千歳さんは
千歳は……
ぐおぉぉぉ……じ、自分で書いててあれだけど……七罪が酷い目に会う描写を描く度に心ががが……
……まだ続きます。次回の更新は早めに……したい。