【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。実は志穂の誕生日イベントは2話構成だったという話。本当は今回の話も含めて1話に纏めるつもりだったのですが、思ったより文字数が膨らんじゃいましたので。



本編後 志穂の誕生日 夜

 

 

 10月9日月曜日。志穂の誕生会が盛大に開かれた後の、午後10時。一旦精霊マンションの自室でパジャマに着替えた志穂は1人、精霊マンションの屋上へと足を運んでいた。

 

 

「ふぅ……」

 

 秋の心地よい夜風が志穂の頬を優しく撫でる中、志穂は夜空を見上げる。

 星が綺麗だ。色とりどりの星が各々強弱の光を放つ様は、見ていて飽きない。

 

 今まではこんな風にのんびり夜空を見上げることなんてなかった。だって、この世界は志穂にとって残酷で、現界後、数時間内にいつも殺されてきたのだ。景観に趣を見出し、鑑賞する精神的余裕なんて志穂にはなかった。そんな志穂に夜景を眺める楽しさを教えてくれたのは士道だ。

 

 

「にゃッ!?」

 

 もっと色んな角度から星を眺めたい。そんな欲求に突き動かされるまま、真上に視点を固定した状態で付近を歩いていると、案の定、志穂の足がその場でつんのめり、志穂は頭から派手に転びそうになる。志穂は士道に封印されたことで、死の呪いに襲われなくなった。が、その代わり、死の呪いの弱体化バージョンとも言える不幸体質を、士道と共有する形で、その身に抱えることとなった。此度の転倒も志穂の不幸体質が発動した結果だ。

 

 

「わぷッ!」

 

 が、志穂の頭がコンクリート床に接触する前に、志穂がただいま抱え持っていたきな粉パンの抱き枕が上手い具合にクッションとなったため、志穂は勢いよくきな粉パンの抱き枕に顔をうずめるだけで、無傷で転倒イベントを終わらせることとなった。

 

 

(あ、危ないッス。十香先輩がプレゼントしてくれた抱き枕のおかげで命拾いしたッス。……はッ、まさか十香先輩はこの展開を見越して私に抱き枕を!? 何という洞察力ッ! 十香先輩マジリスペクトッスよ!)

 

 志穂独特の思考展開により知らぬ間に志穂の十香への評価が急上昇する中。不用意にその場をうろちょろすることをやめた志穂は、パジャマのポケットから箱型のオルゴールを取り出す。これは士道からの誕生日プレゼントである。箱を開くと、時空綺譚(クロノクル)のオープニング曲が奏でられる。

 

 オルゴールの澄んだ音色とともに、志穂は過去を思い起こす。砂名と出会ってからは、よく2人一緒にテレビでアニメDVDを見たものだ。あぐらで座る砂名の体の中にすっぽり入り込み、砂名に背中を預けて、砂名の両腕に囲われながら、アニメ鑑賞に興じたものだ。

 

 その中でも、特に時空綺譚(クロノクル)は砂名と志穂のお気に入りで、何度も何度も見返した。砂名は朱鷺夜がイチオシで。志穂は本当は虎鉄が一番好きだったけど、砂名の意見に同調して朱鷺夜が大好きだと言って。でも、そんな志穂の心境なんてお見通しな砂名は、私に気を遣うことなんてないから、もっと自分の気持ちに正直になっていいんだよと優しく語りかけてくれて。そんな、砂名との思い出が、オルゴールアレンジの時空綺譚(クロノクル)のオープニング曲とともに志穂の記憶からあふれだす。

 

 

 どれだけ願っても、もう二度と戻れない過去。

 志穂自身が誤って壊してしまった、志穂のかつての居場所。陽だまり。

 

 

「ーーあらあら」

「ッ!」

 

 志穂が感傷に浸っていると、ふと志穂の後方から聞き覚えのある声が届く。その声を契機に、過去から現実へと引っ張り戻された志穂がオルゴールをポケットの中に戻しつつ振り返ると、その先には、漆黒の髪に、色違いの双眸に、血と影の色で染められたドレスが特徴的な精霊こと狂三が優雅にたたずんでいた。特に何か特別なポーズを取っているわけではないのに、問答無用で絵になる様は、さすがは狂三といったところか。

 

 

「随分とちぐはぐな格好になってますわね、志穂さん」

 

 志穂の前に姿を現した狂三は、今の志穂の格好をどう評価すれば良いかわからないとの心境を困り顔で顕わにする。ちなみに、今の志穂はピンク色をベースに所々に白の水玉模様の入ったパジャマを着た上で、琴里からもらった白のリボンで髪をくくって短いながらもツインテールを作り、美九からもらった花形の髪飾りで髪を分け、夕弦からもらったチョーカーを首に巻き、耶俱矢からもらったシルバーの腕輪を右手首に装備し、四糸乃からもらった猫のパペットを左手に装着していた。その上、両手できな粉パンの抱き枕を抱える、皆からの誕生日プレゼント多重装備状態の志穂の姿が、狂三視点から非常にとっちからって見えるのは当然だと言えた。

 

 

「そうッスか? せっかくみんなから誕生日プレゼントをもらったんスから、どうしても身近に感じておきたくて、つい。えへへ。……ところで、狂三先輩? 今日はどうしたんスか? ……あ! ダ、ダメッスよ、狂三先輩! 私はもう残機1の元精霊ですから、時間を吸い取られたら死んじゃうッス! 残機ゼロでコンティニューできなくなっちゃうんで、私から時間を奪って殺すのはNGッス! ダメ、ゼッタイ!」

「わたくしがそんなことするわけありませんわ。全く、志穂さんはわたくしを何だと思っていますの?」

「あはは。まぁ今のは冗談ッスけど、でも私が士道先輩に封印されたことを知っているだろう狂三先輩が、残機1になって、もはや利用価値のなさそうな私にどんな用事があるのか想像できないんスよね」

「……ふふ、本当にわかりませんの?」

「え?」

 

 狂三が志穂の前に姿を現した理由を訪ねようとした志穂は、狂三の返事を聞くよりも早く、狂三が今までと同じ流れで志穂から時間を奪いに来た説を提示し、ブンブン首を左右に振りながら人差し指で×マークを作る。志穂が本気で言っていないと雰囲気から察した狂三が半眼で志穂を見つめると、志穂は冗談で示した説を取り下げつつ、改めて狂三の用事を尋ねる。すると、狂三は意味深に笑みを深めるとともに、志穂の手を取り、何かを握らせた。志穂が視線を落とすと、そこにはアンティーク調の懐中時計が志穂の手のひらに収まっていた。

 

 

「ーーって、これ!? 時空綺譚(クロノクル)の……!」

「わたくしからも志穂さんに誕生日プレゼントを差し上げますわ。士道さんと少々趣向が被ったようですが、そこは士道さんとわたくしとのフィーリングが近しいことを喜ぶことにしますわ」

 

 狂三からもらった誕生日プレゼント。それは時空綺譚のキーアイテムの1つである、アンティーク調の懐中時計だった。砂名がどんな時でも必ず身につけていた物と同じ、懐中時計。

 

 

「砂名さんと同じ懐中時計が欲しいってよく言っていましたわよね? だから、志穂さんの誕生日に渡すために手に入れていたんです。けれど、3年前は志穂さんと砂名さんに悲劇がありましたから、渡す機会を逸していましたの。……これは、砂名さんのことを覚えている志穂さんに渡さないと意味がない物。ですから、ずっと取っていたんです。3年前の、あの日から」

「狂三先輩……」

「やっと、渡せる日が来ましたわ」

 

 志穂にきちんとプレゼントを渡した狂三は、ふぅと安堵の息を吐く。そんな狂三の、見た目相応な様子を目の当たりにして、志穂はふと、封印されてから心の内で考えていた己の気持ちを、狂三に吐露することにした。

 

 

「……狂三先輩。私、何か先輩の力になれないッスか?」

「あらあら、いきなりどうされまして?」

「私は砂名先輩や士道先輩のおかげで救われたッス。今のは私があるのは、砂名先輩や士道先輩が私なんかのために頑張ってくれたからッス。……でも、最初に私を助けてくれたのは、狂三先輩ッス。右も左も分からないで、ただ現界しては死ぬことを繰り返すしかできなかった私に、色々と詳しいことを先輩が教えてくれた。世界に殺されてばかりで、泣き言ばかりの私に付き添ってくれた。私の霊装は、心に纏って心を守ることに特化したものだって教えてくれた。私が砂名先輩を殺した時、私が反転して手遅れになる前に、私の記憶を封印してくれた。記憶喪失になって、しばらく狂三先輩を、砂名先輩を殺した殺人犯だって勘違いして逃げてばかりの私を見捨てずに、またもう一度、改めて私のことを教えてくれた。私がなるべく苦しまずに死ねるように、世界が私を殺す前に、たくさん『時喰みの城』で私を殺してくれた。……狂三先輩が私を支えてくれたから、私は心が壊れる前に、砂名先輩と士道先輩に会えたッス。だから、恩返しがしたいッス。もう、私の時間を与えることはできないッスから、何か別の形で狂三先輩の力になりたいッス! 私は先輩のおかげで救われた、だから今度は私が先輩を救う番だって思うんスよ! そのためなら私はーー」

「ーーそこまでですわ」

 

 志穂は狂三に恩返しをしたいとの率直な気持ちを熱く熱く語る。段々とヒートアップしていく志穂の熱弁を、狂三は志穂の唇に人差し指をそっとあてがう形で、強制的に遮った。

 

 

「志穂さん。そう気負うことはありませんわ。わたくしは志穂さんを殺して時間を奪う、その相応の対価を与えていたにすぎませんもの。……志穂さんは忘れているかもしれませんが、わたくしは『最悪の精霊』ですわ。ゆえに、わたくしの敵は多い。そんなわたくしに、前までの無限の残機を持っていた頃の志穂さんならともかく、今の残機1の志穂さんが肩入れするのは非常に危険でしてよ。どうか、そのような分不相応な望みは捨てて、今は余計なことを考えず、死の呪いに襲われない、人間としての平和な生活を満喫するといいですわ」

「でもッ! 私にとって、狂三先輩は最悪の精霊なんかじゃなくて、近所の優しいお姉さん的な存在なんスよ。だから、先輩の力になりたいッス。……この気持ちは、先輩には邪魔ッスか?」

「……そうですわね、わたくしに志穂さんの助けは必要ありませんわ。わたくしは、わたくしの力で、必ず目的を果たすだけ。でも、もしもそれで志穂さんの気が収まらないのでしたら、新しい猫の溜まり場でも発掘して、わたくしに教えていただけると助かりますわ」

「ふぇ、そんなんでいいんスか?」

「ええ。あ、それと。これからも時々、わたくしの話し相手になってくださいな。志穂さんと話す時間はとても楽しいですもの」

「わかりました、それぐらいならお安い御用ッスよ!」

 

 下手に志穂の恩返しを認めたら、志穂が変に突っ走ってしまうかもしれない。結果、せっかく士道に救われた命を、失うことになってしまうかもしれない。そのような可能性を考慮して、狂三が志穂の恩返しを断ると、志穂は寂しそうに眉を下げる。志穂の様子を踏まえ、今の志穂の願いを拒否するだけで終わるのは望ましくないと考えた狂三は、志穂が無茶せずにすみそうな類いの頼みを志穂に託す。結果、志穂は猫の溜まり場捜索や、狂三の話し相手になることが、狂三への恩返しの一環になると判断し、狂三の頼みを快く承諾した。

 

 

「ふふふ。では、そろそろわたくしは退散いたしますね。精霊マンションの屋上(ここ)で志穂さんと長話をしてしまうと、士道さんたちにわたくしのことを気づかれてしまいますし」

「あー、それもそうッスね。それじゃあ、またいつか」

「ええ。またいずれ会いましょうね、志穂さん」

 

 志穂への別れの言葉を言い終えると、狂三は志穂からクルリと背中を向け、あっという間に闇と同化し、姿を消す。

 

 

「……ありがとうございます、狂三先輩」

 

 一方。狂三がさっきまで立っていた場所をジッと眺めていた志穂は、しばしの沈黙の後、改めて狂三への感謝を呟くのだった。

 

 




霜月志穂→元精霊。識別名はイモータル。今後、もしも狂三が目的を果たすべく『最悪の精霊』として世界の全てを敵に回したとしても、自分だけは狂三の味方でいようとこっそり心に誓った。
時崎狂三→精霊。識別名はナイトメア。志穂のことは結構気に入っている。それだけに、不幸体質を抱えているくせに、狂三の力になりたいと熱望する志穂を危うく感じ、なるべく危険と縁のない生活を志穂には送ってほしいと考えている。

 というわけで、志穂の誕生日イベントは今回で本当に終了です。今回は時空綺譚がアニメ化を果たしている前提だったり、時空綺譚のキーアイテムの1つが懐中時計だったりと、時空綺譚に関するオリジナル設定をかなり放り込みましたが、これ大丈夫なのかちょっと不安になってきました。

 【悲報】おまけのネタが尽きたので、またしばらく更新は途絶することでしょう。許して。

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