※この小説は一話完結の短編となります。


これは犬と飼い主の西住家が織り成す戦車道ストーリー。

犬は何を思い、何を感じて飼い主を見ていたのか。

ついに大人気キャラクター"西住家の犬"の全貌が明らかになる!?

この物語は涙無しでは見られない!ハンカチを忘れるな!

犬だって飼い主と同じく…………パンツのアホー!

え、パンツァーフォー?



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みなさんどうも!
この作品は短編となっております!主人公はタイトルから分かる通り……あの大人気キャラクターです!次の発売する一番くじでも確か景品がありましたね。
実は私、まだガルパンにはハマったばかりでして知識ガバガバなところがありましたらご了承ください。
それでは、パンツのアホー!


え、パンツァーフォー?


犬と飼い主と戦車道と

 

 

吾輩は犬である。名前はまだない。

どこで生まれたかは見当がつかないが、飼い主にある店を通った時に「ここがあなたの生まれたところだよ」と言われるが、全くわからない。

 

 

さて、冗談はこの辺にして、我の名前はベルリン。ドイツという国の都市の名前だという。だが飼い主から『ベルちゃん』と呼ばれることがある。こっちの方がお気に入り。

 

「ベルちゃん、ご飯だよ〜」

「やったー!(ワン!)」

「はい、お手!」

「はい(ワン!)」

「おかわり!」

「ほい(ワン!)」

「待て!」

「御意!(ワン!)」

「……いいよ、お食べ」

「いただきます!(ワン!)」

 

飼い主の許可を得た我は息を荒くしながら素早く用意された食事を食べた。うん、美味。

 

「うふふ、美味しい?」

「もちろん!(ワン!)」

「よかった。じゃあ私は学校に行ってくるね」

「行ってらっしゃい!お気を付けて!(ワンワン!……ワン!)」

 

飼い主はこれから学校に行くみたいだ。我々犬には学校なんていうものは存在しないからよくわからないが、飼い主の話を聞く限り、学校とは船の上で戦車のことを学ぶのであろう?

我が住んでいる家は戦車の競技、戦車道ではかなりの名門であるらしい。

 

その名を………島田流。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、間違えた。西住流だ、失礼。

撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し。鉄の掟、鋼の心……それが西住流だ。

 

「みほ、何してるの?行くよ」

「うん、お姉ちゃん!じゃあね、ベルちゃん」

「しばしの別れ……寂しいがこれも運命!次帰ってくる時を待っているぞ!(クゥーン……ワン!ワンワン!)」

 

さっきまで我の世話をしてくれていたのが西住みほ。そしてさっきその飼い主を呼んだのが西住まほである。2人は姉妹で、みほが高校1年生でまほが高校2年生だ。

2人の飼い主の学校は船の上にあるため、しばらくこの家には帰ってこない。昨日は学園艦というその学校がある船が補給のために港に停泊していたため帰ってきていたが、今日からはまた大海原に向けて出航するらしい。

 

確か次に帰ってくるのは、第62回戦車道全国高校生大会の決勝戦のあとのはず。

 

まほは優しい笑顔で我を撫でながら言っていた。

 

『ベル、聞いてくれ。黒森峰のフラッグ車の車長はみほなんだ。すごいだろ?』

 

 

そしてみほは不安そうな表情を仄めかせながらも優しく我を撫でながら言っていた。

 

 

『ベルちゃん、聞いて。私ね、黒森峰のフラッグ車を任されることになったんだ……大丈夫なのかな?』

 

その問いに「大丈夫だ」と答えると、我の言葉がわからないみほはそれでも「ありがとう」と呟いていた。

 

みほは副隊長を任されていて、さらにそのことに「私でいいのかな〜?」と言っていたが、我はみほは副隊長に相応しい実力を持っていると思う。いや、それは副隊長のというより隊長に値する……とか言ったら主にまほに粛清されそうなので黙っておこう。

 

 

 

────ガシッ

 

 

「きゃうん!?」

 

 

「いい度胸ですねベルリン」

 

 

まほとみほを見送ると背後から頭を掴まれた……!痛い痛い!くっ、この力は……

 

 

「しほ…(ワォ…)」

「────ギロッ」

「…家元(…ワォン)」

「よろしい。私を名前で呼んでいいのは家族のみです」

 

なお"家元"や"師範"、"様"などを付ければ名前で呼んでも可……

この人は西住流家元の西住しほ、この家の家主でもある。我はみほやまほが留守の間、主にこの人に世話してもらうことになる。

 

この家に住んでいるのは我、まほ、みほ、家元、常夫という家元の旦那、そして家政婦の菊代さんだ。まほとみほは学校があるときは学園艦に住んでいるため、基本は2人を抜いた3人と1匹だ。

 

あと皆は気付いてると思うがこの人は……

 

「ベルリン!」

「は、はい!(ワ、ワオン!)」

「散歩に付き合ってあげます。リードを付けなさい」

「いや、自分で付けれないんですが……(ワ、ワオンクゥーン……)」

「はい?それが人にモノを頼む時の言い方ですか?」

「すみません、リードは自分で付けれないので御手数ですが付けてもらえないでしょうか?(ワン、ワンワンワン!)」

「よろしい……」

 

そう、この西住しほは何故か我と、いや動物と会話できるみたいなんだ。確か、"西住流動物会話術"とか言ってた。

この西住流動物会話術は家元が西住流家元となるときに先代から受け継がれた技だという。なんでも、戦車道の試合中に敵の情報などを動物から教えてもらうために身につけるらしい。みほやまほにもいずれ必要な時が来たら伝授させるらしい。

しかし、この家元が我と話せるとわかったときは驚いた。それと同時に西住流とは面白いものだとも思った。でもこの人との会話は疲れる……この人絶対我のこと嫌ってるよな。

 

「さ、行きますよ」

「はーい(ワン)」

 

そして我は家元に連れられて散歩へと出掛けた。いつもなら我が先々歩くのだが、この人相手にそれをしたらきっと亡きものにされて焼肉で食われそうだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「家元……(ワン……)」

「なんですか?」

「小便をさせてください(ワンワンワン)」

「いいでしょう、許可します」

「ありがとうございます(ワンワン)」

 

家元からの許可を得て我は電柱に向かって小便をした。気持ちいい……

事を終えた後、それを確認した家元は手提げカバンの中から水の入ったペットボトルを取り出して我が小便をした部分に水をかけた。

 

「ふん」

「わあっ!家元、なにするんですか!?(ワォ!ウーワンワン!)」

 

なんだこの人!我に水をかけてきやがった!虐待だ!動物愛護団体に訴えてやる!!

 

「いえ、ただした後の顔が腹立たしかったのでつい……」

「ついじゃねぇーよ!(ウーワンワンワン!)」

「………はい?」

「え、いえ、なにもございません(ウ、ク、クゥーン)」

「さ、行きますよ」

 

我は体を揺らして水を家元にかからないように飛ばしてから歩き始めた。

 

 

 

 

「ぐっ……!?(ワオン……!?)」

「?どうしたのですか?さっさと歩きなさい」

「あ、あの……(ワ、ワン……)」

「なんですか?言いたいことがあるならさっさと言いなさい」

 

じゃ、遠慮なく言わせてもらうとしよう……

我は、先程、急にお腹が痛くなった……つまり……

 

「大きいのが、したい、です(ワン、ワン、ワン)」

「はぁ、やはりですか……許可します」

 

やった!これでこの苦痛から解放される……!

 

 

 

「これの回収作業はやはりめんどくさいですね……外には犬用のトイレはないのでしょうか」

 

家元はめんどくさそうに我の糞を回収しながら文句を言っていた。

 

「あるじゃないですか?(ワンワン?)」

「どこに?」

「ここに(ワン)」

「はい?」

「我ら犬にとってはこの地面全てがトイレなのですよ!(ワンワンワン、ワンワン!)」

「……………」

 

え、あ、いや、変な事言ったか?これ結構真面目に答えたんだけど……家元「何言ってんだこいつ」みたいな顔してるんだけど、怖い。

 

「……………」

「てか無言で歩き出さないで!怖いんですけど!(ワンワンワン!ワンワン!)」

 

もうやだ……早く帰ってきて……みほ……

 

 

『あはははは、もうそんなに走ったら危ないよ〜ベルちゃ〜ん』

 

『わーい!たーのしー!(ワーン!ワンワオーン!)』

 

 

あぁ、みほと楽しく野原を駆け回る我が浮かんでくる……

 

 

『ベル〜取ってこ〜い』

 

『御意!(ワン!)』

 

『ふふっ、よく出来たな』

 

あぁ、まほが投げたボールを取ってきて撫でられる我が浮かんでくる……

 

 

 

 

「奥様、おかえりなさいませ」

「ただいま。これ、ベルリンのした物が入っているから処分しておいて。私は手を洗ってきます」

「かしこまりました」

 

家元は菊代さんに手提げカバンとリードを渡すとスタスタと家に入っていった。おそらく手を洗うために洗面所に向かったんだろう。

我も散々だけど菊代さんも大変だよなぁ……

 

「さ、ハウスに戻りますよ」

「御意!(ワン!)」

 

菊代さんに引っ張られてハウスに連れていかれた。

我のハウスは小屋なのだが、柵で囲まれているため綱や鎖などでは繋がれない。ある程度の広さはあるため小屋の周りを走り回ることは出来る。

 

ハウスまで戻ると小屋の前で菊代さんは我を見つめていた。我は何事かと菊代さんを見つめた。

 

「ふふっ、みほお嬢様とまほお嬢様が恋しいでしょう?奥様はあなたを撫でませんからね……よしよし」

 

菊代さんは優しい。みほやまほがいない間、撫でてくれるのは菊代さんぐらいだ。親父殿も時々してくれるけど。

ん?菊代さんがキョロキョロしだした。しかもちょっと恥ずかしそうだ。

 

「……よし、大丈夫そうね」

「ん?(クゥン?)」

 

いったいこの人は何をする気なんだ?

すると菊代さんはスーハースーハーと深呼吸をした。

 

「ベ、ベル……ちゃん……」

「かわいすぎか!(ワン!)」

「ふふっ、ベルちゃん?ベールちゃん」

 

なんだ、名前を呼びたかっただけか。いつも我のことは「ベルリン様」と優しく呼んでいるが、誰も見ていない時、とくに家元が見ていない時にはこうして呼んでいる。

 

「ふぅ……さて、仕事しなくちゃね。またね、"ベルリン様"」

「頑張れー(ワーン!)」

 

菊代さんは満足すると我に手を振ってから仕事をするために家の中に入っていった。

大変だなぁ、家政婦って……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

時は流れて……

 

第62回戦車道全国高校生大会、決勝戦。

 

黒森峰女学園 vs. プラウダ高校

 

 

 

我はTVを見ていなかったが菊代さんが見ていたのでその音声だけは聞こえていた。

だが我はみほとまほがいる黒森峰女学園が勝利すると確信していたので気持ちいい日差しに照らされながら昼寝をした。

 

 

 

 

 

まさか、あんなことになるなんて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますともう夕方だった。

だが、なんだか家全体が昼間とは違って空気が重いように感じた。

何故だ?みほ達は勝利したんだろう?なのになんでこんなにも……

 

「失礼します……」

 

すると大広間の襖を開けて菊代さんが出てきた。だがその声は明るいものではなく、なんだか少し暗いものだった。

そして我が起きているのを見ると菊代さんは下駄を履いて我のところへ歩いてきた。

 

「なにかあったのか?(ワンワン!)」

「ベルリン様……」

 

しゃがんで声をかけてきた菊代さんは深刻そうな表情をしていた。

 

そして、我を撫でながら信じられない言葉を口にした……

 

 

 

「────────黒森峰、負けちゃったんですって」

 

 

 

────我は、言葉を失った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

信じられない、まさか黒森峰が負けるなんて……これは詳しく聞かねば……!

 

 

「失礼します……」

 

菊代さんが晩御飯の支度をするため去ったあと、まほが襖を開けて出てきた。まほなら詳しく知ってるはず!

 

「まほ!まほ!黒森峰が負けたって本当か!?(ワン!ワン!ワンワンワン!?)」

「………ベル」

 

まほは我の方を悲しそうな表情をして振り返って見てきた。そして玄関の方から我のハウスに向かってきて我を優しく撫でてきた。

 

「ベル……残念ながら黒森峰は負けたんだよ」

 

どうやらまほは我がまだ試合結果を知らず、黒森峰の勝利を信じていると勘違いしているのだと思っているようだ。

 

「そんなこと知ってる!なんで負けたのか聞きたいんだ!(ワンワン!ワンワンワン!)」

「…………みほは間違ってなかった。でも結果としては黒森峰の、西住流の名を汚したことになってしまう。私は、どうすればいいのだろうな……」

「は?(クゥン?)」

「……すまない。こんなこと言ってもベルにはわからないね」

 

待て、一体どういうことだ?

 

"みほは間違ってなかった"?

 

"黒森峰と西住流の名を汚した"?

 

全く意味がわからない。

 

が、その意味さえ言うことなくまほは再び家の中へと戻っていった。

 

だが、我にわかることは……まほはみほのことを心配していて、同時に自分がこれからどうすべきかどうか迷っている。それは我を撫でてくるまほの手から伝わってきた。

 

 

 

 

「……失礼します」

 

しばらくしてみほが襖を開けて出てきた。

まほが出てから大分時間が経っている。台所からもいい匂いがしているため、おそらくもうすぐ晩御飯ができるのであろう。

 

「みほ!みほ!なにがあったんだ!?みほ!(ワン!ワン!ワンワンワン!?ワン!)」

 

「…………………」

 

「みほ……?(クゥン……?)」

 

我はみほから事情を聞こうと名前を呼んだが、みほは我の声には反応せず無言で落ち込んだ表情をしながら自分の部屋の方に歩いていった。

 

「奥様、晩御飯のご用意ができました」

「わかったわ」

「あの……みほお嬢様は……」

「一応声をかけてあげなさい。もっとも、食べるかどうか分からないけれど」

「……かしこまりました」

 

相変わらず冷たいなぁ、家元は。あ、家元が出てきた。

 

「………私のときは吠えないのね」

「ワンワンワン(どうせ言っても話してくれないでしょ?)」

「犬のくせにわかってるようですね。でもこれだけは言っといてあげます」

 

家元は縁側に置いてあったサンダルを履いて我に歩いて近づいてきた。

な、なんだか妙な威圧を感じる……!

 

「グルルルル……!」

 

我は本能的に威嚇の行動を取ってしまう。

だがこれが本能的な行動ということはこの西住流動物会話術を使う家元はわかっている。

 

「これは西住流の名を汚したことなので1度しか言いませんよ。"みほは試合を放棄して戦車を出て、その結果黒森峰女学園は負けたのです"」

 

「それはどういう……?(ワン……?)」

 

「これ以上は言いません。ま、みほのことならいずれお前に言うでしょうね」

 

そう言い残すと家元は家の中へと戻って食事をしに向かった。それと入れ替わるように親父殿が我の皿を持ってきた。

 

 

ん、親父殿!?

 

 

「珍しい!親父殿が持ってきてくださるとは!(ワン!ワンワンワン!)」

「ははは、よしよし。ご飯が嬉しいのはわかるがちょっと落ち着いてくれ。さ、お食べ」

「いただきます!(ワン!)」

 

親父殿は皿を我の前に置くと早速食べる許可をくれた。そして我が食べている姿を見ながら優しく撫でて、こう言い残して家の中へと戻っていった。

 

「お前はいいよな〜。こっちは気まずくて仕方ないってのに……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

結局、みほはご飯を食べなかったみたいだ。

 

心配だ……一体どういう事だ?みほが試合を放棄して戦車から出たって……

確かに戦車道の名門、西住流の娘で黒森峰女学園の副隊長であるみほが戦車から試合中に出たことは信じ難いことで、それは西住流の、黒森峰女学園の名を汚したことになるだろう。

そう、黒森峰女学園は戦車道全国高校生大会で偉業の9連覇を達成していて、今回は10連覇がかかっていたのだが……敗北した。その責任は誰に行くのか……おそらくみほかまほだろう。

みほはフラッグ車の車長で、黒森峰の副隊長で、さらには今回試合中に戦車から出てしまった。

まほは言わずと知れた黒森峰の隊長だ。敗北の責任が全て隊長に向くのは仕方の無いことだ。

 

うーん、心配で落ち着かん!!

 

 

 

すると、玄関の扉が開く音がして、誰かの足音がこちらに近づいてきた。この足音は……

 

「みほ!(ワン!)」

「しーっ!怒られちゃうよ〜」

 

我が名前を呼ぶとみほは周りを気にしながら人差し指を鼻につけて我にそう言ってきた。

そう言いながらもみほは我の頭を撫でた。

 

「あははっ、よしよ〜し」

 

不謹慎だとわかっているが、我はみほに撫でられていることがとても嬉しい。

 

だが、みほの手からなにかを感じる……

 

 

────恐怖、不安、迷い。微かに我に触れたことによって安心しているみたいだが……

 

「一体何があったんだ。決勝戦で一体何が!?(ワン!ワンワンワン!?)」

 

「ベルちゃん……心配してくれてるの?」

 

「心配するに決まってるだろ!(ワンワンワン!)」

 

「ねぇ、ベルちゃん、聞いてもらってもいい?」

 

我は無言で頷いた。

 

「あのね……私、試合中に戦車から出ちゃったんだ。赤星さん達が……仲間の戦車が川に落ちちゃって、助けなきゃって思ったの。だから戦車から出て、川に飛び込んで仲間を助けたの……」

 

みほは悪くない。我はそう確信した。

みほは正しい行動を取ったはずだ。でもみほが戦車から出たことによって負けてしまったのは事実なのだろう。もしそこでみほが助けていなければその仲間達は危なかったわけだし、もしかしたら黒森峰女学園は"負の歴史"を背負うことになっていたかもしれない。

 

だが、みほが落ち込んでいるのは他に理由があると直感で感じた。

 

 

「それでね、お母さんに言われたの。

『あなたは西住流の名を汚し、黒森峰女学園の10連覇を逃すきっかけとなったのよ。それに西住流の名を汚したということは家元である私の顔に泥を塗ったということにもなるわ』って」

 

確かに勝利を逃すきっかけになってたがそこまで言わなくても……それに西住流の名を汚したは流石に言い過ぎだろ……と我は思うわけで。

しかし家元の顔に泥か……かけてみたいな。

 

「それとね、こうとも言われたの。

『いかなる犠牲を払っても勝利する、勝てるためならば手段を選ばない、それが西住流。みほ……仲間を助けるなんて西住流にとっては邪道!それをまさかあなたがするなんて……全く、何を考えているの?それでも西住の名を背負っているという自覚はあるの?』って……」

 

なんだよ、それ……あんまりだ。

 

「やっぱり私って、西住流の後継者に……戦車道に向いてないのかな?」

 

すると、みほの目からポツポツと涙が流れていった。

 

そんなことはない。みほは正しい。

 

なのに……

 

「うっ、うぅ……」

 

「みほ……(クゥーン……)」

 

我はみほの頬をつたって流れている涙をぺろぺろと舐めた。

 

「ベルちゃん……?」

 

この思い……この気持ち……伝えたい!

 

人には人間の言葉はわからない……

 

だから伝えることは出来ない……

 

だが、我は吠える。必死に。

 

 

 

 

 

「みほは間違ってない!みほは悪くない!(ワンワン!ワンワンワン!)」

 

 

 

 

 

そのときだった…………

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、誰……!?誰かいるの……?」

 

ん、待てよ……この反応……!?

 

「菊代さん?お姉ちゃん?お父さん?」

 

「わ、我だ!我だ、みほ!(ワン!ワンワン!)」

 

我は舌を出してハァハァと言ってしまうほど興奮した。これはもしかして!

 

「っ……!ベル、ちゃん……?」

 

「そう!我の言葉が通じるのか!?(ワン!ワンワン!?)」

 

「あれ、なんで?私、疲れてるのかな……?」

 

ええい、こうなったら言いたいことを言ってやる!

 

「みほ!みほは間違ってなかった、絶対に!仲間達を助けてなければその人達は"いなくなっていた"かもしれない!みほがその仲間達の"命"を救ったんだ!西住流がなんだ!黒森峰女学園がなんだ!みほは、"みほの戦車道"を進めばいいんだ!!(ワン!ワンワン、ワン!ワンワンワンワンワン!ワンワンワン!ワンワン!ワンワン!ワンワン、ワンワンワンワンワンワン!!)」

 

「え、ベルちゃん……しゃべって……!」

 

「違う、それは……(ワン、ワンワン……)」

 

我はみほに西住流動物会話術のことを伝えようとした……が、そのとき……

 

 

「こらベル、うるさいよ。みほもこんな時間になにしてるの?」

「お姉ちゃん……」

「早く寝なさい。今日は疲れたでしょ?」

「……うん、わかった」

「ベルももう寝るんだよ」

 

まほが来てみほを部屋まで戻るように言いに来たのだ。

みほは去り際に小さく手を振ってくれた。まほもみほの後ろを歩いて部屋に帰っていった。

ま、みほに伝えたいことは伝えたしいっか……

 

 

「ベルリン」

「は、はいっ!(ワオン!)」

 

みほ達が去ったあと家元が寝ようとした我に声をかけてきた。怖い。助けて。

 

「さっきからなにを言っていたのですか?みほみほみほと……みほにはお前の言葉は聞こえないのに」

「………いや、みほには我の言葉が伝わっているように見えた……(ワン、ワンワンワンワン……)」

「なっ、そんなはずは……第一、この西住流動物会話術を使えるのも、その使い方を知っているのもこの家元の私だけなのですよ!?」

 

そう、その通りだ。だから我もこの家元も驚いているのだ。

 

「……早く寝なさい。近所迷惑よ」

「はいはい。おやすみなさい(ワンワンワオー)」

 

そしてなんだか感覚的に長い日が終わった。

 

 

 

一方そのころまほみほは……

 

「ねぇ、お姉ちゃん……」

「ん?どうしたの?」

「あのね、なんだかさっきベルちゃんの言葉が聞こえたような気がするんだけど……」

「……きっと疲れているんだよ。早く寝なさい」

「うん……」

 

(みほがベルの言葉を……?みほはそれほど疲れているのか……どうしたものか)

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

西住流動物会話術……

 

西住流継承者が家元となるとき、またはそれが決定しているときに先代から極秘に伝えられるものである。

 

そう、この技を知るのは基本的には西住流先代と家元のみなのである。家元はこの技をまほにもみほにも伝えていないため前述のような状況になっている。

 

つまりこの技を使うものは……西住流継承者ということになる。

 

だが、そんなみほが犬の言葉を理解したということは………

 

 

「いえ、そんなことは認めない。認めるわけにはいかないわ……」

 

 

西住流家元、西住しほは認めるわけにはいかない。あの決勝戦であんな失態を犯したみほを西住流継承者に認めるだなんて……ありえない。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

その後、みほは自分のせいで負けてしまったことの責任感に追い打ちをかけるように家元に叱られたため引きこもりがちになってしまった。

そしてついには戦車道にさえもトラウマを抱えることになってしまった。

 

そしてみほは黒森峰女学園から転校してしまった。

みほは戦車道のないところへ転校し、熊本を去る日に我にこう言ってきた。

 

 

『ベルちゃんごめんね、さようなら。また会える日が来れば会いましょう……』

 

 

付け加えるとみほとはあのとき限りで言葉を交わせていない。

 

 

 

 

みほの転校先、大洗女子学園。

そこは戦車道がなかったみたいだが、なんとみほが転校した時にそれが復活し、さらにみほはその戦車道チームの隊長になっている。

何故あんなに戦車道に対してトラウマを抱えていたみほがまた戦車道を始めるなんて……それに隊長として……

 

それはまほはわかっていたみたいだが初めは家元に黙っていた。我には話してくれてたけど。

 

家元はついにみほに準決勝で"勘当"を言い渡すと言ったが、それは行われることなく第63回戦車道全国高校生大会決勝戦の日を迎えた。

決勝戦の組み合わせはみほ率いる大洗女子学園vs.まほ率いる黒森峰女学園だった。

我は中継を菊代さんとともにTVで見ていた。

 

 

試合の結果はみほ率いる大洗女子学園の勝利だった。とてもいい試合だった。

 

 

みほ、見つけたんだな……"みほの戦車道"……

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

第62回戦車道全国高校生大会決勝戦会場……

 

決勝戦開始直前……

 

 

「待ってくださいみほさん!」

 

「あっ、赤星さん……」

 

「お久しぶりです!」

 

試合前に大洗女子学園隊長であるみほを呼び止めたのは、昨年の決勝戦で川に落ちた黒森峰の戦車の中に搭乗していた赤星小梅であった。みほとは黒森峰時代から仲が良く、みほはこの小梅が、大切な友達が乗っていることもあってフラッグ車である自らの戦車を飛び出して助けたのだ。

 

「あのときはありがとう。あのあと、みほさんがいなくなってずっと気になってたんです。私達が迷惑かけちゃったから……」

 

「ううん、そんなことは……」

 

「でも……みほさんが戦車道辞めないでよかった……!」

 

「っ……赤星さん……!」

 

このとき、みほの中に引っかかっていた"なにか"が解けたような気がした。

 

 

そしてそのときみほはあることを思い出していた……

 

 

 

『みほ!みほは間違ってなかった、絶対に!仲間達を助けてなければその人達は"いなくなっていた"かもしれない!みほがその仲間達の"命"を救ったんだ!西住流がなんだ!黒森峰女学園がなんだ!みほは、"みほの戦車道"を進めばいいんだ!!』

 

 

 

あのときに聞こえた言葉。

夢だったかもしれない、現実だったかもしれない、疲れていたから聞こえた幻聴かもしれない……でもしっかりと残っているその言葉。

 

 

 

「そんなわけ、ないもんね……ベルちゃん」

 

 

そう、犬が人の言葉を話すなんて有り得るはずがない……と、まだ西住流動物会話術を知らないみほは思う。

 

 

幻だったとしても、夢だったとしてもいい……あのときの言葉はみほの胸の中に刻まれていた。

 

 

「(私は、私の戦車道を進む……!)

パンツァーフォー!」

 

 






ありがとうございました!
いやぁ……犬とか猫になって、推しキャラの家で飼われて可愛がられたいですよね。え、ない?そうですか……
しかし……泣けますよね、みぽりんのあの話……なんていい作品を書いてしまったんだ俺は!(自画自賛)
あと、ベルリンのシーンの中で不快に思われた方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。完全に勢いで書いてました(これでも修正済)。修正前はストレートでしたからねぇ……

宣伝!
ガルパンは長編で2つ書いていますのでお暇があればそちらもお読みください。まだ始まったばかりですがね。
それでは、読了ありがとうございました!


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