ファンタスティック・アカデミー!【異世界×大学物】 作:丸いの
賑やかな王都の大通りに面したお洒落なオープンテラス。場所が学園区内で若い客が多いことも合わさって、本来ならば非常に華やかで楽しげな場所なのだろう。しかし僕が見るかぎり、その場所のある一点だけは明確に周囲から浮いていた。
「……うわあ」
良い感じの軽食屋を見つけて意気揚々とテラス席へと向かってみれば、僕たちの前にあったのはとある異様な光景だった。
昼としてはやや遅い時間帯だが、それでも休日の午後となればこの手の店は結構混んでくるはずだ。そうなれば個人で来ている客は四人席でゆったりと座るようなことは難しいだろう。しかしとある机の客だけはたった一人で来店しているにもかかわらず、四人席にさも当然のように腰かけながら寛いでいた。皿の上には食べかけのサンドが並んでおり、手元のカップからはまだ湯気が立ち上がっている。少なくとも長時間場所を占拠しているというわけでも無さそうだ。
「よく似た別人……ということはないよなあ」
「絶対にないわね」
目元に掛けるのは大きな銀縁眼鏡。手に持つのはホチキス止めした紙束。自身の周囲に軽いドーナッツ化現象が発生していても、まったく気にした様子もなく手元の論文に目を通しながらサンドイッチを頬張る彼は、紛れもない我が研究グループの若きトップだ。この古風なヨーロッパっぽい街の中でも、これ程までに何一つ周囲に溶け合わせようとする姿勢を見せないのはある意味賞賛に値すると思う。
「……平塚先生。一緒に座ってもいいかな?」
「ああ……って、お前たちもここに来たのか。別に構わないよ」
わき目で此方をチラリと確認した先生は、目を少しだけ見開いて驚いた様だ。ならば遠慮なく隣に座らせてもらうことにする。
僕なんかは相手がある意味自分自身ということもあるからそこまで気兼ねなく座ることができるが、藤沢さんにしてみればボスである准教授相手と同席につくからか、少々遠慮がちに先生の正面へと腰を下ろした。そしてレシルは、警戒感丸出しの様相を隠そうともせず、つい先ほどまでのにこやかな表情を消して僕の正面へと腰かけた。ただ座るという行動一つをとってみても、各々が平塚先生にどのような意識を持っているかが分かる。
「先生は確か東京の方にサンプルを取りに行ったって聞いたのですが、早かったですね」
「それな。大月について列車の時刻を確認していたら、ちょうど早川先生から電話が来たんだよ。聞いてみたら学内郵便で送ったサンプルはもう届いたかってな」
どうやら、僕たちの元ボスである早川教授がわざわざサンプルたちを送って下さったようだ。学内郵便で送ったとのことだが、果たして東京の本キャンパスからリーヴェルのど真ん中に物を届けることが出来るのだろうか。
「その後関所で問い合わせたら、物はきちんと届いていた。これから新校舎の方に送るらしい。本当先生には頭が下がる」
その後、わざわざ東京の方に出向く用も無くなってしまった先生は、とりあえず大月からこちらへ戻ってきたらしい。空いてしまった時間を利用して校舎の外を軽く散策でもして、さあ昼食でもしようかというところで丁度僕らとかち合ったのだろう。
「大月を散歩するのも良かったけど、もう桜も結構散っちゃったからな。何ならこっちを見て回った方が興味深い」
「まあ四月に入って一週間以上たったしね。来年こそは満開の中で大月さくら祭りを見物してやる」
しかし見て回ろうというのならば、手に持ったその紙束は一体何なのか。近付いてみてみれば、予想通り紙面には何かのグラフや詰め込まれた英字が踊っていた。休日を満喫する時でさえ論文で情報収集をする勤勉さが彼の研究人生の糧となっているのだろう。しかしそんな姿がもう一人の自分自身だとはちょっと思いたくない。僕もここまで勤勉な研究者になれるのかは結構不安だ。
「さて、二度目の対面ということになるか。国立東都工科大学准教授、平塚礼二だ」
「……レシルティア・フォルガント。あなたの生徒ラスティレイ・フォルガントの妹です」
やはりと言ったところか。平塚先生と挨拶を交わすレシルは、表面上こそ丁寧な口調を使っているものの、その態度は赤の他人に対する物としても冷たすぎるように感じる。そして言葉のトーンが下がったためか、正面に座る彼女から冷たい大人っぽさがにじみ出ているように見えた。
「相変わらず嫌われているな。こりゃあ参った」
顎に手をあてて渋く笑う平塚先生。年上の人間に対する我が妹の態度は、身内びいきに見ても流石に褒められたものではない。それを軽くいなして笑う辺り、先生は大人であると感じられる。本当は中身を辿れば僕と全く同じ存在であるはずなのに、なんだか遠いものに思えてしまうくらいには。
一方のレシルと言えば、怒るでも困るでもなく小さく笑い続ける平塚先生の姿を前にして少々毒気を抜かれたようだ。困ったように僕へ視線も向けてきたが、こちらから何らかの助け舟を出すことは出来ない。
「お前さんの妹は髭面の中年が嫌いとか、そういう人なのか」
「いやいや、多分そういうわけじゃあないよ。ちょっと込み入った事情があってね……」
机に置かれたメニューボードを吟味しながら答える。案外メニューの数は少なく、周囲の机を見回してみるとお洒落な軽食屋だけあって小奇麗で小さなプレート系の物が多い。美味しそうなのだが、想像通り量は少々心許ないか。
「春野菜のテリーヌ、旬のグリル……美味しそうなんだけど藤沢さんには足りるかなあ」
「おいコラ。先生に写真見せるわよ」
「ほう。気になるぞ見せろ見せろ」
ちょっとからかってみようかなと思ったが、どうやら今の状況ではとんだ失言だったようだ。何の写真かは明言されていないが、脅すネタで言うならば先ほどの服屋で起きた惨事に違いがないだろう。
それはもう酷い有様だった。なんとか己を殺して屈辱の時が終わるまで耐え忍んだのは良いが、その間に結構な枚数の写真を撮られてしまった。しかもレシルとポーズを合わせるというオプション付きで。その上何故か服屋の店員に簡易スケッチされる始末。もうあの店には行きたくはない。
「先ほど服屋に行ってきたんですよ。そこで撮った写真です」
「ふむ。どれどれ……あっ……レイ、俺は別に人の趣味を否定する気はないよ。まあ、似合って無くはないし、実生活に影響が出ない程度にやるなら……」
「何いきなり開示してくれてるんだよォッ!!」
机の向こう側でスマートフォンを向ける藤沢さんに怨嗟の咆哮を挙げてみても、届くもんなら取ってみなさいとばかりに涼しい顔で鼻を鳴らされた。そして禁断の写真を目撃してしまった先生はといえば、なんだか申し訳なさそうな顔でフォローをされてしまった。そのゴメンなと言わんばかりの妙に憂い気のある顔を向けるな。全面的に僕が被害者のはずなのになんだか罪悪感が湧いてきてしまう。
「レシルちゃんも見て見て。すごく良い組み合わせでしょ」
「ええと……うん!! 兄さんすごいかわいいよ!!」
「……もうやめて」
兄のくせして妹に純粋な気持ちでかわいいと言われると、何とも苦々しい感情が沸き起こる。そして腹が立つことに、藤沢さんはしっかりと僕にも見えるようにスマホの画面を向けてきた。
互いに密着するほど近付いて向き合い、相手の肩に両手を乗せた二人組。双方が共に白と黒のコントラストが映えるゴシックロリータに身を包み、片やスカートで銀色の長髪、片やハーフパンツで銀色の短髪と酷似していながらも対象的という不思議な組み合わせだ。その体勢でカメラの方へ顔を向けた二人は、片や頬がほんのりと赤らんで恥ずかしさを感じていながらも笑顔を浮かべ、片や表情というものを完全に消し去った無機質な視線を投げつけていた。
ナルシストというわけではないが、なまじこの組み合わせが絶妙にマッチしているだけに始末に負えない。背景が無機質で薄暗い着衣室だからだろうか、ある種幻想的な光景にすら見えるのが非常にいたたまれない。あの時は何も考えないように心がけていたが、そんな状態で写真に写ると無表情系のキャラっぽく見えるものなのか。レシルがなんだかんだ言って楽しそうだから良いけど、出来れば写真という媒体を通してゴスロリ衣装に身を包んだ自分なんて見たくはなかった。
「土に還りたい……」
「……なんだか知らんがお前も苦労してんだな。若い時の苦労は買ってでもしろとは言うが、買い過ぎるなよ。しかし、無表情かと思いきや笑っているじゃないか」
平塚先生が含み笑いを浮かべながら視線を動かす先には、ハッとして慌てた風に表情を消したレシルがいた。だがいきなり無表情を作るには少々無理があったようで、銀縁眼鏡の奥からじっと見据える先生から逃れるように顔をそっぽに向けてしまった。
「そうそう、先生には後日頼もうかと思っていたんだけど、ちょうど良い機会だから今言うよ。月に一回くらい週末の時間を貸してはくれないかな」
「週末、か。出張が入ったらきついし、なんたって予定は流動的だ。出来れば一週間前には知らせてくれると助かる。それで、要件ってのは……お前の妹のことじゃないだろうな」
どうにももう一人の自分は勘が鋭いようだ。僕の細かな挙動を見逃さなかった先生は、やれやれといった調子で首をふった。
「あのなあ、お前の個人的な用事に果たして俺が介入する必要があるのかよ……あまり言いたくはないがな、俺の予定を潰すだけの意味はあるのか?」
「……正直自分だけじゃあ手に余るんだ。レシルの前で言うのもしのびないけど、彼女は人との距離を測りかねている節がある」
その瞬間、目の前にいるレシルが驚いたように目を見開いた。そりゃあそうだろう、再会をしてから今まで無条件に自身に対して抱擁するような発言を繰り返していた兄が、急に突き放すようなことを言い出したのだから。
「え……兄さん、ボクはそんなんじゃ……」
「ゴメンね。でもここではっきりさせないともう手遅れになるかもしれない。先日見たあのやり取り、もしかして日常的に発生しているんじゃないだろうね」
オーダーを取りに来たウェイターさんを藤沢さんに任して、しっかりとレシルの双眼を見据える。言いたくないのだろうか、揺れる彼女の瞳、時折視線を逸らそうと左右を動くその碧眼を僕は全く顔を動かすことなく見続けた。
「……そうさ。ボクは、何かと人に冷たい態度を取る節がある」
とうとう僕の視線に折れたのか、レシルはゆっくりとした口調で話し始めた。
「氷の魔女。なんともまあ安直な通称だよ。でも学園のボクはその通り名に反論できない振る舞いをしている。兄さんが見たのも、学園じゃ割と日常だよ」
「……正直に言わせてもらうと、あの時のレシルの姿には結構驚いたよ」
僕の言葉に対し、レシルは「やっぱりね」と言いながら小さく笑った。この本音を隠そうかと一瞬悩んだが、おそらく彼女に本音を話せる機会は今を逃せばそう多くはないだろう。オーダーを伝え終えた藤沢さん、腕を組んで押し黙る平塚先生。二人共が僕たちのやり取りを静かに観察する中、レシルは諦めたような口調を崩さずに続ける。
「あの手の輩に絡まれたのが先か、鼻につくような態度を取ったのが先かはもう覚えてないや。でも気が付いたら妙なあだ名が浸透していたんだ」
「それは、今の学校に入って間もない頃からなのかい?」
その問いかけに対して、彼女は小さく頷いた。想定通りだったレシルの答えは、やはり想定していたように僕の肩に重くのしかかってきた。
「まったくもって兄さんの言葉の通りさ。果たしてボクに近付いてくる人間が好意を持っているのか、悪意を持っているのか。急に小屋の中から野に放された状態じゃあ、そういうことはさっぱり分からなかった」
思い出してみれば、まだレシルと共に故郷のエルドリアン郊外で暮らしていた頃、彼女はいつも僕について回っていた。何をするときも隣か後ろには幼い妹の姿があり、そして不思議なことに彼女は僕以外の人間には懐こうとはしなかった。あまり愛想が良いとは言えなかったお手伝いさんには勿論のこと、時折見かける街中の同世代の子供達にすらも。
「そりゃあそうさ。ボクの隣にはずっと兄さんがいた。いや、兄さんしか居なかったんだもの。幼いころから他人に触れあってないんだから、急に一人になって分かるわけがない」
「……入学をしてから、今のようになったの?」
「兄さんは貴族社会から遠のいていたから忘れているかもしれない。如何に家柄が六大家という立派な箔があっても、ボク達は庶子に過ぎないんだ」
僕が東京に辿りついてから程なくして彼女が入学したのは、貴族が多く通うエルトニア王立騎士学園。果たして父上が入学までの期間彼女に対してどれ程の貴族教育を施したのかは定かではないが、十年以上も貴族社会から離れた生活をしていたレシルがどれ程身に着けれるかなんてたかが知れているだろう。
「常識知らずの偽お嬢。そんなことを言われた時期もあったさ。目の上の瘤だったんだろうね、庶民に毛の生えたようなボクのバックに、六大家のフォルガント家がついているなんて」
淡々と話していく彼女の姿は、どこか諦めというものが含まれているように感じる。
「幸い、ボクには剣術と魔術の才があった。そんな陰口を無くす程度、一年あれば十分だったよ。その一方で氷の魔女なんて安直なあだ名がついて回っていた」
自嘲的な笑いを浮かべるレシル。その冷たい笑顔は、どことなく先日見たいざこざの時に見た冷酷な嘲笑へ通じるものがあった。
「ボクは人との距離の測り方が分からない。だから殻に閉じこもって、身を護ろうとして、他人を突き放すんだろう……兄さんにしか、甘えられないんだ」
「……正直五年以上も放置をして今更肉親面をするのもどうかとは思う。でも、僕は君を助けたいよ」
何がもう籠の中の鳥じゃあないだ。僕がやったのはまだ幼く籠の中でしか生きられない小鳥を、無理やり野に放しただけではないか。半年前の自分を殴り飛ばしたい。快活で甘えん坊な姿を彼女の全てと信じ込み、やっと再会を遂げて満足をしていたなんて。
一言も発せずずっと僕たちを観察していた平塚先生に向き直る。そして、今度は軽い調子ではなく、しっかりと頭を下げた。
「お願いします。月に一回で良いので、話し合い、グループワークのための時間を貸して下さい」
人との距離が分からないならば、それの練習をすれば良い。僕だけじゃあそもそもの心の距離が近すぎて練習にはならない。だから適度に距離を持った藤沢さんや、あまり話したことがない年齢層と思われる平塚先生の助力が必要不可欠なのだ。これで五年ものブランクが埋められるかは分からないが、行動をしなくては始まらない。
「そうか。これじゃあ反対だ」
「な、何で!?」
「いくら肉親のためとはいえお前一人が空回ってどうする。肉親の事情だから普段よりも相当身内びいきになっているようだが、それはお前が頼むことじゃない」
あっさりと首をふった平塚先生。彼の言い分が一体何なのか、それを思いつくよりも先に、先生はレシルの方へ顔を向けた。
「詳しい事情はよく分からんが君の兄は相当妹馬鹿だな。頼まれてもいないのに率先して行動して、普段は軽口叩く相手に頭まで下げた。でもそれはコイツがしても意味はない」
「……何が言いたいんですか?」
「変わるきっかけを作りたいのか、それともこのままでいいのか、それを決めるのは君自身だ。これから社会人になるんだろう。何時までも兄に頼ってはいられないよ」
冷たく言い返すレシルに対して、怯むどころかさらに先生は言葉を浴びせていく。彼女がどうなりたいのかは、決めるのは僕ではなくて彼女自身なのだ。だから、先生に頼み込むのは僕の意志ではなくて彼女の意志でなくてはならない。確かにもっともな意見だ。普段ならば僕も気が回る場面も、妹のこととなると少々暴走気味になってしまっていたようだ。
「何も知らないあなたに、一体何が出来るんですか」
「さあな。何も分からん。むしろ君は一体どう変わりたい? 何事も受け身でいちゃあ駄目だ。君の所の騎士学校ではどういう教育をしているかは知らんが、俺達の世界では勉強ってものは自ら進んでやるものだぜ」
突き放すように、その一方で受け入れるように、先生は淡々と言葉を紡いでいく。
「人との距離が測れないんなら測る練習をすればいい。今だってその練習中みたいなものだ。道徳なんて門外漢だが、適当なテーマに関するグループディスカッションの場くらいは作れるさ」
如何に冷たい反応を返しても、まったく心を揺らさずに見据えられるなんてあまり経験したことがないのだろう。レシルはちらちらと此方を伺ってくるが、今は手を差し伸べられない。押し固めていた達観で冷徹な雰囲気はすっかり鳴りを潜め、あたふたと慌てる様は完全に年相応の女の子の物だ。
「……ボクは、変われますか?」
「君次第だ。今の君がどういう人間かを詳しくは知らないから、無責任なことは言えない」
今までのトーンとは完全に異なり、か細い声で恐る恐る問いかけたレシル。それに対する平塚先生の対応は、なんともぶれない物だった。
「あはは……まるで兄さんみたいですね。ボクが昔兄さんに叱られた時は、いつも何が悪かったのかを自分で考えさせられたなあ」
「そうか。まあ、そうだろうな」
「ボクはあなたをまだ信用できない。でも、兄さんがあなたを信用しているから……お願いします。ボクの会話の練習相手になって下さい」
そしてようやく、レシルは僕と藤沢さん以外の人間に笑いかけた。まだその笑顔はぎこちなく、少しだけ声も震えているが、それだけ前進出来たということなのだろうか。
「正直に物を言うなあ。会話の練習相手か。良いよ、構わない。細かな内容についてはレイに一任するが、俺も出来るかぎりのことは協力する」
「あ、ありがとうございます」
あっけらかんといった様子で了承する先生に少々押され気味のレシルだったが、きちんと感謝の意まで言いきれた。肩の荷が降りたのか、レシルはホッとした表情を浮かべて近くに置かれていたお冷へと手を伸ばした。たかが自分から問題を解決しようと行動をしただけではあるが、それでも今の彼女にとっては大きな一歩には違いない。
「先生、ありがとう」
「お前の妹だ、まあ完全な無関係というわけでもないしな。週末の時間を捻出できるなんて、俺が独身であったことを喜ぶといい」
自虐気味にニヤリと笑う先生だが、なんだか今はそれすらも渋格好良く決まっているように見えてしまう。やはりは本当の大人は一味違う。子供時代を二回過ごした僕、順当に社会の荒波の中で今の地位を手に入れた先生。悔しいけど認めざるを得ない。精神的に大人であるのは、間違いなく平塚先生の方だ。
「レシルちゃん、良かったわね!!」
「レナさん苦しいよ」
レシルの後ろからギュッと抱きつく藤沢さん。言葉上じゃ離してくれと頼んでいるようにも見えるが、控えめながらも笑顔を浮かべている辺り満更でもないのだろう。同性からのスキンシップというものに縁がないのだろうか、助けを求めるようにこちらを伺ってくるが、むしろ僕が藤沢さんに代わって抱きしめてやりたいところだ。
とりあえずは一件落着といったところか。実際は問題の入り口に立っただけに過ぎないが、それでも解決の糸口を掴めただけでも今日彼女達を連れまわした意味があった。
「誰かと思えばフォルガントか。それに、お前たちは……そうか、騎士学園に間借りする連中だな」
「……ライル殿下」
背後から響いたこんな言葉がなければ、四人で楽しく昼食会へとしゃれ込めたというのに。僕の背後に視線を向ける妹の顔には、折角浮かんでいた豊かな表情がどこかに消えてしまっていた。