ファンタスティック・アカデミー!【異世界×大学物】 作:丸いの
その1
日本とエルトニア。どんなに長い距離を移動しようが決して辿りつけない隔たりを持っていた二つの国は、エルトニア大学計画の参加者限定とはいえ今やマイクロバスの定期便で行き来できる間柄にある。よく人が神隠しにあうとかいう曰くつきの場所で、精々が荷物を少し離れた場所に送る程度でしか使われない転移魔法を、有りっ丈の魔石を用いてあろうことか自分に掛ける。文字通り自分の人生を掛けて行った一世一代の覚悟と同等の成果が、今じゃバスの中で景色を眺めながらボーっとしているだけで得られるのだから良い時代になったものである。
手元にはタブレット端末とまだ冷たさ十分のお茶。イヤホンでゆったりとした音楽を聴きながら、後ろに人が居ないため座席を限界まで後ろに倒す。エルトニアや最愛の妹との今生の別れを決意していた当時と比べるとエライ環境の違いである。
大月山間部の関所を出てから十分少々。ゲートのこちらも向こうも山間部には変わりがなく、世界を隔てるトンネルを越えた道の両脇は緑が生い茂る風景へと変化をしていた。春も中ごろを過ぎたエルトニアは適度に涼しくカラッとした陽気に覆われており、バスから外を眺めているだけでもちょっとした旅行気分に浸ることができる。本当は自然を散策したいところだけど、アウトドア向きの恰好でないことが残念でたまらない。
「このバスは途中下車が出来ないんだよね」
「山のど真ん中で降り立ってしょうがないでしょ」
関所から少し離れたここらへんは異国風の林道といった様子だし、装備がきちんとしているならば見慣れない林間の草花を眺めながら散歩をするのも悪くはないと思う。しかし隣の藤沢さんにとってはアウトドアなリフレッシュはそこまで魅力的なものではないようだ。
「こんな良い陽気なんだ。ちょっとは散歩もしたくなるよ」
「分からなくはないけど、私はあまり趣味ではないわ。そもそもアンタは予定的に無理なんじゃないの?」
木々の間を抜けると、青々とした草原がバスの周囲に広がる。道の続く先には王都リーヴェルの街並みが聳えており、何回かは見た光景ではあるけれどもやはり素晴らしい眺めだ。海外に行ってもなかなか見れない古風な街並みが、大月から十数分バスで移動するだけで堪能できるのだから不思議なものだ。
「僕は午後から研究室入りの予定だから一応時間には余裕があるよ。まあ学園区の散歩に留めておこうかな」
僕たちが乗っている始発から二本目くらいのバスが国立東都工科大学エルトニアキャンパスに到着する時間は朝の九時程度であり、そこから正午までは何をしようが自由なのである。春にエルトニアへやってきて一か月ほどが過ぎ、何度かリーヴェルの街並みを歩いたことがある。それでも学園区を隅から隅まで散策したわけじゃあない。王宮前の大広場や商業特区、散歩するあてはいくらでもある。
「測定データを解析するのは午後になってからで十分さ」
「そうね……後でデータの扱い方について少し教えてくれるかしら」
「お安い御用。何なりと聞いて下さいな」
なぜこんな朝一にバスで我がホームグラウンドへ向けて移動をしているのかというと、僕と藤沢さんは前日に朝から晩まで外部で測定を行っていたからである。
各教授のおねだりが功を奏して様々な計器が揃ったエルトニア新校舎だけど、所属している全メンバーが行ないうる全ての測定に過不足なく対応するなんてことは常識的に考えて不可能だ。エルトニアでの科学教育プロジェクトには相当の資金が投じられているんだろうけど、専属のスタッフが居なければ稼働できないものや、巨大な敷地を必要にするものはいくらお金があっても保有できない。そんなわけで行いたい測定がエルトニアで出来ないのならば、当然外部に頼るしかないのだ。
ただし逆に言えばエルトニアには普段の実験で扱うような計測機器は大抵揃っている。そのため外部に行かなければならない測定は基本的に大がかりなものとなる。そしてそんなものをそう何回も行くことは無理な話だから、基本的にはある程度測りたいものをまとめてお願いする形となるのだ。
「……結局久しぶりの東京を満喫することなんて無く帰ってきてしまったわね」
「今回は東京なんてただの経由地に過ぎなかったんだからしょうがない。それに終日やってたんだから観光する気力も湧くわけないし」
その結果が一日を丸ごとぶっ潰しての終日測定である。そうそう依頼できない外部の研究施設なのだから、ちょっとでも測った方が良いかなと思ったサンプルを全て持ち込んで、一気に後腐れなく測定を行うのが正しいやり方なのだ。
こんな感じの終日測定はまだ本キャンに籍を置いていた時にも数回だけやったことがある。朝から半日以上外部の施設で頑張るのだから、ラボに戻ってこれるのは大方日が沈んでからとなる。しかし今の僕たちはエルトニアに籍を置いている関係で、当時よりも厳しいスケジュールとなってしまった。
お世話になる研究施設はただでさえ本キャンからかなり離れた場所にあるのだ。リーヴェルは当然として、僕らの本拠地への玄関口である大月でもそんな本キャンからも離れているのだから、総合的な移動距離は行楽シーズンにおける一般的な旅行と比べても割といい勝負をするだろう。外部測定を終えて三時間以上列車に揺られて辿りついた僕たちの前に待っていたのは、エルトニア行き連絡バスの最終便が大分前に出発したという現実だった。
「まあ今回の一件で関所に宿泊施設が付随していることが分かって良かった」
「いや、アレって一般人向けじゃないでしょ。宿直職員が生活するスペースとかそういうの」
幸運なことに大月関所へ連絡を入れてみたら迎えの車がやってきて、駅構内以外ほとんど真っ暗な大月駅前で立ちつくす僕と藤沢さんを関所の方まで回収してくれたのだ。日付が変わる前に布団の中に潜れたことに感謝をしてもしきれない。
話し込んでいる内にエルトニアの検問所に辿りついたようだった。現代日本基準で十分舗装された道路から整ってはいるけれども石造りの街道に入れば、当然タイヤから伝わる振動は激しいものとなる。
検問所で一時停車をして簡単に兵士から見回りを受けた後は、以降徐行運転でリーヴェル内部の街道を通ってエルトニア校舎に向かうことになる。このバスが定期通行することになって初めの内は街の住民からかなりの注目の的となっていただろうことは想像に難しくないが、今ではそこまで人だかりができずにチラホラと通行人の視線を集める程度だ。定期便を走らせるうちに、彼らも少々風変りな乗合馬車程度としか思わなくなったのだろう。
通行人からの刺すような大量の視線を感じないと分かると、こちらも気兼ねせずに景色を楽しむことができる。初めてこのバスに乗ってエルトニアへやって来たときは目を伏せていることが多かったが、こうしてバスから見える風景を眺めていると遠く離れた場所まで来てしまったのだとしみじみ思う。自分自身が厳密にはエルトニア人であるのに変な話だ。
平塚先生と人生を分けてから十一年もエルトニアに住んでいたくせに、現代日本で六年程度生活するうちにすっかり価値観が日本の物に戻ってしまったことを実感する。ガラス越しに見えるのは立ち並ぶ簡易商店や誇らしげに聳える大聖堂――そして遠くで様々な建物を見下ろすようにして立ちかまえる王宮の姿も否応なしに目に入ってきた。
「……はぁ。見たくないモン見ちゃった」
「ええと……ああ、なるほど」
王宮の姿を視界の端っこへ入れただけで、折角忘れかけていた事柄をすっかり思い出してしまった。どことなく行楽気分でのほほんとしていた脳内が、完全に台無しとなってしまった。隣にチラリと視線を移してみれば、藤沢さんも深くため息をついて眉間にしわを寄せている。このタイミングで思い出させてしまうなんて、悪いことをしてしまった。
「……ゴメンね。思い出させる気はなかったんだけど、つい」
「まあ分からなくもないわ。例の声明が出されたのが直々に案内したその一週間後だもの」
* * *
電撃的にエルトニア新校舎の見学会が行なわれたのが今から二週間程度前のことだ。新校舎が本格的に稼働をし始めてから初めての対外向けの見学会という大事なイベントで僕が司会者に抜擢されたのは、ただ単に若手だからなどという理由ではないはずだ。生まれの関係上エルトニアに関する知識が全ての職員の中で一番豊富なのだから、客観的に見てもエルトニアの重役たちを案内するという大役を任せるにはこれ以上ない人材だろう。
当日の説明は全てが予定通りに進行し、参加者の半分近くに本学へプラスのイメージを抱いてくれた。ライル殿下をはじめとするもう半分のメンバーが不自然に静かであったのが気にはなったが、終わってみれば突貫で行われた見学会にもかかわらず何も問題無く終わった。そう、少なくとも僕や川崎さんを含めた日本側から見たら、今回の見学会は問題など起こらずに閉幕できたはずだったのだ。
ことが動いたのはそれから一週間が過ぎた日のことだった。急な見学会もすっかり後の話で、研究グループのメンバー達はいつも通りの様子で各々の研究に勤しんでいた。偉い人たちの先陣に立って歩いた僕でさえ、その時は見学会のことなどとうに頭から抜け落ちて日常の実験生活へと落ち着いていた。
藤沢さんや他の教授の下についている学生たちにどんな学会を勧めようかなあなんて考えながら、計測器の前でデータの整理を行う。そんな春も中旬を過ぎた実験日和のエルトニア新校舎の研究フロアの中に、知り合ってから初めて見る焦った様子の川崎さんが急ぎ足で入ってきたのだ。普段は落ち着いた笑みを絶やさずに浮かべていた彼の顔が、そのときばかりは焦りを隠す様子がない険しい表情を作っていたのを今でも鮮明に思い出せる。実験室に入って僕の姿を見つけた川崎さんは、何が起きたのか分からず立ちつくす僕の方へかなりの早足で近付いてきてこう言った。
――先の見学会についてお聞きしたい事があります。
なぜ一週間も経ってからこのようなことを聞かれるのだろう。もしかしたら見学会について上に報告する際に何か情報が足りないのかもしれない。こんな風に最初は報告書等の不備を埋め合わせるためにこちらへ訪ねてきたのかと軽く考えていたが、川崎さんの真剣な表情を見ている内にことの深刻さを薄々と感じ始めた。
ちょうど隣にいた藤沢さん共々有無を言わさない様子の彼に手近な会議室へ連れられ、開口一番に川崎さんはこちらの度胆をぬくことを言ってきたのだ。
「先に述べさせていただきます。ライル殿下が国立東都工科大学に対して否定的な立場を示しました」
「否定的って……今になってですか?」
むしろ今までは否定的な立場じゃなかったのか。レシルと会っていた時に相対した彼の姿を見るに、坊主憎けりゃ袈裟まで憎しかどうかは知らないが、日本人と大学の双方に好感を持っていないのは明らかであった。怪訝そうな表情を隠そうともしない僕や藤沢さんの様子を前に、川崎さんは首を傾げた。
「もしかして、お二人共彼とは既に面識があるのですか?」
「ええ。先日妹と会っている時に少々。その時にも感じましたが、ライル殿下は明確に僕らへマイナスの感情を持っています。そんな彼が今更になって否定的な立場を表すのは……」
「なるほど……我々も彼が自分たちに反対的な態度を取っているのは把握をしていました」
じゃあ何で、という言葉がこちらから出て来る前に、川崎さんは眉間にしわを寄せて口を開いた。
「しかしあくまでそれは個人の感情レベルの話だ。王室の一員という立場で表明するものではなかったはずです」
「……今回は違うということですか」
つまりはエルトニアの王子という立場で、彼はこの大学の計画を批判したということなのか。入学式でスピーチを行った王女ライア殿下が大学計画の推進派であるのにもかかわらず、それに対抗しようというのはそう簡単に出来ることじゃあないはずだ。
「今までは一部の貴族が批判をしている程度だったのですが、あくまで散発的なものにすぎなかった。しかし今回の一件で、ライル殿下は彼らをまとめ上げて派閥を作るかもしれない」
川崎さんは持っていた鞄の中から一枚の紙を取り出した。緊急報告書と書かれたそれには、本日の日付と共にライル殿下の発言を要約したと思われる文章が書き連ねている。
「理念に共感できない、エルトニアにおける科学の必要意義を感じない……まあ内容としてはそこまで突飛ではありません。問題なのは公的な立場で表明したことと、この時期です」
「……見学会で何かしらの切っ掛けがあったかもしれない。そういうことですか」
深く頷いた川崎さんは、メモ帳を懐から取り出した。そこまで広くはない会議室の中で藤沢さん同伴とはいえ少人数で向かい合って座るだなんて、まるで警察の取り調べのようだ。
「見学会当日、何かおかしなことはありましたか? 細かいことでも何でも、教えては頂けませんか」
前言撤回。警察の取り調べみたいなのではない、取り調べそのものだ。口調こそこちらに尋ねているようだが、川崎さんの問いかけは有無を言わさない尋問にしか聴こえなかった。
* * *
当日はライル殿下が自ら行動を起こすようなことが少なかったから、彼に関連する事柄も自然と限られていた。そしてその日僕と川崎さんの両名で案内役をしていたから、僕が話す内容は川崎さんも大方把握していることだったようだ。
他の視点から見た物事というのは結構重要な資料になるかもしれないが、結局は既存の情報の焼き直しに過ぎない。思い出せる範囲で見学会の様子を話したり、時折藤沢さんも当日の様子を語ったり。結局二十分少々でその取り調べは終了した。そして川崎さんが会釈をして会議室を出る間際に、辛うじて思い出した見学会最後の事柄について伝えることができた。
「結局、あの時彼はなんて言ったんだっけ……」
見学会の終わり際に、研究室に戻ろうとする僕を呼び止めたライル殿下は、どこか憂いを感じさせる口調で何かを喋っていた。一体何を話していたのかは日が経ってしまったおかげで忘れてしまったが、もしかしたらライル殿下が異議表明した理由に繋がっているかもしれない。その日一番の真剣な表情を浮かべて川崎さんは凄まじい速さでメモを取っていたのが、一週間前の聞き取りでの最後の思い出だ。
「レイ、そろそろ到着みたいよ」
「あー、うん。降りる準備しなきゃね」
ずっと考え込んでいる内に、バスはどうやら目的地の近くにまで来ていたようだ。学園区の中でも最大級の広さを持つエルトニア王国立魔法騎士学園、その脇に造られた通りをバスがゆっくりと走る。通り沿いの商店には多様な制服を着た学生たちが闊歩し、流石は休日と言わんばかりの盛況さを感じられる。
タブレットをケースにしまいこみ、イヤホンをぐるぐる巻きにしてポケットへ突っ込む。学園の敷地内に差し掛かると、生徒の数は一段と増した。しかしよくよく観察してみれば、学園の正門通りを歩いているのはどうやら学生だけじゃあないみたいだ。
「お疲れ様でした。エルトニア王国立魔法騎士学園、終点です。お忘れ物の無いようご注意ください」
バスの運転手のアナウンスに小さな笑いが出る。ここと関所、そして大月駅前にしか停車をしないのに終点とは大きく出たものだ。もしかしたら今後の展望次第ではリーヴェル内の他の地点にもバス停を作る気なのかもしれない。
おそらく他の研究グループの職員だろうか、どことなく見覚えのある他の客へ続いて僕と藤沢さんも降車口へと向かう。たかだか三十分程度の移動とはいえ、朝起きてからそう時間も経たずにお世辞にも広いとは言えない座席に押し込められていたのだから、体の節々が歩き出すと共に鈍痛を伝えてくる。
「いつつ……やっぱりいつもよりも賑やかだ」
「確かにそうね。学生以外にも人がいるようだし、出店なんか普段はないわ」
藤沢さんの言うとおり、正門から噴水広場に行きつくまでの通りには祭りの屋台のように小さな出店がチラホラと並んでいる。昨日の朝に外部の研究施設へ向かうためにここを通ったけど、その時にはまだこんな出店は無かったはずだ。
「お祭りか何かかなぁ……学園の外は普段通りだったから、学園祭とかかな」
「ちょうど時間があることだし、少し学園の内部を見ていこっ」
一度その気になったら結構行動派である藤沢さんが、エルトニア新校舎へ向かう列から外に出て学園の方へ歩き出した。僕もそれを慌てて追いかけていく。
香ばしい匂いを漂わせる出店に意識が少しだけ向くが、藤沢さんはそれらに全く意識を向けずにずんずんと進んでいく。普段はただの通路にこんな色々な出店が立ち並び、それに群がるのは学生だけではなく地域住民もいる。まるで祭りのようだと思ったが、案外間違いではないのかもしれない。
「懐かしいわ。まるで学園祭みたいね」
「……本当に懐かしいよ。この六年間くらい学園祭なんてあってないような物だったし」
そのような文化がエルトニア王国立魔法騎士学園にあるかは別として、彼女が言うように確かにこの感じはまるで学園祭のようだ。懐かしいっちゃあ懐かしいのだが、如何せんエルトニアから日本に移転してからの学生生活で本学の学園祭に欠片も関わらなかった身としては、人が多すぎて食糧の確保が難しい日という夢の無いイメージが先行してしまう。
噴水広場の更に先へ向かうのは、入学式に出席したとき以来だ。このまま先へ進めば、入学式で使用した大講堂をはじめとするエルトニア王国立魔法騎士学園の施設が立ち並ぶエリアへと繋がる。このお祭りのような雰囲気が何かは分からないけど、とりあえず人の流れについていけば何かしら分かるだろう。
――ッ!!
それにしても賑やかだ。僕らと同じ向きに進む人達の話声の他にも、噴水広場から聞こえてくる大きな笑い声や、どこからともなく響いてくる怒声やら。ここらへんは毎朝の散歩コースに含めているが、土日でこのくらいの時間だと普段はもっと人気が少ないし静かだ。ここまで賑わっていたのは入学式以来かもしれない。
そして見えてくる大講堂。人の流れは更に学園の敷地の奥へと続いているようだ。未だに何のお祭りなのか不明ではあるが、こういった状況の方が答えが分かっているよりもわくわくする物である。
――まてぇぇッ!!
子供か何かと逸れてしまったのだろうか。振り向いてよく目を凝らせば後ろの方から走って近付いてくる姿が見えた。周囲の人達も何事かと少し気にした風ではあるが、こんだけ人が多ければ迷子の一人や二人も出るだろうからしょうがない。
「どうしたのかしらね」
「迷子か何かでしょ。それよりもちゃっちゃか先に行こう。列の先には面白いものがあるって相場が決まっているんだ」
願わくば大声の主が目的人物を確保できますように。大講堂よりも先となると、僕にとっては完全な未知のエリアとなる。レシルが魔法騎士学園を見学した時も実際に入学する予定が全くなかった僕は別所で待機をしていたから、ここより先は見たことがないのだ。大声に気を取られた様子の藤沢さんを急かすように歩調を速めた。
「ゴラァァ!! 待てって言ってんだろォォォッ――」
なんとも物騒なものである。迷子や逸れた仲間を見つけたならば、もっと穏やかに行くべきだ。
「――フォルガントォォッ!!」
そしていきなり怒声と共に響いてきた僕の元実家の呼び名に、僕と藤沢さん共々変な声を上げながら振り向いてしまった。金色のサイドテールをブルンブルンと震わせながら僕たちへ猛進してくる女性の姿に、追加で「ヒィッ!?」という情けない叫び声を上げてしまったのも仕方がないことだと思う。