ファンタスティック・アカデミー!【異世界×大学物】   作:丸いの

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その5

 ライル殿下の姿を視界に収め、思わず己の顔が強張るのを感じた。面と向かって彼と顔を合わせるのは見学会以来となるが、その見学会のすぐ後に殿下は大学の存在意義について疑問を問いかける内容の発言をした。少なくとも記憶の限りは当日の案内役を務めた僕を含めた、大学側の全てのメンバーには発言や行動上何の落ち度もなく、もはや最初からいちゃもんをつけるために見学会に参加をしたのではないかという疑念さえ湧いてきてしまう。そんな経緯からかいざ彼を目の前にすると、どうにも殿下を負のイメージというフィルター越しに見てしまう。

 

「ライル様。フォルガントさんもそう言っていますから私達も何処かへ行きましょう?」

「そうよ。別に負かした相手に用など無いでしょう。向こうがわざわざ気をきかせているんだから」

「お前たちは少し静かにしていろ。あの異常な空間で私相手に全力で挑んだお前にせめての賞賛の言葉でもと思ったが、様子を見るにその必要は無さそうだ」

 

 付きまとう女学生の言葉を少し語気の強い言葉で黙らせた彼は、再度僕の方へと顔を向けた。レシルに向けていた偉そうな笑顔と無表情の中間から、わざわざ剣呑な目つきへと変えて。

 

「見学会ぶりだな。その節は世話になった」

「いえ、こちらこそ殿下の案内役を務めさせて頂き光栄でした」

 

 喋る内容こそただの挨拶に聞こえるけど、その実はお互いに腹の中へ本音をひた隠している嫌な会話だ。彼は形式でも笑顔を浮かべようともせず、僕も頑張って笑顔をなんとか張り付けているような有様だ。

 

「下らない。別に今更取り繕うなどと考えなくても良い。何か私に聞きたいことがあるんじゃないか」

「……殿下からストレートに来ていただくのは助かります。私も腹の中に何か隠して平然と話し続けられるほど人間は出来ちゃいませんから」

 

 当然と言えば当然か。ライア・ヴィクトリウス・エルトニア第一王女を筆頭とするエルトニアへの科学技術導入に積極的な派閥のおかげで、もはや大学の存続が半ば国の方針になりつつある中で、下手をすれば造反になりかねない立場を取るというのは不可解な点が多すぎる。加えて見学会から一週間というそう日も経っていない中で電撃的な大学への否定的立場の表明だ。疑問を抱かない訳がない。

 

「殿下は恐らく日本人ないしは日本そのものに良いイメージを抱かれていない。にもかかわらず今回見学会の打診をされたのは何故でしょうか」

 

 それとなくレシルと藤沢さんを向かい合う僕たちから遠ざけ、ライル殿下に今の自分の中に存在する疑問の根底を投げかけた。まさか本当に大学のイメージを下げる理由づけのためだけに出たのではないのかと、言葉の陰に潜ませながら。

 

「切っ掛けはあくまでも純粋な興味だ。どう捉えるかはお前たちの自由だが、そちらの役人にも同様のことは既に伝えている」

「ただその見学会で何か思うところがあった、それでよろしいですか?」

 

 一つ目とは違い、こちらの問いかけには頷きも首をふりもしない。それが肯定や否定なのか、それとも答える気がないのか、無表情の彼から意図を読み取るのは不可能だった。

 

「……もう一つだけ。今回の立場表明を行われた理由は、見学会前後で変わりは無いのでしょうか」

「ああ。恐らく初めて顔を会わせたときに、お前とその上役に言ったと思う。行き過ぎた技術は危険な存在に成りかねない。だがそれに待ったを掛ける人間は散発的でまとまりがない。だから私が懸念を示した」

 

 確かに理由にはなっている。少なくとも大学関係者の僕たちにとってみれば迷惑この上ないことではあるが、しかし真っ当な国の運営には政府の直進を遮る存在が必要なのも確かだ。そう考えれば立場表明の時期以外には不思議な点は見当たらない。でも、その不思議な点がしこりのように残り続けている。

 

「……ただ、こんな大言壮語を言っておきながらも私は人間なんだよ。話はここまでだ。お前たちも何か予定があるそうじゃないか」

「えっ、ちょっと……いえ、わざわざお時間を割いて頂きありがとうございました」

 

 今までとは一変して少しの憂いを含んだ彼の様子は、あのとき見学会の最後に彼が見せた物と一緒だ。今の彼には本音が表れているに違いない。だがこれ以上の追及はさせないと言わんばかりに少し早口で話を切り上げた殿下に対して、相手が王族ということもあってより深いところへ踏み込む勇気が無かった僕は、当たり障りの無い感謝の意を述べることしか出来なかった。

 

「今更にはなってしまうが、フォルガントも見事だった。私に遠慮をせず挑んでくる者は希少だ。これからもよろしく頼む」

「……次がいつ訪れるかは分かりませんが、その時も一切の遠慮はしません」

 

 相も変わらず、僕や藤沢さんの前とは随分と異なる様子だ。ライル殿下はもとより、その後ろに控える鋭い目つきで睨んでくる数人の女子生徒を前にしても、涼しい顔をして打倒宣言をさらりと述べるだなんて凛々しいというかなんというか。その女子生徒達の姿を見て顔を引き攣らせる僕や藤沢さんとは大違いだ。

 

「――このままだと私たちが多数派になるかもしれない。さてどうする」

 

 そして去り際に何かを小さな声で言っていると思えばこれだ。聞こえてきた内容がそれはもう爆弾級であり、思わず首の稼働限界ぎりぎりで振り返ってみたら、既に大股で人混みの中に歩き始めたライル殿下の後ろを取り巻き数名が追いかけはじめていた。少し離れていた藤沢さんも、僕と同じく声が聞こえていたのかギョッとした顔で殿下の後姿を見つめていた。

 

「多数派って……流石にいきなり大学がエルトニア追放なんてならないだろうけど、でも夏の研究発表会には間違いなく響くだろうね……藤沢さん?」

「……えっと、ええ。確かに響きかねない、そうね」

 

 どこか上の空と言った雰囲気の藤沢さんは、名前を呼んだ瞬間慌てて返答をして僕の言った内容を復唱する始末だ。まあ彼女としてみても、まだ学生の身分にも関わらず最悪の場合学び舎が変わりかねない事態に結構な動揺をしているのかもしれない。

 まるで嵐のような時間だった。いきなりやって来たと思えば、こっちの精神状況に大きな波風を立てて、そして気がつけば颯爽と去っていく。殿下の去って行った方向を未だに鋭い目で見つめるレシル、そして僕共々ヤバい内容を知ってしまって半ば放心状態の藤沢さん。この場にいる全員がこんな状況で、さあ仕切り直してもう一度カフェ選びでもとはすぐに行けそうもなさそうだ。そもそも僕自身がそういう精神状態にはなれそうにもない。

 

「……ねえ、レシル。近々ちょっと日レベルで時間を頂くかもしれない」

「えっと、それって一日二日丸ごとって感じだよね。余裕を持って言ってくれれば多分大丈夫かもしれないけど……どうしたの?」

 

 そしてあまり考えが纏まる前に勝手に口からこんな言葉が出てきてしまう。僕がいま考えている内容は、一人で抱えるには重すぎるし、勝手に行なっても良いような事でもない。それでもなんだか無性に現状を打破できるような行動を取らなければ行けない気がしてきてしまう。そして今の今までもはや関係がないと考えてきた自分の生い立ちは、現状を変えるにはおあつらえ向きのものに違いはない。

 

「実はね、一度帰ってみようと思うんだ。実家にさ」

 

 一介の助教に過ぎない自分が国の計画の一端である大学計画に対してここまでやる義理はないし、やって何かが変わるという保証もない。それでもこれ以上後手に回るのは取り返しが付かなくなるかもしれないし、それに面白くない。実家、エルトニア王国の中でも王家に続いて発言力を持った六大家の一つであるフォルガント家。そこに行けば現状打破に向けた何らかの可能性は見えてくるだろう。

 ただ、ワンテンポ置いてからようやく内容を把握した二人組の驚くような顔、特に藤沢さんの「とうとう頭がおかしくなったか」と言わんばかりの疑念の視線を向けられて、少し早まったかなあという後悔が小さく沸き起こった。




各話のタイトルを章分けで表現できるから、長めの作品になると理想郷よりも見やすいですね。
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