ファンタスティック・アカデミー!【異世界×大学物】 作:丸いの
「ここならば十数分くらいはのんびりしても問題ないでしょう」
学園区から少し外れた商業区の入り口には市民たちの憩いの場である大広場があるというのは、現代日本に来る前から話には聞いていた。中心部の城や様々な学園区の建物と並んで、その広場は王都の名物として有名だったのだ。そして実際に来てみれば、名物だけあって景観や賑やかさはただの広場で片づけられるものでは無かった。面積そのものも広いし、たくさんの人々が噴水の縁や長椅子に腰かけて思い思いの時間を過ごしている。
そんな団らんで溢れていて然るべき場所の一画で、妙な一団が広めの机を占有していた。片や学園指定の制服ではなく少々煌びやか服装に身を包んだ青年たち。そして机を挟んだ向かい側でそれと相対するは、双方共にジャケットとワイシャツジーパン姿という現代日本人感丸出しな恰好の平塚先生と僕である。
「さて、お聞きしたいというのはどのような話でしょうか」
普段はほとんど見せないような雰囲気の、妙に張り付いたような笑みを浮かべながら平塚先生は青年たちへと問いかけた。そもそもの言葉遣いが丁寧でも、その端っこには本性が少しばかり見え隠れしているのだ。ここは特定の個人が所有するものではない公共の広場であり、十数分のんびりするのはおろか、例え半日居座ろうが文句を言う人間はいない。彼がそのような発言をしたということは、言葉の通り十数分でケリを付けようということだろう。
「そ、そうだね……君たちの扱うカガク。それがこの国にもたらす影について、君はどう思う?」
「そうですね。我々はどうにも視野が狭くなりがちでして、客観的に己を俯瞰するのは大切ですよ。それで、どう思うかですか」
言ってしまえば、あまりにも大雑把な青年の問いかけだ。こんな質問、もとよりどう返そうがエルトニアの歴史やら常識やらをそれっぽく語られて、ひたすらこちらが受け身になるしかなさそうな切り口にしか思えない。だが平塚先生は、わざとらしく額に手をやって如何にも一生懸命に考えている感を出している。
「君たちはあまり知らないとは思うけどね、この国の周辺は昔から戦が絶えなかった。国力を蓄えるためにエルトニアは魔法研究に比類なき力を注いできたんだ。情勢が落ち着いてきたここ半世紀でも、魔法に関する知見の蓄積は他国を圧倒していると言える。この美しい祖国が今まで生き残ってきた理由は、そこにあるのさ」
芝居がかったかのような手振りと共に、仰々しい口調で青年が話す。彼の言う通り、確かにエルトニアと魔法というものが切っても切れない関係にあるのは間違いはないのだ。
この世界における魔法の在り方とは、現代日本世界における科学と似たような立ち位置にいる。特に国同士の情勢があまりよろしくないときには、科学と同じく魔法の技術が国力を左右しうるパラメーターとなるのだ。王都に豊富に存在する魔法技術関連の教育機関は、古くは王室お抱えの研究機関が元になって発足したなんていうストーリーもそこら中にある。
「そして近年では、魔法関連の技術の高さを諸外国にも供与しているんだ。古くは武力の象徴であった魔法技術を、混然たる研究対象として他国と共有する。僕らの魔法技術を生活基盤向上に役立てる、そして他国との共存をするというあり方はようやく入り口にまで達したんだ」
これについても同意だ。せめて第二の故郷の歴史ぐらいは勉強しようと、幼少のころから歴史書に人並程度には目を通してきたつもりだ。流石はエルトニアの人間が書いただけあって少々自分たちの国を美化しすぎな点は存在するにしても、紛争期から近代にかけての他国との融和路線へシフトしたことは間違いなく評価すべき点だろう。他国からの留学生を最先端の魔法学院に受け入れたことは、大きな転換点の一つに間違いない。
エンジンに火が付いたかのように、魔法が如何に重要で歴史が深いかを熱弁する青年の姿を、しかし逆に僕は冷めた目で眺めていた。確かに彼の言うことには少なからず同意できる点も存在する。この国における魔法の重要性だなんて、王都にある魔法関連の学術機関の数を見れば馬鹿にだってわかる話だ。
この手の話になると、どうしても愛国的な意見が散りばめられる。魔法教育を諸外国に広めたエルトニアという国がどれほどすごいのか。先の歴史書にしたって、その風味をそこかしこから感じ取ったものだ。自国にそのような誇らしさを持つことには心象的に分からないでもないが、魔法の重要さを説くならば中立にならなければどうしたって鼻につくのだ。加えて後に今はなしていることがすべて科学技術へのアンチテーゼに繋がることを予見しているからこそ、仮にもエルトニア人であるというのに聴き手である僕の感情は更に白けたものになる。
「ある種、魔法とはこの国の信用手形のようなものだ。対立ではなく共栄を目指す。大いなる歴史が後ろにあるからこそ、我が国は現代において周辺国から信用を得ているんだ」
「……要約しますと、魔法は歴史的な位置づけから信用に値して、科学はそうじゃない。それでよろしいですか」
数分間に及んだ青年の力説を、平塚先生は小ざっぱりとした内容に圧縮した。まあそうだろう。純正の日本人である先生にとっちゃ、この国で魔法がどれほど重要かなんて、少しは知っておいても損はない程度の知識でしかない。何かを説明するときは、己の話したいことではなく相手の聴きたいことを話せと日々力説する彼のことだ。わざわざ時間を割いてやったのにそんな話を長々と聞かされたことは、あまり心象的に宜しくは無いのだろう。
「そうだよ。今まで魔法に専念して力を入れてきたこの国が、カガクという新たな技術体系を得かねない。それは、これまで培ってきたバランスの崩壊につながると考える人間もいるだろう。それにカガクの存在そのものが、これまで魔法の技術により平和で安定してきたこの国に火種をもたらすかもしれない。僕らはそれを危惧しているんだ。その危険性について君たちニホン人どう思うのか、僕はそれが気になるんだよ」
結局はそこに行き着くのだ。ライル殿下も口にしていたような、新しい技術の危険性への危惧。大学計画に反対する彼らの共通の認識であり、常套句でもある。その認識の出どころは、周辺国との関係性に関して国の将来を見据えての物なのか、それとも魔法技術体系でのし上がってきた歴史を重く見てのことなのかは分からない。ただ一つ言えるのは、この手の意見を持った人間はなかなか説得が難しいということだ。特に心の奥深くからそう信じている人間に対しては。
いつどこの世界であっても、新しいものへの不安感や抵抗は付き物だ。日本だって戦国時代や江戸時代にはキリスト教への禁教令が出たことが有ったし、近代では海外からの輸入関連で揉めたこともあった。新しい価値観の導入は、時には既存の価値観の蹂躙に繋がる。そこに既存物への愛着やら利権やらが交わると、もうどうしようもなく難しい話になるのだ。
波風立てずにこれにうまく答えるには、科学技術は安全な物であり、魔法とも共存していけるというストーリーだろうか。特に後者、魔法に関する話については平塚先生は生憎長けてはいないというのも逆風に感じられる。ならば僕が応えようと口を開きかけたその時、それを遮るかのように平塚先生がやや身を乗り出して机に肘をついた。
「まず科学に関して釈明をする前に一つ確認させて下さい。貴方は、この国は魔法技術で国際的な信用と和平を保ち、科学技術ではそうはならないと仰っている。それで間違いは無いですね?」
「あ、ああ。そうだよ」
頭を捻りながら釈明を垂れるどころか、むしろ待ってましたと言わんばかりに構える平塚先生に、身内ながら寒気を感じる。平塚先生があのような姿勢で議論に臨む際は、大抵相手の議論に何らかの綻びがあるときなのだ。彼は学会なんかじゃそういう矛盾点を適度に突いて相手の間違いをそれとなく指摘したうえで、別の指針を提案したりするのである。自分や同期の卒業公聴会でもそれをやられたため、平塚先生が突撃してくる攻撃力と切れ味は身をもって知っているのだ。食い気味の先生の態勢は、まさに攻撃サインと捉えて間違いない。
「では質問に答えましょう。結論から申しますと、科学技術教育の導入は然したる危険性は存在しないと思われます。無論、それは我々と貴方達次第でしょうけど」
「……その理由について伺おうか」
多分先生の答えは青年の意見とは真っ向から対立するものなのだろう。だがその返答に対していきなりに気を悪くするでもなく、青年は平静な様子で先を促した。
「まず前提として、科学技術という物そのものについてです。貴方の仰る通り、科学技術は我々の世界において武力の源となったことがあります。それに我々の研究棟には、一歩間違えれば軍用技術に転化されかねないものもあります」
その横で神妙そうな顔で同意している風を装いながら、はてそんなグループあったかなと頭を捻った自分がいた。
「例えば超音速流域下での燃焼触媒の研究。この技術の主な利用先は、分かりやすく言えばとんでもなく速い乗り物の開発です。基本は航空機の発展、つまりは我々一般人の生活に役立つ仕事です。しかし軍用の兵器に対しても、この技術の実用化は大きな意義を持つでしょう」
「やはりそうなんじゃないか。そんな危険なカガクをエルトニアへ持ち込むことに――」
「ですが少なくともうちの人間は民間利用についてのみを考えている。何故なら、我が国において基本的に大学機関は軍事研究をしないという慣習、そして何よりも自身は現状にてその立場にはいないという技術者倫理があるからです。長い人類史の中で、近年ようやく技術の発展に"倫理"が追い付いてきたのです」
勢いをつけたように大口を開ける青年を、しかし平塚先生は最後まで話を聞けと言わんばかりにその発言に被せた。丁寧なはずの口調にも、相手を黙らせるだけの勢いが感じられる。
倫理、その単語を平塚先生は強調して喋る。日本とエルトニアが交わったことで技術的な交流の可能性ができた今、ある意味では倫理観というものが科学技術と共に輸出できる大きなセールスポイントであるのだ。
「世の中の大半の物は、使い手の一存でどのようにもなります。科学技術なんて酷いもんです。技術進歩の脇でまさか人類を滅ぼしかねない爆弾までこさえるとは。使い手が馬鹿ならば、科学技術はいつだって我々に歯を剥く。そして、こっちの世界における魔法技術も似たり寄ったりでしょう」
「あまりふざけたことを言うなよ。魔法技術は僕たちの世界を豊かにしたものだ。エルトニアの信用の源だ!! カガクなどと同じだなんて言わせな――」
「――じゃあ何で貴方の学校は魔法"騎士"学園などという名前なんですか」
間髪入れずに放たれた先生の言葉が、揚揚と反論を口にしようとしていた青年に突き刺さった。開設当初から若年層に魔法技術を教育するだけの機関であれば、その名称に騎士なんていう勇ましい単語は必要はないはずだ。まるで酸欠状態の金魚みたいに無言で口を閉じたり開けたりを繰り返す青年をしり目に、平塚先生は淡々と言葉をつづけた。
「そもそも貴方は自分で言ったはずだ。昔は戦乱が絶えず、そしてエルトニアは国力を維持するために魔法に力を注いだと。魔法を重んじた騎士の養成機関がある以上、この国にだって魔法が武力として国そのものを護った時代があるはずだ」
「そ、それは……だが今の時代では魔法とは僕たちの生活を維持する不可欠な要素で、決して対外侵略のための道具なんかではない!! 騎士という名前も歴史を重んじた儀礼的なものだ!! 魔法を嘲るのも大概に――」
「ならば科学技術も何ら変わりはありません。現代における科学とは、自身を律する科学者倫理も含めてのものだ。科学技術が暴走をしたり、どこかの馬鹿が自分勝手な研究をしないようにするために、我々科学者は常に気を配っている」
さっきまでの平静さは何処へやら、顔を紅潮させて魔法の優位さを説こうとする青年に対して、魔法も科学もあり方はそう変わらないと切り捨てる平塚先生の姿は対照的であった。彼の頭の中には、端から優劣がどうのこうのなんて考えは存在しないのだろう。
「そして我々は科学技術に関する教育機関です。模範的に倫理を体現するべき存在だ。科学技術の教育について危機感を示す方は多いと思いますが、伝道者は民間の一企業ならいざ知らず、我々大学です。倫理教育については当然学生の必修課程にも含まれていますし、教員たちは全員教えるにたる存在であると自負しています」
堂々とそう言い切った平塚先生は、何か反論があるならば言ってみろと言わんばかりに腕を組んで青年たちへ目をやった。今や先生の表情には不自然な笑顔なんて浮かんではなく、普段と同じようなやや硬めの無表情さが表に出ている。隣でただ聞いていただけだけど、身近ではないところから見た彼の姿は結構冷徹な雰囲気を感じるものだ。
「もしそれでも何か疑問に思うことがあるのでしたら、先ほどにも申したように再来週に開かれる一般公開に来訪されればよろしいかと。当日には、恐らく科学と魔法を絡めたような講演もいくつかあるでしょうから、そこでいろいろと議論をしていただければと思います」
別に相手をけなした訳では無いし、ただ淡々と己の思うところや青年の理論の弱点を突いた程度に過ぎない。だからこそ、それを真正面から浴びせられた青年一同は、変に激昂しようにも切り口すらもないと見える。怒ればいいのか反論すればいいのか、こめかみを引くつかせたと思えば額に手をやったりという彼らの心情はそんなところだろう。
「……おそらく騎士学園にもいろいろな考えの人がいるのでしょう。私たち大学の人間も、大学計画が一筋縄ではいかないことくらい痛いほどわかります。だからこそ、いろんな意見を持った人の話をきちんと自身の耳で聞くことは大切なんです。もしお時間があれば、中間報告会にぜひ来てください」
流石にこのまま立ち去るのは気が引ける。相手側が言い返してこないことを良いことに立ち上がろうとする平塚先生の服のすそを掴みながら、穏やかっぽい口調を努めて話しかけた。今の今までただ座っているだけの僕の話を果たして聞いてくれるかという不安はあったが、青年がこちらに視線を向けたことで一安心だ。
「……ああ、そうするよ。こんな簡単に言い負かされるとは、僕もまだまだだったみたいだ……君には最初に失礼な態度を取ってしまって済まなかったね。僕の名前はフリツィオ・ヴェッセル・レザニアだ。再来週は僕の派閥の人間もいくらか連れてくるよ。反対派なりに、有意義な話をしようと思う」
「名乗り遅れました。私は当大学で助教を勤めております、平塚礼二です。お手柔らかに頼みますよ」
深呼吸一つと共に返ってきたのは、なんか妙に爽やかな感じの応答だった。こちらに接触してきた当初のような傲岸不遜な様子は何処へやら、多少なりにはこちらを下に見ているような雰囲気は感じるものの、立場上貴族と平民という関係を顧みたらむしろ普通の対応だ。その様子の変わりぶりに、不気味さを感じてしまうのもしょうがないだろう。
そして今の発言から、彼が間違いなく大学計画に反対する派閥の人間であることが確定した。しかしそれにしては妙だと感じる。川崎さんが愚痴を述べる程度には報告会への茶々を入れる彼ら反対派の人間が、高々十数分話しただけでその会に参加をしようと思うだろうか。それもめっちゃくちゃにしてやろうとか言うのではなく、むしろ異なる視点から建設的な話をしようという意気込みすらも感じた。
「……小手調べだと突っかかった謝罪と言っては何だけど、君たちに少しだけこっちの話をしておこうと思う」
違和感はあれど取りあえずはこれで禍根も無いだろうと安心して立ち上がった矢先だった。意味ありげに小さく呟きつつ周囲を簡単に見まわした彼は、折角穏やかになった表情を少しばかり険しくして口を開いた。
「君たち二ホン国への反対派は一筋縄じゃない。僕がいる、国の歴史と将来を憂い純粋に科学技術に反対する一派とは別に、もう一つの派閥が存在する」
何かと思えば、いきなりのカミングアウトに少々面喰ってしまった。この状況は、それこそ敵情を探っているに等しいものだ。驚きで目を見開く一方で、しかしなるほどという納得も覚える。先ほど感じた違和感、反対派の彼が何故報告会に参加することへ乗り気でいるのか。その答えは、彼の語ったようにそもそもの派閥の違いによるということなのだろう。
「……あなた方は、てっきりライル殿下が取りまとめているものだと思っていましたが」
「それは一部では合ってるが、一部では間違いだ。殿下が率いる前から僕たちの派閥というものはあったんだ。そして確かに殿下の意志表明のおかげで動きやすくなったのは事実だ」
確かに殿下の意思表明は彼らにとってみれば渡りに船なものなのは間違いないだろう。日本との交流は仮にも王室が決定を下した方針であり、それに対して大っぴらに異議を唱えるのは貴族社会においては難しいだろう。その状況で、王子という身分の人間が中心となれば彼の意見を支持するという名目で動きやすくはなるはずだ。
「……だが、恐らく殿下は僕のような二ホン国のカガク導入に対する純粋なる反対派というわけでは無いだろう。これはあくまで勘に過ぎない。だが数回意見を交わした印象では、少なくともあの方と僕は完全に同じ方向を向いているわけじゃ無さそうなんだ」
それは、こちらとしても首を傾げかねない話だった。失礼な話になるけど、てっきり彼らはライル殿下の遣いとして戦力偵察に来たものとばかり思っていたからだ。
「正直僕には殿下の狙いは分からない。敵に塩を送るようで何だが、あの方の動向には少しだけ意識をしていた方が良いかもしれないよ」
「……そうですね。ご忠告、ありがとうございます」
もし大学計画への反対派を隠れ蓑に何か別のことをやろうとしているのならば、結構面倒事になりうるかもしれない。まだ未成年とはいえ王家の関係者、それも王子様だ。ライル殿下が何をしようとしているのかについては、ちょっと川崎さんにも話を通しつつ探ってもらうのが良いのだろう。
随分重要な話をしてくれたもんだと内心で驚いていたら、どうやらまだ終わりではないようだ。そしてそれは、少なくとも僕自身にとってみれば、一層に重く伸し掛かる話であった。
「……それと、殿下が意志表明をされる直前のことだ。急遽開かれた殿下主催の大学見学会について覚えているかい? その場にいた僕の家の人間が言っていたが、見学会の中で殿下は君たち側の人間の一人と時折話をしていたそうだ。それも普段よりも険しい表情でね」
彼の話を聞いている内に、段々と自分の心音が何故かはっきりと聞こえてくるような錯覚へと陥る。あの見学会については、今だって記憶が詳しく残っている。大学内の各所を回る見学会において殿下と何回か話す機会のあった人間なんて、案内役の川崎さんか、もしくは――
「名前については分からないが、ちょうど君くらいの歳の銀髪の者だったらしい。君たちのような黒髪が多い中では銀色の髪の毛なんてそういないだろう。どこまで関わりがあるのかは分からないけど、あの殿下が普段と違う様子を見せるのは少々気になるところだ。もしかしたら件の人物が何か事情を知っているかもしれないよ」
そこまで語った青年たちは、今度は容赦しないよと言い残しながら未だ椅子に腰かけたままの僕たちを残して広場の出口へと歩き去っていった。強張った表情で見送りつつ、己の肩口に目をやる。銀色とは程遠い色の黒い髪の毛が、風に揺れて肩の辺りをさらさらと撫でている。しかしこの髪はその実ただのカツラであり、僕の地毛は完璧なまでの銀色だ。こんな色の人間なんて、エルトニアキャンパスで努めている人間の中でただの一人しかいない。
「……レイ、とりあえず帰るぞ。風が吹いてお前のカツラがどっか変なところに飛ばされたら色々面倒なことになりそうだ」
冗談めかしたような平塚先生の言葉も頭には半分も入ってこない。青年の話が本当ならば、殿下の意思決定には少なからず僕の存在がかかわっているだなんて。いきなり言われたところでどうしろって言うんだ。
平塚礼二という人間は確実に大学計画の中心へと向かっているのだ。自分が想像する/願うよりもずっと、もう後戻りの効かない計画の心臓部へと。