そこは暗かった。そこは、じめじめと鬱蒼とした雰囲気のある場所だった。その中に僕は佇んでいた。
暗いのは何故か?ーそれは今が夜中であるから。
じめじめと鬱蒼としているのは何故か?ーそれは僕がいるところが森だからであり、雨が降っていたからだ。
何故そんなところにいるのか?ーそれは僕が自由になるためだ。
人間というものは実に愚かな生き物だ。実に欲望に忠実だ。別にそれが悪いだの、汚いだのと思う訳ではない。それが人間の持つべきモノであるだろうことを18しか生きていない僕でもなんとなく理解できる。
そう、理解はできたのさ。ただ、納得できるほどの成長をすることは僕にはできなかった。
毎日毎日が苦痛だった。
両親や他人の評価にビクビクと怯えながら、他人の視線や感情を気にしながら生活していくことが苦痛だった。
理不尽な怒りや言動を向けられたことも多々あった。褒められたことなどほとんどなかった。
物理的にも精神的にも痛みを何度も何度も味わった。
もちろんいい人達とも出会えることはあった。いや、僕が気づいていないだけでそういう人はいたのだろう。
だが、その頃にはすでに僕は負け犬になっていた。すでに僕の___はぼろぼろになっていた。
笑顔を忘れ、痛みを忘れ、感情を忘れ、ただの木偶の坊となっていた。
それでも願望という欲望だけは残っていたらしい。いつの頃からか、僕はカラスのようになりたいと思うようになった。カラスは良い。
神の使いと崇められたかと思えば、汚れていて穢らしいと蔑まれるようになった。
しかし、そんなものを石ころにも満たないとでも言いたげに気にもしない。
ただただ空を飛び、本能のままに生きていく。
あの青空の上を飛んでいけたらどんなに気持ちいいだろうと夢見ていた。その夢も今に叶う。
真っ暗な空に段々と日が射し込んでくる。朝日から微かに射し込む光が暗闇を照らす。僕は服を全て脱ぎ捨てた。外で裸になったところで、見つかる心配はしなくていいだろう。別段脱がなくても良かったのだが、形から入るほうが、これから自由になれるという現実味が増すだろうと思ってのことだ。
ここでは、今からは、誰からも咎められずに済むのだから・・・。
僕はあらかじめ持っていたサバイバルナイフをズボンのポケットから取り出した。小さいが首に突き刺すにはちょうど良い。
さぁ、輪廻転生というものがあるとするなら、人間として生まれたくはないな。
そう思いながら、僕は静かにナイフを首に突き刺し・・・両手で・・・引きちぎるように・・・掻き切った。
「ここは・・・・・・」
気がつけば僕は空を見ていた。雲一つない青空が目の前には広がっている。
どうやら死後の世界にも色があるようだ。おもむろに僕は上体を起こした。
そこで僕は違和感に気づいた。
(肉体・・・)
死後では魂だけの存在になるなどと言われていたが、そうではないようだった。
しかも今までの、死に至るまでの記憶も何故か鮮明に覚えている。
周囲を見渡してみると、ちょうど円を描くように自分を中心に草原が広がっており、奥には木々が連なっていることが分かる。そこで初めて地面に座っていることに気づいた。
「本当に死んでいるんだよな・・・?」
誰もいない一人だけの空間のような雰囲気で、死んでいるのか、生きているのかの判断がつかなくなってくるのも仕方のないことだと言えるだろう。しかし、呆然とするにはまだ早かったらしい。
自分の身体を見てみると、身体全てが真っ白だった。
「・・・なんだ、これは?」
わずかな動揺とともに目視できるところを全て確認する。だが、どこを見ても白、白、白。
まるで人間を白いストッキングかなにかで覆っているかのようだ。
「・・・・・・ハハ」
自分に降りかかった摩訶不思議現象によって動揺と困惑が押し寄せてきているが、あまりにも異常であるため、僕は考えるのを止めたかった。
しかし、幸か不幸か池を発見してしまった。自分の今の姿を見てみたいという好奇心が恐怖より勝ってしまった。おそるおそるではあるが、僕は覚悟を決めて顔を、自身の肉体を池の水に映した。映し出されたのは全身白タイツで顔などのパーツはおろか凹凸のない人間の形をした真っ白い何かであった。
とっさに僕は叫んでいた。
「何もんだ俺ぇ!?」
そうして僕は目の前が暗くなっていくのを微かに感じながら倒れた。