ジャパリパークに紅く~Legendary Fish 作:天井in
さばんなちほーの中央を流れる川。その河口付近に見慣れない生き物が打ち上げられていました。
長い体には足が一本もなく、毛皮も鱗もない肌はきかいの様に銀色に光っています。
頭と思しき部分にはぎょろりとした瞼のない目と歯のない潰れたようなかたちの口、見ようによってはたてがみのようにも見える紅い鰭が平たい体の先まで続いています。
おそらく誰から見ても「こいつは陸の生き物ではないな」と思われるであろうこの生き物は、案の定海の生き物―つまりは魚でした。
当然、魚は陸では息ができません。それでも生をつなぐため、魚は鰓を必死に動かします。
やがてその動きすら小さくなり、目的を達することなくその命が輝きを失くそうとした瞬間。
閉じることのない瞳に、雲一つない空を裂いて虹色の光が飛び込みました。
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かざんが噴火した少しあと。さばんなの川辺を河口に向かって歩いていく二人分の人影がありました。
「こっちなのだー!こっちの方に大きなサンドスターの光が落ちてったのだ!」
意気揚々と前を歩くのは、淡藤色の服を着て、青みがかった白と黒っぽい紺色が混ざったような、不思議な色合いの髪からなぜか丸みがかったけものの耳が、スカートの中からはしましまの模様が入った尻尾が生えた、見るからに好奇心旺盛な女の子。
「待ってよアライさーん」
後ろからのんびりとついてくるまーペースそうな女の子は、ピンクの服に薄い金髪、そしてアライさんと呼ばれた彼女と同じく大きくとがった耳と先端が黒く染まった尻尾を生やしています。
「サンドスターが落ちたのは分かったけどー、行ってどうするのさー?」
「さっきのは今まで見た中でいっちばん大きかったのだ!だからきっと、新しい発見とか!お宝とか!そういうのがあるに違いないのだ!」
「なるほどねぇ」
ある(というかいる)としてもセルリアンかフレンズじゃないかなぁ、などと内心思いながらも彼女―フェネックは楽しげにアライさんの後をついていきます。
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しばらく歩いて、海の匂いが強くなってきたころ。
「むー、むぅー…全然見つからないのだー…」
「…んー?」
「むぁ?フェネック、どうかしたのだ?」
むーむー唸っているアライさんの隣で、フェネックがぴこぴこと耳を動かし始めました。
「…なにかの足音が聞こえるねぇ…フレンズっぽくはないし、…セルリアン、かなー?」
「おお!さすがフェネック!よーし、アライさんが行ってやっつけてやるのだぁー!」
「あ、待ってよアライさーん…まあ、そんなに大きくなさそうだし大丈夫かな?」
聞くや否や突進していくアライさん。やっぱりセルリアンだったかぁー、なんて独り言ちながら、フェネックも慌ててその背中を追いかけます。
「見つけたのだ!…おぁ!?ふぇねっく、フェネックー!」
「おぉう、どしたの?急に止まったりしてー」
「あ、あれを見るのだ!セルリアンの向こう!」
「どれどれ…おぉ?あれってもしかして」
果たしてアライさんが指をさした先には。
ぐったりと横たわって動かない一人のフレンズと、そのフレンズに近づくセルリアンの姿がありました。
「フレンズなのだ!フレンズが倒れてるのだぁー!?ま、まさかあのセルリアンに」
「食べられちゃってたらあの姿で倒れてないんじゃないかなー。落ち着きなよアライさーん」
「はっ!それもそうなのだ!」
百面相をしている相方を落ち着かせ、改めてセルリアンに意識を向けます。
高さは自分たちのむねまでくらいで、不自然なほど青い色をしています。まだこちらには気付いていないようで、小さく跳ねながらたおれているフレンズに近づいていきます。弱点であるいしは後ろからは見えません。
「ふぇ、フェネック!あいついしがないのだ!どうしよう!」
「たぶん前のほうにあるんだろうけどー…とりあえずこっちに意識を向けさせないとー」
「ぅおお!アライさんにおまかせなのだぁー!」
「がんばってねー」
うおおー、と叫びながら吶喊するアライさんを見送り、自分もすべきことをしようと草むらに隠れて近づいていきました。
「うぉおあーっ!そこのセルリアン!こっちを向くのだ―!」
(さっきまでの時点でも十分うるさかった気もしますが)セルリアンの後ろまで近づいて大きな声をあげるアライさん。つられてセルリアンも後ろを振り向きます。
「このアライさんとフェネックが来たからには好き勝手…は…」
ここで相棒がいないことに気付きます。
「あれぇ!?フェネック!?どこに…はっ!?ま、まさか」
フェネックがいたのにいない+目の前にセルリアンがいる=こたえ。
「よ、よくもフェネックを…!絶対に許さないのだぁーッ!!」
明らかに間違ったほうていしき(かしこい)を一瞬で導き出し、怒りのままにセルリアンにとびかかるアライさん。
「フェネックを、返せぇーーーッ!」
振り抜いたこぶしはいしを砕き、セルリアンは立方体になって消えていきました。
→
「ふぅー…じゃないのだ!フェネック、フェネックはどこに」
セルリアンのいた場所にはフェネックの姿はなく、慌てて顔を上げるアライさん。
すると、
「いやぁ、お疲れさまだねぇアライさーん」
「ふぇねっくぅ!?」
なんと、食べられたはずの相方が元気に手を振っているではありませんか。
「フェネック!?食べられたはずじゃ」
「いやいや、このとーりピンピンしてるよー?」
「じゃ、じゃあなんで居なかったのだ!?」
「先にこの子を介抱しようと思ってねぇ。そしたらアライさん突撃するもんだからさー、大丈夫そうだったしこっそり後ろに回りこんだんだよー」
「えぇー…」
いやーこの子も無事みたいでよかったよー、などといつもの笑みを浮かべてのたまう彼女と、そのそばで寝息を立てるフレンズを見て、アライさんも漸く肩の力を抜くのでした。