ジャパリパークに紅く~Legendary Fish 作:天井in
太陽が中天に差し掛かる頃。アライさんとフェネックは、休憩がてら先ほどのフレンズが目を覚ますのを待っていました。
「それにしても…」
「?どうかしたのだ?」
「や、今まで見たことのないフレンズだなぁ、って」
お宝かどうかはともかく、新しい発見ではあるかもねぇ…なんてことを考えながらフレンズを眺めるフェネック。
長い触角のようなものがついた帽子、紅いフリルが沢山ついた白い服に黒のロングスカート。そして、ゆったりと体にまきつけるようにして身に纏った、服と同じ意匠の長いひらひらしたもの。どれを取っても見たことがありません。
「やっぱり新しく生まれたフレンズってことだよねぇ…。アライさんはどう思うー?」
「んー、よくわからないけどきれいなのだ!」
「そうだねぇ」
他愛もない話をしながら目を覚ますのを待つ二人。すると、
「…うぅ…ん、ぅん?」
すこし掠れたうめき声をあげ、件のフレンズが目を覚ましました。
「おぉ?目が覚めたのだ?」
「気分はどう?痛いところとかないかなー」
「いえ、特には…」
「そっかそっか、それは良かったー」
「ここは…?」
そう言いながら半身を起こすフレンズ。喋り口こそ落ち着いたものですが、その顔には「何が何だかさっぱりわからない」という表情が浮かんでいます。
「ここはさばんなちほーの…どの辺なのだ?」
「どこっていえばー…南のほう、かなぁ」
「えぇと…?」
「あ、さばんなちほーっていうのはー、ジャパリパークの南側にあるちほーでねー」
「あの、そのジャパリパークというのは…?」
「?」
「…?」
どうやら、お互いに話しがかみ合っていないようです。
「…いったん、話を整理してみようかー」
→
二人とも落ち着いたころを見計らい、フェネックが話を始めます。
「あ、その前に自己紹介でもしておこうかね。」
「私はフェネックギツネのフェネック。んでこっちが」
「アライさんはアライグマなのだ!おねーさんは何のフレンズなのだ?」
「なんでしょう…分からないですね」
おや、とフェネックは首をかしげます。というのも、今の答え方だと、“フレンズとは何か”がわからないのではなく、“自分がなんのフレンズか”が分からない、という答えに聞こえたからです。
「あれ、フレンズの事は知ってるのー?」
「いえ。ですが、意識を失う前と勝手が異なるので。そんな感じかなぁ、と」
どうやらこのフレンズは観察力が鋭いようで、自分の身に何が起こったのかをなんとなく理解できているようです。
「なるほどねー。どのくらい覚えてるのかは分からないけど、そんな感じで大体あってると思うよー」
「全然わからないのだ…」
話しが飛びすぎてアライさんには難しかった様ですが。
「つまり、私が最後に見た光…」
「アライさんが見たっていう、大きなサンドスターの光だろうねぇ」
「それが原因となって今私はこうしてふれんず?になっている、ということではないでしょうか」
「そういうことだろうねぇ」
「おぉー、すごいのだ!おねーさんはかしこいのだ!」
「まぁ、このくらいは」
「…なんだかつかみどころのないフレンズだねー」
説明が終わり、感心して目を輝かせるアライさんと、若干得意げに受け流すフレンズ。
どこかずれたような会話をするふたりを見て、苦笑するフェネックなのでした。
→
「…さて、ここはジャパリパークっていってねー、いくつかのちほーがあるおっきな島なんだー」
「ふむふむ」
「んで、いま私たちがいるのはパークの南側にあるさばんなちほー、なんだけどー」
と、フェネックはここで一度話を切って視線を合わせます。
「おねえさん、どこから来たのかわかるー?」
「…すみません、ほとんど覚えていなくて…。ただ、暗くて冷たいところをを漂っていた、ような気がするのですが…」
ということは、やっぱり海から来たのかなー、と考えをまとめながらフェネックは話を続けます。
「ふむふむ、ほかに何か思い出せそうなことってないかなー?」
「いえ、特には…。ただ、上手く言い表せないのですが」
「うん?」
「なにかを忘れているような…そんな気がするんです」
これはまた随分とぼんやりしたカミングアウトです。
「ふむふむ、…なんだろうねぇ」
流石になんとも返答できず唸っていると、説明している間暇そうにしていたアライさんが話に戻ってきました。
「よくわからないけど、きっと覚えてないってことは大したことじゃないのだ!だから、心配しなくても大丈夫なのだ!」
「アライさぁん…」
いくら何でも無体ではなかろうかと頭を抱えるフェネックを横に、当事者は納得したご様子。
「うーん、まぁそんなものですかね」
「それでいいんだ…」
まあ本人がいいならいいのかなぁ、とフェネックも思考を放棄するのでした。
「あ、それともう一つ」
「お?」
まるで今思いついたかのような唐突さの割には、何かを確かめるように真剣な表情で、彼女は言葉を続けます。
「…永江、衣玖と。誰かに呼ばれていたような、そんな気がします」
「ナガエイク?っていう動物なのか?」
「どっちかっていうと名前じゃないかなー。なんのフレンズか分からないみたいだし」
「なるほど!」
「でもそのままじゃちょっと呼びづらいねぇ」
名乗った当人を差し置いて、早くも呼び方についての模索を始める二人。すると、少し考えてから、アライさんが手を挙げてアイデアを出します。
「う~ん…じゃあ、ナガエさんって呼ぶのだ!」
「ナガエさん」
なんだか少し危ない気がします。
「アライさんのアライさんっていう呼び方となんだか似てるのだ!おそろいなのだ!」
「語感は似てるけどさぁ…これっておそろいなのかな?」
「ナガエさんはどう思うのだ!?そっちょくな感想を教えてほしいのだ!」
「アライさん難しい言葉を知ってるねぇ」
首をかしげるフェネックと鼻息を荒くして是非を問うアライさん。その自慢げな笑顔を見ていると、不思議と見ている方もつられてしまいます。
「ふふ…そうですね。いいんじゃないでしょうか?」
「ほら!ナガエさんもうれしそうなのだ!」
「おー、衣玖さん初めて笑ったんじゃない?」
そうかもしれませんね、と。すっかり打ち解けた様子で微笑む衣玖さん。
さばんなの午後は、ゆっくりと過ぎていきます。
次回からは「ナガエさん」ではなく「永江さん」呼びになると思います。
若干危ない気がするので。