歯抜けのジーニアス   作:clon

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お待たせしました。
皆さんバンドリのアニメは当然観ているかと思います。
アニメ視聴済み前提で話は進んでいきます。
アニメの各話の間をお話しに、をイメージしています。
観てない人はバンドリ観てね!


プロローグ 下

「なぁ、市ヶ谷」

「………………」

「聞いてる?」

「聞いてない」

「聞こえてるじゃん」

「聞こえてない」

「消しゴム貸して」

 

 

聞こえてないって言ってるだろ。半目で睨んでくる市ヶ谷は目で語る。

 

 

「シャーペンに付いてるやつあるだろ。それ使いなよ」

「あれは使いたくない」

「……何で?」

「欠けると嫌じゃない?」

「知らねーよ!」

 

遂に怒る。授業中なので声は小さめに。

市ヶ谷はこんな奴だ。

口が悪い。

 

 

「……ほら、ちゃんと返せよ」

 

 

それとすごい良い奴。

そっぽを向きながら消しゴムを渡してくれる。

 

 

「ありがと」

 

 

礼を言ってもそっぽを向いたままだ。

手早く消しゴムを使って返す。

 

 

「市ヶ谷、ありがと」

 

 

もう一度礼を言ってノートと向き合う。

消したところがちょうど埋まったくらいだろうか。

どういたしまして。と尻すぼみな声が先生のBGMに被せて聞こえてきた。

被せたのに覆い被される声。

なんだかんだでいいやつな市ヶ谷に見つからないように笑う。

市ヶ谷はこういったことにすごく怒るから控えめに。

 

窓向こうの桜も散って若葉が目立つ頃。市ヶ谷はこうして授業に参加している。

歯抜けのジーニアスらしくもない出席率にみんな驚いて今ではあだ名の頭に‘元’なんてものまで付いてる。

金の髪をリズム良く揺らしながらなんだかんだ真面目に板書をする彼女がこうなった理由は、間違いなく隣のクラスの彼女のおかげであり、きっと俺のせいだ。

 

それはまだ、桜が散る前。

少し遅れた満開を見せていた4月頭の頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごきげんよう」

「……ごきけんよう」

 

 

きっと俺はすごく間の抜けた顔をしてたと思う。教室に入ればそこにはにっこりと微笑んで挨拶をする市ヶ谷がいた。

いつか来るである日が早速翌日に来るなんて思ってなかった。こんな簡単でいいのか。

クラスは違えど同じ学校、しかして3年間顔を合わせることがなかった市ヶ谷にあっさりと初対面を済ませてしまった。

同じクラスって本当にすごい。

 

 

「ねぇ市ヶ谷さん」

「なんですか?」

「昨日のギター泥棒大丈夫だった?」

「んなっ!?」

 

 

出会って5秒で悪いけど昨日の事を聞くとマジか、顔に出る市ヶ谷さん。

 

 

「マジか!」

 

 

顔に出やすいんだなぁ。

口の橋を引きつらせて固まる。

後に知る事だが、この時はよそ行きモードだったらしくものの数秒での皮を剥いでしまった事を申し訳なく思う。

市ヶ谷は本当は超が付くほど口が悪いのだ。

男勝りな口調は世渡りのため、あまり表には出さないらしい。

 

 

「おまっ、昨日の見てたの!?」

「ちょっとね。泥棒を追いかけて仲良く歩いてるとこまで」

「仲良くねぇ!」

「え?私たちもう友達でしょ?」

「え?」

「え?」

「んふふ〜」

 

 

突然の声に俺と市ヶ谷は揃って振り向く。

そこには自慢げに笑う猫耳ヘアーの女の子が。

腕を組み、自信ありげに笑っていたが、思い出したようにぷりぷりと怒り出した。

 

 

「もー置いてくなんて酷いよ市ヶ谷さん!あっ、私戸山香澄。よろしくね!えーと…」

「あ、兵動一です」

「よろしく兵動くん!」

 

 

いつのまにか握手までしてしまった。

戸山さんのコミュ力が計り知れない。

突然の乱入者に市ヶ谷は唖然としていたが、徐々に怒りのボルテージが上昇いっていったのだろうか、

 

 

「お前らどっか行けぇぇぇぇ!」

 

 

昨日の泥棒発言よろしく腹の底からソプラノボイスが飛び出してきた。

 

 

と、いった具合に結局戸山さんが理由の大部分を占めるわけだが、こうして俺たちは知り合うことが出来た。

ただ、今みたいに消しゴムを貸し合うようになるまでには、現代文感想文事件やアドレス交換事件といった過程を経ているのだがそれはまた別の機会に。

 

 

ただ一つ、付け加えておくのなら、戸山さんは興奮してすぎてギターを持ったまま市ヶ谷家から飛び出してしまっただけであり、泥棒ではなかったということだ。




事件の内容はいつか後日ということで。

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