歯抜けのジーニアス   作:clon
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すみません、fgoやってて遅くなりました。



美しい日

美しい日

 

 

気のせい。

明確な根拠がなく、自分だけが感じ取ること。

 

辞書を開くとそう出てくる。

つまりは、自分がそう思うだけで周りから見たらそうではないということだ。

 

とても便利な言葉だ。

相手を納得させるため、そして時には自分を納得させるために使われる。

だが今回ばかりは丸め込まれない。

そんな言葉では納得できない。

 

だって、クラスの彼氏彼女事情が気のせいではないと確信があるからだ。

 

風邪っぴきの文化祭、その週末をしっかり療養して体を万全にした月曜の登校日、今日、朝下駄箱の時点で何かがおかしかった。

感覚的なものであり特に深く考えなかったが、時間が経つにつれそれは疑惑に、そして昼頃には確信に変わっていった。

 

みんな彼氏だとか彼女だとか恋人ができている。

それは授業の合間の時間だったり、昼食の時間だったり、奥手な人達は嬉しそうにメールを、隠す気のない人達は肩を並べて仲睦まじそうに。

どこもかしこも青春色したライトブルーを撒き散らしていた。

 

間違いなく文化祭の効果だ。というか聞いてみたらみんなそう言っていた。準備期間に距離を縮めたり、当日に告白したり。

 

それなのに何故だろうか。

俺に何もないのは。当日は仕方ない。だって風邪を引いていたから。でも準備期間中に仲が良くなった女の子だっていたんだ、保健室に告白しに来る積極性のある子だっていたっていいじゃないか。

保健室で独りだったんだぞ、邪魔が入らないし何より自分で言うのもなんだが俺は弱っていた。

弱ったところに優しさを、なんて最高のシチュエーションじゃないか。

 

文化祭前と変わらない俺、周りは青春を謳歌しているのに。

つまりは何が言いたいかというと、

 

「なんでこんなに重いんだよっ」

「あん?男だろ?」

 

夏が始まろうとしているのにどうして俺は電子ドラムを担いで太陽に晒されているかという事だ。

隣の市ヶ谷も電子ドラムを持っているが、みるからにして軽そうで俺との負担の差は火を見るより明らかだ。

日に晒されてジットリとした汗が背に流れている。

貢献度は俺がダントツで高いのにこの扱いは何故なのか。

 

「こんなんなら声かけるんじゃなかった……」

「はいはい、もう着くから。がんばれー」

 

気持ちの籠もっていない声援を受けて俺は歩き続ける。

楽器屋の前で屯していたこいつらを見つけて声をかけるとその中心から出てきたのがこの電子ドラム。

買ったはいいが、どう持ち帰ろうか頭を悩ませていたらしい。

そしてあれよあれよという間にその一団に組み込まれてしまい、その結果がこれという事だ。

 

くそ、重いと思うと余計に重く感じて来た。

 

先頭を歩く俺と市ヶ谷。

ゴールは市ヶ谷の家でもうすぐらしいがそもそも市ヶ谷の家を俺は知らない。気力が限界に近づいてきていた。

 

「ごめんね、一。病み上がりなのに」

 

横からひょっこり。俺達に影が並ぶ。

申し訳なさそうにする彼女に強がりではあるが笑顔を見せる。

 

「いいって。沙綾達じゃ持ちきれなかったでしょ」

 

事実、みんなは困っていたからあそこに屯していたわけであって。

強がりだろうと見せないわけにはいかない。

 

控え目に笑う彼女を見て満足していると反対側から小突かれる。

 

「お前私の時と態度が全然違うじゃねーか」

 

不満げに睨む市ヶ谷。そんなつもりはなかったんだけど。でももうそう感じたのなら……。

 

「ニューカマーには優しくしないとな」

「それ関係あんのか?」

「んー、ない」

「てめーこのやろう」

 

おっとお口が汚いのは誰だ?

俺を挟んで宥め、宥められる2人を見ながら思う。俺はきっと嬉しかったんだと思う。

Poppin' Partyの足りていなかった、最後のメンバーが合流した事に。

 

3日前、つまりは金曜日、つまりは文化祭、つまりは俺が風邪を引いたあの日だ。

見にいくと言った、2つの約束を果たせなかったライブ。

沙綾は観客ではなく、Poppin' Partyのメンバーとしてライブを参加をしたらしい。

どういう経緯があったのかは分からないけれどきっと戸山さんのおかげなのだろう。

彼女達の笑顔を見て、Poppin' Partyは斯くあるべきなのだと改めて感じる。

それよりも俺の存ぜぬ所でメンバー加入が著しい。市ヶ谷はああ言ってくれたが。

相談はよく受けるが結局戸山さんのコミュ力で全て解決出来ている気がする。

 

そんな事を思いながら歩みを進めていると戸山さんが大きな声を上げた。

 

「とーちゃーく!もーヘトヘトだよー!」

 

俺達3人組の横をすり抜け、戸山さんが立派な門構えの家の前に立つ。

あまりの立派さに思わず市ヶ谷を見る。

 

「お前ホントに姫じゃねーか」

「ちげーよ!」

 

あながち姫も嘘じゃないかと思ったが違うらしい。

圧倒されながら門をくぐり、お目当ての蔵へと入っていく。

さぁ、ゴールはもうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

最後にコンセントを刺して一息つく。

ここまで重い思いをしてきた電子ドラムを組み上げ眺める。

今まで俺を苦しめてきた重厚な色合いと厚みを持つドラム。

諭吉何人と引き換えたのだろうか、本当に落とさなくてよかった。

しみじみ感じていると、ありがとー!という声と共に戸山さん達がドラムに突撃していく。お目当てのおもちゃに群がる子供のように。

 

「お疲れー」

 

ほい、と目の前に麦茶が差し出される。

市ヶ谷は俺に差し出しながら自分も同じ物を飲んでいた。

受け取り、一気に飲み干す。

これまでの重労働が報われる味がした。

 

「もう一杯いる?」

「ありがと、もらうよ」

 

ピッチャーからもう一杯入れてもらう。

今度は五臓六腑に染み渡る味がした。

それを市ヶ谷に伝えると、

 

「ビールかよ」

 

そんな事を言われた。

呆れながら笑う市ヶ谷に見せつけるように麦茶を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

「イチ君夏服だねー。なんか新鮮」

 

ドラムいじりも一通り落ち着いた時、みんなでソファに座って休んでいると戸山さんが俺をジッと見つめながらそんな事を言った。途端に集まる視線。

そ、そんなに変か。いつものブレザーを脱いだだけのはずなのに。

隣に座る市ヶ谷の視線も心なしか刺さるようだ。

 

「ではそんなイチ君に問題です!私達はどこが違うでしょうか!」

 

俺の心戸山さん知らず。戸山さんはご機嫌そうに胸を張る。当てられるものなら当ててみろ。そんな意気込みが伺えるが、この流れで外せと言う方が難しい。

一応悩むふりをする。

 

「んー、どこかなー。難しいなー」

 

我ながら棒読み過ぎる。市ヶ谷の視線が殊更強くなった気がする。茶番はやめろとでも言いたげに。

だってすぐに当てたら面白くないでしょ。

沙綾とウッシーも察しているのか笑みを浮かべている。

 

「はい。有咲がタイツからニーソックスに変えた」

 

茶番を演じていたからだろうか。

おたえさんが突然そんな事を言い出した。

自信満々に挙手をするおたえさん。

固まる空気。元々涼しかった蔵がもう少し涼しくなった気がする。

若干の間を置いて、ウッシーがハッとする。

違うんじゃないか、そんな否定のようなフォローのような声がする中俺の視線は一点に注がれていた。

 

たしかに。ニーソックスになっている。

先週まで真っ黒だった足は僅かに市ヶ谷の白い肌を覗かせている。白と黒、コントラストがなんだか眩しい。

流石はおたえさん。俺ではそんな所に気づく事も出来なかった。

 

「み、み……」

 

みみ、市ヶ谷の足が気のせいか震えたと思ったらそう聞こえた。

 

「見んなぁぁぁぁ!!」

「ぶはぁ!?」

 

次の瞬間、足に釘付けだった視線が強制的に外された。

真っ暗になる目の前。襲いかかる衝撃。仰け反る俺。

 

「いてて…………はっ!?」

 

膝元に落ちるクッション。これを投げつけられたのか。鼻をさすっていると今度は俺が視線を感じた。顔を真っ赤にして必死に足を隠そうとする市ヶ谷がそこにはいた。

 

何か言う前に立ち上がり、蔵から消えていく。

 

束の間の無言。

投げつけられたクッションを手に持って一息。

 

「……俺のせい?」

 

頷く面々。良心であるウッシーすらも、被害者だけど否定はできないと苦笑いを浮かべている。

 

「正解?正解だよね?」

 

時間の流れが違うおたえさんは本当に、本当に不思議そうに首を傾げた。

とりあえず俺は黙不用意な発言は控えてもらうようお願いをした。

きっと意味がない事を理解しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、変なとこ見やがって」

 

市ヶ谷がいない、まじまじとそういうところを見るのはご法度だと良心である沙綾とウッシーにお叱り受けて少し居心地の悪い時間を過ごした。

次に見た市ヶ谷はロングスカートを履いてしっかりとガードを固めていた。

腕を組み、プンスカと怒る市ヶ谷のその耳はまだ僅かに赤い。

 

「ごめんごめん」

「……別にいいけどさ。あんまりジロジロ見るな」

 

ジロジロと見なければいいんだろうか。横に座る彼女を今度は盗み見ると組んだ腕にどっしりと乗るソレ。

こういうのを着痩せって言うんだろうか。

冬服の時は気付かなかったソレに気付かされる。

 

「こーら」

 

嗜める声に肩が震える。

向かいのソファに座る沙綾がジト目という表現がよく似合う睨みを見せていた。

慌てて視線を市ヶ谷から目の前の麦茶に変える。

これもダメなのか。女の子は視線に敏感っていうけど敏感過ぎやしないか。

 

「ったくタイツに戻すか?でも暑いし……」

 

……いや、市ヶ谷は鈍感な部類なのかもしれない。きっと俺の邪な視線に気付いておらず、さっきと同じく腕を組んだままブツブツと呟いている。

 

漸く事態が終息したかのように思えたところに新たな事案が。

 

「大変たいへーん!」

「大問題だよ」

 

ドーンと後ろから沙綾に飛びかかる戸山さん。おたえさんもそれに倣い、ウッシーに飛びかかる。

キャーとわちゃもちゃする彼女達。女の子がやると華があるなぁ。

俺は男とは絶対にやりたくない。

 

てーへんだてーへんだと騒ぐ4人とは対照的にわちゃもちゃできていない市ヶ谷が心なしか寂しそうにしているのをみて俺は背中を差し出す。

背中から訝しげな声が聞こえた。

 

「……なんだこれ」

「市ヶ谷もしていいぞ」

「やるか!」

 

折角わちゃもちゃしてあげようとしたのに。

座り直して俺と市ヶ谷は向かいの4人が落ち着くのを黙ってみていた。

 

「で?何がそんなに大変なの?」

 

黙っていられなかったみたいだ。

市ヶ谷が麦茶をちびちびと飲みながら問いかける。

 

「はっ、そうだった!SPACEの店員さんがみんなインフルエンザで休みなんだって!手伝いに行こう!」

 

そいつはてーへんだ。

戸山さんのヘルプ発言からバタバタとみんな出かける準備を始めた。

荷物をまとめて出かける準備をする5人を見ながら茶菓子をいただく。

 

「ほら!イチ君も行くよ!」

 

戸山さんが手を差し出してくる。

キラキラドキドキ、本当に楽しそうに笑う彼女に俺は……。

 

 

 

 

 

 

「で。帰るのかよ!」

「うん、今日疲れたし」

 

立派な門の前で俺は市ヶ谷達と向き合っていた。

行く道は反対。俺は家へ。市ヶ谷達はSPACEへ。だからここでお別れだ。

 

「あそこは一緒に行くとこだろ」

「まぁ、また明日な」

 

文句を言う彼女に曖昧に笑い手を振る。

まだ腑に落ちないながらも戸山さんたちについていく市ヶ谷。

 

それを見送り、俺も帰路につく。

今日もなんでもない1日だったけどすごい疲れた。けど楽しかった。

 

みんな恋人が出来て羨ましいと思ったけどこんないつもの日常も悪くない。

今まだ、このままで。

 

「あ、みんなに彼氏いるか聞いとこ」

 

その辺りの興味はまた別問題である。




察しのいい皆さんならお気づきかと思いますが、話の各タイトルは自分の好きな歌のタイトルから引っ張ってきています。
どれもいい曲なのでこれを機に聞いてみて頂けたら嬉しいです。







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