大衆食堂アンリミテッド・マンプク・ワークスからお送りします。 作:ヒロエル
日本では、想いを寄せる人のために黒くて甘い物を用意するイベントとなっている。
人理修復の為、一人のマスターの元へと集った数多の英霊達。
彼等にとっても、そのイベントは例外ではなかった。
騎士王アルトリア・ペンドラゴンは、日頃の感謝の気持ちを込めてマスターにチョコを用意しようとする。
マーリンはそんなアルトリアの為に、少しいたずらめいた部屋を用意した。
しかし、事態は最悪の結果を招くことになる……
「Arrrrrrrrrthrrrrrrrrr!!!!!!!!!」
凶獣による咆哮が、狭い部屋に響き渡る
設置されていた家具はほとんど破壊され、見る影もない。
セイバー、アルトリアは剣を抜き、身構えている。
「ランスロット!くっ…聞こえていない
問題は、ここからどうやってキスをするかだ。考えろ、考えるのだ……」
残された時間は、少ないのだから……
──── 数時間前
大衆食堂アンリミテッド・マンプク・ワークスは本日も盛況。
英霊(サーヴァント)やカルデア職員たちが分け隔てなく食事を楽しんでいる。
人理修復の為に、様々な英霊達が集うここカルデア。
今日はバレンタイン、英霊たちの中心人物にいるマスターの為に、女性サーヴァントたちはこぞってチョコレートを製作、いかに手渡すかを討論していた。
和気あいあいと恋バナをする鈴鹿や玉藻たちをよそに、食堂の隅に座していたセイバー(アルトリア・ペンドラゴン)の隣へ座ってきたのは、かつてセイバーをエクスカリバーへと導いた魔術師マーリンであった。
「バレンタイン?」
「そのとお~り♪……好感度獲得イベント……とでも、言えるかな?」
どうだい?君も、マスターへの日頃の気持ちを込めて、手作りチョコレートをプレゼントしてみては?」
「そのような行事があるとは……
幾多の英霊がこぞって参加する理由が、今理解できた。
私もマスターの為に、チョコレートを用意せねばなるまい」
アルトリアはさっそく用意をしようと席を立つ。それを見たマーリンはニヤリと口角を上げた。
「君ならそう言うと思って、特別な調理場を用意しておいたんだ♪
材料もそこにある… 場所はここだよ」
そう言ってマーリンは手書き館内地図を渡してきた。
「恩にきる!」
アルトリアは全く疑わず、地図を片手に駆けて行った。
「……フフフ。健気だなぁ」
居住区から随分と離れた区画へとやってきたアルトリア。
節電の為、照明のみ消されている区域であり、長い期間放置されている部屋が並んでいる。
「マーリンの案内によると、この部屋のようだな」
自動ドアが開き、中に入ると部屋は真っ暗で何も見えなかった。
すると、緊迫感の漂う男性の声が響いた。
「ダメだ!!いけないッッ!!!この部屋に入ってはいけない!!!」
「!? その声は、サー・ランスロット
一体何事か!」
ランスロットの制止も虚しく、アルトリアが部屋に一歩入ると、すぐにドアは閉まってロックされてしまった。
「む?扉が…」
二人が部屋の中に入ると、照明が点いた。
部屋には生活に必要である必要最低限の家財と設備があるようだが、何故か金属製の机が真っ二つにされている。
「おお……手遅れでしたか……よりにもよって……我が王よ…
・・・
あなたが入ってしまうとは…」
扉にはこう書かれていた。
『この部屋から脱出するためには、入室した者同士で
「これは何事か!敵の計略か!」
配下の騎士であるランスロットの手前、一見落ち着いている風に装っているが、アルトリアは内心焦りと混乱に満ちていた。
「見ての通りです。我が王よ……
この部屋は入室した途端にオートロックが掛かる恐ろしい部屋なのです」
「ほう……? ならば、破壊すればいいだけのことッ!!!」
ランスロットは、アルトリアが宝具エクスカリバーを発動しようとした瞬間を見逃さずに腕を掴み上げる。
「なりません、我が王よ!その方法は先ほど試しました!」
「な……なんだと?」
「この部屋には非常に強力な魔術がかけられています。
私も……このようなふざけた児戯に付き合うつもりは毛頭ないと…
部屋ごとアロンダイトでの破壊を目論みましたが、すべての威力が反射されて……」
ランスロットの指さした先には、さきほどの一刀両断にされた金属製の机があった。
「御覧の通りです。宝具での破壊は無意味なのです…」
アルトリアは事態の把握をできずにいる。
想定していた事とは、あまりにもかけ離れていた事からの焦燥感。マスターにチョコを作ってやれない事への罪悪感。オルタ化寸前なまでの、マーリンへの強烈な憎悪。
そして、この無慈悲に叩きつけられたルールに対しての混乱。
「し……しかし、サー・ランスロット
それでは、それではこの状況は……わ、私は貴公とキ、キ…」
「王よぉッッ!!!それ以上は、それ以上はおやめくださいッ!!
古傷が予想の斜め上からえぐられているのです!!」
ランスロットは悲鳴に似た嘆願を絞り出す。
一体、なんだってこんなことに。とランスロットは嘆いている。
ランスロットは、かつてブリテンの王アーサーに仕えた忠義の騎士。
その王のお妃であるギネヴィアと互いに一目惚れし、二人は恋におちる。
それは不義の恋情であり、最強の騎士とまで謳われたランスロットにはあってはならない事態だった。
「この私が……王と……あまりにも……もう意味がわからない…」
「……」
確かに、理不尽で意味のわからない状況。
しかしアルトリアはこのような事態になった以上は、と覚悟を決めていた。
キスがなんだ。私はマスターにチョコを作るのだ。と
そこまで覚悟をしてしまったアルトリアは、一つ腑に落ちない事があった。
そんなに私とキスをするのが嫌か?と。
アルトリアはランスロットに勇み足で接近し、目の前で剣を引き抜きランスロットに突き付けた、
「サー・ランスロット、この騎士王への口づけを拒絶するということか!」
「ハイ 無理です」
即答であった。
「早いな……さすがの私も少しは傷ついたぞ」
アルトリアは剣を納めベッドへ腰かけ、ポンポンと自分の隣を叩いた
ランスロットはアルトリアの意図には反して、目の前の地べたに正座してみせる。
「……ま、まぁいい……
いい機会だ。かつての聖杯戦争では満足に語り合う事もできなかったのだから
この場を、サーヴァントとしての肉体を借りて、共に語りあおう」
「……この私を罰してくださると言うのですか?」
アルトリアは話をしたいだけだったのだが、ランスロットの目は本気だ。
「そ、そうではない……。
ランスロット卿、過去の事でこの状況が耐えがたいのは、心中察するに余り有る。
しかし聞いてほしい、私は貴公に感謝しているのだ
国が滅びたのも……最終的にああなってしまったのも、全てが貴公のせいという訳ではない
むしろ……私が王になってしまったが為に、あのような結果になってしまったのだ…」
「そんな……感謝など!!私は!!!」
声を荒げるランスロットをアルトリアは片手を挙げて制止した。
「……それに、どうしても後ろ盾が必要という理由で、ギネヴィアは私の妃となった。
女としての喜びなど、一度も与えてやれなかった。
ランスロット卿、貴公がギネヴィアに愛を与えてくれた事に関しては
私はむしろ、感謝しているのだ…」
アルトリアは、優しくランスロットへと問いかける
ランスロットは、ただ俯いてその話が終わるのを待っていた。
「王よ……貴女は、何もわかっていない」
「な、何ィ…!?」
「貴女にわかりますか!
黒歴史を後世まで語り継がれる苦しみが!
最強の騎士と謳われたが故に、延々と不倫の騎士と侮辱されてしまう辛さが!!」
取り乱すランスロットに対し、アルトリアは必死に肩を掴んで制止した。
「それは!民草の噂に過ぎない!誰が何と言おうと、貴公は立派な騎士だ!」
ランスロットはアルトリアの手を振り払って息を荒げる。
「違う!私は……私は罪人として裁かれねばならない!」
ランスロットの強い哀訴に、アルトリアは口を押さえて驚くことしかできなかった。
「ハッ!!……そ、それほどまでに……」
「不義の恋を貫こうとしたこの私の愚行に関しましては、一切の言い訳を致しません」
彼は、国の駒とされ消費されゆく運命のギネヴィアを放ってはおけなかった。
だが皮肉なことにランスロット自身もまた、騎士という駒であった。
彼は騎士という立場と、一人の男性としての感情を抱いてしまった自分に対し、常に苦しんでいたのだ。
「ラ…ランスロット……」
「王妃……いえ……ギネヴィアは、泣いて、おられました
ずっと……彼女が、泣かない日はありませんでした……」
「!?そんな……」
「私は、理想たる騎士であると共に、一人の男でありたかっただけなのです……」
彼の不倫は騎士アグラヴェインと国への反逆を目論むモードレッドにより暴露され、ギネヴィアの処刑が決定された。
ランスロットはギネヴィアを救い出す為に、自らを慕っていた騎士までも斬り捨ててギネヴィアを救出してしまう。
アルトリアとて、その凄惨たる出来事を忘れている訳ではなかった。
「ランスロット卿……すまない……わたしは……」
「私が求めているのは、王よ……謝罪ではありません
王が謝ることなどありません。私が求めているのは断罪なのです!」
「できない!貴公は真の忠節の騎士!ありとあらゆる場面で国を、私を救ってくれたではないか!」
「何故だぁああ!!何故罰してくださらないんですぅうう王よぉおお!!」
激しく慟哭するランスロットの様子がみるみる変貌する。
彼の周囲に黒煙が巻き上がり、白銀の全身鎧はみるみる黒く濁り、目は赤くギラつき、歯は牙のように鋭く尖っていく。
「ランスロット卿…これは、"狂化"か!そこまで苦しんでいたとは……」
「Aaaaaarrrrr……AAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
「くっ……こうなったら、ランスロット卿の意識が戻る前に、実力で貴公の口を奪う!」
───そして、現在に至る。
「どうどうどーう!トリャッ!
落ち着くのだランスロット、近づくぞ?いいな?」
もはや、なりふり構ってはいられなかった。
アルトリアは暴れ馬でもいなすように、バーサーカーと化したランスロットへと近づいた。
「Uuuhhhh......Arrrthurrrrrr!!」
ランスロットは魔力を開放したアロンダイトを召喚し、アルトリアへ斬りかかる。
「くッッ応戦せざるを得ないか!!」
英霊が全力で振るう聖剣エクスカリバーと魔剣アロンダイトのぶつかり合った衝撃で、部屋の家財は滅茶苦茶に粉砕された。しかし扉や壁には傷一つすらつかない。
「Arrrr!!!!」
しかし、ランスロットは攻めることを決して止めない。
「こうなったら、無理やり動きを止めるしかない ランスロット卿!いくぞ!!!
エクス…」
アルトリアが宝具を発動した瞬間、ランスロットは動きを止めた。
「カリバーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
アルトリアは、エクスカリバーを発動させ、ランスロットに向かって思い切り放った。
エクスカリバーから放たれた絶大な威力の閃光は部屋を反射する。アルトリアは咄嗟に避けたものの、閃光は何度も跳ね返りランスロットに命中し続けた。何度も、何度も。
エクスカリバーの威力に幾度も晒されたランスロットの鎧はみるみる打ち砕かれ、その身もボロボロになっていく。
やがて反射が終わり、ぐったりと項垂れているランスロットにアルトリアは近づき、両肩をしっかりと掴んだ。
「…ハァ。ハァ…断罪はこれで十分だ、ランスロット、さぁ…口づけを交わそう
そして今日の事は、互いに忘れよう。」
そして、ランスロットの顔にアルトリアが近づき……
扉が開いた そこにはマスターがおり、何か声をかけようとしていたが
遅かった。
ぶっちゅううううううううううう!!!じゅるるるるるる!!!!ずぞぞぞぞぞきゅうううううううう!!!
ちゅぱっちゅぱっねとぉっっハムッッじゅぽっ!!じゅぽっ!!じゅぽっ!!じゅぽっ!!じゅぞぞぞぞ!!!
べろぉっぶりんっっぱちゅんっぱちゅんっごぼぼぼっっ はぷっ
ばじゅんっっじゃぶぶっっれろぉれろれろれろろ…じゅぷっじゅぷっじゅぷっ んはぁっ
あむっ あむぅっ きょうきゅうっ ううんっっ ぷはぁっ
アルトリアの舌は、ランスロットの唇に誘われて野獣のように侵入する
縋りつくように執拗な吸いつき。
アルトリアの猛烈な接吻に、ほぼ気絶しているランスロットは微動だにできないでいた。
激しく、容赦のない、そしてやり場のない口づけであった。
アルトリアはそのままランスロットを抱擁して接吻を続ける。
歯茎をなめ、舌を吸い、乾ききったランスロットの口腔を濡らす。
腕を首に回し、死肉に群がるハイエナのように、アルトリアはランスロットの唇を貪り喰らった。
溶岩のように爛れた唾液が煌めき、肢体へと滴り落ちる。
アルトリアは、マスターがすぐそこで見ていると気付くのに10分ほどもかかっていた。
マスターはその状況を目撃し、呆然と立ちつくしている。
「………ま、マス……タァ…
ち、違うのです、これは……ちが……」
マスターがそこにいた。真実はそれだけだ
どうやら、外側からは開閉できるオートロックだったらしい
マスターはエクスカリバーの轟音を聞き、ここに駆けつけてきたのだ。
双方、様々な思惑が頭をよぎる。
アルトリアは配下たるランスロットの肩を掴み、欲求不満の熟女だと言わんばかりに接吻していたのだ。
マスターは、二人の関係がそのようなものだとは史実に残っていないと問いかける。
「!! 違うッ!!これは、違うぞマスター!誤解だ!
ああ…私はなんてことを…いったいなぜこんな!
ありえない!こともあろうにランスロット卿と、あんなに!」
アルトリアは強烈な後悔の念に苛まれた。
当のランスロットは白眼を剥いて気絶しているので、狼狽える事しかできない。
マスターは二人の明らかに不審な様子を見かねて、事情は後で聞くとしてこの部屋を出るように言いつけた。
「! そうだ、マスター、マーリンは!これはマーリンの仕業!
このような行為は騎士王に対する侮辱!許せぬ!」
───大衆食堂U.M.W
「……あの二人は上手くいっているだろうかぁ」
マーリンはおとぼけながらも、ことの成果を待ち望んでいた。
元々、彼はマスターとアルトリアが"あの部屋"で鉢合わせするよう仕組んでいたのだが、マスターは幾多の英霊たちからチョコを受け取る事と、自分から渡す作業に忙しかったようだ。
部屋の話を噂で聞いたランスロットは、部屋ごと破壊する為に先んじて行動していたのである。
『そのような小細工に頼らずとも、我が王は信念を貫き通してみせるだろう』
「な~んて、息巻いていたけれど♪」
しかし、現実はランスロット自身が部屋に囚われてしまい、結果がこの有様である。
「強力な結界を張ってたし…扉が閉まっている間は、淫欲を何倍にも増大させる効力をも持たせといたんだ
これで少しは、マスターも魔力供給してくれると踏んでいたんだがね♪」
「マーーーリーーーーーーーーン!!!!!」
憤りをみせるアルトリアの怒声がカルデア中に響き渡る。
「……そう、上手くもいかないかな?」
アルトリアは、今年のバレンタインは諦めたそうです。
つづく
おまけ
「……フン、ここが例の忌々しい部屋か フケツな
この私、アグラヴェイン自らの手で破壊してくれよう」
「忌々しい部屋め、このアロンダイトを以て今度こそ破壊しつくしてくれる」
二人が片方ずつ入った後、扉は閉まった。
「「勘弁してくれ」」