大衆食堂アンリミテッド・マンプク・ワークスからお送りします。   作:ヒロエル

4 / 5
カルデア大衆食堂U.M.W(アンリミテッド・マンプク・ワークス)
ここでは、アーチャーエミヤを筆頭に様々な英霊(サーヴァント)達が給仕を担当し、英霊だけでなくカルデア職員達にとっても貴重な憩いの場となっている。

食堂での騒動以来、マスターの耳に、カルデア施設内を無断に使用している輩が居るとの報告が入る。
不満の募ったカルデア職員か、はたまたサーヴァントの仕業なのか

マスターは、エミヤ(アサシン)と共に夜中のカルデア内部調査へと赴くのだった。


アサシンエミヤの偏食 後編

───【BAR ALTERNATIVE HEAVEN(反転せし者の楽園)

 

マスターが、おそるおそるドアを開けると、ひんやりとした空気が顔を吹き抜ける。

中は暗く、照明はキャンドル。

ダークブルーのメタリックなカウンターに向かって数人のサーヴァントが座っている。

揺らめくキャンドルの炎が、より一層夜のムードを引き立てていた。

ふと周りを見渡すと、サーヴァントだけではなく、普通の人間であるカルデアの職員も幾人か座っており、静かに盃を傾けて楽しんでいる様子だった。

 

「ちょっと、マスターが来るなんて聞いてないわよ!嫌よ私」

来訪者に気付き、最初に悪態をついたのはあのジャンヌダルク・オルタだった。

カウンターの奥でバーテンの恰好をしているのは、エミヤ(オルタ)。手持ちぶさたなのか、コップを磨いている。

「誰かと思えば雇い主か(マスター)。一応、結界を張り巡らせておいたのだが」

 

マスターは、ここはどのような場所なのかとエミヤ(オルタ)に問うた。

 

「見ての通り、楽園(ヘブン)だ。

 カルデア(ここ)には、陽の光が苦手なサーヴァントも居るんでね。

 こういった場所も、時には必要なのさ

 そこへ座ればいい。席は空いている。……そこのアサシンもな。」

 

そう言って両手で椅子を動かし、座りやすい様に受け入れる態勢を見せるエミヤ(オルタ)

 

エミヤ(アサシン)に対し、不安気な目線を送るマスターに対し、エミヤ(アサシン)はそっと縦に首を振る。

ここで問題は起こさない方が良い。とアイコンタクトを送ったのだ

それを理解したのか、マスターとエミヤ(アサシン)はカウンターの、ジャンヌオルタの隣の席に座った。

 

「ああぁあぁん!!!あっあっぁ…っ!!!いいわぁっ!!クーちゃん!!

 もっとぉ……もっと奥ゥウウ!!!!くうぅうん!!!!あはぁっ!!」

二人がようやく腰を落ち着けて話せるかと思いきや、更に奥の部屋から淫猥な声が飛んでくる。

カウンターに座る客含め全員がフリーズして、マスターの方を見た。

 

不審な声を聞いてしまったマスターは何事かと席を立ち上がる。

その席を立とうとするマスターを、ジャンヌオルタとエミヤ(アサシン)が同時にマスターの肩を掴み、そのまま力ずくで席に座らせる。

 

「あんたにはそういう(・・・・)の、まだ早いの。気にする必要無いわよ。

 あれはただの盛りのついた雌豚だから。さっき言ってたでしょ?ここは楽園(ヘブン)

 普段、あんたに見せられないようなサーヴァント達の欲望を吐き出す場所なのよ」

 

一口でグラスを空にするジャンヌオルタの悪態を聞き流しながら、マスター達にグラスを差し出すエミヤ(オルタ)

 

「さて、注文は?」

その問いに対し、エミヤ(アサシン)は「コーラ」と即答した

それに釣られてマスターも同じものをと答えてしまう。

 

「フンッ…随分とお子様な注文だなアサシン。不思議と違和感を覚えてはないがね」

 

その言葉を聞いたエミヤ(アサシン)は、不機嫌そうにオルタの注いだコークハイを受け取った。

 

「……(勢いで注文してしまったが、本当にあるとはな…)ん?なんだこの匂いは」

エミヤ(アサシン)は、強烈な中華料理の臭気に気づく。ジャンヌオルタの、マスターとは逆側の隣には胤舜が座っている。この匂いの発生源はそこだった。

 

「マスター……これは恥ずかしい所を見られたな。拙僧とした事が……」

 

マスターは、胤舜が謹慎中であることと、禁欲の為に酒は抜いているはずではと問いただした。

胤舜の前にはおあえつらえむきの盃と、煮えたぎる赤い何かが盛られた皿が置いてある。

 

「いやいや、これは酒ではないぞ。般若湯(アルコール)だ。」

そう言うと胤舜は、般若湯と呼んだ盃をクイとひと飲みした。

 

「ハァァ~やだやだ、偽善ぶった僧侶なんて汚らわしい。近寄らないでください。

 エミヤ(オルタ)、私にもいつものを頂戴。」

呆れ果てたとでも言わんばかりの表情で悪態をつき、ジャンヌオルタも胤舜と同じ料理を注文する。

その様子を見て、胤舜は笑みを浮かべた。

 

「そう邪見にするな。

 拙僧は今夜、お主と語り合って悟ったことがある。

 修行を経ているとは言え、拙僧も人であったとな。

 槍にかまけて、仏道をおろそかにしたつもりも無いのだが…

 思い返してみれば、完全に煩悩を捨てる事も出来なかったのだ」

 

「煩悩?……そんなもの、私が魂ごと焼きつくしてあげましょう」

 

「ハッハッハ!豪快な女性(にょしょう)よ!お主があの時、下総に居たらと思うぞ」 

 

「何喜んでんのよ、バカみたいですね」

エミヤ(アサシン)は二人の会話をよそに、胤舜らに運ばれている料理をじっと見つめている。

 

「ほう、エミヤ(アサシン)殿は麻婆豆腐が気になる様子と見受ける!」

 

「何?麻婆豆腐だって?」

 

「応とも!ここの麻婆豆腐とやらは絶品だ。

 拙僧は肉を抜いてもらっているがな」

胤舜のすすめに、何処か戸惑っている様子のエミヤ(アサシン)を見て、マスターは何かに感づき、二人分の麻婆豆腐を注文した。

 

「オイ、…僕はまだ食べるとは…」

 

「了解だ。雇い主(マスター)

エミヤ(アサシン)の戸惑いをよそに、エミヤ(オルタ)は躊躇なく厨房へと消えた。

 

 

10分程待って二人の前に出てきたのは、溶岩のように赤黒く煮えたぎった紛れもなく激辛麻婆豆腐。

大衆食堂 U.M.Wではまず見る事のできない強烈な調理法を行っているのか、スパイスの香りが尋常ではない。

鼻で息を吸うだけで鼻腔をピリピリと刺激する。

この得体の知れない物体を前に、エミヤ(アサシン)は不思議と高揚感を感じていた。

そしてマスターは軽く後悔していた。

 

雇い主(マスター)に出したのはサーヴァント用の物とは別で味を調整してあるから安心しろ。

 残念ながら俺には味がわからないから、味見専門のサーヴァントもこちらで雇っている。

 どうしてもというのなら、サーヴァント用のを出してやってもいいが…身の安全は保証できないな」

 

その言葉を聞いて、ホッと胸をなでおろすマスターは、安心して甘口麻婆豆腐をかきこんだ。

エミヤ(アサシン)もまずは一口食べてみる事にした。

 

「………オ"ウ"ン"ッッ!!!!???!!!!????

(辛ッッ!!!!うっわ辛ッ!カ"ッッラ"ァ"ッッッッ!何だこれ、想像以上に辛いぞ…!

 口にする度、血が…逆流する!腕が震えて、汗が止まらない。何て辛さだ。

 …けど、いける!…いけるぞ…!この沸騰するような辛さが、むしろ良い!腹が満たされる感じがする。

 これだ……!この旨さだか辛さだかわからんのが、たまらなく良い!)」

未だかつてない凄まじい形相で麻婆豆腐を飲み込むエミヤ(アサシン)を見てしまい、マスターは驚愕してスプーンを皿に落としてしまう。

 

マスターは、エミヤ(アサシン)が今まで見たこともない苦悶の表情を浮かべていたことに驚いた。

 

「ぐぶっ……いや、問題ない。むしろ……カッカッカッカッ!!おかわり!」

子供のように一心不乱に麻婆豆腐をかきこむエミヤ(アサシン)を見て、一同からは思わず笑みがこぼれてしまった。

 

 

──1時間後

 

 

「あらぁ?誰かと思たら旦那はんやないのぉ♡ いらっしゃいまし

 なぁに?ウチの顔見に来はったん?」

次に現れたのは、酒呑童子だった。

普段活動している時よりも、強い酒気を放っている。

エミヤ(オルタ)は「来たか、交代だな」とだけ言って、上着を脱いで葉巻を取り出してから裏口の方へ消えた。

酒吞童子はそのままカウンターの内側に入り、氷を用意し始める。

どうやら大衆食堂と同じく交代制のようだ。

 

マスターは、酒呑童子は提供側で来ているのかと聞いた。

 

「旦那はん、そっちの仏頂面さんも、ようおこしやす。

 ふふっ、うちがお店をやるなんて思わんかったよねぇ

 …それ、旦那はんが持ってるの、こぉら(コーラ)

 まぁだ酒は早いようやなぁ?」

酒吞童子はマスターに語り掛けた後、エミヤ(アサシン)に対し悪戯に微笑みかける。

 

「……僕が連れてきた訳ではない。マスターの意志で同行した」

彼は酒吞童子に見向きもせずにぽつりと語った。

 

「いけずやねぇ 旦那はんはお初やの?」

 

マスターは、今夜初めて来店したことを伝え、ここがいつからあるのかを問う。

マスターの質問に対し、酒吞童子は頬に手を添えて何かを思い出す素振りを見せた。

 

「そやねぇ そこにいる別嬪さんと坊さんが、前に食堂で喧嘩しぃはったやろ?

 そないに馬が合わへんのやったら、別の場所作ったりぃよってなぁ。

 みんなに内緒でここ作ったんよぉ

 はい、つめしぼ♡ そっちの仏頂面さんにも、ほれ」

酒吞童子はヒンヤリ冷えたおしぼりを、マスターとエミヤ(アサシン)に直接手渡した。

 

マスターは、この店がカルデアの規則に反して問題になる可能性があることを告げた。

そのマスターの言葉に反応したジャンヌオルタは、横目でマスターをにらみつける。

 

「ちょっとマスター、嫌よ私。まさか報告するつもり?

 ようやくここまで内装も整えたんですもの。撤去するならそれなりに抵抗するわよ」

 

 

マスターは、個人的にはここを撤去したくはないという意思を告げた上で、先ほどのジャンヌオルタと胤舜のやり取りを見てこのような場所も必要なのではないかと感じていると皆に伝えた。

続いて、本来、時代も背景も違う英霊を多数召還してしまっている責任があるとも告げた。

 

「フン……いつもの綺麗ごとね。それで?具体的な作戦命令(オーダー)はあるのかしら?」

ジャンヌオルタの問いに対してマスターはエミヤ(アサシン)の方を見る。

 

「何だ?」

 

マスターは、エミヤ(アサシン)にこの店を監視するように命じた。

その活動内容を定期的にマスターへ報告し、そのデータに問題があるようであれば、エミヤ(アサシン)が直接介入して解決するようにと。

 

「……ハァ……なるほどな。アンタにしては考えたじゃないか。

 僕をここに連れてきたのも、最初からそれが目的か?」

 

マスターがそう命じたのは、先日に見たエミヤ(アサシン)の能力を考慮した結果である。

 

「……この店に、ハンバーガーは、あるのか?

 それなら……考えてやってもいい」

そう言って、エミヤ(アサシン)はいつのまにかカウンター内でグラスを磨いているエミヤ(オルタ)に目線を送った。エミヤ(オルタ)は無言で頷く。『貴様の好みそうな物をごちそうしよう』という意味を込めて。

マスターはエミヤ(アサシン)に感謝の意を伝えた。

 

「だが、その作戦には致命的な欠陥がある

 この任務は、あくまで僕が自発的に行っている。という体裁(スタンス)にしておいた方がいい。

 仮に、僕が自発的にここへ赴き、ここで問題が発生したとして…

万が一、僕の介入が失敗した時。その行為は僕が単独で行った事となり、僕の責任になる。

 アンタはあくまで、知らぬ存ぜぬで通せ」

 

マスターは、それではエミヤ(アサシン)があんまりにも不憫だと答えた。

 

「……話は最後まで聞け。

 いいか、アンタはここ(カルデア)にいるサーヴァント"全員"のマスターだ。

 そのアンタが、夜な夜な不法施設に侵入して、尚かつそれを黙認しようとしていたとでも発覚してみろ。

 甘く見積もっても、この事態に反対しているサーヴァント達からの反発は免れないだろう。そうなると、作戦にも支障をきたす。

 ……それに、万が一大事(おおごと)になった時、アンタがその責任を取らされるとなったら、もう後には戻れないんだ」

 

エミヤ(アサシン)の意見は、悲しい程に正しかった。

マスターは俯いてエミヤ(アサシン)の言葉を聞いている。

 

「……アンタは常に中立の立場でなければいけない。

 サーヴァントとの関係を破綻させる作戦は、得策ではない…。

 異なる性質を持つサーヴァント達を使役するには、僕を犠牲にしてみせろ

 ……少しでも、世界を救う気があるのなら、な。」

 

マスターはその提案を聞いて、押し黙ってしまった。

エミヤ(アサシン)とジャンヌオルタは『これさえなければ』という呆れた表情で天井を仰いだ。

 

「旦那はん、素材を刈り取る時はえらい欲深いんに

 自分の事となるといけずやのぅ」

 

種火は全員の戦闘力増加に必須であるとして、マスターはエミヤ(アサシン)一人に全てをなすりつける事を問題視していた。

 

「フッ……召喚された時に、僕は言ったはずだ。

 『また汚れ仕事か《・・・・・・・》……』とな

 誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事なんだ。

 むしろ、これくらいで円滑にグランドオーダーが遂行できるというのなら…僕は喜んで引き受けよう。

 …それで、お前らはどうする?」

 

そう言って、エミヤ(アサシン)は他の席に座るカルデア職員を見た。

職員は黙って親指を立てたり、盃を掲げたりしていた。

 

「なんだったら、自己強制証明(セルフギアス・スクロール)を使ってもいいぞ!

 俺達もここが無くなるのは寂しいからな!その話は、ここだけの秘密って事だ!」

そう唱えたのはふくよかな丸顔のカルデア職員だった。その一声で、他のサーヴァント達も納得したようだ。

 

「決まりだな。結界はより強化し、この場所は秘匿とする」

 

 

 

───後日

 

 

エミヤ(アサシン)、サーヴァント専用マイルーム。

壁のコルクボードに貼られているのは、各クラスの弱点相性図と、英霊ごとに異なる特性・スキルによる特攻対象一覧であった。

エミヤ(アサシン)は、片手でハンバーガーを食べながら、そのリストに情報を記入している。

 

「……(この殺伐とした食感が、懐かしいな……ん?懐かしい?……僕は……)」

不思議な感覚に浸っている所に、マスターが彼の部屋へとやってくる。

マスターは、エミヤ(アサシン)にフライドポテトとコーラを差し入れに来ていた。

 

「……フッ……妙だな…、アンタみたいなバカとは、ソリが合わないのが常だったんだが…

 さて、僕等も早いところ食事を平らげて、現場に向かうとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

こういうのも、悪くない。と、人理を修復した後に彼は想ったのだという。

 

 

 

 

つづく




おまけ

カルデア大衆食堂 U.M.W
そこには精進料理を食す柳生但馬守宗矩(セイバー)と、宝蔵院胤舜(ランサー)がいた。

「美味である。」
柳生は特注で胤舜に調理を頼み、日本の料理を作ってもらっていた。

「おお、柳生殿!やはり同じ日の本の国にうまれし英霊ともなると
 話がわかるというもの!」

「…して、胤舜殿……じゃんくふぅど、とは如何様な物であろうか?
 新宿の特異点修復において、かの騎士王が好んで食べていたというが」

真顔である。至って真剣な眼差し。胤舜はこの柳生の放った言葉が、冗談なのか真なものかと判断しかねていた。
かの剣術無双の大名が、何故にジャンクフード等に興味を持つのかと。
まさか、あの店の存在が明るみになってしまったのでは?と…

「そ、それは……拙僧には何とも……」

「……く、ふふふふ……いや、失敬」

「! 柳生殿!謀りましたな!?柳生殿!待たれよ!くっ素早い……!追いつけん!」

ひとしきり胤舜をからかった後、柳生はその夜にBAR ALTERNATIVE HEAVEN(反転せし者の楽園)へ向かったという。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。