機動戦士ガンダムSEED 理想の従者 作:傍観者改め、介入者
第6話 運命の幕開け
戦争から1年が過ぎようとしている最中、ザフト軍に入隊したアスラン・ザラは、ザフト軍きっての指揮官、ラウ・ル・クルーゼの指揮する部隊に配属されていた。
同僚には、イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィー、ラスティ・マッケンジー、ドリス・アクスマン。
少し年上になるが、ミゲル・アイマンがいる。
「―――――本当に、オーブに連合の新型兵器があるのか?」
アスランはそれが信じられなかった。あの国はコーディネイターを差別するような国ではない。オーブの理念と法を守る者に優しい国のはずだ。
「――――同じナチュラルの国なんて、どこも同じなんじゃねぇの?」
オレンジ色の髪の少年、ラスティはオーブも同じナチュラルの国でしかなかったと吐き捨てる。
「ああ。中立を掲げながら連合と秘密裏に技術協力。ふざけているといっていいだろうが!」
イザーク・ジュールはオーブの嘘つき外交に激昂していた。当然だろう、私は中立です、戦争には加担しないといっていたくせに、こんなことをすればザフトは面白くない。
「悪いけど、おれも同感かな。オーブは理想だけの国じゃなかった、それだけだろ」
ディアッカも二人と同じ意見だった。
その後、憂さ晴らしにイザーク達はシミュレーターへと向かうのだが、一人思案顔をしていたニコルはしばらく黙っていると、
「―――――オーブが何をもって連合とつながっていたか、私の予測でしかありませんが、今後の防衛力強化が狙いとみていいでしょう」
その中で、ニコルはオーブの思惑にたどり着いていた。
「―――詳しく聞かせてくれ、ニコル」
ニコルの視野の広さはよく知っている。アスランは彼女の話を聞くために接近する。
「え? ち、近いですよ、アスラン! 少し落ち着いて……」
いきなり顔を近づけられたニコルは顔を赤くしてしまう。あまりにも真剣に食いついてきたので、彼女も慌てる。
「あ、ああ。すまない、ニコル。いや、広い視野を持つことは大事だからな。つい必死になってしまった」
「――――オーブは確かにウズミ・ナラ・アスハ氏による中立宣言がありました。当初は受け入れられましたが、今後もそれが続くとは考えづらいです。連合が強硬な手段に出ることは明らかでしょう」
「確かに、連合はユニウスセブンの例もある。備えはするべきだろう」
「オーブとしては、とにかく生き残る手段を模索していたのでしょう。絶妙なタイミング、早すぎず、遅すぎない時期にこの密約が発生した。中立を維持するための力を得るために、プラント、連合の双方が手を出しづらい時期に、彼らは技術革新を求めた」
「―――――その説明でオーブの印象が変わったな。なるほど、彼らは積極的な戦争介入は行わないものの、中立維持のためには手段を択ばない。自国民の安全保障には特に。」
「――――ウズミ氏はこの件を知っていたでしょう。一国の首相が安全保障の問題を知らないという言い訳はあり得ません。オーブの中の急進派が動き、彼はその動きを黙認した。筋書ではウズミ氏、並びに関係者の辞意辺りでしょう」
「なら、どうしてオーブはプラントに技術協力を呼びかけなかった? 戦争当初から有利な戦闘ばかりを行っているザフト軍だ。勝ち馬に乗りたいのなら、おれたちにつくべきだ」
そして新たな疑問。オーブはなぜ技術協定をプラントと結ばなかったのか。連勝続きのザフト軍を評価していなかったのか。
「それは地理的な要因もあるでしょう。地球圏では反コーディネイター主義が蔓延しています。小国にすぎないオーブがプラントと技術協定を結べば、大西洋連邦は真っ先にオーブを滅ぼすでしょう。オーブの技術力は世界でもトップクラスですからね」
「―――――なるほどな。」
「あとは、どちらが勝っても良いように立ち回るためでしょう。オーブは自らが勝者の標的にならないように動いています。ヘリオポリス以上の刺激を行わなければ、彼らはザフトの敵になる確率は低いと思います」
ニコルの中では、ヘリオポリス襲撃はすでに確定事項。オーブが国益と安全保障のために動き、プラントも別の立場から安全保障のために選択する。
彼女としては、「貴方方の事情は知っています。しかし、技術提供していたので襲撃しますね」ということだ。
ゆえに、オーブにはヘリオポリスをあきらめてもらう必要がある。ザフトもヘリオポリス襲撃の件で非難されるのは防ぎたい。オーブの連合側への参戦は最悪と言っていい。
プラントはオーブを強く刺激せず、オーブもヘリオポリスの件で強く非難しない。
お互いの利益のためにうやむやに終わるだろう。オーブ国内では首脳陣の一部に責任が集中し、サハクが主な犠牲者になるのは既定路線だ。
「――――とても勉強になった、ありがとうニコル。やはり君は、軍人ではなく政治家になるべきだ。ここまで戦略・方針について考える意識と力は、プラントにとって必要だ」
どうして彼女が軍人になったのか、その理由を知らないアスランではない。だが、彼女が何も前線に来なくてもいいだろう。
自分よりも頭が回り、視野の広い彼女にプラントの未来を託したい。名ばかりの議員の息子、成績だけが取り柄の頭の固い自分は、彼女のような指導者の命令に従いたい。
無い頭を絞り、アスランはプラントのために、友人として、彼女を守りたいのだ。
「――――褒めても何も出ませんよ。とはいえ、アスランにそこまで言われたら、やはり照れますね。訓練校時代からアスランは凄かったですから」
はにかんだ笑顔のニコル。同期の中でも人一倍努力家で、勤勉でまじめ、そして義理堅い彼は、女性からの人気も高かった。
「――――外見だけを見て、判断される人の称賛はな……ザラ議員の息子としか見られていないあの日々で、悔しい思いをしたこともあった。だけど、ここは違う」
真剣な目で、アスランは再度ニコルに向き直る。
「え? えぇ!?」
向きなおられたニコルはそれどころではない。アスランは所謂二枚目に分類される男だ。しかも性格もご覧の通り。
そんな彼がこっちを見ている。ほんの少し期待するニコル。
「ただのアスランとして接してくれる今の仲間は、本当に貴重な存在だ」
「あぁ……うん、だと思った」
少し残念そうなニコル。明らかに声のトーンが落ちている。
「?? どうしたんだ、ニコル? 何か失礼なことを言ってしまったのか? ああ。すまない。気が回らないのは俺の悪い癖だ」
「ううん。そういう意味ではないの。うん、私は大丈夫。でも、そういう態度はあまりしないほうがいいよ。勘違いする人も出てくるから」
「???? あ、ああ。以後気を付ける」
やはり意味が分かっていないアスランだった。
そして標的となったヘリオポリスには、リオンが技術者として、キラ・ヤマトが学生として移り住んでいた。
「――――まったく、カトウ教授にも困った。いきなり非常勤講師とは」
技術者としてソーラーセイル技術の応用に忙しい身分だというのに、呼び出しを食らったリオンは憂鬱な気分だった。
「はぁ、同年代相手に教えるのは少しなぁ、相手にしないだろ普通は。それとも行儀のいい生徒なのかな」
午後からの講習会ということなので、ゆっくりと準備を進めるリオン。なお、この日程のせいで今日の休日は完全につぶれている。
ピンポーンっ、
「ったく、今日は普通なら休みだぞ。家の明かりだってついていないし、寝よ。チラシのセールならいらないって何度も言っているのに」
ピンポーンっ、ピンポーンっ、
ピンピンピンピンピンポーンっ!!
「―――――とりあえず、事情を聴くことにしよう。話はそれからだ」
深呼吸をしたリオン。ゆっくり、気怠そうに体を起こした。
――――こんなことをする人間も、あいつぐらいだろうし
玄関前まで近づいたリオン。そのドアの向こうにいたのは――――
その頃、午後の講習会があることを聞いたキラ・ヤマトは、同年代くらいの少年が講師であることを聞き、
「僕たちとあまり変わらないのに、すごいなぁ」
と感嘆していた。きっと自分は途中で面倒になってしまうだろうと。
「あれだろ? 講師の年齢聞いたかよ! 俺たちと2歳ぐらいしか変わらないらしいぞ。」
トール・ケーニヒが興奮気味に話す。そんな年の近い存在が講師としてやってくる。それがおかしいのだと。
「まじかよ! ああっ、きっと女どもは黄色い声を出すんだろうなぁ」
またルックス、高所得者目当ての女性が獲物を狙う目をするのだろうなと、友人が愚痴った。将来有望な存在と思われる青年講師。女子は眼を鋭くするだろうと。
「まあ、しょうがないだろう。俺たちが遊んでいるときから勉強していたんだろうし。」
サイ・アーガイルは、青年講師の環境について推察する。
「まあまあ。案外プライドの塊かもね。できる自分に酔っているかも、だし」
ミリアリア曰く、うぬぼれが強い人物ではないかという疑念。幼少のころから成功体験だけだと、天狗になっている可能性のほうが高い。
「僕は目立たなかったらそれでいいや」
カズイ・バスカークはいつも通りだった。
「それよりも、講習前の昼飯どこにするよ? 俺、美味しいレストラン知っているんだよ!」
トールが早く飯にしようと皆を急かす。
ヘリオポリスは平和そのものだった。
キラ達がこの場を後にすると、彼らの様子を見ていたショートカットの髪の女性が嘆息する。
「平和なものだな」
「はっ。しかし――――」
「そう、中立だ。ここはまだ中立だからな。内情を知っていれば、砂上の楼閣にも劣るが」
不穏な会話をしつつ、女性に付き従う青年が彼女の後を追い、この場を後にした。
サイド7・ヘリオポリス周辺宙域
ヘリオポリス周辺宙域に浮かぶ3隻の艦艇が暗闇の中にいた。
そのうちの一つ、ザフト軍・ナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウス。
隕石に錨を打ち付け、息を潜めるように停泊していた。そのブリッジの艦長席に座るフレドリック・アデスは硬い表情をしていた。
「本当に、よろしいのでしょうか?」
この部隊を指揮する隊長のラウ・ル・クルーゼは、アデスの問いに反応するように静かに立ち上がり彼に言葉をかける。
「不安そうだな、アデス。」
「はっ、いえしかし…評議会からの返答を待ってからでも遅くはないので…」
そう言いかけたアデスの言葉に「遅いな」と言うとクルーゼが続ける。
「私の勘がそう告げている…ここで見過ごさばその代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ。連合軍の新型機動兵器、あそこから運び出される前に奪取する。」
彼らザフトの目的は、ヘリオポリスで開発されたGAT-X計画のモビルスーツの奪取にあった。オーブには戦争から逃れようと亡命したコーディネイターなどが住んでいるが、諜報部のスパイも紛れている。
このスパイによる情報が本当だった場合、新型モビルスーツの鹵獲作戦を決行するのだが、相手がオーブという事もあり評議会からの承認を待つ事になっていた。
そしてヘリオポリス、リオンのマンションにて
「――――まさかいきなりアポもなしにここまでくるなんてね。相変わらずみたいだね、カガリ。それに、アサギさんも遠路はるばるご苦労様です」
予想通りの人間だったことにリオンは嘆息する。そして、道連れになったであろう彼女に労いの言葉をかける。
「うん、気にしないでいいよ、リオン君。カガリ様の突発的な行動は今に始まったことじゃないもの」
へっちゃらへっちゃら、と陽気に笑う女性の名はアサギ・コードウェル。オーブでは数少ない女性軍人で、本国でのパイロット訓練性の一人でもあったりする。
「おいアサギ!」
抗議の声を放つカガリ。
「でも、そんなカガリ様だからこそ私は嫌いじゃないですよ。」
にししっ、と笑うアサギの前に、カガリは考えを改める。
こんな風に未熟な自分を慕ってくれている部下がいる。それは何よりも貴重なものだと知っている。
「う、すまない。けどそれどころじゃないんだ!! ヘリオポリスに―――」
尚も慌てるカガリ。彼女が知った情報の中にヘリオポリスに関する重大な事柄があるのは確かだ。
「落ち着いて、息をゆっくり吐いて、落ち着いて話してくれ。」
「あ、す、すまない! …………落ち着いて聞いてくれ、リオン。ヘリオポリスに連合とモルゲンレーテが共同で開発した新型機動兵器が隠されている。ザフトがいつこれに気づくかわからない。早くここから離れるんだ!」
「――――――連合がヘリオポリスに? なぜだ?」
半信半疑のリオン。カガリが嘘を言う可能性も少ない。だとすれば、
――――仮に、カガリの言うことが本当ならばオーブは是が非でも隠すはず。
そう考えたが、リオンは別の可能性について思い浮かんだ。
――――叔父が言っていた。オーブの諜報はやや甘いところがある。
彼が持つ暗部は世界屈指の諜報力を誇る。今でも情報漏洩を防ぐために、それぞれが独立した組織となっている。
そして、エリカ・フラガを通してカガリ暗殺未遂の事件があったことを知っているリオン。本人は全く知らないみたいだが、裏にサハクの長男坊が絡んでいたらしい。しかし証拠不十分で追及はできなかったそうだ。
話を元に戻そう。もし、この計画が以前からここで進められているなら?
そして、ヘリオポリス問題で最悪ともいえるタイミングにカガリが情報をつかんだ。
それを流したのは誰だ?
「カガリ? どうやってその情報を手に入れたんだ?」
『創造主、私です』
カガリの持つアクセサリーから声が発せられる。
「――――ノアか。オーブの脇が甘いとはいえ、よくそこまで通り抜けたな――――やはり、掴まされたか?」
カガリからノアを手渡され、内密に話し込む両者。
『――――恐らくそうかと』
言い訳はしないノア。こういうところの調整が甘かったと、リオンは自らのミスを悟る。
「――――ロンド・ギナ・サハク。そうまでしてカガリを消したいか」
世界支配。そのことについて勧誘されたことがある。彼はリオンの能力を評価し、自らの右腕とする魂胆だった。フラガの遺産の正当な継承者として彼を認め、その技術のすべてを利用する。
そんな狙いを理解していたリオンはこれを拒否。
これ以降、ギナとの謁見の機会はなかった。
というより、ここまで情報が漏洩しなかっただけでも奇跡だ。しかし、カガリがここに来た。ギナは嬉々として情報漏洩を許し、カガリを混乱に乗じて殺すつもりだろう。
ザフト軍との騒乱の中で獅子の娘が命を落とす。こうなってはウズミも国民を抑えきれない。オーブは戦争への道を進むことになる。
「けど、どうするリオン? まずは地球行きのチケットを―――――」
その時、リオンとカガリ、そしてアサギは確かに聞いた。
ヘリオポリス内部ではありえない、爆発の音が。
町中にはすでにザフト軍モビルスーツが侵入しており、住民は避難を開始していた。ザフト軍も積極的な住民への攻撃は控えており、あくまでヘリオポリスの中に潜んでいた連合軍を優先的にたたいていた。
「うわぁぁぁ!!!」
「ザフトだぁぁぁ!! ザフトが攻めてきたぞぉぉ!!」
住民は死者こそ出していないが、パニックに陥っており、シェルターに急いで避難をしていた。ここで連合とザフトの戦闘に巻き込まれたくはないはずだ。
「おい!! なんで戦闘しているところに突っ込む!? 今は避難が先だろう!!」
「それでも、確かめなきゃいけないんだ!! 獅子の娘として、私はこの現実を見ないといけない! お前は来るな!」
「待ってください、カガリ様~~!!!!」
尚も直進するカガリを追いかけるためにリオンとアサギが彼女を追う。
「――――何やっているんだ、あの人たちは!!」
その道中、茶髪の大人しそうな男子が呆れから大声を出しながらその最後尾についた。
「あ、おい!!! 待てよ、キラ!! シェルターは反対方向だぞ!!」
サイがお人好しなキラの行動を非難する。が、キラは走り出していた。
「も、もう逃げようよぉ」
カズイは及び腰。まともに走れるかどうかもわからない。
「くっ、死んだら90年後くらいに叱りに行くからな!!」
しかしトールがキラを送り出す。こうなった彼は頑固だからだ。
「僕もそこまで長生きするつもりだよ! ごめんっ!!」
軽口をたたきながら、キラは友人たちと別れ3人を追うことになる。
「――――僕が言うのもなんだけど、この状況はおかしい」
「待つんだカガリ!!」
「待ってくださいよぉぉ!!!」
「私は確かめなければならないんだ!!」
「―――――なんだかなぁ」
やや緊張感をなくしつつも、キラは問題の3人を追いかけるのだった。
その頃、巣を突いた蟻のように連合軍は新型機動兵器の運び出しを行っていた。
「あれだ。クルーゼ隊長の言ったとおりだな。」
「突けば慌てて巣穴から出てくるって?やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて。」
イザークとディアッカが目標を目視で発見し、軽口をたたく。
「油断するな、連合にはコーディネイターが少数ながら存在する。ババを引いてあの世送りにならないよう気を引き締めろ」
アスランがうまいこと言うが、イザークとディアッカが目を丸くして彼を見ていた。
「お前が冗談を言うなんてな」
「お前がそんなことを言うなんて思わなかったぜ」
二人の驚きようにカチンときたアスラン。
「お前らは俺を何だと思っているんだ」
「ほら、3人とも。作戦中だよ」
「すまない。」
「いや、おれも悪かった。」
「あまりにもアレだったからな」
ニコルに注意され、三人とも大人しくなった。
「目標数が違う。5機のはずが7機になっている。まだどこかに何かあるかもしれない。」
警戒を強めるニコル。情報と微妙に違う。スパイの情報とはいえ、新型兵器が隠されていたことまでは合致していた。
――――おかしい。うちのスパイが失敗した? 写真を撮れる場所までいたのに?
ニコルの疑念は的中していた。ザフト軍のスパイはすでに何者かによって殺されており、アストレイフレームの情報を抹消されていたのだ。
数々の思惑が重なり、事態は混迷していた。
アスランたちは連合軍兵士を排除しつつ、目当ての機体をとれるだけ取ろうと考えたのだった。
唐変木アスラン君。女性の好意には気づかず・・・